オウガメタル救出~異界からの逃亡者

作者:Oh-No

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
 

「黄金装甲のローカスト事件に向かったケルベロスたちは、事件を無事解決したね。それだけに留まらず、黄金装甲とされていたアルミニウム生命体との間に絆を結ぶことが出来ただなんて、すごい成果まで!」
 ユカリ・クリスティ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0176)は、やや興奮した様子で話し始めた。
「その結果、アルミニウム生命体の名前が『オウガメタル」という種族で自分たちを武器として使ってくれる者を求めていること、現在、王がメタルを支配しているローカストはグラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルを使い潰すようなことをしていること、とくに黄金装甲化は王がメタルを絶滅させる可能性すらある残虐な行為であること、などがわかった」
 語るうちに落ち着きを取り戻しつつ、最後には真面目な表情になって告げる。
「何より大事なのは、彼らに助けを求められたことだよ。そして今、絆を結んだケルベロスたちが、彼らの窮地を感じ取ったんだ」
 オウガメタルたちは、ケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星からゲートを通じて脱出、地球に逃れてきたのだという。しかし、最重要拠点であるゲートは厳重な警戒下にあり、ローカストの軍勢がオウガメタルを見逃すとは考えられない。このまま何もしなければ、彼らが全滅の憂き目に合うことは必定だ。
「オウガメタルたちがローカストに追われているのは、山陰地方の山奥なんだ。ヘリオンで現地に急行し、オウガメタルの救助とローカストの撃破を果たしてくれないか。これはオウガメタルを僕らの仲間に迎え入れるだけでなく、ローカストのゲートの位置を特定するチャンスでもある」
 ユカリはそこまで話してから一度言葉を切って、静かに付け加えた。
「――もちろん、ゲート至近だからローカストも熾烈な攻撃を仕掛けてくるだろう。でも、それに怯む皆じゃない。そうだろう?」
 ローカストたちは、兵隊蟻ローカスト1体が働き蟻ローカスト数体を率いた群れが単位となり、山地において逃走するオウガメタルの探索と殲滅を実行しているようだ。
 現地への到着時間は夜半すぎになる。オウガメタルは、銀色の光を誘導のために発する。その光を目標にヘリオンから降下すれば、近くに到着することが出来るだろう。誤差を考慮しても目標から百メートル以内の範囲には降下できるはずだ。深夜とはいえ、合流は難しくないだろう。
 追っ手の中心たる兵隊蟻ローカストの戦闘力は高い。ゲートを守るという役割もあり不利な状況でも逃走せず、最後まで戦い抜くだろう。
 働き蟻ローカストは戦闘が専門ではないとはいえ、ケルベロス数人分の戦闘力がある。ただし、彼らを率いる兵隊蟻が倒されて、かつ敗勢が明らかであれば、逃走する可能性もある。
「急な作戦になり驚いているかもしれない。だが、いまは大事な局面なんだ。このチャンスを活かして、オウガメタルたちを助け、ローカストの喉元に剣先を突き付けてやろうじゃないか」
 そう言って勇ましく微笑んだユカリは、集ったケルベロスたちを自らのヘリオンに迎え入れる――。


参加者
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
九重・心(黒狐術士・e01718)
エリオット・シャルトリュー(不退転のイカロス・e01740)
ガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)
椿・火蘭(業火の女子高生・e03884)
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)
アゼル・グリゴール(レプリカントの鎧装騎兵・e06528)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)

