オウガメタル救出～新たな絆を護るため

■リプレイ

　山陰地方、人跡未踏の山奥、夜更け。
　闇の中をいくつもの銀の光が明滅し、走る。
　アルミニウム生命体、オウガメタルが、ローカスト達から逃げているのだ。
　銀の光は救難信号。人気のない山奥で誰に救いを求めてか、必死に発光させながらオウガメタル達は逃走を続ける。
　そして、彼らを、ローカストの兵隊が追う。
　見た目には全身に鎧を纏った人型にも見える、その数は3体。
　大きな体躯の兵隊アリと、羽根を生やした働きアリが2体付き従う。
　オウガメタルの逃げ足など問題にもならないとばかり、あっという間に距離を詰め、オウガメタル達のすぐ背後まで迫った。
　射程に捉えたと見て、2体の働きアリは羽根を擦り合わせ始める。
　夜の大気をつんざく破壊の音波が放たれ、オウガメタル達を襲った。
　オウガメタル達は、その攻撃に震え混乱し、逃げ惑う。その間に兵隊アリが追いつけば、殲滅はもう時間の問題かと思われた。

　闇の中、森の木々が道を開けた、ように見えた。
　オウガメタルの銀とは違う明かりぴかりと光ったと思えば、それはみるみる近づいてくる。
　轟く銃声、破壊の音を乱して無数の弾丸がローカストらへと撃ち込まれた。思わぬ襲撃に、ローカスト達の侵攻が止まる。
　風のように人影が躍り出た。跳躍し虚空を蹴れば、生じた炎が地を舐めて、ローカストらへと襲い掛かる。
　水無月・実里（彷徨犬・e16191）の放つ爆炎の弾丸が兵隊アリに撃ち込まれ、幸・鳳琴（黄龍拳・e00039）の炎は働きアリを焼き焦がした。
　そのままオウガメタルとローカストの間に割って入る。鳳琴はオウガメタルへ向き直り話しかけた。
「大丈夫…私達ケルベロスが貴方達を守ります！」
　そして、追いついたケルベロスたちが次々姿を現す。
「救難信号を見て参上したぞ！」
　フレック・ヴィクター（ヴァルキュリアの刀剣士・e24378）が叫ぶ。

　驚いてまごまごしている、ように見えるオウガメタルを華輪・灯（幻灯の鳥・e04881）がのぞき込む。
「言葉、分かりますか？」
　返事はない。どうも言葉は話せないようだった。こちらの意思は通じているようだったが。
「大丈夫そうだな」
　シグリット・グレイス（夕闇・e01375）は銃口をローカストに向け牽制しながら、オウガメタルと、灯もフォローできる立ち位置を取る。最初に牽制射撃を行ったのは彼だ。
「アタシ達はケルベロスよ。貴方達を助けにきたの」　
「安心して、ここは任せて。決着がつくまで、安全な場所に避難していて、ね」
　ムジカ・レヴリス（花舞・e12997）が動けないでいるオウガメタルを抱え、東・天紅（くすんだ人形・e18896）が誘導する。オウガメタルの中には、共に戦いたいようなそぶりを見せるものもいたが、結局皆大人しく誘導に従った。
　追い縋ろうとするローカストに、鳴神・命（気弱な特服娘・e07144） がさらなる炎で押しとどめる。
「守る対象がいる以上、負けるわけにはいきませんから」
　鳳琴が拳打ち鳴らす。
　新たなる絆を守るための戦いの火蓋が斬って落とされた。

