オウガメタル救出~アルーミナム・フーガ

作者:月夜野サクラ

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。

●叫び
「これまでの出来事を整理しておくと」
 組んだ足の上に本を開いて、レーヴィス・アイゼナッハ(en0060・オラトリオのヘリオライダー)は切り出した。ヘリポートは既に、大勢のケルベロス達でごった返している。
「まず、黄金装甲のローカスト事件については知ってるよね?」
 この事件を通じて、解決に当たった一部のケルベロス達はアルミニウム生命体――『オウガメタル』とある種の絆を結ぶことが出来た。そして図らずも、ローカストに支配されたオウガメタル達の苦境を知る運びとなったのである。
「オウガメタルは、多種族に武器として使役されることで共存する金属生命体。だけど今、彼らを使役してるローカスト達は、グラビティ・チェインが枯渇してるってことを理由にして、オウガメタルを使い潰すような使い方をしてる。僕は実物を見てないからよく解んないけど、黄金装甲化はその中でも、オウガメタルを絶滅させかねない行為らしいね」
 そんなオウガメタル達が、今、絶体絶命の窮地にあるらしい。彼らと絆を結んだケルベロス達によると、オウガメタル達はケルベロスに助けを求めるべく、なんとローカストの本星からゲートを通じて脱出し、地球に逃れてきたようだと言うのである。
「でも、ゲートはデウスエクスにとっての最重要拠点だ。ローカストのゲートだって当然、敵の軍勢に守られてる。放っておけば、命からがら逃げてきたオウガメタル達が殲滅されるのも時間の問題ってワケ。つまり――もう解ってると思うけど、君達には」
 至急ヘリオンで現地に向かい、オウガメタル達を救助して欲しい。そう言ってようやく、少年は足組を解いて立ち上がった。
「オウガメタル達の現在位置は、山陰地方の山奥。敵の妨害も相当、激しくなると思うけど……上手くいけばオウガメタル達を助けるだけじゃなく、ローカストのゲートも特定することが出来るかもしれない」
 ローカスト達は、兵隊蟻ローカスト一体につき働き蟻ローカスト数体の小さな群れに分かれて、山地のあちこちでオウガメタルの追撃に当たっているようだ。現地への到着予想は夜半を過ぎる見込みだが、逃走するオウガメタル達は銀色の光を信号のように光らせるため、それを目印に降下すれば目標を違えることはないだろう。着地地点には百メートル程度の誤差が生じる可能性はあるが、光と音を頼りに探せば合流は難しくない筈だ。
 群れを率いる兵隊蟻ローカストの戦闘力はかなり高く、またその役割上どんなに不利な状態になっても、逃げ出すことはないだろう。
 一方、働き蟻ローカスト達は戦闘員ではないが、それでもケルベロス数人に相当する戦闘力を持っている。ただし彼らは指揮官である兵隊蟻が撃破されると、状況によっては逃げ出すこともあるようだ。
「追っ手に捕まれば明日はない。そんなこと解り切ってるのに、どうして……」
 言いかけて、レーヴィスは口を噤んだ。解り切ったことだ。酷使され、使い捨てにされるだけの未来より、彼らは彼らの尊厳ある生き方を選んだのだ――たとえその結果、滅びることになったとしても。
 はあ、と仰々しく嘆息して、少年は肩を竦めた。
「全く、いい根性してるよ」
 助けを求めるオウガメタル達を、見殺しにする訳には行かない。
 彼らは決死の覚悟を以って、その未来を託してくれたのだから。 


参加者
ファン・バオロン(八個分のビタミンイー・e01390)
ソネット・マディエンティ(藍の往く路は紅く・e01532)
インレ・アライヴ(ルナティックトリガー・e02246)
ニルヴァーナ・ネハン(膝に矢を受けた戦士・e05129)
御巫・神夜(地球人の刀剣士・e16442)
ラズリア・クレイン(蒼晶のラケシス・e19050)
キアラ・カルツァ(狭藍の逆月・e21143)

