プールで暴れろ!

作者:緒方蛍

「ぬぅ……量産型とはいえ、今の実験じゃァこれ以上の性能は出せないなァ……。これ以上の性能を得るには、新たな因子の取り込みが不可欠……」
 ならばどうするか。ラグ博士はその答えをもう知っている。
「おいおまえたち、ちょっと人間の女を襲って、子を生ませろ」
 飛行オークたちの新たな子孫。それは何を意味するのか。
「おまえたちが生ませた子孫を実験体にすることで、飛行オークはさらなる進化を遂げるだろう……!」
 博士の周囲のオークたちが歓声をあげる。進化のために喜ぶのではない。女たちを蹂躙できる喜びからだった。
 
「プール、久しぶりだとけっこう楽しいねー」
「貸し切りみたいでいいよね」
「ちょっとぉ、その水着大胆すぎない?」
「女子専用だからいいかなって思って」
「男がいる時に着るものじゃないの?」
「……まだちょっと恥ずかしい……」
 そこは女性専用のプールだった。男性客がいないためか、女性客はのびのびと泳いだりプールサイドでくつろいでいたりする。また温水であるため、夏にはまだ少し早いこの時期でも気持ちよく入れる。
 屋内用だが窓は天井から床まで大きなガラスでできている。窓の外はある程度の高さまで塀で囲まれていて、外から覗くことは一見難しいが、空はよく見えた。
 よく晴れていたその日、日光は高いところから射していて心地良い。
 ――そんな穏やかさは突如として打ち砕かれた。
「あっ……やだぁ」
 ウォータースライダーの勢いで、ビキニ型の水着から大きな胸がぽろり。直した時には大きな音を立ててガラスが割れた。
「きゃっ!?」
「あっ……なにあれ?!」
 オークだ。
 醜い豚たちはセクシーな水着を着ている女性たちを見るや、その醜い触手を伸ばし、その場にいた女性たちを次々と蹂躙していくのだった。
 
 黒瀬・ダンテが集まってきたケルベロスたちに依頼を切り出す。
「龍十字島のドラゴン勢力に、新たな動きっす」
 ケルベロスたちを見回す。
「今回事件を起こすのは、オークの品種改良を行っているドラグナー、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した、飛空オークっていう、飛行型のオークっす。飛行っていっても高い場所から滑空して目的の場所に移動するだけで、自由に飛び回ることはできないみたいっすね」
 だが、高所から滑空しながら女性たちを物色し、襲撃目標の女性たちがいる場所に直接降下するという攻撃方法は効率的で、女性たちの脅威になる。
「なんで、皆さんには飛行オークから襲撃される女性たちを守り、撃破してもらいたいっす」
 続いて敵の情報へと話が移る。
「オークの数は6体。滑空はできるっすが、戦闘能力自体は通常のオークと変わらないっす。ただ、滑空しながら襲撃場所を探すんで、事前に女性たちを避難させてしまうと、予知と違う場所に降下して、事件の阻止ができなくなるっす」
 だから女性たちの避難などは、オークが降下してくる直前から行うようにして欲しい。また避難を行わない場合でも、オークが好きそうな行動を女性たちが行わなかった場合なども襲撃場所が変更になる場合もあるという。
「今回の場所は女性専用なんでまずないと思うっすが、イケメンのケルベロスがいるだけでも女性たちはそっちを気にして大胆な行動を取らなくなるんで、オークの好みから外れる可能性があるっす」
 そういう可能性がある場合は、この作戦に参加した女性のケルベロスがオークの喜びそうな行動を行い、フォローする必要がある。
「罪のない女性たちを、ぜひ皆さんの力で救って欲しいっす!」
 力強くダンテは言い、ケルベロスたちを信頼の目で見た。


参加者
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)
クイン・アクター(喜劇の終わりを告げる者・e02291)
リディア・リズリーン(希望を謡う明星・e11588)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
漣・颯(義姉を慕うヴァルキュリア・e24596)
フィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)

