●
山陰地方の山奥。
人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
●
「まずは報告があります」
そう言って千々和・尚樹(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0132)はヘリオンの中を歩いていく。
その間にも彼のくちは動き状況を説明していた。
「黄金装甲のローカスト事件を解決したケルベロスたちですが、そのアルミニウム生命体と絆を結ぶことができました」
絆を結んだその結果わかったことは、アルミニウム生命体とは『オウガメタル』と呼ばれる種族で、自分たちを武器として使ってくれる者を求めていること。
現在はローカストたちに武器として使われている者の、彼らはグラビティ・チェインの枯渇を理由にオウガメタルを使い潰しているということだ。
「特に黄金装甲化は彼らオウガメタルを絶滅させる可能性すらある残虐な行為なのだそうです」
このままでは彼らの種の存続が危ぶまれてしまうだろう。
「そして絆を結んだオウガメタルが彼らの仲間の窮地を感じ取ったのだそうです」
その情報によると、オウガメタルたちはケルベロスたちに助けを求めるべくゲートを通じてこの地球に逃れてきているらしい。
しかしその脱出路のゲートは最重要拠点だ。
当然ローカストの軍勢がおり、逃げ出したオウガメタルたちを追いかけているのだという。
「このままではオウガメタルたちは一匹残らず殲滅されてしまいます。今回の依頼は、このオウガメタルたちを保護することです」
彼らオウガメタルたちがローカストに追われている場所は山陰地方の山奥。
「オウガメタルたちを助ける依頼ですが、うまくいけばローカストのゲートの位置も特定することができるかもしれません」
もちろんオウガメタルたちを追ってきているローカストとの戦闘が見込まれ、さらにゲートから近いということもあり彼らとの戦いは熾烈を極めるだろう。
オウガメタルたちを追っているのは兵隊蟻ローカスト1体と働き蟻3体。
「ヘリオンが現地に到着するのは夜半過ぎになります」
闘争しているオウガメタルは銀色の光を発行信号のように走らせるので、それを目印にして降下すれば近くに降り立つことができるだろう。
「多少の誤差はあると思いますが、百メートル以内の場所に降り立つことができるはずです」
合流したその後は兵隊蟻ローカストたちとの戦いとなる。
「兵隊蟻はゲートを守るという役割からか、不利な状況になっても逃げだすことはないそうです」
しかし、働き蟻については兵隊蟻ローカストが倒されて不利だと思えば逃げ出す可能性があるようだ。
「今回遭遇するローカストの詳細を説明しますね」
兵隊蟻は牙を飛ばしての攻撃、跳躍してからの蹴り、カマキリの鎌で敵を切り裂く攻撃を使い、働き蟻の攻撃は兵隊蟻と同じく牙を飛ばす攻撃の他に羽をこすり合わせる広範囲への攻撃と、防御を高めながら回復をするグラビティを使ってくるらしい。
「兵隊蟻の攻撃はそれぞれ追撃、ブレイク、ドレインの効果があり、働き蟻の攻撃は催眠、盾アップの効果があるようです」
絆を結んだオウガメタルから知らされたこの事件。
まさかこのような急展開になるとは誰が予想しただろうか。
「オウガメタル救出が目的ですが、どうか皆さんも怪我のありませんよう、無事に戻ってきてくださいね」
参加者 | |
---|---|
寺本・蓮(眼鏡が本体疑惑・e00154) |
ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604) |
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542) |
イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943) |
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612) |
タニア・サングリアル(全力少女は立ち止まらない・e07895) |
姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089) |
