オウガメタル救出~その武にかけて

作者:秋月諒

●ローカストのゲートと狂愛母帝アリア
 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
●その武にかけて
「お集まりいただきありがとうございます」
 レイリ・フォルティカロ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0114)はそう言うと、取りまとめた情報を手にケルベロス達を見た。
「既に話には聞かれているかもしれませんが、先の一件、黄金装甲のローカスト事件を解決したケルベロス達は、黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことができました」
 絆を結んだ結果、アルミニウム生命体は、本当は『オウガメタル』という名前の種族であることが分かったのだ。そして、自分達を武器として使ってくれる者を求めている事。
 現在、オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルを使い潰すような使い方をしている事。
「特に、黄金装甲化は、オウガメタルを絶滅させる可能性すらある残虐な行為であるーーと」
 これらの情報を知ることができたケルベロス達は、そのままオウガメタルに助けを求められたのだ。

「そして今、オウガメタルと絆を結んだケルベロスの達が、オウガメタルの窮地を感じ取りました」
 窮地、と返る言葉にレイリは頷く。
「正しく、窮地です。
 オウガメタル達は、ケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星から、ゲートを通じて脱出、地球に逃れてきたようなんです」
 だが、ゲートというのは最重要拠点だ。当然ローカストの軍勢が存在する。
「そのローカスト達によって、オウガメタル達は遠からず一体残らず殲滅されてしまうでしょう」
 このままでは、まず間違いなく。
 レイリはそう言って、ケルベロス達を見た。
「オウガメタル達が、ローカストに追われている場所は、山陰地方の山奥になります。皆様に依頼です。ヘリオンで現地に向かい、オウガメタルの救助とローカストの撃破をお願い致します」
 どうか道案内はお任せください。
 そう言って、レイリは顔をあげた。
「この作戦に成功すれば、オウガメタルを仲間に迎えるだけでなく、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置も特定する事が可能になるかもしれません」
 だが、彼らのゲートの位置に関わる事だ。ローカスト達の攻撃も熾烈になるだろう。
「厳しい戦いになると思います」
 まず、容易いものではないだろう。だが、為す意味はある。
「どうかよろしくお願い致します」
 ローカスト達は、兵隊アリローカスト1体が働き蟻ローカスト数体を率いた群れで、山地の広範囲を探索して、逃走するオウガメタルの殲滅を行っているようだ。
「ヘリオンが現地に到着するのは、夜半過ぎです。逃走するオウガメタルは、銀色の光を発光信号のように光らせるので、それを目標に降下すれば、オウガメタルの近くへ降下する事ができます」
 降下には誤差がある為、すぐそばに降下できるわけでは無いがーー百メートル以内の場所には降下できると思うので、合流は難しくない筈だ。
「追っ手である兵隊アリローカストの戦闘力はかなり高く、ゲートを守るという役割からか、どんな不利な状態になっても決して逃げ出す事は無いでしょう」
 働きアリローカストは、戦闘は本職ではないが、それでもケルベロス数人分の戦闘力を持っている。
「ですが、働きアリは、兵隊アリローカストが撃破され状況が不利だと思えば、逃げ出す可能性があるようです」
 ローカストの総数は3体。
 うち兵隊アリのローカストは1体だ。働きアリローカストは、基本兵隊アリローカストと連携して動いてくるようだ。
「随分と長くなってしまいましたね。最後までお聞きいただきありがとうございました」
 苦笑ひとつ、レイリはケルベロス達を見る。
「黄金装甲のローカストの事件が、こんな急展開になるとは予測していませんでしたが……、これは、ローカストと決着をつける好機とも言えます」
 勿論、簡単にはいかないだろう。
「ですが、為すだけの意味はあります。厳しい戦いになるかもしれませんが……皆様を信じています」
 どうか、無事の帰還を。
 そう言って、あ、でも無茶を言ってる自覚はちゃーんとありますからね、と一つ言って、レイリは真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「では参りましょう。皆様に幸運を」


参加者
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)
神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)
千軒寺・吏緒(ドラゴニアンのガンスリンガー・e01749)
クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)
冬杜・凌(不香花・e20988)
龍・鈴華(龍翔蹴姫・e22829)