■リプレイ


 ――トンッ。
 ヘリオンから降りた着地の衝撃をしゃがみ込んで逃がし、アゼル・グリゴール(レプリカントの鎧装騎兵・e06528)は周囲を確認した。
(「想像よりも早く事態が推移したものです。それでも遅れずに対応できそうだというのは、行幸といえるでしょうか」)
 状況を鑑みて、アゼルは独りごちる。オウガメタルが放つ光も、ヘリオンから確認済みだ。着地した現在地点は、彼らからさほど遠くないはず。
「では参りましょうか、友と呼べるだろう者達を救うために」
 アゼルは仲間たちに呼びかける。
「ああ、たしかあっちのほうだったな」
 パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)が、明かりを手に大体の方角を指し示す。
「オウガメタルの明かりが見えりゃいいんだが……」
 同じく準備した明かりで周囲を照らしながら、九重・心(黒狐術士・e01718)が口を曲げる。
 上空からは見えた光だが、降り立ってからは草木に紛れて確認できなくなっていた。完全な暗闇であるなら見えるかもしれないが……。
「方向はわかっているのですから、近寄れば見えるのではないでしょうか」
「ええ、ただ真っ直ぐ進むには、木々が邪魔ですね」
 アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)がぼんやりとした瞳で言った言葉に、ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)が目の前の茂った木々を無表情に見つめながら応じる。
 そこで椿・火蘭(業火の女子高生・e03884)が、手を上げてアピール。
「大丈夫、まかせて。草木のみんな、ちょっとわたしたちを通してね!」
 上げた手をそのまま森の木々に向けてさっとかざすと、指し示した方角の草木が少し倒れて、細い道が出来上がった。
「よし、道ができたなら進むだけじゃのう。オウガメタルまで急行じゃい」
 開いた道を見て、ガナッシュ・ランカース(マスター番長・e02563)は豪快に笑う。
「ああ急ごう。この時間もオウガメタルは不安なはずだぜ」
 手にした明かりで照らした道を、エリオット・シャルトリュー(不退転のイカロス・e01740)を先頭にしたケルベロスたちが、急ぎ足で進みはじめた。


 隠された森の小路を使って進んだ方向はやや目標から逸れていたが、オウガメタルが放つ銀光は無事に見つかった。
 だが、ケルベロスたちとは別の方向から、森を払い除けながら進んでくる気配がある。どうやら、ローカストたちもほぼ同時にオウガメタルを見つけたらしい。
 残る距離は、あとわずか。
 全力で駆け出した火蘭はオウガメタルを飛び越して、近寄ってくるローカストの前に身体を晒す。
「助けてと言われたからにゃ、助けなきゃ女がすたるってもんでしょ! 地球はわたしらのナワバリだしね。ってことで、義によって助太刀に来たわ!」
 視線は蟻型ローカストを睨みつけながら、オウガメタルを庇うように立つ火蘭の小さな背中は、やけに大きく見えた。
「おうとも! 助けを求める者がおるならば、助けぬ訳にはいかんからのう!」
 見捨てるなどという選択肢は最初から考慮の埒外だと、火蘭のやや後方で構えたガナッシュが胸を張る。
 ミントはリボルバーをホルスターから抜きながら、オウガメタルに視線を向けた。
(「アイテムポケットがあれば匿えたでしょうか……?」)
 しかし1人だけで用意しても、スライムのような群体であるオウガメタルの一部を収納できる程度だったろう。
 それに無いものを考えていてもしょうがない。
「木陰に隠れていてくださいね」
 ローカストに視線を戻し、リボルバーの引鉄を連続で引き弾幕を張った。
「発光は押さえとけよ!」
 オウガメタルの横を通り過ぎざまに声を掛けて数歩、止まったエリオットは足を後ろに振り上げた。足先からは地獄の炎が吹き出し、暗い周囲を赤く染め上げる。
「いくぜっ。――夜闇の地獄鳥よ、俺に従えっ!」
 そのまま振り下ろされた爪先が地面を抉り、紫色の炎を纏った梟が飛び散る土くれの中から飛び立った!
 2体の働き蟻を丸く囲うように紫炎を引きながら飛んだ梟は、炎の檻と化して敵を火の海に沈めた。
 続けざまに後方からアトがギターで奏でるやや陰鬱な旋律にのせて、殲剣の理を歌う。狙いは小隊を率いる兵隊蟻だが、庇って割り込んだ働き蟻が、歌の力を代わって受ける。
「働き蟻はディフェンダーですか」
 呟きを漏らすアトと入れ替わりに、心が片手を握りこみ、兵隊蟻に向かって突き出す。
「――地獄より来たりし紅き炎よ、彼の者を餓鬼の道へ誘え」
 呪文を唱えたのち握った手を開くと、手のひらから真紅の業炎が吹き出した。今度は働き蟻に邪魔されること無く、兵隊蟻を地獄の炎で苛む。
 近寄ってくる蟻たちに攻撃を仕掛けている間に、オウガメタルは身を隠したようだ。
(「できるなら後方まで付き添いたいところでしたが……」)
 アゼルはオウガメタルが姿を隠した付近に一瞬だけ視線を投げかけて考える。
(「今はここで蟻を食い止めることに集中しましょう」)
 力を込めて、アゼルは超加速。兵隊蟻にチャージを仕掛ける。
「ティターニア、みんなを頼むぜ」
 ディフェンダーとして動くよう相棒のボクスドラゴンに指示しながら、パトリックは翼を羽ばたかせ、アゼルに合わせて聖なる光を放った。
(「どう出てくるかわからないってだけでキツかったが、目の前に出て来ちまえば、あとはもうやるだけだぜ!」)
 アゼルの突撃が兵隊蟻の移動を乱したところへ、放たれた光が着弾。兵隊蟻の罪を焼く――。


