オウガメタル救出~絆が導く未来は

作者:成瀬

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。

「集まってくれてありがとう。それじゃ、依頼について説明するわ。……いえ、何でもないの。ごめんなさい。始めるわね」
 決して簡単な依頼ではないと少しだけ心配そうな表情を浮かべるが、微笑んでミケ・レイフィールド(サキュバスのヘリオライダー・en0165)は話し出す。
 黄金装甲のローカスト事件を解決したケルベロス達は、黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことができた。
 アルミニウム生命体は『オウガメタル』という名の種族で、自分達を武器として使ってくれる者を求めている。現在、オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由にオウガメタルを使い潰すように使い方をしている事が結果として判明した。特に黄金装甲化は残虐な行為でオウガメタルを絶滅させる可能性すらあり、ケルベロス達に助けを求めてきたとミケは続ける。
「オウガメタルと絆を結んだケルベロス達が彼らの窮地を感じ取ったのね。オウガメタル達はケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星からゲートを通じて脱出し地球に逃れて来たようなの。でも最重要拠点のゲートには当然ローカストの軍勢がいて、このままではローカスト達によってオウガメタル達は遠からず一体残らず殲滅されてしまうでしょうね」
 オウガメタル達がローカスとに追われているのは、山陰地方の山奥になる。
「ヘリオンで現地に向かい、オウガメタルの救助とローカストをお願いしたいの。この作戦に成功すればオウガメタルを仲間に迎え入れるだけでなく、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置も特定する事ができるようになるかもしれないわね」
 でも、とミケは口元に指を当てて数秒沈黙し思い切ったように口を開く。
「ゲートの位置に関わる事だから、ローカスト達の攻撃も苛烈になるはず。厳しい戦いになると思うわ」
 続いてミケはローカストの戦闘能力を説明する。
「ローカスト達は兵隊蟻ローカスト1体が働き蟻ローカスト数体を率いた群れで、山地の広範囲を探索し、逃走するオウガメタルの殲滅を行っているようね。ヘリオンが現地に到着するのは夜半過ぎ、逃走するオウガメタルは銀色の光を発光信号のように光らせるから、それを目印に降下すればオウガメタルの近くに降りる事ができるわ」
 降下するにはどうしても誤差が発生する為、すぐそばに降下できるわけではないが百メートル以内の場所には降りられる。合流は難しくない筈だ。
 追っ手である兵隊蟻ローカストの戦闘力はかなり高い。ゲートを守るという役割からか、どんな不利な状態になっても決して逃げ出す事はないだろう。働きアリローカストは戦闘が本職ではないが、それでもケルベロス数人分の戦闘力を持っている。ただ働きアリに関していえば兵隊蟻ローカストが撃破され、状況が不利だと思えば、逃亡する可能性がある。
 ――と一通りミケは説明を終える。
「オウガメタルはケルベロスを頼って地球まで来た。結んだこの絆、大切にしたいわね。オウガメタルを助け出せるよう、力を貸してくれないかしら。……皆。どうか、気をつけて」


参加者
マイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)
リディアーヌ・ウィスタリア(スヴニールフイユ・e00401)
エンデ・シェーネヴェルト(飼い猫・e02668)
干支・郷里(紅夜の亡霊・e03186)
御影・有理(書院管理人・e14635)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
ヴィオレッタ・スノーベル(不眠症の冬菫・e24276)
セラ・ギャラガー(ヴァルキュリアの刀剣士・e24529)

