オウガメタル救出～蟻の穴からメタルが逃げる

■リプレイ

●オウガメタルの元へ急げ
　８人のケルベロスたちはヘリオンからオウガメタルが逃げているという山中に降り立った。
　スマラグダ・ランヴォイア（竦然たる翠玉・e24334）が腕にくくりつけた懐中電灯で周囲を照らしている。
　月明かりや星明かりでもケルベロスやデウスエクスの行動に支障はないが、明かりがあるに越したことはない。
「あちらから光が見えます。急ぎましょう」
　周囲を見渡し、助けを求めるオウガメタルの発光信号を探していたケルベロスのうち、マグル・コンフィ（地球人のキンダーウィッチ・e03345）が声を上げた。
「できれば囮になる明かりをばらまいておきたかったところですが」
　クリスタ・アイヒベルガー（森の餓狼・e09427）が呟く。
　彼女は簡単な工作で作れる明かりをばらまいて敵を惑わせられればと考えていたが、工作が簡単でも材料や工具の調達には時間がかかる。
　オウガメタルたちが追われている状況で、ゆっくり買い出しには行っていられない。調達できたのは、スマラグダの懐中電灯程度だった。
　それに、ケルベロスの身体能力があれば問題ないかもしれないが、飛行するヘリオン内は細かい作業には向かないだろう。
　もっとも、実行できたとして知性を残したローカストにどれだけ有効だったか。もとより気休めだ。
「助けを求める声に応えるのが、我らケルベロス。オーガメタルさん、すぐに行きますからね」
　水晶鎧姫・レクチェ（ルクチェ・e01079）は走る。
　左文字・紗綾（仏血義理蹴流兵炉守・e22096）は周囲の木々を叩き切りながら、
　ケルベロスたちが彼らを見つけられたということは、ローカストたちにも見つけうるということでもある。
　はたして、たどり着いたときには、すでにローカストたちもその場にいた。
　敵はすでに攻撃できる距離にいる。ジェス・シーグラム（シャドウワーカー・e11559）はオウガメタルとの間に急いで割り込んだ。
「やーやー！！　アルミ色の仲間達を虐めていると聞いてやってきた、私だ！！　ケルベロスの名の元に助太刀するぞ！！」
　朗らかに宣言したのはジン・フォレスト（からくり虚仮猿・e01603）だった。猿顔のウェアライダーは満面にやる気を満たしていた。
「ならばこのガスズレイゼはアリア騎士の名の元に戦おう。我らはそやつらを決して逃がすわけにはいかん」
　ケルベロスの出現にもひるむことなく、ローカストのうち１体が進み出る。
　甲殻で構成された漆黒の頭部は、あたかも兜のような形状をしていた。だが、額から突き出た触角がアリであることをはっきり主張している。
　身体も同様、鎧のような殻に包まれていた。
　物腰からも他の３体とは明らかに違う雰囲気が漂っている。
「兵隊アリのお出ましね」
　スマラグダが腕に懐中電灯をくくりつけたまま、両手にゾディアックソードを構える。
　今にも攻撃を始めようとしているローカストとオウガメタルの間にケルベロスの前衛たちが足早に布陣する。
「あきらめないで。わたし達が助けます」
　レクチェがオウガメタルに声をかけた。
「あんたらはどうしたい？　守ってほしいならみんなで守るし共に戦う気があるなら一緒に戦おうぜ」
　そのうちの１人、出門・火蓮（自称地獄から来た爆炎娘・e00672）は背後にいるオウガメタルの塊に声をかける。
　返答はない……が、一瞬の迷いが伝わってきた。
　それから守ってほしいという想いを火蓮は感じ取る。
　共に戦いたいという意志もあるったようだが、まずは危機を脱したいという想いが勝ったのだろうか。
　とはいえ、仮に共に戦いたいと言ってもすでに戦いが始まる寸前である以上、オウガメタルを装着するのは隙を作る行為だった。
