オウガメタル救出~血煙舞う進軍

作者:朱乃天

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。

 玖堂・シュリ(レプリカントのヘリオライダー・en0079)はヘリポートに集まったケルベロス達に、ローカスト事件のこれまでの経緯を話し出す。
 黄金装甲のローカスト事件を解決したケルベロス達。それによって、黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことができた。
「絆を結んだ結果、次のことがそれぞれ判明したんだ」
 アルミニウム生命体は、本当は『オウガメタル』という名前の種族で、自分達を武器として使ってくれる者を求めている事。
 現在、オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、彼等を使い潰すような使い方をしている事。
 特に、黄金装甲化は、オウガメタルを絶滅させる可能性すらある残虐な行為である事。
「更にここからが本題だけど、オウガメタルと絆を結んだケルベロス達が、オウガメタルの窮地を感じ取ったんだ」
 オウガメタル達はケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星からゲートを通じて脱出、地球に逃れてきたようである。
 しかし最重要拠点であるゲートにはローカストの軍勢がおり、その軍勢達の手によって、オウガメタルは一体残らず殲滅されてしまうだろう。
「そのオウガメタル達だけど、山陰地方の山奥でローカストに追われているみたいだね」
 よって今すぐヘリオンで現地に急行し、オウガメタルの救助とローカストを撃破するのが今回の作戦だ。
 もしこの作戦に成功すれば、オウガメタルを仲間に迎えることが可能になるだろう。
 しかも、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置の特定までもできるかもしれない。
 ただし、ゲートの位置を知られるのはローカストにとって死活問題だ。
「だから、この戦いは今まで以上に厳しくて、ローカスト達の攻撃も熾烈を極めると思う」
 それでもこの好機を逃すわけにはいかない。シュリは言葉を続けて、今回戦う敵の情報を説明し始める。
「ローカスト達は山地の広範囲を探索し、オウガメタルの殲滅を行っているみたいだよ」
 ヘリオンが現地に到着するのは夜半過ぎとなる。
 逃走中のオウガメタルは、銀色の光を発光信号のように光らせるようだ。その光を目標に降下すれば、オウガメタルの近くへ辿り着けるだろう。
「降下の位置は多少の誤差が生じると思うけど、百メートル以内の場所には着ける筈だよ」
 それなら合流も手間取ることはない。到着したら即座に動いた方が良さそうだ。
「追っ手は兵隊蟻ローカストが1体と、働き蟻ローカストが2体ほど付き従っているよ」
 兵隊蟻ローカストの戦闘力は非常に高くて好戦的で、ゲートを守るという役割からか、どれだけ不利な戦況下でも決して逃げ出す事は無さそうだ。
 対して働き蟻ローカストは、戦闘は本職ではない。とはいえ、ケルベロス数人分の戦闘力を持っているから侮れない。
 ちなみに働き蟻は、兵隊蟻が撃破されて状況が不利だと判断したら、逃げ出す可能性があるようだ。
 何れにしてもよもやの急展開となってしまったが、上手くいけばローカストと決着をつけられる、千載一遇の機会とも言える。
「オウガメタル達も、ボク達の力を頼っているからね。折角結ばれた絆だし、このまま見殺しにするわけにはいかないと思うんだ」
 全ては、ケルベロス達の力にかかっている。どうかオウガメタルの命を救ってほしい……シュリは頭を下げて、今回の作戦を託すのだった。


参加者
カナネ・カナタ(やりたい砲台の固定放題・e01955)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)
立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)
ヴィンセント・ヴォルフ(境界線・e11266)
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)
平島・時枝(フルメタルサムライハート・e15959)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)

