オウガメタル救出～守りたい、決死の逃避行

■リプレイ

●森の小路
　山陰地方の某山中――。
　ヘリオライダーたちの告げた、逃走せしオウガメタルたちの発する銀色の光が、きわめて広い範囲で数分単位の明滅を繰り返している。

　そんな中、陽乃鳥と共に来たケルベロスたちは自分たちが救出に向かうターゲットを早々に見定めると、もっとギリギリまで寄せるように、と告げる。
「もっと……もっと近くまでお願いします」
　降下ポイントを探りつつ告げる楠久・諷（オラトリオの鹵獲術士・e28333）。
　短く応えた陽乃鳥が、真剣な表情で出来るかぎり近くのポイント上空へと寄せると、ケルベロスたちは一気に降下。速やかに地上での合流を図る。
「さぁ、逃げるネズミを逃がす仕事だ。行こう」
　リルカ・リルカ（ストレイドッグ・e14497）がオウガメタルたちの方を指差すと、樹々の枝があらぬ方向へと曲がり、道なき道が拓けてゆく。
「よーし！　そんじゃま、オウガメタル達の逃避行に手を貸してやりますか」
「では僕が先導しましょう」
　すかさずそっちに向かって走り出すリーゼン・トラ（さすらいのヤンキードクター・e03420）に、クィル・リカ（星還・e00189）が並ぶ。
　道が拓けたお陰でリーゼンにとっての『魂』であるリーゼントにとって何の障害もなくなったのが幸いと言えよう。
　夜道を照らす光源は、光量を落とした電池式のカンテラ。椿木・旭矢（雷の手指・e22146）が手にしたそれだけが、彼らにとって唯一の明かり。
「こんなに鬼気迫る状況じゃなかったら、気の早いホタルかんしょーみたいね」
　柊・詩帆（怠魔師・e26972）も、今のところはまだ元気。まだ見ぬオウガメタルと、話をしてみたいと思えばこそ。
「オウガメタルにゃん、助けに来たにゃー！」
　大声を張り上げる、マオ・ニャン（ねこむすめ・e28248）。
　その声に反応するかのように、行く先の方から金属のぶつかり合う音が響く。
「ちっ、もう捕捉されてるのか」
　キース・クレイノア（息吹・e01393）がギアを上げるように一気に加速。その行く手を一直線に切り拓くのはクィル。
（「この足がある限り……」）
　今この場で守るべき者を守り続ける――それは言葉にこそせぬ、内なる誓い。
　そんな彼らの行く手に広がっていたのは、全身から仄かに発光する銀色が、力を失いつつあるオウガメタルたち。
　その首筋にアルミの牙を突き立てるローカスト、そして、耳をつんざく破壊の音波……呵責ない攻撃を掛けるローカストたちは全部で５体。うち１体が兵隊蟻だとすると働き蟻が４体。救うべきオウガメタルたちとの戦端は、既に開かれていた。