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555) |
●
外灯も何もない山中をケルベロスたちは駆ける。
目的は救援を求めて逃げまどっているオウガメタルたち。
「確かこの辺りだったよね?」
「だねぇ」
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)の問いにピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)が手元の地図を確認しながら答える。
ヘリオンから確認したオウガメタルたちは、蛍のように光を点滅させながら山中を移動をしていた。
下降時に確認した光はこの辺りからだったと思うのだが。
「敵から逃げてるんだからじっとしてはいないわよね」
暗視ゴーグルでイリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)が辺りを見回しそう言えば、タニア・サングリアル(全力少女は立ち止まらない・e07895)もそれに同意する。
「ですが遠くには行っていないはずなのです」
確認から下降まで、そこまで時間がかかったとは思えないと、同じように暗視スコープで辺りを見回していた姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)は眩い光に思わず目を閉じた。
「……!」
暗い闇を見通すそれはすぐにその光を調節し視界は落ち着きを取り戻す。
そしてこの暗い山中で光を発するものなどただ一つ。
「オウガメタル……!」
「……行こう……」
イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)の声を合図に、彼らはその光に向かって無言で駆けだしたのだった。
光が徐々に大きくなり……追いついた先に居たのは一塊のオウガメタルだった。
そのオウガメタルたちに向かい、寺本・蓮(眼鏡が本体疑惑・e00154)は微笑む。
「事情は君の仲間から聞いた。俺達が来たからにはもう大丈夫」
安心させるようにゆっくりと優しく語り掛ければ、オウガメタルは発光を止める。
恐らく敵ではないことが伝わったのだろう。
そのことに安堵したヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)は暗闇の中、こちらに向かってきている敵の気配を感じ取っていた。
相手はおそらくこのオウガメタルたちを追ってきたローカスト。
「使い捨てにして更に殲滅するだなんて……身勝手が過ぎますね」
合流は果たしたもののオウガメタルを本当の意味で救えるかどうかはこの後にかかっている。
ケルベロスたちは暗視ゴーグルをかけなおし、音がする方へと顔を向けたのだった。
●
がさりと姿を現した蟻たちの注意を引くようにタニアはLEDライトを掲げて叫ぶ。
「オウガメタルたちを使い捨てするなんて、許せないのですよ!」
LEDライトの明かりに強い口調のタニア。その二つに蟻たちの注意が逸れたその瞬間。
その隙を逃すことなく、ケルベロスたちは奇襲をしかけていた。
イブが妖精弓を引き絞り一体の働き蟻に向かって一本の矢を撃ち放つ。
まっすぐに飛んでいく矢は狙い通り働き蟻に突き刺さり、それと同時にタニアの押した爆破スイッチが蟻たちの足元を一斉に爆破した。
爆破で浮いた身体に叩きこまれるのは流星の煌きを宿したリディの飛び蹴り。
叩きつけられた蟻の身体が更に煙幕を起こせば、それが消えないうちにと蓮は素早く前に出た。
狙うのはリディとはまた別の働き蟻。
稲妻を帯びた超高速の突きは的確に働き蟻の節に食い込み身体を痺れさせ、背後からはボクスドラゴンのフェアリンがブレスを吐いて援護する。
ブレスの音の中、ピジョンの口は古代語を紡いでいく。
詠唱終了と同時に放たれた光線は3体目の働き蟻の足を打ち抜き動きを鈍らせ、そこにテレビウムのマギーが目も眩むようなフラッシュを焚いていく。
眩い光の連続に暗視ゴーグルを取り払ったイリスは自身の手に巻き付いている黒い茨……シュバルツ・ヴァルトを解き放つ。
実った黄金の果実は光を放ち後衛の面々に加護を付与していく。
