オウガメタル救出~金鉄の枉駕

作者:蘇我真

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。

「仲間たちが黄金装甲のローカスト事件を解決したことは知っているか?」
 集まったケルベロスたちに向けて、星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)は早速とばかりにそう切り出した。
「概要だけかいつまんで話すが、ケルベロスたちは黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことができた。その結果、3つの事実が判明した」
 瞬は3本指を立てる。
「1つ。アルミニウム生命体は、本当は『オウガメタル』という名前の種族で、自分たちを武器として使ってくれる者を求めていること」
 そして、1つ説明するごとにその指を折っていく。
「2つ。現在、オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルを使い潰すような使い方をしていること」
 ケルベロスたちの反応を伺いながら、瞬は最後の指を折った。
「3つ。特に黄金装甲化は、オウガメタルを絶滅させる可能性すらある残虐な行為であること……そこでオウガメタルは絆を結んだケルベロスたちへと助けを求めてきた」
 今、オウガメタルは窮地の事態に追い込まれているという。
「オウガメタルたちはケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星からゲートを通じて脱出、地球へ逃れてきたようだ。だが、最重要拠点であるゲートには、当然ローカストの軍勢がいる」
 瞬はそこで言葉を区切り、口を真一文字に結ぶ。彼の脳裏には、かつてのゲートを守っていたドラゴンとの死闘がよぎっていた。
「このままでは、ローカストの軍勢によって、オウガメタルたちは遠からず一体残らず殲滅されてしまうだろう。それを防ぐのが、今回の任務になる」
 説明しながら、瞬はスクリーンにプロジェクターの映像を投影した。日本、山陰地方の衛星地図だ。
「オウガメタルたちが、ローカストの軍勢に追われている場所は、ここ山陰地方、山奥になる。皆にはヘリオンで現地に向かい、オウガメタルの救助ならびにローカストの撃破をお願いしたい。
 この作戦に成功すれば、オウガメタルを仲間に迎えるだけでなく、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置も特定する事が可能になるかもしれない。
 しかし、ゲートの位置に関わる事から、ローカストたちの攻撃も熾烈になるだろう。
 厳しい戦いになると思うが、おまえたちならできるはずだ」
 そう檄を飛ばしつつ、瞬はプロジェクターを操作した。マップ上に巨大なアリのアイコンと、その周囲に小さなアリのアイコン3体が表示される。
「我々が今回担当するローカストたちは、兵隊アリローカスト1体が働きアリローカスト3体を率いた群れで、山地の広範囲を探索して、逃走するオウガメタルの殲滅を行っているようだ」
 続いて、銀色の光を模したアイコンが画面に現れる。
「ヘリオンが現地に到着するのは夜半過ぎだ。逃走するオウガメタルは、銀色の光を発光信号のように光らせている。それを目標に降下すれば、オウガメタルの近くへ着陸する事ができるだろう。
 もちろん降下には誤差がある。すぐ傍に降下できるわけでは無いが、誤差百メートル以内の場所には降下できるはずだ。オウガメタルとの合流は難しくない、が……」
 瞬は一瞬言いよどむが、すぐに再び口を開いた。
「追っ手である兵隊アリローカストの戦闘力はかなり高い。また、ゲートを守るという役割から、どんな不利な状態になっても決して逃げ出すことは無い。
 お供の働きアリローカストも、戦闘は本職ではないが、それでもケルベロス数人分の戦闘力を持っているだろう。
 ただ、働きアリローカストのほうは、兵隊アリローカストが撃破され状況が不利だと判断すれば、逃げ出す可能性もある」
 アリローカストたちの攻撃方法は今までに戦ったローカストと同様だが、その攻撃力や技のキレは段違いとなるだろう。
 そう補足して、瞬はケルベロスたちへと頭を下げた。
「助けを求めてきたオウガメタルを見殺しにはできない。困難な任務になるかもしれないが、どうかよろしく頼む」


参加者
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
エルボレアス・ベアルカーティス(メディック・e01268)
九道・十至(七天八刀・e01587)
相上・玄蔵(隠居爺さん・e03071)
空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)
伊庭・晶(ボーイズハート・e19079)
御刀・信綱(ドワーフの刀剣士・e27056)

