オウガメタル救出~銀のシグナルが呼んでいる

作者:そらばる

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。

●絆を結んだ友を助けよ
「こたびは、アルミニウム生命体『オウガメタル』救助作戦にございます」
 戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)が経緯を語る。
 黄金装甲のローカスト事件はケルベロス達の手によって無事解決。その際、黄金装甲として利用されていたアルミニウム生命体と、絆を結ぶ結果となった。
 この一件により、以下の事項が判明している。
「第一に、アルミニウム生命体は『オウガメタル』という種族であり、自分達を武器として使ってくれる存在を求めている事。
 第二に、現在オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルを使い潰すが如き境遇を強いている事。
 殊に、黄金装甲化は、オウガメタルを絶滅させる危険性すら孕む残虐な行為である事。
 このような苦境から救い出して欲しい――それが、ケルベロスに対する、オウガメタルの願いでございました」
 そして今、オウガメタルと絆を結んだケルベロス達が、友人達の窮地を感じ取った。
「オウガメタル達は、ケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星からゲートを通じて脱出、地球に逃れてきたようでございます。
 しかしゲートは最重要拠点。当然、そこに控えしローカストの軍勢によって、オウガメタル達は遠からず、一体残らず殲滅し尽くされてしまう事でしょう。
 場所は山陰地方の人里離れた山奥。皆様には我がヘリオンにて現場に直行して頂き、オウガメタルの救助とローカストの撃破をお願いしたく存じます」
 この作戦に成功すれば、オウガメタルを仲間に迎える事はもちろん、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置を確定する事にも繋がる可能性がある。
 それが故に、ローカスト達の攻撃も熾烈を極めることであろう。
「厳しい戦いが予想されますが、皆様、是非とも宜しくお願い申し上げます」

 ローカスト達は、兵隊蟻ローカスト1体に働き蟻ローカスト3体という編成で、山中の広範囲を探索、逃走するオウガメタルの殲滅を遂行しているようだ。
 ヘリオンが現地に到着するのは夜半過ぎとなる。逃走するオウガメタルは発光信号のように銀色の光を発するため、降下の目印となるだろう。
「現実には、残念ながら誤差が生じますゆえ、すぐ傍らに降下、というわけには参りませぬが、百メートル以内の距離にはつけられると思われます。合流は十分可能でございましょう」
 追っ手の兵隊蟻ローカストは戦闘力がかなり高い。ゲートを守るという役割のためか、どんなに不利な状態に陥っても、決して逃げ出す事は無いだろう。
 働き蟻ローカストは、戦闘は本職ではないが、それでもケルベロス数体分の戦闘力を有している。ただし、兵隊蟻ローカストが撃破され、状況が不利だと判断すれば、逃げ出す可能性があるようだ。
「思わぬ急展開ではございますが、ケルベロスを頼るオウガメタル達をむざむざ見殺しには出来ませぬ。彼等と絆を結んだケルベロス達の為にも、なんとか、救出をお願い致します」


参加者
ヴァンアーブル・ノクト(熾天の語り手・e02684)
矢野・優弥(闇を焼き尽くす昼行燈・e03116)
ルイン・カオスドロップ(向こう側の鹵獲術士・e05195)
植原・八千代(淫魔拳士・e05846)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
夜識・久音(ホーリープレイ・e20233)
ヨミ・カラマーゾフ(桜流し・e24685)
唯織・雅(告死天使・e25132)