■リプレイ

●邂逅
 鬱蒼と木々が生い茂り、深い静寂に包まれていた夜の山奥が、にわかに騒めき出した。
 ローカストの支配から逃れようと脱走したオウガメタル達。その救出に駆けつけるべく、ケルベロス達は大規模作戦を決行した。
「あっちっす! あっちで今ピカッてしてたっす!」
 先行する鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)が、『隠された森の小路』の力で道を拓いて、進路の先に視えた微かな光を指し示す。
 それは、オウガメタルが居場所を知らせる為に発した銀色の光。そこを目印に辿っていけば、救出対象のオウガメタルと合流できる。
 しかしローカスト達もまた、オウガメタルを殲滅せんと追っ手を差し向けている。事態は一刻の猶予も許さない。ケルベロス達は五六七の後に続いて奥へと踏み込んでいく。
「折角繋がったオウガメタルさんとの絆を、ここで断たせるわけにはいきません!」
 ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)は黄金装甲ローカストとの戦いにおいて、オウガメタルと絆を結んだ一人である。
 オウガメタルの身に迫る危機を感じ取った彼女は、華やかな魔法少女の衣装を翻し、必ず救出してみせると心の中で固く誓っていた。
 歩を進めるにつれて次第に大きくなる銀色の光。そして――彼等はついにオウガメタルと合流することができたのだ。
「お待ちどうさん、オウガメタルを救助し隊一丁お届けってねぇ!」
 平島・時枝(フルメタルサムライハート・e15959)が威勢のいい声で、真っ先にオウガメタルに呼びかける。
 周囲を見渡すと、追っ手のローカスト達の姿はまだ見当たらない。小路を作り最短距離を選んで、迅速に移動することを心掛けたのが、功を奏したと言えよう。
 だが、気付かれるのは時間の問題だ。ケルベロス達は敵の襲撃を警戒しつつ、保護したオウガメタルに言葉をかける。
「俺達ケルベロスが、どんな事があっても必ず助ける。だから、絶対に大丈夫だって信じてほしい……!」
 鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)の言葉には、自らが信じる正義を貫く意志が込められている。郁は己の掌をふと見つめ、覚悟を示すかのように拳を強く握った。
「救いを求める手を、俺達は絶対に離さない。必ずお前を救出してみせる」 
 リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)はオウガメタルを護るように背を向けて、敵の迎撃に備えて五感を研ぎ澄ます。
「初対面の相手だとか利害関係がどうのこうのとか、そんなのはどうでも良いわ。助けてと求められたから駆けつけた、それだけよ」
 サバサバとした口調で、カナネ・カナタ(やりたい砲台の固定放題・e01955)が呟いた。理屈なしに救いの手を差し伸べるのが、ケルベロスだと。
 アルミニウム生命体であるオウガメタルは言葉を発しない。とはいえ、それでもケルベロス達の熱意は伝わっているだろう。
「それじゃ、ローカストが来る前に安全確保しないとね」
 そう言って、立花・彩月(刻を彩るカメラ女子・e07441)はオウガメタルをアイテムポケットに収納しようと試みる。
 どうやらオウガメタルの大きさは収納できる量を超えてしまうので、一部のみを分割して収納することにした。ちなみに、彩月が身に付けているのはビキニだったりする。
「み、みんな見ないでっ!」
 一体水着のどこに収納したのかは、全員目を背けてくれたので彼女だけの秘密となった。

