半袖セーラーへの滑空!

作者:林雪

●指令はマッドでフリーダム
「お前たちぃいい! もっともっとフリーダムに欲望解放しちゃっていいんだよォお!」
 マッドドラグナー・ラグ博士は、自ら生み出した飛空オーク達に向かってそう叫ぶ。
「実験、実験は素晴らしい! だが更なる高みを目指すには新たな因子! すなわちお前たちと人間の女子の子だぁ!」
『オンナ!』
『オンナァ!』
「そうだ襲え! 襲ってこい! お前達が産ませた子孫を実験体にすることで、飛空オークは更なる進化を遂げるだろう!」
 博士が命じると、下品な嬌声があがる。オークたちにとっては、自分たちの子が実験体になることなど、どうでも良いようだ。

●ケーキと女子高生
「んー……すごい、もう何の果物がメインなのかわからない!」
「バナナとキウイがやや優勢……? あーでもどうかなぁー?」
「なんかさ、一日ここのケーキしか食べちゃダメっていう罰ゲームとかないかなぁ?」
「罰ゲームっていうか、天国じゃん」
 アハハハ! と、女子校生の集団から笑い声があがる。
 通学路上にある、有名ケーキ店。ここはタルトの一切れが大きいことと、大きなショーケースにこれでもかと色とりどりの商品が並んでいることで有名な店である。
 目下、夏服に衣替えを終えたばかりの女子校生たちの注目を集めているのは、初夏限定のフルーツタルト。なんやかんやフルーツが入り乱れており、女子たちは登下校の際にはひっかからずにはいられない。買う買わないは別としても、常に数人の女子グループが2、3組は店の前にいる。店側としても、いいにぎやかしなのである。
 カラフルなケーキと、白い半袖夏服の女子校生。
 初夏の爽やかさを表すには最高の取り合わせだが、これを狙う、不埒で不潔でけがらわしい目。
 半袖セーラー服、決して露出が高いわけでもないのに、妙にキラキラと若々しいセクシーさを放つその腕……オークが見逃すはずはなかった。
『ビキャキャキャ……うまそう』
 もちろん、ケーキのことではない。
 ケーキ屋の斜向かいにあるマンションの屋上から、女子校生たちを見下ろす。ふとましい両腕をひろげたオークは、彼女たちに向かって滑空し、着地とともに半袖の隙間に触手を潜り込ませ始める。
「イヤァアアアア!?」
『ブヒャヒャ……! 暴れろ暴れろぉ!!』

●梅雨ときどきオーク
「梅雨時の雨ふりもイヤっすけど、オークがふってくるのはもっとイヤっすよねえ」
 ヘリオライダー、黒瀬・ダンテが渋い顔で説明を始めた。
「今回の敵は飛空オーク、っていう……まあ、新種っちゃ新種のオークっすね。飛空ったって、高いとこから飛び降りられるだけらしいっすけど」
 飛行能力は未熟だが、高所から狙いを定めていきなり女性を襲う、というタチの悪い効率のよさを身につけたオークが出現するのだという。
「茜さんが目をつけた通り、季節の変わり目で夏服女子高生がピンポイントで狙われたっす」
「絶対あいつらやりそう、って思ったんだよねー」
 ダンテの隣で、おみやげ用のケーキの箱を持った筒路・茜(赤から黒へ・e00679)が呆れてそう言う。
 頷きながらダンテが現場の写真を示し、詳細を話し始めた。
「今回オークは5体の群れで現れるみたいっす。連中はケーキ屋のすぐ近くの7階建てマンションの屋上から降ってくる感じっすね。いったん地上に降りたら、単なるオークっす。事前に女子高生を避難させてあげたいとこっすけど、予知が変わってしまう可能性があるんで。出来ればこっちも夏用制服姿で女子高生たちに混じれたらいいかな、って……、ち、違うっす! 自分の趣味とかそういうんじゃねっす! ポイントはキラキラ爽やかなお色気っす!」
 真顔で言うので、なんか逆に説得力がない。ゲヘンゲヘンと咳払いをしながらダンテが続ける。
「だ、男性陣は潜伏にはちょっと気を遣って欲しいっす。オークが目をつけたのは、ケーキを目の前にして無防備~な感じではしゃいでる女子高生っすから、あんまりこう、イケメン登場! って感じで女子高生たちが静かになっちゃったりすると、オークが襲撃場所変えちゃったりするかもなんで」
 その場合は、女性ケルベロスが改めてオークが喜びそうな行動をとって、おびき寄せることでフォローが出来るとダンテは付け加えた。
「女性に人気のケーキ屋の店先で、堂々と女性を襲おうだなんて……相変わらずのゲスっぷりっす。皆さんでチャチャッとやっつけてきて下さいっす!」
「ここのケーキ、とっても美味しいからお土産も忘れないようにねー」


