オウガメタル救出～銀光

■リプレイ

　闇夜を飛ぶヘリオン。山地上空を飛ぶ機内で、天野・夕衣（ルミノックス・e02749）の小さな歌声が緊張感を解していた。ケルベロス達は眼下の景色を注視し、光を捜す。
　そして、夜の闇の中またたく光――救助を求める合図をみつけた。
　作戦開始。降下する。
「オウガメタルの保護を最優先でお願いね。……行くよ、プリンケプス」
　ティ・ヌ（ウサギの狙撃手・e19467）の後にボクスドラゴンが続く。
「いかにも人跡未踏……だな、ナビ宜しくだぜ」
　相棒に結われた髪をなびかせ、藤波・雨祈（雲遊萍寄・e01612）も降下する。
　ケルベロス達は明滅する光を追った。銀光はまるで誘うようだ。
　先頭を駆けるミケ・ドール（黄金の薔薇と深灰魚・e00283）とレーグル・ノルベルト（ダーヴィド・e00079）の両名が隠された森の小路を使うため、二人に追従する一同を含め、目標までの距離は迅速に詰めた。
　やがてミケとレーグルが輝く光の正体を見つける。
　それは金属の塊のような、融解して分かれた一部のような形をしていた。それらが数体光っている。傍まで寄れば、彼らは光の明滅を緩めた。
　声をかけても返答は無く言葉が通じているのか不明だったが、雰囲気的な意思は感じ取れるようで、オウガメタルはケルベロス達を挟んで逃げてきた方角から距離を取るように下がった。
「……追っ手が来るのだな？」
　レーグルは、オウガメタルと同胞たる仲間たちの盾となるべく地を踏みしめて身構えた。その手には巨大な鉄塊剣と縛霊手。
　ミケがオウガメタルに「隠れていて」と小声で言う。オウガメタル達は銀光を弱め、ケルベロス達は周辺の木々や茂みに身を隠した。周囲は自然の薄明かり、静寂――息を潜めれば、何者か接近する物音に気付くことが出来た。そしてそれがオウガメタルを追う敵。
　木々の間から飛び出してきた蟻のローカスト達に、仕掛ける。

●１
　蟻ローカスト４体の前に、高く飛翔するミケ。両足に纏う光は腿まで鮮やかな紅、爪先は溶けるような目も眩む白。蟻の目の前で翳る月のようにゆっくりと光は暗くなりゆくが、それを見届ける前に月は空を滑る。
「Va' all' inferno.」
　鈴が鳴るようなミケの声。何度も蹴撃は繰り返されて紅に魅入った敵を貫く。脆弱な両足を覆う光が消える迄。
　先頭の蟻が襲撃された事で、後続の蟻達が立ち止まる。が、ケルベロス達の奇襲は続く。
「そんなに慌ててどうしたの？　僕と少し遊んで行ってよ」
　水守・蒼月（四ツ辻ノ黒猫・e00393）の放つ氷結の螺旋が蟻の黒い片腕を氷で覆う。
　前衛の足元に光るのは、ティの描いた守護星座だ。
「遊んでいる暇など無いのだが！」
　そう答えたのは、他の蟻とは違う雰囲気の１体。他の蟻を前方に押し遣り、後列から指揮を執る。おそらくあれが、兵隊蟻だろう。全身を黒い装甲で包み、巨大なランスのようなものを携えていた。
　レーグルは鉄塊剣を腕力だけで振り下ろす。重厚無比の一撃は、前列２体目の敵へと叩きつけられる。
「グッ……」
　働き蟻はケルベロス達に構わず、オウガメタルの追跡を狙っていた。
　雨祈の達人の一撃、荊・綺華（エウカリスティカ・e19440）の御霊殲滅砲と連携する。
「助けを求めるもの……お守りするです……」
　綺華の縛霊手の掌から発射される巨大光弾は敵の前列に放たれ、眩く周囲を照らす。
　夕衣の奏でる「紅瞳覚醒」が仲間の前に盾を創り出した。
　シルヴィ・シャサー（護光戦姫・e25111）のゲイボルグ投擲法で分裂した槍が降り注ぐ。
「一体でも多く助けを求めるオウガメタルを助けてあげたいのよ！」
　シルヴィの言葉に、兵隊蟻ローカストが高々と宣言する。
「我はアリア騎士ヴェルメリオ。邪魔者は始末する」

