狙われたウェディングドレス

作者:波多蜜花

「もっとだ、もっともっと性能を上げてやらねばなァ?」
 マッドドラグナー・ラグ博士がまさに今、実験によって生み出したばかりの飛空オークを前にしてそう呟く。性能を上げるためには新たな因子の取り込みが必要不可欠。となれば、飛空オークに下す命令はひとつだ。
「さぁ、もっと性能を上げるべく人間の女達を襲ってくるがいい! お前達が産ませた子孫を実験体にすることで、飛空オークは更なる進化を遂げるだろう!」
「女ダ! 襲って攫エ!」
 オォォォォ! という歓声を上げながら、飛空オーク達はその背中に蠢く触手を動かした。


「やーん、このドレスやっぱ素敵! 試着モデルに当たってよかった~~」
「あたしのも可愛くない? ミニドレスってどうかなって思ってたけどイケてるよね~」
 そんな楽しそうな声が聞こえてくるのは、とある結婚式場のガーデンテラスである。女性スタッフしかいないことで、女性目線のウェディングを行えると人気の式場だ。
 今日はガーデンウェディングのパンフレットの為の撮影会で、一般公募によって選ばれたモデルが様々なウェディングドレスを纏って撮影に挑んでいた。
「花婿がいないのは残念な気もするけど、女の子同士でのウェディングドレス撮影っていうのも楽しいわよね」
 背中の開いたセクシーなドレスに身を包んだ女性がカメラに向かって微笑んだその時だった。
「ブヒャヒャヒャヒャ! 俺達が花婿になってやろうじゃねぇカ!」
 飛空オーク共がそんなことを叫びながらウェディングドレス姿の女性達目掛けて滑空してきたではないか。
「キャアアアアアアアアアアアアアア!」
「イヤァ! 誰か、助けてえ!」
 突然の飛空オークの出現に、逃げ惑う女性達をその触手によって捕まえると、ドレスの中へ汚らわしい触手を潜り込ませた。


「ウェディングドレスは女性の憧れ、そんな素敵なドレスを纏った女性達を襲う飛空オークが現れるみたいなのです!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)が許せません、とばかりに拳を握ってケルベロス達に状況の説明を始めた。
 今回事件を起こすのは、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した、飛空オークという、飛行型のオークだ。飛行といっても、高い場所から滑空して目的の場所に移動するだけの能力だという。だが、それも女性を襲う為に使うのであればかなりの脅威となる。
「飛空オークの数は5体で、結婚式場のガーデンテラス……広い庭の部分に現れます!」
 飛空オークは滑空しながら襲撃場所を探す為、事前に避難活動をしてしまうと予知と違う場所に降下してしまう、とねむは続ける。
「ですので、女性達の避難は飛空オークが降下する直前から行うようにしてください! モデルとして潜入するのがいいとねむは思います! それから、飛空オーク達は女性達がくっついてたりするのを好むらしいですっ!」
 手を繋いだり、簡単なスキンシップをしているのがいいらしい。そしてもうひとつ注意する点としては男性のケルベロスが近くにいる場合、女性達の行動がオークの好みから外れる危険性があるという。
「男性のケルベロスでも、完璧な女装をしていれば大丈夫みたいですっ!」
 女装をしない場合は、テラスに隠れて様子を伺うのがいいと思います、とねむが付け加える。
「オークの被害に合う女性達を、どうか助けてあげてほしいのですっ!」
 ねむはそう言うと、ケルベロス達にぺこりと頭を下げた。


参加者
リノ・ツァイディン(旅の魔法蹴士・e00833)
リーズグリース・モラトリアス(怠惰なヒッキーエロドクター・e00926)
マリカ・アロナックス(ラブサバイバー・e02711)
チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)
柊真・ヨリハ(ぐるぐるにーと・e13699)
ジーグルーン・グナイゼナウ(遍歴の騎士・e16743)
マルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)

