復活の銀鎧竜

作者:陸野蛍

●シスターの闇は濃く
 夜の繁華街。
 終電を過ぎ、殆どの店が店仕舞いしてしまえば、街を歩く人も殆どいない。
 ほんの少し前……十字騎士団『クルセイダーズ』の襲撃を受けたこの街も、ケルベロスの活躍により穏やかな一日の終わりを迎えていた。
 そんな、静かな夜の街にそのシスター姿の女性は現れた……不気味に空を泳ぐ怪魚を引き連れて。
「あら、この場所でケルベロスとデウスエクスが戦いという縁を結んでいたのね。それも……ごく最近、複数ね。ケルベロスに殺される瞬間、彼等は何を思っていたのかしら。例えば、他の仲間のグラビティ・チェインを喰らってでも自分が強ければ……とかかしら」
 シスターは柔らかな微笑みを浮かべる。
「あなた達、彼らを回収して下さらない? 折角だから、彼等の力を一番引き出せる姿で。素敵な事が起こりそうですもの」
 そう言うとシスターは静かにどこかへと消えてしまう。
 残された3匹の怪魚は、青白く発光すると、その場をゆったりと泳ぎ、禍々しき魔法陣を浮かび上がらせる。
 魔法陣が、一層薄気味悪い輝きを放った瞬間現れたのは、白銀の鎧を纏ったボーンドラゴンだった。
『グギャーーーーーー!」
 渇いた叫びが夜の街に響いた。

●超攻撃特化型の集合体……銀鎧竜
「全く、死神って言うのは、厄介なことしかしてこないな本当に!」
「そうですね。折角倒しても、復活されては脅威が無くなりませんからね……」
 ヘリポートに向かいつつ、大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)は隣を歩く、玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)に率直な感想を漏らす。
「でも、何とかしないとな。よし、みんなー! 死神の動きが確認された! すぐに説明を始めるぞ!」
 ヘリポートに着くと、すぐに大きな声でケルベロス達を招集する雄大。
「『因縁を喰らうネクロム』と言う死神が、みんなが倒したデウスエクスを復活させ、戦力にしようとしている。以前から行われていた、ケルベロスによって殺されたデウスエクスの残滓を集め、その残滓に死神の力を注いで変異強化した上でサルベージし、戦力として持ち帰ると言う作戦の中心人物は、このネクロムで間違いなさそうだ」
 倒したデウスエクスが死神の手によって復活させられる事件は今も続いているが、肝心のネクロムの居場所については調査が進んでいない。
「今回サルベージされるのは、正確には個体じゃない。先日、ある繁華街を襲った『十字騎士団クルセイダーズ』のクラッシャー部隊がサルベージされるみたいだ。だけど、死神はその力を使って、5体居たクルセイダーズを一つの個体に合成し、一体の強力なデウスエクスとして復活させるみたいだ」
 ドラゴン勢力の精鋭『十字騎士団クルセイダーズ』を変異強化してのサルベージ、間違い無く厄介な相手だろう。
「こいつが、死神勢力の戦力になってしまえば間違いなく、脅威になる。厳しいかもしれないけど、何としても撃破して欲しい」
 雄大が真摯な瞳で、ケルベロス達に言う。
「サルベージされる個体の説明に移るな。今も言った通り、死神は5体の竜牙兵を一つの個体として復活させる。その姿は、白銀の鎧を纏った4m程のボーンドラゴンに変化している。仮に銀鎧竜とでも名前を付けておくか。銀鎧竜は、知性は無くなっているけど、元々がクラッシャー5体のクルセイダーズだ。一撃一撃が非常に重く、白銀の鎧も死神の力でさらに強固になっている。……ハッキリ言って、強敵だな」
 言いながら雄大が渋顔になる。
「攻撃方法は、ゾディアックソードが両の爪になった斬撃、鎧の中央の十字紋章から発射される星の力を凝縮したグラビティ・エネルギー攻撃、最後にアイスブレスだな。攻撃思考は、兵士だった頃より獣に近いけど、今回もクラッシャーになるから、受けるダメージは覚悟しなきゃならない」
 元は5体のクルセイダーズ、攻撃力、防御力共にかなり向上しているだろう。
「銀鎧竜をサルベージした、怪魚型死神も三匹いるけど、攻撃方法は噛みつくくらいだから素早く殲滅してくれ。こっちに、手こずっていると、銀鎧竜を倒せなくなる可能性が格段に上がるからな」
 怪魚型死神を相手にしている間は、どうしても銀鎧竜側が手薄になる、死神の殲滅に時間をかければ、不利になることは目に見えている。
「折角倒せた強敵を、こんな形で復活されるってのはきついな……。だけど、そんなことも言っていられない! どんな強敵であろうが、死神がどんな手を使ってこようが、脅威は撃破するしかないんだ! 厳しい戦いになると思うけど、よろしく頼んだぜ!」
 そう強く言うと、雄大は拳を強く握りヘリオンへ乗り込んだ。


