愛し子と天上の青

作者:朝比奈万理

「……なんでそんな顔してるの?」
 産院から出てきた夫婦の間には、不穏な空気が流れていた。
 お腹の膨らんだ女性は、隣に並ぶ仏頂面の男性を横目でにらみつける。
 男性はさらに口をとがらせた。
「だって、愛美の腹の子供、男なんだろ? 俺は女の子がほしかったのに……。男の子なんて、育てるの難しそうだし乱暴だし、愛せる自信ないわー」
 かねてから夫が娘を希望していたことを知っていた。
 だけど、お腹の子は男の子。
 わたしは男の子でも女の子でもどっちでもいい。
 だって、わたしたちの子だもの。
 なのに……。 
 深くため息をつく夫の言葉に、愛美の足が止まった。
「女の子じゃないから、佑輔にとってこの子はいらない子になるの……? ふざけたこと言ってんじゃないわよ!!」
 愛美は思わず声を荒げた。
 男の子でも女の子でも、構わずに愛してほしいのに……。
「い、いらないなんて、そこまで言ってないだろ!」
「さっきの言いぐさは、そう言ってるも同然なのよ! ばかっ」
 思わず振り下ろした拳に感じるのは、夫の骨が砕けて折れる嫌な音と感触。
「……え」
 視界に入ってくるのは、自分の腕に巻き付いた蔦。そして足元に倒れたまま動かない夫の亡骸。
 何が起こったのかわからないまま、愛美はその場に佇んでしまい。
 腕の蔦は青い朝顔を咲かせると、いつの間にか消えてしまっていた。

「かすみがうら市から飛び散ったオーズの種の影響で、事件が発生しようとしています」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、下げた頭を上げるなり神妙な面持ちで語りだした。
 ケルベロス達の活躍でかすみがうら事変のオーズの種は、充分なグラビティ・チェインを得る事無く飛び去った。だけど、得られなかったグラビティ・チェインを補充するために潜伏した状態で活動を始めたらしい。
 そしてまた、悲劇が起ころうとしている。
「被害者は、守山・佑輔(もりやま・ゆうすけ)さん。そして加害者は、守山・愛美(もりやま・あいみ)さん。二人は夫婦で、愛美さんは妊娠6か月です」
 二人は愛情をもってお腹の子を慈しんでいた。
 だけど。
「この日、愛美さんはお腹の中の子の性別をお医者様に教えてもらって、それを佑輔さんにお話ししたんです」
 そしたら、佑輔は大きなため息をついて、心底がっかりした様子を見せたという。
「……女の子を希望していたのでしょう。だけど、それを見た愛美さんは深く傷ついてしまうんです」
 お腹の子は、男の子でも女の子でも、二人にとって大切な子ではなかったのかと。
 そして、事件は起きてしまう。
「皆さんは、このお二人に気が付かれないように近づいて、愛美さんに攻性植物が装備された直後に、佑輔さんへの攻撃を行わせないように声掛けを行うなどして事件を未然に防いでいただきたいんです」
 現れた攻性植物は、グラビティ・チェインを獲得しない限りはオーズの種の元に戻る事はできないらしい。なので、被害者が殺されるのを防げば本性を現して戦闘を挑んでくる。
「愛美さんによる攻撃の阻止に失敗した場合は、愛美さんを撃破する必要があります」
 そうしなければ佑輔は死に、グラビティ・チェインを得た攻性植物にも逃げられてしまうからだ。
「手加減攻撃であれば愛美さんを殺さずに攻撃を止める事ができるかもしれません」
 現場は埼玉県戸田市の産院の駐車場。閑静な住宅街に面している。
 産院内には数多くの一般人がいるが、異変に気が付いた産院スタッフが患者たちを施設の奥へ誘導してくれるので、特に対処はしなくてよさそうだ。
 駐車場には数台の車が止まっているのみ。戦闘に必要な広さは十分にある。
 倒すべき攻性植物は1体のみで、配下はいない。
「ですが、寄生されてしまった愛美さんと攻性植物一体化しています。なので、普通に攻性植物を倒すと愛美さんも一緒に亡くなってしまいます」
 だけど、愛美にヒールをかけながら戦うことで、戦闘終了時に彼女を救出できる可能性がある。
「もし愛美さんが亡くなってしまった場合、攻性植物は単独で皆さんに襲い掛かってきます」
 そう告げるセリカの表情はとても苦しそうだ。なぜなら――。
「愛美さんが亡くなるということは、お腹の赤ちゃんも助からないということです」
 セリカは一つ頷いて、ケルベロスたちと目線を合わせ。
「オーズの種が引き起こしている事件を放置できません。皆さんの力で、この家族を救ってあげてください」