■リプレイ

●潜入、ブライダルモデル
 眩しい日差しの下、緑の芝生が生い茂るガーデンテラスに白いウェディングドレスを纏った女性達の華やかな声が響いていた。
「どうかな? ボクのドレス!」
 マリカ・アロナックス(ラブサバイバー・e02711)がナノナノのアイくんと一緒にくるりと回ってドレスの裾を翻す。それは純白で一見清楚に見える衣装だが、よく見るとサキュバスの彼女らしいもので、白いランジェリーがはっきりと見えている、レースがふんだんに使われたドレスだ。
「とっても綺麗で、ちょっとセクシーだと思うんだよー」
 フリルとリボンが沢山あしらわれた可愛いプリンセスラインのドレスを着たチェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)が、同じような衣装を着せたボクスドラゴンのシシィと共に、にこにこと笑えばヴェールで角を隠したマルレーネ・ユングフラオ(純真無表情・e26685)がハートカットネックのドレスを着こなして、こくこく頷く。
「それにしても……ウェディングドレス姿の女性を襲うとか、ピンポイント過ぎだと思う、な」
 ビスチェタイプのミニ丈のドレスを着たリーズグリース・モラトリアス(怠惰なヒッキーエロドクター・e00926)が花婿にでもなろうとしているのかとオークに対し呆れ気味に溜息を吐く。
「全くだ、礼服も着ないで……礼儀のない奴らだ」
 オークにそんな甲斐性があるわけもないのだが、大きく背中の開いたスレンダーラインのすらっとしたドレスを身に付けたジーグルーン・グナイゼナウ(遍歴の騎士・e16743)がそう頷いた。テラスの近くに控えているジーグルーンのライドキャリバーが、まるで主人に同意するかのようにエンジンを軽く回すのが聞こえる。
「オークもついに飛べるようになっちゃったのねぃ……そのうち、飛べない豚はなんとかかんとかって言うようになっちゃうのかのぅ!」
 飛べるといっても高所からの滑降のみではあるが、それが現在の脅威になっているのだから侮り難いと頷くのは、パコダスリーブと呼ばれる袖口にフリルが付き、袖先に向かって広がる形になっているドレスを纏った柊真・ヨリハ(ぐるぐるにーと・e13699)だ。
 今回、囮としてこの6名が一般人のモデルに混じって撮影を受けていた。男の子であるリノ・ツァイディン(旅の魔法蹴士・e00833)と彼のボクスドラドンのオロシ、そして女の子ではあるが素顔すら隠すほどのローブに身を包むペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)は既に他の場所の人払いを済ませ、テラスへと身を顰めていた。
「皆綺麗で、ちょっと楽しそうだね」
 リノがいつ現れるかわからないオークを警戒しつつ、庭にいる6人を眺めて微笑むと、ペルが静かに首を傾げ、
「白すぎて目が焼けそうだ」
 と、呟いた。
 囮としてオークの好きそうな行動をと、リーズグリースが隣にいたチェザに体を寄せれば、チェザがにっこりと笑ってリーズグリースに抱き付いた。それを見て、マリカもマルレーネに抱き付いたり、ヨリハがジーグルーンと手を繋いだりと女の子同士の可愛らしいスキンシップを取り合い始める。
 それは本当に楽しそうで、一般人のモデル達も同じように笑いあっている。暫くの間、写真を撮るスタッフ達がシャッターを切る音と楽しげな声が庭に響いていた。
 すると、まるでウェディング関係の雑誌に載っている広告のような風景を切り裂くかのように、オーク共の声が頭上から聞こえてきたではないか。
「オオォォォ! 女だ女だアァ!」
「ブヒャヒャヒャ! 俺達が花婿になってやろうじゃねぇカ!」
 頭上を見上げれば飛空オークがその背の触手を蠢かせながら滑空し、一直線にこちらへと向かってきているのが見えた。
 すぐさま、マルレーネとヨリハが恐慌の声を上げる一般人モデルと撮影スタッフの女性達を誘導し、ライドキャリバーが近くまで来た女性達を守るようにテラスの方へと走る。残った4人は恐怖で動けない振りをしながらぴったりと寄り添い、地上に降り立ったオークとテラスの間に立っている。万が一、オークが逃げた女達を追いかけようとしても妨害できるようにという配慮だ。
「フヘヘヘ……怖くて動けねぇみたいダゼ」
「そりゃ丁度イイ、ナァ?」
 下卑た笑い声を上げ、オーク達がリーズグリースとチェザ、ジーグルーンにマリカを品定めするかのような目を向けた。