参加者
アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)
逆黒川・龍之介(剣戟の修練者・e03683)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)
イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
月桜・美影(オラトリオの巫術士・e21666)

■リプレイ

●合成死兵銀鎧竜
 深夜の繁華街、ケルベロス達は目標に向かって疾走していた。
「今回は複数のうえ融合か……もはや人形遊びもここに極まれりって感じだな」
 デウスエクスのサルベージ事件の黒幕と思われる死神……『因縁を喰らうネクロム』
 彼女と何かしらの因縁を持つと噂される、アギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)は、死を遊戯の様に扱う彼女の姿を思いながら呟く。
「……この間、ユウマさん達と倒したクルセイダーズの融合変異体……。厄介だね……」
 今回サルベージされる個体は、『十字騎士団クルセイダーズ』のクラッシャー部隊5体。
 この部隊の討伐に加わっていた、リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)は十分に敵の厄介さを知っていた。
「……でも……それ以上に、死神にこんな形で利用されてるのが、敵とはいえ可哀想、かな……」
 デウスエクスとは言え、サルベージされると言うことは、死神に己が意志とは関係なく利用されることを意味する。
 コギトエルコズム化した場合には発生しない分、ケルベロスがデウスエクスに死を与えられることは、死神が他勢力のサルベージをしやすくしていると言ってもいい……。
「竜牙兵を合成……死神のサルベージはそんなこともできるんですね。 戦力として補充される前に、必ず撃破しましょう!」
『十字騎士団クルセイダーズ』の戦いの後、独自に調査しクルセイダーズ復活の予兆をいち早く感じ取り、雄大の予知に大きな貢献をした、玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)が、彼にしてはハッキリとした意志を持って言う。
『銀鎧竜』を葬るのは、自分の役目と言う無意識の責任の現れなのかもしれない。
「クルセイダーズの集合体ですか……手強そうです。一般人が近くにいないのは不幸中の幸いですね」
 月桜・美影(オラトリオの巫術士・e21666)は、言いながら敵との交戦時間に僅かながらの感謝をしていた。
 この場所は日中なら、人通りが酷く多い繁華街だ。
 その時間に『銀鎧竜』などと言う、脅威が現れればどれほど、人々が混乱するか……そして、どれだけの惨劇が生まれるか、想像するだけで美影は身震いしてしまう。
 それを心配するかの様に、相棒のボクスドラゴン『真桜』が一声『キュウン」と鳴く。
「大丈夫だよ、真桜。わたしもケルベロス。真桜もいるし、それに……わたしがしっかりしなきゃ、皆を守れないもの」
 優しい瞳の中にも、回復手としての自覚を湛え、仲間達を守ると誓う真桜。
「合体して強化させるのはいい考えだが、これ以上危険な存在が増えても困るしな。剣を交え次第、さっさと元の死体に戻ってもらおうか」
 走りつつも、腰の刀に触れながら、逆黒川・龍之介(剣戟の修練者・e03683)が強い決意を持って言う。
 自分の刀の腕は、デウスエクスを切り倒す為だけに磨いて来たのだからと。
「十字騎士団クルセイダーズの集合体みたいだけどドラゴンと全く関係ないのかな?」
 矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)が駆けながらも、素朴な疑問を口にする。
「竜牙兵の頃の思考の一部が残ってるなら本能的に何かしら目的は果たそうと思うんだよね」
 竜牙兵は元々はドラゴンの牙から生まれた先兵だ。
 竜牙兵として生まれ落ちた時、既にドラゴンの意志が思考に刻まれていると言われている。
 だが、死神の力が介入し復活した竜牙兵にドラゴンの意志は残っているのか?
 それは誰にも分からない……。
「悪いドラゴンを倒す為に何でもいいから情報を集めたいな!」
 地球侵攻勢力の中でも最も脅威なのはドラゴン勢力と言っても過言では無い。だからこそ、少しでも情報が欲しいと、莱恵は純粋に思う。
「見えて来たようじゃ。白銀の鎧が目立つ巨体じゃ」
 夜目の効くドワーフである、ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)がいち早く竜牙兵に気付く。
「銀鎧竜。聞きしに勝る、強敵の予感がするのじゃ。夜でよかったのじゃ。昼間じゃったら、被害がきっと大きくなっておったのじゃ。それに夜目の効くあたしには昼間のような明るさなのじゃ」
 言いながら、ウィゼは両手を広げ、守りを固める者達にドローンを飛ばす。
「ギャオオオオーーーーーーゥ!」
 銀鎧竜も、目の前に現れたケルベロス達を見ると……いや、ケルベロス特有のグラビティ・チェインの流れを感じると怒りの咆哮を上げる。
「愛しい人であれ敵であれ、死んだ者はそのままにしておくべきだわ……」
 ウィゼに続く様にドローンを飛ばしながら、イリア・アプルプシオ(機械仕掛けの旋律・e11990)が表情を変えずに言う。
「生前の姿をとどめないのであれば尚の事……ここで終わらせましょう」
 イリアの言葉が終わると同時に、怪魚達が銀鎧竜の兵として動いた。