■リプレイ

●救援
 夜の空が、唸りを上げる。
 山陰地方の山奥をケルベロス達はヘリオンで移動する。夜の森に、数分間隔で銀色の光が強く発光しているのが見えたのは、すぐの事だった。降下した夜の森は暗い。ーーだが、あの合図の近く降りれているはずだ。
「それなら、行くだけね」
 ローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)はそう言って顔を上げた。
 オウガメタルとの合流で、ケルベロス達が選んだのは地上からの捜索と翼飛行を使っての上空からの捜索であった。夜風に靡く髪をそのままに上空班であるリーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)は夜の森へと視線を向ける。
(「予兆を鑑みるに、連中『王道』を知らぬと見える。民を搾取して当然、などと…ここは結果を以て、過ちを知らしめるが道理!」)
 夜の闇を翼が叩く。
 眼下の地上組は龍・鈴華(龍翔蹴姫・e22829)が先行する形で合流が急がれていた。隠された森の小路は、彼女の為だけに道程を示す。枝の下を潜り抜け行けばそれまで淡く見えていた銀色の光が強く、眩しさを感じさせた。
(「見つけた」)
 あそこだ、と足を向けた鈴華の目に飛び込んできたのは、同じようにオウガメタルの元へと辿り着いたローカスト達の姿であった。
「此処までだな。逃亡者」
 その言葉を聞く限り、辿り着いたのは少し前か。兵隊アリにアルミニウムのような金属のスライムが震えるのが見えた。低く響くその声が、放つ一撃となるその前に鈴華は戦場へと飛び込んだ。
「させないよ!」
 姿を見せた鈴華にアリのローカスト達が息を飲む。慌てる彼らを視界にオウガメタルの一体をその背に庇えば残る二つが、と一つの塊に変わる。どうやら、集まって大きな塊になったり小さく分裂したりできるようだ。
「狼狽えるな」
 慌て出す働きアリ達をその手で制したのは、兵隊アリだろう。
「ただの一体で、我らを止められると思っているのか」
 愚かな、と続くはずの声は、上空に響く羽搏きにかき消された。
「ーーいいや」
「!」
 は、と顔を上げたローカスト達の前、鈴華はふ、っと笑う。竜の娘のその視界に現れたのは空から降りてくる千軒寺・吏緒(ドラゴニアンのガンスリンガー・e01749)たちと、森の中を抜けてきた仲間の姿だ。
 ウォンテッド。
 ヘリオンで吏緒が作っておいた手配書で、いち早く森を移動できる鈴華を追ってきたのだ。
「よう、オウガメタルさん、俺達はケルベロスだ。敵じゃねぇよ助けに来たんだ」
 オウガメタルに吏緒はそう言った。アルミニウムのような金属のスライムの形状をしたオウガメタルは伺うようにその身を僅かに見せる。
「オウガメタル殿。ケルベロスだ。助けに来た」
「ケルベロスよ! 怪我は無い?」
 シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)とリーフの言葉にも、オウガメタルが言葉を返すような様子はない。意思を感じる事はできるのだが、会話としては成立しないのだろう。それでも、幾分か安心したようにも見える。
「助け、助けか。つくづく邪魔をする」
 低く、響く兵隊アリの声に、働きアリ達の纏う気配が変わる。
「助けを求める存在がいるのなら、助けるのが僕らってものだしね」
 冬杜・凌(不香花・e20988)はその視線を前へと向ける。吏緒がケミカルライトをばら撒けば、夜の戦場は光に包まれる。
(「剣が人を傷つけるのではなく、人が人を傷つけるのだ」)
 そう、己に言い聞かせ複雑な感情を押し込め、神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)は前を見る。キン、と響いた鋼の音はどちらの武器か。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参!」
「払暁の騎士、クーゼ・ヴァリアス、ここに推参!!」
 シヴィルとクーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)、二人の名乗りが夜の森に響く。は、と兵隊アリは笑った。
「ならば我が名も名乗ろう。アリアの騎士が一振り・フォルケン! ここで死んで行けケルベロス!」