参加者
星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)
巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)
白偲・トウキ(ビスクドール・e07431)
上里・もも(ケルベロスよ大志を抱け・e08616)
ウズメ・フェザーワルツ(天然系小悪魔・e17489)
カッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死神型ー・e19121)
火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)
フィオ・エリアルド(夜駆兎・e21930)

■リプレイ


 ここは、とある有名ケーキ店の前。
 色とりどりのケーキが陳列されたショーケースの前は、今日も下校途中の女子高生で賑わっている。
 ひとつ普段と違うのは、今日はその制服姿の女子高生の中に、ケルベロスが混ざっているということだった。
「なんだか、新鮮です」
 と、明るい笑顔で踊るようにクルリと回り、制服のスカートをひらりと舞わせているのはウズメ・フェザーワルツ(天然系小悪魔・e17489)、裾からチラリと白いものが覗くサービスつき。さすがは小悪魔。
「すごい似合ってるよ」
 と微笑むのはカッツェ・スフィル(黒猫忍者いもうとー死神型ー・e19121)。彼女も種類の違う半袖のセーラー服を着ている。
「本当? 嬉しいです」
 普段は巫女服ばかり身に纏っているので、慣れない制服に嬉しげなウズメ。年の頃で言うなら、高1のカッツェと高3のウズメ、ということになる。
 その後ろに立つ、長い黒髪をおさげに結った、丸眼鏡の文化系清楚美少女。
「うーん、悩ましい! ねえねえどれがいいだろうやっぱり季節限定フルーツタルトかなあ?」
 ……のはずだったが、ケーキが目に入るや素が出てしまった白偲・トウキ(ビスクドール・e07431)である。制服もつい最近まで着ていた本物ゆえに着こなしはバッチリ、スカートも長めにし、優等生お姉さん感満天の演出をしているが、本当は元気いっぱい腹ペコ系食欲魔人なのである。
「んー、どうしようかな? さくらんぼのタルトが美味しそうだけどちょっと高いし……」
 その隣で星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)の髪から、ふわりと爽やかなシトラスが香る。軽く前のめりにショーケースを覗き込むと、膝上10センチのかなり短めのスカートの生地から、たゆんと立派なお尻のラインが強調される。オークでなくともドキリとするような光景だ。
「ねえ、手前のそれ、何味かな?」
 旅団へのお土産のケーキをなかなか決められずにいたフィオ・エリアルド(夜駆兎・e21930)が、上里・もも(ケルベロスよ大志を抱け・e08616)に声をかける。すこし引っ込み思案のフィオはお店の人に声をかけるよりも、打ち解けた友人であるももに相談する方が気楽なのだ。
「イチヂク、じゃないかな?」
 答えるもももフィオも、やはり夏服セーラー姿である。爽やかな白い薄手の生地のセーラーだが、ちゃんとキャミソールで透け対策はバッチリしてある。
 店の様子を見回している巽・真紀(竜巻ダンサー・e02677)のトップからは、若干白いラインが透けて見えてしまっていたが。
「あ? わざとだよ。あの連中にゃあからさまに肌出すよか、どうもこういう方がイイんだろ?」
 いっそ清清しい勢いでそう言い放つと、真紀は思い切り口角をつり上げニヤリと笑う。チラリズム派は俯くしかない。
「わ、悪い笑い顔だー」
 フィオの言葉につられ、皆笑った。
 どう見ても、仲のいい女子高生たちがケーキを見ながらおしゃべりしている感じ、ではあるがこれは実は、誘き寄せ。
「半袖セーラー服……オークも妙にフェチなところ見せてくるもんだな」
 今回の任務唯一の男性参加者である火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)が、やはり男はいない方がオークの食いつきがいいだろうという判断から、別の建物の隙間に身を隠して現場を見張りつつ呟く。
「フェチ野郎の考えることはわからん。それより重要なのは……くっ、全員ショーケースに向かってたんじゃ、特盛りかどうかがわからん!」
 大丈夫、彼はやるべきことはちゃんとやる男である多分。
 店の前は、ケルベロスが7人、それと、他に何も知らない女子高生たち数人のグループが2組ほど。いつも通り、人気があって混み合っているように見える。