●ローカストたちの力
　走るのは止めないまま、キースは小型無人機の群れを召喚。前衛の面々を守る盾とする。
　同じくマオは、地面にケルベロスチェインを展開。守護の魔法陣を描き、同時にサーヴァントのニャンジャが邪気を祓う翼で前衛を守る。
　敵の方が力は上――そう明言されている以上、数の優位だけでは戦えない。たとえ状況が逼迫していようとも、譲れない一線。
　そんな状況下、ローカストたちへの初撃を放ったのはリルカ。
　オウガメタルに牙を突き立てている個体を狙い、アームドフォートの主砲による派手な砲撃を放つ。
「どう？　これで、あたしたちを無視できないでしょ！？」
　砲撃の爆煙が落ち着いたところへ、エアシューズで滑り込む旭矢。悪い足場をものともせず、地を蹴り、星々の力を加えた蹴りで兵隊蟻の頭を狙う。
　ギギッ……。
　だが、当の兵隊蟻はその動きを完全に把握しており、配下の働き蟻に何かを命じた。するとその蟻は、迷うことなく自らの身を以て蹴り足の前に身を投げ出していた。
「今のソイツ！　アレからイテコマす！！」
　戦場に光源を確保すべく、持ってきたカンテラの窓を片っ端から開けてバラ撒いていた詩帆が、合間に指差して叫ぶ。ディフェンダーの働き蟻を潰すのが先決、と。
　でなければ肝心な時に庇われ、決め手を損ないかねない――そんな主の声に真っ先に応えたのはサーヴァントのコペル。咥えた刃で蟻に斬り付ける。
　そして、大柄でひときわ目立つリーゼンは、辺りの樹々の枝にカンテラを括り付け、オウガメタルたちに呼び掛けた。
「こっちまで逃げてこい！　追っ手は俺たちが何とかしてやる」
　響く声に反応し、襲われていたアルミニウム生命体たちがローカストらを振り切る。
　だが、振り切られた奴らは追い縋ることをせず、標的を現れた妨害者たちに切り替え、羽根を擦り合わせるようにして甲高い音を奏でる。
　先ほど狙い撃ったリルカを、見えない音の波が襲う。破壊の力を秘めし２本の波が、彼女の意識を混濁させる……。
　それに続くのは、目の前の一群を率いる兵隊蟻。
「アリア騎士クリムガイン、参る」
　一方的に名乗りを挙げると、その身体に纏いし棘を伸ばして目の前の旭矢の二の腕に突き刺す。
　ずぶっ。皮膚や筋肉を突き破る音。そして棘の先から液状の何かが注がれる感覚と共に、腕がアルミと化してゆく。
「ぐうっ……」
　微かな呻きのみでそれに耐え、逃れようとする旭矢にさらに働き蟻がアルミの牙を伸ばし貫いた。
「妖精の祝福をこの一矢に！」
　諷が妖精の弓を構え一矢を放つ。祝福の力が傷付いた仲間の痛みを和らげる。
「確かに強いですね……でも僕たちも退けません。なんとか勝って救け出すことに集中しましょう」
　クィルが星蒼杖を掲げて雷を奔らせ、棘を断ち切った。
　兵隊蟻――クリムガインと名乗ったアリア騎士が怯み、働き蟻たちの気が逸れた瞬間、オウガメタルたちが必死に駆け寄ってくる。
　彼らから伝わってくるのは、ローカストの元から逃れたい、という強い意志。
　その意志に人一倍強いシンパシーを感じ、敵に怒りすらこみ上げていたマオ。それでも自らが手を下すより効果的……と、あくまで仲間を支援することで戦うスタイルを貫き、自分たち前衛の背後に色とりどりの爆発を起こして勇気を鼓舞する。
　その代わり……ではないけれど、守りたいという強い意志を明確に力に変えたキースがアリア騎士に迫る。
　腕を掲げると共に響く玻璃の鈴の音。その手を敵の眼前を覆うように翳すと、極限の渇きにある者が潤いを求めるように、裡なる炎が敵の力を貪欲に吸いあげようとする。
「……いただきます」
　だが、それすらも働き蟻が身を挺し、騎士の代わりに自らの血肉を捧げんとする。
「只ではくれてやらん……」
　働き蟻の腕にカマキリのような鎌が生える。大きな鎌の刃がキースの掲げた腕から胸にかけてを切り裂いた。
「そこまで守りたいのか？　なら最期まで守っているといい」
　標的を働き蟻へと変えた旭矢はガトリングガンを構え、爆炎の力を込める。そして無数の炎弾はローカストの躯に吸い込まれていった。
「そのままジッとしてろ……当たれ当たれ～っ」
　リルカが改造して一層長さを増したようなアームドフォートを構える。
　ロングバレルキャノン――長砲身から繰り出すそれは弾丸に速さと回転を与えることで威力を増すが、その代わり当てるのは非常に難しく、彼女でなくては侭ならない。
　その渾身の一撃を、働き蟻に防がれぬようアリア騎士とやらにぶち込む。
　だが、その間に再び催眠の音波がＷで彼女に向けられた。先ほどは集中してたお陰で耐え切ったものの……。
　さらに続いて、前に出たマオの首筋を働き蟻の持つアルミの牙が狙う。しかし、それをニャンジャが身を挺して庇う。
「にゃーっ！」
「ここは俺の出番だな。搦め手の支援、行くぜ！」
　オウガメタルたちが逃げ込んできたのを確かめるや、今度は自ら前に出たリーゼンが、『魂』に込めた癒しを解き放つ。
　しかし仲間たちのダメージはもっと深刻で、再生理威全斗須裳愚だけでは足りやしない。不足を少しでも補おうと、諷が、溜めていたオーラでリルカの催眠状態を解き放つ。
　こうして何とか戦線を維持しているように見えたかも知れないが、実はもっと厳しく、言わば薄氷の上に立っているようなもの。
　その証が、戦況を見つめつつ狙いすましていたアリア騎士の真っ赤な瞳。戦うために生まれた兵隊蟻は、まさに今、機が熟したかのように一気に跳躍。仰ぎ見る上空から放つ鋭い蹴撃。その爪先がキースの身体を貫いていた。
「ごめん……」
　短い一言と共に崩折れてゆくキース。残る面々にできるのは、致命でないことを祈ることだけだった……。

