オウガメタル救出~黄金色の逃亡者たち

作者:そうすけ


 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
 

「初めまして。ボク、新人ヘリオライダーのゼノ。予知で頑張ってみんなをサポートするよ。よろしくね」
 集まったケルベロスたちに挨拶を済ませると、ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は早々に笑顔を引っ込めた。幼い頬を強張らせつつ、今回の大規模同時予知について背景となる前事件について語りだした。
「黄金装甲のローカスト事件を解決したケルベロスたちは、事件中に黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことができたんだって。すごいよね。それでね、絆が結ばれた結果、アルミニウム生命体の本当の種族名が『オウガメタル』だってことがわかったんだ」
 それから、と指を一本ずつ折りながら他にわかった事をあげていく。
「一つ目。オウガメタルが自分たちを武器として使ってくれる者を求めている事。二つ目。オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルを使い潰すような使い方をしている事。三つ目。オウガメタルの黄金装甲化は、オウガメタルを絶滅させる可能性すらある残虐な行為である……って、とっても酷いことするよね」
 ゼノは残りの指を一度に折り曲げると、ぎゅっと拳を握り固めた。
「オウガメタルたちはケルベロスと新たに結ばれた絆を頼りに、ローカストの本星からゲートを通じて脱出。地球に逃げてきている。でも、出口側である地球のゲートにも当然、ローカストたちがたくさんいて……。助けに行かないと、全滅しちゃうかもしれないんだ。みんな、ボクと一緒にヘリオンに乗って、いますぐ山陰地方の山奥に向かってくれるよね!」
 次々に上がる同意の声に、サキュバスの少年はとびっきりの笑顔を見せた。
 そうでこなくっちゃ、と心底嬉しそうだ。
「ローカストたちは群れを作って山の広い範囲を探索しながら、逃走したオウガメタルたちを追っているみたい。群れは、兵隊蟻ローカスト1体と働き蟻ローカスト2体で組まれているよ。
 兵隊蟻ローカストの戦闘力はかなり高くて、ゲートを守るという役割からか、どんな不利な状態になっても決して逃げ出す事は無い。
 働きアリローカストは戦闘が本職じゃないけど、それでも一体がケルベロス数人分の戦闘力を持っている。まともに群れとぶつかったら大変だ。ただ、働きアリローカストは兵隊蟻ローカストが倒れたら逃げ出しちゃう可能性もある。これはあくまで可能性の話だけど、作戦を考えるときに参考してみて」
 救出のタイムリミットが迫ってきている。もはや一刻の猶予もならない。
 ゼノの合図でヘリオンの搭乗口が開き、ヘリポートにステップが降ろされた。
「さあ、乗って。現地到着は夜半過ぎ。当然、真っ暗。でも、オウガメタルは銀色の光を信号のように発しているから、それを目印に降下すれば彼らの近くに降りられると思う。すぐ隣にってわけにはいかないけどね。合流は難しくないと思うよ」
 だが、オウガメタルを追うローカストも必死だ。彼らの命運がかかっているのだから当然といえば当然なのだが。合流は簡単、しかし、ローカストを退けるのは難しいだろう。最後まで無傷のまま立ってはいられまい。
「うん、とても厳しい戦いになる。とても……。でもね、この作戦に成功すれば、オウガメタルたちが仲間になるだけでなく、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置も特定する事ができるかもしれないんだ。全部成し遂げたら、ケルベロス冥利に尽きるよね!」
 ゼノは目を輝かせながら親指を立てた。


参加者
シフィル・アンダルシア(アンダーテイカー・e00351)
リリキス・ロイヤラスト(庭園の桃色メイドさん・e01008)
蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)
緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)
ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
アリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380)
アオ・ミッドカイン(空を舞い落ちる星・e24484)

