オウガメタル救出～逃走と希望

■リプレイ

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「オウガメタル！　俺たちが来たからにゃあもう安心だ。近くに隠れててくれ！」
　闇深い森の奥に、陸野・梅太郎（黄金雷獣・e04516）の光差すような力強い声が響く。
　仲間達の持ち得る技能を活かし、事前にしっかり打ち合わせてもいた。降下後のケルベロス達の行動は円滑で、オウガメタルの元へ迅速に辿り着くことができた。
「ローカスト達は……まだ来ていないみたいだね」
　手にしたキャンドルライトを掲げ、蟒蛇・香華（ウワバミ姉妹の姉の方・e21654）は辺りを夜目で素早く見渡す。
「オウガメタルにも怪我はないようです。先手をとれたみたいですね」
　ケルベロス達の輪の中心へ飛び込んできた、金属のスライムのような生命体――オウガメタルの綺麗な姿を確かめ、煤賀・文人（路傍の榾火・e20373）はほっと息を吐く。
「救いを求める声、光。確かに、聞き届けました」
「ＳＯＳ信号、助かったわ。……うんうん、お利口さんね。あと少しだけ、近くに隠れていてちょうだいな」
　フロル・ネスキオ（照る道標・e27100）の柔和な笑みと、キャロライン・ハンクブロンプトン（エターナルスペクター・e20624）の優しい言葉。オウガメタルが発光をやめるのを見届けてから、キャロラインは傍の茂みにオウガメタルを送り出した。隠れたオウガメタルが戦闘に巻き込まれることはないだろう。
「――現れたか、ケルベロス。オウガメタルをどこに隠した」
　オウガメタルを守る準備を整え、一息ついた空気を切り裂くような冷たい声が響く。
　一同が一斉に振り返ると、そこには三体の黒蟻のローカストが立っていた。
　その中でも、ケルベロス達へ声を放った一体の纏う空気は明らかに際立ったものがある。このローカストこそが兵隊蟻だろう。
「それで答えるくらいなら、最初から隠しません。そう思いませんか？」
　ローカストの問いを、千年翠・美咲（十返りの花・e00964）の不敵な笑みが一蹴する。
「俺達は……オウガメタルを助けに来た。もうローカストには、渡さない」
　ガルフ・ウォールド（欠け耳の大犬・e16297）もまた、兵隊蟻の殺気を前にしても怯むことなく、訥々と――しかし毅然と言い放つ。
「ローカストは誇り高い戦士が多いと聞きます。貴方達も戦士ならば、尋常に勝負願いますッ！」
　オウガメタルからローカスト達の意識を逸らすため。彼らの相手は自分達だと言わんばかりに、天崎・ケイ（地球人の降魔拳士・e00355）が朗々と声を張り上げる。それを合図のようにして、ケルベロス達は誰からともなく身構えた。
　その動きに応えて黒槍を滑らかに構えながら、兵隊蟻は一瞬だけ思考に耽る。
「我らがローカストの戦士をそのように評するか。……それは光栄だ、と言っておこう」
　散った仲間達への感傷に浸るのはそれが最後だった。兵隊蟻は後ろに控える働き蟻に声だけを投げる。
「今はお前らも戦士だ。全てのローカストのために身命を捧げよ」
　冷たい鼓舞に、働き蟻達も背筋を正した気配がする。同時に黒槍が闇夜に閃き、戦端は開いた。

