女子高生捕捉、豚身落空

作者:大府安

「ムムム、量産型とはいえ、実験ではこれ以上の性能は出せないなァ。これ以上の性能を得るには、新たな因子の取り込みが不可欠だ」
 マッドドラグナー・ラグ博士は、自身が生み出した飛空オークの性能に満足できていないようだった。しばらく翼を生やしたオーク達の前で悩んだあと、パンと手を叩いて破顔した。
「そうだ! お前達、人間の女を襲って子孫を生み出してこい! お前達が産ませた子孫を実験体にすれば、飛空オークの性能はさらに進化するだろう!」
 オーク達は女を襲ってこいという命令、ただ一点をもって歓声を上げた。

 東京渋谷のとあるクレープショップ前では、学校帰りに買い食いをしている女子高生が3人たむろしていた。
「ねえ次どこ行くー?」
「カラオケっ!」
「昨日も行ったじゃん。いいけどさ。先にCDショップ寄ってもいい?」
 クレープをかじる彼女たちの上から影が差し、女子高生達を囲むように5つの巨体が着地する。
「げひひひひ……」
 翼の生えたオークは地面に涎をたらしながら、背中の触手をうねうねと動かしながら女子高生に近づけていく。
「う、うわっ」
「ひっ!? こっこれって……!?」
「オーク……!? に、逃げ……きゃあああああ!」
 触手は制服の上を這いずりながら少女達を拘束し、オーク達が巨体に任せて次々と押し倒していく。白昼、悲鳴は鳴りやまなかった。

「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を開始しました。今回事件を起こすのは、オークの品種改良を行っているドラグナー、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した、翼の生えた飛行型オークです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は少し青い顔をしていた。予知で起こった凄惨な光景を思い出したのかもしれない。
「飛行といっても、高い場所から滑空して目的の場所に移動するだけの能力で、自由に飛行する事はできないようです。ですが、高所から滑空しながら襲撃目標である女性を見つけ出して、その場所に直接降下するという攻撃方法は効率的で脅威となるでしょう。襲撃される女性を守り、速やかに飛空オークを撃破してください」
 しかしセリカは自身の使命を思い出しながら心を平静に保ち、よどみなく状況説明を続ける。
「飛空オークは東京渋谷、クレープショップ前の女子高生をターゲットとして出現します。数は5体。地面に降りさえすれば、一般的なオークと戦闘能力は変わりません。力強さと素早さを備えた触手攻撃、個体によっては雄たけびを上げて自己回復と強化を図ります。周りはビルに囲まれた歩道と道路、戦闘方法については皆さまにお任せいたします」
 セリカは事件発生前の注意点を上げた。
「飛空型オークは、滑空しながら襲撃場所を探す為、事前に避難活動をしてしまうと、予知と違う場所に降下してしまい、事件の阻止が出来なくなります。ですので、女性達の避難などは、オークが降下する直前から行うようにしてください。オークがまだ空から物色している時に、皆さんが女子高生に近づいたり接触するだけでも、オーク達は警戒してターゲットを変えるかもしれません。戦闘前の行動にはくれぐれもご注意を」
 最後にセリカは、毅然として語気を強くした。
「予知で起こった惨劇は必ず回避しなければなりません。皆さまならば、女性たちを救出してオークを撃滅できると信じています。……どうか、よろしくお願いいたします」


参加者
光屋・鋼音(おどおどガンマン・e03791)
高天原・日和(不運な剣士・e12797)
タカ・スアーマ(はらぺこ守護騎士・e14830)
西風・希(希望の西風・e21957)
キャロル・ツヴァイ(瞳の中の暗殺者・e23336)
加遼・巴(カポエラ使い・e23655)
ガラティン・シュミット(遺志苛まれし医師・e24979)
篠村・鈴音(涙目・e28705)

