プールサイドで捕まえて

作者:蘇我真

 ひとりのドラグナーが、資料を見ながら唸っていた。
「ムムム、量産型とはいえ、実験ではこれ以上の性能は出せないなァ。これ以上の性能を得るには、新たな因子の取り込みが不可欠だ」
 見ていたのは飛空オークの実験データ。今の飛空オークは高所から滑空するくらいしかできない。一度落下したらまた高所まで登ってから滑空する必要があった。
「……というわけで、お前ら、ちょっくら新しい因子を取り込んでくれんか」
 ドラグナーは資料から目を離し、集まっていた飛空オークたちへと指示を出す。
「???」
 しかし、飛空オークたちはドラグナーの指示を理解していないようだった。
「あァ、お前ら向けの言葉で言い直してやらねばわからんか。人間の女を襲い、孕ませてくれ」
「!!!」
 孕ませ、というワードには過敏に反応するオーク達。
「お前達が産ませた子孫を実験体にすることで、飛空オークは更なる進化を遂げるだろう!」
「ブヒイィィィ!!」
「女だ!!」
「ハラマセロ!!!」
 歓声を上げる飛空オークたち。とはいえ、進化を遂げることはどうでもよく、女性を襲えることへの喜びのようだった。

 6月の中旬ともなると、学校でもそろそろプール開きとなる頃合いだ。
 その女子高でも、今年初めてのプールの授業が行われていた。
「キャハハハハ!」
「どっちが早く泳げるか競争しようよ~!」
 紺色のスクール水着を身に纏った女生徒たち。屋外に設置されたプールで、暑さを吹き飛ばすように遊び回っていた。
 その異形の影が飛来するまでは。
「ブヒヒヒヒ!」
「どっちが多く孕ませられるか競争しようぜ~!」
 上空から滑空してくる飛空オークたち。
「なによこいつら!?」
「た、助けてっ!!」
 オークたちは逃げ惑うスク水女子高生たちをプールサイドで追いかけまわす。そして……
「ブヒヒィ、捕まえた!!」
 やがて1体のオークが自らの触手で女子高生を捕まえた。
「やめて、気持ち悪い……」
 手足を縛るぬめぬめとした触手が、スクール水着の中へと潜り込んでいく。
 それは、惨劇の宴の始まりだった。

●プールサイドで捕まえて
「どうやら、ピアディーナの読み通りだったようだな」
 星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)はピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919)が調査した通りの事件が起こる未来を見た。
「『プール開きに合わせて飛び込んでくる飛空オークが!』……なるほど、その通りだ」
 ピアディーナの先見性に敬意を払いつつ、瞬は集まったケルベロスたちへと説明を始めた。
「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めたのは皆も知っているかもしれないな。
 今回事件を起こすのは、オークの品種改良を行っているドラグナー、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した、飛空オークという特殊なオークだ」
 飛空といっても、高い場所から滑空して目的の場所に移動するだけの能力で、自由に飛行する事はできない。
 だが、高所から滑空しながら襲撃目標である女性を見つけ出して、その場所に直接降下するという攻撃方法はかなり効率的で脅威となるだろう。
「ケルベロスの皆には、襲撃される女性を守り、飛空オークを撃破してもらいたい」
 今回飛空オークに狙われるのは千葉のとある女子高、屋外に設置されたプール場だ。
 フェンスに囲まれた25メートルプール。いわゆる短水路でプールサイドは幅5メートルほど。飛空オークは6体だ。
「プールサイドがそれほど広くないのでプール内で戦うこともあるかもしれない。とはいえ、プールは足がつく高さなので泳げない者がいても大体は安心だろう」
 戦う場所によっての有利不利はないが、気をつけるに越したことはないと瞬は告げる。
「プールサイドは滑りやすいから注意しておいたほうがいい。あと、プールに入るときは事前にちゃんとストレッチをだな……」
 ただの口うるさいおじさんになっていることに、瞬は気づいていなかった。


参加者
赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)
村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)
ピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919)
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)
時雨・乱舞(サイボーグな忍者・e21095)
レテイシャ・マグナカルタ(自称遺跡探索者・e22709)
ロージー・フラッグ(ブリリアントミラージュ・e25051)
レミ・ライード(迷子の騎兵・e25675)

