山陰地方の山奥。
人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
真剣な面持ちで手元の携帯端末に目を落としていたニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)は、ケルベロス達がやってきたのに気づくとその顔に悪戯っぽい笑みを浮かべ、端末をしまい、小さく礼をした。
「フフっ、お待ちしていましたよ皆さん」
普段から笑みを浮かべていることの多い彼女であるが、今日のそれには一切の影が見て取れず、一目見て楽しそうな様子が伝わってくる。
「先日の黄金装甲のローカスト事件、担当したケルベロスさん達のおかげで嬉しい誤算がありましてね。彼らは黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことに成功しました。おかげで多少なりともローカストの内情も見えてきましてね」
アルミニウム生命体はオウガメタルという種族であり、自分達を武器として使ってくれる使い手を求めているということ。それを利用しオウガメタルを支配していたローカストはグラビティ・チェインの枯渇により、オウガメタルを使い潰す運用をしていること、そういった内容のことを話つつニアはさらに続ける。
「特に、黄金装甲化はオウガメタルを絶滅させる可能性があるほど酷使するなんとも度し難い行動らしく、彼等オウガメタルは、ケルベロスに助けを求めてきました」
一度言葉を切り、咳払いをひとつ。
「そしてつい先ほど、オウガメタルと絆で結ばれたケルベロス達が彼らの窮地を感知しました。彼等はケルベロスに助けを求めるため、ローカストの本星からゲートを使用して脱出し地球へたどり着くことには成功しましたが、当然ゲートの周辺は敵にとっての重要拠点です、このままではその場に控えているローカストの軍勢に彼等は殲滅されてしまうでしょう。そこで皆さんの出番、というわけですよ」
ニアの説明によれば、オウガメタル達がローカストに追われているのは山陰地方の山奥であるとのことだ。
「ヘりオライダーが総力をあげ皆さんを現地へとお届けしますので、皆さんはオウガメタルの救助とローカストの殲滅をお願いします。今作戦は対ローカストとの戦闘について非常に重要な意味を持ちます。オウガメタルをこちらへと迎えるだけでなく、敵のゲートも特定できるかもしれません。当然、相手もそれを承知していますから、厳しい戦いになるのは間違いないでしょう」
そこまで言うとニアは再び端末を取り出すと、データをケルベロス達に送信しつつ、敵の戦力についての詳しい解説を始める。
「敵は兵隊アリをリーダーとし、配下に数匹の働きアリをつけ、群れをなしてオウガメタルを探索し彼らの殲滅を狙っています。こちらが現地に到着するのは夜半過ぎ、敵から逃走しているオウガメタルは銀色の光を救難信号代わりにこちらへと送ってくるので見つけること字体は難しくないでしょう。
彼らを確認したら皆さんはヘリオンから直接降下、タイムラグがあるのですぐ近くに着地、というわけにはいかないですが合流自体はさほど問題ないでしょう。
問題となるとすればやはり、敵の戦闘力と、このシチュエーション、でしょうか。もとより兵隊アリのローカストの戦闘力は高いのい加え、ゲート付近ということで彼らにとっては背水の陣です、逃げ出すようなことはまずありません、全力でこちらを潰しにかかってくるでしょう」
そこまで話して一度小さく息を吐くと、ニアは喉の調子を確認するようにかるく抑える。
「ただ、付け入る隙があるとすれば働きアリのほうでしょうか。戦闘が主役割でないため、兵隊アリが倒れ状況を不利と見て取れば逃げだす可能性があります。といってもこちらの働きありでもケルベロス数人分の戦闘力を持つ厄介な敵なんですがね」
そう言いながらもニアは笑みを崩すことなく、ケルベロ達に真っ直ぐな信頼の視線を向ける。
