オウガメタル救出~銀への救援

作者:廉内球

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
 
「まずは黄金装甲ローカストとの戦闘、無事で何よりだ」
 アレス・ランディス(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0088) は不退転ローカストとの戦いで得られた情報の束に目を落とす。
「情報によれば、ローカストが用いるアルミニウム生命体というのはオウガメタルという名のデウスエクスなのだそうだ」
 自らを武器として使ってくれる者を求める種族。今の使い手はローカストだが、その扱いは酷いものだという。
「虫どもめ、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルに分け前を与えず、そのうえ力を引きずり出して黄金装甲化させ……使い潰そうとしているそうだな」
 それが、ケルベロス達が得た情報。そして、彼らが出会ったオウガメタルは、ケルベロス達を新たな使い手としたがっているという。
「遭遇したオウガメタルは一度仲間の元に戻ったが、絆を結んだケルベロスが、彼らの動きを感じ取ったようだ……連中の、窮地をな」
 オウガメタル達はケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星からゲートを通り、地球へと脱出。しかしゲートはローカストの最重要拠点。多くのローカストが待ち構えており、このままではオウガメタルは全滅するだろう。
「そこでだ。このヘリオンを使って山陰地方の山中まで飛ぶ。そしてローカストを撃破し、オウガメタルを救助するという作戦を取る」
 この作戦が成功すればオウガメタルを迎え入れ、かつローカストのゲートの位置も特定することが出来るかもしれない。
「しかし、それは向こうも分かっていることだ。虫どもも本気でかかってくるだろう。気を付けてくれ」
 ローカストたちは、兵隊蟻ローカスト1体と働き蟻ローカスト2体、計3体で群れをつくり、オウガメタルの捜索を行っている。
「時刻は夜半過ぎ。上から見れば、オウガメタルが銀色に光っているのが見える。それを目印にして降下すればいい」
 生じ得る降下位置の誤差はおおよそ百メートル。合流はさほど難しくはないだろう。
「問題は追手だ。兵隊蟻は強いぞ。ゲートの守備隊だからな、旗色が悪くなったとしても逃げることはしない」
 一方、働き蟻は兵隊蟻ほどではないにせよ、それでもケルベロス数人を相手に出来る戦闘能力がある。
「その代り、働き蟻は兵隊蟻が撃破されれば逃げ出す可能性がある」
 敵の攻撃は、アルミニウム生命体を牙に纏わせての噛みつき、跳躍力を活かしたキック、そして兵隊蟻は腕から鎌を出しての切り裂きを、働き蟻は羽音でのかく乱を行ってくる。
「正直、ここまで大事になるとは予想していなかったが……上手くやれば、虫どもには大打撃を与えられそうだな」
 アレスはにやりと笑う。
「そうでなくとも、折角絆を作ったオウガメタルだ。是非、助けてやってくれ」


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
ネル・エオーレ(紫雲・e05370)
ユウ・アドリア(影繰人・e09254)
鮫洲・蓮華(虹色のサイダー・e09420)
アクライム・サンダークラップ(ドラゴニアンのウィッチドクター・e20296)
ウルトゥラ・ヴィオレット(はぴねすおふぃさー・e21486)
常磐・まどか(白の残照・e24486)
アーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974)

