オウガメタル救出~軽銀の戦士を救え

作者:文月遼

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。


「黄金装甲のローカスト。それとの戦ったケルベロス達が、オウガメタル……俺たちが少し前までアルミニウム生命体と呼んでた連中と共闘できることを証明した」
  フィリップ・デッカード(レプリカントのヘリオライダー・en0144)はケルベロス達を前に、特に気負う様子も無く、そう告げる。オウガメタルたちは、自身らを武器として使ってくれる者を欲している、と。
「だが、今現在ローカストはグラビティ・チェインが足りないことを理由に、彼らを使い潰すように使ってる。濫用だな。黄金装甲なんかは、絶滅させうる可能性だってあるらしい」
 ここまでが、前置きだ。フィリップが一度言葉を区切る。
「そして、オウガメタルはケルベロスに助けを求めるために、ローカストの本星からゲートを通じて地球に逃れて来る……言うまでも無く、ゲートの警備は厳重だ」
 みなまで言う必要は無かった。手をこまねいていれば、オウガメタルたちが殲滅されるのは時間の問題だからだ。
「場所は山陰地方の山奥だ。現地に向かい、オウガメタルを救出、ローカストを撃破してくれ。上手く行けばオウガメタルを迎えることは勿論、ローカストの最重要拠点も特定出来るかもしれねぇ」
 厳しい戦いになることは間違いない。けれど、動くだけの価値があった。
 ケルベロスたちを見渡し、フィリップは詳細の説明に入る。
「殲滅にあたるローカストは兵隊蟻と働き蟻の二種類だ。兵隊蟻が働き蟻を二体ほど引き連れていると考えていい。到着は夜半になる」
 降下地点については問題が無かった。オウガメタルたちは逃走するときに銀色の光をビーコンや信号のように光らせるのだと言う。多少の誤差はあれど、合流には支障がないとフィリップは付け加える。
「追手の兵隊蟻の戦闘力は厄介だ。ゲートを守る役割上、尻尾を巻いて逃げてくれないだろう。働き蟻の方も、戦闘に駆り出された形とは言え、ケルベロスに匹敵する戦闘力だ。油断はしないでくれ……そっちの方は、状況が不利だと思えば、逃げ出すかもしれねぇがな」
 ローカストにとって不利な状況――例えば、兵隊蟻ローカストが倒されたりするような状況だとか。
「ここまでの急展開は予測していなかった……が、上手く行けばローカストを攻める好機になるかもしれない。それ抜きにしても、お前たちを頼って来る仲間を見捨てるわけにはいかない、そうだろう?」
 ケルベロス達を見渡し、フィリップはニヤリと笑う。ヘリオンの用意は既にできている。あとは、飛ぶだけだ。


参加者
狗上・士浪(天狼・e01564)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
クァン・カスパール(ヤギ・e05854)
海東・雫(疫病神に憑かれた人形の復讐者・e10591)
朱雀・翼(未来の国民的アイドル・e11760)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)
鍔鳴・奏(モフリスト・e25076)