「しかし、もし高校行ってたら今頃は高三か……JKのフリとか実際コスプレだわー」
「あれー真紀さん高校行ってないっけ?」
「オレ中卒なんだよ」
 予知情報で、オークが待機しているはずのマンションの場所はわかっていた。その建物には背を向け、ケーキに夢中なフリをして油断を誘う、という作戦は全員了承しているので、仲間も調子を合わせた。
 真紀はしゃべりながらスマホを弄るフリしつつ、手鏡機能で背後の屋上を警戒していた。
 逆光で、影が余計はっきりと見えた。翼と呼ぶには不恰好な、膜のようなものを広げた5体のオークが、屋上から滑空を始める。狙いはそう、夏服セーラー。
「……3、4、5、よし、全部飛んだぞ!」
「バスティエ!」
「スサノオ!」
 真紀が言うのと同時に、ウズメとももが姿を隠していたサーヴァントに指示を飛ばす。
 でっぷりとした5つの黒い影が、背中の触手を蠢かせながら急速落下してくる!
『ブェッヘヘヘヘェー! 半袖だぁー夏の制服だぁー!』
 欲望の対象めがけてまっしぐら、ズシンズシンと音をたてて着地すると、触手をうねらせる。
「ケルベロスだ。デウスエクス来てっから今の内逃げとけ、なっ!」
 飛び出してきた地外が、一般人女子高生たちを誘導する。
「きゃっ! な、なに……?」
 何が起きたのかわからず悲鳴を上げる女子高生たち……、その中に明らかにきゃあーと棒読みの悲鳴を上げる者がいるが、オークにはあまり気にしない。
『ブヒャヒャ、泣け、わめけ! めっちゃ興奮する!』
「なーんて言うと思った? 豚にはこれがお似合いだ!」 
 棒読み女子高生ことカッツェが振り返り、愛用の鎌を諸手に振りかざす。次の瞬間には一番最初に着地したオークを刃が切り裂き、生命力を奪っていた。
「下品な豚の生命力なんか、この子達に吸わせたくないんだけどな……!」
『ブキィッ?! ケルベロス?!』
『女子高生ケルベロス、だとっ?!』 
「行動は別として、攻撃方法が触手だけって言うのはある意味潔いよね」
 ユルが淡々と言いながら触手をするりと避け、ドローンを飛ばし戦闘態勢を整える。
 万が一にも一般人に被害のいかないようにと、真紀やサーヴァントたちがうまく位置を取った。地外も、避難誘導を特盛りバスト女子高生もそうでない子も平等に行い、それが終わるや仲間たちの集中力を高めるべく、竜を模した小型ファクシミリを腕に装着した。
『ピー……、ヴヴヴヴヴヴヴ……』
 ファックス受信音が響く中、なだれ込むように戦闘が始まった。
「フルーツタルトが僕を待ってる! だからオークさんはサクッとご退場願うんだよーさよーなら!」
 トウキがおさげを揺らして跳びあがり、ナイフを華麗に舞わせて先にカッツェが斬りつけたオークを狙って攻撃する。オークたちは女子高生パラダイスに奇襲をかけたつもりが、いつの間にかケルベロスに包囲されていた。きゃあぁ、と自らの腕に絡んでくる触手に怯えたふりをしていたももだったが、そろそろいいか、と本性を表す。
「汚いもん擦り付けんなよ」
 心底嫌そうに触手をグシャッと握りつぶし、そのまま攻撃に移る。
『ブキャァア! お、お前ら!』
「パパッと倒して、みんなでケーキ食べるんだ!」
「じ、じっとしろ、オークども……」
 クラッシャーとして頑張りたいけど、オークの前に飛び出す恥ずかしさからか、フィオがか細い声を出すと、途端にオークどもが調子に乗った。
『ブキャアア? 震えてんのかいお嬢ちゃんん?』
『ピンクのブラが透けてるぜ、ブヒャヒャ!』
 恥ずかしいけど、そんなこと言ってられない……と、フィオが腹を括って戦闘に突入する。緑の瞳が深紅に染まり、一瞬で肉食の獣のような空気へと変貌した。
「喰い千切る……!」
『ブギャー!』
 ケルベロスの攻撃は前衛の1体に向けて集中して行なわれたが、まだ倒れなかった。どうやら、前衛の3体は3体とも、防御に特化しているらしい。後衛に回された2体は、若干不服そうだ。
 耐久性を重視し、殴られようが蹴られようがより近くで、より長い時間、触手でなんやかんやしていたい! 
 そんなオーク心の表れの布陣である。
「死ね!」
 思わず叫んでしまったカッツェに、前衛から魔の触手が絡みつく!
『生きる!』
「うわ、汚い!」
 とっさに鎌の柄で身を守るが、触手はうねうねと半袖の袖口を狙っていた。
『二の腕……たまんねぇなあ』