　有利不利を度外視するほど強い意思を込めていればオウガメタルもそれに応えてくれていたのかもしれないが。
　オウガメタルはケルベロスたちの間をすり抜け後方に回る。
「キミ達は絶対に僕より後ろにいるんだよ、いいね？」
　金色のオーラをまとって、マグルがそれをかばうように立つ。
　ケルベロスコートを脱ぎ捨てて、硬革で補強した黒いジャケットの合わせ目から、青い棒タイが覗く。
「オウガメタルを逃がすな！」
　兵隊アリが号令をくだし、ローカストたちが突っ込んでくる。
「助けを呼ぶ声に答え、蹴流兵炉守８人ここに参上ォ！　ブッ込んで行くんで夜露死苦ゥ！！」
　紗綾が拳を掌に叩きつける。
　乾いた音が、高らかに戦いの始まりを告げた。

●不倒の兵隊アリ
　襲いかかる兵隊アリから仲間をかばったジェスの、ケルベロスコートの肩口に深々と牙が突き刺さる。
　働きアリたちも牙を打ち鳴らして破壊音波を発生させている。
　ケルベロスたちはまず兵隊アリに向けて攻撃を繰り出した。
　クリスタの矢がアリを貫いた。
「凍えよ、悶えよ」
　ジンの背負ったリュックからワイヤーが飛び出して敵に絡みつく。動きが止まった瞬間に接近した彼は、敵に液体窒素を注入した。
　戦場の真ん中で爆音が響いた。
「あんたらの相手はあたいたちがしてやるよ」
　爆破スイッチを押した火蓮がローカストたちに宣言する。
「奴らから離れたらオウガメタル狙え。だが、ケルベロスを甘く見るな。オウガメタルに気をとられると足をすくわれるぞ」
　敵はとっさに爆破から逃れたらしい。爆炎から少し離れた場所から兵隊アリが働きアリたちへの命令を改める。
　レクチェが展開した自分と同じ姿のドローンや、ジェスの拳からも逃れて見せる。
　マグルはジャケットから錠剤を取り出した。
（「動きが早いですね……自由に動かれてはまずそうです」）
　幸い、かばっている間はあえてオウガメタルを狙う気はないらしい。
　だが攻撃の手を止めなければ押し切られてしまいそうだ。
「もう残りがありませんが仕方ないでしょう……いけっ！」
　投げつけた錠剤をもアリはかわそうとしたが、それはかなわなかった。
　先ほどまで理性的だった兵隊アリが、凶暴さを感じさせる呼気を放ちながらマグルに殺意をこめた視線を送ってくる。
「オラァ、逃げ回ってるだけかアリンコが。帰って砂糖水でもすすってろ、カス虫」
　紗綾が敵に罵声を浴びせた。
　それはただの罵声ではなかった。魂のこもった言葉はデウスエクスの心さええぐり、的確に怒らせた。
　腕を鎌に変えてマグルを狙おうとする兵隊アリだが、前衛に動きを阻まれて後衛にいる彼にまでは届かない。
「僕を狙うんだ。そうだ、キミはいい子だね」
　後衛の２人へ怒りを向けている間に、ケルベロスたちはなお兵隊アリに攻撃を集める。
　だが、働きアリたちもただのザコではない。
　スマラグダは皆が兵隊アリ倒すまでの間、働きアリを抑えておくつもりだった。
　とはいえ、まずは敵それぞれの役割を確認しておかなくてはならない。
「さぁ、踊るとしましょうか。死の舞踏を。ヴァルキュリアが誘うは冥府。付き合って貰うわよ？」
　静かに彼女の動きが変わる。
　誰にも気づかれぬよう静かに踏むステップは、地面を振動させ、彼我の距離感をつかみやすくする効果を持つ。
　これまでの動きで、敵は４体とも積極的に前衛に出ているように見える。
　仲間たちがさらなる攻防を行う間に、彼女は手甲を身に着けた自らの腕に冥府深層の冷気を帯びさせる。
　一気になぎ払った彼女の手刀は、ステップの効果もあってか兵隊アリを含む３体を捕らえた。残る１体もとっさに回避しただけで攻撃の範囲内にいたことは間違いない。
　しかも、働きアリは兵隊アリを守ろうとするのではなく、ケルベロスへの攻撃を重視しているようだった。