●不躾な略奪者
 ヨリハとマルレーネが女性達を先導するようにテラスへ向かうと、リノとペルが彼女達を迎え入れた。
「我々はケルベロスだ。純白のドレスをデウスエクスの豚共に汚されたくなくば、ここを通って出ていくといい」
 ペルのケルベロスという言葉に半分以上パニック状態だった女性達は少しの落ち着きをみせた。そして、庭の方にまだ残っている子達がいるのと泣きながら訴える。
「大丈夫、彼女達は僕達の仲間だよ。だからお姉さん達は安心して逃げてね」
 リノがそう言うと驚いたように庭の方を振り返ろうとする彼女達を、ヨリハとマルレーネが押し止める。
「後ろを振り向いている暇はない、逃げろ」
「そうだよぅ、怖いのは私達に任せて安全な場所まで逃げてねぃ」
 その言葉に弾かれたように、女性達はこれから戦いに赴く4人にありがとう、という言葉を置いてテラスから建物の外へと向かう。
「念の為、っとねぃ」
 ヨリハが殺界形成を使用し、一般人を遠ざける人払いを行うと4人とオロシ、ライドキャリバーはオークとそれを足止めするべく残った仲間の元へと走り出すのだった。
「ギャハハハ! 女、どの女がいいかナア?」
 欲に濡れた目をオーク達が残った4人へと走らせる。ジーグルーンがチェザを庇うように背中へ隠し、リーズグリースとマリカが寄り添ったままオークの前へと出た。
「うまそうな女だナア、グヘヘヘ」
 1匹のオークがその触手を不躾なまでにマリカへと伸び、まるで味見でもするように乱暴に太腿へ触手を纏わり付かせていく。
「……っ」
 ぬるりとした感触にマリカが顔を顰め、その唇を開いた。
「お嫁さんが欲しいなら、こんな風に女の子に乱暴しちゃダメだよ。それにボクは地球を愛する人となら、どんな種族とも子作りするけど……キミたちに、愛のために定命化する覚悟は無いよね?」
「ゲハハハ! 何言ってやがル! 気持ちヨクしてやるから黙ってナァ!」
 下卑た笑いを上げて、マリカの太腿へ触手を蠢かせ続けるオークへリーズグリースが目細め、
「こんなオークを野放しにしてはおけない、な。オークは皆駆逐する、ね」
 と、言い放った。
「全くだ、いつまでその汚らしい触手を乙女の足に触れさせておくつもりだ」
「ほんとだよー、そんな悪い触手さんはめっしちゃうのなぁん!」
 ジーグルーンとチェザも頷いて、戦闘態勢を取る。
「なんだ貴様ら、今から犯されるってのに生意気だナア!?」
「まだ気が付かないのかな? ボクらはケルベロスだよ!」
 マリカのその声に、リーズグリースが動いた。ファミリアシュートをオークへ放ち、マリカをその触手から開放する。続いてチェザが杖から雷を走らせればシシィがボクスブレスを、ジーグルーンがゲイボルグ投擲法を後方にいたオークへと放った。マリカが目の前のオークへ止めを刺すように、氷結の螺旋を染み込ませた蒼き手甲鈎の爪をジグザグに変形させその醜い肉を切り刻むと、アイくんがめろめろハートを飛ばす。
「一丁上がりってね♪」
 芝生へと崩れ落ちたオークを見て、残ったオーク達が触手をうねらせながら攻撃を開始した。