■リプレイ

●闇に浮かぶ救難信号
 濃い黒の落ちる山中に、ちかちかと銀色の光。常磐・まどか(白の残照・e24486)は翼で飛べる高度を保ち、自由落下していく仲間たちを視界の端に捉える。首から下げたハンズフリーライトは地上を照らすには少し心もとないが、相互の位置把握は十分可能そうだ。
「お先じゃー!」
 ユウ・アドリア(影繰人・e09254)がごうという風の音とともに地上へと吸い込まれていき、他のケルベロス達も次々と地上へ向かう。同じく翼をもつドラゴニアン、アクライム・サンダークラップ(ドラゴニアンのウィッチドクター・e20296)はまどかより少し低い位置に留まり、オウガメタルが放つ光を注視する。手には通信機器が、ウルトゥラ・ヴィオレット(はぴねすおふぃさー・e21486)のアイズフォンに繋がっている。
「そこから……北へ、そうじゃなあ、七十メートルといったところか」
 その通りに端末に入力すると、即座に返答が返る。曰く、りょうかいです、しみんアクライム。
「……いきましょう、コンピューター様」
 しみんオウガメタルをすくうのはぎむです、というウルトゥラの呟きは夜の闇に消える。
「動きやすい服を着てきて助かったな」
 十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)が服についた土埃を払い、持ちこんだライトのスイッチを入れる。近くに降り立っていた鮫洲・蓮華(虹色のサイダー・e09420)が作りだす小道の先には、小さな銀のきらめきが確かに見えていた。
「こっちだね、他の皆は……あれは?」
 蓮華の視線の先、夜闇に紛れた黒いマントがぼんやりと見えた。それが外套を纏ったネル・エオーレ(紫雲・e05370)だと気付き、泉達は安堵する。
「合流成功です、後は光に向かって走るだけですね、飛行班に連絡します」
 藪をかき分けて現れたアーニャ・クロエ(ちいさな輝き・e24974)とユウ。見上げれば空から飛行班もオウガメタルの居る方向へ進んでいるようだ。
 ほどなくして、オウガメタルの放つ銀色の光の中に、八人のケルベロスが集合する。
「ローカストどもは……む、来たか」
 ユウの夜目は、こちらへと向かってくる黒い三つのシルエットを捉えていた。
「あなたがしみんオウガメタルですね、これをつかってください」
 銀色の不定形に、ウルトゥラが森林迷彩柄の布を差し出す。オウガメタルは少し迷った様子でケルベロスを気にしているようだったが、やがて布の下に隠れてその場を移動した。
「オウガメタルの光が見えたと思ったら……貴様ら、ケルベロスだな」
 中央に立つ漆黒の蟻。槍のような武器、鎧にも似た甲殻。これが兵隊蟻だろうとネルは目星をつける。
「だったらどうする?」
 挑発的なネルの言葉に兵隊蟻は武器を構えた。
「当然、任務を遂行する。アリア騎士の名誉にかけて、近づく者、逃げる者、すべて排除する」
 兵隊蟻の言葉に、つき従う働き蟻も戦闘態勢に入る。戦いの火蓋は切られた。

●虫は光に集まれど
 アーニャは敵に先んじて、回復を担うケルベロスにオーラを纏わせる。月光の幸福(セレーネ・エフティヒア)。温かな光が戦場を満たし、癒しの力を高めていく。同時にウィングキャットのティナが羽ばたき、接近戦を挑むケルベロス達に涼やかな風を届け、守りとする。
「ど、どうかな?」
「助かる。これでこの先の回復も楽になるじゃろう。……さて、わしは一曲、披露するとするか」
 アクライムがライトニングロッドをマイクに見立て、「幻影のリコレクション」を歌い出す。その歌声は低く渋く、敵対者の心にしみわたり攻撃の意欲を削ぎ落した。
「私にも注目!」
 右手を上げた蓮華は一瞬にして衣装を変える。その姿、その衣装は死の海をたゆたう白の人魚に似て、淡い光を放つ。
「な、なんだ……!?」
 ローカスト達は困惑しつつも彼女の衣装にくぎ付けになり、刹那の間、戦いを忘れてしまう。その一瞬を見極め飛びこんだのは、ドワーフの小柄な体。
「隙有りじゃ!」
 ユウが縛霊手で兵隊蟻を殴りつける。働き蟻に動揺が走るが。
「うろたえるな、戦うのだ!」
 アリア騎士は号令と共にユウに噛みつく。それを見た働き蟻たちも、次々とケルベロス達に牙をむいた。働き蟻の一体がアルミニウム生命体を牙に纏わせ泉に飛びかかる。回避できない。そう直感し歯を食いしばる泉の前に、白の少女が割り込んだ。
「しみんをきずつけることは、きょかされていません」
 ウルトゥラの白い衣装が赤く染まる。直後、ボクスドラゴンのコンピューターの力により傷口が塞がった。同時にウルトゥラの鎧装からミサイルが飛び出し、ローカスト達に着弾。粘性の燃焼材がデウスエクス達に付着し、燃え広がる。もう一匹の働き蟻は炎に怯まずネルを狙うが、彼のボクスドラゴンに阻まれていた。
「いきますよ……!」
 まどかの光の翼が強い光を帯び、周辺一帯を照らす。一撃の大きさに賭ける一方で、もし外したらという懸念がないわけでもない。考えるのは、攻撃の効率のみ。閃光の如く駆け、その手のナイフで切り裂いた敵の感触は、兵隊蟻にしては柔らかく。
「兵隊蟻を狙っても、働き蟻がかばいますか……しかし、足元からならどうでしょう?」
 泉が這わせた攻性植物が、アリア騎士の体に絡みつく。ツタ状の植物はデウスエクスを締め上げながら、その移動を、回避を阻む。そうして足を止めた騎士に向かって、ネルは惨殺ナイフを振り下ろした。ナイフの軌跡は炎を纏い、騎士を焼く火を延焼させていく。炎に巻かれ闇雲に振るわれた腕を避け、ネルははずれだと笑って見せた。
 森の中はグラビティの生み出す光と、ローカスト達を包む炎で照らされている。

