山陰地方の山奥。
人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
――黄金装甲のローカスト事件を解決したケルベロス達は、黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことが出来た。
これまでの経緯を語る、エリオット・ワーズワース(オラトリオのヘリオライダー・en0051)の瞳が驚きと、それに勝る憧憬に満ちているのは容易に窺えるだろう。それでも努めて普段通りに振舞おうと、彼は深呼吸をひとつしてから新たに判明した事実を説明していった。
「……絆を結んだ結果、アルミニウム生命体は、本当は『オウガメタル』という名前の種族で、自分達を武器として使ってくれる者を求めていることが分かったんだ」
しかし現在、オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由にオウガメタルを使い潰すような使い方をしているようなのだ。
特に黄金装甲化は、オウガメタルを絶滅させる可能性すらある残虐な行為であり――それ故にオウガメタルは、此方に助けを求めている。
「そして……オウガメタルと絆を結んだケルベロス達が、オウガメタルの窮地を感じ取ったんだよ」
真剣なまなざしでエリオットは、オウガメタルに迫る危機を語る。彼らはケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星からゲートを通じて脱出――地球に逃れてきたらしい。
しかし最重要拠点であるゲートには、当然ローカストの軍勢が居る。此の儘ではそのローカスト達によって、オウガメタル達は遠からず殲滅されてしまうだろう。
「オウガメタル達がローカストに追われている場所は、山陰地方の山奥になる。僕のヘリオンで現地に向かうから、皆にはオウガメタルの救助とローカストの撃破をお願いしたいんだ」
この作戦に成功すれば、オウガメタルを仲間に迎えるだけでなく、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置も特定する事が可能になるかもしれない。しかし、ゲートの位置に関わる事から、ローカスト達の攻撃も熾烈になるだろう――以上の状況から、厳しい戦いになるだろうとエリオットは告げる。
それでもどうか、酷使され助けを求めている生命を救って欲しい――そう言って彼は祈るように頭を下げた。
「それから、次は敵の情報だね。ローカスト達は、兵隊蟻ローカスト1体が働き蟻ローカスト数体を率いた群れで動いているみたいだ。彼らは山地の広範囲を探索して、逃走するオウガメタルの殲滅を行うようだね」
――ヘリオンが、現地に到着するのは夜半過ぎ。逃走するオウガメタルは、銀色の光を発光信号のように光らせるので、それを目標にすればオウガメタルの近くへ降下することが出来るだろう。
「ただ降下には誤差があるから、すぐ傍に降下出来る訳では無いんだけれど……百メートル以内の場所には降下出来ると思うから、合流は難しくない筈だよ」
そして追っ手である兵隊蟻ローカストの戦闘力はかなり高く、ゲートを守ると言う役割からか、どんな不利な状態になっても決して逃げ出す事は無いだろう。また、働きアリローカストは戦闘が本職ではないが、それでもケルベロス数人分の戦闘力を持っているらしい。
「でも、働きアリについては、兵隊蟻ローカストが撃破されて状況が不利だと思えば、逃げ出す可能性があるみたいだからね」
黄金装甲のローカストの事件が、こんな急展開になるとは思っていなかった――しかしこれは、ローカストと決着をつける好機かもしれない。エリオットは背筋を伸ばして、頼もしいケルベロス達へと敬礼をする。
「それでも、此方を頼って逃げてきたオウガメタルを、むざむざ全滅させることは出来ないよね。絆を結ぶことだって出来たんだ……それを無慈悲に断ち切られるのは、哀しいことだよ」
