オウガメタル救出～見せよ、その絆

■リプレイ

●作戦Ｅ－Ｊ
　降下前にドローテア・ゴールドスミス（黄金郷の魔女・e01306）は言った。
「助けを求める者に手を差し伸べるのは騎士の本懐と言えるワね」
　ぐるりと仲間たちを見回す。カイウス・マビノギオン（黒のラサーヤナ・e16605）が深く頷いたのは、今回こそ任務を全うしてみせると意気込んでいるからだ。白嶺・雪兎（斬竜焔閃・e14308）も口を開く。
「ローカストにも事情があるとはいえ、あの扱いは酷すぎますね。この依頼はなんとしても成功させなくては」
「ったく、シャイターンもローカストも同じようなことしやがって」
　毒づくのは久保田・龍彦（無音の処断者・e19662）だ。
「それじゃ、作戦開始よ。名付けてオペレーション・ＥＪ（Ｅａｒｔｈ－Ｊｅｔ）！」
　Ｅｖｅｒｙｂｏｄｙ　ｒｅａｄｙ？　Ｒｏｃｋ’ｎ　ｒｏｌｌ！
　降下後は足下をライトで照らすイェロ・カナン（赫・e00116）を先頭に、ライトを用意していた者がしていなかった者を挟むようにして隠された森の小路を活用して進んでいく。
　目指すはオウガメタル。
　ローカストから逃れ、ケルベロスたちへ救いを求めた彼らを救い出すのが今回の任務。
　暗闇をわずかな明かりで進んでも、目を隠した尽影・ユズリハ（ロストブレイズ・e22895）の足が緩まないのは五感を地獄化で補っているからだ。
　少し上空を目立たぬローブをまとって飛行していたシャーリィン・ウィスタリア（月の囀り・e02576）がソレに気付いたのと先頭を行くイェロが気付いたのは、ほぼ同時。
「見えましたわ……！」
「ああ」
　淡く光る銀色のひかり。明滅するそれは間違いない、オウガメタルが発光しているのだ。
　そうしてオウガメタルの後ろには敵の気配がある。駆け抜けたのはシィカ・セィカ（デッドオアライブ・e00612）だった。
「イェイ、ケルベロスのロックなゲリラライブの時間デスよー！」
　手にしていたギターを派手にかき鳴らし、オウガメタルとローカストの間へと割り込む。同時にライトの光量を上げた。
　距離を取ったローカストは合わせて３体。オウガメタルは戸惑ったように体を震わせている。
「もう大丈夫。君を、助けに来た」
　ユズリハの優しい言葉に、オウガメタルは慌てたようにケルベロスたちのほうへ寄ってくる。全員がオウガメタルを背に庇うような体勢を取った。
　ちらりとシャーリィンが背後を振り返る。
「必ずお護りいたします。わたくしたちと絆を結んだ貴方たちを、必ず」
　動きを止めていたローカストの中でも、ひときわ立派に見える装甲のアリが手にした武器をケルベロスたちに突きつける。
「我はアリア騎士レリファイド！　邪魔しに来たか、ケルベロスども」
　そこをどけ、と騎士の名乗りをあげたローカストに、ユズリハが一歩前へ出る。
「やらせはしない。君たちは振られたんだ」
「さぁて、蟻さん。悪ぃけどお家に帰ってもらわなきゃ」
　ユズリハとイェロが言うと龍彦がローカストたちを鼻で笑い、人を食った笑みを浮かべた。
「てめーらのゲートに薬剤流しこんでやるぜ？」
　人差し指をちょいちょいと動かし、来いよと挑発する。
「……おとなしくオウガメタルを渡せばいいものを。我らに刃を向けたこと、後悔するがいい！」
　働きアリと思われる２匹が、レリファイドと名乗った兵隊アリを庇うように前へ出た。

