オウガメタル救出～山嶺の光

■リプレイ

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　夜闇に淡く小さな光が見える。
　見失うまいと、幌々町・九助（御襤褸鴉の薬箱・e08515）は着地の瞬間まで目で追い続け、次いで巻き起こるは土煙と轟音。強い風が吹き抜けると視界は瞬く間にクリアになり、目標である銀色の光を見つけ思わず安堵の息が漏れ出した。
「ふぅ、結構近いな」
「良かった、です……、あれなら、直ぐに、合流できそう、です……」
　近くに着地した、カティア・アスティ（憂いの拳士・e12838）も胸を撫で下ろしている。
　直後に、アイオーニオン・クリュスタッロス（凍傷ソーダライト・e10107）からトランシーバーに連絡が入ったのを皮切りに、各々から報告が入って、全員がオウガメタルの発する光を視認していることを共有。更には、杉崎・真奈美（呪縛は今解き放たれた・e04560）のスーパーＧＰＳによって大まかな位置も明らかなった。
　こうして万全を期し、ケルベロスたちは光へと近付いていく。
　ヴァルリシア・ゲルズ（シャドウエルフのウィッチドクター・e11864）がそれをはっきりと捉えるまで時間は掛からず、その瞳に発光する溶けた金属――いや、金属のスライムとでも形容するべき小さなものがいくつも映り込んだ。
　少し遅れて他のケルベロスたちもやってくると同じくように、それを発見。
（「オウガメタルって、触ったら、ぬるぬる、かな……だったら、ちょっと、嫌だなぁ。……いや、そんな事、口が裂けても……！」）
　姿を見て、カティアは浮かんだ思いを隠すように口を手で隠す。仲間たちはどうだろうと周りに目を向ければ、ちょうど獺川・祭（ヘタレックスチュアン・e03826）と片白・芙蓉（兎頂天・e02798）がコンタクトを取ろうとしているところで、
「助けに来たっスよ、ここは自分たちに任せて隠れていて欲しいっス」
「フフフこれからは使い手も選び放題！　そう、兎とかもふり放題よ！？　安心ね！？」
　これにオウガメタルたちは感謝を述べ、もふり放題とは何かと問いつつも、追っ手が直ぐ近くまで迫っていることを告げる。
「そう、それでは手配書を作成している時間も無さそうね」
「難しいっスね。あと、これに隠れて欲しいっスが……」
　芙蓉が準備していた紙を収め、祭が迷彩柄の布を手にしつつ言葉を濁す。布は山頂の強い風にあおられてはためき、少しでも隙間があればまくれ上がってしまうだろう。
「離れていてもらうしかなさそうですね。では、これを」
「いざというときの連絡用にこれも持って行ってください」
　パウル・グリューネヴァルト（森に焦がれる・e10017）はそう言ってシグナルボタンを、ヴァルリシアはトランシーバーを手渡す。次いで発光を止めるように伝えると、オウガメタルたちはケルベロスに再び感謝を伝え、発光を止めて移動を始めた。
　その姿を見送り、パウルは決意を固める。
（「形は違えど支配種族に使い捨てられた者達の末裔として、見過ごせません。一人残らず尖兵とされた先祖の二の轍を、彼らに踏ませないようにしなくては」）
　ちょうど、その直後だ。
　風の音に混じって草木を踏みしめる音が聞こえてきた。加えて、肌を刺すような殺気も。
「厄介なことだけど、仕事はこなしましょ。それにしてもネフィリアといい最近は強力なローカストがよく動くわね。邪魔するまでだけど」
　アイオーニオンが得物を構えて臨戦態勢に入る。
　他の者たちも同様に。
　オウガメタルと先に出会えたのは僥倖だったが、敵との距離が近く待ち伏せは不可能。周囲の地形も戦いを有利に進められるほどの勾配は無く、このまま立ち向かうしかない。
「正直、怖い、ですけど……、そんな事、言ってられません、よね。オウガメタルは、もっと、恐ろしい目に、遭ってきたん、ですよね……！」
「はい、オウガメタルさんたちを助けなきゃ！」
　カティアが自らを奮い立たせるべく思いを口にすれば、真奈美もそれに続く。
　会敵まであと僅か。
（「……ただ、あまり虫が好きでは無くて……大きい蟻って……ちょっと気持ち悪いなぁ」）
　姿を想像して真奈美が顔をしかめる。
　隣では芙蓉が深呼吸して山の空気を深く吸い込んで戦いに備えている。そして、ケルベロスたちが見据える闇の先に、黒い甲冑を纏ったようなローカストが照らし出された。