●２
　敵は羽音での破壊音波を放った。兵隊蟻の行動に倣う様に働き蟻達も次々と、不協和音のように周囲に鳴り響いてケルベロス達の神経を苛む。聴覚ではなく直接頭のなかに入り込んでくる。
　そして働き蟻の１体がレーグルへと振り下ろすシックルは、斬撃と共に体力を奪った。
　ミケが時空凍結弾で後列の働き蟻を狙い撃つ。ミケとレーグルは声を掛け合い、攻撃対象を別にする。
　蒼月が気咬弾で、シックルを振り下ろした蟻を狙う。
「アリア騎士？」
　放ったオーラの弾丸が、蟻に喰らいつく。
　アリア騎士とは、兵隊蟻のことだろうか。はじめて聞く名称に思わず呟いたが。
　名乗りを上げた兵隊蟻ヴェルメリオは一瞥をくれただけだった。
「……さ、キュアキュアしちゃおうねー」
　ティはキュア☆キュア☆を発動させて、仲間達の神経を苛む破壊音波の影響を浄化していく。プリンケプスはティを補佐するように属性インストールで蒼月を癒した。
「ーー戦慄け、炎よ」
　レーグルの両腕に纏わる地獄の炎が大きく揺れ、炎祓が癒しと共に破剣の力を付与する。
　雨祈の制圧射撃が敵の足元に弾丸をばら撒き、夕衣は気力溜めで自分に掛かった催眠を解除する。３度も放たれた破壊音波に苛まれていたケルベロス達だが、上手く協力して動けているため立て直しが早い。
　綺華が制圧射撃で足止めを行う。いつもぼんやりとした聖職服の少女は、銃を手にする時だけは機敏な動作だ。
　シルヴィの砲台からロックオンレーザーが放たれて、敵前列を光が襲った。
「く……！　怯むな、やれ！」
　兵隊蟻が働き蟻達に指示する。
　前列の蟻達の１体がミケにシックルを振り下ろし、もう１体が蒼月にアルミ注入を狙った。だが蒼月の前にペルシャ猫が浮かんで敵の攻撃から庇う。びくりと震える尻尾の茨の輪のリングが見えた。
　ウイングキャット『ばすてとさま』が敵のアルミ注入を肩代わりして受け止め、その身の一部分が石化する。
「ばすてとさま……」
　綺華の声に答えるように、ばすてとさまは尻尾を揺らした。
　兵隊蟻はアルミニウム鎧化で自身の防御を固くする。
　更にもう１体の働き蟻もシックルを振り下ろしてミケを狙う。斬撃が裂くが当たりは浅く、敵はあまり回復できていなかった。
　ミケの殺神ウイルス、働き蟻へ投射されたカプセルが命中して治癒を阻害する。
　蒼月の影から大小様々な猫が這い出て来る。
「いいよ、出てきて一緒に遊ぼうよ」
　影の猫達が、相手に向かってまっしぐら！
　幻術『狩猟解禁』、猫達が前列の働き蟻１体に次々飛び掛っていく。まるで猫がじゃれているようにも見えるが、働き蟻はこの攻撃にかなりの痛手を受けた。
　ティのルナティックヒールは、敵の攻撃を引きつけているミケに発動する。満月に似た光球は、癒しと共に攻撃の力を与えた。
　レーグルがデストロイブレイドで鉄塊剣を叩きつけるのは、皆が攻撃を集中する蟻ではなく、別の働き蟻。
「我が相手だ。……臆するが故に掛かって来ぬのであろう？」
　言葉でも挑発し、敵の意識を引きつける。
　雨祈のグラビティブレイクが、働き蟻の片腕を砕いた。
「グガ……ッ！」
　働き蟻の１体にダメージが蓄積していく。叫び声を上げた。
　夕衣はグラインドファイアで、炎を纏った蹴りを放つ。
「アリさんも飴さんとかで帰ってくれませんかね？」
　蹴りと一緒にジョークも飛ばしてみた。直撃を喰らった兵隊蟻が仰け反る。
「帰らぬ！」
　しかし兵隊蟻の前方を守る働き蟻の１体は、続く綺華のクイックドロウによってもう一方の腕も砕かれた。
「ガアアアアア……！」
　働き蟻が絶叫して倒れる。これで１体撃破した。他の働き蟻２体に動揺がはしる。
　プリンケプスはばすてとさまにヒールする。
　その間にシルヴィは限界まで高めた魔力で前方に重力レンズを形成する。
「不浄なる者を焼き尽くし滅する太陽の輝きを今ここに！　これが私の切り札よ！
　サンシャイン！　インシナレイション！！」
　一点に集中した太陽光エネルギーを標的に照射する。陽光焼却――光が兵隊蟻を撃つ。