「互いに総力を挙げた激しい戦いになることは間違いありませんが、この降って湧いた好機、見逃す手はありませんよね? 皆さんの戦果を期待していますよ」
参加者 | |
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朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081) |
東名阪・綿菓子(怨憎会苦・e00417) |
燈・シズネ(咎猫・e01386) |
ツヴァイ・バーデ(アンデッドライン・e01661) |
塚原・宗近(地獄の重撃・e02426) |
シア・ベクルクス(秘すれば花・e10131) |
藍染・夜(蒼風聲・e20064) |
アウレリア・ドレヴァンツ(白夜・e26848) |
●
暗い夜の森に降り立つ八の人影。
人の手の入っていない暗い森の奥底、彼等は軽く方角と時刻の確認だけを済ませると、皆同じ方向へと視線を向ける。
ヘリオンからの降下時森の中に見て取れた明滅する光、オウガメタルの救難信号が発せられてい方角だ。
「さあ、救いを求める方の所まで導いて下さい」
先頭に立ち、生い茂る木々や草に向けてシア・ベクルクス(秘すれば花・e10131)が語りかけると木々は左右に開け小さな道を作り上げる。
「行きましょう。ついて来て下さいな」
シアの言葉に仲間達は頷き、夜の森を静かに駆けていく。しばらくの間無言で進むのにじれたのか、東名阪・綿菓子(怨憎会苦・e00417)が口を開く。
「方角はこちらで間違いないのね?」
「間違いないはずだね。ただ、彼等も逃走中だし多少のずれは計算にいれるべきだろう」
淡々と、しかし不遜な態度でいう綿菓子に対し、塚原・宗近(地獄の重撃・e02426)は冷静に言葉を返しながら、上空から見えた光景を脳裏に思い返し、間違いがないことを確認する。
「それほど移動してくれていないと助かるんだがな」
しばらく進んだ後、燈・シズネ(咎猫・e01386)の言葉と共にケルベロス達は足を止める。目標地点にオウガメタルの姿はなく、動くものの気配も感じられない。
「敵さんのほうもまだ目標までは到達できてないみたいっすね」
周囲の草花には何かが這うように移動した形跡こそ見られるものの、それ以外に移動の痕跡は見られないことから、ツヴァイ・バーデ(アンデッドライン・e01661)はそう分析しオウガメタルの消えていったであろう暗い森の先を見つめる。
「ただ、敵もこの痕跡を追ってきている可能性は高い。急いだほうがいいだろう」
藍染・夜(蒼風聲・e20064)の呟きと共に、再びケルベロス達は森の中を駆ける。程なくして、入り組む木々に阻まれる視界の先、明滅を繰り返す光を彼等は見つける。
「あれで間違いなさそうだね」
「近くにいてくれて助かりましたね」
朽葉・斑鳩(太陽に拒されし翼・e00081)とアウレリア・ドレヴァンツ(白夜・e26848)は相槌をうちながら、最悪の事態を避けられた事にホッとしながら一歩踏み出す。
すると、物音にその先にいる何かが驚いたような反応を示した。
「ケルベロスです! 皆さんを救出しに来ました」
引き止めるように、あわててシアが声をかけると、それは警戒するようにゆっくりとその姿を現した。
彼等は言葉を解さぬのか、シアの言葉に姿を現したものの警戒の態勢は解かず怯えたような様子を見せている。
そんなオウガメタルに斑鳩はジェスチャーを用い、彼等の警戒を解き、助けに来たということを何とか伝えるものの、この入り組んだ森の中、逃走の経路までは言葉無しでは伝えることはできそうもなかった。
「これはすこしやっかいかしらね」
「敵より先に接触できただけよしとしようか」
オウガメタルの反応に綿菓子と夜は話しつつ、互いに何かに気づいたように会話を止める。
「どうやら、敵さんのお出ましみたいだな」
