月影が消えたなら

作者:犬塚ひなこ

●月の夜に
 深い夜の奥底にて、女の声が響く。
「――月華衆の一人である貴女に命じます」
 その声の主は螺旋忍軍・夕霧さやか。彼女の前に控えているのは螺旋模様の仮面を被った、月華衆と呼ばれる螺旋忍軍集団の少女だ。
「貴女への命は地球での活動資金の強奪、或いはケルベロスの戦闘能力の解析です」
 夕霧さやかは長い黒髪を指先で弄りながら言葉を続ける。
「貴女が死んだとしても情報は収集できますから、万が一のことがあっても心置きなく死んできてください。勿論、死なずに活動資金を強奪して戻ってきてもよろしくってよ」
 理不尽にも感じられる命令を言い終わった夕霧さやかは少女に背を向ける。
「…………」
 月華衆の少女は不満を零すでもなく無言でこくりと頷いた。そして、少女は昏い闇に融け消えるようにして夜の街に紛れてゆく。
 
●闇の宝石泥棒
 真夜中、とある宝石店にて。
 防犯仕様の重い鉄扉の前には月華衆の少女が立っていた。その足元には警備員の死体が転がっており、赤い血が床に滲んでいる。おそらく彼は侵入の邪魔になった為に殺されてしまったのだろう。
 辺りには血の匂いに満ちていたが、少女は気にすることなく扉を蹴破った。その奥にはショーケースが並び、宝石達は頑丈な防犯ガラスの中に厳重に仕舞われている。
 しかし、螺旋忍軍である少女にとってそんなものは脆すぎた。
 一撃でガラスを破った彼女は宝石を手に取り、次々と回収していく。やがて回収を終えたのか、踵を返した月華衆の少女は音もなく宝石店を去った。
 ものの数分で終わった完璧な宝石泥棒。
 その犯行の様子を見ていたのはたったひとつ、空に浮かぶ月だけだった。
 
●月影の戦い
「……という事件が視えたのでございます」
 螺旋忍軍が金品を強奪する事件を起こそうとしている。ケルベロス達に未来視の情報を語った雨森・リルリカ(オラトリオのヘリオライダー・en0030)は、泥棒さんは嫌いです、とちいさく俯いた。
 今回、月華衆のひとりが襲おうとしているのは街中の宝石店だ。
 本来ならこの店には二十四時間体制でガードマンがついているのだが、螺旋忍軍とっては警備など障害ではない。
「このままですと予知されたように一般の方が殺されてしまいます。なので、今回は皆様に警備員さんになって頂きます!」
 未来予知が出た時点で既に一般人は店に近付かないように勧告している。つまりはケルベロスが代わりに宝石店の警備に付き、敵を待ち伏せて倒す作戦となる。
「螺旋忍軍さんはたったひとりみたいですね。ですが、皆様全員と同じくらいの強いうえに、不思議な能力を持っているので気を付けてくださいです」
 敵が使うのは特殊な模倣忍術だ。
「月華衆は自分が行動をする直前に使用されたケルベロスのグラビティの一つをコピーして使用する忍術を持っているようなのです」
 忍術自体は厄介ではあるが敵はこれ以外の攻撃方法を持っていない。普通に戦えば苦戦は必至だが、戦い方によっては相手の攻撃方法を予測できる。
「それと詳しい理由は分からないのですが、月華衆は『その戦闘で自分がまだ使用していないグラビティ』を優先するみたいでございます」
 戦局はすべて此方の出方次第。その点も踏まえて作戦を立てれば有利に戦えるはず。そう話したリルリカは此処がケルベロスの腕の見せ所だと告げた。
「大丈夫です。リカは皆様が華麗に勝利することを信じてます!」
 近頃の螺旋忍軍はどうにも不可解な行動をしているが、どんな相手でもケルベロスが負けるはずない。揺らがぬ思いを抱いた少女は微笑み、仲間達に信頼の眼差しを向けた。


