暗渠の耽溺

作者:長針

 どことも知れない陰鬱な空間。
 そこに一人のドラグナーとその前でひざまずくオークの姿があった。
「ドン・ピッグよ、首尾の方はどうだ?」
 ドラグナーがオークに語りかけると、オークは軽薄そうな笑みを浮かべ顔を上げる。
「へへ、着々と進んでますぜ、旦那。後は適当な拠点さえ用意してくれりゃ配下に命じて憎悪も拒絶もいくらでも集めてきてやらあ」
「相変わらず自分では動かぬのだな。自分は危険を避け、配下に女を献上させる。いかにもおまえらしい卑劣なやり口だ」
 侮蔑的な言葉とは裏腹にドラグナーの口調は楽しげで、オークの方もにんまりと口の端を吊り上げる。
「そりゃ最高の誉め言葉だ。俺っちにとって卑劣ってのは、したたかで賢いってことだからな」
「やはりこの作戦はお前のような者の方が適しているようだな。よかろう魔空回廊を安全な拠点までつなげてやろう。あとは好きにするが良い」
 ドラグナーが指を鳴らし、空間が歪む。オークはそうやって出来た『門』を潜りながら、
「おぅ、楽しみにしてな。アイツらには女どもをかわいがってやるように言ってやるからよ」
 獣じみた笑い声を上げ、その場から消え去った。

「ブヒヒ、どうした、お嬢ちゃん。もっとカワイイ声を聞かせるブヒ、ヒッ、ヒッ、ヒッ」
「……」
 荒い息づかいと湿った音ばかり耳に入る。
 何かが自分の中で動いている。何かが身体中を這い回っている。
 外側も内側も汚れて気持ち悪い。
 どうしてこうなってしまったのだろう。
 進路のことで両親と喧嘩したあと家を飛び出して、
 前途洋々な友人たちとは顔を合わせないよう離れた繁華街に来て、
 キャッチセールスやありがちな援助の申し出を避けて、
 暗い路地裏に迷い込んで、
 何かにマンホールの中へと引っ張りこまれた。
 そこからは思い出したくーー覚えていない。
 ただ、早くここから逃げ出したかった。
「誰、か……助け……」 
 少女の力ない声は誰にも届くことなく、暗闇の中に消えた。

 一同が到着すると、硬い表情をしたセリカに出迎えられた。
「皆さん、早速ですが本題に入らせていただきます。これから都内の繁華街でオークが家出中の少女を攫うという事件が起こります。この事件は、ギルポーク・ジューシィの主要配下であるドン・ピッグという非常に用心深いオークが主導しており、都市の闇から人知れず女性を誘拐することを目的としているようなんです」
 時間を惜しむように、セリカが事件の概要について説明を始める。
「今回のオークたちは東京の地下に張り巡らされた水道を利用し、路地裏のマンホールから女性を引きずり込んだのち、その……暴行を加えてからアジトに攫うという手口を使ってきます。この際にオークたちに攫われる前に少女に接触する、地下水道からの進入経路を全て封鎖するなど、事件が起こること自体を防ぐ行為をするとオークたちは別の誰も知らないところで事件を起こしてしまうので注意して下さい」
 途中、少し言葉を選びながらセリカが書類をめくる。
「次に戦闘に関する注意事項ついてです。敵はドン・ピッグ配下の一般オークが六体。欲望に満ちた叫びで自身を鼓舞するほか、背中の触手を使ってこちらを捕縛したり、触手を尖らせて服を破ってきたりします。このオークたちはドン・ピッグの部下らしく好色で非常に用心深い性格をしており、女性や体力の少ない人を優先して狙ってくるみたいです。また、不利になれば少女を連れて逃亡の可能性もありますが、彼らは地下水道の構造を熟知しており、追跡には綿密な下準備が必要となります。
 それと、戦場となる地下水道は入り口が狭く、そのまま突入すると全員が揃う前に包囲攻撃を仕掛けられる可能性があります。ですので、何班かに分けて別の入り口から進入するのが妥当でしょう。ただし事件発生前に突入すると予知が変わる可能性があるのでお気をつけ下さい」
 そこまで言ってセリカが顔を上げ、皆の表情を確認する。そして一同が頷くと、
「皆さん、その……今回の事件は未然に防げなければ痛ましいものとなります。ひょっとしたら、私たちが知らないうちに攫われた女性もいるかもしれません。悲劇を止めるため、悲劇を繰り返させないため、どうかお願いします」
 皆へと深く頭を下げた。