■リプレイ

●金鉄の戦士たち
 ヘリオンから降り立ったケルベロスたちは即座に行動を開始した。
「こちらだ!」
 山中に着地するなり、御刀・信綱(ドワーフの刀剣士・e27056)が先導するように駆けだす。
「ああ、間違いない」
 上空からはエルボレアス・ベアルカーティス(メディック・e01268)がドラゴニアンの翼を広げ、オウガメタルの救難信号を視認していた。
 人の手が入っていない中国地方の山岳地帯。
 地面は舗装されていないから凸凹だし、草木も鬱蒼と生い茂っている。
 それでも、信綱が手を突き出すと前方の植物が避けるように動き、自然と道を作る。
「続いてくれ!」
 開いた手でランプを持ち、姿勢を低くして獣のような素早さで山を駆ける。
 避けきれない植物が身体に当たり、へし折れて音が鳴る。
「急ぐぞ! ローカストに先手を取られるな!」
 ダニエラ・ダールグリュン(孤影・e03661)も叫ぶ。隠密性よりも速さを追求した進軍。
 その甲斐は、果たしてあったようだった。
「おっ、こいつか? なんか水たまりみたいだな」
 空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)はけらけらと笑う。オウガメタルは金属のスライム状をしていた。
「カッカッカ、確かにこいつで間違いないのう」
 黄金装甲事件で既にその姿を見たことがあるドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)がお墨付きを与える。
 オウガメタルは全身を点滅させるように発光して、救難信号を発していた。
「疲れてはいるが、今のところ怪我はないようだな」
 エルボレアスがオウガメタルを診察する。なんとかローカストより早く接触できたようだ。
「さて、そんじゃオウガメタルにはしばらく隠れててもらうとするか」
 伊庭・晶(ボーイズハート・e19079)がオウガメタルへと迷彩マントを被せる。
 その意思を察したかのように、オウガメタルは発光を止めた。
「おう。喋っちゃあくれねぇが、お利口さんでありがてぇな」
 相上・玄蔵(隠居爺さん・e03071)は白い歯を見せるようにして笑うと、すっと目を細めた。
「そんでもって、やっこさんらもお出ましだ」
 自分たち以外の足音が、遠くから近づいてくる。
「来たか……!」
 ダニエラは一歩前に出る。現状で下手にオウガメタルを逃がすよりは、先に自分たちが出向いて戦場をよそに移したほうがいい。ローカストの先手を打てたからこそできる判断だった。
「逆に奇襲しちまうか。ただでさえ重労働なんだ、少しは楽したっていいだろう?」
 九道・十至(七天八刀・e01587)らもダニエラに続こうとした、そのときだった。
「!!」
 オウガメタルから呼ばれたような気がして十至は思わず足を止める。
「今のは……?」
「おぬしも、か?」
 ドルフィンが十至に声をかける。ふたりに共通しているのは、以前に黄金装甲事件でオウガメタルを手に入れていることだった。
 導かれるように、懐からオウガメタルを取り出す。
「感じるぞ。同朋を救うために、共に戦いたいという強い意思を……!」
 救難信号とはまた違う、光の輝きを見せるオウガメタル。
「逃げることをオススメするけどなァ、俺ぁ……」
 苦笑する十至。
「カッカッカッ! いいじゃろう、共に強敵と相見えようぞ!」
 哄笑するドルフィン。
 笑い声と共に、オウガメタルが変化する。ふたりの身体へとまとわりつき、鋼の装甲へと硬質化していく。
「あーぁ、派手な格好になっちまった。オッサンにゃこんなの似合わねえってのによォ」
「さあ、戦いを始めようか!」
 前向きと後ろ向き、正反対の鋼の戦士。それでも視線は同じ方向を向いていた。