■リプレイ

●闇を駆けて
 夜の闇に、時折強く光るものがある。救援を求めるオウガメタルのSOS信号だ。
「助けを求めてるなら、行かない訳にはいきません。まして使い潰されて必死で逃げてきたなんて」
「同感。ローカストには勿体無い」
 ヘリオンから飛び降りた筐・恭志郎(白鞘・e19690)が隠された森の小路を使うと、森の木々や植物が自ら避けてオウガメタルの元へ続く安全な道を作ってくれる。セラ・ギャラガー(ヴァルキュリアの刀剣士・e24529)は眼鏡のフレームを指で直し、なるべく近くに降下するとヘリオンから確認した光を頼りに駆け出す。月明かりで最低限の光はあるが、エンデ・シェーネヴェルト(飼い猫・e02668)を始め多くのケルベロスがライトと暗示ゴーグルを所持していたこともあり、迅速に目的地へ向かうことができた。干支・郷里(紅夜の亡霊・e03186)も着地して体勢を整え、ゴーグルを通して辺りを確認し走り出す。
(「もう二度と、あんなことは繰り返してはならない。……救いを求める声があるから」)
 御影・有理(書院管理人・e14635)は亡くしてしまった友を想い、残された記憶を胸に抱き静かな瞳を前へ向ける。その瞳は普段と変わらないようでいて、その実、熱の篭もる感情が秘められていた。友が生き守ろうとしたこの世界に自分は今立っている。息をしている。そう思えば、心が震えた。
「オウガメタルは助けを求めて地球に来た。ローカストも、せめて侵略じゃない形で地球に助けを求めてきていれば……」
 夜風を頬に受けて走りながらマイ・カスタム(重モビルクノイチ・e00399)が呟く。リディアーヌ・ウィスタリア(スヴニールフイユ・e00401)も仲間たちと離れないよう気をつけ、可愛らしい銀の三つ編みを揺らしながら小路を進んでいく。
「見えたね。良かった。まだ追いつかれてはいないみたいだ」
 向こうから何かが追って来る気配がするが、どうやらローカストたちが追いつく寸前でオウガメタルに接触できたようだ。
「私参上。ケルベロスよ。貴方を助けに来たわ」
 オウガメタルを指差してセラが言う。ケルベロスが追いついたことで、発せられていたSOS信号も止まったようだ。
「オウガメタルは単なる武器じゃなく、生命なんだろ? しかも武器として使ってくれる相手を探している」
 少し考えるようにしてセラは押し黙る。
(「支配され虐げられ、此処まで来たってわけか。……ふーん、そっか」)
 黒い首輪に触れ、エンデ・シェーネヴェルト(飼い猫・e02668)はオウガメタルのおかれた状況に同情を示す。過去を振り返れば決して他人事とは思えない。泣き方を覚え、自由を得て、未来と希望を夢見ることを許された今なら、昔を静かに思い出せる。
「戦闘が始まっていないところに接触できたのは幸いでした。深く傷付いたオウガメタルさんもいないようです」
「……みたいだ。このまま守って逃がしてやりたいね」
 ヴィオレッタ・スノーベル(不眠症の冬菫・e24276)の言葉に、エンデも応じる。 
「危険です。どうか下がっていてください」
「あぁ、ヴィオレッタ殿のいう通りだ。じきに此処は戦場になる」
 有理は戦いの準備を整え備える。ローカストの姿を肉眼で捉えた。戦いは、避けられない。オウガメタルたちは後方に下がり、安全な場所へ移動する。
(「ほんの僅かで何千何百の同胞達を救える」)
 そんな言葉が思い出され、マイの胸に重く落ちた。それは一つの染みとなって、次第に大きくなっていく。けれど、ローカストは侵略者。容赦はできない。