参加者
生明・穣(巌アンド穣の飴は舐め切る方・e00256)
望月・巌(巌アンド穣の飴を噛んじゃう方・e00281)
シルフィリアス・セレナーデ(魔法少女ウィスタリアシルフィ・e00583)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
空鳴・無月(憧憬の空・e04245)
エルザート・ロッソ(ファントムソード・e24318)
高天原・碧(エメラルドドラグーン・e27164)
フィマリア・フィーネス(ウィッチドクター・e28502)

■リプレイ

●暗黒への突入
「ええ、はい……巌、こちらの資料の精査と送信をお願いします」
 ワイヤレスのヘッドセットで電話をかけながら忙しなく端末の操作をしていたのは生明・穣(巌アンド穣の飴は舐め切る方・e00256)だ。
 彼は端末に情報を入力すると同時、白鼈甲製の眼鏡のブリッジを持ち上げ、隣で同様の操作をしていた相棒に目配せをする。 
「おうよ、任せとけ。そうだ、穣。陽治に電話してるんだったらよろしく言っといてくれ。ああこっちの話だ。すまねえ」
 穣の視線に手を挙げて応じた望月・巌(巌アンド穣の飴を噛んじゃう方・e00281)が、通話したまま受信した情報を即座に目を通し、手早くまとめた。
「ありがとうございます。はい、お待たせしました……ええ、今回は巌も一緒です。それでは陽治、そちらも身体に気をつけてください。巌もよろしくと言っていましたよ。それでは」
 厳に礼を言いつつ、穣が電話の相手に頭を下げ、通話を切る。
 二人の息のあった手際は見事なもので、画面上で踊る幾つもの言葉や図は滞りなく精査・整理され有意な情報に組み換えられていく。
「こ、これ、東京の地下ってこんな広いんすか? あちしが持ってきた地図の分だけでもたいがいだと思ってたら……」
 端末と地図らしき紙を交互に見比べ、シルフィリアス・セレナーデ(魔法少女ウィスタリアシルフィ・e00583)はあまりの情報量に圧倒されていた。そんな彼女に涼しげな声がかけられる。マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)だ。
「東京の地下開発は江戸時代に端を発していて、以降幾度となく増設・拡張を繰り返しているから、極めて複雑かつ不規則な構造になっているのよ。こんな風に」
 そう言ってマキナは空中に地図を投影させる。その間にも巌から次々と送られる情報が地図に反映され、めまぐるしい速度で更新されていた。
「あっちは大変そうねえ。それで、そっちはどうかしら? 応答お願いできる?」
 他の面々を横目におっとりのんびりした口調で電話の向こうへと語りかけたのはフィマリア・フィーネス(ウィッチドクター・e28502)だ。
『……問題ない』
 フィマリアに応じたのは抑揚のない静かな声ーー空鳴・無月(憧憬の空・e04245)だった。
「あ、無月ちゃん? ターゲットの子は見つかった? エルザートちゃんと碧ちゃんの様子はどう?」
『こっちは大丈夫だよ! 女の子も確認済み』
 フィマリアが質問すると、しばらく間が空いた後、エルザート・ロッソ(ファントムソード・e24318)の快活な声が返ってきた。
「あら、そう。それじゃあ後はオークが出てくるのを待つだけってとこかしら」
『そうだね。多分、もうそろそろーー』
 そこまで聞こえたところで、切迫した声が割って入る。
『皆さん、対象の少女が触手らしきものでマンホール内に引きずり込まれました! 作戦開始です!』
『あ、碧、待ってよ。というわけだから、ボクたちは行ってくるよ』
『後は、よろしく……』
 フィマリアの携帯を通して響いた高天原・碧(エメラルドドラグーン・e27164)の叫びを皮切りに、エルザートと無月が続き、通信は途切れた。

