七夕モザイク落とし作戦～ずっと一緒に

■リプレイ

●願いを喰う者
　きらめく星を背景に、ヘリオンが駅前の上空で静止した。そこから降下するのは、ルナール・クー（何時も背後に這い寄るコンコン・e10923）をはじめとしたケルベロスたちだ。
「花は舞い散り　蝶は飛びて歌い　風は雲を払い　月は人々を照らす　花蝶風月此処に在り ――！」
　眼下のドリームイーターに、一直線。着地と同時に蝶を思わせる舞を踊り、ドリームイーターに幻覚を見せる。ぐらり、とドリームイーターが揺れ、ルナールは続けざまの一撃を喰らわせた。
　羽鳥・紺（まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339）も着地するや否や殺気を放つ。併せてブリキ・ゴゥ（いじめカッコ悪い・e03862）も殺気と剣気を解放し、一般人を無気力状態にした。
「この場を立ち去ってください！」
　その場から無意識に立ち去ろうとしていた人たちはブリキの言葉にうなずき、離れてゆく。その間にドリームイーターの正面に立ち塞がるのは、レイリア・スカーレット（鮮血の魔女・e24721）。万が一の逃亡を視野に入れ、仲間に取り囲むように促す。
　七星・さくら（桜花の理・e04235）は腕時計の時間を見て、仲間に目配せする。ルナールはうなずき、身の丈ほどもある「妖霊扇　黒野薔薇」を構えた。
「制限時間は7分……、失敗は許されませんわ。気を引き締めて、倒しましょう……！」

　ドリームイーターも臨戦状態だ。腕を広げて加速し、ブリキをその腕に捕まえる。
「あなたが、好き！」
「ぐ……っ！」
　告げる言葉はともかく、ドリームイーターが抱擁する力は相当のもの。ブリキは、体全体にかかる圧力を根性で無理矢理逃れて戦列に戻る。それを確認したエフイー・ノワール（遥遠い過去から想いを抱く機人・e07033）が、オウガ粒子を前衛に向けて放出した。
　続く紺は、ガトリングガンから爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を連射して牽制する。そこに時空凍結弾を撃ち込むのは、さくらだ。
「皆の大切な願いを利用するだなんて、おねーさん怒っちゃうわよ！」
　短冊に願いを記した人たちの気持ちが、今の彼女にならばよく理解できる。それは、ヴァルカン・ソル（龍侠・e22558）も同じこと。
「大切な人と、共にありたいという願い。私も抱いている願いだ。——それを奪い、あまつさえドリームイーター共の糧にしようなどとは必ず阻まねばなるまい」
　鉄塊剣の重い一撃は、ドリームイーターを軽く吹き飛ばした。
「ああ。それに、頭にくるやり方だ。全力で潰させてもらうぞ」
　蒼天翼・真琴（秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526）が同意を示し、ゾディアックソード「想蟹連刃」で蟹座を浮かび上がらせる。前衛に状態異常への耐性がもたらされたところで、ルナールが音速を超える拳を叩き込んだ。
　先ほどのお返し、とばかりにブリキが咆吼を上げて駆け寄る。
「行きます——ＳＭＡＳＨ!!」
　全身を極限まで脱力させて鞭のようにしならせた手足による平手打ちは、ドリームイーターの横っ面を張り飛ばした。この攻撃によってドリームイーターの防御力が下がったのを見て取ったレイリアは、しなやかに流星の一撃を見舞う。
　ドリームイーターは踏み止まり、息を吸い込み始めた。

