オウガメタル救出～ジェノサイド・マウンテン

■リプレイ

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　眼下に広がる昏き山肌に、幾つもの白銀色の輝きが数分おきに強く輝いては消えている。
　その明滅は、上空のヘリオンで準備を終えたケルベロス達へと向けられた救難信号であるのは、紛う事が無いだろう。
　だからこそ、ケルベロス達は躊躇う事無く、そのひとつを目指して一斉にヘリオンから降下していく。
　その瞬間、うきゃぁぁっ、と響くアレイシア・アルフヘイム（インフェリナス・e26995）の悲鳴が中空に残されるも、すぐにそれは８つの人影が地へと降り立つ音へと変わった。
　そんななか、誰よりも早く地上へと降り立った月神・鎌夜（悦楽と享楽に殉ずる者・e11464）は、周囲を素早く一瞥し、仲間達が纏まっている事を確認すると、傍らに降り立った少年へと声を掛ける。
「よし、全員揃ってるな？　じゃあ、先導はクレール君だ……頼むぜ？」
「ああ、任せてくれ。目標はこの先だ、一気に走るぞ！」
　その声に少年、否、ドワーフの青年、クリス・クレール（盾・e01180）は短く応えを返すと、地獄の炎に包まれた右手で前方に輝く白光を指し示すや、すぐさま疾走へと転じる。
　それは、ドワーフ族の持つ夜目があってこそ成せる業である。
　そして、そんな彼の足元では、植物達がひとりでに曲がり、後から続く仲間達の為に小さな路を作り出していく。
「暗いので、足元には気を付けるのですよ……っと！」
　皆に注意を促そうとした猫耳の少女、ヒマラヤン・サイアミーゼス（カオスウィザード・e16046）が、何故か率先して躓きそうになるが、その身体は傍らを走っていた犬耳の少女、月城・樹（ケルベロスの鎖・e17497）と、あどけない面差しの少女、シルフィリアス・セレナーデ（魔法少女ウィスタリアシルフィ・e00583）の二人によって支えられ、事なきを得た。
「おっとっと、ヒマラヤンさん、大丈夫っすか？」
「あ、ありがとう」
　シルフィリアスが発した気遣いの言葉に礼を言うヒマラヤンの声を聞きながら、確かにこの辺りは随分暗いなとアレイシアは周囲を見渡す。
　だが、その言葉を聞き、山内・源三郎（姜子牙・e24606）は急いでライトを点灯させると、後ろに続くアレイシアの為に小道を照らす。
「おぬしも気を付けるのだぞ？」
「だ、だいじょーぶです！　頑張ります！」
　そして源三郎の言葉に励まされる様にしながら、アレイシアも慌ててライトを点けながら、小さな身体で一所懸命に山道を駆けていく。
　彼女にとっては、今回が初めての依頼だ。降下の時に感じた恐怖は既に消え、今は来たるべき戦いへの緊張感にその身を震わせながらも、自身を奮い立たせようとと、仲間の後を真っ直ぐ付いて行くのであった。
　程無くして。
「見つけた！」
　夜目と隠された森の小道で仲間達を先導していたクリスの声が上げる。
　その声を聞いた他の者達も、彼と共に探し求めていた存在のいる場所へとひた走っていく。
　どれくらい走っただろうか、行く先の白銀の光が段々強くなる。
　やがて、白銀色の光を放つ不定形の金属体が浮かんでいるのがよりはっきり見た彼らは、目指す目標オウガメタルの下へとひた走った。
「あちしたちはケルベロスっす、助けにきたっす！」
　シルフィリアスの呼び掛けに、オウガメタルはぴくりとその身を震わせると発光を止め、ゆっくりとケルベロス達の下へと近付いてくる。
　と同時に、その奥から何かが近付いてくる気配が漂ってきた。
　そして、それに気付いたケルベロス達はそれぞれ武器を抜くと応戦の構えを見せる。
「安心して、私達が守ってあげるから」
　そんな中、眼鏡越しの瞳に決意の色を見せる、リナリア・リーヴィス（怠惰な観測者・e01958）が自分の近くへオウガメタルを誘導しようとした時。
（え？　共に戦いたい……？）
　彼女のの心に一瞬、オウガメタルの思念が流れ込んでくる……が、何故かオウガメタルは何かに弾かれたる様にして、彼女から距離を置いてしまった。
　何か問題があったのか、と彼女がオウガメタルに話し掛けようとした、その時だった。
　一同の視界に、此方へと近付く３体の異形の姿が映った。