■リプレイ

●夜に墜つ
 闇に紛れて飛ぶ鳥が、一羽、また一羽、夜の山並へ吸い寄せられて行く。
 中国山地上空。音を殺して往くヘリオンの機内で、ケルベロス達は息を詰めていた。胸がざわつくのは唸る風の音のためか――それともこの手に委ねられた、命の重みからか。
「この星が、また騒がしくなるのか……」
 夜の海にも似た広大な山林を窓越しに見渡して、インレ・アライヴ(ルナティックトリガー・e02246)は呟いた。今この瞬間にも、逃走のオウガメタル達はこの森のどこかを必死に逃げ回っているのだ。
 開け放しの乗降口の縁に立ち、ファン・バオロン(八個分のビタミンイー・e01390)は暗く広大な森を見下ろした。手に握ったロープの先は仲間達の掌に続き、反対側の端はキアラ・カルツァ(狭藍の逆月・e21143)の手中にある。
「では行こうか」
 暗闇の中で、何かが光った。虹色めいた銀色の光だった。黒縁眼鏡のレンズの奥でしっかりとその輝きを捉え、ニルヴァーナ・ネハン(膝に矢を受けた戦士・e05129)はへらりと笑う。
「やはりブラックな場所は良くないものですね。職場はちゃんと選ばないと」
 行きましょうか偽装箱さん、そう呼び掛けると、周囲を跳ね回っていたミミックがぴょこんと主の腕に飛び込んだ。それからは一瞬――言葉はなく肯き合って、ケルベロス達は躊躇うことなく夜の真中に躍り出る。
 上空に渦巻く風は、ヘリオンの中で感じる以上に強かった。ごうごうと吹きつける風圧に煽られて、御巫・神夜(地球人の刀剣士・e16442)の豊かな髪が金の尾を引き流れて行く。
「助けを求めているのならそれに応えるまで。……全力でいきましょうか。」
 不退転の覚悟でカードを切ったまだ見ぬオウガメタル達の姿が、かつて救いの手を述べた養女のそれに重なる。ゲートの位置に敵の内情、探りたいこともあるにはあるが、打算も思惑も二の次だ。今は何より、託された想いを受け止めてやりたかった。
「落ちます。気をつけて!」
 仲間達に呼びかけて、キアラは大きく翼を羽ばたかせた。二対の翼を左右に据え、慎重に目標の位置を追いながら降りる先は森の底。羽ばたきに連れて隊列が右方へ大きく傾き、青黒い梢に落下する。身体を丸めて受身を取り、リモーネ・アプリコット(銀閃・e14900)は枝葉をすり抜け着地した。そして生い茂る藪の向こう側に、キラリと輝く銀を見る。
「あっちです!」
「了解」
 手短に応じて、ソネット・マディエンティ(藍の往く路は紅く・e01532)は持参のライトを灯した。オウガメタル達が絶えず移動していることもあり目前にとまでは行かなかったが、降下は十分に上手く行ったと言えるだろう。
 黒一色に沈んでいた森の輪郭が、照らすライトの光にくっきりと浮かび上がる。素早く視線を廻らせれば、緩やかに下る斜面の奥を銀に輝く物体が猛スピードで移動して行くのが見えた。硬質で耳障りな声がしたのは、その直後だった。
「イタゾ!」
 声はケルベロス達の現在地点より、やや高い場所から降ってきたようだった。闇にくすんだ白い翼を咄嗟に広げ、ラズリア・クレイン(蒼晶のラケシス・e19050)は地を蹴った。茂る枝葉を掻い潜りながら、低空飛行で闇の奥へと猛進する。そして、遁走する銀の背を捉えた。
「オウガメタルさん――聞こえますか? 貴方をお救けに参りました!」
 不意に、銀色が迫った。動きを止めたオウガメタルを背にする形で、ケルベロス達は反転する。焦燥に逸る虫達の足音が、遠く聞こえ始めていた。