■リプレイ


 ヘリオンの外に半身を乗りだすと、天の川をそっくり写し取ったかのような光景が眼下に広がっていた。
 ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)はあまりの美しさに息をのんだ。
「あの星の煌めきは……オウガメタルたちの叫び声か」
 となりで頷いた四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)だが、胸の内は複雑だ。
(「デウスエクスを助ける……? 私が……? ……変な話」)
 デウスエクスに何もかも奪われた。あの日から今日まで、妖刀"千鬼"はいまもささやき続けている。黄泉の底より親を取り戻したくば、数多の魂を我にささげよ、と。
 そう、千里にとってデウスエクスは願い事を叶えるための贄に過ぎない。
(「でも助けを求める弱いものは……護る……私がかつてそうしてもらったように……」)
「そうとも! 助けを求められているなら、向かわない理由は無いよな!」
 驚いて横を向くと、笑顔で親指を立てるミルカと目が合った。声に出てたらしい。
 妖刀"千鬼"を手にもう一度頷いて、鎧装技師の娘ともに空へ飛び出した。
 続いて蒼樹・凛子(無敵のメイド長・e01227)とリリキス・ロイヤラスト(庭園の桃色メイドさん・e01008)の二人が降車口に立つ。
 凛子は前髪を右手で抑えた。
 離れたところに浮かぶヘリオンから、一つ、また一つ、光の筋を引きながら仲間たちが降下していくのが見える。
「リリさん、そばにいてくださいね」
「はい。それでは空ではぐれたりしないように、手をつなぎましょう」
 リリキスは揺れる瞳に愛する人の不安を見て取った。差し出した手の空に乗せられた温もりを、そっと指を閉じて包み込む。言葉の代わりに思いを込めて握りしめた。
 緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710)は腰に拳をあてると、手をつないで飛び出していった恋人たちを見送った。
「わうっ。相変わらず仲がいいな」
 アリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380)とボクスドラゴンのドラゴソが横に並ぶ。
「ラブラブだったね。ふふ、戦いの前にすっごいパワーをもらっちゃった。よ~し、頑張るぞ~」
 アリスは腰に携えたライトのスイッチを入れた。
 敬香も仲間が用意してくれたライトに光を灯す。
「わうー……。ねえねえ、オウガメタルって犬耳に装着すると一緒に動くのかな?」
 ぴこぴこと耳を動かして、隣のサキュバスに問う。
「ん~、わかんない。それよりさ、降下の時にいつも思うけど、なんでサキュバスは翼があるのに飛べないんだ~」
 いいながら、ドラゴソと一緒に手足をバタつかせて地上へ落ちていく。
「わうっ?! ま、待って~!」
 わんこメイドは慌てて後を追った。
「……賑やかね」
 シフィル・アンダルシア(アンダーテイカー・e00351)の意識はすぐに眼下の戦いへと向けられた。
 数分間隔で強く発光する銀色の点。小さくなって散ったり、集まって大きくなったりしながら流れていく光こそ、ケルベロスが保護すべき対象、否、助けなくてはならない仲間だ。
 アオ・ミッドカイン(空を舞い落ちる星・e24484)は、仲間の横に静かに立つとオウガメタルたちにエールを送った。
(「共に戦いましょう、だから今は無事で」)
 かつてはデウスエクスとして追う側だった。因果は巡る。こうして守る側に立ってみれば、ヴァルキュリアもまたオウガメタルと同じく利用されるがまま使い潰されようとしていたことに気づく。
(「デウスエクスだった自分達ヴァルキュリアが地球の一員になれるよう尽力してくれた様々な人達のためにも、助けを求める声があるなら力の限り応えたい――」)
 ぽん、と肩を叩かれて我に返った。
「……行きますよ」
 過去を振り払い、アオはシフィルとともに飛んだ。
 

