ひと針ひと針、気持ちを込めて

作者:一条もえる

「うぅむ、足りん! さらなる性能向上のための、素材が足りん!」
 薄暗い部屋の中で、白衣の上に紫のマントという奇妙な出で立ちの男が、大げさに天を仰いで嘆いていた。
「飛行オークどもよ、我が輩の研究開発にはさらなるサンプルが必要なのだ!
 ケルベロスどもの邪魔が入ろうと、必ずや新たな因子を持ち帰るのだ!」
「ぶひひー! おっしゃるとおり、女どもをさらってくるぶひー!」
 喜び勇んでオークどもが飛び出した、その目的地は。
 某女学院、である。
 期末テストも終わり、ふつうの学生ならば後は夏休みを心待ちにするのみであるが。
 この学院には、まだ一大行事が残っている。創立以来、この時期に行われる伝統行事。
 文化祭である。
「さぁ、コスチューム……いえいえ、作品の仕上がりも上々! わが被服部の最高傑作よ!」
「いいんですかねぇ、先輩。先輩たちの卒業制作でもあるこの発表会で、コスプレ衣装とか」
 と、おさげの後輩が不安そうに見つめるが。ロングヘアの部長は肩に手を置き、
「確かに? 我が校に家政科があったころから続く伝統には敬意を払いましょう。でもね、時代は変わるの! もっと自由闊達な発想で! フリーダムなデザインで!」
「で、そのこころは?」
「夏イベントの衣装を部費で製作できるなんてラッキー!」
 ため息をつく後輩をよそに、部長は校庭に特設されたステージの袖で、今か今かと出番を待ちかまえている。
 彼女らは、冷蔵庫や洗濯機、掃除機などの家電と過ごす女子高生の日常アニメ『三菱三洋』に出てくる制服姿だ。
 他にもトンカツ屋を目指してトレーニングに励む少女たちを描いた『揚げカツ』のものなど、一見すると、
「制服らしさとは何かを考えたデザインなんです!」
 だの、
「フリフリかわいらしいエプロンと、セットになったドレスです!」
 だのと、部活動の一環としての言い訳ができなくも、ない……か?
 参加は全員。自身も衣装を着せられた後輩がため息をついた、そのとき。
 会場に悲鳴が上がる。飛行オークが、ステージに飛来し襲いかかっていたのだ。
「な、なによあれ!」
 そう叫んだ部長の背後からも、オークが!
「なんだか新鮮な格好……ずいぶん短い腰巻きぶひ! 見えそうで見えないと、触手が硬くなるぶひー!」
「ひぃあぁあああッ?」
 部長が触手に絡みつかれて、逆さ吊りにされる。幸い逆光でスカートの中身は見えなかったが。
 被服部の女子生徒たちは次々と触手に絡め取られ、彼女らが(動機はどうあれ)懸命に縫った衣装も、次々に引き裂かれていった。

「学院って……ここっすね」
 金剛・吹雪(スマホ中毒・e26762)がスマホを片手に、位置を確認する。
「えぇ。マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した飛行オークなんだけど、今度は文化祭が開催中の女学院を狙うようです」
 セリカ・リュミエールはスマホの画面にちらりと目をやり、頷いた。
 飛行とついていたところで、その能力はせいぜい滑空程度。着地してからは他のオークとまったく同じように対してよいのだが。
「それでも、現場に直接降下できるのは大きな強みです。襲撃場所を自由に選べるのですから」
 現場には、女子生徒たちが大勢いる。その一般の生徒たちはオークの姿を見れば逃げ散っていくだろう。そこは気にしなくともよい。
 しかし、被服部の生徒たちは。
「ですが、事前に彼女らを逃がすわけにはいきません。オークの狙いはまさに彼女らで、予知がはずれてしまうことになってしまいますから」
「せめて、衣装を脱いでたりはできないっすか?」
「難しいでしょうね、オークが彼女らに狙いを定めた……つまるところ好みが、そこなのですから」
 と、セリカはため息をついた。
「敵は4体。
 3体は高空から一気にステージに、そして1体は低空を滑空してステージの袖にと、二手に分かれて襲ってくるようです。
 一般の生徒さえ逃げてしまえば、広い校庭です。周囲に危険が及ぶことはないでしょう。
 特設ステージは壊れてしまうかもしれませんが……これは、ある程度は仕方がありませんね」
「アニメって……あぁ、この番組かぁ。
 せっかく作った衣装だし、なんとかしてあげたいね」
 なおもスマホをいじりながら、吹雪がため息をつく。なにしろ、このままでは衣装どころではすまないのだから。