「俺には全然わからん」
 ものすごく真顔で言わずにはいられない地外。
 残る2体は一斉にフィオを狙う。けがらわしい触手が右から左から伸びて、フィオを締め付ける!
「くっ……、負ける、もんかっ」
 屈辱的な攻撃に、歯を食いしばって耐える。興奮したらしい後衛からも触手が伸び、真紀とウズメに襲いかかった。
『ブラが透けてんぜぇ!』
『ブキィ! セーラー服、破れ破れ!』
「くそったれども!」
 真紀が嫌悪感も露わに叫ぶ。
「こいつら! 離しなさい!」
 ウズメがセーラー服のスカートを翻し、熾炎業炎砲でオークを焼きにかかる。対象は自分に襲い掛かるオークではなく、前衛の3体だった。
「チャーシューにしてあげる!」
 絡んでくる触手を全員が振りほどき、一旦距離を取ったところから、ユルとトウキが正確な狙いで攻撃を叩き込んでいく。勿論、威力が分散しないように1体ずつ狙う。
「残念だねー。ここから先は通行止めだよ!」
 カッツェの強烈な攻撃がまともに入る! 追い討ちをかけるように地外のミサイルが前衛をエンジョイしているオークどもを押し包んだ。おむちーはその周辺を飛び回り、けがらわしい敵の体液を浄化していく。
「オーライ、踊るぜ」
 真紀がそう叫ぶと、軽やかなステップからヘッドスピンムーブへ体勢を変化させた。
「オレのダンス、見てけよ!」
 ぐっと腹筋で体を持ち上げ、弾みをつけて繰り出される蹴りの乱舞が、オークを変形させていく。その隙に、ももがフィオをルナティックヒールで癒す。
「フィオさん、平気?」
「う、うん……ちょっとべとべとして気持ち悪いくらい。もう行けるよ、ありがと」
 と、飛び出したフィオの、お返しとばかりの大器晩成撃が、オークの顎を粉砕した!
『ブッギャァアアア!』
『お、おのれーセーラー服!』
 更にお返しだと伸ばされた触手の前に、地外が割って入った。
『プギャー! 男ーペッペッ!』
「うるせー、俺だって好きでてめーらに触られてんじゃねえ!」
 このタイミングで後衛が攻撃を入れてくることを、ユルは読んでいた。
「バレバレなんだよね、ボクそんなにいい香りするかな?」
 ユルが、ふふっと微笑んで飛んできた溶解液を余裕でかわす。同じく後衛から敵を狙っていたトウキも攻撃をよけ、長いスカートを揺らして着地した。
「っと、きたないなー。本当に! さっさとやっつけちゃって、スイーツ三昧しよー!」
 激しい動きで三つ編みが解け、トウキの黒い長髪が風になびいた。ユルがコアブラスターで地外を撫で回している触手を攻撃し、すかさずナイフを振りかざしたトウキがそこへ飛び込んだ。
 カッツェが戦いの高揚感に身を任せ、竜爪撃を叩き込み、確かな手応えに薄く微笑む。
「オラ、触手ごと止まってな!」
 地外が超加速突撃で敵の隊列を乱したところに、真紀の御霊殲滅砲が炸裂した。
 オルトロスのスサノオは戦場をぐるぐると取り囲むように動き、さながら羊の群れを逃がさない牧羊犬のようだった……牧オーク犬? じわじわと敵の体力が削れているのを見て取ったももが、攻撃に加勢した。
「丸焼きになれっ!」
『ブキャー!』
 あとは、時間の問題だった。バッドステータス漬けになったオークたちの触手のうねうねは正確さを欠き、逆にケルベロスたちの集中力は上がっていく。
「我が魔力、深森に遊ぶ夢幻泡影の、小さき妖精に捧げ、其の妖翼の後光で、愚者を惑わさん!」
 ユルの呼び出した森緑の小妖精のエネルギー体に包まれ1体が落ちる。
「ほら、もう一発これをあげるよ」
 とトウキが残る前衛の1体に気咬弾を、カッツェが降魔真拳をたて続けに食らわせると、地外もそこに破鎧衝を添えた。
「もうちょいだな、カッ捌いてやんよ!」
 真紀がナイフを構えてそう言えば、ももも頷いて身構える。
 あとは、押し切るだけである。
「あなたはフリーズドライね」
 ヒーラーから攻撃手へと柔軟に姿勢を変えるウズメの時空凍結弾が3体目の前衛を落としてしまうと、あとは楽だった。
『ブヒィ……!』
 進退窮まったオークたちは、それでも最後まで触手を伸ばし、触ろうとした。
 乙女たちの、清らかで柔らかな二の腕を……。
「せめて死ぬ時位は良い声で鳴いて消えろ!」
 ラストはカッツェのハンティングナイトフェストと、もものグラインドファイア。
 夏のオークの野望は、こうして儚く散ったのであった。