■リプレイ

●平穏に降りる影
 きゃあきゃあと黄色い声が方々から上がる、ここは女性専用屋内プール。
 ここで無体なことが行われるとヘリオライダーから予知を受けた8人のケルベロスたちが、楽しそうな女性たちに混じって警戒をしていた。
「やっほぉー! プールだぁぁぁぁっ!」
 様々なプールで元気いっぱい、細身の体に黒ビキニを着て歓声を上げたのはリディア・リズリーン(希望を謡う明星・e11588)。隣で、同じく豊満な体が大胆なビキニで隠しきれていない、むしろアピールしまくりなのはアーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)。少し恥ずかしげにしているのは水着とのギャップがあってかわいらしい。
「ぅぅ……少し、大胆過ぎたでしょうか……」
「大丈夫でぃす♪ それくらいのほうがきっと釣れますよっ」
 それならいいんですが、と俯くアーニャを引っ張り、大きなプールへと足を向ける。
「プールサイドでは走らないでください」
 ふたりにメガホンで警告を出したのはトエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)。監視員の格好で溶け込んでいるから、一般客には彼女が服の下に武器を隠し持っていることもわからないだろう。
 プールサイドに置かれた寝そべることができるチェアに寝転がっているのは、フィアルリィン・ウィーデーウダート(死盟の戦闘医術士・e25594)と、その隣の植木の影には女物の着物を着ている椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗龍・e00768)。隠密気流を使っているから、彼に気を取られる者はいなかった。
「ここのプールって色々あって面白そうですね」
 こちらも水着を纏ったフィアルリィンは、こんな世界もあるんだなと興味深そうにあちこちを見回している。対して笙月は落ち着いた眼差しで窓の外を見ていた。
「椏古鵺さんは、暑くありませんか?」
 着物の上に黒のフード付きロングコートという格好は、初夏の日差しの中ではいかにも暑そうに見える。だが笙月は涼しい顔で微笑んだ。
「大丈夫ざんしよ。オークが現れるまでざんし」
 ふふ、と笑む彼は美少女に見えるがれっきとした男だ。
 一方、トエルの傍でデッキブラシを手にプールサイドを磨いている清掃員もケルベロス、漣・颯(義姉を慕うヴァルキュリア・e24596)だ。大きな掃除道具入れには武器を忍ばせているが、幸い気に留める者はいない。
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)とクイン・アクター(喜劇の終わりを告げる者・e02291)のふたりも、笙月同様ケルベロスだから特別にこのプールへ潜入していたが、ふたりとも隠密気流でこっそりと、視線は上空――オークがやってくると思われる方向を警戒していた。
 そうして沙雪はひっそりと、いつも戦闘前に行っているルーティン、神霊剣・天の刀身を刀院で結んだ指でなぞる。
「陰陽道四乃森流、四乃森・沙雪、参ります」
 少し離れた場所でクインがつまらなさそうにしているのは、この場にはいない恋人へと思いを馳せていたからだ。
(「どうせプールに来るなら、キミと来たかったな~……」)
 そして、その時はやってきた。
 ウォータースライダーで遊んでいた女性客がプールへと滑り落ちると、小さく声を上げる。
「やだあ、紐が取れちゃった!」
 たわわなおっぱいがぽろり。
 真っ先に異変に気付いたのはリディアの相棒、ナノナノの『ナノ』で、続いて、潜んでいた笙月、沙雪、クインが上空からの招かれざる客、醜悪なる豚の存在に気付く。
「キャーッ?!」
 割れた窓ガラスから次々と侵入してくるオークが、咄嗟に身動きできない女性客に襲いかかる。
 直前でトエルがホイッスルを吹いて女性たちの気を引き、あらかじめ確認していた出入口、避難経路へと誘導。クイン、颯、水着からセクシークロスに切り替えたフィアルリィンも一緒に一般人を素早くプールから避難させる。
「いやぁん!」
 プールサイドで派手にすっ転んだ一般客へ、オークが下卑た笑みを浮かべて襲い掛かろうとした。
 伸ばされる触手。危うし、水着美女……!