●その武にかけて
「散れ!」
 咆哮と共に踏み込んだ兵隊アリの素早いキックがクーゼの胴を打つ。
「ーーッは」
 深く、撃ち込まれた一撃は重くとも今すぐ膝を折るようなものではない。は、と息吐き、クーゼは顔を上げた。
「これが狂愛母帝とやらの兵隊か。いかつい顔してるねぇ」
 そう言葉を作ると同時に刀を抜く。キン、と抜き払った刃に踏み込む働きアリの姿が映りこんだ。
「左よ」
 ローザマリアはそう声を上げながら、凍結の弾丸を放った。応えるよりも早く身を飛ばしたクーゼを追撃しようと来ていた働きアリにシヴィルが踏み込む。
「黄金の鎧に頼るしか能のないローカストどもめ。例え赤い鎧を着ていたとしても、修練次第でこれだけ強くなれるのだということを見せてやろう」
 それは、稲妻を帯びた鋭い突き。
「ぐ……ッ」
 一撃に、働きアリが蹈鞴を踏む。舌打ちのような音がシヴィルの耳に届けば、暴れるように腕を振るった働きアリが距離を取り直す。体制でも取り直すつもりか。腰を低く構えていた兵隊アリが、地を蹴った。一気に、距離を詰めようとする動きに鈴華が前に出る。
「させないよ!」
 鈴華は兵隊アリへと蹴りを向ける。
「く……っ」
 落ちた憤りは、その一撃、避けきれぬと気がついたからだろう。ガウン、と重い音を響かせ、蹴りが沈む。ーー同時にぐらり、と視界が歪んだ。
「超音波ですか」
 唇を噛み、く、とローザマリアは顔を上げる。ばたばた、と落ちる血は周りも同じ。後衛を、一気に狙ってきたか。
「落ちろ。ケルベロ……」
 嘲笑うように響く筈だった言葉が、ひゅ、と息を飲む驚愕に変わった。
「随分と、喋るな」
 神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)がその間合いへと踏み込んでいたのだ。
「神楽火流征魔の太刀がひとつ、流星天翔!」
 十重二十重に、斬撃を繰り返し刃は確実に働きアリに沈んだ。空さえ切り裂く刃の軌跡が流星の如く煌めき、後衛を見据えていた敵の意識が皇士朗へと向く。
「ケル、ベロス……!」
 響きわたるその咆哮に敵意が乗った。唸るようなその声を耳に吏緒はリボルバーを握る手に力を入れる。
「ほう、回復か」
 その動きに気がついてか、面を上げた兵隊アリに凌が動く。
「邪魔はさせないよ」
 踏み込む、一歩で射線に入り込むと凌は「カグラ」とボクスドラゴンの名を呼んだ。
「回復を」
 うん、と頷くようにカグラが吏緒に回復を届ける。ありがとな、と落ちた声を耳に前に出ると同時に叩き込んだ蹴りはーーだが、兵隊アリに避けられる。
「はっその程度か」
「ローカストってやっぱり気に食わないな……」
 でも、この場での「外し」は、ただ攻撃が外れたというわけじゃない。
「虐げられる者に手を差し伸べる、それが騎士!」
 身を飛ばし、一気にリーフが兵隊アリの間合いへと踏み込んできていたのだ。
「貴様等には終生解らぬだろうがな……!」
 凄みのある笑みと共に、そう告げたリーフの掲げた剣に二つの星座の重力を同時に宿る。天地揺るがす超重力の十字斬りが兵隊アリに叩き込まれた。
「グ、……ッアァ」
 ガ、声が震えた。一撃に、蹈鞴を踏むアリアの騎士の姿を正面に、吏緒はヒールグラビティを弾丸に込めて拳銃を空へと掲げた。
「こういう使い方もあるんだぜ!」
 上がる、その声と同時に後衛に回復が届けられた。腕に、肩に落ちた傷が癒え、意識を侵していた歪みがーー消える。

