オウガメタル救出～鋼の逃亡者

■リプレイ

●逃走
　天尊・日仙丸（通販忍者・e00955）を先頭に、ケルベロス達は生い茂る木々を曲げて生み出した小道を走る。明滅する光を目印に森を抜けると、そこに待っていたのは光り輝く液状の金属塊だった。
「グラビティチェインの枯渇がなければ、ローカストとオウガメタルも、このような事には……。やるせない、ですよね……」
　己が生きるために他者を犠牲にする。決して逃れられぬ生物としての原罪に胸を痛める白銀・夕璃（白銀山神社の討魔巫女・e21055）。が、どうやら感傷に浸っている時間はなさそうだ。
「見つけたぞ！　我らの下を去るというのであれば、殲滅させるのみ！」
　茂みを破り現れたのは、騎士鎧を纏ったような姿をした兵隊アリのローカスト。配下として従えている働きアリは３体。多過ぎず、少な過ぎず、バランスの良い布陣だ。
「さて、救援を求められたからには助けるデスよ」
　オウガメタルを後方に下がらせつつ、試作機・庚（超重量級カナヅチ・e05126）は間に割って入った。田抜・常（タヌキかキツネか・e06852）もまた、かつての戦いで救い出したオウガメタルを胸元に抱き、そっと手を添えて前に出た。
「貴方方の声、たしかに聞き届けました。ここからは、我ら番犬がお守りします」
　どのような存在であれ、命を搾取されることを黙って眺めているわけにはいかない。たとえそれが、異星より現れた人ならざる来訪者であったとしても。
「フハハハ！　我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターオリュンポス！　さあ、オウガメタルをローカストどもから助けだすとしよう！」
　そんな中、後ろでドクター・オリュンポス（自称悪の天才科学者・e10743）が何か叫んでいたが、とりあえず気にしたら負けだろう。
「皆様の声、受け取りました……お守りします」
「ええ……。行きましょう、助ける為に」
　流れるようにして茂みの中に隠れて行くオウガメタルを横目に、白銀・夕璃（白銀山神社の討魔巫女・e21055）とリー・ペア（ペインクリニック・e20474）の二人もまた互いに頷き武器を構える。言葉を交わすことができずとも、オウガメタルの意思のようなものは、確かに感じ取ることができていたから。
「貴様達、我らの邪魔立てをするつもりか？　ならば……その命、ここで失うと知るがいい！」
　障害を排除すべく、ローカスト達もこちらへ標的を変更したようだ。だが、これは却って都合が良い。
「私達を頼ってきた、その仲間を助けない訳には行かないでしょう？」
「貴方達にも事情があるのは分かっています。ですが、助けを求めたのは彼らの方」
　バトルベルトに天羽・舞音（力を求める騎士・e09469）がキーを挿し込み、水沢・アンク（クリスティ流神拳術求道者・e02683）が自身の右手を業火で包む。
「行きますよ……変身！」
「貫かせて頂きます。故に……クリスティ流神拳術……参ります！」
　一瞬の輝きと共に舞音が戦闘服を着用し、アンクは右腕を軽く振って、焼け落ちた袖の残滓を払い落した。

●泥濘
　鬱蒼とした森の中で、激突するケルベロス達とローカストの軍勢。だが、人数差では圧倒的優位に立っていながらも、蓋を開けてみれば戦いは泥試合の様相を示していた。
「将を射んと欲すれば、とりあえず将をぶち抜けば良いという作戦ですが……やはり、働き蟻が邪魔ですね」
　最悪の予想が的中したことで、歯噛みしつつも標的を変更するリー。前衛で守りを固めている働きアリのせいで、後方に控える兵隊アリに、一部の攻撃が届かない。仕方なく、テレビウムのスー・ペアに働きアリを牽制させつつ、自らもまたバスターライフルの冷凍光線で働きアリを狙撃する。