参加者
リト・フワ(レプリカントのウィッチドクター・e00643)
巫・縁(魂の亡失者・e01047)
物部・帳(お騒がせ警官・e02957)
天塚・華陽(妲天悪己・e02960)
鷹嶺・征(模倣の盾・e03639)
寺乃宮・綾成(本に生きる・e17243)
燈灯・桃愛(陽だまりの花・e18257)
キャロル・メヌエッタ(コンダクター・e20991)

■リプレイ

●月影さやかに
 夜空に浮かぶ月の光が影を作り、幽かに揺らぐ。
 重く閉ざされた鉄扉の前、近付く気配を察知したケルベロス達は其々に身構えた。
「月華の宝石泥棒、か。さあさ、ご対面といこうじゃないか」
 キャロル・メヌエッタ(コンダクター・e20991)が刀に手をかけ、前を見据える。立ち塞がる存在に気付いたのは向こうも同じらしく、暗がりから小柄な少女が姿を現した。
 物部・帳(お騒がせ警官・e02957)は手帳を突き出し、威勢よく声をあげる。
「貴女は既に包囲されています! 武器を捨て、大人しく投降して下さい! いやあ、決まりました! 一度、言ってみたかったんですよねー」
「……」
 帳が悦に浸る中、月華衆の少女は無言のまま反応すら返さない。構えた彼女は既に戦闘態勢を取り、ケルベロスの動きを窺っているようだ。
 天塚・華陽(妲天悪己・e02960)は相手の姿を一瞥し、軽く肩を落とした。
「資金繰りのために強盗とは、デウスエクスといえどやることは映画と変わらんか」
 それとも此方の力量を見たいのか。
 華陽が仲間達に目配せを送ると、鷹嶺・征(模倣の盾・e03639)が頷く。
「なんにせよ、僕はただ盾となるだけです。だからあなたのことも止めますよ」
 征が凛と告げてみせても、敵は身動ぎもしなかった。リト・フワ(レプリカントのウィッチドクター・e00643)は敵は自分達が動くのを待っているのだと察し、手にしたチェーンソー剣を振りあげる。
「先手は敢えて譲る心算ですか。それなら――」
 お望み通りに、と床を蹴ったリトは駆動音を響かせて敵に斬りかかった。振るわれる刃を見据えた少女は軽い身のこなしで宙返りをしてリトの一閃を躱す。だが、その先から別の駆動音が響き渡った。
「こっちの事も気に掛けてくれよ。なァ?」
 その声の主は仲間と同じく剣を振るった寺乃宮・綾成(本に生きる・e17243)だ。月華衆の身を刃が抉り、綾成は薄く口元を緩める。
 敵対する相手が悪事を働くと知ったら叩きのめすのが筋。その相手が人だろうが何だろうが変わらない。
 お宝を持ち帰らせる訳にはいかねえよなァ、と呟いた綾成の言葉に燈灯・桃愛(陽だまりの花・e18257)も同意する。その傍ら、ウイングキャットのもあも尻尾を逆立て、敵を威嚇する姿勢を見せていた。
「こんな素敵な月夜を前にして輝く星々を奪う人にはお仕置きなのよ」
「金品を盗ろうなど笑止千万。渡してなるものか、これは貴様らの物ではない」
 桃愛が凛と言い放つと、巫・縁(魂の亡失者・e01047)が静かに頷きを返した。オルトロスのアマツの眼差しも少女を捉え、鋭く差し向けられる。
 それを手に入れるのがどれだけ大変なのか。身をもって味わわせてやると告げた縁もまたチェーンソー剣による一閃で敵を穿った。
 更にキャロルと帳が月光の斬撃を放ち、敵の身を斬り裂いてゆく。
 斬り刻まれた少女の傷口から赤い血が散る様は、まるで月の下に紅い華が咲いたかのようだった。