そして働き蟻のその奥……兵隊蟻に向かいヒスイは一つのカプセルを投射した。
(「何とか、助けて差し上げたいですね……」)
ウイルスの入ったそのカプセルは兵隊蟻に命中し、これで少しだけだが傷の回復を阻害することができるだろう。
彼らの行動の間に楓は両手を胸の前で握りしめていた。
「私の中の脅威……異形の魂……、お願い……! 私を……皆を……、オウガメタルを……助けてあげて……!」
力ある言葉を呟いた瞬間、彼女の体を光が包んだ。
奇襲は成功と言っていいものだった。
素早くオウガメタルと合流できたこと、そして明かりに頼らずに行動したことが功を奏し、追手のローカストたちに気配を悟らせることなく攻撃をすることができていた。
しかし。
「さすがにこれくらいじゃ倒れてくれないね……」
とんとんと足をつま先で地面を蹴りながらリディが前を見据えてそう呟く。
3人の集中攻撃を受けた働き蟻だったが目立った傷はなく、感情の浮かばぬ瞳でケルベロスたちを見つめている。
しかし初手に相手の動きを鈍らせることができた。特に攻撃を受けなかったという点は大きい。
相手は強敵。しかもこちらは守りながらの戦いだ。激戦は避けられない。
体勢が整わない今こそがチャンス。
「忘れないで。誰かを想う力……」
イブの口から溢れる声は普段の彼女からは想像もつかないほどの激しさで、そのビートは働き蟻の体を幾度も揺さぶる。
その間にリディの古代語が紡がれる。いつもよりノリがいいのはイブの歌う曲ゆえか。
放たれた光線が先ほどと同じ働き蟻にぶち当たれば、今度はタニアが地を駆ける。
電光石火の蹴りが働き蟻の鎧に打ち込まれ、ぴきりと嫌な音を出した。
「ひととせのひとひらにおもいをよせて……」
蓮の言葉と共に現れたのは4つの影。
それらは一番攻撃を受けている働き蟻を拘束し、刺突し、喰らいつき、捩じ切っていく。
その隣の働き蟻に向かうのはピジョンの生み出した針と糸。
「銀の針よ、縫い閉じよ」
ピジョンの力ある言葉が紡がれると同時に現れた針と糸は働き蟻の身体をぎちぎちと縫い合わせていく。
その間にイリスが生み出した黄金の果実が今度は前衛の体に加護をもたらすとその足元でヒスイの描いた魔法陣が光り前衛の面々の防御を固めていった。
「右も左もありアリ蟻! わらわは駆除班ではないのじゃが」
文句を言いながらも楓は愛用のブラックスライム……異形武装・黒纏に空の霊力を纏わせる。
狙うのは一番体力が減っているであろう働き蟻。
動きが鈍くなっているそれはしかし楓の攻撃を見切ったのだろう、ぎりぎりのところで攻撃は躱されてしまった。
奇襲が成功したということもあり一方的に攻撃を仕掛けることができていたが、ここからは相手のターン。
蟻たちはぎちぎちと顎を鳴らしながら、ケルベロスたちへの攻撃を開始したのであった。
●
主に蟻たちの攻撃対象となったのは最初に気を引き付けたタニアだった。
躊躇なく繰り出される蟻たちの攻撃は重たく、タニアの傷は増えていくばかりだ。
彼女を庇ったボクスドラゴンのフェアリンと、怒りを付与したマギーの姿はすでに掻き消えている。
2体目の働き蟻に止めを刺した楓もすでにボロボロで、肩で息をしていた。
相手の蟻たちのポジションはどこなのか様々な可能性を考えていたケルベロスたちだが、結果としては働き蟻のうち2体が防御を固め、残り1体と兵隊蟻が攻撃という布陣となっていた。
ようやく守りの固い2体を倒し終えたが残っているのは攻撃担当の働き蟻とほぼ無傷の兵隊蟻。
「……どうやら説得は無理みたいだねぇ」
「……そのようですね」
ピジョンの言葉にイブも頷く。
ここまでの戦闘中、ピジョンとイブ、そしてリディは必死にローカストたちの装備しているアルミニウム生命体に呼びかけてはみたもののあちらからの反応はない。
恐らく装備者である兵隊蟻の意思に逆らうことはできないのだろう。
その兵隊蟻の腕がカマキリの刃のような鎌を展開していく。
狙われたのは明かりを持ったままのタニア。
「っ……!」
咄嗟に腕を交差するものの鎌はその腕ごとタニアの身体を切り裂いて、その溢れた血は兵隊蟻の体力を回復させていく。
その一撃を何とか耐えきった彼女だったが次の働き蟻の破壊音波までは耐えられず、バランスを崩したタニアの体は地面に倒れそのまま意識を手放した。