参加者
西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)
黛・繭紗(アウル・e01004)
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)
レイ・ヤン(余音繞梁・e02759)
エフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092)
天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)
御巫・神夜(地球人の刀剣士・e16442)
ルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)

■リプレイ


 ピンクの建物からふてくされた表情の佑輔が出てきた。時折つくため息が重い。
 佑輔から遅れること一歩、愛美は鋭い目つきで夫のうなじ辺りを睨み付けていた。
 そのうちに夫婦は言い争いになり、言い争いもエスカレートしていき。
「い、いらないなんて、そこまで言ってないだろ!」
「さっきの言いぐさは、そう言ってるも同然なのよ! ばかっ」
 振り上げた腕。その細腕に朝顔の蔦が巻き付かんとする。
「だめだよ、子供が聞いてる」
 二人の前に進み出たレイ・ヤン(余音繞梁・e02759)の言葉に、愛美がはっと息を呑んだ。――。
 胎児は骨電動を通じて、母親の声を何よりも聞いている。
 振り上げた腕を振り下ろせずにいる愛美。彼女の攻撃を止めることができ、第一段階は成功だろう。
 天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)は佑輔を呆れ顔で睨み付け、
「子どもを授かれるってのがどんだけ奇跡的か、分からねぇとは幸せだな」
 ため息をついて愛美に向かう。
 エフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092)も、愛美の右側に立ち、
「やらせはせん……。勝手が過ぎる事には間違いないが、命まで取る必要は無かろう。この男との間の子だろうに」
「殴りたいだろうが、旦那を殺したくはないだろ?」
 陽斗も静かに告げると、
「旦那さんを喪えば、言葉を、心を喪うと思う。その時後悔するのは、貴方だよ」
「愛しているからこそ赦せない事、ありますよね。そのすれ違いを取り戻す為にも一時の殺意なんかに負けないで下さい」
 ルル・キルシュブリューテ(ブルーメヘクセ・e16642)と西条・霧華(幻想のリナリア・e00311)も、必死の訴える。
「今の貴女の力なら、言葉の足りない彼に制裁を与える事も容易だろう。だが言葉が足りないのは貴女も同じだ」
 ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)は真っすぐ愛美を見る。
「この場の全てを力で終わらせてしまう事が、貴女の願いでは無い筈でしょう?」
 愛美は小さく首を振りながら、戸惑った様子を見せ。
「な……あたしは、殺すとか終わらせるとか、そんなつもり……」
 言葉にして、ふと止まる。
 ――ないと言ったらうそになる。
 口をとがらせて心底がっかりして見せる佑輔をみて、死ねばいいのにって思わなかったと言ったら、うそになる。
「愛美さんも、やりすぎはメッだよ。気持ちは分かるけどさ。でも、きっと彼だって自分の子供だもん、絶対生まれて来たら甘やかすと見た」
 にこりと笑んで愛美の心を和らげようとするレイ。
「終わらせることなど、そんな事は私が許さない。貴人方二人の為では無い……生を受けた赤子の為に。貴女が今、本当に望む事は何でしょうか?」
