オウガメタル救出～逃走レチタティーヴォ

■リプレイ

●邂逅
　強い光が闇夜を照らし、明滅する。
　樹々が生い茂る山奥に走る光はオウガメタルからの救援信号。光が伸びて来た方向にはローカストの支配から逃げ出し、助けを求める物達が居る。
「あっちだ！」
　百丸・千助（刃己合研・e05330）がランプで道を照らし、隠された森の小路で道をひらいてゆく。その後に続き、ミミックのガジガジがついていった。
　夜桜・月華（まったりタイム・e00436）は頷きを返し、仲間達と共に救援の光が見えた方向へと駆けた。
「救出を急ぐのですよ」
　まったりするのは戦い終わった後にしましょうと口にし、月華は先を急ぐ。
　助けを呼んでいるものが有るなら、それを見捨てる理由などなかった。それにきっとオウガメタルは不安になっているはずだと感じ、蛇荷・カイリ（あの星に届くまで・e00608）は真っ直ぐに前を見据える。
「私が……皆を、護るんだッ！」
　カイリが己を鼓舞した刹那、向かう先に影が見えた。
　居た、と呟いたカナメ・クリュウ（蒼き悪魔・e02196）はオウガメタルの存在と同時に、違う気配を感じた。それらが敵だと察した仲間達は身構える。
「オウガメタル、発見しました！　しかし、あれは……ケルベロス！」
「逃げる者を追い回すとか最低な虫達だね」
　配下らしき蟻が声をあげると、カナメが吐き捨てるように息を吐いた。
　同時にカルロス・マクジョージ（煌麗の満月・e05674）がボクスドラゴンのアルバリドラと共にオウガメタルの前に立ち塞がり、敵を強く睨む。
「絶対に、彼らに攻撃を与えさせないよ！！」
「振られた相手の尻を追うなんざ男が廃るぜ？　蟻んコども」
　辰・麟太郎（臥煙斎・e02039）が挑発的に敵を見遣ると、蟻達は攻撃陣形を取る。見ればオウガメタル達からは怯えが感じられた。
　ミューシエル・フォード（キュリオシティウィンド・e00331）は頬を膨らませながらオウガメタルを庇い、敵を睨み付ける。
「もーっ、こわがってるよ！　虫さんたちは『お友達にひどいことしちゃいけません』って習わなかったのかなあ！」
「意志あるものを使い潰すなど離反されて当然でございます」
　ミューシエルの純粋な怒りに同意を示し、コッペリア・オートマタ（アンティークドール・e00616）も冷ややかに敵陣を見つめた。
　今この瞬間に戦いの緞帳があがる。誰もがそう感じながら、強く身構えた。

●名乗り
　そのとき、兵隊蟻らしき個体が一歩前に出る。
「アリア騎士、ラント。今より邪魔者を排除すべく力を揮う！」
「それがアンタの名か、面白れぇ！」
　真正面から名乗った敵に対し、麟太郎は少しは礼儀があるのだと感心した。刹那、兵隊蟻ラントが鋭く変形した腕を振り下ろす。避けきれぬと察した麟太郎は自らの腕で一閃を受け止めて耐えた。
　カイリが即座に横手から旋刃の一撃で打って出たが、麟太郎はあまりの衝撃に樹に叩き付けられてしまう。だが、彼はすぐに竜翼を広げて体勢を立て直した。強いわね、と思わず零したカイリだったが、簡単に怯むような彼女ではない。
　其処へ、即座に反応した千助と月華が力を紡ぐ。
「すべての魔力を癒やしの力に――」
　回復は任せてくださいと皆に告げ、月華は魔術回路を活性化させた。魔力の波動が広がる中、千助は地面に魔鎖を展開する。癒しと守護の力が広がっていく中、千助は礼儀を重んじて名乗り返した。
「百丸・千助――推して参る！」
　気を引き締めた千助はガジガジに仲間を守るように願う。
「僕だって！」
　カルロスはブラックスライムを鋭い槍の如く伸ばし、アルバリドラも竜の吐息を吐き、攻撃手であろうと立ち回った。
　カナメは軽く呼吸を整え、戦いに意識を集中させる。