 ケルベロスたちは『助けに来た』、と落ちながら点滅する銀の光に向けて呼びかけた。励ましの意味もあったが、なによりも彼らと素早く合流するためだ。
 ミルカは巧みに翼を動かして、草が茂る斜面に着地した。予想地点よりも少し下へ落ちてしまったが、視界に点滅する銀の光はちゃんと入っている。
 少し離れたところに一緒に千里が着地した。
 古風な提灯に火がともされて、辺りが丸くほんのりとした橙色の光に照らされた。
 続いて凛子とリリキス、敬香とアリスとドラゴソがそれぞれ木々の間の狭い空間に降り立った。
「オウガメタルたちはどこです?」
「この上に。すぐ近くにいるはずよ」
 最後にシフィルとアオが合流すると、ケルベロスたちは一斉に斜面を駆け上がった。
 木々に囲まれた小さな空き地に出るとすぐ、発光する塊がいくつか草を飛び越えてきた。
「あは♪ スライムみたい。かわいい~」
 オウガメタルは見た目はまさにスライムそのもの、不定形のデウスエクスだった。
「危ない!」
 敬香がスライムもとい、オウガメタルの一つに駆け寄ろうとしたアリスの腕を引いた。
 闇を抱く木々の間から二体のローカストがぬっと姿を現したかと思うと、目に見えぬ斬撃でオウガメタルの塊が真っ二つになった。
「早く! 私たちの後ろへ!」
 ミルカは白き翼を広げると、パニックを起こして迷走するオウガメタルたちの上を飛び越えた。
 ローカストたちの進路を阻みつつ、別のオウガメタルの塊を蹴り上げようとした青目のローカストに自作のアームドフォートを向ける。
「時をも凍てつかせる冷気を浴びて、死を告げる花になれ!」
 夜を切り取ったような蒼い凍結弾が飛びながら薄く砕けて青に変じ、さらに色彩を落として白く透けゆく。
 着弾と同時に衝撃波の花が咲いた。
 撃たれた青目は勢いに押されて尻もちをついた。
 そこへ、ゆらり、ゆらりと提灯お化け。
 幽けき炎を揺らしながら妖刀憑きの少女が闇に舞う。
「立つな。そのまま落ちて、我が宿願を叶える星の一つになるがいい」
 着物の裾が割れて、すらりと長く伸びた脚が出された。
 ローカストの胸に咲いた氷結の花を蹴り砕く。
 黄目のローカストが仲間を庇って、ケルベロスたちの前に飛び出した。
 凛子は黄目を狙って鞘から斬霊刀を抜き放った。
 刹那、異質だがよく通る声が二体の後ろで響く。
「裏切り者の始末に専念しろと命じたはずだ!」
 甲冑をまとったような姿の赤目のローカストが、闇を割ってケルベロスたちの眼前に姿を現した。
「そいつらは無視しろ!」
 命令口調からして兵隊蟻のようだ。ならば、青目と黄目はさしずめ働き蟻といったところか。
 凛子は素早く相手方のヒエラルキーを見抜いた。
「わたくしたちを無視……ですか。できるものならやってごらんなさい。己のために他者を利用し、貶め、その命を軽んじる輩にオウガメタルたちは渡しません!」
「ほざいていろ。我らは女王アリアの命を果たす」
 赤目は対になった額の触覚を前に向けると、透き通った羽を広げて激しく震わせた。
 衝撃を伴った振動音がケルベロスたちを襲う。
「ぼくたちの出番だ。行くよ~!」
 アリスとドラゴソは体を張って小さな防波堤を作り、押し寄せてきた衝撃波の真ん中で受け止めた。
「キュルル?」
「ふええ~。寝ちゃダメだよ、ドラゴソ」
 しっかり、と言いながらアリスは地上に落ちかけた小さな体を腕に抱きとめた。
 青目は尻をあげると、その勢いで高く飛んだ。