●初夏の虫は火へと
 アリア騎士をかばい弱った働き蟻は、攻撃目標を変更したケルベロス達によって倒されていった。兵隊蟻も無事ではなく、ところどころ燻る炎が夜の森に蛍のように浮かんでいる。働き蟻に攻撃を阻まれることは幾度かあれど、その防壁を潜り抜けたグラビティにより炎を身に纏わされたローカストは、時が経つにつれて追い詰められていた。
「働き蟻も……厄介な相手でした。残った敵はどちらでしょう……」
 最後の働き蟻が残した羽音が、未だまどかの頭に反響し、判断力を奪う。敵の居場所、味方の配置。そのどれもが曖昧に反響し、正確な攻撃対象が分からなくなる。
「まどかさんから見て、時計の二時ですよ!」
 アーニャの叫ぶような声音と共に、まどかは痺れるような刺激を感じた。それで思考がはっきりする。声の方を振り返れば、アーニャの笑顔が月影に映える。頷き合い、アーニャは同朋の背を見送る。煌めく惨殺ナイフの刃が、まるでもう一つの月光のようだと思いながら。
 その月光がたちまち叢雲に隠される。いや、その正体は汚泥。のんびりとして見える彼女の心の奥底にある感情は黒くは先にまとわりつき、漆黒の甲殻を汚染した。
「おのれ……我らアリア騎士団の誇りに賭けて、退くわけには」
「こちらはそれでも構いませんが、壊されてしまっても知りませんよ?」
 最小限の動きで急所を抉る泉の攻撃に、ローカストはうめく。対して泉は涼しげに、笑みさえ浮かべて余裕を見せている。味方の回復の手は十分にあり、敵のダメージは蓄積している。
「せめて一矢報いてくれる!」
 泉に向けられた反撃のローカストキック。しかしデウスエクスに絡みつくグラビティの残滓が動きを鈍らせ、遅れた蹴撃を泉はひらりと回避した。苦渋のアリア騎士は、笑みを浮かべたネルの接近に気付かない。
「隙有りだぜ!」
 開かれた魔道書から発された光線が、兵隊蟻を、木々を照らす。照射された者の動きを止め、肉体にダメージを与える古代魔法を受けた敵を相手に、生じた機を逃すケルベロス達ではなかった。まずはボクスドラゴンが連携し、幾度目かの属性のブレスを吹きかける。
「夜は影の領域じゃな。……猫と共に、良い旅を」
 ユウの影がざわりとうごめいた。やがて影は猫の姿を取り、夜闇の中を敵へと駆ける。ちろちろと燃える炎に照らされその身をより大きくしながら、影の猫はローカストに跳びかかった。
「精神の強い者には効きにくい技じゃが、さておぬしはどうかのう?」
 囁くユウに、薬液の雨が降り注ぐ。アクライムのメディカルレインはケルベロス達が受けた痛みを優しく洗い流し、その場で治せる限りの傷を癒す。
「すぐに治せるのはここまでか。とはいえ、向こうは……」
 もはや反撃もままならぬだろうと、アクライムは双眸を細めた。
「働き蟻は帰りたい場所もあると思ったんだけど、あの兵隊蟻の方はどうなんだろうね?」
 戦う力もほとんど残っていないであろう敵は、それでも一歩も退こうとはしなかった。敵は強く、その上背水の陣。それでもケルベロスが優位に立った所以は、予知と実力、そして作戦の優位によるだろう。
「えんごします、しみん。こころと、ことばと、おこないと、せいかつによって、おのれのこうふくを、しょうめいしなさい」
「ありがとね! じゃ、とどめいくよっ!」
 ウルトゥラの奏でる人間賛歌が、蓮華の集中力を高めていく。天に向けた蓮華の掌から幻影が生まれた。初めもやのようであったそれは徐々に竜の形を取り、形作られたその顎を大きく開けて威嚇する。喉奥から赤い光が漏れたかと思った次の瞬間、吐き出された炎によってローカストは光と熱の中に消えた。