 人に焦がれるジゼルだからこそ紡ぎだす言葉。
「ナーバスな時期とはいえ、短絡しては駄目よ。気を確かに持ちなさい。その子を護れるのは他でもない貴女だけなのだから」
 そして、夫と子供を亡くした御巫・神夜(地球人の刀剣士・e16442)の説得は、多くを語らずとも愛美の心を突いた。実感が、想いが、愛美から殺意を打ち消していく。
「あたし、だけ……」
 愛美は震える左手でそっと、ふくらみが目立ち始めたお腹をなでた。
「……ごめんね……。ママ、キミがパパにいらない子って言われた気がして……」
 応えるような元気な胎動に、さらに涙をこぼす愛美。
 だけど、愛美から植物がほどけることはない。
「な、なんだぁ?」
 神夜は呆気に取られている佑輔に向き直った。
「鈍感なの? 他でもないアンタの子だから彼女も入れ込むんでしょうが。悟りなさい」
 静かにぴしゃりと叱りつつ、愛美との間に割って入る。
 そして陽斗は愛美のいまだに下がらない右腕をすっと指差す。
「……俺達はケルベロス、あんたに寄生する害を取り除きに来た」
 えっと小さく声を上げた愛美が見たものは、自分の右腕に巻き付いた緑色。
「な、なにこれ……」
 すると――。
 腕の蔦が本性を現し、愛美の体全体を覆っていく。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「愛美!!」
 手を伸ばす佑輔と植物に呑まれる愛美の間に入り込んだ霧華は、とっさに武装すると佑輔をぐっと背後に匿った。
「守山さん、貴方がどう言うつもりであぁ言ったのかは判りませんけれど、言動の良し悪しは判断すべきです」
「え、俺はっ」
「言い様によって本心が伝わらない事って多いんですよ」
 霧華の表情は佑輔からは見えない。霧華は眼鏡をはずすと傷にならないように服のポケットにしまう。
「リベレイション!」
 レイも叫ぶと、竜の翼が大きく伸び。
 黛・繭紗(アウル・e01004)も武装を整えて二人の間に入る。
 伝えたいことはたくさんある。
 授かる命は選べないこと。宿る場所も選べないこと。だから親子のめぐりあわせは尊いこと。
 望んだものではなかった、それは満たされないこと。それは人として自然な思いだということ。
 繭紗は佑輔と向かう。
「何億という縁のなかで、あなたを父として縋った手を、どうか握ってあげて。そして、そのいのちを宿す愛美さんを慈しんで……こえを、届けてあげて」
「男の子だって一緒に走り回ったり、お母さんには離せない内緒話をしたり。できることは沢山あるよ。だから、そんな悲しいこと言わないで」
 ルルも懇願するように訴えると、
「ったく。女の子が可愛いのは私も同意だけど、自分の子供なんだ。男だって可愛いよ。野球とかできるんだよ? それに別に子供は一人なんて制限はないよ」
 レイも説得する。
 佑輔はただ黙ってケルベロスの声を聴いている。緑に覆いつくされていく妻を目の当たりにしたまま。
「好いた相手との子どもだろうが、お前以外の誰が慈しむんだよアホか!」
 武装を整えた陽斗の喝が佑輔に飛ぶと、繭紗はさらに言葉を重ねる。
「愛美さんが戻るにはきっと、あなたのことばが必要だから」
「この場を道徳的な言葉で取り繕っても無意味だ」
 愛美から離れたジゼルも佑輔の前に進み出る。
「どちらにせよ、私達はこの事態を収束する。――どう収束すべきかは、君が決めて言葉に示せ」
「……こ、言葉で……」
 ジゼルの言葉に佑輔は愛美を見ると、彼女のほほを伝う涙をゆっくり花開く青い朝顔がぬぐい、伸び続ける蔦は、やがて腹部を覆っていく。
 佑輔は緑に呑まれていく妻。そしてお腹の子にも危機が迫っている。
「……あ、愛美を、……俺の息子を助けてくれ! ケルベロス!」