●斬撃
 戦いはケルベロスの先手から始まり、全員分の攻撃が見舞われた。
 傷口を押さえ、一歩踏み出した月華衆の少女は無表情のまま反撃に移る。螺旋の力を練りあげ、彼女が征に向けて放ったのは騒音を伴う一撃だ。
「なるほど、その攻撃で来るのですね」
 敵は直前に見たグラビティを模倣し、使用して来ると聞いていた。武器もなしにチェーンソー剣の力を扱う少女を見遣り、征は関心と警戒の念を抱く。
 仲間が痛みに耐えている中、リトは更なる一撃を喰らわせに駆けた。
「グラビティのコピー。忍者というのは本当に器用な事をするのですね」
 月光めいた煌めきの剣閃を放ち、リトは敵の姿を緋色の瞳に映す。二撃目は先程と違って躱されず、敵の身を抉った。
 華陽もくるりと大鎌を回しながら、純粋な賞賛と力への批判を口にする。
「さすがは螺旋忍軍。しかし、言い換えればただの物真似じゃ」
 敵は気付いているか分からないが、此方は敢えて全員が斬撃を用いている。この効果が的確に巡るのは次手以降だが、華陽は敵を翻弄できる自信を持っていた。
 作戦は斬撃のみで攻撃すること。
 桃愛の傍には、作戦を崩させぬためにひたすら待機し仲間の守護に回ろうとするもあの姿がある。縁もアマツに攻撃を行わぬよう告げ、皆の防護に回れと願った。
 しかし、少女の見た目をしていようとも相手はデウスエクスだ。
 まったく怯む様子をみせぬ相手を見遣った後、キャロルは大鎌を軽やかに振るいあげる。それはまるで音を奏でる指揮者の如く、しなやかな軌跡を描いた。
「資金目的で手を出すとは愚かな。輝き満ちた宝石は愛でる物だよ」
 使い方を間違っちゃあいけない、と窘めるように告げたキャロルは刃に死の力を纏わせて繰り出す。
 綾成も更なる月光の斬撃を放ち、今回はギャンブル狂の血が騒ぐ、と口にした。
「お宝を手に入れてえならそれ相応の代価が必要なもんさ」
 例えば、今回の場合はケルベロスに勝つことが月華衆にとっての代価だ。勝負しようぜとサングラスの奥の双眸を細めた綾成は敵を挑発した。
 更に帳が鎌を投げ付け、挑発を重ねる。
「貴女の主は、貴女の窮地を放っておいて、安全な場所から高みの見物ですか? 何とも部下思いでありますなあ。しかもやる事が、犬死ついでの情報収集とは。もう少し、まともに頭が回る主を探した方がいいのではありませんか?」
「……」
「やれやれ、だんまりでありますか。取り調べは、そういうのが一番困るんですよね」
 されど少女は挑発や探りには全く反応しない。
 帳が肩を落とす最中、桃愛も彼と同じ一閃を見舞っていく。簒奪者の鎌が華麗に回転しながら少女を傷付けていく様を見つめ、桃愛は掌を握り締めた。
「人のものを吸収して模倣するなんて泥棒は退治、退治なのよ」
 桃愛は負けないと心に決め、次の攻撃への布陣を固める。そして、縁は宝石泥棒たる少女に憤りの感情を向けた。
「この所業は本気で許せない。嗚呼絶対にだ! 許さん!」
 赤貧の自分と相手を比べ、怒りを覚えた縁は放つ斬撃に思いを乗せる。金は欲しいが、あくまでもそれは労働や報酬としての対価であるべきだ。
 資金が如何使われるかよりも、今はただ不正への思いが強かった。
 縁が構える中、月華衆が再び動く。
 敵の次手は征が予想していた通り、月光斬だった。繰り出される一閃は再び征に向けられていたが、アマツが彼を庇いに駆ける。
「助かりました。頼りにしています」
 征はオルトロスに礼を告げ、敵を見つめた。現状、敵は斬撃攻撃ばかりを使わされる羽目になっている。つまり、ケルベロス達が纏う防具の効果によって一撃の重さが半減されているのだ。
 騒音刃で斬り返した征は、上手く行けば敵の封殺も夢ではないと感じていた。
 キャロルも作戦の手応えを実感し、再び斬撃で以て緩やかな弧を描く。
「切り傷だらけにしてやろう、覚悟をするのだな」
 現在、自分達は泥棒を捕まえる警備員代わりだ。こんなはた迷惑な客にはさっさとお帰り頂きたい、と皮肉を零したキャロルの一閃は鋭い。
 華陽も更なる一手を与えるべく、廻る刃の駆動音を響かせた。
「付け焼き刃の脆さを教えてやろう」
 華奢な華陽の腕から敵の身体を圧し折る勢いの一撃が放たれる。この一閃もひと苦労じゃ、と小さく零した華陽は身を捻り、狐尾をふわりと揺らした。
 華陽が射線を開けてくれたことを確認し、綾成もチェーンソー剣を唸らせる。
「無理は禁物だぜ。まァ、まだ始まったばかりだが」
 戦場に騒音が鳴り渡り、暴力的なまでの斬撃が月華衆を襲った。されどしかと戦況を見つめる桃愛は敵の体力がまだ半分以上残っていることに気付く。
 帳と征も闘いはこれからだと気を引き締め、リトも次なる一手に備えた。
 その際、リトはふと問い掛けてみる。
「あなたは何故コピーを行うのですか? そして、その使用に拘るのは何故でしょうか」
「…………」
 依然、少女は何も答えなかった。ただ人形のように、無感情で淡々とした冷たさのようなものが感じ取れる。その身に機器を宿す己よりも機械めいた少女の裡を思いながら、リトは巡る戦いへの志を抱いた。