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　遭遇と同時に戦いが始まる。
　互いに言葉は無用。
　ローカストたちが急速に間合いを詰め、ケルベロスたちがこれを迎え撃つ。まず機先を制したのはアイオーニオンの竜語魔法だ。
「はい、駆除しに来たわ」
　掌から放ったドラゴンの幻影が働きアリのディフェンダーを捉え、速度が落ちたところを狙って、祭が懐に飛び込んでいく。
「ひゃっはーぶっ飛べっス！」
　手には既に重力を集め、それを使って速く重い一撃で繰り出せば、働きアリの上体が仰け反った。そして、まだこれで終わりではない。
「……せいやっ！」
　間隙を挟まずに、真奈美が足元を目がけて霊刀を横薙ぎに。
　働きアリは思わずたたらを踏み、それを助けんと敵のクラッシャーが割って入るも、ケルベロスたちの狙いは変わらない。敵のディフェンダーに攻撃を集めんと、パウルが精霊に呼び掛けて吹雪を招く。
「正面から叩き潰せると考えるほど自惚れてはいません、小細工でお相手しましょう」
　吹き付ける氷と冷気。
　されど、さすがはディフェンダー。集中攻撃を受けているにも関わらず、まだ余裕が見える――最もケルベロスたちの狙いが、倒すことにあったならば、だ。
「ここしか、ない……！」
　意を決して文字通りに飛び込んでいく、カティア。
　しかも攻撃を加えるのではなく、小柄な体で働きアリに体当たりを仕掛けその勢いのまま押し込んでいく。立て続けに攻撃を受けたのに加え、怪力による押し出し。踏ん張ろうとした働きアリの足が横滑り――遂には宙へと投げ出された。
　砂利と下草を巻き込みながら大きな音を立てて滑り落ちていく。
「作戦通り！　畳み掛けるわ……！」
「使い潰して殲滅たぁ、許してやれねえな！」
　言うが早いか、芙蓉が目にも止まらぬ速さで礫を放ち、九助の放ったライトニングボルトがその横を併走。２人のスナイパーによる攻撃が兵隊蟻を穿つもも、攻撃をものともせずに破壊音波が戦場に響き渡る。
「くっ……」
　ケルベロスたちの前衛が必死に堪え、その間に雷の壁が展開する。
「――させません。オウガメタルの人達を助け出す為にも絶対勝ってみせます！」
　仲間を支援するべく、ヴァルリシアがライトニングロッドに更なる力を篭める。そして、その間に攻撃を受けたケルベロスたちも動き始めている。
「おーい、ローカストの武器や防具にもオウガメタルが居るんじゃないっスか？　どうせなら一緒に逃げないっスか？」
　敵のクラッシャーを止めるべく肉薄しながら、祭が呼び掛ける。
　しかし、反応は無く。
「無駄なことだ。離反できるようなものを連れてくると思うか？」
　代わりに兵隊蟻の言葉と強烈なグラビティが返ってきた。
「……っ」
　ケルベロスたちは顔を見合わせるとそれ以上の問い掛けはせず、今の好機を活かすべく、攻撃のほとんどを兵隊蟻に向けていく。
「狙いは私か、面白い……！」
　が、敵も怯まない。気勢を上げて果敢に向かってくる。
　兵隊蟻は手にしたランスを振るい、ケルベロスたちの攻撃を打ち払う。おそらく、ひとりでもこの場にいるケルベロス全員を相手にできるほどのつわものだ。
「強い、でも……」
　敵の技量を見て、真奈美が両手に持った斬霊刀に力を込めると、
「なら、もっと叩き込んでやらぁ！」
「はいっ！」
　九助が左手に持ったライトニングロッドから時空凍結弾を放ち、被せるように斬霊刀から衝撃波が走る。兵隊蟻は火力の低い方を捨てることでダメージを最小限に抑えるも、
「フフフまだこんなもので終わらないわ」
　その間に芙蓉がシャーマンズカードから氷結の槍騎兵を召還。騎兵がランスチャージを敢行すると、祭が破壊のルーンを施して寸前で補強する。対して兵隊蟻はグラビティをもってこれに対抗し――グラビティ同士がぶつかり合って激しく火花を散らす。
「覚悟してもらうわよ」
　ここで冷静に戦い見定めていた、アイオーニオンが横合いから強襲。ナイフの刀身に映し出したトラウマを具現化して、それを向ける。
　もう回避できるタイミングなど無く――直撃。
　されど直撃を受けてなお、兵隊蟻には淀みがない。腕に刃を生やして瞬く間に肉薄し、芙蓉を切り裂く。いや、これをミミックが寸でのところでかばった。
　すると横合いから働きアリが追撃。
「そんな事、させません……！」
　今度は、カティアがかばってダメージを受けつつも流星の煌きを放つ蹴りを叩き込む。
　互いに一進一退。
　ここまでは互角であったといえよう、そうここまでは。
「働きアリが近くまで戻ってきています」
　戦況を俯瞰しつつ仲間の傷を癒していた、ヴァルリシアが警告を発する。
　直後に地面を大きく踏みしめる音が聞こえると、戦場を離れていた働きアリが跳躍して山頂へと復帰した。先ほどまであったアドバンテージが消え失せる。加えて、敵も警戒しているのか、もう斜面に落とすことは難しそうだ。
「皆、大丈夫？　クールに、確実にこなすわよ」
　アイオーニオンがいつでも飛び出せるように腰を低くしながら仲間に問う。
　それぞれの形で返答すると同時に、再び動き出すケルベロスたち。対するローカストたちも更なる攻勢をもって潰しに掛かる。
　戦いは総力戦へと切り替わり。
（「出来ればローカストの人達も何時か助けたいって甘い事も考えちゃいますが、今はその考えは脇に置きます……！」）
　苛烈に変貌していく戦場に、ヴァルリシアも雑念を捨てて戦いに集中していく――。