●死の従者
「毎日打ち込み続けたこの一撃、受けて見ろ!」
 龍之介の神速の抜刀術は、一体の死神に深い傷を刻み込む。
「甘い!」
 攻撃の隙を付いて、龍之介の腕に噛み付こうとした死神の攻撃を瞬時に刀でいなす龍之介。
「皆さん、回復は任せて下さい!」
 叫ぶと、美影は紙兵を散布し、仲間達に守護を与える。
 真桜は、美影の元を離れると死神へと身体をぶつける。
「あまり長引かせる訳にも行きません、早々に終わらせましょう。まずは、死神を殲滅します!」
 達人の如き一撃を死神に与え氷結させながら、ユウマが仲間達に言う。
「悪夢の中で、悔い改めると良い……っ!」
 死神が悪夢に捕らわれるか……それは分からないが、リーナの『魔宝刃ファフニール』は、死を司る死神に死を与える。
「その剣は敵を絶つに敵わず、その鎧は守護には適わず。されど決して守るべきものを背にして屈することは無い。故に我等は――紅札騎士団」
 戦場にアギトの低く重い詠唱が響く。
 アギトの開いた、物語を歪めた魔導書から現れるのは夥しい数のトランプ。
 ある種の呪いにすら近い力だが、アギトの力を受け、それらは仲間達のグラビティ・チェインを守る力となる。
「タマ、ボク達はひたすら攻撃だよ! まず、死神を斃さなきゃ、安心して銀鎧竜を倒せないからねっ!」
 ボクスドラゴンのタマが、勢いよくブレスを発射するのを確認すると、莱恵はその背に生えたる大きな純白の翼を最大限に広げると『罪』そのものを消し去る清浄なる光を放つ。
「……死神の掃討を早くしてもらわんときついかもしれんのう」
 銀鎧竜と対峙している、ウィゼは蔓草で動きを束縛しながらも呟く。
「ウィゼ、あなたは銀鎧竜の足止めに専念して。攻撃は私が止めるわ」
 言う、イリアの身体には既に銀鎧竜の爪痕……いや、5本の剣での斬撃の痕があった。
 アギトの回復を受けてはいるが、それでも傷痕は深く残っている。
「Agnus Dei, qui tollis peccata mundi, miserere nobis.」
 イリアが福音書の一節を歌いあげれば、その旋律は銀鎧竜を襲うグラビティとなるが、銀鎧竜の装甲が固すぎるのか、銀鎧竜に大きなダメージは見受けられない。
「美影! お前は、イリアの回復に徹しろ! 予想以上に銀鎧竜の一発がでけぇ! 他は、俺がカバーする!」
「はい! 御業よ鎧となって彼の者を守護したまえ!」
 アギトの言葉を受けると美影はすぐに御業で鎧を形成し、イリアを回復する。
「てめぇら! 聞いてた通りだ! 雑魚に構ってる暇はねえ! さっさと終わらせるぞ!」
 仲間達に叫ぶように言うと、アギトは爆破スイッチを押しカラフルな爆発で仲間達の力を底上げする。
 その爆風も恐れず、死神はユウマを襲うが、ユウマは爆風すらも味方に付け、身を翻すとグラビティ・チェインを凝縮させた鉄塊剣を死神に叩き込む。
「こういう戦い方もあります」
 ユウマのその言葉を聞くことも無く、真っ二つにされた死神は、地面に落ちる。
「……あと、一匹……」
 影に潜み、鋭い斬撃を死神に浴びせながら、リーナが呟く。
「すぐに終わらせる!」
 言葉と共に龍之介が空すら断ずる斬撃を振るう。
「死神はこれで終わりにするよー!」
 莱恵は言うと、軽快にジャンプしその身に不釣り合いな程の大きさのルーンアックスを振り被る。
「ぶーーーんなぐるっ!」
 莱恵の質量を増すグラビティ・チェインを受けたアックスは、巨大な鈍器となって、死神を押し潰した。
「次は銀鎧竜だよ!」
 莱恵が振り返った時、一番最初に目に映ったのは膝を付く、ユウマだった。