「本当、さっさと害虫駆除しちゃおうか」
　虫は大嫌いだと零したカナメは地面を強く蹴り上げて跳躍する。回転と共に放つ流星めいた一閃、その狙いは前衛に位置している兵隊蟻だ。
　合わせてコッペリアも魔鎖を浮遊させ、敵の姿を銀の瞳に映した。
「蟻よ、自らの行為の報いを受ける時でございます」
　今こそがその時だと告げ、コッペリアは解き放ったケルベロスチェインでラントの身を縛りあげようとする。だが、相手も手練れの兵だ。敵はカナメの蹴りを受けながらもコッペリアからの鎖撃を躱した。
　しかし、その隙を逃すまいと駆けたミューシエルが地雷を設置する。
「たくさんわがまま言って、にげたらすぐにおっかけて捕まえようなんて、オウガメタルさんがかわいそうだよ！」
　絶対に助けてあげる、と背後に逃げたオウガメタルに告げたミューシエルは、地雷を一斉に起爆させた。炸裂音が辺りに響き渡り、蟻達に足止め効果が巡っていく。
　カイリは敵の陣形を把握し、働き蟻が後衛攻撃手と前衛防護役、兵隊蟻が前衛攻撃手になっていることを見抜いた。
「あっちの一体は後衛みたいね。それなら貴方、ラント達から倒すわ！」
「やれるものならやってみるがいい！」
　凛としたカイリの宣言に対し、兵隊蟻ラントは勇ましく応える。その間に働き蟻達がローカストの爪を振り、カルロスに向けて突進してきた。しかし、即座に飛び出したカイリがそうはさせない。
「手強い……けど、まだまだッ！」
「ありがとう！　でも、体力には気を付けてね！」
　カルロスは自分を庇ってくれたカイリに礼を告げ、黒き触手を招来してゆく。生と死の境界線から呼び出された触手達は敵の命の鼓動を止めるべく蠢いた。
　それによって兵隊蟻に大きな衝撃が与えられる。
　麟太郎は其処に好機を見出し、近くの樹を蹴った。竜翼による低空飛行の最中に雷に似た己のグラビティを纏った彼は、目にも止まらぬ速さで敵陣に突進する。
「決着にゃまだ遠いが――先ず、真正面から突き崩す！」
　雷天大装の名に相応しく、その一撃は兵隊と働き蟻の身に痺れを与えた。後衛の働き蟻は牽制程度に留め、狙うは前衛の二匹。
　カナメは螺旋の力を込めた掌を胸の前に掲げ、冷ややかな眼差しを差し向ける。
「害虫駆除も骨が折れそうだね」
　零れた溜め息には変わらぬ嫌悪が混じっていた。その一撃は兵隊蟻の腹部を見事に貫き、大きく穿つ。
　されど兵隊蟻もカナメを狙って牙を剥いた。
　すかさずガジガジが守護に回ったが、ローカストからの一撃がミミックの体力を大幅に奪い取る。月華は再び波動を纏い、傷付いた仲間に癒しを向けた。
「今すぐに癒すのですよ」
　爆発的に増幅された月華の力は強い。それは一瞬で受けた傷をうわまわる回復となり、しかと戦線を支える。千助もガジガジに大丈夫かと問いかけ、いつでも癒しを施せる準備を整えていた。
　コッペリアは背を支えてくれる癒し手達に信頼を寄せ、更なる攻勢に出る。
「魂さえ凍てつく氷棺の中で己が罪を知り、己が罪を悔い――」
　己が罪を詫び、己が罪を償え。
　地獄の業火が解き放たれ、焼き尽くすことで熱を奪う。紅蓮の華に似た焔が敵を引き裂いていく最中、ミューシエルは軽やかに飛び上がった。
　木々を蹴り、枝に掴まり、羽ばたきで葉を巻きあげたミューシエルは縦横無尽に動き回りながら敵を翻弄した。
「＜畏れよ＞＜讃えよ＞＜この天地こそが全てを見守る偉大な母＞＜唱和せよ＞＜この歌こそが天地と共に響く歌＞＜畏れよ＞＜讃えよ＞」
　そして、少女は世界を称える歌を紡ぐ。
　天地絶唱の聲は荘厳に響き渡り、昏い戦場に勝利への希望を齎していった。

●急転
　戦いは巡り往き、何度も激しい攻防が重ねられた。攻撃手として重い一閃を振るい続ける兵隊蟻ラントの脅威は恐ろしい。