■リプレイ

●特急ランデブー
 夜陰に沈む一面の山林を見下ろし、幾枚もの翼が広げられた。
 肌寒さすら感じる風が、夜と森の匂いを運んでくる。翼を持つ三人は、ぐるりを見渡し、全方位に気を払って目を凝らした。
「……いた。五時の方向。斜面を、下ってる」
 光の翼で滞空するヨミ・カラマーゾフ(桜流し・e24685)の指さす先、青黒い山肌に銀色の光がぼんやりと染み出すように発光した。力強くも、優しい光。ケルベロスへのSOS信号だ。
 目視でそれを確かめ、六枚羽を豪奢に広げるヴァンアーブル・ノクト(熾天の語り手・e02684)は、手早く携帯を仲間に繋いだ。
「アーニャさん? オウガメタルの信号を見つけたよ。これから急行するから、そちらも移動を始めてくれ」
『了解です、ヴァンアーブルさん! 方角と距離、誘導をお願いします!』
 電波の向こうから、準備万端の地上組の様子が伝わってくる。
「それでは、オウガメタル達を助けに行こうか」
 穏やかに促すヴァンアーブル、小さく頷くヨミ。二人の視線を受け、唯織・雅(告死天使・e25132)は、心得て頷き返した。
「では、私が。先導……いたします」
 口調はたどたどしくも、態度は淡々と穏やか。銀の光を目指して翻した光の翼は、上下色違いの四枚羽。防具からは、一度地上にマーキングしたアリアドネの糸が、赤く細い目印を引いて伸びている。
 所変わって、山中で待機するのは、翼持たぬ者達。
 暗く木々生い茂る視界にも、アリアドネの糸はくっきりと見分ける事ができた。たとえ一時視界を遮られても、アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)のアイズフォンが、飛行組からの情報を随時受け取り、隠された森の小路と暗視ゴーグル、ランプを駆使した的確な誘導で、皆を導いていく。
「いやぁ、楽しみっす! アルミニウム生命体、保護できれば、色々楽しくなるっすね!」
 同じく暗視ゴーグルを装備するルイン・カオスドロップ(向こう側の鹵獲術士・e05195)はウッキウキである。今回の件が成功すれば、ゲートの位置が分かる公算が大きいのだ。そうなればローカスト共の悲愴と絶望が宇宙に響き渡り……。
(「きっと我が主、偉大なる這い寄る混沌もお喜びっすよ!」)
 ……という本音は、仲間の顰蹙を買いたくないので、伏せておく。
 反して、
「自身を武器として使ってほしい種族……ある種、インテリジェンスウェポンってやつだね。確かに興味深い存在ではあるな」
 ルインの発言の本意に気付かず、単純に新たな種族との接触に心躍らせる矢野・優弥(闇を焼き尽くす昼行燈・e03116)の期待は、実に健全というべきものであった。
「いました……! あそこ!」
 開けた場所で双眼鏡を覗き込んで、夜識・久音(ホーリープレイ・e20233)が声を上げた。丸く区切られた視界に、山中に輝く銀の光。上空に視界をずらすと、地上組を待って上空で待機する飛行組の姿も目視できる。もはや幾許も距離はない。
 沢を越え、木々を退け、斜面をひた走り……ケルベロス達は速やかに目標地点に到着した。素早い地上組の合流に、飛行組は着陸態勢に入りながら少し驚く。考えうる最短距離を進んだために、飛行組に大きな遅れは取らずに済んだようだ。
 山林を逃げ延びながら、ぽっかりと木々のない閑地に飛び出してしまったオウガメタルの眼前に、ケルベロス達は躍り出た。素早い合流が功を奏したようで、追っ手の気配は、今のところ感じられない。
 流体状のアルミニウムの塊……あるいは金属製のスライムとでも言おうか。目の前にあるのは一塊だが、細かに分裂もしそうな形状だ。
 銀色の流体は、警戒らしき意志を覗かせている。
 まっ先に進み出、呼びかけたのは、植原・八千代(淫魔拳士・e05846)。
「私達はケルベロス、あなた達を保護しに来たわ。大丈夫、状況はちゃんとわかってるから」
 流体生物は小さく反応を見せた。会話は成立しないようだが、信頼めいたものは伝わってくる。こちらの意志が伝わったのだろう。
 見た目からは傷ついているのかどうかは判別がつかない。しかし念のため、一応の信頼を勝ち得たと見たアーニャが、ヒールを施してやった。
「かわいそうな、オウガメタル。今までよく頑張った、ね。今は、隠れていて」
 ヨミのさらなる呼びかけに、返ってくるのはやはり心得たとばかりの意志だけ。金属スライムは、閑地を縦断する形でケルベロス達の脇をすり抜け、茂みの奥へと飛び込んでいった。