●銀鎧竜の最後
 時間は、少し巻き戻る。
 二匹目の死神を葬り去った後、すぐにユウマは銀鎧竜を足止めしているイリア達の様子を見たが、美影の献身的なヒールをもってしてもダメージを上回ることが出来ないでいたのだ。
「その鎧さえ破壊できれば、あたし達の勝ちじゃ!」
 ウィゼが力の限り、白銀の鎧を打ち砕かんと鎧の構造を熟知した一撃を放つが、大きなダメージには至らない。
「ドローン射出……」
 イリアが、少しでも防御力を上げようとドローンを飛ばす。
「先程のブレスが、あんなに響いてくるなんて……」
 美影の言う通り、銀鎧竜は既にアイスブレスを一度放っていた。
 その冷気は、肌を切り裂き、美影のオーロラによるヒールでも回復しきれないでいた。
 美影を庇った、真桜もかなり消耗している。
 その時、再びイリア目掛けて、銀鎧竜の爪が振り下ろされた……しかし、その攻撃を受けたのは身を挺してイリアを庇ったユウマだった。
 鉄塊剣を横に構え爪を受けようとしたが、それすらも跳ね飛ばし、銀鎧竜の爪はユウマの身を抉ったのだ。
「ユウマ……」
 膝を付くユウマを見ながら茫然と、イリアが呟くが、そのイリアの耳にウィゼの声が聞こえる。
「イリア! 動くのじゃ! とにかく動きを止めぬのじゃ!」
 イリアの脇をすり抜ける様に、ウィゼのブラックスライムの槍が飛ぶ。
 後ろを振り返れば、美影が回復の御業を構成している。
 自分も動かなければ……。
 イリアは思考を切り返ると、流星の軌跡を描きながら銀鎧竜に蹴りを放つ。
「今一度。紅札騎士団」
 アギトの声が響くと、辺りにトランプが嵐の様に舞う。
「おっまたせー!」
 元気な声で跳び上がりながら、莱恵が時空をも凍らせる弾丸を放つ。
「タマ! 美影お姉ちゃんを手伝ってあげて!」
 莱恵がそう言えば、タマは翼を羽ばたかせてユウマの回復をする。
 その間にも、龍之介とリーナの斬撃が銀鎧竜の装甲に傷を入れていく。
「皆さん、ブレスが来ます!」
 一度、銀鎧竜の予備動作を見ていた、美影が叫ぶ。
 そのブレスの直撃を受けたのは、龍之介とイリア、そしてダメージの半分程が回復したばかりのユウマだ。
「他の皆さんを守る為なら!」
 決意と共に、ユウマはその身に魔人を降ろす。
「くそっ! 外套程度じゃ、この冷気は防げないか」
 凍りついた外套を投げ捨て、刀を構え直す、龍之介。
「わたしが……突破口を作るよ……」
 リーナが静かに言うと、両手に周囲の魔力、そしてグラビティ・チェインを集めていく。
「集え力……。わたしの全てを以て討ち滅ぼす……! 討ち滅ぼせ……黒滅の刃!!」
 リーナの叫びと共に現れる、巨大な黒き刃。
 その、魔力で生成した刃を、銀鎧竜の懐に飛び込むと、リーナはその鎧ごと一突きする。
「どんなに硬い装甲でも、外からダメなら……内部からなら……っ!」
 突き刺した、魔力の刃を銀鎧竜の内部で炸裂させるリーナ。
 だが、そのリーナに向かって十字のエネルギーが浴びせられ、吹き飛ばされる。
 だが、銀鎧竜もかなりのダメージを負ったらしく、咆哮を上げ猛り狂っている。
「チャンスを逃すな! 一気に攻めろ!」
 アギトの言葉に、美影が爆破スイッチのボタンを押せば、仲間達の武力を上げる爆発が起こる。
「皆さん、銀鎧竜を! 死なせてあげて下さい!」
 美影の言葉で、ケルベロス達は一斉に動いた。
「天秤座と水瓶座の守護よ……。私に力を……」
 祈る様に二本の剣を掲げるとイリアは胸部から光線を放つ。
「これがボクの全力! 鈍器の力を思い知るんだよ!」
 莱恵は音が響く程の勢いで、銀鎧竜の鎧を殴りつけると、すぐに一歩下がる。
「畳みかけます! 自分の冷気も喰らって下さい!」
 前に出た、ユウマが冷気を込めた一撃を銀鎧竜の穴の空いた鎧に撃ち込む。
「恐れる必要はないのじゃ。お主は、ダモクレスに操られ暴走しても、真の英雄の心を取り戻し、洗脳に打ち勝ったアヒルちゃんDXの魂を引き継いでおるのじゃ。お主にも巨大な敵と戦う心はあるのじゃ。勇気を出して突き進むのじゃ」
 取り出したアヒル型ミサイルを勇気づける様に言うウィゼ。
「さあ行くのじゃ、誇り高き魂を持つ英雄。アヒルちゃんミサイル発射なのじゃ!」
 ウィゼの掛け声と共に発射される、アヒルちゃんミサイルDX!
 その嘴はドリルの様に銀鎧竜の鎧に穴を空けていく。
「これで終わりにする。俺の神速の剣閃、受けるがいい」
 龍之介は、銀鎧竜をも超える程まで跳躍すると、目にも留まらぬ速さの斬撃を、舞う様に放った。
 そして、その嵐の様な刀の乱舞を追えると静かに龍之介は着地する。
 同時に、前に倒れる銀鎧竜。
「少なくとも、お前は強者だった……だが」
 龍之介は銀鎧竜に言いながら刀を納めて行く。
『カチン』
「二度と目覚めるな」
 龍之介の言葉を夜の風がさらった。