――だから銀の光を導に、彼らの生命を護りに行こう。その輝きが儚く消えてしまう、その前に。
参加者 | |
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ヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020) |
ケーゾウ・タカハシ(鉄鎖狼の楽忍者・e00171) |
セレナ・アウラーンニーヴ(響命の刃根・e01030) |
来栖・カノン(もふどら・e01328) |
ディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544) |
クレオ・ヒルンド(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e03206) |
リコリス・セレスティア(凍月花・e03248) |
真月・勝(ただの探偵・e05189) |
●銀の導を追いかけて
夜半過ぎの山奥は、静かな緊張に包まれていた。ひと気が無いと思われた彼の地では今、ひとならざるもの達の追走劇が繰り広げられており――時折山中に瞬く銀色の光は、助けを求める逃亡者の発する悲痛な叫びであったのだ。
「光が……また」
数分間隔で発せられる光を硝子越しに見つめつつ、リコリス・セレスティア(凍月花・e03248)は無意識の内に、左手の薬指にはめられた指輪を握りしめる。
「……オウガメタルの方々とも手を取り合えるよう、全力を尽くしましょう」
その声に無言で頷くディークス・カフェイン(月影宿す白狼・e01544)は、降下に向けての準備を着々と済ませていた。僅かな誤差すらも埋めようと、彼が用意したのは暗視スコープと通信機――そのチューニングを器用に行いつつ、作戦に齟齬が無いか皆と確認し、ディークスは問題無いようだと雪色の獣耳を揺らす。
「えっと、それは何なのかな?」
「ああ……これはダミーの鞄だ。少しでも注意を逸らせるように、な」
と、眠たげな瞳で小首を傾げる来栖・カノン(もふどら・e01328)に、真月・勝(ただの探偵・e05189)は微かに相貌を和らげて説明をしていった。
この中にオウガメタルを匿っているように見せかけ、ローカスト達の意識を向けられたらと――その中身を詰め込んだダミーを受け取ったヒルダガルデ・ヴィッダー(弑逆のブリュンヒルデ・e00020)は、面白いと言うように口の端をつり上げて、かつんと手にした杖で力強く地面を叩く。
「フッ、こんな頼もしいレディ達と作戦に臨めるとは、異形の生命体と結んだ絆に感謝しないとな」
そんな彼女に大仰に頷き、ニヒルな感じで胸のもふ毛を靡かせるのはケーゾウ・タカハシ(鉄鎖狼の楽忍者・e00171)。謎の楽器をびろろーんと奏でているのも、彼なりに緊張をほぐそうとしてくれているのだろう。
「……うむ、近いな。そろそろ降下地点か」
自分たちケルベロスへ向けた導きの光――一際強く瞬いたそれを紫の瞳に捉え、クレオ・ヒルンド(ドラゴニアンのブレイズキャリバー・e03206)は皆へ、間もなくだと実直に告げる。
――そうしてヘリオンは、静かに目的地上空へと到達した。吹き荒れる夜風に銀の髪を躍らせたセレナ・アウラーンニーヴ(響命の刃根・e01030)は、刃のように研ぎ澄まされた闘争心を宿しながら、眼下に広がる木々をひたと見据える。
「助けを求められたからには、微力なれど全力で応える心づもりです」
それが武を示すことにも繋がるからと、彼はゆるりとした身のこなしで優美な翼を広げ、銀の導に従って夜空へとはばたいていったのだった。
●共に戦う意志
光の指し示す先へ、一行は迅速に駆けつけるべく夜を翔ける。翼を持つ者たちはふわりと滑空を行って、生じた誤差を少しでも埋めようと、慎重に距離を詰めていった。