●金鉄の枉駕
 アリア騎士エルシッドは困惑していた。
 逃げ出したオウガメタルを他のデウスエクスやケルベロスに見つかる前に始末する。
 拠点を防衛することに長けた己の能力を充分に発揮させることができない任務に加え、手持ちの働きアリは労働用の下っ端だ。アリア騎士同士の連携を取ることもできない。
 それでも並みの敵が相手ならばその実力で圧倒できる。
 そう信じていた。いたのだが――
「ライジングダーク、って言うらしいぜ」
 十至の声と共に、オウガメタルが惑星レギオンレイドを照らす『黒太陽』を具現化した。
「オウガメタルを使う者が二人も……だと!?」
 黒太陽からアリたちへ、夜の闇よりも濃い漆黒の光が照射される。
「ぐあぁっ!!」
「くっ、そんなっ……!」
 それはまさに絶望の黒光となり、アリたちの心を折った。
「こいつも一緒に喰らいやがれ!」
 月の光を己のつるっ禿で増幅させた玄蔵の天頂輝光脚。
「ちいっ!!」
 エルシッドの身体へ確実に命中する。黒白二種の光により、アリたちは完全に足を止められていた。
「アイツから、まさに虫のいい願いってのを託されちまってよ……」
 彼の宿敵であるローカスト、イエローシケイダのことを思い出しながら玄蔵は宣言する。
「同朋と相棒を救わせてもらうぜ、兵隊アリさんよぉ!」
「正直面倒事は御免なんだ、さっさと諦めてくれねえか?」
 下がる玄蔵と入れ替わるように空牙のシュリケンスコールがアリたちを襲う。
「あいつらは俺たちを頼ってきたんだ、助けてやらなきゃ男がすたるってモンだぜ!!」
「他者を使い潰すその行い、認められるものではない!」
 まだ終わらない。晶のハウリングとダニエラのスターゲイザーだ。決意の咆哮と足元へ噴出した星の力が奔流となって襲いかかる。
「くっ……徹底した足止めを行う連携力に、オウガメタル持ちが二人……なるほど、これはとんでもない精鋭だ。どうやら我は貧乏くじを引いたようだな」
 言いながら、エルシッドは剣を抜く。そして、折れそうな心を震い立たせながら、宣言した。
「だが、我はアリア騎士のエルシッド! 騎士として主命に背く訳には参らぬッ!!」
「その意気や良し!!」
 信綱が日本刀の鯉口を切った。
「いくら貧窮しているとはいえ、戦友とも呼べる者を使い潰そうとするとは言語道断……そう思っていたが、お主は一味違うようだ」
 信綱は選ばなかった、主君へ忠義を捧げる武士の道。
「なればこそ、お主の生き様に敬意を表し……全力でお相手致そう!」
 刹那、信綱の姿が掻き消える。
「うっ、く、うっ……!!」
 闇夜に舞う飛燕の如き速さで、四方八方から無数の気の斬撃が放たれた。周囲に生えていた樹木が巻き込まれ、袈裟切りの痕を残して斬り倒されていく。
「某が奥義を受け切るとは、見事……精進せねば」
 刀を鞘に納め、驚嘆の声を上げる信綱。エルシッドは攻撃を受けつつも、足を止めずに必要最小限の斬撃しか受けないように身体を動かしていた。
「悪いが防御はひとかどのものでな……!」
「自分で言うほどじゃ、さぞ自信があるんじゃろう。なら……これは受け切れるかの!」
 ドルフィンは大きく息を吸い込むと竜氣功によって竜肺を変質させて、口から光輝く白い炎の息を吐く。
「くっ……!」
 氷のように冷たく白い炎は、働きアリ3体の身体を蝕んでいく。
 しかしエルシッドだけは身を伏せるようにして、炎の舌をかわしていた。
「者ども、かかれ!」
 エルシッドの声に呼応して、働きアリ3体が身体にまとわりついた氷を剥がすようにその羽根を震わせる。
 周辺の木々から木の葉が千切れ、粉々になっていく。破壊音波だ。
「ぐっ……!」
 身体を軋ませる音波の攻撃に、玄蔵は歯を食いしばって耐える。
「仕方ない……マジになってみようか」
 空牙の口元から一筋の血が滲む。催眠に屈しないよう、自ら唇を噛み切って出来た傷だった。
 働きアリたちによって奏でられる、衝動と化した音の波。