●アリア騎士『ギルギリラ』
「そちらはどうだ!?」
「東方、痕跡ありません!」
「西方、同じく!」
「……南南東、気配があります! 痕跡を探します!」
 ローカスト達の追跡は、犯罪者を追い立てる意味での山狩りに似て、誰に憚ることなく露骨かつ効率的だった。山は彼等の庭であり、オウガメタルは、装備者なくしては弱者に分類される。オウガメタルが全力で逃げ延びようとした所で、ローカストの知覚と移動力をもってすれば、追いつくのは結局時間の問題だった。
 四匹のローカストが閑地に至ったのは、間もなくの事。兵隊蟻自ら進み出、下生えの草木の傾きや土のえぐれ具合などの痕跡を確かめようと、腰を落とした、瞬間――、
「――何!?」
 唐突に放り込まれた二つの光源に、ローカスト達は怯んだ。続けざま、兵隊蟻は激しい雷撃に打ち据えられ、醜い絶叫を迸らせた。
「さっそくイイ声、聞かせてくれるっすねぇ」
 戦場にブルーファイアランプと強盗提灯を投げ込んだ上でライトニングボルトを見舞ったルインは、すでに不要と判断した暗視ゴーグルを持ち上げながら、にやにや嗤った。
 十分な明かりに照らし出された閑地で、もはや敵を見失うことはないだろう。ケルベロス達の攻撃は、有無を言わさず兵隊蟻に集中する。
「オウガメタルさんは……私達が、保護します。理由に、心当たり。ある方は……お退き頂けると。有り難い、です」
 雅は早々と撤退勧告を訴えつつ、演算から導き出された兵隊蟻の構造弱点をライフルで撃ち抜く。優弥の召喚した八大龍王が、ヨミの稲妻突きとウィングキャットのアーニャの尻尾のリングが、次々に決まる。久音の催眠魔眼のみ、働き蟻達に布石を打っていく。
 事実上奇襲となった第一撃は、覿面の効果をローカスト達に及ぼしたようだった。蟻達にとっては、ケルベロス達がどこからともなく降って湧いたように思えた事だろう。
「仲間もオウガメタル達も死なせません……みんなは私が守ってみせる!」
 後方に構えるアーニャのヒールドローンを初め、ヴァンアーブルと八千代も、物陰から姿を現し、次手以降を見越して自身の強化に努める。
 ケルベロス達はオウガメタルの移動跡の先を背にする形で、陣を展開した。
 その様子に、兵隊蟻は不意の攻勢に傾いた体勢をぎこちなく立て直しながら、怒り心頭といった様子で歯ぎしりめいた威嚇音を立てた。昆虫であるところの蟻の面影は、頭部に感じられるのみ。人に酷似したその姿は、黒い鎧を纏い三角錐型の槍を構えた、騎士そのものだ。
「ケルベロスか……! ――皆の者ォ! こやつ等をオウガメタル殲滅の障害と認め、排除を優先するものである。――アリア騎士ギルギリラ、参る!」
 判断は早かった。言うが早いか、ギルギリラと名乗る兵隊蟻が飛び出してくる。
 前衛狙いと見たヨミが攻撃の前に飛び込み、棘からのアルミ注入を甘んじて受けた。刺された腕が鉛のように重く感じるが、痛みは最低限で済んだようだ。とはいえ、その衝撃に、敵の強さを思い知る。
(「……すごく、つよい。けど、私はみんなの、盾」)
 心が折れてしまうかもしれない。けれど、負けたくはない。オウガメタルのためにも。

●統率なき群
 ギルギリラに続き、働き蟻達も次々と攻撃を仕掛けてくる。しかしその攻撃は、種類も標的もてんでバラバラ。戦略性も感じられない。
 ウィングキャットのセクメトを仲間達のフォローに行かせ、働き蟻の蹴りを淡々と防御しながら、雅は冷静に洞察する。
「アリア騎士……狂愛母帝の。名前が、確か……アリア」
「狂愛母帝アリアを守護する騎士というところか。確かに堂に入った振る舞いだ」
 優弥は関心しつつ、あくまで兵隊蟻狙いで流星きらめく飛び蹴りを打ち込んでいく。
「とはいえ、畑違いの労働者駆り出した急造部隊じゃ、統率もろくにできてないみたいだけど、ねぇ!」
 八千代もまた兵隊蟻へと旋刃脚。嬉々として正面からぶつかっていく姿には、戦闘狂の資質が垣間見える。
 働き蟻の攻撃も決して侮れるものではなかったが、兵隊蟻とは比べるべくもない。命中がやや高いのは厄介だが、同時に回避もやや高めで、手を出せば時間を取られるのは必至。戦術としての大将狙いは、十分有効な手だったろう。
 一方で蓄積していくダメージも無視はできないものだったが、治癒を引き受ける者達は優秀だった。
「有象無象がッ、我が羽音に狂うが良いわ!!」
 ギルギリラの破壊音波が前列を襲った。ディフェンダー陣は咄嗟に耳を塞ぎながら、素早く治癒を唱え始めた。
「聴こえますか、祈る声が。闇夜に届け!」
 久音の星の声とボクスドラゴンのコーラスの治癒が、
「願うは此の詩届く者に、月と夜との祝福を……」
 雅の月光のアリアが、アーニャのメディカルレインをサポートして、催眠効果とダメージ、双方を瞬く間に癒していった。
 ギルギリラは歯噛みする。
「ぬう……小賢しい……」
「ギルギリラ様、我々は……」
「貴様等に戦術は期待せん! とにかくあらゆる攻撃を休みなく繰り出せ!」
 高圧的に働き蟻達を叱り飛ばす姿にも、余裕は一切感じられない。オウガメタルをすぐにでも追いたいが、ケルベロスを放置して進むのは無謀、分断したとて頭数なくして追跡が可能や否や、彼我の戦力差はローカスト側が有利……云々と、様々な思考が渦巻いているのだろう。
 ギルギリラは根気強く、しかし重い一撃を絶えず繰り出してくる。時間との闘い、治癒は手薄になる。ローカストのグラビティに他者を癒す術がないがために、徐々に、徐々に、見えてはいけない限界値が、視野に入ってくる……。