　コッペリアは妨害に重点を置き、カナメは常に攻撃を行い続けることで敵の力を削り取っていく。だが、働き蟻と共に連携を行う兵隊蟻も手強かった。
　彼等は仲間を庇い続けたミミックが弱っていると察し、狙いを定める。
「気を付けろ、ガジガジ！」
「アルバリドラ！　駄目だ、避けられない！」
　千助が呼びかけ、同様に狙われたボクスドラゴンに対しカルロスも声を掛けた。だが、二体はローカストからの容赦のない一撃ずつによって消滅した。
「よく頑張ったな、ガジガジ」
　千助は相棒の健闘を称え、改めて回復の力を仲間に巡らせる。カルロスも悔やむ暇はないと首を振り、倒れたアルバリドラに感謝を向けた。
　一瞬だけ不穏な空気になった事を察し、カイリは凛とした声をあげる。
「全員で帰るんだから……こんなところで、負けるわけにはいかないでしょうがっ！」
　そう、まだ形勢は十分に巻き返せるはず。カイリはそう示すように縛霊手を振りあげ、鋭い一撃で敵を穿った。
　其処に麟太郎が闇を斬り裂くが如き咆哮をあげ、魔法光を解き放つ。それは言葉にも増して強く、仲間達の背を押す鼓舞となった。
　月華も静かに頷き、負けないと心に誓う。
「なんとしても、オウガメタルは無事に救出するのですよ」
　今は自分達だけの戦いではない。背後に守るオウガメタル達を救う戦いだ。ミューシエルはぐっと掌を握り、怯える様子の彼等にやさしく呼びかける。
「大丈夫、ミューたちがぜったい守ってあげる！」
　ミューの羽の後ろなら怖くないよ、と翼を広げた少女はきっとオウガメタル達から見ても頼もしく映っただろう。
　彼等は声こそ出せず明確な意思の疎通も出来ないが、ケルベロス達を信じる想いは空気として伝わってくる。
　コッペリアは嘗ての戦いを思い返し、僅かに瞳を閉じた。
「オウガメタルよ、私は先の戦いで貴方達の同士を救うことができませんでした。今度こそあなたたちを救ってみせるのでございます」
　瞼を開き、地を駆けた摩擦熱と地獄化した両足の炎を巻き起こしたコッペリアは兵隊蟻に向けて烈しい焔を与える。
「地獄の炎をも超えるわが身が纏う炎の熱を思い知るのでございます」
「生きる為に足掻く奴等を、放っとくワケにゃ行かねぇだろ！」
　麟太郎もオウガメタルへの思いを言葉に変え、迫り来る敵に矢を向けた。
　自分は既に定命の者。だからこそ――。
　打ち放たれた矢は働き蟻の心を貫き、惑わしの力で動きを狂わせる。次の瞬間、惑わされた働き蟻が仲間の働き蟻を攻撃しはじめた。
「今だ！」
　催眠が効いたと察した麟太郎の声にカナメが応え、己の力を具現化する。
「そろそろ終わりにしようか」
「……ぐ、これしきのことで！」
　瞬時に絡みついたのは――糸、絲。意図。
　ラントの動きが目に見えて鈍くなり、僅かな勝機が見えてきた。カナメが合図を送ると、カイリとカルロスが更なる攻撃を与えに駆ける。
　一方的ではあるが、同士討ちをしはじめた働き蟻。
　そして、弱りかけた兵隊蟻ラント。仲間達は何を最初に倒すべきか判断を下し、意思を交わしあった。
「虫さん、ミューたちの力を受けてみるといいよ！」
　ミューシエルは竜語魔法を詠唱し、幻竜を兵隊蟻に向かわせる。更なる炎が敵を包み込み、その力を奪い取っていった。ミューシエルの一撃は深く巡ったが、催眠に掛かっていない後衛蟻が麟太郎に襲い掛かる。
「お前ぇさんの相手をしてる暇はねぇんだ！」
　だが、すべてを受け止めて見せると心に決めた麟太郎はローカストの爪を受け止めた。鋭利な爪は鱗を破る勢いで、鋭い痛みが身体中を駆け巡る。
　一瞬、麟太郎の意識が遠のく。だが――。
「倒れるにゃ未だ早ぇんだよ！」
　自らの意志で肉体を凌駕した彼は己を呼び起こした。千助はこれ以上仲間を倒させはしないと決め、活法の力を解き放つ。