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「我が名は狂愛母帝アリアの騎士、アントリア！」
　黒き甲冑を纏ったかの様な姿の兵隊蟻ローカストは、オウガメタル達を守るケルベロス達に向け高らかに宣言する。
「偉大なる母の命により、お前達を排除する！」」
　続く瞬間、圧倒的な破壊音波がオウガメタルと後衛達へと襲い掛かる。
　その音に危険を感じた鎌夜と樹が、咄嗟にオウガメタルとリナリアを庇うも、それは圧倒的な力へと変じ、シルフィリアスとヒマラヤンを巻き込みながら彼らを打ち据えた。
　更には続く様に動いた２体の働き蟻ローカストが飛びかかり、鎌夜とリナリアのミミックである椅子に鋭き棘を突き刺し、アルミ化液を注入する。
「進め、この風と共に！」
　アリア騎士の実力と、アルミ化液で動きを封じられた椅子を目の当たりにしたリナリアは気を引き締め直すと、私もやるときはやるわよ、とばかりに前衛に立つ者達を鼓舞し、加護と癒しを与える強大なる追い風を巻き起こす。
「言っても解んないかもしれないのですが、嫌だって言ってる子を無理やり従わせるのは、駄目だと思うのですよ！」
　ヒマラヤンは、ウィングキャトのヴィーの羽ばたきが生み出した邪を祓う清浄の風を受けながら、アリア騎士へと心を貫くエネルギーの矢を放つ。

「蟻の割には、なかなかやってくれるな……ま、俺としちゃ、楽しめりゃなんでもいいがな？」
　鎌夜が黒き鎖を展開し、大地に味方を守護する魔法陣を描く。続く様にして樹も同じ魔方陣を描き、前衛達の護りを固めていく。
「お前達の行進は、ここまでだ。目標単体、欺けっ！」
　そしてクリスは、黒蟻の騎士の前に立ちはだかるや、その身に宿した殺気でアリア騎士を包み込み、敵の注意と殺意とを彼自身へと向けさせる。
「ほう、若者達が頑張ってくれる以上、わしも真面目にやらねばいかんのう……」
　そんなクリスの覚悟を感じ取ったのだろうが。源三郎も何時にも無く真面目な顔つきになる。
　彼は大きく広げた光の翼を暴走させると、その身を光の粒子へと変え、働き蟻に突撃する。
　そんな中で、シルフィリアスはと言えば。
「魔法少女ウィスタリア☆シルフィ、参上っす」
　ひらひらしたミニスカドレスをなびかせながら、手に持ったロッドをくるくると回し、生命を賦活する電気を纏いながら、かわいいポーズを決めてみせる。
「わわわ、すごい……って、私も頑張らないと！　ジェミニちゃん、行くよ！」
　そんなシルフィリアスの勢いに負けまいと、もう一人の魔法少女、もとい、小さな魔女のアレイシアは、傍らのボクスドラゴンを働き蟻へと突撃させながら古代語を紡ぐと、敵を石化させる魔法の光線を撃ち込んだ。