 それを遮ったのも、また音だった。
「聴け!!」
 まるで地震と見間違うばかりの地鳴りと縦揺れ。働きアリたちの足がもつれ、羽根での音波攻撃が止む。
 音の主はエルボレアスだ。ライトニングロッドで勢いよく地面を殴り、天に轟くような爆音を響かせたのだ。
 その音は後衛の皆を勇気づけ、同時に催眠からも救っていく。
「ジャマーは奴だ!」
 そして、1体の働きアリをライトニングロッドで指し示した。
 より多くの状態異常を与える役割。それを担う個体を見定めていたのだ。
「承知した!」
 信綱の飛燕斬が、
「特に恨みはねぇが……狩らせてもらうぜ? 悪いけど悪く思うなよ」
 空牙の暗殺技法―瞬鋭が、
「これでもくらいやがれ!」
 晶のファンシー玉がそれぞれ一斉に叩き込まれる。
「搦め手は、封じさせてもらう」
 トドメはダニエラの惨劇の鏡像だ。
「う、ぐっ……もう、ダメ――」
 各人の一撃必殺ともいえる奥義を連続で受ければ、働きアリとてひとたまりもない。もがくように宙へと手を伸ばし、事切れていく。
「やっと、1体か……」
 ダニエラの視線はすでにエルシッドへと向いている。
 仲間を斃されてもなお、エルシッドは一歩も引かない。騎士として立ちはだかるその姿に、認識を改めなおした。
「強敵だ。だからこそ、正面から私の力をぶつけていく!」
「黄金装甲は扱えずとも……ッ!」
 エルシッドは体内のオウガメタルを使役し、鋼の鎧を身に纏って突撃してくる。
「おい、向かってくるぜ!?」
 標的は中衛の晶だ。
「これも貰えってか? 無茶言うっ!」
 オウガメタルの意思を汲んだのか、憎まれ口を叩きながら割り込む十至。
「ウオオォォッ!!!」
 高々と跳躍し、加速度と重力をプラスした鋼の蹴りを叩き込むエルシッド。
「させねえってのッ!!」
 十至はそれを仁王立ち、鋼の鎧で受け止める。甲高い金属音。軋む骨。舞い散る土埃。摩擦熱で生じる煙。
「グッ、うっ……!」
 十至の身体が押され、地面に二条の軌跡が刻まれていく。
 その一撃が止まったとき、十至の足首は地まで埋まり込んでいた。
「我の蹴りでも、貫けぬか……!」
 埃と煙が晴れた向こう、十至の灰色の瞳がエルシッドを貫く。
「……仕方がねぇ。ちょいと本気で付き合うぜ」
 鋼装甲の上から6枚の翼が生える。
「……但し、1分だけ、な」
 そして天使と化した両腕で腹に突き刺さったままのエルシッドの足を抱え込むと――
「おらぁッ!!」
 力任せにねじ切った。
「ガアアァァッ!!!」
 片足になり、バランスを崩して地に膝をつくエルシッド。
「おぉ痛ぇ、見てるこっちが脂汗掻いちまうよ」
 言いながら玄蔵はシャドウリッパーでその傷口を容赦なく広げていく。これ以上ない足止めだ。
「某に同じ太刀を振らせるか……だが、燕は虫餌を二度逃しはしない!」
 見切りを考慮しても一番命中率の高い飛燕斬を再選択する信綱。今度は確実に、胴を薙ぐ。
「わしの技も、今度こそ馳走してやるとするかのう!」
 牙をむき出しにして笑うドルフィン。その顔の横、手の甲を見せるように掲げられた握り拳。
 その拳に装着されたのはかつて屠った強敵、亢竜の竜鱗を使った戦籠手だ。
 そこへ、全身に纏っていたオウガメタルが集まっていく。水晶と金属が組み合わさった凶悪なフォルムは、さながら鋼の鬼に見えた。
「わしの竜闘技と組み合わせた……戦術超鋼拳じゃ!」
 無造作に、しかし常人では反応することすらないスピードで拳がエルシッドの腹に叩き込まれる。
「―――ガ、ハッ!!」
 その拳は、エルシッドの背中から生えていた。パラパラとアルミの欠片が宙を舞い、月光を受けて雪のように煌めく。
「これにて終幕じゃ!」
 ドルフィンが腕を抜く。
「―――」
 力なく、エルシッドが倒れ伏した。
「まだ、やるかい?」
 そう問う十至の天使化はすでに解けていたが、
「ヒイイイィッ!」
 残った2体の働きアリはほうほうのていで逃げて行くのだった。