●
　戦いはさほど時間を置かずして終局に向かいつつあった。
　激しい攻防に双方共に疲弊が激しく、ケルベロスの前衛は満身創痍でディフェンダーについていたサーヴァント２体は既に戦闘不能の状態だ。
「フン、この程度で私たちに勝てると思わないでよね。諸々禍事罪穢を有らむをば――痛いの痛いのスポーンするがいいわ……！」
　不敵に笑ってはいるが、スナイパーの芙蓉までもが回復に回っている。対してローカストの方も集中攻撃を受け続けた兵隊蟻にダメージが蓄積し、それが動きに見え始めていた。
「そっちもきついんだろ？　そろそろ終わりにしようか」
　九助が間隙を突いてファミリアシュート。それが突き刺さると兵隊蟻の動きが一気に鈍くなる。そして、好機を逃さず狙いを定める２人のクラッシャー。
「ええ、終わらせるわよ。燃えなさい」
「――合わせます」
　アイオーニオンの手には竜の幻影、真奈美の手には二振りの霊刀。共に狙うは兵隊蟻。時間差をつけて放たれる必殺の一撃が兵隊蟻へと迫って炸裂する。
　次いで漏れ聞こえてきたのは誰かの舌打ちか。
　兵隊蟻は片方を耐えしのぎ、もう片方は働きアリがかばっている。
「まだだ！　まだ終わらん！」
　攻守交替。
　裂帛の気合を放ちながら兵隊蟻が攻勢に転じると、働きアリがそれに続く。ケルベロスの前衛を破壊音波が覆い尽くし、苦しんでいるところに棘を突き刺し、アルミ化液を注入。
　たまらず、カティアが膝を折った。
　されど目はまだ死んでいない。追撃を掛けようとする敵に立ち向かうべく体を必死に動かそうと力を込める。そこに構築される雷の壁。
「主よ。御身のご加護を彼らに……」
　間一髪でヴァルリシアのヒールに活力を得て、カティアがバトルガントレットを振り上げ、迫る働きアリにカウンター気味に拳を被せる。
「このっ……！」
　反撃を受けてたたらを踏む働きアリ。が、それを見て目を見張った。後ろに急接近してくる兵隊蟻の姿が見え――今度こそ仕留めんと甲冑の隙間から獰猛な牙が剥いている。
「おっとそうは問屋がおろさないっスよ！」
　そのルートに割って入る、祭。
　敵の攻撃を正面から受け止める構えを見せつつ、口から出たのは軽快な語り口。
「さぁさ聞いて仰天見て絶倒、本日の演目は世にも不思議なカワウソ語り。お代は笑顔と拍手で頂ければ幸いっスよ！」
　それをふざけたのだと取った兵隊蟻は勢いのままに牙を突き立てる。祭の意識が遠ざかっていく。だが、その口元には笑みが見えた。仲間の勝利を確信した笑みが。
「その献身は無駄にしません」
　直後、パウルのファミリアシュートが兵隊蟻を強襲。慌てて回避運動を取るも、今まで蓄積したダメージが体を覆って避けることを許さない。
「おのれ……」
　体が満足に動かないことに苛立ちながらも兵隊蟻が態勢を立て直そうしたところに、先ほどの祭のグラビティによって息を吹き返した前衛が再び攻撃を集める。
　対して兵隊蟻も気勢を上げてこれに対抗。
　互いに全力を尽くした攻撃が幾重にも注がれ、僅か１分ほどに過ぎない攻防はその十倍の時間のように流れ――遂には氷結の槍騎兵のランスが黒い甲冑に深く突き刺さる。
「――これで終わりよ！」
　芙蓉が宣告すると槍騎兵が更に踏み込み、ランスの穂先が兵隊蟻の背中を突き破る。
　それを見た働きアリは逃走を始め、ギリギリまで敵の猛攻を受け止めていたカティアが勝利を見届けてから意識を手放した。