「ちょ、ちょっとひどいことになっちゃったかな……?」
 と、一部解かされてしまった自分の制服を見てフィオがしょげる。だが、ちゃんと着替えを用意していたももから、羽織るものを借りて事なきを得る。
「汚いなぁ……豚と戦うとこれが嫌」
 と、カッツェも汚れてしまった愛鎌を振って憂鬱な顔をしていたが。
「お待たせしました。今日はお客様たちを助けて頂いて、本当にありがとうございます」
 お店の人がケルベロスたちへのお礼にと設置してくれたテーブル。その上を埋め尽くすのは、定番のストロベリータルト、アップルタウト、チェリーパイ、バナナクラフティ……もちろん、季節限定フルーツタルトまで。みんな一気に表情が明るくなった。
「心行くまでスイーツを堪能しちゃうよー! やったー!」
 食欲魔人のトウキは大はしゃぎだ。
「運動した後だから、一層美味しく感じます!」
 と、さっそくウズメもフルーツタルトに舌鼓を打つ。
「これ、あと一台買って帰ろうー!!」
「私もあと、この手前のベリーのと、レモンかな? あ、奥のモンブランパイもください!」
 お土産も、忘れない。店員さんがその健康的な食欲に、思わず笑顔になった。
「うーん、それにしても、本格的な夏になる前に暑苦しいオーク達は何とかしておきたいよね」
 チェリータルトを一皿確保して、ユルが言った。
「夏かぁー、水着の季節だもんなぁ」
 と真紀も相槌を打つ。水着の季節、オークが必ずはしゃぐ季節である。
 だが今はそれより。
「こっちのも美味しいー」
「そいや、水着どうする?」
 今度は囮でなく、皆でおしゃべりとケーキを楽しむ時間である。
「ひいふうみい……あれ?」
 何気なく皿の数を数えたももが、一枚余っていることに気づく。
「地外さんは?」
「そういや、いないね」
 その頃、店の外で。
「夏……かき氷……海、水辺、か」
 唯一、スイーツのテーブルに加わらなかった男・地外が店の外でクワッと目を見開く。彼の特盛りセンサーは既に夏の海辺に向かっているのであった。

作者:林雪 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
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