●疾風の騎士
 残ったオウガメタルの避難も無事完了し、後は接近してくるローカストを討ち倒すのみ。戦場の空気が一変して静まり返り、緊迫した雰囲気に包まれる。
 近付く敵の気配に勘付いたヴィンセント・ヴォルフ(境界線・e11266)が、仲間に合図を送って臨戦態勢に入る。
「今は、助けを求めざるを得ないのだろうが……見極めるといい。ケルベロスは、信頼に足るか、どうか」
 そしてヴィンセントは誰よりも速く飛び出し、忍び寄る敵に先んじて攻撃を仕掛けた。
「その身に呼び醒ませ、原始の畏怖」
 闇夜の中に、漆黒の閃光が弾け飛ぶ。紫電が奔り、黒き雷霆の槌が兵隊蟻を穿ち、敵部隊の進行を鈍らせる。
「ぐっ……! 何だ、敵襲か!?」
 思いもよらぬ突然の襲撃に、兵隊蟻は足を止め、働き蟻達は尻込みしながら狼狽える。
「ナイスだ、ヴィンス。オウガメタルは、お前達には絶対に渡さない!」
 全幅の信頼を寄せる親友と息を合わせて、郁が積極攻勢で突撃し、兵隊蟻目掛けて闘気の弾丸を撃ち込んだ。
「ああ、俺達ケルベロスがいる限り、貴様等の目論見は阻止させてもらう」
 リューディガーは信頼の置ける戦友達の戦いぶりを頼もしく思いつつ、地面に星座の結界を描いて守護の力を施した。
「敵の動きを教えてくれるから、少しは攻撃の助けになるとは思うわ。けれど……こればかりをアテにしないでね」
 彩月のステレオカメラ搭載ドローンが頭上に飛来する。カメラが敵の動きを高速演算することで、攻撃補助の役割を果たす。
 五六七が百円玉を指で弾いて空に飛ばすと、何もないはずの空間に穴が開き、中から魔力で創造された線路が伸びて、ファンシーなミニチュア列車が線路を通ってやって来る。
「装填よーし! 射角よーし! ドカンといくっす!」
 五六七は軽やかに列車に飛び乗って、搭載されたカノン砲を操縦し、兵隊蟻に特大の砲弾をお見舞いさせる。
「そんなに金目の奴が欲しけりゃ、好きなだけ喰らってきなぁ!」
 不可視の速度で時枝がリボルバー銃を抜く。と同時に発射された鉛の銃弾が、兵隊蟻の腕を射抜いて怯ませる。
「キミ達の相手は、おねーさんがしてあげるわよ」
 働き蟻への牽制も忘れてはいけないと、カナネがガトリングガンを一斉射撃する。魔力を篭めた弾丸が命中し、爆発で生じた炎が働き蟻を包み込む。
「ローカストの企み、ここで粉砕します!」
 ルーチェが地面を蹴って高く跳躍し、重力を乗せた飛び蹴りを兵隊蟻に叩き込む――が。兵隊蟻はその一撃を受け流し、ルーチェの身体を振り払う。
「ケルベロス共め……邪魔をするなら纏めて斬り伏せてくれよう。我はアリア騎士が一人、ベンダバール。貴様等の命はここで断たせてもらう!」
 名乗りを上げた兵隊蟻――アリア騎士のベンダバールは、腕を刃と化してケルベロス達に斬りかかる。
 刃は正対する郁に対して振り下ろされるが、リューディガーが庇うように間に割り込み、手にした星剣で斬撃を受け止めようとするものの。ベンダバールの刃の方が一拍早く、隼の名を冠した制服と一緒に肉体をも斬り裂いた。
 リューディガーの肩から血が滲み出る。その様子を見ていた彩月が、すぐさま癒しの気を流し込んで受けた傷を修復させる。
 ケルベロス達の奇襲攻撃によって一方的に攻められていたローカスト達だが、一旦攻撃の手が止まった隙を逃さず反撃を開始する。
 働き蟻が牙を剥いて襲いかかってくる。標的は、先ほど攻撃を仕掛けたカナネに向けられた。働き蟻の牙がカナネの肌に食い込むが、カナネは痛みを堪えて逆に働き蟻を押し返そうとする。
「おねーさん壁役だから……この程度ではまだ倒れないわよ!」
 ローカスト達の攻撃はまだ終わらない。今度はもう一体の働き蟻が、羽根から耳障りな音波を発してケルベロス達の五感を狂わせる。
「う……うわああぁぁぁっ!」
 怪音波に耐え切れなくなった時枝が、見境なしに日本刀を振り回す。刃を振り上げた先にいたヴィンセントは即座に危険を察知して、紙一重で回避に成功し掠り傷程度に留まった。
「む、これはいかん」
 味方が敵となってしまっては元も子もない。リューディガーは時枝に気を押し当てて、音波の効果を打ち消し時枝の目を覚まさせる。
「先に兵隊蟻を落とす。攻撃を重ねるぞ」
 この戦いにおいて最も脅威となるのはアリア騎士である。ならばまずそっちを優先すべきと判断し、ヴィンセントは妖精の加護を宿した矢を番えて敵を射る。
 アリア騎士は、一体でケルベロス八人と渡り合える強さを誇る。しかも働き蟻の増援も加わっており、純粋な戦力差のみで語るなら、ケルベロス達は苦戦を免れない。
 ただし、ローカストよりも早くオウガメタルと接触し、先手を奪ってダメージを負わせたことにより、ケルベロス達は互角の勝負に持ち込むことができていた。