　ケルベロス達の応酬、なかでも源三郎の突撃を見た黒蟻の騎士は、どうやら彼を強敵だと踏んだ様だ。
「やるな　だが、我らも退けぬ訳がある……行くぞ！　ローガストキック！」
　そう叫んだアリア騎士はは高々と跳躍するや、源三郎へ向かって必殺の飛び蹴りを放つ。
「……させねえよ？」
　その瞬間、源三郎の前に鎌夜が立ちはだかった。彼は地獄の炎を纏った左腕と生身の右腕とを交差させ、重き一撃を正面から受け止める……その強烈なダメージに彼は思わず膝をつく。
　そして働き蟻達も揃って生み出した破壊音波を放ち、強烈な催眠波を周囲へと撒き散らす。
「……鎌夜くん、動かないで！」
　リナリアは、負傷の著しい鎌夜へと強引な緊急手術を施す。が、立て続けにローカスト達の攻撃を受けた彼のダメージは予想以上に酷く、万全の状態には届かない。
　この状況を好転させようと、ヴィーの援護を受けたヒマラヤンの黒き鎖と、鎌夜が横薙ぎに振るった鉄塊剣、そして源三郎の放った電光石火の蹴りが働き蟻へと叩き込まれる。
「良いねこの空気……ゾクゾクする」
　そして、樹が自身の傷を癒しつつ、肌を刺す緊張感に身震いする中、シルフィリアスはロッドを短く呪を唱える。
「喰らいつくせっすー！」
　彼女の髪の先端に牙の生えた口が現れる。次の瞬間、彼女の髪は奔流とり、アリア騎士へと食らい付いた。
「俺は盾……決して砕けぬ盾だ！！」
　そしてクリスは、己に課した役目を果たすべく、裂帛の叫び声を上げ、我が身に生じた惑いの心を吹き飛ばす。
「あわわ……何とかしなくっちゃ！」
　そんな仲間達の猛攻に遅れを取るまいと、アレイシアもジェミニと共に働き蟻の動きを止めようとする。
　ケルベロスとローカスト、両者の戦いの行方は……いまだ見えない。

●
　アリア騎士の放つ破壊の音がオウガメタルと後衛陣を襲い、牙を剥いた働き蟻達が前衛へと躍り掛かる。
　その攻撃を受け、最初に倒れたのは、ミミックの椅子だった。
　破壊音波からオウガメタルを庇い切るも、働き蟻の牙を受けて倒れた椅子をリナリアは心の中で労いながら、再び勝利を導く加護の風を吹かせ、残った前衛達の傷を癒していく。
「がんがんいくっすー！」
　気合十分なシルフィリアスが兵隊蟻へと、構えた杖の先端より雷撃が放つも。
「……げげっ！　ごめんっすー！」
　それは、敵と味方の認識を狂わされ、源三郎へと命中する。　
　だが、被害はそれだけに留まらない。
　続くヒマラヤンの放った攻撃と源三郎の突撃も……仲間達へと向けられてしまったのだ。。
　その状況を見た樹は急遽、自身のオーラを源三郎へと飛ばし、彼の惑いを拭い去ろうとする。
　それでも、クリスの鉄塊剣がアリア騎士へと大きく振り下ろされ、アレイシアとジェミニの連携攻撃が、働き蟻の動きをより鈍重なものにする。
　そして、その一瞬を突いた鎌夜が、
「さぁ、芥ども。俺を生かし楽しませろ？」
　彼の周りに無数の巨大な十字架が現れる。その黒き十字架から噴き出した地獄が働き蟻達を絡め取るや、敵の身を焼き焦がすと同時に、奪い取った生命力を鎌夜へと注ぎ込んだ。
　互いに動きを阻害ながら、綱渡りの様に戦いは続く。
　それでも両者は刃と牙、魔力と音波とを全力でをぶつけ合う。
　そして、時に動きを封じられ、時に敵と味方とを惑わされながら、共に傷付いていく。
　気が付けば、敵も味方も誰一人として、無傷なものはいない。
　そんな中……次なる窮地がケルベロス達へと襲い掛かった。

「我らは同胞達の為、負ける訳にはいかんのだ！」
　黒蟻の騎士と働き蟻とが揃って破壊の音を放つ。
　その連携は、アントリアが命じた訳ではない。彼が働き蟻達に合わせ、見切り覚悟の攻撃を行なったのだ。
　そんな彼らの生み出した破壊音波は、それら全てがオウガメタルへと向けられる。
「しまっ……！」
　その動きを察知したクリスと鎌夜、そして樹が、オウガメタルと敵との間に身を投げ出す様にして飛び込む。
　だが、それは結果として、後衛に立つ者達を危険に晒す事でもあった。
　凄まじき衝撃音が響き渡り、それが収まった瞬間……そこには。
「悪いな、これ以上、お前らと楽しめなくって……さ？」
「ごめん……あとはお願、い……ね」
　直撃を受けたリナリアとオウガメタルを庇った鎌夜が崩れ落ちていく姿があった。
　突然の出来事に、一同の時間が止まる。
　だが、オウガメタルが幾つもの破片を吹き飛ばされつつもいまだ不定形の身体を動かしている事に気付いたケべロス達は、即座に我に返ると反撃に転じていく。
　――たとえ倒れようとも、自分達は負ける訳にはいかない。
　言葉にはせずとも、思いは同じ。
　彼らは武器を構える手に力を込め直すと、再びローカスト達と対峙した。