■リプレイ

●潜入! 女子高のプール
 学校へ事情を説明して、プールサイドに降り立ったケルベロスたち。
「ピアディーナちゃん、素敵です~」
 村雨・ベル(エルフの錬金術師・e00811)は自らが用意した白スク水を着せて、興奮したようにエルフ耳を激しく上下に動かしていた。
「ちょっとこれ、胸がキツいわ……」
 着せられたのはピアディーナ・ポスポリア(ポスポリアキッド・e01919)。胸が豊満すぎて脇からはみ出している。
「ぱっつんぱっつんですっ……」
 ロージー・フラッグ(ブリリアントミラージュ・e25051)も同様だ。服で隠しているが、その下に着たスク水からスイカのような胸が今にも零れ落ちそうだった。
「サイズの合ってないスク水ってえっちいですね!」
 幸せそうなベルの横、レテイシャ・マグナカルタ(自称遺跡探索者・e22709)は周囲を見渡してボヤいた。
「しかし、違う水着とか、デザイン同じでも色違いは悪目立ちしちまわねぇか」
 レテイシャは紺色のスク水を着用しているが、視線の先にはスカート付きのワンピースを着た赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)がいる。
「そう、ですけど……私がスク水を着たら、その……」
 もじもじとうつむくいちご。両手がスカートの上から股間を抑えるように置かれていた。
「おっと……それ以上は言わせないよ」
 自らが使えるべき主人を守るべく、ピアディーナが割って入る。水着姿でも手放さないリボルバー銃が印象的だった。
「この銃もそうだけど、そもそも私服の子や、男だっているじゃない」
「えと、戦闘までは木の陰にでも隠れています、です」
 女の子らしい普段着を身に纏ったアンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)がおずおずと、しかしはっきり自己を主張する。
「私も同様です。楽しい戦闘が始まるまでは身を隠しておきましょう」
 無表情で告げる時雨・乱舞(サイボーグな忍者・e21095)は見るからに男性だ。彼らはスクール水着ではないものの、近くに隠れているようだった。
「私も、屋上に、隠れてる、です」
 たどたどしく告げるレミ・ライード(迷子の騎兵・e25675)はスクール水着を着ていたが、胸元に大きく『れみ』と名札がつけられていた。
「プールには、必ず水着と、教えて貰った、です。……違った、ですか?」
「……いや、まぁいいか。あの糞豚共がそこまで気にするとも思えねぇし」
 レテイシャは細かいことを考えるのをやめる。そして皆、それぞれが持ち場へとつくのだった。