■リプレイ

「……この任務が終わったら、あのクレープ食べてみよう」
 若者が集う東京渋谷は、日が傾こうとしている。クレープショップから離れた場所で、学生服をまとう高天原・日和(不運な剣士・e12797)の呟きは、同じく学生服をまとって潜伏する篠村・鈴音(涙目・e28705)に聞こえていた。
「あの、私も終わったらクレープ、いいですか?」
「鈴音さんも? いいねいこいこ。でもまずは」
 日和と鈴音が空を見上げ、笑顔が消えた。オークの影が空に現れる。
「あいつらか。今日はボウモア……という感じか」
 タカ・スアーマ(はらぺこ守護騎士・e14830)はビルを影にしてオーク達を視認し、すぐに女子高生たちの元へ走り出す。
 戸惑う女子高生3人と、取り囲むようにして着地しようとしていたオーク5体。
「えっ」
「なっなに!?」
「これは……!?」
「むっこいつはなんだブヒ!? ケルベロスか!?」
 しかしさらにその外周、ビルとビルの隙間からキャロル・ツヴァイ(瞳の中の暗殺者・e23336)が、近くのビルの1階から西風・希(希望の西風・e21957)、加遼・巴(カポエラ使い・e23655)、ガラティン・シュミット(遺志苛まれし医師・e24979)、光屋・鋼音(おどおどガンマン・e03791)が飛び出した。
 オーク達は驚愕の表情を浮かべる中、タカはすぐに近くのオーク3体へ火酒酔拳を浴びせる。2体のオークがダメージと共に激昂した。
「まずは2体か、退路が開いたぞ!」
「ブヒアアアア!? てってめえなにしやがる!」
「くそイヌどもがっ! ブヒっ殺してやるぅ!」
 オークの女子高生包囲網から2体が抜け、キャロルと巴がその穴に滑り込んで女子3人に声をかける。
「ここは戦場になる。ついてきて」
「付近の皆さんも、私達の指示に従って避難して下さい! もう大丈夫ですよ!」
「は、はい! 行くよ2人とも!」
 しっかりとした受け答えをした女子1人が後の2人の手を引く。キャロルがオークを牽制しながら先導し、巴は後詰で女子3人を励ますように声をかけながら包囲を抜けようとする。
 だが残りのオーク3体は当然黙って見ていない。
「逃がすか! 5人まとめて可愛がってやるブヒィ!」
 オーク3体は他のケルベロスには見向きもせず、キャロル、巴、女子高生達へ触手を向ける。だが、希は想定ずみだった。
「誰が勝手を許したッ!!」
 鏖殺の颶風(オウサツノカゼ)、希の怒声と共に、ビリビリと空気が振動するような衝撃と斬風が後列のオーク2体を切り裂いた。オークを仕留めるには足りなかったが、ケルベロス達の狙いとしては十分だった。
「あの女! うるさいブヒ!!」
「すぐに違う声を出させてやるブヒ!」
「ほらほら。勝てたらいいコトしたげるよ?」
 希はさらにスカートの裾を掴んでヒラヒラさせて挑発し、オークの敵意を自身に集めていく。
 残った一体は最初こそ巴とキャロルを襲おうとしていたが、立て続けに自分以外のオークがつられたために、孤立して右往左往していた。
「ぶ……ぶひ……う……おまえら……! あっ!」
 残ったオークは逃げ遅れて転んでいる女学生をめざとく見つけた。足をひねったのか、店の看板を支えに立とうとしているがうまくいかない。
 オークは破顔して近づき、触手を突き出す。
「や、やだ! こ、こないでっ!!」
「ブヒヒヒ! 人質にしてお楽しみタイムだブヒイ!」
「……ひっかかってくれて、ありがとうございます」
「ブヒ!?」
 女学生、いや日和は演技をやめ、看板の裏からフェンリルチェインを操作、タカと対峙していたオーク2体も同時に、自信に迫ったオーク3体を鎖で絡めとる。
「地を揺らすものよ。汝の上顎を天へ、汝の下顎を地へ、汝の牙を我の敵に見せつけよ! 汝の脅威を我に見せてみろ!」
 魔狼の咆哮(フェンリルバースト)、伸びた鎖はオーク達の体を凍り付かせ、氷が割れる乾いた音と共に皮膚を裂く。
 タカの前に2体、希の前に2体、日和の前に1体。
「避難はもうすぐ終わるよ! あと少しっ」
 鋼音がタカの目の前の一体へクイックドロウを打ちながら、オークと直接対峙する味方へ現状報告する。
「み、皆さんこちらへ! 慌てないでくださいね!」
 鈴音が避難誘導に徹していたため、付近の一般人に件の女子高生3人含めまもなく避難が終了する。
「オークですか……初めて相対したのはオーク。一戦を引き、舞い戻って相対するのもまたオーク。あまり嬉しくはない因縁ですね」
 ガラティンは言いながら死天剣戟陣を形成。召喚した刀剣を天から降り注がせる。タカと日和の前の3体のオーク前衛から悲鳴が上がる。ガラティンは悲鳴を意に返さず、避難が完了したのを見極め殺界形成を発動した。
「……今一度戻るとしようか……護り刀に……」