「諸君！　敵の指揮官の兵隊蟻を一気に潰すのだ！　今回の作戦目標は実験体……げふんげふん、オウガメタルの救出……って、何故にこっちに来るのだ、俺の工具箱よ！？」
　薬液の雨を散布させつつ、ドクターが叫んだ。壁役となって敵の音波攻撃を集中的に食らったミミックが、錯乱してドクター達の方に黄金や宝物を撒き散らして来たのだ。
　混戦に継ぐ混戦。予想外の攻撃から後衛の癒し手に状態異常が付与され、ますます回復の効率が落ちて行く。
「オウガメタル……貴様達、ケルベロスの手に渡すわけにはいかんのでな！」
　巨木の梢ほどの高さまで軽々と跳躍し、兵隊アリが強烈なキックを放って来た。滞空時間の長さに反し、その狙いは正確無比。鋭い一撃を正面から受け、庚の身体がその身に纏った力を砕かれながら吹き飛ばされた。
「……っ！　今回は、防具に助けられたようデスね」
　辛うじて急所に食らうことだけは避け、庚はすぐさま体勢を立て直す。が、それでも油断はできない。兵隊アリの攻撃に続き、働きアリ達が一斉に奇声を発しながら襲い掛かって来たのだから。
「ギィィィッ！！」
　兵隊アリとは違い、こちらはあまり連携が取れていないようだった。が、目の前の敵に見境なく襲い掛かってくるため、逆に狙いが読めない。
「くっ……！　こいつら！？」
　アルミ化液を注入され、舞音が思わず右手を押さえる。傷口が、まるで石になったかのように重たい。今は大した影響こそなくとも、放っておけば身動きが取れなくなってしまう。
「敵も、オウガメタルを使っているみたいですね……。でも……」
　同じく、アルミ化した鎌で斬り付けられた傷口を押さえつつ、夕璃が言った。
　先程から、自分も含めた何名かで、敵の使用しているオウガメタルへ呼びかけも試みてはみた。が、逃走してきたオウガメタルとは異なり、向こうからは何の反応も感じられない。
　不安定な黄金装甲であればまだしも、通常のローカストが体内で用いるオウガメタルは、完全に彼らの制御化にあるようだった。どれだけ言葉を尽くしても、それは夜の森に虚しく響くだけ。
　ならば、ここは心を鬼にして挑むしかないと舞音が仕掛けるが、しかし彼の放った燃え盛る蹴りの一撃を、兵隊アリは容易に回避してみせた。
「くそっ……！　せめて、もう一手だけでも攻撃の手段があれば……」
　接近戦を主体とした彼の戦い方では、後方に位置する兵隊アリに攻撃を当てる術は限られる。結果として同じ技を繰り出す以外にない状況に陥ってしまい、攻撃を見切られてしまうのだ。
「これは、少々迂闊だったみたいデスね。もう少し、全体のバランスを考えるべきデシた」
　ライドキャリバーの試作兵装ー辛ーによるガトリング砲の援護に続け、代わりに庚が舞音と同様の蹴り技を兵隊アリに炸裂させた。
　今度は命中。だが、攻撃よりも防御を主体とした彼女に、期待以上の火力を求めるのも酷である。
「立て直しはこちらに任せるでござる。その間に、アンク殿は少しでも攻撃を！」
　分身の幻影を纏わせて、ドクターの工具箱が受けた催眠効果を解除する日仙丸。ただでさえ混戦状態だというのに、味方にまで攻撃されては洒落にならない。
「分かりました。ですが……やはり、今のままでは働きアリが邪魔ですね」
　白き獄炎を纏った拳を握り締め、アンクが改めて敵軍を見渡して言った。
　このままフレイムグリードを連打したところで、兵隊アリに当てられる可能性は低いままだ。ならば、多少不本意ではあるものの、働きアリから始末する他にない。
「一気に行きます……！　クリスティ流神拳術四拾九式……殲輝連衝(カタストロフブラスター)！！！」