●
　最初に動いたのは兵隊アリだった。
　鈍重そうな見た目からは想像できないほどの素早さで突進し実里に迫った。
　体に生やした棘を振りかざし、実里へ突き立てようとするその先端には、アルミ化溶液が滴っている。
　鳳琴がその間に割って入り、腕で受け止めた。注入される液で体が固められるような感覚、受け止めた腕が重くなる。
　後ろに控える働きアリの片方が羽根を擦り合わせ、破壊音波を発した。
　それはまた実里を襲った。間髪を入れず、もう1体の働きアリがその牙で襲い掛かってきた。
「くッ……」
　鼓膜が痛い。脳まで揺すられる音、アルミの牙が食い込む苦痛に呻く。
「大丈夫ですか！」
　灯のオラトリオヴェールが包み込み、2人を癒す。
「ありがとうっ！」
　体の自由を取り戻した鳳琴は龍状の輝くグラビティを解き放った。
「『折れることなき心を持ち――さらに強く！』」
　傷を癒し、鮮明な視界を与えるグラビティだ。その力を、前に立つケルベロスたちに与える。
　その力を得たフレックは、雷気を帯びた斬霊刀を振るい兵隊アリに攻撃する。神速で繰り出されたその切先は鋭く、兵隊アリの装甲に傷をつけた。
「はっ！」
　実里の反撃、流星の煌めきを宿した飛び蹴りを兵隊アリに炸裂させる。腕で受け止めた兵隊アリだが、威力を殺しきれず後ろへ吹っ飛ばされた。。
　さらにムジカが追撃する。電光石火の蹴りが体勢を崩した兵隊アリを襲う。全身を固く鎧ったローカストでも、その衝撃は体内に伝わり、その動きを阻害するには充分だった。
（「……庇ったりはしない、か」）
　働きアリの様子を観察していた命は、確信する。2体の働きアリは、兵隊アリのガード役ではない。恐らく、催眠効果のある破壊音波でオウガメタルを速やかに殲滅する役割だろう。
「なら……狙うのはあんただ！」
　働きアリの、最初に鳳琴に炎を浴びせられた方へ、命は走る。稲妻を帯びた得物で超高速の突きを浴びせる。働きアリを貫けば、迸る稲妻が神経回路まで痺れさせた。
「灯、邪魔だ」
　シグリットは灯の首ねっこ掴んで後ろに下げる。
「ええっ！　邪魔ってどういう事ですか！」
　怒る灯には答えず、シグリットはブラックスライムの槍を働きアリへと叩き込んだ。装甲の隙間からじわじわと毒が滲みこみ、焼けつく苦痛にローカストは呻くような軋むような音を上げる。
「『怖れは、抱くもの。捨て去れぬもの。間違うことなく、あなたを形作りゆく』」
　天紅は歌う、恐怖の在り処を。怯えさせるのではなく、励まし、友の痛みを和らげ、足取りを軽やかにさせる歌は、前に立つ者たちに活力を与えていた。
　
　鳳琴はまだ傷の浅い働きアリへとグラインドファイアを放つ。
　すると、その働きアリはまたも羽根を擦り合わせ始める。聞く者に不快を覚えさせる破壊音波が襲ったのは灯とシグリットだ。
「きゃっ！？」
　だが、脳を揺さぶり破壊するような音波は、灯りまでは届かなかい。受けたのはシグリット、そして庇った天紅だ。
　もう1体は、跳躍し、実里へと飛びかかった。攻撃は浅く、実里は軽くステップして間合いを離す。
　兵隊アリはその隙に、体内のアルミニウム生命体を解き放った。生体金属がその体を包み込み、さらに厚く鎧う。
　それを見たフレックは思わず叫んだ。
「……お前達にとってもこいつらは生きる上での友だった筈だ！　今このまま非道に使い潰す形が正しいのか？」
　兵隊アリは、フレックを見た。顔は見えないからどんな表情をしているのかはわからない。何も答えない。
　それはフレックの感情をかき乱した。翼を開き暴走させ、光の粒子となってフレックは兵隊アリへと突撃する。
　牙で真正面から迎撃する兵隊アリと凄まじく激突し、互いの衝撃で弾かれる。
　兵隊アリの周囲実里の撃ちだした爆炎の弾丸がいくつも爆ぜ、装甲を焼く。
「『Change before you have to』」
　淡紅色の光波が螺旋を描く。色と裏腹の鋭い蹴りを放ったのは、ムジカだ。兵隊アリが装甲の厚い箇所でその蹴りを受け止め、振り飛ばす。
　ムジカもまた、アリのローカストへ思う言葉をぶつけた。
「生きる糧が枯渇するなら他者から奪う、でない有り様を学びなさいな」
　炎で焦げる、嫌な臭いが漂う。立て続けの攻撃が効いているのかどうか、およそローカストには感情が読み取れない。
　兵隊アリは、軋むような音を出した。
　『使い潰す、奪う、以外の有り様など、無い』
　何の抑揚も感情もない『声』、それが返事だった。
　
　2体の働きアリは交互に羽根を震わせては音波攻撃を仕掛けて来る。
　シグリットの銃を持つ手が震える。頭が揺れて思考がまとまらない。
　何をするんだったか。回復？　そうだ、誰を？　アリ？　そうだ、ローカストの、仲間を……。　
「とにかくっ！」
　ふらつくシグリットの隣でいきなり灯が叫んだ。
　さらにいきなりオラトリオヴェールを展開する。オーロラに包まれて揺れる思考が落ち着いていくのを感じた。
「オウガメタルとは友達だったんですよね！？（よくわからないけど！）」
　灯は怒っているようだった。
「私は友達を絶対裏切ったりしない!　だからあなた達を許せない！！」
　兵隊アリにびしっと指突きつける灯。
「ねっ、そうですよね、シグリットさん！」
「あ？　お、おう」
　いきなり振られてシグリット、困る。
「……そういう事だ」
　そしてもう一度、理解して灯に応えてやる。やるべきことは思い出した。シグリットは改めて、銀の弾丸を込めた。
　ヴェールの恩恵は天紅も受けていた。
「危険を顧みず、助けを求める者、その命と意志を守りたい。仲間がいればたとえ怖れを抱えても、飲まれはしない」
　だから、そのための力をあなた方へ。天紅は光の盾を具現化し、攻撃手らを守護するのだった。