 ローカストたちは、働き蟻2体にディフェンダーを務めさせながら、兵隊蟻がクラッシャーとして突破を図るシンプルな布陣で動いていた。
「――ッ!」
 つんざくような高音の叫びを上げた兵隊蟻が、アルミの牙を振りかざし襲い来る。
(「……昆虫は苦手ですね」)
 何より、群れをなして生態系をつくり上げる生命力が驚異的だ。
 そんなことを目前まで迫った兵隊蟻の頭部を見て考えながら、ミントは防御態勢を取った。牙がミントの身体を貫くが、ミントは表情も変えもせず身を離し、リボルバーの早撃ちを浴びせ反撃する。
 だが、射撃は働き蟻に身を挺して阻まれた。
「邪魔だな、働き蟻から狙っていくぜ!」
 やや混乱の見られる撃破優先順位を確認するように声を出しながら、エリオットはチェーンソー剣に地獄の炎を纏わせて、1体の働き蟻に叩きつける。
 働き蟻は、体内のアルミニウム生命体で自らを鎧い傷を癒やそうとするが、
「させるか!」
 すかさず心がガントレットのジェットエンジンを吹かして、重い拳を打ちつけアルミニウム生命体を吹き飛ばした。
「まとめて相手をしてあげましょう」
 アゼルは飛び上がり、手頃な太い枝にケルベロスチェインを巻きつけて身体を固定する。
 射線上に障害物はない。露出させたミサイルポッドから、アゼルは大量のミサイルを一斉発射する。
 ――ドガガガガッ!
 降り注ぐミサイルが着弾、噴煙を巻き起こして蟻たちに炸裂した。
 もくもくと上がる煙が視界を遮る。その煙幕を極太の光線が切り裂く。
「それ、喰らえい!」
 吹き払われた煙の向こうに見えたのは、ガナッシュが構える砲門である。放たれた砲撃は、働き蟻に吸い込まれていき、その圧倒的な熱量で働き蟻の身体を麻痺させる。
 さらに、両の手に抜身の刀を引っさげて、パトリックが迫った。
(「オレたちを頼ってくれてるってのは、ありがたい話だぜ。ならその期待には答えないとな!」)
 間合いに踏み込み、刃を一閃。剣筋が正確に敵の傷痕をなぞり、働き蟻の傷を深めた。
「もういっちょ、行くよっ!」
 火蘭もまた、小動物の姿に戻した杖を射出し麻痺をさらに重ねることを狙うが、これはもう1体の働き蟻に庇われた。だが、もう1体も麻痺は受けている。狙いは無駄ではない。
「皆さんに、私から曲を送りましょう。どうぞ……」
 仲間の受けた傷は、アトがループを基調とした曲をハーモニカを奏で、癒していく。繰り返される単調な旋律は、あたかも日常の繰り返しを刻むがごとく、仲間の状態を復調させた。


