振られ女にオーク

作者:大府安

 ギルポーク・ジューシィは、オーク達のリーダードン・ピッグを呼び出して命令を告げようとしている。
「来たかドン・ピッグよ。慈愛龍の名において命じる」
「俺たちの軍団を使って、人間どもに憎悪と拒絶を与えるんだろう? わかってるさ旦那。俺たちがやることは一つだ。若い奴らが次々と女が連れ込んで、楽しんで稼ぐさ」
「やはり自分で戦う気はないか。その用心深さはお前の強みと見ている。女を連れ込むための隠れ家を用意した。魔空回廊で向かうがいい」
「ああ。任せな旦那」
 開いた魔空回廊に、ドン・ピッグと複数のオーク達は慣れた様子で入っていった。

 深夜の東京の公園では、スーツを着た若い女性が一人ベンチに座って泣きじゃくっていた。
「ひっくっ浮気じゃないってっ言ったのにぃ……‼ ひぐっどうしてっ信じてくれないのっ……!」
 女性が持っているスマートフォンの画面にはとある画像。彼氏から送られてきた、彼氏とは違う男性と腕を組んで歩いている彼女。
 女性は何度も電話をかけようとする。うわごとのように独り言うには、酒が入って共に飲んだ上司と腕を組んだだけ、浮気している自覚は無く、場のノリと勢いだったとのこと。その代償は大きかったようだ。
「ブヒヒヒ……!」
「えっ……!? あっいやっ」
 泣きっ面に蜂、公園のマンホールから出てきた8体のオークは瞬く間に女性を囲い襲う。意識をなくした女性をそのままマンホールに連れ込み、公園には誰もいなくなった。

 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は毅然とした口調と表情で、公園の映像を背景に説明を開始した。
「今回の任務はオーク8体の撃破です。このオーク8体は、オークを操るドラグナー、ギルポーク・ジューシィの配下である、オークリーダードン・ピッグの指示で動いているようです」
 説明を聞いていた隠・キカ(輝る翳・e03014)は、手に持った人形のキキを撫でながら、首を傾げて尋ねた。
「それって、前にきぃ達が倒したオーク達と同じことをしているの?」
「ええ。オーク達は路地裏や人気の少ない場所で、非常に用心深く女性をさらっています。おそらく、秘密のアジトへと連れ込んでいるのでしょう」
 任務に参加するエリーゼル・バックストップ(レプリカントの鎧装騎兵・en0219)は自信ありげに鼻を鳴らした。
「ふん、こそこそしている以上程度は知れているだろう。女性を最初から避難させて、出てきたところを私が引き付けよう。そうすれば」
「オークが女性に接触する前に皆さまが女性に接触すると、オーク達は別の対象を狙ってしまうでしょう」
「う、そっそうか……」
「皆さまにはオークが女性と接触した直後に、現場に突入していただくことになるかと思います。どうか、オーク達の悪事が完遂される前に、速やかに撃破をお願いします」
 公園が映し出されていた映像は半分に分割され、片方にオークの映像が表示される。
「予知されたオークの個体数は8体です。戦闘能力は一般的なオークと相違ありません。今回は回復手段を持たず、様々なバッドステータスの付与を狙ってくるようですね。公園の敷地はサッカーグラウンド程と広く、また木々が多く鬱蒼として、視界が制限されています。深夜ですので周りに人気はほとんどありません」
 キカは憂い気にセリカに尋ねる。
「予知だと、女の人は泣いていたの?」
「ええ、そうですね。状況から痴情のもつれかと……」
「きっと、とても寂しい思いをしてるの。早く、助けてあげたいな」
 セリカは微笑みを浮かべる。
「はい。皆さまならば、無事女性を救出し、オーク達を倒せると信じています。また予知とは別に、オーク達はドン・ピッグの指示のもと女性を連れ去っているかもしれません。オークに話が通じるとは思えませんが、なにか情報が得られたら良いですね……。ともかくまずは被害を防ぎ、オーク達を倒してください。ご武運を」