 攻性植物はその蔦を伸ばしながら花を大きく巨大化させると、破壊光線を放出する。その光線は陽斗の体を炎で包む。
「くっ……」
 陽斗は炎を手で払う。
 そして満月に似た力を自分にぶつけ、自分の傷を癒すと同時に、この戦いを優位に持っていけるように力をためると、
「祐輔、だったか? 番の無事を祈りながら身重な妻に掛ける正しい言葉を探しとけ」
 と、背中越しに佑輔に言葉を投げた。
「いくよ、イコちゃん」
 ルルは足元に現れるテレビウムのイコちゃんに声をかける。そして古代語を口にすれば、現れる魔法の光線はその緑を灰色に染め。
 イコちゃんも桜の花を模したロッドでその体を殴りつけた。
 繭紗は大事な黒いキャスケットをしっかりと被りなおすと、愛美の元に跳んだ。
 そして緑に覆われた彼女の胸に突き立てるのは、惨殺ナイフ『緒の鍵』。
「こころの匣は、内緒なの」
 かちゃりと音を立てるのは、心の鍵。快楽エネルギーの麻酔作用も相まって、愛美の傷を癒していく。
「笹木さんは陽斗さんの回復を」
 現れたテレビウムの笹木さんはこくんと頷き応援動画を流せば、陽斗の傷が癒えていく。
「生まれ出でる生命すべては祝福されるべきだろう」
 手に力を籠めれば、エフイーの手に握られるのは光の剣。
 銀の長髪を靡かせて斬り込めば、葉と花がちぎれて宙を舞う。
「誰一人として、死なせはしない」
 仲間も、佑輔も、愛美も、お腹の子も。
 ジゼルが構えたライトニングロッドを大きく振り上げると、攻撃手と守り手の目前に雷の盾を構築させる。 
「二人には幸せな未来が待ってるんだから、絶対止めるよ。ね、太郎!」
 足元に現れたボクスドラゴンの太郎はレイの言葉にこくんと頷くと、自分の属性を愛美にインストール。
「たとえどんなに私そっくりの模造品がいても、誰も本物の歌には叶わない。死神さえも私の歌に伏すのだ。癒しの歌を聴け、さすれば」
 レイの力強く美しい歌声は、愛美を包み込んだ。
 愛する存在がいる事の尊さ。そして幸福さ。
 それを胸に神夜は叫ぶ。
「こんな事で夫婦の運命を狂わせるなど絶対に認められない――走れ、雷神!」
 天に掲げた刀に宿るは、自身の魔力が生み出した雷。バチバチと光を帯びる刀で攻性植物を斬るは、稲妻の如き斬撃。
 霧華は斬霊刀を構えてただ真っ直ぐ攻性植物を見据える。
 青い朝顔の花言葉は『はかない恋』、そして『固い結束』
(「お二人には是非後者であって欲しいですね」)
 その結束を守るため、天上の青よりも優しい色の蒼穹の霊力をいただいて斬りつければ、攻性植物の葉と花はさらに大きく千切れていく。
「うっ……」
「あ、愛美!!」
 苦しそうな妻のうめき声に、ケルベロスの後ろに守られた佑輔が思わずその名を呼ぶ。
 植物に覆われ、解放されるためとはいえケルベロスの攻撃を受け、苦しむ妻を目の当たりにして何度も目をそらしかけた。
 だけど――。
「頑張れ愛美! 頑張ってくれ、ケルベロス!」
 夫の願いに応えるように、ケルベロスたちは攻性植物を睨み、愛美を見据えた。