●黎明の担い手
 深い夜の森に、火花が散った。
 照らし出された戦場に響き渡るのは金属がぶつかりあうような音と、働きアリ達の響かせる超音波だ。退け、と一際大きく響いたその声に、皇士朗に動く。紙兵による守護を、前衛へ張った彼に働きアリ一体の刃が向かうのは意識をひとつ、惹きつけている所為だろう。
 打撃と剣戟が響き合い、回避と共に砂が巻き上がる。飛び込み、振り下ろされる兵隊アリの鎌を避け、次の一撃を構えるケルベロス達とてその身に傷が無い訳ではなかった。
 だが、それでも動ける。
 追い込まれる程の状況ではなく、だが足を休めている暇は無い。兵隊アリの攻撃は重く、働きアリもまたその意識を惹きつけるとなれば傷は多くなる。
 そう、傷は多いがーーだがその状態で踏みとどまれているのだと凌は思った。それ以上、ローカスト達に踏み込ませてはいないのだと。
(「流れは……こっちにある」)
 踏み込みと同時に、身を前に滑らせる。接近に気がついた兵隊アリが、その腕を振り下ろすよりも早くーー凌の手が兵隊アリに触れた。
 ガウン、という音と共にグラビティ・チェインを乗せた一撃が炸裂した。破砕に、は、と顔をあげる働きアリを前にクーゼは刃を向ける。
「塵になるまで刻んでやろう!」
「クーゼ。硬いのであれば、刻むよりも砕いたほうが早いと思うぞ」
 刃を向け、告げた言葉に帰ってくるのは真面目なシヴィルの言葉で。
「そう冷静に突っ込まれるとな。まぁ、努力目標ってことで!」
 パチと瞬いたクーゼは軽く肩を竦めーー刃を、抜く。
「轟き、雷鳴、打ち払えッ! 九重流双剣術四の型、止空閃ッ!!」
 落雷に似た斬撃が働きアリを、襲った。
「グヌ、ァアア……ッ」
 衝撃に働きアリの身が傾ぐ。それでも、その身を起こし立っているというのは頑丈だともう褒めるべきであるのか。
「カジャス流奥義、サン・ブリーディング!」
 その手を掲げれば、応えるは万物に活力を与えるもの。自然の恵みに満ちた光球。太陽のように優しいその光は敵対者に刻んだ数多の制約をよりーー深くする。
「グァッ」
「ッチ、ケルベロスめ……ッ」
 邪魔ばかり、と声を荒げる兵隊アリへと踏み込んだのはリーフであった。纏うは炎。叩き込んだ打撃は、ひら、と白の装束を靡かせーー美しい軌道を描く。
 ガウン、と打撃が響いた。
 蹴りおろす一撃に、兵隊アリが呻く。黒髪を靡かせ、ひとつ息をついた娘の視界に仲間の炎が届く。
「追加よ」
 ローザマリアだ。
 ゴウ、と唸る炎を重ね、身を焼かれる一撃にアリアの騎士は吠える。払うようにその腕を振るい、散れと叫ぶ声と共に飛びかかってきた。振り上げた腕に見えたそれはーーシックルだ。
「地に伏せ斃れろ、ケルベロス!」
 一撃はーー避けるには近すぎる。
 勝利を確信したように笑う兵隊アリが、その次の瞬間ーー息を飲んだ。
 ガギン、と響く音。火花が散り、僅かに落ちた血に兵隊アリは一撃を狙いから外したことを知る。
「僕が代わりにお相手するよっ、と!」
 その軽やかな凌の声と共に。
「貴様ぁあっ!」
「さぁ、これでもういっちょ!」
 吠えるアリアの騎士に、凌が踏み込む。叩き込まれる蹴りを視界に、皇士朗は眼前の働きアリへと稲妻纏う一撃を叩き込んだ。
 夜の空が唸る。
 剣戟と打撃、回避の音の全てを巻き込んで。
 流れ落ちる血に、吏緒が回復を紡ぎ上げる。受けた傷だけで言えばこちらの方が多いだろう。だが働きアリを抑え込むだけとして、兵隊アリに攻撃を集中させるという戦法は功を奏した。事実、この戦場ーー流れを掴んだのはケルベロス達だ。
「アリアの騎士に敗退は許されぬ!」
 その声と共に、兵隊アリがアルミニウムの鎧を纏う。高められた防御に、でも、と踏み込んだのは鈴華だ。
「こっちだってさせないよ!」
 超高速の蹴りを叩き込む。硬化した足による一撃はガウン、と鋼がぶつかるような音を響かせーー兵隊アリの鎧を、砕く。
「な……!」
「その花吹雪が、この世で見る最後の光景よ」
 刀を鞘に収め、構えを解いたその時にローザマリアは告げた。
「劒の媛たる天上の御遣いが奉じ献る。北辺の真武、東方の蒼帝、其は極光と豪風を統べ、万物斬り裂く刃とならん――月下に舞散れ花吹雪よ!」
 次の瞬間、不可視の超高速多段斬撃が兵隊アリを襲った。
「グ、ガァア……!」
 劒を振るう腕のみを重力から解放することで繰り出される斬撃。抜き払い、再び収めるその姿さえも見ることはできぬまま、呻くアリアの騎士の目に光が、見えた。
「星を貪る天魔共!グランバニアの勇者を恐れよ!聖なる南十字を畏れよ!!」
 それはリーフの手に招来された南十字の聖なる騎士槍。
 息を飲む敵の前、リーフは断罪の一撃を放つ。
「……流れ去れ!」
 その力ある声と共に、聖なる騎士槍は兵隊アリを貫いた。
「グ、ァアア、ケルベロス、貴様らァアアア!」
 ぐらり、その身を揺らし絶叫を響かせながら兵隊アリのローカスト、アリアの騎士は崩れ落ちた。