参加者
ルトゥナ・プリマヴェーラ(慈恵の魔女・e00057)
魅咲・サソリ(紫忍者・e00066)
珠弥・久繁(病葉の刃・e00614)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
ローレンス・グランヴィル(アンゲルスの追憶・e08039)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
モモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)
雨宮・陽霞(鋼姫・e28374)

■リプレイ

 木々生い茂る暗い公園で、女性のすすり泣く声。その女性の周囲に陰から見守る9人のケルベロスがいる。
 マロン・ビネガー(六花流転・e17169)は羽織るロングコートに秘められた力、隠密気流を発動し万全の態勢。
(夜の公園と言えば刑事ドラマの舞台です……ドキドキ)
 マロンは少し胸が躍っていた。まもなく肥えた加害者が来ることを考えると、刑事ドラマの張り込みシーンに見えなくもない。あいにくと背丈が足りず可愛らしかったが、集中力を欠かさない気分は本物だ。
 マンホールが開き、オーク達が闇夜に姿を現す。まだ女性とは距離がある。
 茂みの影で珠弥・久繁(病葉の刃・e00614)はアイズフォンを取り出す。
「来たね。打ち合わせ通りに」
 久繁のアイズフォンへの呟きに、隠・キカ(輝る翳・e03014)から返答があった。
「きぃからも見えたよ。がんばろうね」
 木の裏に隠れるキカはオークと女性の状況を視界に収めながら、視点の中心を一瞬女性の近くの木へと移す。キカの年の離れた友人であるローレンス・グランヴィル(アンゲルスの追憶・e08039)が隠れており、キカの視線に応えるように微笑んでうなずいた。
(「打ち合わせ通りだ。まあ、気楽にいこうじゃないか」)
 ローレンスの微笑みにはそんな思いが込められていた。過信ではなく、女性を襲うオークを一匹残らず逃がさないという確固たる意思がある。イシコロエフェクトを活用して気配を少なくしているのが証左だ。
「そろそろだ。行こうか」
 久繁は再びアイズフォンで呟く。エリーゼル・バックストップ(レプリカントの鎧装騎兵・en0219)からも了解の返答があった。
 オークが女性を取り囲んでいく。女性がオークに気付き、オーク8体が女性へ触手を伸ばす。
 久繁は笑みのままバトルオーラと大鎌の死暈を展開し、そして。
「突撃」
 呟きと共に、オーク8体の周囲から9つの影が殺到した。