 頂点で木の幹を蹴って落下の角度を変え、ケルベロスたちの後ろへまわりこもうとしていたオウガメタルめがけて急降下する。
 鋭く蹴り踏まれたオウガメタルは、限界までひしゃげてふくらんだ末に破裂した。
 四散した命の欠片が、近くにいた千里とシフィルの体を無情にも傷つける。
「逃げる者に……ひどいことするのね!」
 シフィルは長い耳を怒りで震わせながらケルベロスチェインを繰り出した。
 青目を後の木に縛り、ぎりぎりと締め上げる。
「ローカスト……。虫はそういえば前の主のお嬢様が苦手で私がよく対処していましたねぇ」
 のんびりとした口調とは裏腹に、リリキスが冷ややかな声でつぶやく。簒奪者の鎌を大きく振りかぶると、戒めを解こうともがく青目に投げつけた。
 死をつかさどる鎌がひび割れた青目の胸に突き刺さった。
 いきなり黄目が体の向きを変えた。
「Temps pour le lit」
 敬香は眼鏡をはずすと、わんこから女狼へとシフトチェンジした。素早くローカストの行く手に立ちふさがる。
「どこへ? まさか、私を無視してここを抜けられると思ったの?」
 凛子が、たたらを踏んで立ち止まった黄目の背を取った。
「敬香さん、今です」
「合わせて!」
 揃って放たれた剣光は、裁断した夜気に桜の花びらの幻影を乗せて空を飛び、前後から黄目の体を切った。
 働き蟻は血吹雪をあげながらキリキリと回ると、ぱたりと倒れて地に伏した。
 山間を渡る薫風が、低い雑草を赤黒く染めた血の匂を運び去る。
「仕留めましたか?」
「ダメ、動く!」
 二人の間でもぞもぞと、手負いのローカストが手足をうごめかせた。這い進みながら手足で小さなオウガメタルたちをプチプチと踏みつぶしていく。
 アオは光の翼を広げて蟻の手から遠ざかると、黄目に死の前兆は見当たらないと告げた。
「見た目の動きに騙されないで、まだ余力がありそうよ」
 ライトニングロッドを葉の天蓋から覗き見える空へ向けて雨雲を呼び、雷光を発して仲間たちの前に磁気の壁を築き上げる。
 果たしてどの程度、前線の体力が回復したのか。足りないならばもう一度、とアオはロッドを強く握りしめ直した。
「そっちも――ああ、危ない!!」 
 青目はいつの間にか、体内に捕えていた『アルミニウム生命体』を解放し、生体金属の鎧で割れた胸を覆っていた。
 逃げ戸惑っていたオウガメタルの塊に、腕から伸びた棘を突き刺す。
 ミルカは体当たりして青目を弾き飛ばすと、オウガメタルを胸に抱きあげた。
 とたん、注入された『アルミ化液』によって流動性を奪われたオウガメタルが結合を解いて崩れだす。小さなオウガメタルたちは着地の衝撃に耐えられず、粉々に砕けてしまった。
「ああ、そんな!」
 ミルカの悲痛な叫び声にかぶせて、赤目が羽を激しくこすり合わせた。
 怪音の振動に折りたたまれた空気の層が、ケルベロスたちに押し寄せる。
「愚行……。私たち地獄の番犬を相手に、同じ手を打つとは愚かですね」
 千里は攻撃をかいくぐると、鬼を模した小手から爆炎弾を連射した。地を這うように燃え広がった炎が、黄目の甲殻に包まれた手足を焦がす。
「次、行くよ!」
 シフィルは詠唱とともに掌を振りぬいて空気を燃え上がらせた。黄目を飲み込んだ炎が、周囲の空気を巻きあげて柱のごとく立ち上がり、得物をむさぼり食らうドラゴンの姿に変貌する。
 ドラゴンが天へ去ると、黄目の悲鳴も消えた。
 おびえた青目が、きょろきょろと視線を泳がせて退路を探しはじめた。