●
「砕け！私のグラビティッ！」
　鳳琴の旋刃脚が兵隊アリの頭部にヒットした。護るものがあるだけ、彼女は強くなる。
　兵隊アリはアルミ化の棘を生やすが、脳に衝撃があったのか、グラグラと不自然にその体が揺れ、うまく動けないでいる。
　それを見て働きアリはまたも破壊音波を放った。もう一度、回復をさせようというのだろう。
「でも、無駄なのです！」
　灯のジョブレスオーラが皆の抵抗力を高めていた。そうそう何度も同じ手は喰ってやらない。
「片方の働きアリ、大分弱ってるよ」
　テイルスイングで薙ぎ払い、その手ごたえをムジカは皆に伝える。
「そのようだな……頼めるか？」
　実里は後ろの命たちを見た。彼女は兵隊アリを相手取っている。
　命は頷き、マインドリングを手に取った。気合と共に大きく振りかぶり振り抜いた。
　光がまっすぐ伸びて、働きアリに直撃する。その激痛が働きアリのトラウマを呼び覚まし、苛んだ。　
　
　ムジカを襲う兵隊アリの牙は、フレックが受けた。身体に牙を食い込ませたまま、間合いを零にする。
（「運命は本当に解らない。あたしが、こうして誰かを助ける為に今戦ってるなんて」）
　死に瀕した者に止めを刺してきたヴァルキュリアが、命を救うために戦うことの不思議さ。
（「だけど……悪くない」）
　雷気を帯びた斬霊刀を神速で繰り出せば、躱せるはずもない。肩口へと刀の柄まで押し込み貫けば、アルミに覆われた体内を雷が駆け巡る。
　身体を離し、ずるりと刀身を抜けば、ローカストの半身は黒く焦げ、刺激臭が鼻をつく。　
「……さぁ」
　シグリットは既に働きアリの死角に位置していた。銀の弾丸を込めた銃口を、働きアリに向ける。今度は間違いなく。
「『……悪魔狩りの時間だ』」
　銀の弾丸は、炎に巻かれ毒に冒されていた働きアリへと撃ちだされ、過たずその頭部を捕らえた。
　爆ぜる。働きアリはその頭部を吹き飛ばされ、体液をまき散らして倒れた。