●銀煌
「初めまして、オウガメタルさん。私達はケルベロス……」
 礼儀正しく着物の胸に手を当てて、リモーネは短く一礼した。どこまで言葉が通じているのかは判然としないが、オウガメタル達は動きを止め、此方の挙動を窺っているように見える。安心させるように微笑んで、努めて誠実に娘は続けた。
「貴方達の仲間が私達の元に身を寄せています。ですから、行く当てが無いようでしたら……」
 ガサガサと茂みを掻き分ける音が聞こえた。こっちだと急かす声と共に、斜面の上方に四つの黒い影がぬらりと立つ――ローカストの一団だ。すかさず背後を振り返り、ファンは叫んだ。
「悪いが、ここへ入って貰えるか!」
 アイテムポケットを示すと、銀の塊が波打った。戸惑っているかのようだった。そうこうしている間にも、黒い影は足取り荒く斜面を駆け下ってくる。
 パ、パン、と軽妙な破裂音が響いた。駆けるアリ達の足元に神夜が弾丸を撃ち込んだのだ。
「大丈夫、必ず守るわ」
 ちらりと見やった真紅の瞳に、力強い意志が光る。元より一か八かの賭け――真摯な言葉を拒絶するだけの理由はなく、オウガメタルはファンのポケットへ滑り込む。しかし全ては収まりきらず、一部は藪の陰に身を縮めた。これで万全とは言えないまでも、少しは気を楽にして戦えるはずだ。
 隠れたオウガメタルを背に毅然と進み出て、キアラは迫り来る影を睨みつけた。
「絶対に、助けてみせます」
 未来の為に命を賭けた、彼らの貴き心に敬意を表し、その決意に報いる為に。
 右腕に纏う祭壇から、蒼白い紙兵が飛び出した。鳥の群れのように自在に形を変えながら、それは前線に立つ仲間達を護るように展開する。
「貴方がたの生き様に敬意を。誇りには誇りでご対応致しましょう!」
 ラズリアの足元に魔方陣が浮かび、ブルーサファイアの髪が舞った。光の中から引き抜いたのは、蒼く燃える一振りの剣だ。
「始原の楽園より生まれし剣たちよ――蒼き輝きを持て獄炎に舞え!」
 蒼い火の粉を零しながら、輝く剣が夜を裂いた。リーダーである兵隊アリを護るように敵の一体が動くのを確かめ、ソネットは幅広の槍に秘めた地獄を纏わせる。
「オウガメタルの意志は、見せてもらったわ」
 命令するだけの者や、命令に従うだけの者は大嫌いだ。しかしそれは、彼女が己が意志を尊ぶことを何よりも重んじていることの証でもある。志を貫く者には敵味方問わず敬意を表する、それがソネットの流儀だった。
 オウガメタル達が決意を示した今、成すべきことはただ一つ――その想いを、受け止めること。渾身の力で薙ぎ払えば、刃は狙いを違うことなく一体のアリの腹を裂いた。
 弾かれた仲間の身体を受け止めるでもなく躱して、アリ達は戦列を越えて来る。おっととおどけたように肩を竦め、インレは敵の足元に弾丸を撃ち込んだ。
「簡単に近づけると思うなよ?」
 ローカストへの隷属を強いられたことで、オウガメタル達が得た知見はケルベロス達にとっても極めて有益な情報のはずだ。これを切り捨てる理由はない。何より彼等は、未来を託されたのだから。
「オウガメタルさんにも、炬燵で休む心地良さを体感させたいものですよ」
 掲げた腕の先に黒い残滓を集めて、ニルヴァーナは言った。温かい場所で、温かい人に囲まれて過ごす至福の時間――共に安全な場所に引き上げることが出来れば、優しい時間も夢ではない。しかしまずは、彼等にとっての脅威を除くことが先決だ。
「行きますよ!」
 黒く粘つく塊が敵の群へと降り注ぎ、アリの一体が再び動いた。どうやら、壁役は一匹だけのみ。それさえスムーズに片づけることが出来れば、戦況は数で勝るケルベロス達の優位に傾く筈だ。