●３
　僅かな統率の乱れはあるものの、指揮官である兵隊蟻が健在である以上は働き蟻も攻撃を続ける。再び羽音を響かせて破壊音波を奏でた。……何度聴いても慣れる筈もなく、煩わしい音が鼓膜を震わせ神経を苛む。
　前列の１体は、レーグルにシックルを振り下ろした。少しでも回復しようと試みたものの、縛霊手に受け止められ威力は揮わない。
　しかし続けて襲い掛かってきた兵隊蟻のソルジャーキックは強烈だった。みしりと重い蹴りが、骨まで響くようだ。
「――堪えろよ、相棒」
　すぐ後ろからの耳慣れた声に、レーグルは短く答える。
「――無論、」
　背後に寄せる全幅の信頼。盾である己が綻びるより前に、必ず敵を撃ち潰すと。
　雨祈は相棒の背が攻撃に耐えるのを見守って、弾に、拳に、業に、力と意志を込める。
　ミケが両足へ光を纏わせ再び飛翔する。ゆらゆらと浮かぶ堕罪の満月は、働き蟻へと何度も蹴撃を繰り返す。
　蒼月は氷結の螺旋を放った。斬撃と氷が、兵隊蟻を凍りつかせていく。
「ギブ＆テイクが出来ない奴とは交渉するな、しつっこかったら沈めとけって言われてるし！」
「そう簡単には沈むものか、……うぐッ」
　兵隊蟻は言い返すも、螺旋氷縛波がかなり効いている。
　ティがスターサンクチュアリを描いて、破壊音波による催眠を解く。
　レーグルは兵隊蟻を狙い地獄の炎弾を放つ。フレイムグリードの炎が敵の喉元を喰らう。
　そのレーグルの後方、雨祈の五爪に蒼焔が灯る。
「刎ね飛べ、真火」
　蒼焔は指し示す兵隊蟻へと刎ねて、貫き、真火と化す。敵は炎に包まれた。
「グ、ガッ……」
　燻ぶる炎に呻く敵を、夕衣の赤く染まった瞳が見つめる。
「Aliis si licet, tibi non licet.」
　赤の罪、それは相手の心の傷に形を与える力。
　兵隊蟻は何を見たのだろうか、ひどく苦しんでいる。
「のろわれた者ども……わたしから離れて……悪魔と……その使いたちのために……用意された永遠の火に……入れ……です……」
　綺華は敵を討ち滅ぼすべく、正確な射撃を繰り返した。
　審判ノ刻ハ来タリ――弾丸が兵隊蟻を追撃する。
　更なる光はシルヴィのバスタービーム。魔法光線が兵隊蟻の腹部を貫いた。
　兵隊蟻はかなりの深手を負っていたが、戦意を全く失っていない。
　働き蟻達はレーグルとミケを狙ってアルミ注入で体の一部を石化させていく。その上、兵隊蟻が身体を震わせて破壊音波を放った。
「――……っ、そろそろ……沈んでもらおうかな！」
　神経に侵入しそうな催眠を振り払って、蒼月はオーラの弾丸を放った。
　気咬弾は兵隊蟻の腹部に喰らいつく。
　敵は壮絶な悲鳴をあげた。
　レーグルのケイオスランサーが、気咬弾の攻撃によって装甲の剥がれた蟻の胴を、深く深く貫いた。
「――ミケ殿、」
　呼ばれたのとほぼ同時に、ミケが撃ち放った時空凍結弾が兵隊蟻を捉えていた。
「Addio……おやすみなさい」
　月の様な金の瞳がまばたきして、完全に動かなくなった兵隊蟻の最期を見送る。
「ヒッ……！」
　指揮官を倒された働き蟻２体が明らかに怯み、後ずさる。
「不要な殺生は……よくないです……逃げるなら……追いません……」
　訥々と告げる綺華の声を聞くやいなや、２体の働き蟻はその場から逃げ出した。時々足を躓きそうになりながら、かなり慌てて撤退していった。
　無論、ケルベロス達が敵を追うことはない。
　助けを求めてきたオウガメタルを守るという任務は、完璧に成し遂げたのだから。
「オウガメタルさんにヒールとかかけようかな。怪我してない？　大丈夫かな」
　蒼月は辺りをきょろきょろと見渡す。
　敵が完全に撤退してから周辺を探せば、離れていたオウガメタルの無事を確認することができた。
「救けを求める者には救いの手を。絆は、とても大切なもの……」
　ミケのちいさな声に応えるように、オウガメタルは柔らかく発光する。
　オウガメタルの無事にほっと安堵したシルヴィは、ふとその姿を見つめた。
　オウガメタル達は、ローカストの拠点であるゲートから来たのだ。……と、いうことは。
「……ゲートの探索を行いましょう」
　シルヴィが仲間達に提案する。

●４
　戦闘した場所からしばらく山中を歩いてゆく。すると徐々に違和感を感じた。そして違和感を感じた場所を通過してまた少し歩くと、隠されていた拠点、中国山地の山中に現れたゲートを確認することが出来た。
　繋がった場所が悪く、発見されただけで窮地になりかねないような場所。そんな状態であった為、狂愛母帝アリアと配下の軍勢を送り込んで、拡張を続けてきたのだろうか……。
「これが……」
　シルヴィは思わず息を飲んで見上げた。
　基地で拡張することによって、ゲートを半透明の膜で覆っていたのだ。
　この半透明の膜が、遠く離れたところから見た時には、基地拡張されていない単なる山の姿を見せていたのだろう。ヘリオンから見下ろした山の景色では確認できず、完全に隠蔽されていたのだから。
　ケルベロス達は、重要な情報を入手した。
　此処は一度戻るべきだと一同は顔を見合わせる。敵の拠点傍に、長居は危険だろう。
　任務は成功、それ以上に得るものもあった。
　ローカストの拠点を確認した貴方達は、急いでその場から撤退する。
　

作者：藤宮忍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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