残った面々が兵隊蟻に攻撃を仕掛ける中、ヒスイは仲間の傷の具合を確認していた。
単体攻撃だけでなく範囲攻撃も受けていることから、大なり小なり全員が傷を負っている。
「少しの間、我慢をお願いいたします」
全員を見回して怪我の具合を確認したヒスイは楓に緊急手術を施した。
「――っ!」
ぐらりと傾ぐ楓の身体を蓮が抱き留める。
庇おうと動いた彼の体は、しかし一歩間に合わず。兵隊蟻の牙が彼女の身体に突き刺さっていた。
働き蟻の壁がなくなったことにより兵隊蟻への攻撃はしやすくなったが、作戦の一つとして残していた働き蟻は全くフリーの状態だ。
動きを制限しているとはいえ、それが確実に働くとは限らない。
動きが止められなければ、攻撃力の高い働き蟻はケルベロスたちにとって十分な脅威となる。
働き蟻が羽をこすり合わせる音と体に感じる違和感に、イリスは僅かに顔を顰める。
その様子に気付いたヒスイは薬液の雨を降らせていった。
「もう少しですよ」
癒しの雨に打たれて体の違和感が消えたイリスは働き蟻に向かって挑発的に微笑んだ。
「あら、こんなものなの? じゃあ、次はこちらの番ね」
狙うのは今攻撃を仕掛けてきた働き蟻ではなく兵隊蟻。
兵隊蟻は強いが今までの攻撃で確実にダメージは蓄積しており、現にいくつもの鎧の破片が地面に落ちている。
きゅ、と弦を引き絞りったイブの手から一本の矢が放たれ、それを追うようにリディの武器からも物質の時間を凍結する弾丸、そしてピジョンの魔法光線がまっすぐに兵隊蟻に向かう。
矢が肩口に突き刺さり、弾丸はわき腹へ、魔法光線は腹部を貫く。
その衝撃に兵隊蟻はたまらずたたらを踏んだ。
体勢が崩れたその瞬間を逃すほどケルベロスたちは甘くない。
その瞬間、蓮の槍が高速で突き出され、イリスの手からは攻性植物が離れていく。
「黒き抱擁……貴方は耐えられるかしら?」
稲妻を纏った槍と黒い槍とが兵隊蟻の胸部を貫けば、その体を覆っていた鎧はばらばらと崩れていく。
2つの槍が引き抜かれれば体を支えるものはなく、兵隊蟻は地面の上に倒れ伏したのだった。
ヒスイのケルベロスチェインが魔法陣を描いていく。
最大の脅威を倒したとは言え、働き蟻はまだ残っているのだ。
万が一向かってこないとも限らない。
「あら、貴方達のリーダーは死んじゃったみたいね。どうする? 今尻尾を巻いて逃げるなら見逃してあげるわよ」
ざり、と地面を踏むイリスの言葉に最後に残った働き蟻は逡巡し……次の瞬間ケルベロスたちに背中を向けて走り出していた。
働き蟻の役割は戦闘ではないのだから、当たり前と言えば当たり前かもしれないが。
「……できましたか?」
働き蟻の姿を見送りながら言うヒスイの言葉に、ウォンテッドを使用した蓮は力強くうなずいたのだった。
●
「……こっちだね」
ウォンテッドで逃げていく働き蟻の後を蓮とピジョンが追っていく。
本来の目的のオウガメタルの救出を終えたのならば、あとはもう一つの目的……ゲートの確認だ。
「こうも多用することになるとはね~」
働き蟻が逃げていく道なき道を2人は素早く駆け抜ける。
自分を先導する蓮の背中にピジョンは小さく声をかけた。
「正直……今めっちゃ楽しいよ」
平静を装っているが心は踊っている。
ろくに回復もしないままだがゲートを暴けるまたとないチャンスなのだ。
暗い中、暗視スコープの中に見えるのは緑色の木々ではあるが働き蟻の歩みは止まらない。
「……?」
「今、何か……」
「うん、おかしかったね?」
薄い、見えない蜘蛛の巣を通り抜けたような、そんなねっとりとした違和感。
その違和感から数分後、蓮とピジョンの視界に入ったのは虹色のゲートとそれを囲むように建てられた要塞。
幾度も拡張が行われたのであろうその要塞は虹色のゲートを中心にしていびつに広がり、それらをいくつものレールが繋いでいる。
「……一度戻ろう」
「ええ……」
この規模は2人だけではどうしようもない。
ゲートの位置を確認できただけでも上等だ。
蓮は正確な位置を地図に刻むと2人はそっとその場を後にしたのだった。
作者:りん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|