「みたいっすね。それじゃ手筈通り頼むっすよ」
何かが近づいてく物音に気づいたケルベロス達はすぐさま事前の打ち合わせの通り二手に分かれる。
その去り際、怯えるように震えるオウガメタルの様子に気づいたはアウレリアは優しくオウガメタルに声をかける。
「大丈夫、わたし達が守るから、目立たないようじっとしていて」
その優しい声音に心許すかのように、オウガメタルは震えを止め、その場に残る宗近とシズネの後ろに隠れるように身を潜めた。
音は次第に大きく近くなり、高速でこちらに向かっていることが手に取る様にわかる。二人が武器を構え、互いに視線を交わしたその瞬間。
目の前の木々が半ばから切断され大きく視界が開けた。
●
「ようやく見つけたと思えば余計なオマケがいるようだな」
木々を切り倒した先頭に立つそのローカストは、二人を見るなりそう吐き捨てた。
鈍色の甲冑に身を包み二足で立つその姿は人とそれ程違わないようにめる。対して後ろに控える二体のローカストはまさに二足歩行する蟻といった出で立ちで明らかな差異が見て取れた。
「大人しくそれを引き渡してこの場から速やかに逃げることをお勧めしよう、でなければ、この森の養分になってもらうことになるぞ」
「そんな口きいてくれるってことはさぞ強いんだろうな? 楽しませてくれそうだ」
「こちらも引き下がれないんでね」
「警告はしたぞ、後悔するな」
二人の意思を再度確認するように言葉を発し、兵隊蟻のローカストは動く。見た目こそ甲冑に身を包む人と変わらないそれの動きは、ケルベロス達をも超越した人外の動きを見せる。
馬上槍のように変化した敵の腕を宗近が咄嗟に防御できたのは運がよかったとしかいいようがなかった。その姿からは想像もできない意表をつくその速度。
立て続けに二撃、三撃。踏み込みすらない手打ちでの連撃でさえ鋭く重く、逸らしきれない穂先が宗近の二の腕や、脚に決して浅くはない傷を刻んでいく。
その猛攻を阻むべく、シズネが横合いから奇襲気味に放った蹴りをローカストは左腕であっさりと受け止める。
「この程度か。手出しはいらぬぞ、貴殿らに怪我をされてはこの後の修復もままならん」
働き蟻に声をかけながら、兵隊蟻のローカストはシズネの体を突き飛ばし、槍を鎌へと変化させ、そのまま切りかかる。
刃がシズネの肩に沈み、胸元まで赤い線を引く。致命傷を避けることはできたものの、受けた傷は大きく、目を見開く彼の体からは普段は隠している獣の耳と尾が覗いている。
ふらつきながらも追撃を避けようと距離をとろうとするシズネに、ローカストは追撃を加えるべく、さらに踏み込む。
止めとばかり放たれた突きこむ槍の一撃を、咄嗟に割り言った宗近が剣の腹で受ける。両の足で地をしっかりと踏みしめ、敵をはじき返し、反撃の一閃。
自身の身長よりも巨大なその鋼鉄の武器を、精確に甲冑の隙間を狙い振るう宗近のその腕をローカストは認めつつも、身をよじり、甲冑の腹でその一撃を受けることで、ダメージを軽減する。
「二人でなければ分からなかったものを……運が悪かったな」
哀れむような言葉と共に、ローカストは再び腕を鎌へと変え、宗近の首元に狙いを定めた。
●
「出番だぜ、おめぇら!」
暗い森の中、シズネの叫びが木霊すると同時、身に着けたライトから光が立ち上る。
それは事前に決められた仲間たちへの合図。
働き蟻と距離を取り奇襲をより確実なものとする絶好のタイミング。
先陣を切った夜は樹上から幹を蹴り、速度を乗せた蹴り見舞う。兵隊蟻のローカストはそれを篭手へと引き戻した甲冑で受け止めた。
それを見て、夜は小さく笑みを浮かべる。
互いの触れた地点を中心に、重力場が展開され、ローカストの体を地に縫いとめ、その体を容赦なく斑鳩が蹴りつける。
炎を纏う回し蹴りはローカストの腹部をとらえ、衝撃にローカストが後ずさる。
さらに攻撃を繰り出そうと前に出たツヴァイに対しローカストが吼える。