 ケルベロスたちは働き蟻に狙いを定め、1体を落とした。残る1体も麻痺に沈み、ほとんど行動できていない。楽な戦いではなかったが、ギリギリのところで主導権を握り続けている。
 兵隊蟻は思うに任せぬ状況に、牙を振り上げて荒れ狂う。そしてダメージを振りまくエリオットに狙いを定め、突撃を仕掛けた。
 だが、そう簡単にはやらせない。
 巨大な縛霊手を盾にして、火蘭がエリオットを庇った。ディフェンダーといえども受けた傷は軽くはないが、痛みを堪えて兵隊蟻を払いのける。
 火蘭は全身を地獄の炎で覆いながら、兵隊蟻のまえに立ちふさがった。
「あんたらローカストにだって事情はあるだろうし、ハングリーで根性ある奴は嫌いじゃないわ!」
 そこで、華やかな笑みを浮かべて続ける。
「でも、ひとつっきりの命しか持ってないわたしらの根性の方が上だってこと、思い知っときなさい!」
 兵隊蟻は顎をキチキチとすりあわせて唸る。
「……あと少しですね。終わらせましょう」
 アトは回復の必要なしと見切って、精霊魔法を詠唱する。振った指先にいざなわれるように吹雪の姿をした精霊が現れて、極寒の冷気に蟻たちを巻き込んだ。
 氷の中に閉じ込めた蟻を、今度は一転して心が獄炎で炙る。
「これで、どうだ――!」
 パトリックは、それぞれの手に握った二刀をX字を描くように振り下ろす。すると刃に込められた霊気が衝撃波となって、兵隊蟻に殺到した。
 連撃を受けた兵隊蟻の甲殻は切り裂かれ、ずたずたになっている。それでも、まだ兵隊蟻は屈していない。
「さぁ、何処まで耐えられますか――?」
「ユニット固定確認……炸薬装填……セーフティ解除……。目標捕捉、これより突撃する!」
 そこへ最後の一撃を加えるべく、ミントとアゼルが左右から迫った。
 ミントは振りかぶったチェーンソー剣を、袈裟に振り下ろす。
 アゼルは無骨な杭打機を腰だめに構えて突貫、兵隊蟻に叩きつけてトリガーを引いた。
 ――ドカンッ!
 耳をつんざく爆発音とともに、兵隊蟻の身体が吹き飛ぶ。背後の樹木に叩きつけられて、地面に落ちた身体は、もはや僅かたりとも動かない。
 そして取り残された1体の働き蟻へ、腕を組んで仁王立ちするガナッシュが語りかけた。
「さて、後はおぬし一匹じゃが、まだ続けるかのう? これ以上は無駄な戦いじゃし、今なら見逃しても良いんじゃがのう」
 残った働き蟻は、既に戦意を喪失していた。問いかけにこれ幸いと後ずさり、間合いをとったところで一目散に逃げ出していく。
 ガナッシュは手にした明かりを消して、その後を静かに追いかけていった――。
「さて、オウガメタルは無事か?」
 チェーンソー剣で兵隊蟻の身体を転がして、息の根を止めたことを慎重に確認したエリオットは、一転、オウガメタルの元へと向かう。
 オウガメタルは隠れた木の陰から、半身を覗かせていた。戦闘に区切りがついたことはわかっていたのだろう。
「うん、怪我はしてないみたいだね」
 その姿を一通り確認して、火蘭は胸を撫で下ろす。
「他のオウガメタル達も無事なら良いのですが……」
 ミントは、かすかに眉根を寄せて呟く。あとはもう、他のケルベロスたちの作戦がうまく行っていることを祈るしかない。

 逃走した働き蟻を追ったガナッシュは、途中で不意に違和感を感じた。
「……なんじゃ?」
 気色悪さを感じながら進むと、急にそれまでとは違う景色が目前に広がった。驚いたが、慌てず傍の草むらに身を隠し、様子を観察した。
 それはまさしくローカストの基地であった。何らかの力で隠されていた基地が、その威容をガナッシュの前に表している。おそらくは相当な労力をかけ、山を切り開いて拡張した基地なのだろう。
「これ以上は危険じゃのう……」
 スーパーGPSで正確な位置も確認した。あとは無事に情報を持ち帰らなければ。
 ガナッシュは物音を立てぬように注意しながら、出来る限り素早くその場を後にする――。

作者:Oh-No 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。