オウガメタル救出~搾取からの逃走

作者:沙羅衝

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。

「集まってくれて有難うな。ちょっと込み入った状況やねんけど……」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が、集まったケルベロス達に説明を開始していた。絹の様子は少し困惑気味で、どこから話したら良いか考えているようだった。
「依頼の話をする前に、情報を知っておいてほしいんやけど、この前『黄金装甲のローカスト事件』ちゅうのんが起きたのは知ってるかな? 色々話せば長くなるから、ある程度割愛するけど、この事件の結果、ローカストが使役していた『アルミニウム生命体』とケルベロスの間に絆を結ぶことが出来てん」
 絹が話すその結果の話を聞き、おお、と感嘆の声を上げるケルベロス達。まあ、詳しくは個人で調べてな。と、前置きをした上で、絹は話を続ける。
「その結果、アルミニウム生命体は本当は『オウガメタル』という名前の種族で、自分達を武器として使ってくれる者を求めているみたいなんよ。
 現在、オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルを使い潰すような使い方をしてるらしいわ。特に『黄金装甲化』はオウガメタルを絶滅させる可能性すらある危険な技術らしいねん。
 そんな経緯から、このオウガメタルから助けを求められたんよ」
 頷くケルベロス達。絹に続きを促す。
「で、や。この前このオウガメタルと絆を結んだケルベロス達が、オウガメタルの窮地を感じ取ったんや。
 オウガメタル達は、ケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星から、ゲートを通じて脱出、地球に逃れてきたみたいでな、今、山陰地方の山奥におるらしいわ。せや、追われとる」
 絹は、察しの良いケルベロスの表情を見て、頷きながら続ける。
「ちゅうことは、ここに、ゲートがある。当然やけど、ローカストの軍勢がおるやろし、このままやったらオウガメタル達が殲滅されるのも時間の問題や。
 絆を結んだ経緯から、うちらケルベロスは、このオウガメタルを救う事を決定した。オウガメタルの救助と、その追っ手の撃破が今回の依頼や。
 この作戦が成功したら、オウガメタルを仲間に、そして、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置も特定する事が出来るかもしれへん。ただ、ゲートの位置にかかわるから、ローカスト達の攻撃も苛烈を極めるやろ。厳しい戦いになると思う。でも、宜しく頼むわ」
 絹はそう言って、ケルベロス達を見つめた。すると、決意した表情のケルベロスに詳細を求められ、有難う、と言い、少し安心した表情を浮かべた。
「追っ手のローカストは、1体のオウガメタルに対して、兵隊アリローカスト1体が、働きアリローカスト2体から3体を率いた群れで行動しとる。
 ヘリオンが現地に到着するのは、夜半過ぎで、逃走するオウガメタルは、銀色の光を発光信号のように光らせてるから、それを目標に降下すれば、オウガメタルの近くへ降下する事ができると思う。降下は誤差があるやろから、すぐそばに降下できるわけや無いんやけど、百メートル以内の場所には降下できると思うから、合流は難しくないと思うで。
 追っ手の兵隊アリローカストの戦闘力はかなり高い。ゲートを守るという役割があるし、どんな不利な状態になっても決して逃げ出さへん。それに、この兵隊アリローカストには催眠の攻撃がある。羽根を震わせる動作をしたら、警戒したほうが、ええやろな。
 働きアリローカストは、戦闘は本職やないんやけど、それでもケルベロス数人分の戦闘力を持ってるで。ただ。この働きアリは兵隊アリローカストが撃破されて状況が不利だと思えば、逃げ出す可能性があるみたいやな。せやから、どうやって殲滅させていくのか、作戦立ててみてな」
 ローカスト3、4体を一度に相手をしなければいけない、それも、オウガメタルを救助しつつとなると、一筋縄では行かないだろう。作戦が運命を左右する事は明白だった。
「ほんま、急転直下な展開やけど、うちらを頼ってきたオウガメタルを全滅させる事はできへん。ほな、ヘリポート行くで!」
 こうして、ケルベロス達はヘリポートに向かって行った。


参加者
神崎・晟(魁殿竜・e02896)
槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)
黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)
黒白・黒白(携帯用自宅警備員・e05357)
笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)
餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298)
ミハイル・アストルフォーン(えきぞちっくウェアルーラー・e17485)
有枝・弥奈(紫電双閃・e20570)