■リプレイ

●光の袂
 ヘリオンから降下し、重力に内臓を持ち上げられている最中、ケルベロス達は無数の銀光を見た。ちかちかと山の各地に光るそれは、オウガメタルと呼ばれる存在の声なき抵抗のしるしだった。
「虫公どもの手先と思っていたが、大脱走とはな。嫌いじゃねぇぜ、こういうの」
 生い茂った森の中に、着地するケルベロス達。首を軽く鳴らしながら、狗上・士浪(天狼・e01564)はローカストの連中の慌てふためく様子を思い、ニヤリと笑う。
「それで、俺たちが向かう方向は……あっちか」
「メェェ。俺をモフれるのは女の子だけ! ま、よろしく頼むぜぇ」
 鍔鳴・奏(モフリスト・e25076)がクァン・カスパール(ヤギ・e05854)のすこしごわついた体毛を撫でながら、銀の光の方向を見た。それに抗議の声を上げながらも、クァンは長い舌でちろりと二股の上唇を舐める。
「任せろ。近道を行くとしようぜ」
 士浪がが生い茂る樹木を見据え、軽く指を鳴らす。海が割れる古い言い伝えの如く、木々が割れ、人が通れるほどの小さな径が一直線に拓く。その向こうで、規則的な周期で銀色に輝く、液状の何かが蠢いているのが見えた。
「よかった。まだ、ローカストには見つかっていないようですね」
「ええ。けれど、時間の問題です。急ぎましょう……」
 海東・雫(疫病神に憑かれた人形の復讐者・e10591)が安堵のため息を漏らす。少なくとも、既に襲われていると言う最悪のケースを防ぐことはできた。落下の際に風にあおられ、乱れた髪を指ですくいながら一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)の言葉に、ケルベロス達は駆け出した。まだ作戦は半分も進んでいない。
 オウガメタルは、ひとつの形を持たなかった。強いて言うのであれば銀色の粘性を持った液体、スライムだろう。それはうねり、時に分裂し、様々な形に変化しながら逃亡していた。ケルベロス達はそれに近付いたとき、オウガメタルから、様々な感情を感じ取った。まず最初に感じたのは恐怖では無く、逃亡への意志と警戒だった。
「大丈夫だよ。僕らはケルベロスだ」
「安心せよ……とは言えぬが、奴らを倒すため、お主らを守る為に来たのじゃ。最善は尽くす」
 ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)と朱雀・翼(未来の国民的アイドル・e11760)はゆっくりと近付き、オウガメタルに触れて話し掛ける。ひやりとした感触と共に、二人は助けにきたことを伝える。警戒が安堵に、希望に変わったのが、ケルベロス達に伝わる。
「ここに入れるか? 出来れば、収容できるほどのサイズになってくれればありがたいが」
 神野・雅(玲瓏たる雪華・e24167)の言葉に応じて、オウガメタルは分裂し、黒衣の中に滑り込む。全部とまではいかないが、半分近くがその中に納まった。
「入れなかった者は、下がって隠れていてくれ。オウガメタルよ、君たちは仲間だ。決して見捨てない」
 雅の声に、オウガメタルはわずかに輝くことでそれに応えた。残ったオウガメタルは草の影に隠れるように移動する。
「君たちって、性別とかあるの? 女の子になれたりとか」
 すれ違いざまに、クァンがオウガメタルにこっそりと呼びかけるが、金属の球体は否定とばかりにぷるぷると震えるだけだった。
「さて、歓迎の用意をしましょうか」
 瑛華がリボルバーに一発ずつ、いとおしそうに銃弾を込める。その一つ一つはオウガメタルに仇なすローカストを討つ牙だった。
「そうだね。今まで彼らを虐げて来た報い、受けてもらわなきゃ」
 ルージュの右目が、微かに地獄の炎で燃えた。