●闇からの救出
「秘技・百裂触手突きブヒ!」
「うわわっ!? なんかぬるっときた! ぬるぬるいやぁ!!」
 乱れ飛んでくる触手はエルザートの服を正確に破り捨て、ぬらぬらとした粘液が引き締まった色白の肌を舐める。それも女性的な膨らみのある部分を狙いつつ僅かに外すという何ともマニアックな攻め方だった。
「ブヒっ、ブヒっ、こ、怖くないよ、お嬢ちゃん。だから、こっちに来るブヒ……」
「絶対、嫌……」
 わきわきと触手を蠢かせながらにじり寄ってくるオークに、無月が眉をひそめて首を横に振る。彼女の来ている競泳水着もあちこち破かれており、その裂け目から少女特有のなだらかに曲線を描く部分が所々露出している。しかもご丁寧にストラップの部分が引き裂かれており、手で胸の部分を押さえていなければすぐにでもずれ落ちるという有様だ。
 そんな中、もっとも『酷い』状況に陥っていたのは碧だった。
「やっ……、触手がっ……!? いやっ、放してっ! え……そんなところまで? あっ……」
 フィルムスーツの大半が破かれ、その隙間から触手が侵入し、僅かに残った服の下で湿った音を立てながら、碧の体の柔らかい場所を味わうように絡みつき、這い回る。
「ブヘヘ、お嬢ちゃんも、一緒にどうだい? いや、もっと……もっと楽しいことをするブヒよ」
「んん……」
 オークが少女の体を抱き寄せ、怯えた顔を触手で舐めるように撫でる。そのまま触手は少女の体を伝いながら下へと延ばされーー
 少女を奪還されたオークがいきり立ちながら触手をマキナへと向ける。しかし、 
「随分と縛るのが好きみたいねえ? ならーー縛られるのは好きかしら?」
「ブヒッ!?」
 横合いからのんびりした声が響くと同時、一体のオークが突如として宙へと吊り上げられる。
「どう? 縛られた感想は♪ もっと鳴いてもいいのよ♪」
 姿を現したフィマリアが婉然と微笑み、巧みに右手から伸びたワイヤーを操作し、オークを逃さないように捕らえていた。更に、その背後から軽い調子の声が投げかけられる。
「さて、そろそろいいっすね」
 水道内で目映い輝きが生まれ、その中で生まれたままの姿で光に包まれたシルフィリアスの体にリボンが巻き付き、
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす!」
 光が収まると同時に、フリルをふんだんにあしらったミニスカドレスを身に纏ったシルフィリアスが片足を上げ、杖に体を絡ませるようにポーズをとっていた。
 オークたちはぽかんとその様子を見つめるばかりだったが、
「これ以上の勝手はさせないっすよーーこれでもくらえっすー」
 シルフィリアスが杖から極太の光を放出するやいなや、オークたちは散り散りになる。しかし、ワイヤーに捕らわれた一体は身動きがとれず、
「え、ちょ、待つブーー」
 光の中で塵に変わった。オークたちは光とは逆方向へと駆けていったが、
「不埒者共よ、これまでの悪行を悔いなさい」
 優雅でありながら怒気を孕んだ台詞とともに、穣の体から発生した黒い粘液の津波がうなりを上げる。
「ブっヒャーっ!?」
 粘液の津波からオークが抜け出す。しかし、
「おっと、逃がしゃしねえぜ。観念しろい!」
 一瞬のうちに幾度も火花が瞬きが見えた後、オークは自分の体がいつの間にか傾いていたことに気づく。
「ぶひ……?」
 オークが崩れ落ち、そこから少し離れた場所で、硝煙が立ち上る銃を構えた巌の姿があった。
「さすがです、巌」
「そっちこそな、穣」 
 互いの拳を軽くぶつけ、厳と穣が足並みを揃え、オークたちとの間合いを詰める。他の者も同様にオークににじり寄っていた。
「ど、どうするブヒ?」
「決まってるブヒ! 逃げるブヒ! これ以上危険を冒しても仕方ないブヒ!」
 左右と正面を塞がれたオークたちは残った背後の道へと駆け出す。
「そこまでよ」
「ブヒャアア!?」
 冷たい、しかし紛れもなく怒気の孕んだマキナの声と共に触手ごとオークが解体された。同時に少女が解放され、碧が叫ぶ。
「皆さん、私に構わず少女を助けてください! お願いします」
「く、すまねえ、碧。おめえさんの勇気は無駄にしねえぜ!」
 碧の言葉にいち早く応じた巌が少女の体を抱き留める。
「ブヒ、女が!」
「捨て置くブヒ! 一人いれば十分ブヒ!」
 オークたちは名残惜しそうにしながらも、碧を連れ水道の奥へと消えていった。
「もう大丈夫よ。怪我はないかしら」
「は、はい……ありがとうございます」
 マキナに少女が力なく礼を言う。そこへ翼の生えた猫ーー穣のサーヴァントである藍華が少女の肩に降り立つ。
「これをどうぞ。地上に出れば、警官が保護してくれるはずです。それまではこの子について行って下さい」
 ハンカチを優しく差し出しながら穣が藍華に指示を出す。
「あの、すいません……私のせいであの人が……」
 少女が受け取ったハンカチを握りしめ、俯く。そんな少女にのんびりとした声がかけられる。
「大丈夫よー。これも作戦のうちだから。心配いらないわよ」
「そういうことです。では、もう二度とこんな所には来ない様にね」
「……は、はい! わかりました。あの、あの人にもお礼、伝えて下さい」  
 フィマリアと穣の言葉に目をぱちくりとさせた後、少女は安堵した表情を覗かせ、駆けて行った。