「なっなんだブっヒ……!?」
 異変に気付いたオーク一体が振り返る。オークの視界には、艶やかな外見に角と翼と尻尾を生やし、オウガメタルの白銀の輝きをまとったルトゥナ・プリマヴェーラ(慈恵の魔女・e00057)の拳が眼前にあった。オークはまもなく鈍い声を出して吹き飛んでいく。
「え……!?」
 混乱する女性を中心に、戦況は着々と変化する。
「こそこそとするだけで、自分達が奇襲されるとは思ってもみなかったのかな? オツムも器も知れるというものだよ」
 女性の一番近くにいたオークが、久繁が打ち出した気咬弾で吹き飛ぶ。
 マロンは力を帯びた紙兵を大量散布し、前衛の耐性を強化。モモコ・キッドマン(グラビティ兵器技術研究所・e27476)は女性へと駆け出していく。
「き、きさまら!」
 オーク一体が立ちふさがりモモコへ触手を伸ばしたが、機先を制したモモコは刀を鞘に収めたまま、グラビティブレイクを放って吹き飛ばす。
 モモコはそのまま隣人力を活かして女性に接触した。
「大丈夫? 落ち着いて。あんたは私たちが守るわ。後方のあの金髪の女性の所へ走って」
「はっはいっ!」
 モモコの強気な口調に押され、女性は後方のエリーゼルの元へ駆けていく。モモコは女性が駆け出す瞬間に、その背中へスティッキーシグナルボタンを張り付けた。これで万が一女性がオークにさらわれても、シグナルで探知できる。
 女性を逃すまいと動くオーク達。だが、そのうちの一体は魅咲・サソリ(紫忍者・e00066)の間合いだった。
「オラァ!」
 抜群のスタイルを誇る外見とは裏腹なかけ声。ゲシュタルトグレイブの稲妻突きがオークの腹を抉る。稲妻の光とともにサソリの覇気のある顔が暗闇に浮かび、オークは衝撃で吹き飛び木にぶち当たった。
 後列にいた2体のオークは戸惑ってきょろきょろとしていたために、キカが発動した『幻葬廻路(ミラージュ・ラビリンス)』の蜃気楼が脳内へと入り込んだことに気が付かなかった。
「きぃにさわると障るから、さわらないで」
 キカはすぐにでも女性に話しかけたい衝動を我慢し、2体のオークを幻覚に惑わせる。
「まっまずいブヒ!」
 攻撃を受けていない3体のオークのうち、2体のオークが逃げ出す女性を追おうとし、1体は後列の2体への攻撃をやめさせようとキカへと走る。
「そこのガキ! すぐに攻撃をブヒョ!?」
「お前は足蹴で充分だ、地を這え」
 だがキカに向かったオークは、ローレンスに旋刃脚で蹴り飛ばされ背中で地面を滑る。
「キカに指一本でも触れてみろ。貴様を地獄に送ってやる。行くぞキカ」
「うん、ローレンスがいるから、こわくないよ。一緒に全員、やっつけようね」
 女性を追うオーク2体に対しても、ケルベロス達は対応していた。
「女性をさらうなんて、私達が許さないっすよ! 成敗してくれるっす!!」
 雨宮・陽霞(鋼姫・e28374)は螺旋手裏剣を風車のように回転させ、時空凍結弾を生成。女性を追うオーク1体へ打ち出し、正確に腹から膝にかけて命中させる。
「あ、あしが凍っ……ブヒぎゃあ!?」
 腹と膝が凍ったオークはつんのめって転倒し、地面を滑りながら木に衝突。オークから氷の破片が飛散する。
「……さすがだな。あと一体か。当たれっ」
 エリーゼルがフォートレスキャノンで残るオーク1体を射撃し命中させる。時間を稼ぐには十分だった。
 その最中、走る女性へルトゥナは柔和な笑みで語り掛ける。
「今銃を撃った女性の所よ。落ち着いてね?」
「はいっ、ありがとうございますっ」
 女性の表情から焦りが消えた。女性はエリーゼルの元へ到着し、エリーゼルが避難のため一時離脱する。
 オークへの奇襲、8体への同時攻撃は成った。
 オーク達は立ち上がり周りを見渡すが、既にケルベロスが包囲している。
「1人の女の子を8人で囲うなんて、女の扱いが分かっていないのね」
 ルトゥナは笑みと共に簒奪者の鎌を回転させ、道を塞ぐように横へ広げるように構えた。
「ねえ、私達の相手をしてくれる?」
 ルトゥナの露出した胸元に、オーク達は恐怖と興奮が入り混じったつばを飲む。
「ふ、ふん! お前たちもあの女も俺たちと繁殖するブヒ!」
「いいえ。あなた達はここまでです」
 モモコは鞘に納めたままだった斬霊刀、イズナを抜き放つ。ルトゥナと対照的にその眼光は鋭い。イズナは瞬きの刹那、孤児として収容されていた施設を抜け出して、誰も信用せずに生きてきた自らの半生を思い出した。
(「……あの頃もこんな目をしていたっけ。でも、あの頃と違うことがある。それは……」)
 モモコはイズナを構える。包囲の反対側では、キカが腕から攻性植物の牙を、ローレンスがグラビティチェインを構えている。左には補助の準備をするマロンと、左右の手に一本ずつゲシュタルトグレイブを持って突き構えするサソリ。右には大鎌死暈を肩に担ぐ久繁と、軽くステップを踏みながら螺旋手裏剣と爆破スイッチを手に持つ陽霞。
(「今は守るものがいるってことね」)
 モモコは味方の位置取りを確認し、心に暖かなものを感じる。
 オークとケルベロスが再び駆け出す、今度は乱戦となった。