 一般人の避難を完了させたキャロル、巴、鈴音が戦線に戻り、戦局は一気に動いた。
「ブヒいいい!」
「ころすころすころすブヒイイイイ!」
「さあっこい! うおっなんだこの感触! めっちゃ気持ち悪いぞ……」
 タカはオークの触手攻撃を引き付けることを覚悟していたが、実際に受けてみるとその気持ち悪さとおぞましさに身の毛がよだった。
「だが気持ち悪がってもいられんなっ」
 タカはキャバリアランページで一気に駆け抜け、超加速の突撃でオーク前衛を蹴散らす。
「ぷげらっ!?」
 最初に鋼音のクイックドロウを受けていた1体が、背中から鈍い声を出して起き上がらなくなった。
「ブヒいい! 貴様あよくもお!」
 キャバリアランページを受けて起き上がった1体は、仲間のオークの死体を確認してさらに激昂した。が、死体を陰に姿勢を低くしている誰かに気付く。
「えっブヒ?」
 だがその誰か、キャロルはオークが死体の陰を確認しようとした隙に音もなく背後に回ると、手に持った惨殺ナイフ一閃。文字通り惨殺した。
「……殺った」
 影伏せ(カゲフセ)を終え、ナイフを振って血を払うキャロル。その表情には敵を屠った喜びも慈悲もない。これで残りは3体。
「さすがですね。私も負けてられませんっ」
 巴は鉄塊剣を持ちながらも軽快にステップを踏みながら移動し、希を狙っているオーク2体へ横薙ぎに斬撃を飛ばす。
「風の斬撃!」
 横薙ぎと共に起こったゲイルブレイドが、オーク2体を切り刻みながら上空へ飛ばす。オーク達は血を流しながらも羽を広げた。
「上を取ったブヒ!」
「逆転だブヒ!」
「滑空しかできないくせにそんな低空じゃ、いい的よ!」
 希は跳躍で楽々オークに追いついたが、オークは一斉に希へ触手を這わせて締め上げる。
「うっ!?」
「ぶひゃはははは!」
「女の感触はやっぱりたまらんブヒいい!」
「……怯むッ……と、思ったかよ! この程度でッ!」
「……ぶひあ……!?」 
 希は怒号と共に触手を振り払い、ハルバードの達人の一撃を振り下ろす。1体のオークが断末魔と共に地面へ叩きつけられた。
 日和の目の前のオークは一切周囲の状況を見ず、獣欲をたぎらせ突進し触手で日和を捉える。
「ブヒヒヒ! 女抱かねば来た意味ないブヒ!」
「……笑わせないで。あなたの行動も、存在も、意味なんてない!」
 日和はシリウスソードを振りぬいて、触手とオークの胴体ごと切り裂く。オークは斬撃で吹き飛んでいったが受け身をとる。
「level three『wall』, set on. ready...fire!」
 鋼音は銃口を日和に合わせると、迷いなく引き金を引いた。Ⅲ【ウォール・バレット】(ウォール・バレット)は日和に着弾したが一切の衝撃はなく、日和の体を癒しながら周りを囲む防御フィールドを形成する。
「ありがとう鋼音さん!」
「回復は任せてっ。一気に決めようっ」
「ブヒヒヒ……! あの金髪もうまそうだブヒ……!」
「うえ……!? 僕男なんだけど……こんな見た目だけどさ……」
 満身創痍になったオークが鋼音を見て涎をたらす。鈴音は隙を見てオークへ止めをさすべく猛進し、刀を振り上げた。
「遅いブヒ!」
 オークは斬撃の軌道を予想しそう言ったが、次の瞬間振り下ろされた剣の柄で頭を砕かれて死んだ。
「ふう……落ち着いて戦わなきゃ…!」
 鈴音は柄打ちを決めて、胸をなでおろす。
 残りは最初に希を狙っていた1体、状況不利と見たのか逃走に入っている。
 だがケルベロスは8人。逃げられるものではなく、走るオークの前には短刀を構え、長刀は納刀したままのガラティンがいる。
「そこをどくブヒ! 繁殖せずに死なずにはいられないブヒいいい!」
「時代が変わってもオークはオーク。全く代わり映えがしない……」
「死ねブヒいい!」
「国護の技を継ぐ者として……その誇りを、技を賭して……ガラティン・シュミット……押し通る!」
 突進してきたオークへ、ガラティンは長刀を抜刀と共に上段より振り降ろし、刃を肉半ばで止め、引き抜くと同時に対の短刀でそのまま突いた。
「また……私は戦場に戻って来たのか……」
 ガラティンが長刀を納め、殺界形成を解除する。オークは崩れ落ちるように倒れ伏した。