●欲望という名の暗部
「うわっ、神殿っぽいっす! パルテノンっす!」
 碧が残したアリアドネの糸を辿り、その空間に出たとき、シルフィリアスは思わず目を丸くして立ち止まった。
 彼女が驚くのも無理もない。広大な空間に巨木のような柱が幾つも立ち並ぶ光景は正に偉容と言うに相応しく、それこそ古代の巨人が住まう神殿のようだった。
「ここは……調圧水槽ね」
 マキナが空中に投影した地図を確認しながら告げる。
「ちょーあつ水槽?」
「雨水などが急激に流入しないよう一時的に貯水し、水の勢いを調節する施設のことですよ」
「おう、それでこの柱は水で膨張した土壌の圧力を調整するためのもんだ。しっかし事前に調べてたとはいえ、実際に見ると正に絶景かなってとこだな」
 更に首を傾げるシルフィリアスに穣と厳が補足を加える。それを隣で聞いていたエルザートが頷きながら水槽内を見回す。
「へえ~、それでこんなに柱が並んでるんだ。でも、ちょっと死角が多くてアジトを探すのは大変かも……」
「突入は考えた方がいいと思う……、ドンとはち合わせるのは危険……」
 暗視ゴーグル越しに難しい顔になるエルザートに、無月が静かに言った。その意見に同意を示したのは同じく暗視スコープで周囲を確認していたフィマリアだ。
「まあ、碧ちゃんを助けたら無理しなくてもいいと思うわ。死んだら薬でどうにもならないしね。あ、いたわ」
 一同が目を向けると、碧を担いだオークたち三体の姿があった。
「とにかく、とりあえず碧を助けちゃおう! そろそろ限界みたいだし!」
「それは、賛成……」
 エルザートは紅の髪をなびかせ、無月はいつもの無表情のままで手にした武器へそれぞれ力を込める。
「汝の罪に、罰を。汝の咎に、裁きを」
「……凍てつけ」
 迅雷の速度で繰り出された突きと絶対零度の氷結の槍が同時にオークを貫いた。
「ブヒィィィ、あ、が……!」
 雷と氷によって貫かれたオークの体が塵に帰り、絡め取られていた碧の体が投げ出される。そすかさず厳が手を伸ばし、その体を受け止めた。
「よっ……と、うっし、よく耐えてくれたな、碧」
「……ありがとうございます、私、みなさんのこと信じてましたから」
「はいはい、消耗してるんだからあんまり話しちゃダメよ~。ほら、治療してあげる」
 礼を言う碧を柔らかく制しつつ、フィマリアが手当を始める。疲労と傷、破れた服は回復し、碧は覚束ない足取りながらも自らの足で立ち上がった。
「ブヒャアア、女を返すブヒィィィ!」
 碧まで奪還されたオークは叫びを上げ、再び彼女へと触手を振りかざす。
「これが私の役割、護るわ」
 身を挺して碧をかばったのはマキナだ。オークは怒りを募らせ、触手を突き出してくる。
「邪魔するなブヒ! オマエもひん剥いてやるブヒィ!」
「くっ……これだからあまり身を晒したくは無いのだけど……でも、護ってみせるわ」
 触手の嵐はマキナの胸のあたりを重点的に狙い、装甲を穿ち、徐々に丸みを帯びた膨らみが露わになってくる。
「ブヒヒヒ、もう少しでポロリブヒよ? どこまで耐えられるブヒか?」
 下卑た愉悦にオークが顔を歪める。しかし、
「貴方たちは女性しか見えていないのが最大の弱点ですねーーそのかそけき光り身を蝕む死の色に染む」