「あの……尻尾、揺らしすぎると危ないですから」
そして、狼の姿になったケーゾウはと言えば――物憂げな美女であるリコリスに抱えられて、尻尾を振って喜びを隠せない様子。そんな、どう対応して良いのか戸惑うリコリスの隣を、羊の姿になったヒルダガルデが『メェ』と鳴きつつ降下していった。
「よし、周辺に異常は見当たらぬ様だが……」
降下中の攻撃に警戒しつつ竜の翼をはばたかせ、抱えていた勝を地面に降ろしたクレオは、直ぐに辺りの状況を確認する。その上で、オウガメタルの居る方角へと歩みを進めていくが――やはり山奥ともなると生い茂る木の枝や根、草などが行く手を阻むようだ。
「ならば、この力が役に立つと言うもの」
と、クレオやケーゾウらがそっと其方へ足を向けると、植物はひとりでに形を変え、素早く安全に移動出来る路が作られていく。隠された森の小路――その能力は此処で、如何なく発揮されたようだ。
「それでは、私達はローカストの奇襲に警戒しつつ、迎撃の準備をします」
山深い森も彼らは難なく踏破していき、セレナやヒルダガルデといった面々は、今も追跡を行っているであろう蟻たちの対応に当たろうと動き出す。其処でディークスが視線を向けた先には、アルミニウムのような金属の塊が幾つか、スライムを思わせる形状でふるふると震えているのが見えた。
(「どうやらローカストに発見されるよりも早く、彼らの元へ辿り着けたようだな」)
ひとの姿へと戻ったディークスが、安心させるようにオウガメタルの前に立ち――空の鞄を抱えた勝は彼らにそっと触れつつ、言葉と思念で自分たちの意思を伝えようと深呼吸をする。
「お前達を助けに来たが……生憎、逃がす時間がねぇ。俺の鞄に入って隠れてくれ」
素早く鞄を開ける勝の意図を察したらしく、オウガメタル達は集まって大きな塊となり、するすると鞄に潜り込んでいった――のだが。其処でちいさな塊がひとつ、勝の方を見つめるようにしてふるりと揺れた。
「ん、それが嫌なら持っておくから、武器にでもなっててくれ」
――どうやら、そのオウガメタルは隠れるのが嫌だと言う訳では無く、武器となって一緒に戦うと言う勝の意思に呼応したようだ。滑らかに勝の身体を覆ったオウガメタルは、新たな彼の力となり――その様子を眺めていたディークスは、そっと安堵の吐息を零していた。
(「仲間になるかは其方次第で、しかし今の儘よりは良いと呼びかけるつもりでいたが」)
既にオウガメタルは覚悟を決め、共に戦う道を選んだのだ。ならば自分は、逃れる道標を――武と共に示すのみ。
「……丁度いいタイミングだな。敵さんがこっちに近づいてきているようだ」
オウガメタルとの接触を無事に果たしたことにケーゾウもほっと胸を撫で下ろしつつ、山狩りを行っているローカスト達が此方に向かっていることに気付いて表情を引き締めた。オウガメタルには自分の意思でどうするか、自分たちなりの強さを見て判断して欲しいとも思っていたが――こうなれば彼らを確りと護り抜き、その期待に見事応えてみせようと気合を入れる。
「ふむ、此方から奇襲も可能という状況だが……どうするかね?」
にぃと白い歯を見せて嗤うヒルダガルデに、望む所と言わんばかりに微笑むのはセレナ。奴らが現れたと同時に先制攻撃を叩きこむ――その作戦を瞬時に悟ったカノンが微睡む瞳をきゅっと引き締める中、囮の鞄を大事そうに抱えたクレオは慎重に一歩を踏み出した。
「……現れたか」
――そして。鬱陶しそうに茂みを掻き分けつつ、一行の前にローカスト達が――働き蟻たちを伴った兵隊蟻が姿を現わす。目星をつけて探索を行っていた先に、まさかケルベロス達が待ち受けているとは思わず動揺する彼らへ、まるで白き尾のような髪を靡かせながらディークスが迫った。
「使い棄てられる者の嘆きを知れ」
冷然と吐き捨て、精緻な紋様が刻まれた彼の爪は恐るべき術を――讐魄溘焉の勢を瞬時に行使する。
「これはシロガネの導きに従った、クロガネ狩りだ」