●削り合い
 ギラリと輝く銀の牙が、風を切って喉元へ迫る。
 咄嗟に上体を逸らして急所を外しながら、ソネットは小さく舌打ちした。首のすぐ下辺りに穿たれた傷は浅くなく、暗い穴から蒼白い火花が散るのが見える。
「ここは通さん。そう決めたもんでね」
 この程度では、揺らがない。
 返す手で槍を突き立てると、六本足に痺れが走った。隙を突いて間合いを取り直せば、噛み痕を皓い焔が包んで行く。
「癒し、清めよ、鎮めの焔よ」
 紡ぐキアラの鎮魂歌は、善き人の傷を癒し、悪しき者の罪を清める浄化の焔だ。凛として敵を見据えるエメラルドは、確固とした信念に満ちている。
(「貴方たちを、助けたいんです」)
 拐かされ、義父によって助けられたかつての自分が脳裏に過る。幼く震えるばかりの子供だった自分とは違い、オウガメタル達は自らの力で逃げ出すことを選び、そして見事にやってのけた――尊敬に値する意志と行動力の持ち主達を、みすみす殺させてなるものか。
 白い焔が収束し、ソネットの瑕が消えて行く。しかしほっと息をついたのも束の間、ファンの眼前には刺々しい脚が迫っていた。
「ちっ」
 避けるには、速過ぎる。苦々しげに舌打ちし、竜は両腕を胸の前で交差させ、兵隊アリの蹴撃を受け止めた。そして軋む腕に力を集め、アリの身体を跳ね返す。
「なかなかやるようだな」
 敵が強力であればあるだけ、その強さは武術家としての彼女を高揚させる。行くぞ、と鋭い一声を浴びせ、ファンは両腕の斧を振り上げた。
「!」
 ドン、という衝撃と共に、兵隊アリの身体が吹っ飛んだ。袈裟懸けに斬り下ろす刃は一匹の働きアリの関節を切り離す。バラバラになって崩れる様に、リモーネは僅かに眉をひそめた。
「大人しくしているなら、危害は加えたくなかったのですが……」
 相対する兵隊アリと、彼等を統括する『狂愛母帝』アリア。故郷の仇とも言うべきローカスト達に対して彼女が抱く感情は、一口に言い表せるものでも、説明できるものでもない。しかし諦めに似た表情には、微かに悼むような色が滲んでいる。
「大人しくしてくれるわけ、ありませんよね」
 瞳に映る影を目掛け、繰り出す突きは稲妻の如く疾く、そして鋭い。壁を失った兵隊アリは三段突きをまともに受けて、グエッと奇声じみた悲鳴を漏らした。そこへ畳み掛けるように、神夜が抜き身の刀を振り翳す。
「走れ、鳴神!」
 指先でひと撫ですると、鈍く光る刀身が雷撃を纏った。渾身の力で斬り上げれば、兵隊アリの身体がぐらりと傾ぐ。効いている――確信に両手を握り締め、ニルヴァーナはお付のミミックに目配せした。
「偽装箱さん、お願いしますね!」
 主の呼びかけに応えて、ミミックが跳躍した。吐き出したプラズムは玩具の剣の形をとって兵隊アリを刺し貫く。しかし――さりとて敵もやられてばかりではない。
 アルミの鎌を振り翳し、兵隊アリが跳び上がった。鏡面と化したその刃には、弓を引き絞るラズリアの姿が映っている。
「くっ……!?」
 解き放つ漆黒の矢が、アリの胸を射抜いた。しかし敵は止まることなく、天使の肩に切り掛かる。傷から命を吸い上げられるような不気味な感覚に、娘は堪らずに片膝を突いた。しかし刃が更に食い込まんとした瞬間、インレの放つ連撃がアルミの鎌を砕く。
(「オウガメタルなんざ本当はどうでもいいが」)
 ここで何もしなかったなら、この力が何のためにあるのか解りやしない。瞳に映る月にいつか見た人の姿を重ね、少年はニヤリと口角を上げた。
「男には、戦わなきゃならない時があるんだろ?」
 なあ、と遠く呼びかけて、インレは銃に弾を込める。
 守るべきものを背に控えた者同士、この戦いは譲れない。しかし当事者達の思いを他所に、戦いは刻々と決着に向けて動き始めていた。