「この程度でこのカターリアを落とせるなど、易く見られたものだな!」
重力の網を振り切るようにカターリアと名乗ったローカストはツヴァイに対して槍を突き出す。
胸元を狙ったその穂先はしかしツヴァイの体には届かない。
「させませんわ」
シアの操る漆黒の鎖が地に展開され、浮かび上がる魔方陣が槍の一撃を阻んでいた。
「易くなど見ていたら、このような策を弄する必要などないわ」
綿菓子の掌から放たれた光弾が周囲の地警護とカターリアの体を飲み込む。
防御と同時、光に目を焼かれたカターリアの頭部に、ツヴァイの放った蹴りが突き刺さり、衝撃にカターリアの体が吹き飛ばされる。
「敵を知り己を知ればってやつっすよ」
にやりと笑みを浮かべるツヴァイに視線を向けながらカターリアはゆっくりと立ち上がる。
その合間にアウレリアが特に傷の酷いシズネの治療に取り掛かろうとする。
瞬間、歪な音が静かな森に響き渡る。
それは働き蟻のローカスト達が放つ、破壊の音波。
咄嗟に宗近がその身を盾にアウレリアを守りに入るが、彼自身も囮役として浅くはない傷を受けており、そう長くは持たないことは一目にわかる。
「今です、カターリア様!」
働き蟻のローカストの言葉に、カターリアは驚きつつも構えを取り直す。
「偉そうな事をいって手を借りることになるとはな……かたじけない」
「働き蟻の俺達じゃ上手い連携はできませんが」
「無理はしてくれるなよ……!」
仲間の頷くのを確認し、カターリアは再び仕掛ける。
●
「ここからは総力戦か、ヨルに背中を預けるよ」
「なら胸を貸そうか」
向かい来るカターリアを前に斑鳩と夜は軽口を叩き合う。
「胸なら女の子の方がいいなぁ……」
「俺もだ」
言葉とは裏腹に表情を引き締めた二人は、視線を合わせることもなく踏み出していく。
宗近とシズネ、守りの要である二人の回復が終わる前に仕掛けるべく距離を詰めようとするカターリアの出鼻を挫くように、斑鳩は弾幕を展開。対して、カターリアは槍でその銃弾を防ぎつつ間合いを詰める。
繰り出された刃の一閃を、間一髪で回避した斑鳩に対し、カターリアは追撃をせずあえて退いた。
「上だ斑鳩」
夜の言葉に斑鳩が視線を上げると、高く跳躍した働き蟻の姿が視界に映る。すんでのところで攻撃をやり過ご、斑鳩が一歩下がると押し上げた前線の分カターリアが再度踏み込み、圧力をかける。
互いに予断を許さない戦いに神経をすり減らしながら、ローカストとケルベロスの戦いは暗い森の中、剣戟の音を響かせ続ける。
シズネと宗近の治療の間、前を張ったツヴァイと斑鳩、両名の損傷も激しかったが、陣形を立て直したケルベロス側は、シアとアウレリア二人の手厚い回復支援を受け、傷だらけになりながらも戦いを続けている。
対してローカスト側はカターリアが八名のケルベロスを相手に遜色のない戦いを繰り広げてはいたが、働き蟻のローカスト達の練度が足りないせいか、その動きはどこかぎこちない。
八人で一丸となり戦うケルベロス達との差は徐々に広がっていき、戦況はケルベロスの有利へと傾いていく。
「負けるわけにはいかんのだ、守るべき同胞達の為にも!」
気合と共にカターリアの斬撃が綿菓子へと襲い掛かる。
この戦闘の中幾度となくその技を見てきた宗近は綿菓子に向かう凶刃をはじき返し、剣の切っ先をカターリアへと向ける。
「今回の件は君達の自業自得だろう?」
「責任があるからこそ私は戦うのだ。例え我々の過ちだったとして、それが滅びを受け入れる理由になどはならん」
カターリアには最初から撤退などという選択肢はない。自らの負けは確実に種の絶滅へと繋がる、故に最初から勝つまで戦うという選択し以外は用意されてなどいないのだ。
「お互いこんなところではしくじれない。――本当に心の底から守りたいものを失わない為にも」
こんな所で立ち止まってなどいられない。そう口にすることなく、ただ綿菓子は言葉のままにそれを実行するだけだ。