 戦いはお互い手傷を追いながら、ケルベロスの優勢だった。包囲は徐々に狭められていく。
「そろそろ数を減らしましょうか。……あなたから」
 ルトゥナは優雅に体を回転させると、勢いで鎌を手放しデスサイズシュートを放つ。回転鎌はオーク一体の胸を切り刻み、鎌は狂いなくルトゥナの元へと舞い戻る。
「ぐっ死にたくないブヒ!」
 攻撃を受けたオークは血反吐を吐きながらも包囲の間を抜けようとする。だが、久繁の攻撃範囲だ。
「狙うのが人気のない場所かつ一人だけ……そういうのは用心深いではなくチキンというんだ」
「お、男はひっこめブヒ!」
 久繁は鎌を担いだまま、魔術を詠唱する。
「綺麗なモノなんてない。思い出させてやろう。擦り剥いた膚から滲む血を、傷口から覗く肉と骨を。裂かれて溢れる血潮の熱さを。全ての痛みを呑んでもお前は笑えるか?」
 久繁の『性悪説の虜(セイアクセツノトリコ)』は、対象が受けた傷を再現する魔術。今受けた傷はより深く、瘡蓋は再び出血し、皮膚はもう一度裂ける。
「ブヒ……あ……」
 オークは膝から崩れ落ちる。『性悪説の虜(セイアクセツノトリコ)』によって、ルトゥナの攻撃で胸を裂かれた傷は深く再現され、心臓を真っ二つに裂いて絶命させた。
「まずいブヒ! 幼女を人質に取るブヒ!!」
 仲間の死にざまを見たオークが、慌ててマロンを攻撃対象にする。回復と補助に徹していたマロン、与しやすいと思ったのだろう。
「やばくなったら子供狙いとは、けったいな奴やっ」
 マロンへと伸ばされたオークの触手には、サソリが割って入った。サソリの体に触手がまとわりつき、オークの下卑た笑い声が漏れる。
「ブヒヒヒ! 可愛がってやるブヒ! って……あれ!?」
 オークは触手で締め上げたつもりだったが、サソリには応えていない。
「その触手ってどうなってます? 興味深いです」
 マロンのオラトリオヴェールの光がサソリたち含め前衛を包んで回復する。付与していた紙兵散布によって、オークの捕縛もまともにできていない。
 ただサソリは苦い顔をしていた。ダメージは防がれているとはいえ、触手が気色悪いことには変わりない。
「気持ちのいいもんではないなぁ!」
 サソリはマロンに返答しながら飛び上がって触手を抜け出す。
「ブヒィイイ次こそっ!」
「あいにく、これ以上ウチに触っていいのはっ!」
 柔肌を触られたサソリの怒りの百烈槍地獄。二本の槍が煌き、無数の刺突がオークを襲う。
「オラオラオラオラァ!!」
 サソリの声とともに、オークに無数の穴が開いていく。サソリが着地と共に刺突を終え、槍を横に振って穂先の血をはらった。
「……ウチの旦那だけやっ」
 屍と化したオークがずしゃりと倒れる。2体撃破。
「もらった!」
「ブヒアア!?」
 モモコが素早い足で触手攻撃の合間をぬい、1体のオークへ斬釘截鉄(ザンテイセッテツ)を放つ。ガードしようとしたオークの両腕が吹き飛ぶ。
「追撃っす! 頭ががら空きっすよ! いただきっす!」
 陽霞は再び螺旋手裏剣を手元で回転、巫術を溜め熾炎業炎砲を発射。オークの頭部に命中して燃えあがる。
「ブヒアアァァ……」
 オークがあおむけに倒れ、脂ぎった体に燃え移って夜の灯と化す。これで3体撃破。