「気をつけて。働きアリたちはクラッシャーみたいよ」
　仲間に声をかけながら、スマラグダは手に螺旋をこめた。
「了解した！　助かる！」
　彼女の言葉にジンが応じた。
（「奪うだけだったあたしにも守れるものがある」）
　そのことを心に刻み込み、彼女は先ほど攻撃を回避した１体へ接近する。
　凶暴に暴れる兵隊アリだが、その攻撃のすべてがマグルや紗綾に向かうわけではない。働きアリたちも今は勢いづいて攻撃をしかけてきている。
　ケルベロスたちは皆、徐々に傷ついていく。
　兵隊アリも当然傷ついていたが、アルミニウムの鎧をまとって耐えているようだ。
　レクチェは跳躍したローカストの蹴りに吹き飛ばされて、膝をつく。
　だが、彼女はそうたやすくくじけたりはしない。
「誰かを守って戦う時、この水晶の鎧は決して砕けません」
　めまぐるしく動き回る敵味方の中、彼女は自分に似せた姿のドローンを展開する。
「行きなさい、ミニレクチェ達。その力を見せるのです」
　複雑な軌道を描いて飛翔するドローンたちが、兵隊アリの関節部分を狙い撃つ。
「ガリガリっと削ってやるぜー」
　動きが鈍ったところに、火蓮がチェーンソーを音高く動かしながら踏み込む。
　兵隊アリがまとう鎧をその刃が打ち砕く。
　働きアリたちが牙をきしませ破壊音波を放ってきた。
　ジェスは音の衝撃で破れたコートを脱ぎ捨てた。すでに何度も攻撃を受けたコートはとうにぼろぼろだ。
　中身である彼の体も当然深く傷ついていたが、グラビティで痛みを誤魔化しているジェスの顔が歪むことはない。
（「あちらもやせ我慢だとありがたいのですが」）
　表情を変えぬまま、ズタズタに敵を切り裂いて飛び散った体液から体力を回復する。
　マグルがオーラをまとわせたメスを投げてきて、傷を手術してくれる。
　次いで兵隊アリが牙を剥き出して突進してきた時も、ジェスは迷わずその牙の前に割り込んで火蓮をかばった。
　食い込んだ牙が深く青年の体をえぐるが、回復のおかげで一撃は耐え切った。
　だが、牙から逃れたところを働きアリの鎌に切り裂かれ、とうとうジェスは膝をつく。
「すまない、ジンさん。後はお願いします」
「おお！　私に任せろ！　万事心得た！」
　仲間を守る仕事を託す。深く傷ついているのは同じだったが、それでもジンは力強く答えてくれた。

●包囲殲滅
　ジンは痛みをこらえて兵隊アリの前に立つ。
「やんちゃがすぎるぞローカスト！　私がケルベロスである以上これ以上の狼藉は許さん！　いざ尋常に勝負勝負！」
「貴様ではない……いや、次に倒すべきは貴様か……ゲートを守るために！」
　怒りに突き動かされながらも、兵隊アリが叫ぶ。
　最初に名乗った通り、何者かに仕える騎士なのだろうか。
「こんな形で出会わなければ、友達になれていたのかもしれないな」
　虫好きのジンは、昆虫に似た姿を持つローカストのことが好きだった。
　今は戦うことしかできないが、地球には元デウスエクスだった種族が共に住んでいる。
　ジンは同じようにローカストともいつか友達なりたいと思っていた。いや、友達になれると信じているのだ。
　怒りのまま紗綾へ向かおうとする兵隊アリを、ジンは体で阻む。
　間近から、彼は思いを込めて高らかに咆哮を上げた。
　翼を広げて軽く跳び、スマラグダが凍れる手刀で敵をなぎ払った。兵隊アリが働きアリの１体をかばって彼女の攻撃を受ける。
「そっちがディフェンダーだったの。なかなか倒れないわけね」
　攻撃も弱くは感じなかったが、それは地力の差によるものか。兵隊はおそらく１人でこの場にいたケルベロス全員と戦える程度の戦闘能力がある。
　マグルや紗綾が届かない場所から敵をひきつけていなければ今ごろケルベロス側の被害はもっと大きかっただろう。