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　兵隊蟻が大きく槍を振るうと、耳だけでなく身体まで引き裂くような音波が兵隊蟻を中心に一瞬で広がっていく。狙われたのは後衛のケルベロス達だった。
「大丈夫よ、守り切れるわ！」
　ビハインドの花姫に目配せしてキャロラインが飛び出す。花姫は文人の前に、キャロラインは香華の前にそれぞれ躍り出てダメージを引き受ける。
「させるかよ！　行くぜ、ウルフェン！」
　梅太郎とライドキャリバーのウルフェンもまた、後衛の仲間を守り切った。
「……感謝いたします。守っていただいた分の働きは必ず」
　自分達を守った盾役達の負傷に、フロルは静かに眉を寄せる。後衛のケルベロス達に直撃すれば深手は免れない威力が誰の目にも明らかだった。
「……っ、まだまだやれるわ。……オウガメタルちゃんは自分の命より大事と思いなさい。必ず守るわよ」
　仲間達へ無事を示すように微笑んでから、キャロラインは低い声で自分に言い聞かせる。
　オウガメタルのこれまでの境遇を思うと胸が痛む。その痛みが、オウガメタルを守りたいというキャロラインの思いを一層強くした。
「誰かを守るためには、まず自分を守らなきゃ。安全第一、命を大事に、だよ」
　そんな呟きが聞こえたのか、香華が穏やかな声を掛ける。窘めるでもない、世間話のような香華の調子に、キャロラインは瞬きしてから片目を瞑ってみせた。
「ふふ、分かってるわ。……気に掛けてくれたのね。ありがと！」
　楽しげに笑う声と共に、キャロラインが花弁を撒く。その舞い踊る花弁は兵隊蟻の目の前で踊り、狙いを幻惑した。
　同じく仲間を守った梅太郎へは、ガルフが気遣う声をかける。
「梅太郎、大丈夫か？」
「ガルフ。ああ、これくらいなんともないさ！」
　振り返った梅太郎はニッと笑ってみせた。しかし音波に切り裂かれた身体を見ると、ガルフの尻尾は少しだけ元気をなくす。
「……梅太郎は我慢が得意なの、知ってる。頼もしい。でも、守られるだけになるのは嫌だ」
　ガルフの訥々とした素直な言葉に、梅太郎は少し瞬きする。すぐにまた明るい笑顔が口元に登った。
「じゃあ、ガルフも俺達を助けてくれ。一緒に肩を並べて戦おう！」
　梅太郎の励ます言葉に、ガルフは顔を上げる。梅太郎が自分の役割を果たすように、ガルフもまた。そう決意してガルフは大きく頷いた。
　そんな様子を見届けてから、梅太郎は兵隊蟻向けて大きく牙を剥く。獣の咆哮が響き渡った。
「武闘派だって言うなら力を見せてみろ。お前の相手はこの俺だっ！」
　仲間を守るための挑発。兵隊蟻の眼差しが、怒りを帯びてキャロラインと梅太郎へ向けられる。
「オウガメタル……。貴方達を救うために、最善を尽くしてみせますッ！」
　かつてのヴァルキュリアのように束縛されているのであれば救いたい。誓いの思いと共に、ケイはチェーンソー剣を構え兵隊蟻の元へ飛び出し振り下ろす。
「ぐっ！！」
　その苛烈な一撃に、兵隊蟻の呻く声が響いた。
「そちらにも事情があるようですが、だからといって弱者を虐げるものではありませんよ」
　兵隊蟻を斬り伏せながらのケイの言葉に、兵隊蟻が牙を剥いて笑うような表情を作る。
「我らが生きるための行いだ。貴様らに口出しされる筋合いはないな」
　その声と同時に、飛び出してきた働き蟻が腕を振るい――ケイの胸を腕の鎌が切り裂いていく。
「……！　仲間を、傷付けるな……！」
　ガルフが怒りに喉を震わせ、獰猛な獣の唸り声を響き渡らせる。闇夜に低く轟くその声は魔力すらも帯びて兵隊蟻の動きをきつく戒めた。
　そんな攻防を観察し、美咲が口を開く。
「攻撃手は兵隊蟻だけ。働き蟻達は中衛ですか」
　それもジャマーではなくキャスターだ。見たところ、兵隊蟻との連携も円滑とはいかないようだった。
「戦闘が本職ではない、ということでしたね。では遠慮なく兵隊蟻に集中いたしましょう」
　目標を見定め、フロルは手にした魔道書を開きページをなぞる。すると兵隊蟻の周囲に呪わしい炎が次々と灯り、その身を蝕み始めた。
「『極光の旋律』所属、異端審問官。『照る道標』、フロル。ローカスト、あなた方に、天への道を標しましょう」
　救うべきオウガメタルに微笑む時も、敵対する者を亡者の炎に灼く時も、フロルの柔らかな笑顔は全く変わらない。その穏やかさにこそ、彼女の狂気が隠されている。
「オウガメタルさん、聞こえますか？」
　文人が呼びかけるのは、ローカスト達が装備しているオウガメタルだ。
「私達は、使役でも依存でもなく……君達に寄り添い、共に歩き、共に傷付きます」
　文人に続いて、美咲も真摯な言葉をオウガメタルに投げかける。
「……その蟻に囚われている君も、一緒に、頑張りましょう？」
　しかし、彼らの声に応えたのはオウガメタルではなく兵隊蟻だった。フロルの炎に焼かれた身体を立て直しながらゆっくりと首を振る。
「無駄なことだ。こいつらが我らに背くことなど出来ぬ」
「ローカストにも制御しきれない黄金装甲が、特殊だったってことか……」
　ローカスト達の制御下にあるオウガメタルに自分達の手は届かない。文人が悔しげに拳を固める。
「はい……。悔しいけれど……今は、私達にできることを！」
　歯噛みしていた美咲も、今は前を向くことを選ぶ。放った紙兵は先ほど自分達を守ってくれた前衛のケルベロス達へと飛び、その傷を癒していく。
「オウガメタルは生きているんだ。――それを道具扱いするお前達に、同情の余地などない」
　今や仲間とさえ呼べるオウガメタル達への態度とは一転して、兵隊蟻達には冷徹な振る舞いを見せる文人。手にした爆破スイッチを押下すると、兵隊蟻の足元で見えない地雷が無数に爆破し蟻の足を鈍らせた。
「（でも、ローカストの生きる道は最早、閉ざされかけている……）」
　言葉とは裏腹に、文人の胸中をローカストへの同情が占めそうになる。それを自ら首を振って振り払った。
　自分達が今、ローカストにしてやれることは何もない。
　だから今は関係のないことだ。いつも通り冷徹に振る舞おうと文人は心に決める。
「それでいいんだ、それで……」
　――盾役に攻撃を引き付ける戦法、兵隊蟻を集中して攻撃する作戦。
　花姫とウルフェンは姿を消し、梅太郎とキャロラインにも限界が近づきつつあったが――兵隊蟻にもまた、深いダメージが蓄積していた。
「無理はダメだよー。でも頑張って！」
　香華が仲間を鼓舞しながら、ロッドを振るい前衛の仲間達へ薬液の雨を降らす。
「まだ倒れる訳にはいかない……かかってきやがれ！！」
　梅太郎が自らの心身に鞭打つように叫ぶ。どんなに傷付いても、最後まで粘って立ち続けてみせるという決意の咆哮。
　盾と癒し手の層が厚いので、全体として粘り強く戦い続けることに成功している。ガルフが兵隊蟻の動きを封じ――あとはケイと文人、フロルの仕事だ。
「一気に畳み掛けましょう。私達の輝きでもって、彼らに導きを」
　掌から放ったドラゴンの幻影が兵隊蟻を狙って焼き払う。
「きっとあと少しだ……。ポツ、やろう」
　文人がブラックスライムに付けた名前を呼ぶと、その黒い流体は漆黒の槍となって兵隊蟻の肩を貫く。
「がっ！！」
　苦悶の叫びをあげ、崩れ落ちそうになる足を兵隊蟻は最早気力だけで持ち堪える。
「私は……負ける訳にはいかない。ゲートを、ローカストを、守らなければ……」
　槍を地に突き立て、兵隊蟻が体勢を立て直す前に――ケイの渾身の拳が蟻の腹へと叩き付けられる。
「鬼神の一撃……その身に贈ります」
　自らの敗北は、種の滅亡に繋がるという覚悟。その精神に敬意さえ表するような、全霊のケイの一撃だった。
「決して退かぬ精神……お見事でした……」
　ケルベロス達の猛攻を一身に受け、兵隊蟻の黒い身体は崩れ落ちる。
　もう動かない、傷だらけのその姿は、最期まで種のために戦い抜いた証に他ならなかった。