●それぞれの矜持
 拮抗した力同士がぶつかり合い、一進一退の攻防が繰り広げられ続けたが、均衡は些細なことで崩れてしまうものである。
「あまり動き回られると厄介だからな……ここで足止めさせてもらう」
 郁がグラビティで形成したライフル銃を手に、照準を合わせて狙い撃つ。銃口から射出された雷の光弾が、ベンダバールを捉えて敵の動きを抑え込む。
「こうして足止めを続ければ、必ず勝機は見えてきます!」
 ルーチェが後に続いて縛霊手を叩きつけ、霊力の網を絡めてベンダバールを締め上げる。
 ケルベロスの攻撃がアリア騎士に集中している、その間隙を縫って働き蟻も攻めてくる。
 とりあえず一番倒せそうな相手を狙って、ウイングキャットの『マネギ』に喰らいつく。立て続けに噛みつこうとする働き蟻達の牙を、五六七が身を盾にして食い止めた。
「よくもマネギを……! 覚悟するっす!」
 相方のウイングキャットを傷付けられ、五六七の心に怒りの炎が沸き上がる。しかし頭は冷静に、日本刀をフルスイングして働き蟻の羽根を的確に掻き斬った。
「救護部隊、出動! 全力を以って我らが同朋を援護せよ!」
 前衛の護りを固めるべく、リューディガーが独自開発したヒールドローンを展開させる。その時、ベンダバールが距離を縮めてリューディガーに凶刃を振り翳す。
「この間合いでは避けられまい。我が疾風の剣、その身に刻んであの世に逝くが良い!」
 刃は防御を掻い潜り、擦り抜けるようにリューディガーの胸を撫で斬り、真一文字に傷を刻み込む。
 深手を負い、両膝を突いて倒れ込み、薄れゆく意識の中でリューディガーの目に映った物は、自身の手首に嵌めた玻璃のブレスレットだった。
 刹那――彼の脳裏には、帰りを待つ愛しき婚約者の笑顔が浮かび上がった。
「俺は……まだこんなところで、果てるわけにはいかない!」
 意識を取り戻し、命の危機を凌駕して、猛き銀狼が闘志を滾らせながら再び立ち上がる。
「後もう少し頑張って……早く決着を付けるわよ」
 彩月が手にしたボタンを押すと、爆発と共に極彩色の爆風が巻き起こり、仲間達の戦意を奮い立たせる。
「距離を詰めれば楽勝、ですって? 分かってないわね」
 カナネが攻撃直後に生じる僅かな隙を突き、周囲に巨大な砲台を設置する。
「こーいうときは……先生、出番よ! 連携ならこっちも負けないわ!」
 自信に満ちた笑みを浮かべるカナネ。砲台は自動でベンダバールに狙いを定め、敵を感知した瞬間、砲撃を開始した。
 轟音が響き渡る中、時枝は戦場を縦横無尽に駆け巡ってベンダバールの背後に回り込む。
「畜生道に身を窶し、心機衰えて頭を垂れるべし――」
 全ての能力を開放した時枝が放った渾身の剣技。礫や矢弾の雨が降り注ぎ、間髪入れずに雷纏いし刃をベンダバールに突き立てる。
「つまりは這いつくばりやがれって事よ、カッ飛べ畜生剣すていやああぁぁぁぁぁ!!」
 時枝の刀が敵の装甲を打ち破り、ベンダバールはグラリとバランスを崩してよろめいた。
 敵はかなり消耗している。この好機に乗じて一気に畳み掛けるべきだと、ヴィンセントは脇目も振らずに疾走して火力を集中させる。
 禍々しい漆黒の鎌で薙ごうとするが、ベンダバールは咄嗟に後ろに飛び退って身を躱す。
「無駄だ。お前の動きは、お見通しだ――」
 刃の軌道を寸前で変え、影を伸ばすように下から斬り上げる。すると見事に逆袈裟斬りが決まって、ベンダバールの身体を鮮やかに斬り払う。
 会心の手応えの直撃を食らい、全身血に塗れたローカストの騎士は……未だ倒れず瀕死の状態になりながらも、辛うじて踏み止まっている。
「……アリア騎士の名に於いて、命を賭しても……貴様等を道連れにしてくれる!」
 死の淵に追い込まれたベンダバールの最後の足掻き。アリア騎士としての執念の刃が――ヴィンセントの心窩に深々と突き刺さる。
「ヴィン……ス……?」
 糸が切れるように崩れ落ち、郁の前で力尽きるヴィンセント。一瞬、二人の目が合って、翡翠の瞳が閉じられるのを見届けた郁は――無言で頷き、守護星座の力を剣に纏わせる。
 生命を脅かすほどに酷使を虐げる……。例え如何なる事情があろうと、非道な行いをするローカストは断じて許せない。
 全重力を凝縮させた刃を、豪快に振り下ろす。ベンダバールに抗うだけの力はもはや無く――ヴィンセントが付けた傷と交わるように十字を刻み、アリア騎士の信念を断ち斬って、ローカストの生を終わらせたのだった。