●襲撃はどちらから?
「くまなく探せ! オウガメタルは間違いなくこの辺りにいるはずだ!」
 そう遠くない場所から聞こえた声と規則正しい足音に、ケルベロス達は身を潜め、息を殺す。鐘の中で何事かを叫んだ時のようなくぐもった声が、ローカストのものであるとすぐに察しがついた。そして、それが滲ませている焦りも。
「奴らめ、まだ妾たちに気付いておらぬようじゃ」
「上手く行けば、先に仕掛けられるかもしれませんね」
 翼が、いたずらを仕掛ける子供のようにクスリと笑う。雫も頷いた。純粋な戦闘能力では分からないが、位置取りや状況はケルベロス達が有利だった。
「モラ。キツイけど、ちゃんと役目を果たせよ? 帰ったら美味しいものを食おうなー」
 奏は相棒のボクスドラゴンに呼びかけながら、ギリと弓を絞った。その微かな軋みが、ケルベロス達のまとう空気の鋭さを伝えている。
「今宵語りしは黄金郷に住まう少女の譚――彼女は癒す者、其の身を捧げて万人に祝福を与えた聖乙女」
 雅のまとう雰囲気が一瞬だけ普段のそれと変わる。降霊術によって一時的なトランスに落ちた彼女が、癒しを、そして様々な邪に打ち克つ力を注ぐ。
「ありがとうございます。それでは……死角の、意識の外から失礼します」
 瑛華はにこりを笑みを浮かべ雅に礼を返す。その笑みを絶やさぬまま、瑛華は銃の引き金に指をかける。狙いはやって来るローカスとの傍にある木。銃声に一瞬先んじて弾丸が飛び、木を抉り、反射して先頭を進むローカストの横っ面を殴りつける。
「僕も続きます! 垣間見るは朽ちた未来……」
 銃弾と共にルージュが飛び出す。プログラムが無数の動きをシュミレートする。まっすぐ懐に飛び込んでナイフでの突き、回り込むように動いてのフェイント,気で生成した弾丸の連射。そのいずれもが外れる未来。ここで躓くことはケルベロスの敗北を意味する。
 ルージュは一つの可能性を選んだ。気弾を放つ。足元や周囲の木を薙ぐ。ローカストが一瞬それに注意を奪われる。
「僕はそれに紅引き否定しよう!」
 跳躍と共に振り下ろすナイフ。出鱈目な攪乱に見せかけて本命の一撃が兵隊蟻――アリア騎士に突き刺さる。
 ケルベロスが持ち寄った照明で暗い木々の間を照らす。そのうちの一つが、姿勢を低くローカストへ接近する。
「虫の兵隊サマも、ビビってちゃ世話ねぇな!」
 猛然と突き進む光――士浪がローカストの手前で急停止をかける。軸足を軽くずらして身体をぐりんと回転させると共に、鋭いキックを分厚い鎧に叩き込む。その足で思い切り鎧を押して跳び、軽快に距離を置く。
「ライドは後ろの奴を。私も、負けてられない!」
 士浪と交替するように、雫もアリア騎士へと駆ける。主の声に合わせてライドキャリバーが疾走。先頭を歩くアリア騎士が襲撃され動揺する働き蟻たちにガトリングガンの掃射を叩き込む。銃弾の炎と轟音がそのパニックを加速させる。雫が跳躍と共に、落下の勢いを乗せ鋭い踵落としを加える。
「落ち着くが良い、ローカストどもよ。妾の目を見るのじゃ!」
 焦るローカストに、凛とした翼の声が届く。どれだけライトがあるとはいえ、薄暗い中に、少女の金色の眼がぼうと浮かび上がる。
「隣に居るのは味方か? 本当に? いいや違う。其処に居るのは敵じゃ! 討て!」
「ここまで来ると入れ食いだぜぇ。女の子じゃないなら手加減もいらないからな」
 クァンがけらけらと笑いながら蹄のついた手にはめた縛霊手から、無数の光弾を放って働き蟻たちの混乱を加速させる。
「ローカストの女の子ってのも、あんまり想像したくないけれど。先手必勝!」
 奏がばさりと収納していた翼を開く。それが薄暗い視界を照らす。絞り切った弓矢から手を離す。弦が激しくしなり、エネルギーで生成した矢がアリア騎士の胸に突き刺さる。
「これだけやっても、倒れないか。分かってたけど……モラ!」
 奏の呼びかけに応じてボクスドラゴンはブレスを放つ。立ち直りかけたアリア騎士の身体が揺れた。