「ああー気持ち悪かったー。さくっと終わってよかった!」
「あそこまで欲望に忠実とはな。女性陣は大変だな」
「本当だよ。恐怖と気持ち悪さは別だからね」
 希とタカが一息ついて周りを見渡すと、戦闘により地面や建物にヒビが入っている。ヒールの必要があるだろう。
「建物直して行きましょうか。あれ? どうしましたキャロルさん?」
「あれは……」
 キャロルの視線の先を巴が追うと、助けた女子高生3人が笑顔で歩いてきている。
「助かりました……!」
「あの、お二人、じゃなかった」
「ケルベロスの皆さん。ありがとうございました。その……すごく格好良かったです」
「いえいえ! ケガがなくてよかったです! ね、キャロルさん!」
「うん……そうだね」
 3人の感謝と、巴の裏表のない笑顔につられて、キャロルも冷徹な表情を解いてほほ笑んだ。周りが戦闘後であることを除けば、渋谷に遊びに来た若い女性たちに見えるだろう。
 建物のヒールにはガラティンと鋼音も加わり、瞬く間に戦闘の傷跡が消える。
「クレープひとつくださいっ!」
「あ、あの、皆さんもいかがですか……?」
 営業再開したクレープ屋へ、日和は購入しに行き、鈴音は振り返ってケルベロス達を誘った。クレープ屋の店員はお礼にお代はいらないという。女子高生3人も色めき立ってキャロルと巴の手を引く。
 若い少女たちの平和な光景にガラティンは想うところがあったのか、遠くを見るような目で綻んでいる。
「勘を取り戻すにはいい依頼でしたね。しかしクレープですか。あまり馴染みはありませんが……どうしましょうか」
 戦場に戻ってきた意味はあった。隣ではヒールを終えた鋼音が空を見ている。
「おや、鋼音さん何かありましたか?」
「オーク達が空から来たというのが気になったんだけど……ううん、何でもないよ」
「そこのおじ様とお嬢さんもお好きなのをどうぞ!」
「え? お嬢さんって僕!?」
 クレープ屋の店員が大声で鋼音とガラティンを誘う。平穏な地上と共に、空はオレンジ色に染まり始めていた。

作者:大府安 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。