オウガメタル救出～窮鳥懐に入れば猟師も殺さず

■リプレイ

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　そこは山岳地帯でありうっそうと広がる濃い緑に覆われ、上空からはごくわずかでとぎれとぎれにしか地表は見えない。しかし、小さく瞬くように輝く救難の光をビーツー・タイト（火を灯す黒瑪瑙・e04339）は見逃さなかった。
「あれだ」
　見失わないよう視線を固定したままビーツーはすぐに降下体制に入る。
「結構いいスピードだね。追ってくる人たちの本気がよくわかるよ」
　ほぼ同時に饗庭・樹斉（沈黙の黄雪晃・e15276）の漆黒を映す瞳にも木々に阻まれ明滅するような光をとらえると、すぐにビーツーを追うようにヘリオンから飛び出した。金色の体毛が風になぶられる。
「あら、もう停留所なのですか？」
　乗り合いバスとヘリオンの区別もあまりよくわかっていないほど世間しらずなのか、おっとりと……かつ優雅で華やかな気品あふれる薬師・怜奈（薬と魔法と呪符が融合・e23154）はふわりと立ち上がり、そのまま何気ない様子でヘリオンの外、何もない虚空へと身を躍らせる。愛おしい地球の重力が強く怜奈を引き寄せ、ハタハタと服の裾が風に鳴り翻りながら落ちてゆく。普通の人間ならば墜落死してしまう高度でも怜奈の緑の瞳に恐怖はなく、下に見えるビーツーや樹斉の背を追っている。
「あ、皆様待ってくださいませ。私も行きます」
　背にある小さな一対の美しくも可愛らしい白い翼を広げ、エルス・キャナリー（月啼鳥・e00859）も軽く床を蹴ってヘリオンを飛び出す。とたんに強い乱流がエルスを襲うがバランスを崩してしまうほどではなく、先行する仲間たちを見失ってしまうこともない。
「待って、待って～えっと、懐中電灯と無線機と……忘れ物はないだね。じゃボクも元気にいってきまぁす～」
　心持ち語尾を伸ばし気味に、緊張感の欠片もなそうな様子でアンノ・クラウンフェイス（ちっぽけな謎・e00468）も空へと身を躍らせた。アンノの視界が大きく広がる。明滅する救援の光はアンノからは見えなかったが、追尾している敵がたてているのだろう木々の倒壊やその衝撃がまっすぐに移動している。
「あの先にいるのかなぁ？」
　アンノが視線を動かす。
「命がけで脱出してくるなんてすげー連中だよな！　俺、会えんの楽しみだ！　だからいじめている奴らをキッチリぶっ飛ばしてくるぜ！」
　笑顔のまま背から落下するように深宮司・蒼（綿津見降ろし・e16730）がヘリオンから離脱する。わずかな間、空を滑るように漂っていた蒼だがにこっと笑って体を反転させると飛び込み台から落ちるかのように頭を下に下げる。
「このままじゃ遅れちゃうもんな！　速度あげるぜぇ！」
　蒼の笑顔がにこっ、からニヤリに変わる。
「弱きを助け、強きをくじくのは騎士の本懐。あのアリたちに本物の騎士道というものを教えてあげましょう」
　金色の髪をなびかせながらカナメ・クレッセント（羅狼・e12065）も降下し続けている。その一瞬ごとに地表が、そして生い茂る森の木々が迫ってくる。
「オウガメタルも含めて絶対に全員で帰るようにしなくては……なんといってもあのヘリオンに戻るまでが、いえせめて安全な場所に戻るまでが『任務』よね」
　なんとなく遠足になぞらえてつぶやいた古海・公子（化学の高校教師・e03253）はクスッと小さく笑った。大丈夫、自分は落ち着いているし冷静だと思う。だから、絶対に任務を成し遂げられる、と。地表が迫り公子は着地へと体制を整える。

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　周囲の太い木々が破壊音波にさらされ次々となぎ倒されてゆく。扇の形に広がって倒れた大木の向こう、もうもうと土煙の消え切らない先に淡くプルプルと震えているような、ゼリーのような、ゲル状の物体が一塊となっている。
「……」
　そのゲル状のモノを包囲するようにして、土煙の向こうからローカスト達が無言で歩み寄ってくる。4体のうち、真ん中が一番大きく強そうで隠そうともしない殺気を放っている。ローカスト達が1歩踏み出すたび、ゲル状の揺れが強く細かく激しくなる。明らかにゲル状のモノはローカスト達におびえている。すっかりゲル状のモノが観念したとみたいのか、ひときわ大きなローカストが腰を落とし、その後高く跳躍して空中で姿勢を整えゲル状のモノへとキックを見舞う。