●それぞれの役目
「――落ち着け」
 奇襲を受けながらも、アリア騎士はゆっくと、地の底から響くような声で動揺する働き蟻に呼びかける。ケルベロス達の攻撃による影響は隠しようが無い。けれど、それの動きが統率の取れたそれに戻る。
「部下が見苦しいところを見せた。そうか、ケルベロスがもう動いていたか」
「……理性を残してるってことは、結構話せるデウスエクスようじゃな」
 ケルベロスは身構えて警戒を崩さない。翼が皮肉交じりにぼやくと、アリア騎士はゆっくりと頷いた。
「もう、オウガメタルは貴様らが保護したのだろう……引き渡せ」
「ほざけよ。ハイそうですかで終われるか」
 アリア騎士の言葉に士浪が鼻を鳴らして嘲笑する。アリア騎士も要求が通るはずが無いことは分かっているのか、「最もだ」と言うだけだ。
「では……参る!」
 アリア騎士の両腕に、鋭い刃が生まれる。尋常でない脚力によってケルベロス達の一角――瑛華へと。
「やらせませんよ」
 雫がアリア騎士の間に割り込んだ。手にしたナイフで、振り下ろされた刃を受け止める。激しい火花が上がる。ダメージのチェックをしながら、直撃のダメージを思い、彼は眉をひそめる。遅れて二体のローカストが羽を震わせ、音波を飛ばす。モラとライドがそれを受け、一瞬怯む。
「分かってはいたけど、奇襲だけじゃ上手く行かないか……だけど」
 怯んだ相棒を見て、奏がぼやく。戦いはじわじわとケルベロスを消耗させる。地力では向こうが数枚上手だった。けれども、勝機は零ではない。働き蟻たちも能力は低く無いものの、そもそも戦闘が本職では無い。土壇場での決断の速さが、潜り抜けた修羅場の数が違うのだ。
「守ったら、負ける……だったら!」
「わたしはあなたを……逃がさない」
 ルージュと瑛華は即座に攻勢に転じる。防戦一方でも、中途半端でもない。役割は攻め続けるだけだった。手にしたナイフで一気にアリア騎士を切り裂く。瑛華が生成したグラビティ・チェインが文字通り鎖となってアリア騎士と自分を結び、即席のチェイン・デスマッチを作り出す。
「無理はしないでくれ……いや、無理をしなければ勝てない状況だ。フォローは任せてくれ」
 雅が癒しの雨を雫とサーヴァントたちに降り注ぎ、働き蟻の影響を一気に洗い流す。専門の回復手が少ない以上、雅の仕事は多い。戦場を全て把握し、時に残酷な決断をしなければならない。けれど、それは今では無い。それと同時に雫は動力機関を過剰に回し、修復を加速する。
「連中はバックアップを直接叩けねぇ。だったら!」
「ああ。みんなに胸張って自慢できるように、頑張りますか」
 奏が飛び込んでブラックスライムを展開し。ローカストの視界を奪う。その隙に懐に潜り込んだ士浪が鋭い蹴撃を浴びせる。それらは決定打には遠いが、無駄では無い。重ねた攻撃は消えないのだ。遊撃手の本領だ。
「動きにくかろう? 体が重かろう? 濫用されてきたオウガメタル達の無念じゃ!」
 翼が召喚した半透明の巨人。それが、働き蟻二体を一気に絡め取り、じわじわと締め上げ、徹底的な妨害によって数的有利を絶対的なものにする。そして、牙を持たぬオウガメタルの為と、彼女は力を緩めない。
「ねえねえ。女王様ってどんな感じ? 一緒に愛の巣を作っていっぱい岩塩を蓄えたいな!」
「この……っ! 我らだけに事足らず、女王まで愚弄するか!」
「挑発する暇があったら、戦わぬか!」
「じゃあ、君が俺の女王蟻に」
「ぬかせ!」
 クァンが節操なく女性に関して口説きまわり、アリア騎士をも激昂させる。呆れる翼に一蹴されて落ち込みながらも、ヤギでありながらも、クァンもケルベロスだった。手にした槍を力強く振るえば、その軌跡をなぞるように光の槍が飛び、働き蟻を釘付けにする。
 苦しい戦いに違いは無い。けれど、それはどちらも同じ条件だった。