●パフォーマンスタイム
「ブヒヒヒヒ!」
「どっちが多く孕ませられるか競争しようぜ~!」
 上空から滑空してくる、上機嫌な6体のオークたち。
「来やがったな!!」
 さりげなく警戒していたレティシャが、上空をなぎ払うようにドラゴンブレスを吐いた。
「熱ィ!! 熱ィブヒイィィ!!」
 モロにくらった3体は消火するようにプールへと着水し、無事な3体はプールサイドに降り立った。
「みなさん、逃げてください!」
「慌てずに落ち着いて、走ると転びます。背中はケルベロスが守っています」
 出入り口付近ではいちごと乱舞、そして乱舞のサーヴァントであるシラヌイが女生徒を脱衣場へと誘導する。
 乱舞の言葉通り、プールでは女生徒に紛れたケルベロスたちがオークたちの注意を引きつけていた。
「やっぱり来ちゃいますよねぇ……」
 プールの中、逃げ遅れた生徒のふりをしたベルに着水したオーク3体が迫る。
「3体を相手は、ちょっと持たないかも……」
 ベルの身体を、ぬめぬめした熱っぽい触手が何本も這いまわる。いやいやと身をよじるのを無視するように1本の触手が水着の中へと潜り込み――
「させません……!」
「まずは、わたしが相手、です!」
 そこへ、服を脱ぎ水着姿になったロージーと、服を着たままのアンジェラが翼飛行で割り込んできた。
 アンジェラの殲剣の理が降り注ぎ、2体のオークに命中する。注意が空に向く。
「ロージーさん! アンジェラさん、ん、んんっ♪」
 触手になぶられながらも援軍に歓喜の声をあげるベル。
 しかし、オークもまた喜んでいた。
「すげえデカチチがきたブヒ!!」
「ちびっこも引きずり降ろすブヒ!」
「えっ、あっ、ちょっ……」
 ロージーの両足に触手が絡みつく。
「えいっ、えいっ……ひゃあっ!」
 アンジェラもバトルオーラを纏った蹴りで何本かの触手を迎撃したものの、ついに片足を触手に捉えられた。
「「「ソイヤーッ!!」」」
 オークたちに力ずくでプール内へと引きずり降ろされていく。いちごのサーヴァントのアリカがふたりを引っ張って守ろうとするが多勢に無勢、力負けしている。着水するふたり。
「うぅ……びしょ濡れ、です……。でも、こんなこともあろうかと、水着を下に着ておきました、です♪」
 アンジェラの普段着は水に濡れ、肌にべったりと張り付いている。そこから透ける肌色が妙に艶めかしく映る。
「いやです、こんな、気持ち悪い……はずなのにっ……!」
 プールの中、肩ヒモがずれて浮き上がったロージーの胸へ触手が貪りついていく。
 一方、プールサイドでは3体のオークが暴れていた。
「ブヒヒヒ、そこのつるぺたなお嬢ちゃんもお持ち帰りブヒ!」
 いちごへと狙いを定めたオーク。ピアディーナが反応する。
「悪いケド、お嬢様には指一本触れさせないッ……!」
 マスタード・ボムを投げつけた。グラビティの力で強い音と光、それと臭いがオークといちごを襲う。
「これ、私まで……あわわっ!」
 巻き込まれないようにピアディーナの方へと逃げてくるいちご。そのとき、いちごの足が滑った。
「あっ――」
「お嬢様!」
 とっさにピアディーナが駆け寄った結果。
「あれ……痛くない、というか、柔らかい?」
「ひぅんっ!! ご、ご無事なのはいいですけど、その……」
 いちごはピアディーナを押し倒すような格好で、その豊満な胸に顔を埋めていた。
「はわわっ、ごめんなさいっ」
 真っ赤になってじたばたするいちご。離れようとしているようだが、余計に顔が埋まっていた。
「こっちも助け……ん、あっ!」
 そのころ、レテイシャは逃げ遅れた生徒を助けて同じように転倒していた。仰向けに倒れたところを2体のオークに押さえつけられている。
「重いからどけっての、この糞デブ……!」
 レテイシャのキツい言葉などおかまいなしに、オークは触手で彼女の胸を堪能する。
「あ……くぁ……やめろぉ……!」
 水着越しとはいえ、触手は胸を執拗に揉み、こねくり回す。そして先端同士を擦りつけてきた。
「ん、あああぁぁっ!?」
 押し寄せる快感の波にレテイシャの身体が硬直する。そして腰を反り返るように痙攣したかと思うと、ぐったりと力が抜けた。
「助けなきゃ、です……!」
「お嬢様、もう1体います!」
 いちごとピアディーナには残りのオークが立ちはだかっていた。
「ブヒヒヒ、それじゃこっちの具合は……」
 レテイシャのパンツの中へ触手が滑り込もうとした、瞬間。
「ダメ、です」
 氷の刃がその触手をやすやすと切断した。
「……痛ぇブヒイィィ!!」
 あまりのことにワンテンポ遅れて痛がりだすオークを無視して上空から降りてくるレミ。
「アレの退治、する、です。大丈夫、ですか?」
「あ、あぁ……生徒は?」
「皆さんが盛大に引きつけてくれていたおかげで、無事に全員脱出しました……やっと、やっと……」
 転びかけていた最後の女生徒を脱衣場へと逃がした乱舞が、うつむいていた顔を上げる。
 それはセクシーなシーンを直視しない紳士的なふるまい……以外にも、もうひとつの意味を持っていた。
「ヒャハハハハハハ!!」
 容赦なく、その拳を振るってもいい絶対的な悪であるオーク。ソレと戦える悦びで笑ってしまいそうになる顔を隠すため。
 レテイシャはその狂気的な哄笑に一瞬毒気を抜かれるが、すぐに戦意を取り戻す。
「あ、ああ……覚悟しやがれ糞豚共!!」
 ケルベロスたちの逆襲が始まった。