戦いに高揚した頬を赤く染め、綿菓子は敵の戦列へと単身切り込んでいく。
「夢幻泡影!」
迎撃に動く働き蟻たちの攻撃を掻い潜り、いなし、すれ違いざまに一閃。戦場をくるくると回る独楽のように、体を回す勢いに乗せ武器を振り、流れるように敵の戦列を綿菓子が蹂躙する。
綿菓子の渾身のかく乱により敵の戦列が乱れ、敵の動きが鈍ったのを確認し、夜の声が響く。
「三閃で魅せようか……行くよ」
「あん? 連携ってんならそっちが合わせろっすよ、俺は足並み揃えんのが苦手でね!」
「足並み揃えるどころか、おめぇら蹴り飛ばしちまったらすまんなあ」
ツヴァイとシズネは鼻で笑うように軽く返しながらも、彼等の動きに乱れはない。互いの動きを見るまでもなく、やるべきことは皆体が覚えている。
獣の様に身を低く屈め、シズネがカターリアへと襲い掛かる。
低い姿勢から獣の様に飛び掛り袈裟を切り裂く魂を喰らう斬撃に、カターリアの体がよろめく。
体制を立て直されるよりも早く、鋭く、夜の抜き放った刃が闇の中煌き、尾を引く流星の如き速さで振りぬかれる。
強烈な連撃に、何とか踏みとどまったカターリアの目に映るのは、白炎を纏った剣を振り上げる、ツヴァイの姿。
閉じ行く巨大な口を思わせる、大上段から降り下ろされる必殺の一撃。カターリアは咄嗟に槍と化した右腕を掲げその一撃を受け止める。
激しい音と共に、カターリアの槍、右腕が粉々に砕け散る。大きな代償ではあったが、カターリアはなんとか、三人の連撃を凌ぎきった。
「凌いだぞケルベロス!」
カターリアの歓喜の咆哮が木々を振るわせる。左腕を刃へと変えカターリアは武器を振り切ったツヴァイへと狙いを定める。
右腕を失った代償は大きいものの、連携を主としたケルベロス達から一人落とせるのなら勝機は十二分にあがるとカターリアは踏んでいた。
勝てる、そう強く思ったカターリアの視界から、ツヴァイの姿掻き消える。
ぶっきらぼうに投げかけた言葉とは裏腹に、シズネはツヴァイの体を蹴り飛ばすこともなく、その体を盾にして、その背にカターリアの刃を受ける。
シズネの体が地に沈みいくより早く、シアとアウレリアはヒールを試みるが、状態は悪く、二人は顔を青くする。
だが、シズネの体に刃をとられたカターリアもまた大きな隙を晒していた。
「冥府へと導くもの、闇の眠りに誘え」
斑鳩の手にした杖から翼を持つ蛇が現れ、満足に動けないカターリアの体へと巻き付き、締め上げる。両の腕を拘束され、身動きのできないその状況では、もはやカターリアにできることはない。
「同胞よ! 退け! 微かでもいい、希望をつなぐのだ!」
蛇の大きく開かれた口がカターリアの上半身を飲み込むのを見届けた働き蟻達はその凄惨な最後を目に焼き付けて、踵を返し、森の中へと消えていく。
張り詰めた緊張の糸が切れ、ケルベロス達は一様に安堵のため息を吐く。
「落ち着いてもいらないけれど、ね」
「ええ、シズネ様の治療、応急的なものだけでは足りませんわ」
アウレリアとシアの二人がシズネの傷を癒しつつ、彼を安静に運べるよう、仲間達に助けを求める。
意識の戻ったシズネは傷の痛みに顔を顰めながらも、大げさだな、と嘆息するものの、仲間達にされるがままにヘリオンへと運ばれていく。
オウガメタルと共に慌しく乗り込んだケルベロス達を乗せ、ヘリオンは急ぎ飛び立つ。
もはや再び訪れることも難しいであろう山中の手がかりもない戦場を見つめながら、激しい戦いの中散っていった敵の姿を思い出し、ケルベロス達はその地を離れる。
近く訪れるかもしれない、大きな戦いに思いを寄せながら。
作者:雨乃香 |
重傷:燈・シズネ(耿々・e01386) 塚原・宗近(地獄の重撃・e02426) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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