●爆ぜよ、豚
 だが、寸でで割って入ったのは沙雪の電光石火の雷刃突。
「待ってたよ豚サン♪……女の子と遊ぶ前に、オイラと遊んでみない?」
 クインも普段は隠している角と尻尾を露わにし、にやりと笑ってオークを挑発する。
 いきりたちかけたオークに、さらに追い打ちをかけるように【暴走する殺戮機械】を仕掛けたのは笙月だ。
「全員揃ったざんしな。遠慮も容赦も必要なし、ざんし」
 羽織っていたフードを襲われかけた女性客の肩にかけてやると、すぐに避難させる。
 オークは邪魔されたことに腹を立てたようだが、すぐに興味をセクシーな女性ケルベロスに移したようだった。上から下まで舐めまわすような視線を向けられるのは正直ぞっとする。
 何故かそのうち1体のオークが怒ったようだったが、これは笙月を一瞬でも女性だと思ってしまった自分に対する怒りらしい。
 もちろんそんな隙を見逃すケルベロスではない。
 今はまだ余裕があると、リディアとクインが前後してスターゲイザーを、アーニャがマルチプルミサイル、光の翼を広げて気合い充分なフィアルリィンがグレイブテンペストを炸裂させる。
「今、私にできることをやっていきましょうか………」
 気合いを入れた颯が「寂寞の調べ」を前列の味方にかけると、トエルが小さく呟くような呪を唱えた。
「堰を砕きて、我を解き放て」
 己の羽根を媒介に練成した魔力。体に茨の文様が現れたのは、魔力をフィードバックさせたからだ。そうして放たれる『真白き茨の残影(アクセルソーン)』は、神速とも表現されるべき速さでオークの腹を穿つ!
「ぐぼおっ……」
 醜悪な顔をいっそう醜悪に歪ませ、ばたりと斃れる。連続した攻撃、おまけにトエルの攻撃のクリティカルヒットによって灰となった。
 残るは5体。
 オークは仲間がやられたというのに意に介していない様子だ。
 クラッシャー1、ディフェンダー3、ジャマー1。先程倒したのはジャマーだったらしい。ちょうどジャマーから倒そうとしていたから好都合ではある。