●地球へようこそ
 戦いの残り火が消えかかる頃、不意に草むらががさりと揺れる。ケルベロス達が一斉にそちらを注視すると、低木に引っ掛かった布の下から銀色の光が覗いた。
「おお、さっきのオウガメタルじゃな!」
 夜目の効くユウが真っ先に気付き、オウガメタルに駆け寄っていく。銀色の不定形は心なしか嬉しそうに見えた。
「ぶじでなによりです、しみんオウガメタル」
 ウルトゥラが迷彩柄の布をつまみ上げ回収すると、オウガメタルの銀色が、ケルベロス達の持つライトに反射する。布をかぶり隠れていたオウガメタルに損傷はなさそうだ。じっとオウガメタルを観察するコンピューターとの不思議な見合いは、傍にかがんだアーニャによって中断される。
「もう大丈夫ですよ、オウガメタルさん」
 アーニャの声に反応して、オウガメタルはすいとケルベロス達の中心に移動する。ケルベロス達はオウガメタルから、感謝のような思いを感じ取った。
「オウガメタルちゃん、ようこそ、地球へ!」
 蓮華が手を伸ばすと、オウガメタルは嬉しそうに銀色の体を揺らす。安堵と、歓喜と。言葉こそ交わせないアルミニウム生命体だが、その意思と感情はケルベロス達に伝わってくる。
「地球はわし達のように数多くの種族が暮らしておる。お主たちもきっと、良い仲間になれるぞ」
 アクライムが杖をこつんと地面に突き立てる。この場に集ったケルベロスの種族もほぼばらばらだ。異なる種族、もともと地球に住んでいた者だけでなく、かつて地球を侵略する立場だった者やその子孫が集い、一つの目的のもとに戦っている。
「私たちも、数ヶ月前に定命化して受け入れてもらったんですよ」
 ヴァルキュリアもまた、はじめはケルベロスの敵として相対し、地球と共に生きることとなった種族だった。まどかの言葉には、オウガメタルと共に戦いたいという願いが宿っている。
「これからは仲間として、よろしくお願いします」
 泉が微笑みかけると、オウガメタルはその身を縦に伸長させ、半ばから折れ曲がって見せる。まるでお辞儀のように。
「とりあえず、一旦引き返そうぜ。今はまだ気配は無いけど、他のローカストがこっちに来ないとも限らない」
 ネルに頷き、ケルベロス達はその場を後にする。風のざわめきを背に受けながら、銀色の光と共に。

作者:廉内球 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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