●其の心
 そして、戦いは巡ってゆく。
 斬撃攻撃と防具の相性を利用したケルベロス達の負傷は少なく、ダメージは最小限に抑えられていた。キャロルが良い調子だと頷く傍ら、帳は今こそもう一つの作戦を行うべき時だと呼びかける。
「皆さん、今からが勝負ですよ!」
「はい、お任せ下さい」
 帳の呼びかけにより、先ずリトが癒しの動作に入った。
 それ以外の面子は今までと同じ斬撃攻撃を放ち、リトは一番ダメージを受けている征を中心に薬液の雨を降らせる。
 仲間が放つ攻撃は既にどれも一度は使用されている。
 つまり、これで次に敵が使うグラビティは回復だけに絞られたというわけだ。そして次のターン。狙い通りに敵は癒しを行った。しかし、回復された分はケルベロス達がすぐに削り取ってしまう。
 次は縁がオウガ粒子を放出し、仲間達の感覚を研ぎ澄ませた。
「行くぞ、オウガメタル。その力、我々に貸してくれ!」
 呼び声に応えた武装生命体が癒しの力を発動させる最中、リトは攻撃に回り、帳は次なる癒しの順番を確認する。一人ずつがこうして回復を担っていくことで敵の攻撃を限定し、回復しか行わせない作戦だ。
 それはまさに、敵の特性を利用した封殺。
 それから戦いは進み、華陽は声に魔力を乗せて呟く。
「掻き乱せ、夜伽のように。爪立てろ、その背の肉に。刻み込め――この身は傾国、国滅ぼせし魔性の躯」
 華陽の力が巡って行く最中、月華衆はじっと彼女の姿を見つめていた。そして、次の行動機会を得た少女は驚くべきことを口にした。
『掻き乱せ、夜伽のように。爪立てろ、その背の肉に。刻み込め――この身は傾国、国滅ぼせし魔性の躯』
 その言葉と同時に華陽が紡いだ魔力そのものが月華衆の身を包み込む。
「喋った、だと?」
「詠唱や声まで真似するなんて……」
 縁とキャロルは思わず驚いたが、その言葉が華陽の物真似に過ぎないということはすぐに分かった。
「オイオイ、そういう技までパクんのかよ。螺旋忍軍半端ねえな」
「そうやって人を誑かしておればいいものを、藪をつついて蛇を出したな」
 綾成が興味深そうに敵を見遣れば、華陽も此処まで模倣能力があるのかと溜息を吐く。その間にキャロルや桃愛達が攻勢に移り、アマツともあも気を張り続けた。
 征が複雑な心境を抱きながら強化ヒールドローンを飛ばすと、敵も次のターンで同じドローンめいた螺旋の力を解き放つ。
「……分かっていても、嫌なものですね。許しませんよ。覚悟なさい」
 大切な人から譲り受けた力を悪用されているも同然。苛立ちを感じた征は相手を睨みつけ、早々に戦いを終わらせてしまおうと決意を抱いた。
 第二の作戦が巡り始めてから、敵は回復動作しか行えなくなっている。
 癒しすら無駄な物となっている現状、決着は近い。桃愛は自分が癒しに回る必要は無いと察し、もあに頑張ろうと視線を送った。
「泥棒は私達がとことんお仕置きしてあげるの……覚悟はいい?」
 赤いガーベラの花と蔦が巻き付いた簒奪者の鎌を振り上げた桃愛は、踊っているかのように軽々と刃を操る。斬撃が敵を裂き、力を奪っていく。
 縁はアマツの鋭い眼差しから全てを察し、最後まで戦い抜く気概を語った。
「心は常に共にある。歯がゆくも成すべき事――皆を護れ」
 吠えはせずとも、アマツも縁の思いを感じ取っているようだ。そして、縁は更なる一閃で敵を切り刻んでいった。
 リトも刀の切先を差し向け、月めいた一閃で少女を穿つ。
「もし其処に心すらないのなら……いえ、確かめられる事ではありませんね」
 戦いに相応しくない好奇とは理解しながらも問わずにはいられなかった思いを押し込め、リトは視線で仲間に合図を送った。
 帳と綾成がリトからのアイコンタクトの意図に気付き、其々に頷きを返す。
「残念でしたね。そろそろ終わりであります!」
 まず帳が大鎌による一撃を見舞い、其処に綾成が続いた。終りを見据えた今、解き放つのは真似すらさせてやらぬと決めた一閃。
「癖があるっつーのは利点の一つ。だが、逆に弱味にもなるのさ」
 きっと絡め手がありゃあ優劣も違っただろう。もう遅いが、と薄く笑んだ綾成は地獄の炎を纏い、全力の片足蹴りを叩き込んだ。少女が均衡を崩す最中に拳骨が追加され、月華衆の体力が大幅に奪われる。
 更に征が駆け、華陽も最後の一撃を放つ。次の機会はもう与えないと決め、キャロルはこれまでに真似をされた攻撃の数々を思い返した。思いのほか負けず嫌いな己を自覚したキャロルは刃に力を宿し、ひといきに月華衆に斬りかかる。
「『死』は誰にも訪れるものだよ。……そう、君にも」
 そして――刃は少女の胸を真っ直ぐに貫き、戦いは終幕を迎えた。