●シロガネとクロガネと
――唱え、遊べ、呼び声よ。ディークスの言霊に導かれて顕現したのは、数万にも及ぶ黒き刃の雨。それは無慈悲にも兵隊蟻に降り注ぎ、針の筵と化した敵はくぐもった声を漏らして苦痛に耐える。
「……グ、ッ……!」
しかし、その瞳が次に捉えたのは、オウガメタルを纏う勝の姿だった。まさか、逃亡者がケルベロスに与するとはと驚愕に固まるその間にも、勝は滑らかな装甲に覆われた腕を天に翳している。
(「同胞の為、か。……愛する者を守れない絶望は知ってる。定命化が難しい体質には同情するが、人類やこいつ等を害して良い道理は無ぇ」)
その鋭い瞳に一瞬過ぎったのは、大切なものを喪ったかつての光景か。が――悲嘆に暮れる暇は無い。この手で救えるものがあるのなら、立ち止まる訳にはいかないのだ。
「ままならねぇな……さぁ『依頼』を始めよう」
オウガメタルが具現化したのは、惑星レギオンレイドを照らすと言う黒き太陽――その黒光は敵群に絶望をもたらし、同時に勝の狙い通り、彼らの足取りさえも鈍らせていった。
(「……命を奪わず、グラビティ・チェインを渡す方法があれば。ローカストの方々も、救えたのでしょうか」)
――手を取り合えるものと、そうではないものと。其々の抱える事情は複雑で、個人の一存ではどうしようもないものだと分かっているが――それでもリコリスは、己に問わずにはいられなかった。その星辰の剣先が描く守護星座の放つ光は、何処か切なくて。一方でカノンはボクスドラゴンのルコに声を掛け、黒鎖を操って護りの魔法陣を展開していった。
「一緒に頑張るんだよ……!」
少女の声にルコはきゅい、とひと声鳴いて、虹と草花の属性を味方に注入して耐性を高めていく。そしてセレナもまた、ボクスドラゴンのフィル・ヒリーシュと呼吸を合わせ、絡み付く蔦に黄金の果実を実らせていった。
「みゅん!」
果実の発する聖なる光が、仲間たちの進化を促す中――フィルも一緒に皆を守ろうと回復に専念している。その懸命な仕草を見ていると、自分がオウガメタルのことも守ると頑張っているようにセレナには思えた。
(「自律的な判断が出来ないと、分かってはいるのですが……」)
それでも封印箱に入ったクッションだとか、おやつのクッキーがちらりと覗いている様子を見れば、知らず唇には笑みが浮かぶ。そうして一通り守りを高めた所で、初撃を狙うクレオらが一気に斬り込んでいった。
(「嘗て彼らが友として生きる、平和な時代があったと言うが……現在の非道の多くは、生存の為に行っている事なのだな」)
共生関係にあったローカストとオウガメタル――しかしその関係は、グラビティ・チェインの枯渇で脆くも崩れ去っていく。その過去を思い、微かに瞳を伏せたクレオの側頭部――地獄化した其処が燃え上がると同時、彼は瞳を見開いて、構えた砲台より焼夷弾の雨を降り注がせた。瞬く間に炎を纏うローカスト達へ、更にケーゾウが信念を揺らがせようと呪歌を響かせる。
「ご機嫌よう、兵隊殿。仕事熱心だな」
そして――芝居がかった仕草で一礼したヒルダガルデが、ふわりと身を躍らせるや否や痛烈な蹴りを叩きこんだ。その電光石火の一撃が、装甲を貫いた確かな感触を得たものの――やはり精鋭の兵隊蟻と言うべきか、敵は臆した素振りも見せずに確りと立ち上がる。
「ああ、我は狂愛母帝アリア様の騎士。我らが同胞の為に決して退かず、敗北を喫する事はせん」
その堂々たる佇まいは、正に騎士と言う他無かった。兵隊蟻、否、アリア騎士は腕から蟷螂の如き鎌を閃かせてヒルダガルデを斬り裂き――働き蟻も其々に、棘を突き刺して石化液を注ぎ込もうと反撃を開始する。
「そりゃ大した覚悟だ……な!」
ダミーの鞄をこれ見よがしに庇いつつ、アルミ化液を注入されたケーゾウが吐き捨てた。そんな風に鞄を大事そうに抱える此方を見て、ローカスト達はオウガメタルを匿っていると判断したらしい。が、逃亡者を始末する為にも先ずは、ケルベロス達を何とかしなければならない――故に彼らは鞄を後回しにして、此方の排除に全力を傾けることにしたようだった。