●重なる思いと願い
「来るぞ」
　レイリアが告げるが早いか、ドリームイーターは呪的防御を破る叫びを前衛に向けた。
「私には、あなただけなの——！」
「こればっかりは厄介ですわね」
　ルナールが回避しつつ、目を細める。
「これくらい、挽回してみせます！」
　エフイーが色とりどりの爆発を後衛の背後に発生させた。ドリームイーターの叫びでオウガ粒子の効果が無くなる者が数名いたが、このグラビティが代替手段になれば、と仲間を見遣る。
「時間がありません、とにかく効率的に攻撃していきましょう」
　紺が神速の突きを繰り出すと、さくらも心得たもので前衛に癒やしの雨を降らせてゆく。やるべきことに集中しようと、仲間とドリームイーターの様子に目を配る。が。
「炎による守護、其の精髄を見よ——！」
　ヴァルカンの声が響き、前衛の眼前に紅蓮の壁を作り出した。炎に照らされる紅い竜人の輪郭に、まっすぐに敵を見据える目に、さくらは見惚れそうになる。我慢我慢、と首を振って一度だけきつく目を閉じたのだった。
　真琴が御業の炎弾を放てば、ルナールも簒奪者の鎌「野狐憑」でドリームイーターの体力を奪う。その背後から、硬化させた爪で貫くのはブリキだ。レイリアが体の中心に一撃を決めると、ドリームイーターはさくらに目をつけた。
「ずっと……一緒なんだから——！」
　ドリームイーターから、毒が放たれる。覚悟して防御態勢を取ろうとするさくらの前に、ヴァルカンが割り込んだ。
「……俺の女だ、気安く触れないでもらおう」
　痛みこそあるものの、真琴が施した守護によって毒の効果は現れない。
「癒やし手を狙うとは、卑怯極まりないですね」
　エフイーがオウガメタルを「鋼の鬼」と変化させる。側面から拳を叩き込めば、確かな手応えとともにドリームイーターの防備が弱まるのがわかる。エフイーは拳を引き、ドリームイーターと距離を取る。
「『大切な人と一緒にいたい』……私も常々思っている事ですが、それを利用するとは……許されません。ここで撃破します！」
「ずっと一緒にいたい大切な方、私にもいます……ずっと側にいたいと願った、大好きで大切な方です」
　紺が静かに呟きながら、ブラックスライムでドリームイーターの自由を奪ってゆく。
　大切な人。さくらのライトニングロッドを握る手に、思わず力が入る。
（「あなたを想うだけで、あなたの傍に居てくれるだけでこんなにも勇気と幸せが溢れてくるから。この気持ちを教えてくれたあなたの為にも——」）
「今日は、頑張っちゃうわよ！」
　戦闘能力を高める電流をヴァルカンに流し込みつつ、彼をちらりと見る。同時にヴァルカンも彼女を見た。二人の視線が一瞬、交差する。
　ヴァルカンの表情が、ふっと緩んだ。彼もさくらと出会って喜びを知ったのだ。たった一人を愛するという、喜びを。
　思い切り踏み込んで日本刀で傷痕を斬り広げれば、ドリーイーターのうめき声が聞こえてくる。
　真琴が想蟹連刃で浮かび上がらせた蟹座が後衛を守護すると、飛び出したルナールが野狐憑を振り下ろす。飛び退くドリームイーターの体内で取り込まれた短冊が揺れるのが見えて、ルナールは眉根を寄せた。
「……願いを込めた短冊を取り込むなんて！」
「ええ、まったく許せません」
　ブリキが同意を示し、飛び退いた先に回りこむ。そこからの鞭打で押し戻されたドリームイーターに、レイリアがスターゲイザーを叩き込んだ。
　体内の短冊を一瞥して、小さく息を吐く。
（「短冊に願いを書くとは、私の性質には合わない風習だな」）
　一瞬だけよぎる思いは口には出さず。代わりとばかりに、冷たく言い放つ。
「貴様の望みは、この私が打ち砕く」
　すべきことが決まっているのならば、あとは目的に向かって進むだけだ。

●時、来たり
　つぶさに時間を確認していたさくらが、割り込みヴォイスを使用して仲間に告げた。
「残り時間、あと４分！」
　それでも焦った様子すら見せないドリームイーターは、ヴァルカンを両手で抱きしめて力を込める。とはいえ、防具やグラビティの効果でダメージ自体は抑えられている。そのうえ真琴が付与した炎により、ドリームイーターはさらなるダメージを受ける。
「甘い、な」
　腕を振りほどき、ドリームイーターの体を足場にして跳躍する。次の瞬間、エフイーが素早くすれ違いざまに突きを入れた。
「さて、あとどれくらいで倒れてくれるんでしょうね？」
「そこそこ疲弊しているようには見えますが……時間がありません、いっそう無駄な動きはできませんね——迂闊に踏み込んだ報いを受けなさい、私の世界は甘くないです」
　エフイーに応え、紺は影を放つ。それはまるで蔦のようにドリームイーターへと絡みつくが、気付いた時には手遅れだ。影はドリームイーターの力を奪い、紺の体力へと変換する。
「もう、ヴァルカンさんばっかり攻撃して……！」
　さくらがドリームイーターを睨みながら、ヴァルカンを癒やす。
「何、構わん」
　ドリームイーターの怒りが自分に向いている間は、他の仲間も狙われにくくなる。加えて、今のところは痛みも軽微だ。
　ヴァルカンは勢いづけて跳躍し、流星の軌跡を描く一撃を喰らわせた。
　真琴が中衛に蟹座の守護を与えれば、ケルベロス達の防備はほぼ完全。真琴は仲間を見渡し、自身も武器を構え直す。
「これでほぼ全員に耐性が行き渡った。遠慮無く攻勢に出てくれ」
「ありがとうございます、真琴様。……あと４分を切ったということもありますし、畳みかけたいところですわね。お言葉に甘えて、攻撃を優先させていただきます！」
　ルナールはドリームイーターを見遣り、非物質化した妖霊扇　黒野薔薇を一閃する。
　それでは、とブリキも手の爪を硬化させた。
「ギア、上げていきます！」
　いっそう集中力を高め、竜爪撃で真っ向から挑みかかる。
「くっ、そう何度も……！」
　ドリームイーターが寸前で避けたところに、背後から痛烈な一撃が叩き込まれる。レイリアによる破鎧衝だ。
「モザイク落としなどという永遠に叶わぬ願いと共に、滅びるといい」
　レイリアは冷たく言い放ち、銀色の髪を払う。
　ぎこちない動きで体勢を立て直すドリームイーターを視界の端で捉えつつ、さくらが時計を見た。時計の針は、確実に進んでいる。
「あと３分！」
　うなずく時間すら勿体ないと言わんばかりに、誰もが武器を構え直した。