●月影は消えない
 寡黙な少女はその場に倒れ、間も無く訪れる死を覚悟しているようだった。
 征は傍らに屈み込み、螺旋忍軍に問う。
「あなたに命令を下した者は、今どこにいるのか、素直に教えていただけませんかね」
「……」
「無理、ですか」
 全ては予想通りだった。無言のまま何も答えない少女の傍に縁が静かに立つ。
「そうか、もう用は無い」
 辛うじて息が残っていた少女を介錯してやった後、縁は無言で首を振った。華陽も溜め息を吐き、店の外に見える月に視線を移す。
「思えば思う程、厄介な敵じゃ」
 帳はこれで終わったのだと安堵を抱き、皆の健闘を労った。
「宝石店を守れて怪盗を倒すという私の夢も叶って、万々歳ですな」
「お仕置き完了なのよ。ね、もあ!」
 作戦は上手く巡り、ケルベロス達はほぼ無傷でこの場に立っている。桃愛は満足気な笑顔を浮かべ、最後まで一緒に戦場に立ってくれていたもあを労った。
「しかし、賭けには勝ったがスッキリしねえなァ」
 綾成は戦いを思い返し、最後まで己を貫いた少女を思う。哀れとも言えるが其の姿は一途で健気とも思えた。可愛いもんだよ、と綾成は溜息交じりの感想を零した。
 キャロルも複雑な思いを抱え、この先を思う。
「……それにしても月華衆とやらは何を目的で動いているのだろうな」
「分かりません、何も。彼女の心の在り方すら、」
 リトは緩く首を振り、仲間達に倣って夜空とつきを振り仰いだ。分からないことばかりの世界は謎と不穏に満ちている。
 この事件の真実は全てを見下ろす月だけが知っているのだろうか。
 ――否。きっと、月すら其の答えを知らない。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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