●実りある帰投
 双方一歩も退かぬ攻防は、熾烈を極めた。兵隊アリは目に見えて衰弱していたがケルベロス達も無傷とは行かず、残る二匹の働きアリ達も無視はできない。戦列をすり抜けようとする働きアリの一体に、インレが銃口を向けた。
「させるかよ!」
 引き金を引けばオウガメタルに向かう道半ばで、アリの身体が横っ跳びに弾かれる。一方兵隊アリへと浴びせた焔の弾丸からその命を吸い上げて、ファンは深呼吸した。
 気を抜けば戦列を崩される――だが限界が近いのは、敵方とて同じこと。今を持ち堪えることさえ出来れば、勝利はすぐそこにある。
 よろけて鑪を踏みながら、兵隊アリがアルミの鎌を構えた。ここで潰えようと、ゲートへの接近を許すことになろうと結果は同じ――故にどんな劣勢になろうとも、彼の戦意は衰えない。
 バネのように足を屈伸させ、アリが跳んだ。そして銀の鎌を振り上げた、刹那。
 蟻の硬質な外殻が、割れた。剣戟と共にそれ以外の音が消え、蟻がぎこちなく身じろぎする。それが、最期だった。
「……お粗末さまです」
 瞬きもせず貫く刀の先を見詰めて、リモーネは少し、複雑そうに口にした。一思いに抜けばアリの体ががくりと折れ、その場に音を立てて崩れ落ちる。ほうっと一つ息をつき、ソネットは青い矛先を下ろした。
「言ったでしょ、通さないって」
 ケルベロスの矜持にかけて、絶対に。
 ギャッと弦を擦るような悲鳴を上げて、二匹の働きアリが後退りする。手の中でくるると拳銃を回し、神夜は語尾を上げた。
「どうする? まだやるつもり?」
 銃口の煙をふっと吹き飛ばして、紅い唇が妖艶に笑う。他の選択肢があるはずもなく、二匹の働きアリ達は慌てふためき走り出した。その後背が暗い森の奥へ消えたのを確かめて、キアラは仲間達へ向き直る。
「お怪我はありませんか?」
「ああ、問題ない」
 身体についた砂埃を無造作に払って、ファンが応じた。しかし楽とは言い難い戦いであったことも事実だ。緊張の糸が弛むと同時に、疲労がどっと押し寄せてくる。
 座して手当てを受けるその傍ら、開いたアイテムポケットの口からは銀の塊が覗いていた。茂みに隠れていたオウガメタルの一部も、奮戦の甲斐あって無事のようだ。
「オウガメタルさん。私たちと一緒にいらっしゃいませんか?」
 身を屈めて隠れた銀を覗き込み、ラズリアは優しく微笑いかける。大丈夫ですよと意味ありげに、ニルヴァーナも続けた。
「私達の方が、アレよりよっぽどホワイトですからね」
 早くおいでと急かすように、ミミックが忙しなく跳ね回る。ようやく滑り出たオウガメタルの姿を見れば、誰からとなく安堵の息が零れた。今宵新たに結ばれた絆は、来るべきローカスト達との戦いにおいて大きな意味を持つことだろう。
 迎えのヘリオンの青い光が、チカチカと足元の地面を照らし出す。勝利と前進の確かな手応えを感じながら、ケルベロス達は帰路に就くのであった。

作者:月夜野サクラ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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