●プールサイドで捕まえて
「触手には鎖で対抗します!」
 ベルの身体には大量の模様が浮き上がっていた。触手の這いずり回った跡にも見えるそれは魔法陣の術式であり、展開と同時にそこから大量の鎖が出現し、オークの触手を逆に締め上げていく。
「ブヒイイィィ! 痛い、痛いッ!!」
「退治しちゃいます!!」
 拘束が解け、胸を水着にしまい直したロージーが再び水上へと飛んだ。ナパームミサイルで水面を焼き尽くしていく。
「チャーシューになっちゃうブヒィ!!」
 これはたまらないと水中へと潜るオーク3体。プールサイドからレミが滑り込み、そのオークたちを追う。
「逃げ場は、ない、です」
 プールの中で、レミは冥府の冷気を槍の形に凝縮していた。
「嘆きも、悲しみも、全て凍らせ、静寂へと誘え」
 防具効果で水中でもまるで陸の上にいるかのように呼吸するレミ。投擲された氷の槍は狙い過たず1体のオークを串刺しにした。
「!!!」
 大きな泡を吐いてもがいていたオークは、そのまま氷漬けになって水面にプカプカと浮く。
「プールの底に沈んでください、です!」
 レミと入れ代わるようにプールサイドに上がったアンジェラ。
 その拳が唸りをあげて、プールサイドにいたオークの腹へと突き刺さる。
「グ、ブフゥ!!」
「あの、これをどうぞ!」
 その隙に、いちごは色んな意味で一番ダメージを受けていたレテイシャへサキュバスミストをかけてやった。
「助かったぜ!」
 レテイシャはアンジェラが手傷を負わせたオークへ向き直ると、その足を煌めかせた。
「さっきは良くもやってくれやがったな!!」
 切れ味鋭い蹴りが触手やついでにナニカを切断する。
「アア、オ、オゥ……」
 もだえ苦しみ、オークは卒倒した。
「来てッ! タイムチェイサー!!」
 ピアディーナの声。呼応するように学校の駐輪場に停めていたライドキャリバーが動き出す。
 段差を利用し、フェンスを飛び越えてプールサイド、オークの上に着地を決める。
「ブヒイッ!」
 下敷きになった別のオークをシラヌイが一緒になって轢きなおす。その背にはガトリング銃『ドラゴンパイル』が括りつけられていた。
「ありったけをぶち込んでやります!!」
 嬉々としてマルチプルミサイルをばら撒く乱舞。轢かれたオークはミサイルが何発か直撃し、息を引き取る。
「ヒイッ、メチャクチャだ、逃げ、逃げるブヒ……アレ?」
 はいずり回って逃げようとする最後の1体だが、その身体は動かない。
 捕食モードになったいちごのブラックスライムが、オークを丸呑みにしていたのだ。
「ピアさん、今ですっ」
 いちごが叫ぶ。もうもうと立ち込める煙の中、ピアディーナは回収したドラゴンパイルを構えていた。
「これ以上は、何も見せてやらないわ!」
 軽快な銃声が連続する。
「ぶ、ヒィ――」
 全身蜂の巣にされ、最後のオークも息を引き取ったのだった。

●もうひと泳ぎ
「これで、修復、完了、です」
 乱舞とアンジェラ、ベル、レミが破壊されたプールサイドを修理し終わったころ。
「えいっ」
「きゃっ、冷たいですよお嬢様っ」
 女生徒に混じってプールの中ではいちごとピアディーナが水をかけあって遊んでいた。
「やっぱり泳ぐのは気持ちいいな!」
「そんなに波を立てたら、疼いた身体に……んっ、また出ちゃいました……」
 豪快に泳ぐレテイシャと、ポロリを慌てて直すロージー。
「せっかくのプール開き、です。楽しんでもらえてよかった、です」
 満足そうなアンジェラ。濡れた服も、初夏の陽気で乾きつつあった。
「私も泳いでいこうっと!」
 言うが早いかベルはプールへと飛び込んでいく。
「乱舞さんも、泳ぎ、ますか?」
 レミに尋ねられて乱舞は小さく首を振った。
「やめておきます。あの中にいたら、どっちを向けばいいかわからず、空ばかり見てしまいそうですから」
 そのまま空を見上げる。青い空。オークはもう飛んでこなかった。

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。