　兵隊アリが鎧を生成し、かばわれた働きアリの蹴りがスマラグダを打ち倒した。
　だが、最初に兵隊アリを狙うつもりだったケルベロスたちにしてみれば、配下が兵隊をかばわないのは好都合だ。
　ほどなく終わりが訪れる。
「喰らえ、暴食の宿り木よ！」
　クリスタの神殺しの宿り木から削りだしたという矢が兵隊から精気を奪う。
　そしてジンのブラックスライムが敵の鎧を食らった。
　守りが砕けたところに火蓮のチェーンソーとレクチェの大砲が相次いで痛打を与えた。マグルも錠剤を投げつけて攻撃している。
　紗綾は斬霊刀を手にしっかりと狙いを定める。
　８人の中では比較的経験の浅い彼女だが、後衛から狙い済ました攻撃なら格上の敵にもそうそう外れることはない。
「見てろ。てめぇを狙ってた奴を、今からぶっちめてやるぜ」
　後ろに隠れているオウガメタルに声をかける。
　返答はないが、言葉自体はどうやら通じているようだ。
　一気に接近して非物質化した剣をたたきつける。兵隊アリの甲殻をすり抜けた刃が内部の霊体のみを切り裂くと、面覆いのような形をした頭の奥で目の光が消えた。
　働きアリの３体はスマラグダの攻撃や範囲攻撃に巻き込まれつつもまだ健在だった。
　だがケルベロス側も余力は残っている。
　反撃してきた敵の攻撃をジンが受け止めるが、マグルがメスを投げて手術する。
「今さらこれ以上、倒させませんよ」
「助かるぞ！　ジェスにも頼まれたからな！　最後までしっかり任せてもらおう！」
　その間に他の仲間たちはまず１体に狙いを定めて攻撃を加えた。
「逃がす気はなかったが……まったく甘く見られたもんだぜ」
　火蓮はエアシューズで地を蹴った。
　あらわな肌と下着に近い黒の衣装が空中で踊り、重力を込めた蹴りが働きアリの頭部を打ち砕く。
　さすがに逃げを打とうとした敵だが、レクチェが回り込んで逃亡を許さない。
「あなたがたも、もうここで終わりです」
　それほど長くもない攻防の後、ミニレクチェが２体目に止めを刺した。
　最後の１体が包囲を突破しようとするが、もはや遅かった。
「残念ですが、山野は私の庭のようなものです」
　クリスタが木々をすり抜けて最後の敵の背後に迫る。
「ありんこキモいです。全部片付けて帰りましょう」
　森の呪力を込めたナイフは確実にローカストの急所を抉り取り、止めを刺した。

●帰還
　戦いを終えて、まずレクチェがヒールドローンでオウガメタルを癒した。
「ミニレクチェ看護婦バーションなのです♪
　オウガメタルから感謝の念がケルベロス全員に伝わってくる。
「色々苦労したろうけどもう大丈夫だぞ」
　紗綾がオウガメタルに声をかける。
「そうですね。メイプルシロップどうです？」
　おにぎりをばくつきながらクリスタが問いかけるが、果たしてオウガメタルは食事をするのだろうか。
　その間に、倒れたジェスとスマラグダにはマグルが簡単に手術をしていた。
「悪いな……まだ動けそうにない。ちょっと肩を貸してくれ」
「ああ。あんたもお疲れさん」
　倒れていたジェスに言われて、紗綾が彼を助け起こす。
「それじゃ、引き上げようぜ。無事に帰るまでが仕事みたいなものだしな」
　火蓮の呼びかけに仲間たちがうなづく。
　もちろんオウガメタルの塊も一緒だ。
「オウガメタル……私の声が聞こえるか？　もう心配はない、さあ、ようこそ地球へ！　きっとみんな歓迎してくれる事だろう！」
　ジンの呼びかけに、運ばれるオウガメタルから歓喜の念が伝わってきた。

作者：青葉桂都	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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