参加者
長門・海(誘導弾系魔法少女・e01372)
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)
ユーベル・クラルハイト(マルチレイヤストラクチャ・e07520)
葦原・めい(世紀末バニー・e11430)
羽衣乃・椿(衣改の魔女・e20239)
枝折・優雨(チェインロック・e26087)
金剛・吹雪(は猫である名前はまだない・e26762)
高天原・碧(エメラルドドラグーン・e27164)

■リプレイ

●みんな浮かれて
「おこしくださーい! 3-A、モンゴリアン・カフェやってまーす!」
「いまならサービス増量中! クソ苦い健康青汁でーす!」
 文化祭は盛況。正門を入るなり、女子高生たちの華やかな声があちこちから聞こえてくる。
「いやぁ、事件とわかっててもウキウキしてきちゃうっすね」
 と、金剛・吹雪(は猫である名前はまだない・e26762)はキョリキョロと辺りを見渡す。
 葦原・めい(世紀末バニー・e11430)は、正門のところに立ち尽くしていた。
 少女たちのにぎやかな声、笑顔……。
 一筋の涙が、頬に流れる。
「どうかしたっすか?」
 怪訝そうに振り返る吹雪だが、めいは慌てて顔を拭い、
「なんでもない。ちょっと思い出してただけよ。さ、行こう」
 と、どんどん進んでいく。
『11時からは、被服部による卒業制作の発表です。みなさま、校庭の特設ステージまで……』
「もうすぐ時間のよう、です。急ぎましょう」
 と、アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)が時計を見つつ一同を促す。
「あぁ、もうそんな時間ですか」
 ユーベル・クラルハイト(マルチレイヤストラクチャ・e07520)もそちらに目をやった。
 ステージからはまだ、軽音部らしき演奏が聞こえてきている。おそらく、その次の出し物なのだろう。
「私にはちょっとわからないな。テレビとか、ほとんど見ないから……」
 枝折・優雨(チェインロック・e26087)は関心の薄い様子。
「あぁ、確かに。情報の確認なら、スマホでも十分、です」
「それに……」
「それに?」
 と、アンジェラは小首を傾げて優雨の顔を見上げる。
 今の私には、嫌なニュースしか、目に映らないもの。私は変わらない世界だけ、見ていたかったのに。
「……なんでもない」
「いい度胸してるよね。卒業制作っていいながら、コスプレ衣装作っちゃうんだから。ねぇ?」
「そうですね。おまけにそれで人前に出るなんて、私にはとても……」
 長門・海(誘導弾系魔法少女・e01372)に同意を求められた羽衣乃・椿(衣改の魔女・e20239)は、口振りこそ控えめだが。
「機会があったらやってみたいって顔してますよ、そういう悪巧み」
 と、高天原・碧(エメラルドドラグーン・e27164)に苦笑いされる。
「そもそも、その格好自体がまるでコスプレ……」
「これはいいの! 魔法少女たるもの、常日頃からその心がけが大事ッ!」
 と、海は胸を張る。
 言葉通り海は魔法少女、椿は帽子とコートがいかにも魔女っぽく、めいに至ってはどこから見てもバニーガール(フィルムスーツらしいが)。
「……別におかしくはないでしょ?」
 めいは、強調された身体のラインにはさほど関心がないように小首を傾げる。
 吹雪が居心地が悪そうに視線を逸らした……ように見せつつ、ちらりと視線を送る。
 いいえ、変です。碧は言葉にはしなかったが。
 文化祭という、着ぐるみやらがあちこちを闊歩している状況でなければ、とてもとても。