「馬鹿者。敵前逃亡は私が許さん。女王アリアと同胞たちに命をささげよ!」
 赤目に恫喝されて、青目が立ち止まる。
 敵側に生じた一瞬のスキをついて、リリキスは破壊魔剣が出す紫の焔を獅子のたてがみのようになびかせながら赤目に肉薄した。
「奪うのがそちらだけだと思わないことですね。奪った分、全て奪いつくされることも覚悟し、この地獄の紫焔が呼び出す斬撃を受けなさい!」
 振り下ろされた剣が肩に触れた刹那、赤目は生体金属の鎧を発動させた。
 生体金属の鎧はギザギザにひび割れながらも獄奪の斬撃に耐え、心の臓の手前で刃を止める。
「ギギッ!」
 赤目は剣を握るメイドの肩を両手でつかんで引き寄せると、アルミの牙を白い首筋に突き立てた。長い桃色の髪ごと皮膚を裂き、肉を食いちぎる。
 勢いよく吹きだした血が、桃色の髪を跳ね上げながら赤く染めた。
「リリさん!! くっ……させ、ない……っ」
「駄目っ」
 千里は暴走して恋人を助けようとした凛子を引き留めた。
「離し……て!」
 黒髪が左右に揺れる。
 いま暴走したところでリリキスを盾にかわされてしまうだけだ。
「だから……駄目」
 一か八かの賭けだが、ここは赤目が捕えるアルミニウム生命体に反乱を呼びかけよう。
「助けを求める同胞を追い詰めてまで……ローカストに従う理由はあるの……? 戦いの趨勢は既に決した、私たちは貴方たちを助けに来た……。オウガメタル達よ、今こそ反乱の時!」
 ミルカも一緒に心から訴えかける。
「私達が君達皆をローカストから解放すると約束する、だからそいつらの支配に抗う事で力を貸してくれ!」
 だが――。
「くくくっ……馬鹿どもめ。アルミニウム生命体ごときが、装備者の意に反抗できるとでも思ったか」
 制御できないほど強力なオウガメタルたちと違い、一介の兵が体内で飼うアルミニウム生命体は微力だ。弱いがゆえに、彼らに飼いならされてきたと言える。
 千里は悔しさに下唇を噛んだ。
「まとめて死ね!」
 赤目はリリキスの体を投げ捨てると、口から血を吐き出しながら羽を激しく震わせた。
「ここで私たちが倒れるわけにはいきません!」
 アオは怪音からオウガメタルたちを庇って深手を負ったディフェンダーを癒すために、再び招雷の杖を振るった。
 立ち上がったサキュバスの飛べない翼の後ろで、オウガメタルたちが集合を繰り返しながら逃げていく。
「そうだね。ぼくたちは最後まで戦うんだ。そして、そのために役立つのなら……」
 アリスは集めた快楽エネルギーを桃色の霧状に変えて指先から噴出しつつ、体の前で大きなハートを描いた。
「ぼくの快楽エネルギーあ~げるっ」 
 深い情愛の霧に包まれて、ケルベロスたちが立ち上がる。
 兵隊蟻を仕留めるべく力を合わせ、次々と攻撃を繰り出した。
「幾千、幾万の棘を以ちてその身に絶望を刻む……裂き乱れなさい」
 シフィルが斬霊刀を翻して赤目の全身に死の薔薇の刻印を捺す。
「消えない情熱の炎で……消し炭にしてあげる!」
 敬香はローラーダッシュすると、薔薇の刻印に炎を伴う激しい蹴りを叩き込んだ。
 生体金属の鎧が割れ落ちる。
「よくもリリさんを……氷の華が貴方の墓標です。地獄へ落ちなさい」
 罪深きデウスエクスに蒼き龍の裁きが下された。
 怒りとともに刃に乗せた氷の吐息を、むき身の赤目に神速でたたきつける。
「我は水と氷を司りし蒼き鋼の龍神。我が名において集え氷よ。凛と舞い踊れ!」


 ケルベロスたちは逃げる青目を追いかけなかった。
 轟音とともに黒い影が落ちてきて、爆風で草木を揺らす。
 ヘリオンから降ろされる縄梯子を見つめながら、アオは最後の気力を振り絞って仲間を癒した。
 しかし、凛子に抱かれて目を閉じるリリキスの意識は依然として戻らない。
「リリさん、しっかりして。わたくしから離れないと約束したでしょ? いくらでも敬香さんの耳を触っていいですから、嫉妬なんかしませんから……目を開けて、お願い」
「……ふふ、本当ですか?」
 薄く目を開けて微笑む顔を、一粒の涙が打った。

作者:そうすけ 重傷:リリキス・ロイヤラスト(幸運のメイド様・e01008) 緋薙・敬香(ガーネットダーク・e02710) アリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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