 オーク達はキカを第二の人質にせんと執拗に狙っていたが、ローレンスが全てシャットアウトしている。
「だいじょうぶローレンス? かじつをどうぞ」
「ああ、ありがとう。キカの援護のお陰だ。こちらも一つ決めようか」
「くっくそ! 男はどくブヒ!」
 ローレンスの言葉はやせ我慢ではない。キカが黄金の果実で適時回復してくれるし、マロンの回復も届いている。
「避難は終えたっ! 援護するっ」
 エリーゼルの射撃も、ローレンスが相対するオーク達に命中していた。
「さっきから背中がブヒ!?」
「隙を見せたな」
 ローレンスが射撃を気にしたオークへ一気に距離を詰める。降魔の拳に力を込め、オークの顔面へ横殴り一閃。
「ブギャ!?」
「腹が減った」
 そう言うと逆側から殴り、また逆側から殴打。打撃は両面から速度を上げて連続し、最後に思い切り振りかぶって殴り飛ばす。
「此処からは誰も逃がしはしない」
 ローレンスの『紅血偏愛の晩餐会(ヘマトフィリアノディナーパーティー)』は最後に、吹き飛んだオークが地面に着く前にグラビティチェインで串刺しにする。鎖が引き抜かれると、オークは二度と動かなくなった。
「も、もうだめブヒ! 俺は逃げるブヒ!」
「あっずるいブヒ!」
 残った4体が向かうは近くのマンホール、運良く包囲された中にあったようだ。だが久繁は冷静に察し、コアブラスターを発射して追撃する。
「竜牙兵くらいの根性は見せたらどうだい?」
「ブ、ブヒ!? まだ……!」
「皆の口に合うかしら……さあ、いらっしゃい?」
 ルトゥナは地面に己の血を垂らすと、そこから魔術の紋様が現れ、六の頭を持つ龍が召喚される。
 背中に久繁の光線を受けたオークがマンホールに手をかけたが、顔を上げると目の前に竜の開いた顎があった。瞬く間にオークの体は6つ首の竜に食い荒らされる。
「回復は大丈夫です? なら、御霊殲滅砲です」
「逃がすわけないじゃないっすか~どっかーんといくっすよ~♪ ポチッとな☆」
 マロンの縛霊手から放たれた光弾と陽霞のエスケープマインが、マンホールの上を中心に炸裂。残るオーク3体の体が宙に舞う。
「もう一体!」
「まっ待っつブヒっ!?」
 モモコの雷刃突に落下中のオーク一体は反応できず。モモコは刺した刀を引き抜き、それ以上追撃しなかった。サソリがマンホールを足で塞ぎ、螺旋掌をもう一体のオークに添え、内部から体組織を破壊。オーク2体が同時に倒れ伏す。
「さあ、最後の一体やな」
 サソリが螺旋掌を放つために地面へ突き刺していたゲシュタルトグレイブを引き抜く。落ちたオークは逃げ道を探りながらも戦意は失っていない。
「ドン・ピッグもひどい奴です。部下の助けにも来ないです」
 マロンは挑発するような言葉をオークへかけた。事件の元凶について情報が得られるかもしれない。
 オークは少しうなずきかけた。思うところがあったのかもしれない。煮え切らないオークへ、陽霞が直球で尋ねる。
「女性をこそこそ攫うなんてちっさい男っす! チキンさんと呼ばれたくないなら、秘密基地の場所教えるっす!」
「……知りたかったら……俺と繁殖するブヒイイイイ!!」
 それがオークの最後の言葉だった。キカが開いた魔導書から放たれたペトリフィケイションの光弾は、最後のオークの腹部を貫いた。
「……さよならなの」