●会敵、交戦
　シャーリィンがスターサンクチュアリを前衛の仲間に付与した直後、兵隊アリのレリファイドが破壊音波を発する。狙いは後列だった。
「やってくれるワね。――年長者として格好をつけさせてもらうワ」
　オトナの戦い方を見せてあげる、とドローテアが蠍座の刻まれたゾディアックソードを構える。
「チェイン接続開始。術式回路オールリンク。封印魔術式、二番から十五番までを解放」
　いくワよ、と術を発動させたドローテアの目は好戦的に輝いている。
「『蠍の星剣／Ｓｃｏｒ－Ｓｐｅｒ』！」
　魔法を宿した剣による一撃――『“蠍の刻印”（スコルピイ・サイン）』が赤い軌跡を描き、レリファイドへと襲い掛かる！
　続いたのは雪兎、龍彦。
「この剣はしさえ凍らせる絶氷の刃」
　時よ凍てつけ、闇を裂け。
　詠唱する雪兎の声も、氷を孕んでいるように聞こえる。
「我は遍く万象を断ち斬る者。蒼空を駆ける凍牙に果てよ！」
　鋭すぎる斬撃は冷気を帯びて、『絶零剣・瞬禍襲刀（ゼツレイケン・シュンカシュウトウ）』が放たれる。
「負けてられねーな。……怒りに任せて、突っ込んで来やがれ！」
　相手を激昂させる一撃、『怨詛恨言（オンソオンゴン）』。
　連続で放たれたようなそれらはすべてがヒットしたわけではなく、働きアリの１体に邪魔されたものもあった。
「そうそううまくはいかないって？　こっちはどうだ！」
　イェロが放ったスターゲイザー。働きアリの１体にダメージを与えた。すぐにそのアリが体勢を立て直して反撃のキックを寄越すが、これはシィカに阻まれる。
　どうやら働きアリ２体はそれぞれディフェンダーとクラッシャーらしい。
（「それなら…クラッシャーを先に倒す」）
　攻撃力の高いグラビティで削っていってやろうと、ユズリハが放ったのは螺旋射ち。
　クリティカル！
（「今は戦闘中……それも、大事な」）
　普段なら敵を愛して壊していくことに快感を覚える。だが今はそれらより優先しなければならないことがある、とカイウスは自分を抑えた。今宵愛し、戦うのではなく護らなければならないのは、背後に庇ったオウガメタルだ。最重要の使命を忘れない。
　手のひらから生じた竜がローカストを焼く、ドラゴニックミラージュ。これもクリティカル。
「この調子デス！　レッツ、ロックンロール！　イェイ！」
　明るい調子のいい声で未来のロックミュージシャンを夢見るシィカが流星のごとき跳び蹴りでさらに追撃する。
　働きアリもただケルベロスの攻撃を受けるだけではない。立て続けにダメージを受けた１対はアルミニウム鎧化で自身を回復させた。
　そうしてまた兵隊アリが鋭い一撃、ローカストファングをイェロに突き立てる。バッドステータス。厄介なことに、兵隊アリはジャマーだったようだ。
「……長引くか……」
　龍彦が小さく呟いた。

●勝利はひとつではなく
　攻防は一進一退を繰り返す。
　その間にシャーリィンやイェロがオウガメタルに声をかけ、あるいは力を貸してくれないかと呼びかける。だが好意的な意思表示は見て取れるものの、残念ながら今はオウガメタルとは共闘できなさそうだった。何か条件があるのかもしれない。
「左よ！」
　ドローテアの声に龍彦が一歩下がった。
「……っと！」
　兵隊アリの音波攻撃に足下をフラつかせた龍彦は、両足でしっかり地面を踏みしめようとする。
「龍彦様……！」
「ボクも回復するよ！」
　シャーリィンもすかさずとばかりに気力溜めを使うと、シィカが歌を奏でる。
「今日のステージは貴女のためのもの……だから、聞いてほしいデス！　ボクの歌を！　届けてみせるデス！！」
　全身全霊で高らかに歌い上げる『聖唱――神裏切りし十三竜騎――』！
　バッドステータスを解除していく。
　そうして、やられてばかりではないとカイウスが彼自身だけのグラビティを解放した。
「星の息吹よ我が身より開け。不死者よ、括目しろ。絶命とは是、この一撃。焼き尽くせ――光翼よ、日輪を抱け！」
　光の翼を広げた、灼熱の魔力砲。命中したその絶対的な熱、魔力は、回復のグラビティを持っていなかった働きアリ１体を絶命させた。
「おのれ……！」
　手下を嬲られてカイウスへと憤る兵隊アリ。横から声を――いや、挑発を投げて得物を鳴らしたのはイェロだ。
「余所見は禁止。こっちを向いて？」
　『手の鳴る方へ（アシューフ）』、刃はまっすぐにアリを捉えた。
「ぐっ……ッ！」
「いいね……手応えある感じ」
　イェロの呟きに、今までの味方の攻撃を注意深く見ていたユズリハとカイウスが声を上げる。
「理力だ」
「それから魔法の攻撃を中心に！」
「それが弱点デスか？」
「ローカストもへばっているから、攻勢をかけるなら今ね！　……その後のことはわかるわね？」
　ドローテアの意味ありげな言葉に全員が頷く。
　わかっている。これ以上に戦いを長引かせれば、不利になるのはこちらだ。ローカストの攻撃はかなりかわせているにしても。
　ローカスト、レリファイドの気勢は荒い。あくまで引く気はないようだった。
　そうしてシャーリィンも呪を唱える。
「どうか、お赦し下さい……。月に捧げましょう……その御身、御心……全てが朽ちるまで……！」
　透き通った声で紡がれた歌はレリファイドを呪縛の鎖で縛り付ける。禁忌の魔術だと、彼女だけが知っていた。
　そうして怯んだローカストたちに、
「さあ……かわせますか？」
　珍しく挑発的な言葉を使ったのは雪兎だ。
　装着したエアシューズのローラーで高熱、いや炎を熾すと、灼熱の蹴りの一撃を喰らわせる！
「ぐぅ……ッ」
　ローカストがたたらを踏んだと見るや、カイウスがデストロイブレイドを放つ。
　そうしてローカストにできた隙に、背後へダッシュしたのはイェロ、カイウス、シャーリィン。
　庇っていたオウガメタルを抱え、夜闇に紛れるように森の奥へと駆けていく。
「待て……！」
「そう言って待つヤツはいない。……君たちは振られたんだ」
　ユズリハ、雪兎、シィカ、龍彦が立ちはだかる。肩を竦めて溜息を吐いたのはドローテアだ。
「若い子たちに負けていられないもの」
　ね？　と浮かべる笑みは好戦的でもあり、挑発的でもあり。龍彦はふんと鼻を鳴らすと斜めにローカストたちを見る。
「……来いよ。怖いのか？」
　怒りのバッドステータスを付けられていたアリが怒り任せに繰り出してくる蹴りを受け止めると、龍彦はにやりとした笑みを口の端に浮かべた。