　右腕から白炎を噴いて高々と飛翔し、アンクは空中で両の拳を打ち合わせる。そのまま白炎を纏った両腕から繰り出されるは、超速の乱打により生まれる流星の如き無数の炎弾。
「「ぐぁぁぁっ！！」」
　白炎の海に飲み込まれ、働きアリ達が悲鳴を上げた。その隙に夕璃が兵隊アリへと仕掛けるが、攻撃手段が限られてしまう以上、やはり狙いを定めることが難しい。
「行ってください、しっぺさん！」
　それでも諦めず、常がファミリアロッドを白犬に変化させ、兵隊アリへと向かわせた。弾丸のように射出された白い獣。先のアンクの攻撃が流星ならば、さしずめこちらは彗星と言ったところか。
「やるな……。だが、貴様達に退けぬ理由があるように、我らにもまた退けぬ理由があるのだ。立ち塞がるのであれば、死、あるのみ！」
　しかし、全身を炎に蝕まれながらも、兵隊アリは決して退く素振りを見せなかった。
　再び繰り広げられる攻防戦。互いに全力で技をぶつけ合うが、戦いが長引くにつれ、旗色はケルベロス達にとって悪くなって行く。
　遠距離攻撃手段の不足と見切りへの対策の甘さから、一部の者達は回復と攻撃を交互に挟んでしか、まともに敵を狙えない。だが、どれだけ回復しようとも、癒しきれない傷は存在する。おまけに、攻撃と同時に体力を吸収し、回復と同時に防御を高める術を持った働きアリ達は、戦闘力はともかくとして、壁としてはなかなかタフだ。
「無駄な命の削り合いは好まん。そろそろ、引導を渡してくれる！」
「そんなこと、させませ……っ！？」
　迫り来る兵隊アリの攻撃から仲間を守り、とうとう夕璃が首筋にアルミの牙を突き立てられて倒れ伏した。それだけなく、殺到する働きアリの攻撃をその身で全て受け止め、庚もまた善戦虚しく力尽きた。
「ぬぅ……近接特化による速攻が裏目に出たということでござるか……」
　壁を失い、緊迫した表情のまま歯噛みする日仙丸。速攻撃破のため標的に拘り過ぎ、あらゆる事態を想定した準備と戦闘対応を欠いた者が多かったことが、今となっては悔やまれて仕方がなかった。

●狂狐
　壁を二つ失ってしまうと、そこから先の瓦解は速かった。
「く……そ……。後ろで姑息に立ち回らず……正々堂々……勝負しろ……」
　気がつけば、舞音の戦闘服は、そのあちこちが激しく損傷させられていた。ドクターの工具箱は既に味方の盾となって消え、敵の攻撃はアンクや常にまで飛び火している。
「さあ、戯れの時間は終わりだ。我等とて、いつまでも貴様達と遊んでいられるほど暇ではないのだ」
　兵隊アリの視線が、未だ立ち上がれない庚や夕璃へと向けられた。
「止めを刺すつもりですか！？　それだけは……」
　信頼する仲間が目の前で殺される。そんな悪夢は見たくないと、リーが夕璃へ手を伸ばす。だが、彼女の指先が届くよりも先に、ただならぬ気配を纏って動いたのは常だった。
「義父さま、義母さま、ごめんなさい……。反魂変化……黒天金星の天狐！」
　瞬間、常の身体が巨大な黒毛金眼の九尾狐へと変貌し、そのまま兵隊アリへと攻撃を仕掛けた。それは、人の身に余る超常の力さえ模倣する、彼女の編み出した独自のグラビティだが……しかし、どこか様子がおかしい。
「まさか……」
「暴走だと！？　えぇい、なんということだ！」
　攻撃を負えても人の姿に戻らなかった常を前にして、アンクとドクターが思わず叫んだ。が、すぐさま頭を切り替えて、目の前の敵を殲滅すべく大地を蹴った。
「さあアンク殿。その拳、存分に振るうでござる！」
「任せてください。壱拾四式……『炎魔轟拳(デモンフレイム)』！！」
　日仙丸から癒しの螺旋を受け取り、アンクが炎を纏った右腕を真正面から働きアリに叩き付ける。闇夜を切り裂く白炎の拳。その一撃は敵の甲殻さえも打ち破り、弾丸の如く胸部を貫いた。