●アリア騎士
「これだけやって敵のいっぴきも斃せない？　もう……今まで以上に前のめりでいくよっ！　まだ長そうだし、そこでおーえんよろしくー」
　深刻さを匂わせないようオウガメタルに軽口を投げ、両手の鎖を伸ばす詩帆。あと僅かで墜ちるはずの働き蟻を縛り上げ、一気に締め付ける。
　息苦しくなったところに充満するのは、コペルが作り出す瘴気。それを一杯に吸い込んだローカストは、一層の苦悶と共に墜ちていった。

「しかし、手強い……ですね」
　思わず呟いたクィルは、それでもケリを付けるべく星蒼杖に加えて星送を構える。働き蟻に防がれることがなくなった兵隊蟻に対し、２本の杖を交差させるように叩き込み、莫大な雷の力を一気に流し込んでゆく。
「き……効かぬ。我は崩れぬ岩肌。やわな攻撃など毛ほども感じぬわ！」
　苦悶の表情を力づくで振り切るように叫んだ騎士は、体内のアルミニウム生命体を解放。生体金属で全身を覆い、漆黒の騎士から白銀の騎士へと変貌した。
　しかしマオはそんな姿にも眉ひとつ動かすことなく、自らのダメージも顧みずに、リルカに向かって月光の力を秘めし光球で、癒しと共に力を付与。
「さっきの大きいヤツを頼むにゃん！」
「頼まれた！　と言いたいとこだがちょっとタンマ。大きいのは次な、次！」
　と、貰った光球の代わりに漆黒の魔力弾を騎士目掛けてぶつける。
　その間に再び働き蟻たちの発する破壊音波が、今度はマオを襲った。
　にゃっ、と叫んだ彼女の元へ旭矢が駆けつける。
「待たせたな……今、癒す。俺が癒し切ってみせる！」
　その強力な声音と共に、全身から立ち上るグラビティチェインの力。その力はまるで包帯のように彼女に絡みつき、その傷口を塞いでゆく。
　と同時にローカストたちの体内にいるであろうアルミニウムの生命に向かって言葉を掛ける――即ち、お前たちも逃げて来い、と。
　だが、その声が届くのは一層難しい。
　逆に、怒りをあらわにしたローカストが旭矢に襲いかかり、アルミの牙を突き立てる。一撃一撃は致命的でなかったとしても、蓄積すれば無視できまい。
　――それを承知している諷が、妖精の祝福を込めし矢で、旭矢の傷を癒す。
（「私たちから強要する必要はありません。行動を見て判断して貰えれば……」）
　さらにはリーゼンのブレイブマインが炸裂。リルカの傷を癒すと共に、多彩な爆炎を上げて攻撃を援護。
　続くマオも同じように爆炎を上げて援護しようとしたが、脳裡に残る催眠効果がそれをローカストたちの側に施していた。
　こうして、さらなる長期戦の様相を呈してきたことに嫌気が差してきていながらも、気合を入れ直した詩帆の手に光が宿る。
（「来たっ！」）
　稀に漲る不思議パワー。その手を兵隊蟻に翳した途端、幻日灯火の光が飛ぶ。
　敵も長期戦になったことを悟ったのだろう。兵隊蟻から指示のようなものが飛び、働き蟻たちが動きを変えた。
　即ち、癒し手を狙うべく破壊音波の標的を諷に変える。耳障りな『音』が諷の心を蝕む。
（「……大丈夫。もう少し……」）
　仲間を救う――彼女の意識に付け込んだ、敵の集中砲火はまだ止まず生体金属の鎌が、その胸を貫いていた。