　しかし、その必殺のキックはゲル状のモノに突き立てられることはない。高速に空から降ってきたかのように出現した漆黒の戦士がローカストのキックを完全にたくましい両腕でブロックし防いでいた。
「これ以上は俺が……いや、俺たちが許さない」
　間一髪、ローカストの兵隊蟻が放ったキックからオウガメタル達をかばい守ったのはビーツーの屈強なドラゴニアンの身体だった。いきなり眼前にボクスドラゴンとともに降って沸いてような漆黒の敵に驚くローカスト。だが、ビーツーの攻勢はこれからだった。
「これでも喰らっておけ！」
　フィニクスロッドから放たれた雷が面白いくらい派手に目を焼くほどの光とともに兵隊蟻の身体を走る。光に焼かれたローカスト思わずのけぞり、その四肢をびりびりと残る光が帯電する。
「ローカスト凄くブラックだねー！　それじゃ逃げられちゃっても自業自得だよ」
　魔法の力のこもった樹斉の咆哮がやや引き気味に弧を描くようにして並んでいた働き蟻たちを直撃し、衝撃に進撃していた足が止まる。それこそが樹斉の狙いだったのか。
「貴方達は使い捨ての道具にされていいの？　今、逃げて来た仲間の様に意思を示さなくてもいいの？」
　樹斉の攻撃で動きが止まった働き蟻のうち、最も怜奈の着地点から近い1体へとライトニングロッドから雷の力が放出される。怜奈の声はいまだローカスト達のくびきから逃れられないオウガメタルたちへと向けた言葉……説得だった。
「貴方達の同胞は私たちが守ります。貴方達も、もう消耗品として使われるのが嫌なのね？ならこちらに来て、仲間として一緒に戦いましょう」
　エルスはローカスト達の体内に囚われているのだろうオウガメタルたちへと言葉を紡ぎ、今を好機と考えたのかアンノも敵へ、その体の中にいるのだろうオウガメタルたちへと呼びかける。
「今、ボクたちの仲間がキミの仲間の保護に向かっている。もし聞こえているならキミもこっちに来て、ボクたちと一緒に戦おう」
　もちろん、すぐにリアクションがあるとは思っていない3人は必要以上に敵に接近することなく間合いを取って身構えているが、逃亡してきたオウガメタルへの射線を遮るように位置取りしているだけでローカスト達への攻撃も行っていない。
　ふいに怜奈の雷に焼かれ、他よりは弱っていた働き蟻の身体の一部が内側から吹き出し、その身体がぐらりと傾く。倒れた働きりの背後から黒い影のような蒼の姿が飛び退いてゆく。
「お前らすげーじゃん。絶対助けるから、巻き込まれないようにちゃんと隠れていてくれよな」
　蒼はローカスト達の体内ではなく、逃亡してきたオウガメタルへと声を張る。
「来ましたか。では、貴方がアリたちに騎士道と言う物を教育してあげましょう。我が剣を受けてみよ！」
　着地してすぐにカナメは得物を構え、卓越した技量から放たれる達人の一撃が働き蟻の胴を薙ぐ。
「最初はやっぱりこれ、よね」
　公子はライトニングロッドを振るい、雷の障壁を彼我の間に構築し最前線で戦うディフェンダーやクラッシャーたちの状態異常への耐性を高めてゆく。その視界の端に岩陰へとプルプルと移動してゆくオウガメタルの姿が映った。どうやら蒼の指示を理解し行動してくれているらしい。言葉こそ発しないけれど、オウガメタルと心を通わせることは不可能ではないのだとはっきりわかる……それが嬉しい。
「さぁ、みんなでキッチリ生きて帰りますよ」
　公子の黒い瞳が敵へと向かう。
　働き蟻たちはそれぞれが体内金属の鎧で自らの身体を包みこみ、防御力の強化と治癒を行う。怜奈や蒼、カナメに攻撃された働き蟻の傷も目に見えて修復がなされてゆく。さらにビーツーと対峙していた兵隊蟻は羽をこすり合わせて破壊の音を放ってゆく。その音が最も収束してゆくのは後列にいるケルベロスと逃亡オウガメタルだ。音の衝撃が目に見えない拳のようにアンノを、樹斉を、そして公子とオウガメタルを打ちすえた。
「……っ」
　か弱いオウガメタルへの攻撃を止められなかった悔恨がビーツーの胸の奥深いところをチリチリと焼き、バスターライフルから放たれたエネルギーの奔流が皆が集中攻撃を行う働き蟻ではなく目の前の兵隊蟻へと向かってゆく。
「……」
　兵隊蟻とビーツーの視線が絡まる。どうあってもこの目の前の敵をフリーにしておくわけにはいかない……それはビーツーの明確な言葉にならない戦士の勘であった。隣には頼もしいボクスドラゴンもいてくれる。
「どれだけ回復したとしてもそれ以上に攻撃してみせるからね。ほら！」
　樹斉の言葉と同時に身体から放たれたような半透明の『御業』がまだダメージの残る働き蟻の身体を鷲掴にして握りしめる。声なき悲鳴をあげてもがく働き蟻の口から体液のようなものが逆流して吐き出される。
「その働き蟻、どうやらディフェンダーではありませんわ。しかものＨＰも半分程度でしょうか。畳みかけて倒せない敵ではありませんわ」
　そう言うと怜奈は神々しい巨大な斧のルーンを発動させ、輝く呪力と共にその斧を振り下ろしてゆく。働き蟻の防具が破壊され、深く身体に傷を刻む。
「私にもわかります。もうあの蟻には未来はないって」
　エルスの掌から放たれた幻のドラゴンが苦しそうによろめいていた働き蟻を焼き払う。焼けて炭のようになりさらに黒くなった身体が崩れてゆく。それきりもうその蟻は動かない。
「やったね、エルスくん。アリンコ1匹撃破だよぉ。じゃボクも張り切っちゃおうかなぁ～」
　戦場の緊張感がさっぱり感じられない飄々とした様子でアンノはゆらりと構え、その身体から解き放たれた『御業』が繰り出す炎の弾丸が無傷の働き蟻へと向かってゆく。
「君たちのポジションは今一つわからないけど、まぁいいよねぇ～」
　ディフェンダーだったらいいなぁと小声でつぶやきながら、やっぱりアンノはニコニコ笑って戦場を睥睨している。
「次はこいつか」
　雷の霊力を帯びた島渡が蒼の手の冷酷無比な武器となって、神速の突きを繰り出してゆく。その一たびごとに働き蟻の身体に深い傷が増えてゆく。
「私から離れていれば安全と思ったか！？」
　カナメが放った地獄の炎をまとった弾丸が働き蟻の命を食らう。
「いまなら私も攻撃できそうなのよね」
　敵味方の状態を瞬時に見極めた公子が幻竜を手の平から放ってゆく。その、カッと大きく開かれた竜の口から浄化の炎が吐き出され、各個撃破の対象となった働き蟻の身体を焼く。狙われた蟻はほぼ瀕死であったが再び自己治癒で命を長らえ、別の働き蟻は無防備そうに見えたのかカナメへと高く跳躍しキックを放つ。
「私を狙うか。受けて立つ！」
　頭部をかすった攻撃に一筋、流れる血を拭きもせずカナメが言い放つ。いつでも、いかな
「……！」
　そのとき、ビーツーを高速移動で振り切った兵隊蟻もまた、働き蟻よりも高く高く跳躍し、働き蟻とは比べ物にならないほどの威力をもってカナメへと落下した。愛しい地球の重力さえも威力としたその攻撃がカナメを吹き飛ばす。地面に激しく叩き付けられたカナメの身体は大きくバウンドしてまたも地面に激突し、そこからゴロゴロと起伏のある地面を転がってゆく。避難していたオウガメタルのそばまで転がってやっと止まったが、カナメの身体はぐったりとして指先さえも動かない。