●死を超えて……
「敵だったけど……強さへの敬意はあるよ……今度こそ安らかに……」
 少しずつ風化し消えていく銀鎧竜に向けて、祈りを捧げるリーナ。
 その一方で、ウィゼは頑張ったアヒルちゃんを撫で撫でしている。
「やっぱり、ユウマさんとイリアさんの負傷が一番酷くなってしまいましたね」
 ヒールを二人にかけながら、美影が呟く。
「これくらい、大丈夫……倒せたもの……」
 イリアが彼女らしくぶっきらぼうに言う。
「そうですよ。怪我は治して頂いていますし……それに。あんなものの為に、人々を危険に晒すよりはマシですよ」
 少し気弱な表情ながらも、ハッキリ言うユウマ。
(「大暴れしたから、少しは体重減ったかな? やっぱり気になるよね……乙女だから♪」)
 莱恵がそんなことを考えていると、タマが無邪気にすり寄って来る。
「あれだけの装甲を斬れば、多少は刃も痛むか……。近いうちに刀匠の所に行くかな」
 銀鎧竜の鎧を斬った刀は、刃こぼれこそしていなかったが多少のダメージはあった様で、龍之介はそんなことを呟く。
 そして……一人、仲間と距離を取って銀鎧竜を見ていたアギトが誰に言うでもなく呟く。
「死神に死者を引きずり出すな、なんてただの戯言だが。アレは本気で回収する気があるのかね……?」
 死を弄んでいるだけ、地球側を翻弄しているだけ、ただの愉快犯……あの女ならどんな理由でも当てはまるだろう。
 いずれ会うことになるであろう、因縁の相手を……死を操るシスターを、アギトはそう評して皮肉気に笑った。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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