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　戦いが終わるとオウガメタルの方からケルベロスたちに近付いてきてくれた。
　彼らは命を救ってくれたことに感謝を述べてから、ケルベロスたちの下へ連れて行って欲しいと懇願する。
「任せるっスよ。ようこそ地球へ！　騒がしいし忙しいし大変だけど楽しい世界っスよ！　……あいててて」
「傷が深いのですから無理をしてはいけませんよ」
　歓迎の第一声を上げた祭の体を、真奈美が支える。
　幸いなことに重症を負ったのは彼ひとり、後は戦闘不能で済んだとはいえ、有利な状況を作れて、この被害……厳しい戦いであった。
「負傷者とオウガメタルの方々は早くヘリオンに収容してもらった方がいいでしょう」
　パウルはそう言って、仲間に視線を送りヘリオライダーへの連絡を頼む。
　そして、自身は戦場となった山峰に視線を向ける。激しい戦いを物語るように下草は地面ごとえぐられ、斜面に近いところでは崩落している場所もある。
「新しい隣人の命がかかっていたとは言え……申し訳ありません。償いは、必ず」
　破壊された自然に心を痛め、後でヒールと植林に訪れることを心の中で誓う。
　その近くでは、ヴァルリシアが兵隊蟻の亡骸に祈りを捧げていた。
（「彼らも好きで隣人を虐げる道を選んでしまった訳ではないと……そう信じます」）
　今は静かに死後の安寧を、と。
　そうしているうちにヘリオンのローター音が近づいてきた。

　山嶺に灯った光はケルベロスたちと共に。
　世界を守る新たな力へとなって、その輝きを見せてくれることだろう。
　見上げた空に広がる、この満天の星のように。

作者：キジトラ	重傷：獺川・祭（ヘタレックスチュアン・e03826）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 10／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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