「くっ……また仲間が……」
　唇を噛むクィル。仲間が斃れる様を見るのは辛い……だが、これ以上被害を拡大することになるのは、もっと辛い。
「そのように粗末に使い潰されるなど、望んだ形ではないでしょう。支配に抗い、できるなら逃げてください」
　そう告げながら静かに詠唱を始める。
「空を裂き咲く水の花、紅き血色のはなびら散らせ」
　詠唱と共に現れたのは鋭利な水の刃。鋭い刃の前には白銀の装甲すらほぼ無意味。兵隊蟻の躯を裂き、赤き花を描くように四方へと散って霧散する。
「……お、おのれ……」
　膝をつく兵隊蟻。アリア騎士としての本来の任でないとは言え、こんなところで斃れる訳にはいかない……。
　そんな想いが脳裡を締めるや、騎士の全身に再び力が漲る。
　再び跳躍。クィルに一矢報いようと、かの蹴りを放つ。
「そうはさせないにゃん！」
　その間に割って入ったのはマオ。居てもたっても居られず身を挺したものの、彼女も無傷という訳じゃない。強力無比な決め技は、ディフェンダーとしての彼女の余力を、ほんの少しだけ上回り……砂塵が収まった後に立っていたのは、敵の姿。
「あとは頼んだにゃー」
「任せて！　あたしだってね、色々思う所がないでもないよ。だから……当たれーっ！」
　再び長砲身から放つ、まさに渾身の一撃が、辛うじて立っていた騎士に引導を渡したのだった。
「ここ……まで……か。働き蟻たちよ。我が斃れた後も退いてはならん……奴らを残らず駆逐せよ……」
　兵隊蟻さえ斃せれば……それが頼みの綱であったにも関わらず、敵は余計な一言を遺し、倒れていった。

●生死の分岐点
「おぅおぅ、お前らの要はぶっ倒れたが、まだ戦うのか？　このまま戦っても俺達の勝ちは動かねぇぜ。こっちもお前等の殲滅が目的じゃねーし、逃げるならおわねー。どうする？」
　尋ねるリーゼンの声に応えるより、残された命に従おうと、苛烈な攻撃に移る蟻たち。
（「言っても聞かねーか」）
　旭矢が爆炎の魔力を込めてガトリングガンを斉射。蟻たちの足許に炎が燻る。
「今すぐ帰ってキュアを受けろ。俺達を倒しても、その炎は消えないぞ。それに、今やこの山には、地獄の番犬がひしめいているんだからな」
「そうだ、そうだ。だーもーっ！　さっさと山奥かえれよぅ…」
　思わず漏れる詩帆の本音。もう終わると思っていたのだから当然か。再び幻日灯火の光を一群に向けて放つ。
　さすがに怯む働き蟻たち。元々戦闘が本分でないのだから当然か……。
　そして、命に逆らうこととの二択に数瞬ほど頭を悩ませた挙句、彼らは一斉に身を翻したのだった。

「ふぅ。あぶないところでしたね。これ以上持たないのはこっちも同じですからね」
　クィルの台詞に、ホッと安堵の息をついた面々は、改めて避難させていたオウガメタルたちに声を掛ける。
「おつさまー。一緒にゆっくりまったりしよー。……あ、ようこそだね！」
　笑顔を向けるケルベロスに、彼らはどう応えてくれるのだろうか……！？

作者：千咲	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。