●虫達の惨禍
「十獣が一匹、干支郷里……お前を喰い殺す。名乗れよ、虫けら」
 オウガメタルを追っていた兵隊蟻、働き蟻たちが夜の闇を背景に姿を現す。郷里が低い声で言い放つと、兵隊蟻から答えがあった。
「その意気や良し。私はアリア騎士エスラーン。逃げも隠れもしない。降伏などするものか。何故なら私にも、守るべきものがあるのだから!」
 素早くポジションについたケルベロスたちは蟻達との戦闘を開始した。
 兵隊蟻、アリア騎士エスラーンは羽をすり合わせ前衛へと破壊音波を放つ。不快な音と共に生まれた音波を受け、仲間の何人かは催眠状態になってしまう。次いでジャマーのポジションについた働き蟻たちが一斉に動き出す。後衛を狙った破壊音波を、マイやセラたちが食らうが、ヴィオレッタは身を翻して攻撃を避ける。
「……今の俺には、痛みなど。そんなものは意味が無い」
 棘からアルミ化液を注ぎ込まれるが、郷里は眉一つ動かさない。棘を自らの手で振り払い、威力を半減させる。続く二匹目の動きを正確に読み、落ち着いて有理は攻撃をかわす。
「うーわ、気持ち悪……」
 体内に差し込まれ注入された液体にエンデは眉をひそめ、心なしが重くなった腕を軽く振ってみる。
「オウガメタルさんが言うこと聞かないなら滅ぼしちゃえとか、そんな考え方じゃいつか逆に滅ぼされる側、ですよ」
 命中力を重視し、迷わず恭志郎は命中支援を決める。
「これは、前に進む為の――」
 身に宿した地獄の炎、それを僅かに仲間の武器へと宿らせ分け与える。とくん、と鼓動が脈打つ。熱く、あの日あの瞬間のように。炎の揺らめきは命の光にも似て、前衛の仲間の持つ武器に陽炎を纏わせる。
「ナイス、筐くん」
 武器に宿る陽炎を瞳に映し、綺麗だねとマイが短く零した言葉は恭志郎に届いたかどうか。
「心魂機関フルドライブ! ……3、2、1、爆閃!!」
 全身を包み込むのは炎、そして陽炎。兵隊蟻に組み付くと同時、爆発音が辺りに響き渡る。マイの身を案じた仲間の呼ぶ声がするが、夜風が煙を払った後に現れたのは傷一つないマイの姿。長い銀糸の髪が爆風の名残を受けて流れた。大きな爆発の瞬間、分身と入れ替わったことで負傷をゼロに変え、連続使用を可能する幻の忍法奥義である。
「ついでにもう一発おまけにやるよ……!」
 白い煙がすっかり消えてしまう前にエンデが躍り出た。掌で影を圧縮させ弾丸にして、身体を侵食する弾にして撃ち出す。兵隊蟻は揺らぐ陽炎で目測を誤り、弾丸をまともに喰らいよろめく。
 セラが稲妻の力を帯びたゲシュタルトグレイブを振るい、働き蟻の一匹を攻撃する。同じく稲妻の力を使うのはヴィオレッタだ。ライトニングロッドを前衛へ向け、雷の壁を作り出し異常状態に対する守護の力を授ける。