●オーク飛来
「揚げカツ! 揚げカツ!」
 ステージにあがった部員たちが、ひらひらの衣装をまとってパフォーマンスを始めた。アニメ同様に、トンカツをジュワジュワと揚げまくる(消防署申請済み)。
 例年ならば、もっとファッションショー然としたものらしいのだが……。
 観客席にいる子供たちや、いい年した大人の男性にはわかる者もいるようで、それなりに歓声は上がっている。
「私はこういうのより、『沈黙の提督』とか、もっと骨太な奴がいいなぁ」
 と、海がぼやいた、そのとき。
 上空に黒い点がにじみ出た。
「ぶひひひひッ! 若いメスがうようよいるぶひ!」
 3体のオークどもは広げた触手を畳んで、上空から急降下してきた。
「みなさん、オークさんです!」
 可愛らしく敵を呼んだアンジェラが、すぅ、と息を吸い込み『殲剣の理』を歌い上げる。
「ぶひーッ!」
 女生徒たちは恐怖のあまり、身じろぎすることさえできない。青ざめた彼女らに、オークの触手が襲う。
「きゃあああッ!」
 衣装の襟元から、裾から、触手は侵入して服を引っ張り……。
「やらせません!」
 剣が一閃。触手を切り落とした。
「大丈夫。貴女たちにはこれ以上、指一本触れさせませんから!」
 立ちはだかったユーベルは襲い来る触手を一度、二度と剣を振るい、弾いていく。
 それでもオークの猛攻は続き、ついに触手が彼女を絡め取ろうとした。
 しかし、そのとき。
「こっちに注目! コスプレもいいけど、本物の魔法少女の登場だよ!」
 宙に現れたミサイルが、白煙をあげつつオークに命中した。
「助かりました!」
 体勢を立て直したユーベルはその剣で地に守護星座を描く。
「最近の魔法少女はね、炎や氷だけじゃなくって、ATMだって飛ばせるんだからね!」
 海の放った対戦車ミサイルを食らったオークは吹き飛ばされ、ステージの上にあった揚げ鍋をひっくり返す。
「ぶひーッ!」
 デウスエクスを本質的に傷つけるものではないが、熱いものは熱い。
「あらら、災難だったね」
「さぁ、今のうちに皆さんは逃げてください!」
 椿はそう言いつつ、自らに宿した攻性植物を茂らせる。『黄金の果実』が放つ光で、仲間たちを護る。
 その間に碧もステージに駆け上がり、
「邪悪なオークたち! この私がお相手します!」
 そう言ってブレスレットを掲げたかと思うと、
「鎧装装着! エメラルドドラグーンッ!」
 その全身を緑色のパワードスーツが覆っていく。
「ぶひッ! いい尻ぶひ!」
「そうぶひ? ちょっと細身過ぎるぶひ」
「ぶひ! 肉が溢れているばかりがメスじゃないぶひ!」
「勝手なこと言わないでくださいッ!」
 全身、というのは語弊があるかもしれない。その鎧は重武装を保つため、装甲は極限まで軽量化されていたのだから。
 早い話が、露出過多。
「うぅッ、なんでこのコスチューム、こんなに肌が見えてるの……?」
 赤面しつつ、碧はバスターライフルを構えた。放たれたビームが、オークを吹き飛ばす。
 時間は少し戻って。
「写真、お願いしてもいいですか? すごくよくできてますね、それ」
 ステージ袖に近づいた優雨は、『三菱三洋』の衣装を身につけた部長たちに声をかけた。
「え、あの、ここ部外者は……」
「困りますよぉ~。でも、そんなにいい出来ですか? 実はこれ、自信作でー」
「ちょっと、部長!」
 などと、部長はおだてられて悪い気はしない様子だ。とはいえ、言われたとおり部外者が長居するわけにもいかないが。
 それを案じる必要もなく、オークが現れる。
「な、なによあれ!」
 部長が、ステージに現れたオークに目を丸くする。
 そして、その背後からも。
「ぶひ! ここにもメスがいたぶひ! 短い腰巻き、たぎるぶひ!」
「ひぃあぁあああッ?」
 なんとそこにもオークは現れ、部長を絡め取っていった。足を掴まれてひっぱられ、水色のしましまぱんつが優雨の目には明らかになる。
「放しなさい!」
 優雨は割って入り、精神を極限まで集中させる。しかし放たれた『サイコフォース』をオークは避け、
「ぶひ、ケルベロスぶひ?」
 と、優雨にも触手を伸ばしてきた。
「ウサちゃん必殺! トンファー……は略。いきなりキィィィィック!」
「ぶひぃぃぃぃぃッ!」
「うわぁ……」
 オークの背後から、めいがその股間を渾身の力で蹴り上げた。オークはこの世とも思えない悲鳴を上げ、傍らでそれを見ていた吹雪も、思わず前屈みになる。これはもう、男なら本能のようなもので。
「自分、やれと言われても、たぶんあそこまで本気では蹴れないっすね……」
 ともあれ、気を取り直した吹雪は握りしめたスマホでオークのこめかみをぶん殴る。
「遠慮なんてしてやらない! 友達は……やらせない!」
 立て続けに触手に打たれて血を流しつつも、めいは膝をつかない。電光石火の蹴りで、オークの触手を根本から蹴り上げた。
「ぶひッ、触手が折れたらどうしてくれるぶひ!」
 思わず、オークの動きがこわばる。
「悪さもできなくなって、いいことずくめね」
 淡々と呟いた優雨はケルベロスチェインを展開して魔法陣を描いた。
「せっかくの楽しい文化祭なんっすから、ぶち壊させはしないっす!」
 吹雪の放った『ニートヴォルケイノ』。足もとから噴出する溶岩に襲われたオークは、たまらずステージ袖の階段を駆け上がって逃げていった。