 マロンは抉れた地面などをヒールしながら、マンホールの蓋を開けて中を眺めるサソリの隣へ来ていた。
「何かありましたです?」
「あいつらが地下をつこうてるのは間違いない。けど、アジトを見つけんのは無理やな」
「あてがなさすぎです。現場にも特におかしな物は落ちてなかったです」
 マロンの言葉に、サソリは残念と応えてマンホールを閉める。
「ま、今日のところは引き上げや」
 サソリが振り向くと、襲われかけた女性がエリーゼルに伴われて来ていた。他のケルベロス達が歩み寄っていく。
「ありがとうございました。皆さんが来なければ、私……」
 キカが腕の中のキキを撫でながら、女性を思いやるように声をかける。
「だいじょうぶ?」
「はい。おかげでケガもなく……」
「きぃ、なんでもお話きいてあげる」
「え」
 きょとんとする女性へ、マロンがキカの隣から補足する。
「彼氏さんのことです」
「え、ああ! そうなんですよ~! 彼全然話を聞いてくれなくて!」
 オークに襲われたことはどこへやら、女性は一回り小さいケルベロスへあれこれと話し始める。
「……つまり、彼氏さんは些細な事に嫉妬したのです?」
「ないてもいいよ。それでおちついたら、またその人とお話しよう。きっとお話、きいてくれるから」
「ふええ……ありがとう……!!」
 聞き役に徹していたマロンと、優しい言葉をかけるキカ。彼女がこれからどうなるかはわからないが、心は随分と癒されている。
 傍から見ていた久繁とルトゥナ、ローレンスも緊張を解き、顔がほころんでいる。
「助かったからいいよね、彼氏さんはどうしようもないけど」
 久繁は笑顔だが、興味はなさそうだった。命を救えた事こそが大事、それ以外はあまり気にしないのだろう。
「恋愛は色んな事があってこそよ。嬉しい事も、悲しい事も沢山あるから愛おしいのよ」
 ルトゥナから見れば、恋愛で子供のように泣く女性にも保護欲が掻き立てられるのかもしれない。穏やかな笑みには暖かみが増しているように見える。
「恋愛か……。確かに色々なことがある。世の中どう転ぶかわからぬからな。本当に……」
 恋愛という言葉にローレンスは目を細めた。世の中には、かつて恋慕を抱いた女の遺児を養子に迎える者もいるのだ。
 エリーゼルは戦場となった箇所を眺めいてた。表情は自身を攻めているよう。
「エリーゼルさん」
 モモコは刀の血を拭って納刀し、エリーゼルへ微笑みかける。
「モモコか、お疲れさま。1体撃破、さすがだな。私は……」
「エリーゼルさんこそ、避難誘導ありがとうございます。撃破数など、気にする必要はありません。無事戦闘を終えたのですから」
「そうっす!」
 陽霞がにかっと笑いながらモモコとエリーゼルの元へ。陽霞は底なしに明るい笑みを浮かべながら、腕を広げて称賛した。
「モモコさんとエリーゼルさんも、皆女性を助けるために頑張ってくれたっす! 奇襲も成功っこれは皆の勝利っす☆」
 エリーゼルはきょとんしていたが、陽霞につられて笑みをこぼす。
「そう、だな。私たちは……」
「仲間、ですから」
 モモコが言葉を続ける。モモコ自身少し恥ずかしかったようだが、言ってからは心の中で心地よく反響している。
「えっへへー☆ そうだ2人共飴ちゃん食べるっすかぁ~?」
 笑顔が戻ったエリーゼルを見て、陽霞の笑顔も輝きを増す。だが夜中ゆえ、甘いものを食べるかは迷う2人だった。
 サソリも仲間たちを見渡し、家に残している家族を思う。
 ケルベロス達はゆるやかに、戦いのない日常へと戻っていった。

作者:大府安 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。