 兵隊蟻を標的に、郷里は武器を封じようとクイックドロウを仕掛ける。前足に命中したその一撃で、ほんの僅かだが兵隊蟻が怯む様子を見せた。
 マイのテレビウム、てぃー坊は回復役として戦いに参加している。右へ左へとん、とんっとステップを踏み応援動画を流して有理を癒す。
「身体が軽くなった、てぃー坊殿。礼を言わなければならないな」
 出来れば敵は全滅させたい。そう願う有理は柔らかい眼差しを向けてそう言うと、他の仲間に合わせ兵隊蟻へ意識を集中させる。刃を向けるでも構えるでもない。ただ一点、それを超えた瞬間、何の前触れもなく爆発が起こり敵を襲う。
「さーてと。アンタにはイイ夢を見てもらおうか。……悪夢ってやつを」
 とんっと指先で首輪に触れてみると、何故か言いようのない安堵を覚える。惨殺ナイフの刀身が月明かりに煌めいた。そこに映し出されるのはトラウマ、物理的ではなく精神を侵食するようなユメ。
 前衛だけでなく守護の力を後衛へも与え、ヴィオレッタは中衛まで耐性の力を仲間へ付与し続ける。
「……ッ」
 働き蟻が軽く身体を震わせたと思うと、牙を見せて恭志郎へ噛み付こうとする。攻撃が自分に届く寸前で後方へ下がるが、避けたその場所にはもう一体の働き蟻が。腹部に鋭い衝撃、一撃だけで終わらず首筋にも痛みが。しかし攻撃の要となる顎が傷付けられているせいか、覚悟していた程ではない。それでも苦痛は苦痛。唇を閉じ奥歯を噛んで声を殺す。ちらとマイが横目でそんな様子を見遣るが、何も言わなかった。
 一方。ノーマークだった働き蟻にリディアーヌは稲妻突きを繰り出す。一瞬青白い光が生まれ、腕の動きが鈍くなったのが見目にもわかった。
 郷里は声をあげて身体に受けた催眠を吹き飛ばそうとする。
 喪失の事実は変わらない。仲間を守れなかったことを後悔しない日は無い。これが代替行為にさえならなくても、――。
(「守れるなら、守りたい」)
 そう思わずにはいられなかった。
 誰かを守る力になる。それは郷里にとって、『我が王』に誓った約束。
 働き蟻の攻撃を受け止めた自らのボクスドラゴン、リムへ有理は声をかける。
「心通わせることで、共に生きる道はきっと開ける。……そうだろう、リム?」
 人のような言葉は話せないが、リムは小さく信頼を込めて鳴いた。
「っ、く……」
 別の働き蟻が羽を震わせ、耳を塞ぎたくなるような音を響かせる。それを聞いていると、ヴィオレッタの意識に僅かに霧がかかったようになってしまう。
「わが攻撃、光の如く、悪鬼羅刹を貫き通す」
 セラの指先に光が集められ、矢のかたちに具現化する。
 敵の存在を許さない神々しい光の刃。セラが凛とした声で詠唱すると、命令に応じて瞬時に矢が放たれる。それは速く、速く。働き蟻の回避を許さない。