「ガアアアァァ!!」
アリア騎士を庇う働き蟻の悲鳴が、深夜の山に響き渡る。盾となる彼らだが、どうやら戦闘経験は然程無いらしく、連携が取れているとは言い難い。ならば付け入る隙はあると、素早く弾いた勝のコインがアリア騎士の関節を砕いた。
「仲間はこっちに付いたぜ、お前さん達はどうする」
「知れた事。例えこの身が朽ち果てようとも、最後まで戦い続けるのみ!」
地を這う咆哮を轟かせながら、アリア騎士の牙が獲物を食い破ろうと唸りをあげる。しかし、仲間を襲うそれを庇ったのは、地獄の炎を纏うクレオだった。傷ましい鮮血が大地に降り注ぐ中、カノンの放つ祝福の矢を受けた彼は、酷く落ち着いた声音で騎士に告げる。
「其方にも事情があろう。だが、我等は助けを求められたのだ」
――そして、護る理由は至極単純だった。何故ならば。
「日が浅くとも、友人は大切なものであるが故」
●騎士の最期
先手を打ち、確りと守りを固めた上で敵の力を削ごうと動いたこともあって、ローカスト達は徐々に押され始めていた。しかし、その中にあってもアリア騎士は不退転の覚悟を貫き、ディークスが見せる惨劇の鏡像に苛まれつつも此方へ向かってくる。
(「……既に、覚悟しているのか」)
自分たちの敗北は、即ちローカストの滅亡に繋がるのだと――同胞の命運を背負っているが故、彼は死ぬまで戦い続けるのだろうとディークスは理解した。互いに血を流し、どちらかが倒れるまで止まない戦いに、極光の紗幕を張り巡らせるリコリスは悲痛な声で問いかける。
「……本当に、私達の命を差し出す以外に、あなた方を救えないのですか?」
――けれど、ローカスト達は刃を以て答えとした。もう、これ以上の問答は無意味だと言うように。ならばとセレナは、全力で相手をするのが礼儀だと頷き、摩擦の力で生み出した炎を蹴りと共に叩きこむ。
(「生来の気質任せではあれど、力を求めてきたわけが、最近になって判ってきた心地がします」)
それは、護りたいものを、護るために――助けを求める者に、手が届くように。
「そのためには、本領と異なる戦い方も身につけましょう」
その身を炎と毒に蝕まれ、アリア騎士の生命は確実に削り取られていく。彼を狙う攻撃の幾らかは、働き蟻たちが代わりに受けるものの――このままでは騎士の生命が尽きるのが先に思われた。しかし、彼は最期の力を振り絞るようにして、辺りに破壊音波を響かせる。
「ルコ!」
当たり所が悪かったのか――催眠を受けてぐったりと崩れ落ちる家族のような相棒に、カノンは虹色の鍵を握りしめながら懸命に回復を行っていった。が、やはり相手は強敵だったのだ。必要以上に回復をしない心配より、此方の回復が追い付かない心配をすべきだった。
「……いいや、未だだ!」
しかし、カノンを助けようとケーゾウが猟域を形成していき、窮地に陥った者たちも必死に己を奮い立たせて運命に抗う。
「自慢の蹄だ。さぁ、何処を蹴り抜かれたい?」
そして――地獄の炎に包まれたヒルダガルデの右脚が唸りをあげ、最期の言葉も届かぬままに、心臓を貫かれたアリア騎士は絶命した。
――その後、残された働き蟻たちは呆気なく逃げ出し、無事にオウガメタルを守り切った勝たちは、依頼完了とばかりに傷ついた身体を投げ出した。
「きっと、今まで大変だったんだよね……もう大丈夫だから、安心していいんだよ」
労わるようなカノンの声が響く中、ディークスは思う。恐らく未だ逃げられていない、搾取されている仲間が居る筈だ。
だから、改めて彼らに伝えよう――共に、救いに行こう、と。
作者:柚烏 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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