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　働き蟻によって、強烈な破壊音波が周囲に響き渡る。
　その音に対抗するかの様に、クリスは裂帛の叫びを上げる。
　そして破壊音波がまるでなかったかの様に【大薙】を構え、ローカスト達へと向き直った。
　そして、いまだ戦場に立ち続けるケルベロス達も、各々の思いを胸に眼前の敵へと向かっていく。
「わ、私だってやればできるんだから……！」
　この激戦に、やや気圧されていたアレイシアだが、気を取り直すと、古代語魔法の詠唱と共に働き蟻の一体へと石化光線を放ち、働き蟻の腕の一部が石化させ、その動きを止める。
　その隙を逃さず、源三郎が電光石火の蹴りで敵の急所を貫く。
「コード・トーラス！　これで殴られたら痛いですよ！」
　そして、ヒマラヤンが両手に纏ったオーラを巨大なガントレットに変え、働き蟻に殴りかかる。
「行くのですよ！　メガヒマラヤンあとみーっく、お・し・お・き・ぱーんち！」
　彼女の決め台詞と共に、遂に働き蟻の一体がその場に倒れ込む。
「労働種を倒すか……だが、我を倒さぬ限り、お前達に勝機は無い！」
　兵隊蟻はそう叫びながら、片腕を黒き槍へと変じさせ、アレイシアへと突撃する。
「危ないっ！」
　咄嗟に彼女を庇おうと樹が走り込む。
　しかし、そんな彼女の動きよりも一瞬早く、黒き槍はアレイシアを捉えた。
　そして、幾許かの生命力をを幾許か盗み取られた少女の身体が、糸の切れた人形の様に崩れ落ちていく。
　――此処が、正念場だ。
　そう悟ったケルベロス達は、標的をアリア騎士へと定め、集中攻撃を仕掛ける。
「あちしの魔法に、しびれやがれっすよー！」
　シルフィリアスの雷を迸り、ヒマラヤンの黒き鎖が敵の身体を締め上げ、そしてクリスの放ったオーラの弾丸が敵に喰らい付く。
　その瞬間、アリア騎士の体勢が崩れていく。
「冥土の土産じゃ！　いや、ヴァルハラ土産か……？　まあ何でもよいから受けとれい！」
　そして、源三郎が放った六枚の鋭き刃を持った光のチャクラムがアントリアの身体を斬り裂き、
「蟻風情が！　砕けて……潰れろ！」
　肉薄した樹が、その強力な握力で敵の頭部を握り締め、力任せに地面に叩き付ける。
　次の瞬間、頭部を砕かれたアリア騎士の身体は激しく痙攣し……そのまま動かなくなった。

　最期に一体となった働き蟻ローカストは、既に勝機を失った事を悟ったのが、その場から退いていく。
「……激しい戦いでしたね」
　ヒマラヤンの言葉に皆が頷く。
「あっ、そうだ！　オウガメタルは……無事なのか？」
　クリスはオウガメタルへと駈け寄り、その安否を確認する。
　彼らの前に浮かんだアルミニウム生命体は、どうやら幾つもの個体が集合して形成されていたらしく、出会った時よりは幾分小さなものになりながらも、いまだ健在の様であった。　
「良かったー、無事だったんですね」
「何とか助ける事ができてよかったっすー」
　その様子を見た全ての者達に、揃って安堵の表情が浮かぶ。
　そして、源三郎はと言えば。
「まあ、何はともあれ、これからよろしくのう……ほれほれ」
　だが、オウガメタルは何も答えない。
　彼は少しだけ残念な表情を浮かべ、指先でオウガメタルを弄ってみるのであった。

作者：伊吹武流	重傷：月神・鎌夜（ストレイド・e11464）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 0
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