●異形の要塞
「損害は思ったほどないようだな」
 騎士道に殉じたエルシッドへ黙祷した後、ダニエラは仲間の損耗具合を確認する。
「ああ」
 応急処置を施したエルボレアスも同意する。
「カッカッカッ! 勝利じゃな!」
 高笑いを上げるドルフィン。その身体からはオウガメタルが離れ、元のスライムに戻っていた。
「本来はディフェンダーだったふたりが、その防御力のままクラッシャーの私に迫る攻撃力を手に入れていたのだから、当然といえば当然の帰結か……」
「ひと息入れるのは後にしてよ、今は逃げたやつらを追ったほうがいいんじゃないかねェ」
 十至の視線は逃げていく働きアリたちのほうを向いていた。
 その姿はまさにアリのように小さくなっていく。
「疾ッ!」
 信綱がまた、先導するように夜目を利かせながら駆けだした。エルボレアスも飛行で続く。
「深追いはするなって……まあ、余力はある、か」
「やれやれ……こいつら忘れてるぜ! ほら、行くぞ!」
 玄蔵と晶は救出したオウガメタルを迷彩マントで包んだまま引っ掴むと、皆の後を追った。

 夜の山中を追走していると、一行は何かを感じ取る。
「なんだぁ? この妙ちきりんな違和感は」
 呟く玄蔵。夜の闇に慣れた目には普通の山の景色に見えるが、何かがおかしい。
「消えた……?」
 信綱もまた、不可思議な現象に思わず足を止めた。追っていたはずの働きアリたちが忽然と姿を消したのだ。
「見失った……」
 上空のエルボレアスも首を傾げる。確かに視認できるほどの距離まで近づいていたはずだ。
「……いや、違うぜ!!」
 真剣な眼差しで駆け続ける空牙。
「これは……」
 そして、ある地点で足を止める。忍術を学んでいた彼は最初に違和感の正体に気付くことができた。
「やっぱりまやかしか……!」
 空牙を追うケルベロスたち。彼の傍で、突如、視界が一変する。
「これは……!」
 そう漏らしたのは果たして誰だっただろうか。
 まるでカーテンのように覆われた半透明の幕の中。先程まで普通の山に見えたそこには、異形の建築物が立ち並んでいた。
 それらの建築物は、かつて存在した九龍城の如く無軌道に拡張されており、山の外周を沿うようにふもとから頂上付近までレールが敷かれている。
 そして、なによりもまず目に飛び込んで来るのは――
「ローカストの、ゲートだ……!」
 山中に浮かび、月明かりを受けて輝く極彩色の渦をダニエラは確かにその目で見た。
 誰がそう告げたわけでもない。それでも、直感的に理解できる。あれがゲートなのだと。
「働きアリを見失ったが、どうする?」
 信綱が尋ねる。
 先程は働きアリたちがいち早く光学迷彩のような半透明の膜を通り抜けたから見えなくなったのだろう。そしてケルベロスたちが膜中の光景に目を奪われた間に、今度は完全に見失っていた。
「……ここは戻ろう。下手に追撃してオウガメタルを再び危機に晒すよりも、今はこの情報を皆に共有するべきだ」
「ああ、これ以上はやめとこう」
 ダニエラの言葉に、玄蔵も異論なしといった体で頷き、救出したオウガメタルへと視線を向ける。
「全て守るとは言えねぇけどよ、目に届く分くれぇは助けてやっからな」
 こうして、一行はオウガメタルと情報を携えて無事に帰還したのだった。

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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