●深き夜の勝者
「さて……如何にせん? まだ戦うか!?」
 兵隊アリは倒れた。リーフのその言葉に働きアリ達はそそくさと夜の森を逃げて行った。状況が不利だとそう思ったのだろう。それ自体には間違いは無いだろうが、どうにも見事な逃げっぷりだ。
「ふぅ、どうにかなったな。これで一歩、前進だ」
 クーゼはそう言って仲間達を見た。大きな怪我を負った者もいないのは上々だ。
「さてさて何処まで案内してくれるかね。まぁそれはさて置き油断せず帰ろう……」
 働きアリたちの行く先を、手配書を使って皆で確認しようとしていたのだがーー。
「何かあったの」
 ローザマリアの言葉に、吏緒は頷いた。
「こっち……左の方に行って動きが無い」
 手配書で分かるのは大まかな方向のみ。方向はローザマリアがしかけた視認での追跡と同じ。それでいて今まで動いていたものがなくなったとなれば。
「何か、あるな」
「あぁ。向こうにあるのは山のようだが」
 言って皇士朗は明かりを掲げてみる。見る限りは只の山に見えるが。
(「アリ型ということは地下に巣があるのだろうか?」)
 イメージとしてはそっちが強い。
「何にしろ……ちょっとばかし見てみたほうがいいかもな」
 吏緒の言葉に頷き、ケルベロス達は働きアリ達が消えた方向へと歩き出す。暫く歩いた時だろうか。妙な違和感を感じた。いや違和感のある空間、と言った方が良いだろう。そこに『入った』感覚がある。慎重に進んでいけば不意に違和感がかききえる。通り抜けたのだと気がついたのは、急に広がった視界と共に見えたものがあったからだ。
「おいおい、あいつは……」
「ただの山ではなかったか」
 吏緒の言葉に、皇士朗は頷いた。
 一行の目の前に現れたのは、中国山地の山中に現れたローカストゲートであった。
 立地ゆえか、基地が拡張されているのが分かる。山中の基地にかかっている半透明の薄い布が、この拠点を基地拡張が行われる前の山の姿に見せていたのだろう。
「隠していた、ということだね」
「あぁ」
 凌の言葉に頷き、低い声で吏緒は言った。
「けどーー見つけた。急ぎ、戻ってこいつを皆に知らせよう」
 長居は無用。
 手に入れた情報と共にケルベロス達は隠された拠点から撤退した。
 この情報、生きて届けるために。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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