●星に願いと
　ドリームイーターの放った毒は、エフイーに降り注ぐ。だが、残された時間は残り半分もない。エフイーは浸食してくる毒をそのままに、オウガメタルを纏った拳をドリームイーターに叩き込んだ。
「ぐっ……！　まだ、まだ……！」
「そうも言ってられないと思いますけどね。……皆さん、続けて！」
　エフイーは仲間に呼びかけ、後続の攻撃のためにドリームイーターから離れる。ガトリングガンを構えた紺が、銃口をドリームイーターへと向けていた。
「火力重視でいきますよ！」
　連射される弾丸は、次々とドリームイーターに命中してゆく。
「それじゃ、わたしも行くわよ。——ぴぃぴぃ、ぴりり、ちぃちぃ、ころり……おいで、おいで、雷雛遊戯」
　童謡のような不思議なリズムが、さくらの口から紡がれる。呼び寄せられるのは、雷光を纏う雛鳥たち。やがて餌を強請るようにドリームイーターに群がれば、鋭い嘴で啄んでゆく。姿こそ愛らしいものの、それは容赦のない攻撃だ。
「いたい、痛いいいいいっ！　私の、願い——！　ずっと、一緒、に——！」
　つんざくような悲鳴を上げ、ドリームイーターは消滅した。内包した短冊も、はらりと落ちては燃え尽きるように消え失せたのだった。
「何とか時間以内に倒せたようだな」
「ええ。モザイク落としのエネルギー源になんかさせてたまるものですか」
　薄青色のマフラーを整えて呟く真琴に、エフイーが大きくうなずく。
「周辺に異変は……ありませんね」
　破損した箇所をヒールで修復する仲間を横目に、さくらが呟く。そのままヒールをする仲間たちを手伝い、駅前を修復してゆく。
　一方、ルナールは傾いたベンチを直していた。すると、ブリキのセットしておいたアラームが鳴り響いた。
「２分前に鳴るようにセットしていました。今鳴ったということは、撃破まで５分ちょっと、ということですね」
　アラームを止め、ブリキが笑顔を浮かべる。時間内にドリームイーターを撃破できたのは、それぞれが攻撃やヒールを分担し、着実にダメージを積み重ねた結果だ。
　ヒールを終えたヴァルカンが、不意に駅の入り口付近を指差した。
「ふむ。あちらに笹が残っているようだ」
　笹と短冊が、風に揺られている。そばには小さなテーブルがあり、短冊とペンも置かれている。ルナールは微笑みを浮かべた。
「書くだけでしたら、タダですわよね」
「せっかくだし、俺も1枚書いていこうか」
　真琴が歩み出し、短冊を手に取る。ペンで記すのは「大切な人を守れますように」という文字。
　エフイーも短冊を手に取り、願いを記してゆく。笑顔が素敵な緑紙の少女を想いながら書くのは「大好きな人と、ずっと一緒に居られますように」という願い。
（「これから多くの困難が立ち塞がろうとも、必ず共に乗り越える……」）
　強い意志を心に、そして星に願いを。
「短冊に願い事、かぁ……わたしも何か書こうかしら」
「折角だ、自分の願いもしたためてみようか」
　さくらと共に短冊を手に取ったヴァルカンは、しっかりとした文字で思いを刻む。「さくらと、ずっと一緒にいられるように」——。さくらも微笑みを浮かべながら、真剣に書いている。「ヴァルカンさんと、ずっと一緒に」と。お互いの短冊は見せず。吊したあと、二人はただ視線を合わせて微笑み合う。
　夜風に揺れる短冊がひとつ、またひとつと増えてゆく。
　それでも、ルナールは短冊を手にしたまま目を伏せていた。
「ずっと一緒にいたい大切な人……」
（「一度大切な人を失った私が、また誰かと一緒にいたいと思ってしまっても、良いのでしょうか……。それに、あの人は……」）
　ペンを握る手に力が入る。が、やはり書き出すことに躊躇してしまう。思わず夜空を見上げると、首飾りを握りしめる紺が目に入った。
　手にしている首飾りは、紺が大切な人からもらったもの。
（「これからもずっと側にいられますように」）
　輝く星を見つめ、祈るように紺は願うのだった。
　さまざまな思いを胸に願う仲間を見て、レイリアはひとり上空まで飛行した。
「ずっと共に在りたいと願う相手、か」
　レイリアの耳元に飾られた、赤い雫型の石のピアスが揺れる。
「理解出来ない感覚だな。……理解する機会も、二度と無いだろう」
　見上げれば、星々は静かに瞬いていた。願い、あるいは思いを受け止めるかのように。

作者：雨音瑛	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年7月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 5／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。