●勝ち方のひとつ
　戦場を引き受けた５人の目的はひとつ。
　――時間稼ぎだ。
（「戦いに勝つだけが勝利ではありません」）
　鋭い爪の一撃をかわした雪兎が鋭くローカストを睥睨する。
（「オウガメタルとイェロさんたちが安全な場所に到達するまでが勝負デス！」）
　逆に言えば、それさえ叶ってしまえば戦闘は放棄していい。
（「それもまた、ひとつの戦い方、ね」）
　オウガメタルと仲間を逃がして自分たちが窮地に陥っては意味がない。だが、一矢報いるくらいのことはしてみせる。
　アルミニウム鎧化で敵に付与されていたエンチャントを、ドローテアがゾディアックブレイクで解除を試み、続けてシィカが同様にブレイク。
　ダメージ量が多かったユズリハを雪兎が護殻装殻術で回復、龍彦はマインドシールドで前列の者たちの防御を固める。
　防御が主体の戦い。
　持久戦だ。龍彦によってバッドステータス、怒りを重ね付けられた兵隊アリは中心的に龍彦を狙い、働きアリもそれに倣う。
　回復さえ追い付けばなんとかなる。
　キツい、とは誰もが思っただろうが、口にする者はいなかった。
　せめて数ターン分は稼いでおかねばという使命感がそれを上回ったからだ、
　それに、兵隊アリのダメージは回復量を上回っている。働きアリも自分の回復ばかりで攻撃に手が回っていない。
　視線を交し合う。
　当初の目的通り、狙うはアリア騎士のレリファイドだ。
　弱点、あるいは確実度の高いグラビティでカタをつけようと、めいめいが構えを取る。
「そろそろくたばれってんだ！」
　龍彦が惨劇の鏡像を。
　シィカがハウリングフィストを。
「そろそろおしまいにしたいデスね！」
「そうね、これで幕を引きたいワね」
　ドローテアは何度目かの『“蠍の刻印”（スコルピイ・サイン）』を。
　ユズリハが螺旋射ちを。
「巣穴でおとなしくしていれば良かったな……！」
「仕上げはこれです！」
　最後に雪兎が放ったのはシャドウリッパー。
「ぅ、ぐ……ッ、おの、れ……ッ」
　立て続いた猛攻。レリファイドはほとんど避けられず、まともにダメージを喰らった。がくりと膝を着き、残ったケルベロスたちを憎々しげに睨む。
「ここで、我が散ろうとも……！」
　さらに何かを言いかけたが、その時には体が地へと斃れた。
　動かぬ騎士の体が、少しずつ灰のようにさらさらと形を崩していく。
「……行きましょうか」
　ドローテアが声をかける。働きアリはいつの間にかいなくなっていた。戦意を喪失し、逃げ出したらしい。
　５人のケルベロスは勝利の快哉を叫びもせず、オウガメタルとともに撤退した仲間たちを追った。

作者：緒方蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。