●豚を追い込め
 オークの行動はとてつもなくわかりやすかった。
 何しろ攻撃対象はおおむね女性だ。
 男など眼中にない。存在していないがごとく、ガン無視か、と思うほどだった。
 そのせいかどうかはわからないが、リディアが沙雪を庇った時など、大盛り上がりで――この豚どもは本当に戦う気があるのかと問い詰めたくなる。
(「しょせん、オークはオークってことですかね……」)
 普段は他人と目を合わせようとしないトエルだが、オークたちの動きをしっかり見据えてそんなことを思う。
「ああ……っ!」
 オークの触手に掴まったのはアーニャとリディアだった。
 アーニャは胸のすぐ下あたりを腕と一緒に触手で縛り上げられ、リディアは両手を頭上に吊り上げられる。
 ただでさえ布の面積が小さな水着を、胸を強調するように縛られては紐の存在も危うい。そうして触手がおっぱいの周辺に垂らす粘液の感触も気持ち悪い。
「ひゃあぁぁっ」
 脚先から、ヌルリとした感触が這い上がる。脚を締め付けるようにぐるりぐるりと巻き付き、少しずつ上へと這い、胸を締め付ける触手はやわらかな感触を楽しむように撫でた。このまま触手刺しを喰らえば、確実にビキニは破けて拙いことになる。
 リディアはといえば、両腕を手首から肘あたりまで触手で締められ、抵抗する手段は脚をじたばたとさせるだけ。
「なにするんですかぁ!」
 太腿から下腹部のやわらかなところを狙って這い回るぬめった触手が気持ち悪くて仕方がない。脚をじたばたさせて抵抗するが、オークのほうはといえばどこ吹く風、どころかますます悪い、下品な笑みを浮かべている。
 2人に対して2体がかり、合わせて4体が欲望の赴くままうら若き乙女たちを毒牙にかけんとして――
「桜舞、花吹雪……」
「たとえオイラの恋人じゃなくても女の子に無体な真似をするのは許せないねえ!」
「ぶぎゃああああ!!」
 沙雪に桜花剣舞、クインにブレイズクラッシュをそれぞれ浴びせられたオークが醜い声を上げて床をのたうつ。
「ふたりとも、大丈夫ですか……?」
 フィアルリィンがふたりの傍に寄るが、致命的なダメージを受けたわけではなさそうだ。笙月がすぐさま分身の術を、颯が「寂寞の調べ」、ナノも一緒になって回復する。
 すぐに気を取り直したアーニャが、すっくと立ち上がるとオークを睨む。そのこめかみには青筋がくっきりと立っていた。いくら笑顔でもこれは怖い。
「さて……散々好き勝手されたお礼をさせて貰いましょうか……♪」
「赦さないですよ……」
 口調のクセもなくなったリディアも負けず劣らずの形相だ。それに怯んだのか、オークはやや逃げ腰になる。
「待ちなさいッ!」
 凛々しい顔でリディアが星のきらめきのごときスターゲイザーを放つと、アーニャが続けて怒りに染まった声を発する。
「絶ッ対に逃がしません……時よ、凍れ……!!」
 時が止まったのかと錯覚するような電光石火の間に、オークとの間合いを詰め、放つは全武装火器によるフルバースト――『テロス・クロノス・ゼロバースト』!
「ガアアアアアアッ」
 ケルベロスの猛攻に怒ったらしいオークが獲物を振りかざすが、颯は素早く身をかわす。そうしてお返しとばかりに槍を構えた。
「我流一刀一槍奥義……くらいなさい!雪月花!!」
 颯が独自に編み出し、鍛えた技は『我流一刀一槍奥義・雪月花(ガリュウイットウイッソウオウギ・セツゲッカ)』という。斬霊刀とゲシュタルトグレイブで舞のごとき剣技を繰り出す!
「ギィヤアアアアアアアアッ」
 クリティカルヒットしたその一撃は、オークの1匹をまた灰へ返したのだった。

●終わり良ければ総て良し
 戦いは、予想よりも順調に優勢で進んだ。
 清冽な空気を纏った沙雪が、火風水土雷、5つの属性を封じた呪符を投げると印を結ぶ。
「我が秘術を受け、滅せよっ!!……臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 すると呪符が五芒星を描くようにオークを取り囲んだ、かと思えば結界が展開し、その中で生じた猛烈なエネルギーがオークにダメージを与える。
「グアアアア、ア、アッ」
「まだ残ったのかい、しぶといね。焼き豚? 豚串? キミは何になりたい……?」
 まだ倒れていないオークにクインが問いかけるが、いや、と小さく頭を振る。
「その前に下処理からだね。ホラ、おもいっきり縛り付けてあげる……!」
 伸びたチェインがオークの首を締め上げ、地面に繰り返し叩き付ける。
 そうして――すべてのオークが倒れ、一片の塵も残さず消えていった。
 すべての醜悪なる豚が消え去ると、沙雪がぱちんと指を弾く。それで皆の肩の力が抜けたような気がした。はあ、と誰ともなく息を吐き出す。
「ひとまず、プールのヒールをしましょう」
「そうですね」
「そうしましょう」
 颯の提案にフィアルリィンとアーニャが頷き、クインと、無関心そうだったトエルも一緒になってプールを修復していく。
「さて、と……無事片付いたことですし、もうちょっと遊んで行っても良いでぃすか!?」
「いいですね」
「そうですね、少しくらいなら……」
 リディアの提案にアーニャと、大きなプール施設に元々興味を示していたらしいフィアルリィン、颯が顔を見合わせて頷くと、さっそくとばかりに流れるプールへ向かう。
 沙雪とクイン、笙月は場違いだからといつの間にか退散しており、トエルは水着ではないからとその場を辞した。
 そうして間もなく、少々ファンシーな内装になったプールにはまた女性たちがやってきて、いつもの賑やかさを取り戻したのだった。

作者:緒方蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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