「「ヒッ、ヒイイイィィッ!?」」
 ベンダバールの死を悟った働き蟻達は、戦うのを諦めて逃げようとする。しかし五六七が瞬時に反応し、逃走を阻止しようと大きく飛び跳ねる。
「ちょっと待つっすよ! そう簡単には逃がさないっす!」
 マネギが引っ掻いたところに五六七の蹴りが炸裂し、働き蟻は地面に叩きつけられる。
「他人の、もとい他金の上前跳ねる蟻ん子は、クシャッと潰れてくったばりやがれぇ!!」
 時枝が腕の螺旋に刃を乗せた突きを働き蟻に捻じ込み、抉るように潰して止めを刺した。
 残ったもう一体の働き蟻も、既に完全に包囲されて虫の息状態だ。
「どうやらここまでね。大人しく見逃してあげるほど、わたしは優しくないわよ」
 にっこり微笑む彩月の頭上には無数の刀剣が漂っており、それが一斉に襲いかかって働き蟻を刺し貫いていく。
「これで終わりです! 打ち抜け、太陽のビート! サンライト……インパルス!!」
 可憐な魔法少女の衣装を靡かせながら、ルーチェが力で捻じ伏せようと拳を叩き込む。
 重力を乱す波長を働き蟻の体内に流し込み、魂の機能を停止させて息の根を止めた。
 こうして全てのローカストを撃破して、この戦いはケルベロスが勝利を収めたのである。

 戦闘を終えて、オウガメタルと仲間全員の無事を確認するケルベロス達。
 負傷した者も致命傷には至らず、命に別状はないようだ。
 ほっと一安心すると気が抜けたのか、疲労が一気に押し寄せてきてその場に踞み込む。
 それでもやるべきことを成し遂げた。戦士達の表情は、何れも穏やかに綻んでいた。
「さあ、後はみんなが待つ場所に帰るわよ」
 カナネがウインクしながら明るい声で帰還を促した。オウガメタルとも一緒に――。
 地球に来た以上は色んなものが変わってしまうだろう。それでも受け入れてくれるなら。
 新たな仲間を得、世界の運命がまた一つ大きく変わろうとする。
 この日はきっと、彼等にとって忘れられない一日になるだろう。

作者:朱乃天 重傷:ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266) リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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