「夕璃さん……。皆を守って戦ったあなたの奮闘、無駄にはしません」
　リーの放ったケルベロスチェインが別の働きアリを絡め取り、そこへ凶器を片手に肉薄するのはスー・ペア。狙いは、先程から兵隊アリへの攻撃を肩代わりしていた個体だ。その分、消耗も激しかったのか、横殴りに繰り出された一撃を受けて、敵の頭が吹き飛んだ。
「フハハハ！　そこを動くなよ。今、強化改造手……否、立ち上がる力を与えてやろう！」
「……っ！　本当に強引だな。だが、これでまだ戦える！」
　ドクターによる強引なショック療法を受け、舞音もまた立ち上がる。壁が崩れれば脆いのは敵も同じ。
　荒れ狂う九尾狐となった常が兵隊アリを抑える中、ケルベロス達は最後の働きアリへと攻撃を集中させる。さすがに、持久戦を経ての集中砲火には耐えられなかったのか、今迄の堅牢さが嘘のように敵の身体が四散して行く。
「ぬぉぉぉっ！　ば、馬鹿な！　我は狂愛母帝アリア様の騎士なのだぞ！　それが……このような戦いで……」
　暴走により圧倒的な力を得た常を正面から相手にして、兵隊アリは完全に押されていた。おまけに、ここに来て戦闘の開幕と同時に受けた炎が、全身を酷く蝕んでいたのも致命的だった。
「よし……！　これで決める！」
　ぼろ雑巾のようになって膝を突いた兵隊アリに、舞音が狙いを定めて飛び上がった。
　ドライバーの必殺キーを押すと同時に、森の中で鳴り響く電子音。全身のエネルギーラインを赤く発光させ、右脚にエネルギーを纏い蹴り込む必殺技。
　壁役の働きアリを失った今、彼の攻撃を止める者は誰もいない。宵闇を引き裂く赤い閃光となり、目標の身体をすり抜けるようにして着地する無音。同時に、身体を貫かれた兵隊アリは、風化した石像のように音も無く崩れ落ちた。

●救済
　戦いが終わると、巨大な妖狐と化した常は、既にその姿を消していた。
「だいじょぶ、です？　具合悪い子は、治しますので……」
　自身の傷も顧みず、仲間の様子を窺う夕璃。だが、痛みを堪えて立ち上がろうとした彼女のことを、リーが静かに制した。
「無理は禁物ですよ。今は、あなたの傷の方が深いのですから」
　入院する程の重傷を負わされなかったのは幸いだが、それでも敵に殺されかけたことを考えると、正直なところ安静にしていて欲しいと思う気持ちも解らないではない。
「うぅ……ここは……？」
　やがて、庚も意識を取り戻したところで、ケルベロス達は改めて周囲を見回した。
「あれは……」
「どうやら、オウガメタルは無事だったようでござるな」
　茂みから姿を現したゲル状の金属生命体を見て、無音と日仙丸が安堵の溜息を吐く。その横では、なにやらドクターが不穏なことを口走っているが、それはそれ。
「ククク、武器に変形するアルミニウム生命体のオウガメタル。その生体、大変興味深い！」
　戦闘中は共に戦うことこそできなかったが、オウガメタルが逃げ出さない辺り、どうやら彼のことも信頼はしてくれているようだ。
　目的を果たした以上、長居は無用。他の追手に見つからないよう、ケルベロス達は素早く戦場を後にする。最後に、アンクは倒されたアリ達の死骸にコートをかけ、静かに天を仰いで弔った。
「……いつか、分かりあえると良いですね」
　願わくは、全ての命に平穏を。だが、そのためにも今は、誰かを守るために戦い続けるしかないのである。

作者：雷紋寺音弥	重傷：なし 死亡：なし 暴走：田抜・常（タヌキかキツネか・e06852）
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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