●穢れなき純白
「はぅぅ、そ、そこはぁぁ、あぅぅぅ」
 オークの触手から放たれた溶解液を浴び、ドレスの一部を溶かされたリーズグリースの艶めいた悲鳴が上がる。それに気を良くした別のオークがニヤニヤと触手を伸ばし、その白い身体を締め上げる。強い締め付けと時折触手が蠢き擦れるその感触に、リーズグリースが頬を紅潮させて身をくねらせた。
 そこへテラスから駆けつけたヨリハが、
「お待たせだぞぃ! みょんみょ~ん!」
 と改造スマートフォンを袖から取り出し怪しい電波を発すると、リーズグリースを締め上げていたオークの触手が緩み彼女を解放する。
「がんばれ♪ がんばれ♪」
 チェザがふわもこの可愛い羊を召喚し、全力でリーズグリースを応援した。すごいもっふもふだったと、後に彼女は語る。
「純白のドレスを汚すとは……許さん」
 折角のウェディングドレスだ、できるだけ汚さずに済ませたい……自分もだが、できれば全員と思っていたジーグルーンはヨリハの電波攻撃でぼんやりとしているオークに破鎧衝を叩き込む。そしてそこへリノがスターゲイザーを放つ為、すっと構えた。
「夢を壊す悪い輩は蹴り落とすんだよッ」
 そのとび蹴りは見事にオークの脳天を直撃し、地面へと沈めた。
「愛を誓い合う場所に豚は似合わない、消えろ」
 動きやすいようにとドレスのスカート部分をばっさりと切り落とし、ミニドレスへとしたマルレーネが魔力を秘めた瞳でオーク共を凝視する。それに続くようにマリカが、
「……一回、襲われる側の気分を味わってみるといいよ」
 と、同じように凝視……催眠魔眼を重ねる。
「女同士ばかりでなくお前ら同士で結婚するがいい」
 ペルが静かにそう言うと、ダメ押しとばかりにローブに隠された大きな瞳を覗かせる。催眠魔眼の三段攻撃だ。
 すると、見る間にオーク共がお互いに向けて触手を伸ばしていくではないか。
「グヘヘ、イイ女だ! 襲ってヤル!」
「ブヒャヒャヒャ! こんな所にも女がいたとはナ!」
「女! 女ダァ!」
 オーク共がその触手を絡み合わせている姿は、控え目に言っても――気持ち悪かった。
「シシィは見ちゃだめ、ですよ」
 チェザがそっとシシィを抱っこしてその目を隠し、自分も目線を軽く逸らしている。
 そこへリーズグリースがさっきのお返しとばかりに、更に催眠魔眼を触手を絡ませているオークへ放った。
「オークは、美少女」
「美少女ダアア!!」
 阿鼻叫喚とは、まさにこのことではないだろうか。ヨリハがそれを見つつ、フリル袖をでろでろになっているオークへと向ける。
「はああああ! 受け取るんだぞい!」
 自身の想像力を竜巻に変え、1体のオークをぶちのめした。
「そろそろ視界から消えてもらおうか」
 ジーグルーンがオーク共に狙いを定め、無数のレーザーを放つと、ライドキャリバーが主の意思を汲むようにガトリング掃射を行う。
「そんなに抱き合いたいなら地面と抱き合えば良いんだよッ」
 リノが醜悪なオークに顔を顰めながら音速を超える程の拳を叩き込むと、オロシがオークに触れるのを拒むように封印箱に入り箱ごと体当たりを喰らわせ、オークを這い蹲らせた。
 これで残りは一体と、マルレーネがピンクの霧を操る。
「霧に焼かれて踊れ」
 それは通常サキュバスの放つ回復のそれとは異なり、敵へとダメージを与えるものだ。
「ねぇ、キミの中に出させてよ。ボクの愛でシビレて♪」
 マリカが妖艶な笑みを浮かべサキュちっくんをお見舞いすると、アイくんも同じようにとがった尻尾をオークへ刺した。
「金的というやつだ、食らえ」
 ペルが満身創痍なオークの股座へ電光石火の蹴りを叩き込むと、哀れオークは股間を抑え悶絶しながら倒れたのである。

●いつか、きっと
 戦いによって被害を被った箇所へとヒールを済ませると、避難していたスタッフ達が戻ってくる。モデルの女性達は落ち着いたものの、撮影を続けられる状況でもなく帰らせたという。
「もしよければ、皆様で続けてモデルとして写真を撮らせて頂けないでしょうか?」
 式場のガーデンテラスが空いているのは今日しかなく、撮影をずらすことも難しいとスタッフが言う。
「それなら、喜んで協力するなぁん!」
 チェザがシシィを抱き締めながら微笑むと、ドレスを着ているケルベロス達も笑顔で頷いた。
「じゃあ、僕はテラスで待ってるよ。おやつにって持ってきたマーラカオがあるから、後で皆で食べよう」
 リノがオロシと歩き出そうとすると、マリカがリノも花婿として一緒に写ろうと提案する。スタッフの女性達も、少年用のスーツもありますよと口を添えてくれたので、それならとリノも撮影に参加することとなった。
「ペルさんはどうするのかのぅ?」
 ヨリハがペルへ声を掛けると、ペルは静かに首を横に振る。
「そうか、少し残念だが無理強いもできないしな」
 ジーグルーンがライドキャリバーをテラスの傍に待機させながら頷くと、スタッフの1人がそれならテラスでお茶をお出ししますよと、ペルを庭の様子が良く見える席へと案内してくれた。
 テラスのテーブルで庭を眺めながら、ペルがやっぱり我には白すぎると目を伏せて、出されたお茶を静かに飲み干した。
 綺麗に修復された芝生の上で、ドレスにもヒールを行い撮影できる状態へ直した頃、リノがマリカの選んだスーツを着て現れる。
「どうかな……?」
 白のフロックコートに薄い紫のネクタイを締めたリノが少し照れた様子ではにかむと、マルレーネがよく似合ってるとこくこく頷いた。オロシもそのもこもこの尻尾にリノのネクタイとお揃いの色をしたリボンを結んでもらってご機嫌だ。
 リノを中心に、それぞれが邪魔にならないようにカメラへ向かってポーズを決める。それはこの先、いつか……本当に好きな相手との間に訪れるものだけれど、今は戦いを終えた彼女達のものだった。

作者:波多蜜花 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年7月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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