「癒しの蛇よ、血を辿れ！」
　それは百丸流の技の一つ。癒しの力を込めた霊力が蛇めいた形に変わり、傷を負った仲間の傷を癒した。千助と麟太郎の視線が交差し、小さな笑みが浮かぶ。
　皆が果敢に立ち回る中、月華も味方の背後で爆発を起こして士気を高めてゆく。
「あなた達の姿をこの目に焼き付けておきましょう」
　月華は最後まで癒しを続ける覚悟を決め、仲間達の背を見つめた。働き蟻達は尚も向かってくるが、カナメはそれらを無視してラントを狙う。
「頭さえ取れば終わるよね？」
　天空より無数の刀剣を召喚したカナメは戦場に刃を解き放った。カルロスが其処に続き、アルバリドラの分まで戦うと心に決める。
「あのアリ達に、天誅を！　アステリズム・フェルダウン！！」
　星群を落とすが如く、降り注ぐ星の洗礼が働き蟻ごと兵隊蟻を次々と穿った。カルロスの勇敢な声を聞き、ミューシエルも強い眼差しを敵に向ける。
　そして、コッペリアは以前を思い返した。
「貴方達では武人であった金甲のフーガには劣るのでございます。信念なき貴方達に勝てる道理はないのでございます」
　背中のハッチを開いたコッペリアから幾重ものミサイルが飛び交い、敵を打ち貫いてゆく。ラントは既に虫の息。働き蟻達の統率は乱れており、配下二体は慌てた様子で右往左往していた。
　カイリは拳を握り締め、共に戦う仲間とオウガメタル達を思う。
「私が、皆を……無事に、返すんだ……！」
　次の瞬間、放たれたのは過影圧殺。発現した影は質量を持ち、全てを黒に染めるべく敵に向かった。影は見る間に兵隊蟻を包み込み、そして――断末魔もあげられぬまま押し潰された兵隊蟻ラントは跡形もなく消え去った。

●叙唱から独唱へ
　戦いはまだ終わりを迎えていなかったが、不穏な空気が辺りに満ちる。
　一瞬の沈黙の後、口火を切ったのは働き蟻達だった。
「て、撤退だ！　急げ！」
「ラント様を倒した奴等に我らが勝てるはずがない！」
　慌てて駆け出した働き蟻達は一目散に逃げていく。カルロスは仲間と逃走する敵の背を交互に見比べ判断を仰いだ。
「どうする？　追いかける？」
「尻尾を巻いて逃げた奴らなんて追わなくて良いよ。それに……」
　カルロスの問いにカナメが答え、背後の茂みを目で示す。其処には既にオウガメタルに駆け寄っていた少女の姿があり、やさしく手を伸ばしていた。
「もうへいきだよ。ミューたち、みんなを助けにきたの！」
　ミューシエルが伸ばした手にオウガメタルが近付き、スライム状に変化させている体を擦り寄せる。言葉は発せないようだが、まるで『ありがとう』と言っているかのように見え、月華は微笑ましさを感じた。
「ひとまずは彼等の保護でしょうか……」
「そうね、その為に此処まで駆け付けて来たんだもの」
　カイリ達が保護について語る中、コッペリアは安堵めいた思いを感じていた。千助は復活したガジガジの蓋を撫で、激しかった戦いを思い返す。もし兵隊蟻を最後に倒そうとしていたらこれ以上の被害が出ていただろう。
　だが、自分達は見事に勝利を得た。
「手強かったな、アリア騎士ラント。でも、終わり良ければ総て良しか？」
「まだ完全には終わっちゃいねぇが……救えるものは救ったからな！」
　麟太郎は頷き、木々の合間から見える夜空を振り仰いだ。
　真の敵は狂愛母帝アリア。
　護られたゲートへの道は遠く、この戦いもきっと――始まりの序曲に過ぎない。

作者：犬塚ひなこ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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