●絆
 ケルベロスたちは主として働き蟻には構わずに兵隊蟻を狙い、先に撃破しようと試みる。回復役がもグラビティもないせいで徐々に蟻達は押されていくが、それでも広範囲に渡る催眠の効果や強力な兵隊蟻の攻撃によってケルベロスも傷を深めつつあった。
 守護の力を得て、リディアーヌの身体を淡い光が包み込む。完全ではないが少しだけ意識がクリアになるのを感じた。すっと息を吸い込み、両の腕に意識を向け内臓モーターを起動させるとドリルのように回転させる。小さな機械音に伴い、攻撃力を増した一撃が兵隊蟻を襲う。
「悪く思わないで欲しい。……業を背負う覚悟はできてる」
 斬霊刀を構えた有理はほとんど唇も動かさず、兵隊蟻の傷口を刃で正確になぞり斬り広げていく。
「……押されていることを認めなければならぬ。だがしかし、私もアリア騎士の一員。引くわけにはいかない!」
 無理矢理に広げられた傷口をじりじりと炎で焼かれ、黒っぽい影に攻撃を受けながら兵隊蟻は呻くように言う。羽を震わせ破壊音波を放つと、それにつづいて傷付いた働き蟻が一斉に破壊音波を重ねケルベロスたちを前衛から後衛まで残らず襲う。避けられた者はごく僅かだ。リディアーヌも攻撃を受けるが機械化された四肢を一瞥すらせず、痛みを感じる様子はない。
 虚ろな眼をしたセラが何か呟きながらくるりと身体の向きを味方の方へと変え、正確な狙いで気咬弾を郷里へ放つ。続くエンデもすっと目を細め、何も言わず恭志郎へ黒影弾で攻撃を仕掛けてしまう。
 マイが働き蟻へマルチプルミサイルを撃ち込み牽制すると、生まれたその隙に恭志郎が回復のフォローへまわった。
「これで目を覚ましてください。大丈夫。……大丈夫ですよ」
 優しくそっと微笑みを浮かべ、今だからこそと恭志郎は仲間にそう声をかける。
「使いつぶして、逃げだしたら皆殺し、なんて……!」
 そんな声に勇気を得て、ヴィオレッタが一歩踏み出す。普段は眠そうなヴィオレッタだが、今回は決して簡単な依頼ではないと理解し緊張気味でもあった。前衛へオラトリオヴェールを使い、眩い光で仲間を包み込む。
 シャウトを使って息を吐いた恭志郎の目に、まるでその光景はスローモーションのように映った。エンデもまた目を瞠り、見えた硬質な牙に短い声をあげる。避けられるだろうか、――否。これは。
 一瞬、エンデの脳裏に綺麗な瞳をした大切な存在の姿が過ぎった。
「エンデさんッ!」
 鋭く呼ぶ仲間の声に、応える力は残されていない。意識が霞む、遠くなる。苦痛の中、エンデは意識を失った。何かを探すよう少しだけ伸ばした手は、何にも触れないまま。
 戦いはまだ終わってはいない。リディアーヌは青ざめた顔でしかし、何とか戦いに意識を切り替えようと努め大きく声をあげて催眠に対抗する。
 郷里は真っ直ぐに前を見詰めた。今やるべきことは倒れた仲間の元へ駆けつけ抱き起こすことではない。少しでも多く、ダメージを与え終わらせることだ。そう、判断して。兵隊蟻へ重力の力を利用し足元を蹴りつける。
 油断していたわけではない。
 しかし、気がついた時には目の前に牙が迫っていた。リディアーヌの柔肌へ突き立てられるアルミの牙。深く深く食い込んで、喉から掠れた声がもれた。
「そんな。……ごめん、なさい……」
 帰るべき場所、待っていてくれる人。美味しい珈琲の味。それらがぐるぐると溶け合って巡り、リディアーヌは糸の切れた美しい人形のように崩れ落ちる。
 血塗れの口元を拭いもせず、兵隊蟻はケルベロスたちを睨みつけ笑うように羽を震わせた。
(「落ち着いて、わたし。傷の深い方は……」)
 特に前衛の体力に気を配っていたヴィオレッタは仲間を見回し、掌に回復の力を溜める。
「御影さん、今回復しますね」
 力を溜めて玉にして飛ばし傷を少しでも癒そうとする。
「筐くん」
 唐突にマイが名を呼んだ。それはいつも聞く、馴染みのある声。戦いの最中とは思えない程の『日常』がそこにはあって、呼ばれた方は思わず目を瞬かせる。
「大丈夫、だ」
 たった一言を繰り返す。そう言った口元はほんの少し笑っていて、乱れかけた心の波が正しい波長を取り戻していく。その一撃は流星の煌めき。しっかりと軸足で自重を支え、最高の一撃を叩き込む。
「――はい」
 攻撃の流れを絶やさずに汲み、手番を取る。恭志郎の目の前に召喚されたのは無数の刀剣。一つひとつが月明かりを受けて煌めき、しっかりと見据えられたその先、ふらついた兵隊蟻をターゲットに定める。一瞬、目が合ったような気がした。
 断末魔はなかった。
 兵隊蟻――アリア騎士エスラーンは倒れても尚這い上がろうともがいて土を掻いていたがやがて、動かなくなった。
 数秒の沈黙。
 兵隊蟻が倒れてしまうと、働き蟻たちに動揺が走った。
 アリア騎士のような覚悟など彼らにはない。あっという間に逃亡し、見えなくなってしまった。
 倒れたエンデとリディアーヌにマイたちは急いで駆け寄る。
「生きてるわ。死んではいない」
 呼吸を確認したセラが告げる。傍らで恭志郎が力が抜けたように座り込んだ。
「……僕は。助けられたのか」
 下がっていたオウガメタルが郷里の足元にも寄ってくる。ケルベロスたちがいなければ、今頃全滅していたかもしれない。
「良かったですね、オウガメタルさん」
 膝を折って屈み込み、ヴィオレッタは微笑みかける。
 傷だらけの身体で有理は近付き、告げる。縁は絆となって、未来に繋がった。
「生を望むならば、私達と共に行こう」

作者:成瀬 重傷:リディアーヌ・ウィスタリア(スヴニールフイユ・e00401) エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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