●笑顔のステージ
 そこは言うまでもなく、ケルベロスとオークどもとの死闘が繰り広げられる、ステージである。
「おっと、そっちからも? まとめて燃えちゃえ、ファイアーボールッ!」
 などと言いつつ、海が放ったのは『アイスエイジ』。
「残念、氷でした!」
「卑怯ぶひ……!」
 氷河期の精霊はオークどもを飲み込み、ステージ袖から駆け上がってきた1匹は真正面からそれを受け、大の字になって倒れた。
「ぶひッ、よくも! あいつはメスの服をはぎ取るロマンを語らせたら、随一だったぶひ!」
「知らないよ、そんなの!」
 と、思わず海は怒鳴り返した。
 オークどもは全身に怒りをみなぎらせ、ケルベロスたちに襲いかかってくる。
 黒々と輝く触手に渾身の力を込め、血管が浮き上がった。
 その触手で碧を、椿を刺し貫く。
 碧の、ただでさえ露出の多い鎧が砕け、胸元がもう、ギリギリのところまで露わになってしまう。
「ぶひーッ!」
 オークは興奮気味に歓声を上げ、蠢く触手はそれにとどまらず、ふたりを絡め取ろうとしていく。
「きゃッ……! さ、触らないで!」
「あひッ……ん! スカートの中に、潜り込まないでください! あ、そ、そんなとこ、ダメですッ!」
 得体の知れない分泌液に包まれた触手の、何とも言えぬ薄気味悪い触感。
 コートを裂かれた椿は触手にまとわりつかれ、内股を撫でられて悲鳴を上げた。
「うぅッ、どうしてこんなことに……」
「わたしが相手、です!」
 アンジェラは彼女らを庇うように立ちはだかると、ふたたび『殲剣の理』を歌う。
 オークどもはふつふつとわき上がる怒りにとりつかれ、アンジェラを襲う!
 アンジェラは身構えたが、
「ぶひ……さすがに、乳も尻も育ってないメスには触手が硬くならないぶひ?」
「硬くなられても困ります!」
 ユーベルが、『思い出』のデータを圧縮した弾丸を放った。記憶と引き替えに弾丸はオークの肩を貫き、今度はユーベルがその怒りを受ける。
「私が盾となります。来るなら、私にしなさい!」
 その間にボクスドラゴン『ドラゴンさん』は、アンジェラの傷を癒やす。
「……10年後には、ユーベルさんにも負けないの、です」
「……なんの勝負ですか」
「ぶひ。待っているぶひ。10年経ったら、また俺に会いに来るぶひ?
 いっぱいいっぱい、触手を味わわせてやるぶひ?」
「いい話っぽくしないでくださいよ! 誰が会いになんか行くもんですか!」
 碧は大声とともに主砲を放った。かろうじて避けたオークがたたらを踏む。
 好機と見た椿は、半ば破れたスカートを押さえつつ息を吸い込んだ。
「伸びよ鞭よ! 纏いし衣をその身に変えて、彼の者へ!」
 その言葉に応じて、彼女が身につけた魔法使い然とした服が、ほどけていく。
 それはオークに激しく打ち掛かり、打たれた箇所からは血が吹き出た。
「これでとどめです! 二度と、女性を襲ったりできないように!」
 叫んで、碧は主砲を一斉斉射。まともに食らったオークはわずかに呻き、崩れ落ちる。
 ところが。
「え……、制御、しきれない!」
 鞭は椿が意図したよりも四方八方に散り、そのぶん、素材となった衣服はほどけていく。ただでさえ短めのスカートなどあっという間に消え失せ、そして、ピンク色の下着と白い肌が。
 だがそれでも、今は恥じらっている場合ではない。堂々と胸を張り、オークどもと対峙する。