●淡く照る銀色
 そして、その瞬間は、あっけなく訪れた。
「ねぇ、何に見える?」
 ヨミの召喚した怪物が、働き蟻達を牽制した。ローカストにもトラウマはあるらしい。何が見えているかはわからないが、蟻達にあからさまな狼狽が広がっている。
「少しでも敵の歯車を狂わせていくのは、無駄ではないはずです……!」
 続けざま、久音の魔力を籠めた凝視が、働き蟻達を催眠の罠にかける。
 目眩らしき仕草によろめいたものが、二体。うち一体は、かくりと頭を前に倒し……あろう事か、その牙をギルギリラに向けたのだ!
「ぐっ!? ――何をする貴様ァ!!」
 開幕から折を見ては積み重ねた、催眠の成果だった。背後から首筋に噛み付かれたギルギリラは、引き剥がすように働き蟻を突き飛ばした。
 致命的な隙を、ケルベロス達は逃さない。
「古に伝わる八柱の龍王よ。汝が真名と血の契約において、我、優弥が命ずる。その力を我が眼前に示し、我が前に立ちふさがりし、門を護りし防人を穿て」
 優弥の詠唱が荘厳なる八体の竜神を喚び出し、荒れ狂う氷の嵐がギルギリラを切り裂いていく。
「ユールの魔宴、不浄の鐘よ。今宵、最下の洞窟から至上の星辰まで響き渡れ。____They will return.」
 ルインの詠唱に応えて、唐突に再現される、水底に沈む廃墟。最奥からの呼び声が、敵の心身を痺れさせていく。
「そろそろ、終わりに。……致しましょう」
 雅はためらいなくバスターライフルの引き金を引いた。冷徹さすら伺える眼差しが、敵へと確かに吸い込まれていくエネルギー光弾の軌道を見送る。
 光弾に弾き出されたギルギリラの頭部を、八千代が両足で挟んで馬乗りになる。
「逃げてきたヒト達を、このまま死なせるわけにはいかないのよ!」
 束縛は長々と続いた。もがくギルギリラに、ヴァンアーブルは穏やかに語りかけた。
「元々、デウスエクスなんて大嫌いなんだ。私の家族も、君らみたいな理不尽なのに殺されたのだしね。それに攻めてきたのだから、攻め返されても文句はないよね?」
 いっそ柔らかな笑顔さえ浮かべて、しかし招来するのは太陽の如き灼熱。束縛から解放された瞬間の灼熱に、絶叫と、嫌な臭いが辺りに充満する。
 そして最後に、アーニャは叫ぶ。
「時よ止まれ! テロス・クロノス……」
 次の瞬間、アーニャはギルギリラの目の前にいた。わずか数秒、時間に干渉したのだ。
「……フルバーストっ!」
 手持ちの全火気が、至近距離で火を噴いた。ギルギリラの全身が、大きく痙攣でも起こしたかのように、ビクビクと衝撃に弄ばれ、吹き飛ばされていく。
「ア、リア……様……――狂愛母帝、万、歳……!」
 主に対する賞賛を口にしながら、その体は、木っ端微塵に消し飛ばされていくのだった。
「そんな」
「アリア騎士が……なんという……」
 たちまち絶望に染まっていく働き蟻達に、ルインがけろりと言葉を投げる。
「逃げるってんなら見逃してやってもいいっすけど?」
「え」
 働き蟻達は、鵜呑みにはしづらい空気を醸しつつも、あからさまに食いつきた。
「私達は、戦いに来たわけじゃ、ない。オウガメタルを、助けに来た、だけ」
「そうだね。だから、逃げるなら追撃はしないよ」
「……ただ、まだやり合うというなら君たちはさっきの上司と同じ運命をたどることになるよ」
 ヨミはどこか遠くを見つめるように、ヴァンアーブルはニコニコと、優弥は紳士的な態度に男性的な匂いを潜ませて、各々畳み掛けていく。
 働き蟻達は、互いに顔を見合わせ合い……素早く踵を返すと、ほうほうの体でオウガメタルの進路とは逆方向に逃げていった。
 ケルベロスの勝利が確定するや、隅の茂みががさりと鳴り、オウガメタルが飛び出してきた。逃げ込んだのとは別の方向……戦いをつぶさに見守れる位置に、ちゃっかり山林を回り込んで居座っていたらしい。
 ケルベロス達は呆気に取られた後、誰からともなく笑い声を上げた。笑顔を浮かべぬ者も、なんだかスッキリとした表情だ。
「これでもう大丈夫よ」
 八千代が力強く声をかけ、
「地球へようこそ」
 ヴァンアーブルは穏やかに歓迎した。
 ケルベロス達の新たな友人はやはり答えぬまま、ただ、その美しい銀色の体に、淡い光沢を走らせたのだった。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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