●星屑の光
 ケルベロスとローカストの戦いは続く。彼らの行動は、歯車のように、個々が意志を持つ猟犬の首として機能している。
「回復が、追い付かないか……だが!」
 けれども、十全とはいかない。雅がひとりごちる。雫やサーヴァントたちにダメージが集中しているのは想定の範囲内ではある。その回復が間に合わなくなりつつあった。戦線の瓦解それを水際で彼女が食い止める。
「辛いのは向こうも同じ……フォローしろ!」
 アリア騎士も無事では無い。数歩下がり、全身に使役するオウガメタルを展開し、その傷を塞ぐ。アリア騎士を守るように、働き蟻も牙を伸ばして攻撃に加わる。
「防戦に入った……今です!」
 それを受け止めながら、全身が鉛になったように重たい身体を叫んで無理やり動かす。働き蟻を追い払うようにライドが機銃で牽制射撃をする。
「そう。生命の危機にこそ、命の鼓動は高まるのじゃ!」
 翼が霧を放って、雫やサーヴァントたちの傷を癒す。
「させませんよ」
 瑛華が鎖を縮めて、銃を構えて吶喊する。至近距離での銃撃に備え、アリア騎士が身構えたのを見て、手元でナイフを煌めかせる。オーラを纏う斬撃が、修復される鎧を砕く。
「貴様っ」
「言ってませんでした? こちらも得意なんです」
 淑女は笑みを絶やさない。細いナイフが、月の光を返して輝く。
「畳み掛ける! 荒れ狂えッ!」
 士浪が駆ける。狼の頭部を模した手甲に、生成した氣が集中する。砕けた鎧の隙間目がけて掌底を放ち一気に開放。暴風の如き氣がアリア騎士の内部で暴れる。
「モラは休んで。後は俺達がやる」
 傷ついた相棒を休ませ、奏は弓を構える。狙いは砕かれた鎧の隙間。研ぎ澄まされた技術は、容易く撃ち抜く。
 怯んだ隙をルージュは逃がさない。一瞬、少女はオウガメタルを思う。本人の意志とは関係なく力を用いられるほど不幸なことは無い。
「望み、掴み取るのは……彼らが苦しまない世界!」
 無数の可能性の中で、彼女はケルベロスにとって、オウガメタルにとって最善の未来を引いた。
「アリア様……お許しを」
 それだけを言い残し、アリア騎士は事切れた。動揺したローカストがケルベロスと倒れたそれを交互に見る。ニヤリと不敵な笑みと共に、クァンが前に出る。
「大将首はもらったよぉ、尻尾巻いて逃げてもいいぜぇ。オウガメタルがケルベロスと合流したって報告しなきゃだろぉ?」
 それとも。クァンは一度言葉を切って、手にした槍を構える。
「やりてぇってんなら付き合うぜぇ。お前らが死ぬまでなぁ!」
 その一言で、働き蟻が先を争うように逃げ出して行った。
「あー……しんど。でも、守り切れたかな」
「ああ。皆無事だ。オウガメタルも我々も」
 奏がへたれこんで、傷ついた相棒を撫でる。雅も、ケルベロス達を、茂みから、彼女の懐から飛び出し、歓喜に輝くオウガメタルを眺め、安堵の息をつく。
「深追いは難しそうだけれど。成果は上々だね」
「他の者も無事だとよいのじゃが」
「ええ。無事を祈りましょう」
 ルージュが大きく伸びをした。瑛華もゆっくりと歩き出す。
 士浪はローカストが逃げた方向を眺めていた。
「喉元まで来たんだ。首を洗って待ってやがれ」
 けれど、今は牙を休める時だ。白狼はケルベロス達と共に帰路につく。新たな仲間と共に。

作者:文月遼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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