「あまり無理しちゃ駄目よ?」
 と、めいはわずかでも椿が衆目の目にさらされずに済むよう、前に立った。
 残り2体となったオークだが、それでも戦意は衰えない。
「服をすべてはぎ取る瞬間が、いちばん触手が滾るぶひ!」
 触手を振り上げ、何度も何度も叩きつけてくる。
 椿はその都度その都度、マインドリングから光の盾を具現化し、仲間を庇う。
 再び襲ってきた触手から、仲間を庇ってユーベルと優雨とが受けとめた。激しい衝撃に骨が軋む。
 それでもふたりは倒れず、得物を握りしめて反撃に転じた。やられているばかりではない!
 ユーベルは大きく跳躍して、オークのでっぷりと肥えた腹に跳び蹴りを食らわせる。
「そんな攻撃、当たりはせんぶひ!」
 一方で、優雨の振るったケルベロスチェインを、もう1体のオークは嘲笑って避けようとしたが。
 彼女のビハインド『カッツェ』が敵を金縛りにし、そこに飛び込んだ優雨の『達人の一撃』はオークの額を見事に割った。
「ぶ、ぶひ~……! はいでやるぶひ、はいでやるぶひ~」
 朦朧としつつもなお近づいてくるオークだったが、アンジェラの『時空凍結弾』、海の『マジックミサイル』を浴びて、何かを掴もうとするように触手を伸ばしたまま、倒れた。
「おのれ~! こうなったら、きさまら1人でもひんひん泣かしてやるぶひ!」
 オークは最後まであがくように、触手を巨大な手のように広げて襲いかかった。
 狙いは、めい。
「く……!」
 身に纏った服が裂け、胸が露わになる。
 それでもめいは隠そうともせず、
「こんなのが……修羅場のうちにはいるもんかッ!」
 と、なんと大きく口を開けて触手にかじりついた。渾身の力で捕縛を逃れためいは、得体の知れないなにやらをペッと吐き出し、相手を睨みつける。
「あたしは……こんな狂った世界で、普通に学校に通えてる、そんな子たちの普通の幸せが守りたいんだッ!
 あたしは、過去のあたしを救ってるんだぁッ!」
 絶叫とともに放たれた『降魔真拳』は、オークの鼻を粉々に砕き、巨体を吹き飛ばした。

『13時より、被服部による卒業制作の発表です。校庭の特設ステージまで……』
 オークの襲撃により予定は大幅に狂ってしまったが、文化祭は再開されることになった。ケルベロスたちも、戦いの舞台となったステージの修復にも尽力したのだ。
 ステージには『三菱三洋』の衣装を着た部長と後輩、そして実はいたもう1人とが、可愛らしい振り付けで主題歌を歌っている。
「始まりました、です♪」
 アンジェラがパチパチと手を叩く。
「や、無事に再開できて良かったっすね」
 と、吹雪は胸をなで下ろした。
 ユーベルはボクスドラゴンの頭を撫で、自身も目を細めて微笑みながら、ステージを眺める。
 優雨は、仲間たちから少し離れたところに立っていた。その背を、誰かが押す。
 あぁ、もう。
 目を背けたくなる、デウスエクスとの戦い。しかしその渦中でも、少女たちは、そしてケルベロスたちは笑うのだ。
「……わかってるわよ」
 サーヴァントに手を引かれ、優雨はステージに近づいた。

作者:一条もえる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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