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　やはり強い……だからこそ。無言のアイコンタクトでボクスドラゴンをカナメへと差し向けたビーツーは射線を気にしながらも兵隊蟻へと立ち向かう。けれど、心のどこかでがむしゃらに突進しなくてはこの敵をとどめることなど出来ないとも思う。その葛藤の中で放たれた雷の攻撃は敵を捕らえはしたけれど決定的なダメージとはならない。
「エンもカナメとオウガメタルをかばう様に立ち回ってね」
　意を酌み後方へと向かったエンに背を向けるようにして樹斎は立つ。2体のボクスドラゴンはカナメの周囲をうろうろしている。
「咎は何処に在りしや？　ケルベロスの炎が引き摺り出してあげるよ！」
　グラビティ・チェインを喰らって燃えあがる黒い種火が弱った働き蟻の傷口から侵入し、さらに敵を弱体化してゆく。そこへ怜奈が放った雷光の攻撃が天罰かのように働き蟻の頭上から降り注いだ。神々しい光の中で働き蟻の身体が砕けてゆく。
「働き蟻が2体落ちたわ……兵隊蟻に集中して！」
「自分より弱い者を当たり前のように支配してこき使うなら強い者に滅ばされても文句言わないでね？　でも、逃げるのはダメですよ」
　笑顔で残る働き蟻をけん制しつつエルスは攻撃を兵隊蟻へとシフトさせる。
「終焉の幻、永劫の闇、かの罪深き魂を貪り尽くせ！」
　夢の中に浮かぶ世界を滅ぼす『闇』を虚無と現実の狭間から召びだし、敵へと放ってゆく。

「星喰らう影、天を蝕む黒き水泡、因果を捻じ曲げ、理を歪めよ」
　兵隊蟻の治癒にも限界がある。積み重なったケルベロス達の攻撃がとうとう均衡を破ったのだ。アンノが放った彼だけのオリジナル・グラビティが事象や因果を逆転させ、創り出された魔術領域から攻撃が放たれる。
「いじめっ子なんてしてたからだぞ。えっと、因果応報っていうんだからな」
　そっと触れるように伸ばした蒼の掌がすでに外側はずいぶんとボロボロになっていた兵隊蟻の身体を内部から壊す。腹部から大きな穴があき、内部を大きくまき散らしながら破壊され、誇り高き精鋭である兵隊蟻は……死んだ。残る働き蟻は元来た方へと逃げていったが、それを追う余力は残っていない。彼らは保護したオウガメタルとともに帰途についた。
　

作者：神南深紅	重傷：カナメ・クレッセント（羅狼・e12065）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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