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「俺達はまだまだやれるぜ、さあ……今度はてめぇらをバラバラにする番だ！」
　兵隊蟻にかなり集中して攻撃を加えていたため、働き蟻達はそれほど消耗がない。
　しかし梅太郎が余裕を見せて凄むと、働き蟻達は一目散に場を離れて逃げ出した。
「本当に戦闘員ではないのですね。ローカスト達も総力戦、ということでしょうか」
　兵隊蟻の執念とは対照的な働き蟻の逃げっぷりをフロルが見送る。
「ローカストにできること、俺達にはない……。でも、あの兵隊蟻の誇りには、敬意を払いたい」
　俯くガルフに、文人も目を伏せて頷く。
「はい……。強かったし、殺意全開で怖かったです……」
「地球は良い所なんだから、定命化すればいいのにね。って、他の星に住んでる方からしてみたら、簡単には思えないのかしら」
　名前を聞く暇もなかった蟻の姿に思いを馳せ、キャロラインは頬を指で撫でる。
「オウガちゃん、もう大丈夫だよ。出ておいで」
　香華が茂みにしゃがみこんで両手を広げると、隠れていたオウガメタルが飛び出してきて香華の手に飛び乗る。
「さて、戦闘が起きているのはここだけではありません。安全が確保されている内に撤収しましょう」
　ケイが立ち上がったのを始めとして、皆がオウガメタルを囲んで来た道を引き返す。仲間に先導されながら歩く中、美咲がふとオウガメタルに目を落とした。
「私、大事な友達がいるんです。子供の頃から辛い目に遭って、でも今は素敵に笑ってる……」
　言葉を切って、美咲はふと微笑んだ。
「きっと貴方達と一緒に笑ったり泣いたり、友達になってくれると思います。
　そんな人がケルベロスにはきっと、たくさんいるから。だから一緒に、帰りましょう」
　オウガメタルの声なき声に応え、我が身を顧みず救ってくれた八人。
　答えはなくとも、その思いはきっと、オウガメタルに届いているに違いなかった。

作者：カワセミ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 10／感動した 1／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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