　破壊音波を発する働きアリが1体倒れた事で、流れはケルベロスらに傾いた。
「『幻の灯かりの中で、散る夢を見るといいです！』」
　灯から大量の光る羽と花が吹き散らされ、兵隊アリを包み幻惑する。どんな幻を見ているのか、兵隊アリは、動きを止める。
　残った働きアリは、跳躍して鳳琴を狙うが浅い。軽くステップを踏んで躱す。
（「こんな奴らに良いように使われてりゃ、そりゃ逃げるよなぁ……」）
　命は武器を構え直した。空の霊力を帯びたそれを兵隊アリの装甲に空いた穴へと穿ち、抉って斬り広げた。
　実里はブラックスライムを放った。確実に捕らえるポイントが今はわかる。果たして兵隊アリの足元から膨らんだブラックスライムは見事絡みつき捕食した。
　ムジカは疾駆し、電光石火の蹴りを見まった。天紅もまたサイコフォースでアリを攻撃する。
　
　兵隊アリが纏わるスライムを振り払い、反撃の牙を振り立る背後で、残った働きアリはいじましく羽根を擦り合わせている。
　そんな働きアリの行動に怯えの臭いを嗅ぎ取って、実里は薄く笑った。
（「私たちに近づきたくないが、やる気は見せておかないと……って感じか」）
　ならばここは心置きなく、兵隊アリに攻撃を集中させるべきだろう。ムジカを見ると、彼女も同じと感じているようで頷いて見せた。
「『切り刻む』」
　実里は両腕、両足を限界まで獣化させ、限界を超えて身体を稼働させる。
　顎を開いて牙で迎え撃つ兵隊アリの目前から刹那、実里の姿が消えた。縦横に跳躍する獣を、ローカストは捕らえきれない。
　超人的な速度で跳びかかり、その爪を振るえば、アルミで厚く覆った装甲すらも神のように断裁し、そのうちに隠れた生身まで斬り裂き、抉る。
　開かれた身から体液がびしゃりと噴き出し飛沫いて実里を汚した。
　装甲に大きな穴を開けられ、ぼたぼたと体液を零す、兵隊アリを、淡紅の光波が襲う。
　美しい螺旋を闇に描いてムジカの蹴りはローカストを貫いた。
　
「『ソラナキ……今こそその力を解放し……我が敵に示せ……時さえ刻むその刃を！』」
　魔剣『空亡』を抜刀し、フレックはここを先途と駆けた。グラビティが共鳴する。大きく振りかぶり、斬撃を浴びせれば、兵隊アリの立つ空間ごと
　斬り裂いた。
　風景が、ずれる。
　空間ごと真っ二つに斬り裂かれ、『騎士』であったローカストは、絶命したのだった。

●
　命が見とがめたとき、働きアリは既に闇に紛れて姿を消そうとしていた。
「待てっ！」
　実里は追うが、自分の手すら見えない闇の前に何歩と進めなかった。こちらも疲弊しきった状態で、深追いは出来ないだろう。
「でも、これで戦いは大きく前進したはずです！　本当に、皆さんと一緒が心強い、です」
　鳳琴はそう言って、明るく笑う。
　この戦いはオウガメタルを救うための物。
　力を合わせて騎士ローカストを倒し、オウガメタルを救ったのだから、大戦果と言ってよいだろう。

「もう、大丈夫よ」
　天紅に呼ばれて、物陰に隠れていたオウガメタル達が姿を現す。
　改めてみるその姿は、半液状、銀色のスライムと言う表現がぴったりだ。
　分離したかと思うとくっついて、何体と言う数え方をするのはちょっと難しそうだ。
「うーん、いろいろ聞きたかったんだけど」
　フレックが指でつつくと、絡みついてくる。感謝と友好の意思は感じられるが、やはり会話は無理なようだ。
「残念」
「仕方ないさ。それより早くここを離れよう」
　命が促す。まだここは敵地なのだ。確かに疲弊した状態でいつまでもいるのは良くないだろう。
「実里さん？」
　手近な木に登り、闇を睨んでいた実里を鳳琴が呼ぶ。
　頷いて見せると、もう一度だけ実里は周囲を見渡した。
　音すらも飲み込むような深い、深い、闇が広がっている。このどこかに、異形の住処があるはずだった。
　今は無理でも、いずれはそこへ――。
　オウガメタル達のような犠牲を無くすために。
　
　それぞれの思いを胸に、ケルベロスたちは戦場を後にするのだった。　　

作者：黄秦	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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