 穣が抜き放った武器が一陣の風を巻き起こし、オークの体を撫でる。その部分が発光し始め、侵食するように光は広がり、輝きを強め、
「ぶ、ひ……?」
 ついにはその生命さえも蝕み去った。
 残り一体。
「な、ど、どういうことブヒ、ドン! ここならケルベロスの女を連れてきても問題ないって、アンタが言ったんじゃないブヒか!?」
 動揺した声。一同が慎重に近づくと、広大な敷地の隅に繭のように固まった触手の塊が鎮座していた。
『ああ、確かに言ったさ。だが俺っちはこうも言ったはずだ。ケルベロスの女はその場で犯して殺せ、ってな。それに、俺っちには問題ないのも事実だ』
 触手部屋から別の声が響く。一同は顔を見合わせたが、あることに気づき、足を踏み入れた。異様な外観とは裏腹に、中身は普通のワンルームの部屋で、シンプルな構造だった。
「だ、だれ?」
「また……新しいのが来たの……? もう、いやよ……」
 最初に聞こえたのはか細い女性たちの声だった。彼女たちは部屋の中央にあるキングサイズのベッドに力なく横たわっていた。
「辛かったな、もう大丈夫だぞ」
 巌が女性たちにタオルをかけ、優しい世界を作り慰める。
「ぶ、ぶひ!?」
 そのときになってようやく気づいたのか、オークが振り返りびくりと肩を震わす。その側から、
『ちっ、やっぱり踏み込まれたか。仕方ねえ、そこの囮用のアジトと女どもは破棄だ。てめえはさっさと死ね。じゃあな』
 通信機を通したドン・ピッグの忌々しそうな悪態が吐き出された。そう、一同は明らかに生の声とは違うことに気づき、踏み込んだのである。
「これがドン・ピッグですか……噂以上にかくれんぼが好きな方のようですね」
「ええ、でも今回の件でドンのやり口はある程度判明したわ。悪くない成果よ。それより、早く被害者たちを外に出した方がいいわ」
「ああ、そうだな。雨が降ると水が一気に流れ込んでくるからな。さっさと出るとするか」
 やりとりを見守っていた穣と巌、マキナが脱出の準備にとりかかる。そこへ、
「ん、な、なんすかこれ?」
 部屋で手がかりを探していたシルフィリアスの声に皆が一斉に振り向く。
「あれ、これケルベロスコートーーのレプリカ?」
 シルフィリアスが手にした衣装を見てエルザートの頭に疑問符が浮かぶ。
「……死経装」
「わあ、施術黒衣とか降魔道義もあるわ。一体何に使ったのかしらね♪」
 無月とフィマリアがクローゼットの中から次々にレプリカ服を引っ張り出していく。
「ち、ちがうブヒ、レプリカ装備を作って『ケルベロスわんわん調教プレイ』なんて、断じてやってないブヒ!」
 部屋の隅で縮こまっていたオークがぶんぶんと首を振りつつ、墓穴を掘る。
 わんわんと『わんわん調教プレイ』という台詞がこだまし、女性陣の目は白々と底冷えしていく。
「……何か言いたいことはありますか?」
 今回最も被害を受けた碧が努めて平静な顔で尋ねる。
「は、話せばわかーー」
『問答無用!!』
 言い終わる前に、女性陣の言葉と心は一つになっていた。
 後には塵さえも残らなかった。 

作者:長針 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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