 攻性植物にダメージを与えながら愛美を癒す戦いは、決して短い時間で片が付くものではなかった。
 だけどケルベロスたちはあきらめない。
 その草花を散らし、身重の体を癒し。自分たちの傷もしっかり癒し、攻撃を重ねる。
 そのうちに、攻性植物が緑で愛美の体を侵略する速さも、天上の青の花を咲かせる頻度も徐々に減っていく。
「確実に削れている、もう少しか」
 エフイーが目を細めつぶやくと、ぼろぼろの攻性植物は先端の蔦をハエトリグサのような捕食形態に変形させた。
「来るっ」
 思わず叫んだエフイー。大きな捕食葉は一気に霧華に食らいつく。
「っ!」
 何とか振り払って葉を壊した霧華。膝をつき眉間にしわを寄せる。
「回復を」
「霧華ちゃん、大丈夫?」
 ジゼルが高めたオーラを飛ばすと、ルルも同じようにオーラで癒し、イコちゃんも桜のロッドを振りながら応援動画を流す。
「ありがとうございます、クラウンさん、キルシュブリューテさん」
 礼を言う霧華は真っ直ぐ攻性植物を見据える。直近の攻撃もふり絞って繰り出したようで、その蔦は垂れ下がり、もう愛美を包む気力すら残っていないように見えた。
 ならばと斬霊刀を左手に構えて跳ぶと、その緑を手加減して斬り刻む。
「っ……!」
 苦痛に漏れる声。だけど神夜はしっかりを見据える。
 愛する存在があることがどれだけ幸せなことか。
 心無い言葉一つ、些細なすれ違いで大切なものは容易く喪われる。
 なくしてから後悔しても遅い。
 だから。
「必ず解放してみせる。だから、こんな事で幸せを諦めたりしないと、強く信じていなさい!」
 愛美に声を掛け続けた神夜も、斬霊刀でその葉を薙いだ。
 ファミリアロッドを構えるのはレイ。
 この戦いは短期決戦とはいかなかったけど、やっと終わりが見えてきた。
 封印箱に入った太郎と同時にドンと殴り掛かれば、葉が舞い踊る。
「もう少し、頑張ってください」
 繭紗はしっかり握った『緒の鍵』でいまだ愛美にしぶとくまとわりつく蔦を斬り刻んでいくと、笹木さんも銀のアタッシュケースで蔦の根を潰し。
 エフイーはゲシュタルトグレイブを大きく回した。そして矛先を攻性植物に向けて、払いのけるように植物を薙げば。
「もう少しだけ耐えてくれ、腹の子の為にもな」
 陽斗が構えた『奏牙』を大きくふりかざせば攻性植物はびくびくと小刻みに震え。
「愛美さんっ」
 ルルが現れた愛美の手を取れば、巻き付いていた植物はボロボロと朽ち落ちて粉々になっていった。
 

 ルルが引き寄せたその体を、霧華が受け止めた。
「あ、愛美!!」
 佑輔は転がるように妻に駆け寄り、だらりと垂れる手を取る。
「ヒールを!」
 誰からともなく愛美に回復グラビティを施すと、しばらくして愛美が目を開けた。
「愛美!」
 そんな妻を抱きしめる佑輔。
「ゆ、佑輔?」
「ごめんな。俺、お前の気持ち、これっぽっちも考えてやってなかった……。お前も、俺らの子になりたいって来てくれた腹の子も傷つけて、悪かった……。ごめんな……」
 突然の夫の告白に呆然としていた愛美だったが、やがてその背に片腕を回し。
「佑輔、もういいよ。わかってくれたならいいよ」
 和解する二人を見てレイは、ふっと息をついて笑む。
「もう、男っていうのはデリカシーってもんがないやつが多すぎるんだよ。自分の子供なんて男でも女でも可愛いにきまってるじゃん。結局デレデレするのは変わらないんだからさ」
 二人の暖かな様子に陽斗は、自分の恋人を想う。
「俺が女だったら、家族の形を知らないあいつに子どもを抱かせてやりたかったが……ま、独り占め出来るのも悪くはない」 
 うんとうなづいて二人の隣にしゃがみこむと、二人の方にぽんと手を置いた。
「精々仲良くな、ご両人よ」
 にっかり笑む。
「後はあなた達次第よ」
 神夜も二人の未来を案じ声をかけると、夫婦はお互いに顔を見合わせて微笑みあう。
 そんな二人を見、エフイーはほっと息をついた。
(「もう心配はなさそうだな」)
「あ、良かったらお茶でもどう? このあたりで美味しいお菓子の店知ってるんだ」
 レイの誘いに応えるように鳴ったのは、愛美の腹だ。
「なんかいろいろあって、お腹がすいちゃったかも」
 そう言ってふっくらしているお腹を押さえながら立ち上がろうとする彼女の体を、ジゼルがそっと支えれば、佑輔が手を引き立ち上がらせる。
 そんな夫婦の仲睦まじさに、繭紗は目を細める。
 何人と知れぬ父と、顔も朧げな母。
 産まれ出でた家は幸福な家庭ではなかったから。
「……これよりの命には、どうかしあわせを……」
 祈りは梅雨の晴れ間の夏空、天井の青に解けていった。

作者:朝比奈万理 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。