■リプレイ

●ケルベロスとオウガメタル
 ズボォ!!
 鈍い音と共に、梅雨の湿気ですっかり柔らかくなった地面に、いきなり何かが深く突き刺さった。
 少しの間をあけ、笹ヶ根・鐐(白壁の護熊・e10049)を抱えた神崎・晟(魁殿竜・e02896)が、翼を畳みながらボクスドラゴン『ラグナル』と共に滑らかに降り立って言った。
「人を投げるときはもっと腰を使ってだな……」
 晟は、冗談なのか本気なのか分からない言葉を呟きながら、周りを注意深く探る。
 彼らの目前には木々が乱立していたが、鐐と先程の何か、黒白・黒白(携帯用自宅警備員・e05357)を、空中で投げた黒住・舞彩(我竜拳士・e04871)と共に、隠された森の小路を使って先頭で降下していた為、それらの木々がケルベロスの行き先を邪魔する事は無かった。
「うあ……これ、何て言うんだっけ?」
 ミハイル・アストルフォーン(えきぞちっくウェアルーラー・e17485)は、地面から生えた黒白の足を見て、何かに似ていると感じ、思い出そうと思考をめぐらせていた。
 そしてその黒白の前には、少し怯えたような、びっくりしたような動きを見せる不定形の光る物体が、ぷるぷると全身を震わせていた。
 ミハイルのボクスドラゴン『ニオー』は、その物体の周りをぱたぱたと翼を動かしながら浮かび、周囲をぐるりとまわる。
「彼……だよね?」
 有枝・弥奈(紫電双閃・e20570)が、その光る物体を目標に、周囲に小さなライトを無数にばら撒きながら降下してくる。
「ええ、彼がオウガメタルです」
 餓鬼堂・ラギッド(探求の奇食調理師・e15298)は絹の言う『黄金装甲のローカスト事件』で、オウガメタルと絆を結ぶ事に成功をしていた為、その特徴は良く分かっていた。
 弥奈と鐐もラギッドとは違う事件に入っていたが、元気な姿を実際に見るのは初めてだった。
「どうやら、敵よりも早く合流できたようですね。今のうちです。少し移動しましょう」
 ラギッドはそう言うと、助けにきました、付いてきてくださいと、その不定形の光る物体『オウガメタル』に語りかけながら、歩き始める。
「大丈夫だよ。僕達はケルベロス。必ず守るから何も心配いらない。そうだ、その光、少し弱めることができるかい?」
 ライドキャリバー『雷火』を連れた槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)が、優しく語り掛けると、オウガメタルは発光を止め、素直にその後に続いていった。
「よし、急ごう」
 ズボッ。
 黒白の足を片手で持ち、そのまま引っこ抜く鐐。鐐のボクスドラゴン『明燦』の、鼻先の辺りまで彼をぶら下げる。
「黒住ちゃん、酷いッス」
 地面からようやく顔が出た黒白は、鐐にさかさまに吊り上げられたまま、舞彩に文句を言う。当然顔は泥だらけであるが、文句のわりにギョロ目をちらつかせ、ケケケと呟いている。とても、満足そうだ。
「はいはい。セクハラよ。今度やったら、グラビティを叩き込んであげるわ」
「キモに命じるッス。ケケケ」
 どうやら、空中でひと悶着あったらしいが、いつもの事のようだと分かり、他のケルベロス達は特に気にしたそぶりも見せなかった。
 ケルベロス達はいち早くオウガメタルと合流できた為、追っ手が来る前に、自らの戦闘を優位に運ぶことが出来る場所を探し出す事に成功した。そして、鐐がその戦闘に影響が出ない位置へと、オウガメタルを隠しに移動していった。オウガメタルが隠れることのできる位置は、既に清登が降下中に見つけており、鐐にその場所を伝えていたのだった。
「完璧……。なんてね。さて、これからね」
「ええ。そしてどうやら……来ましたよ」
 舞彩が表情を引き締め、それにラギッドが答える。ラギッドの視線の先には、ガサガサという音と共に、一つの集団がこちらに向かってきているのが分かった。

●奇襲
 その集団は、ケルベロスの姿を確認すると、一気に距離を詰めてきた。
「ケルベロスだな? オウガメタルを何処へ隠した?」
 その声は機械的ではあるが、少し焦っているかのようでもあった。
「さて、何処だろうな?」
「ま、知ってても、教えないッス」
 武装したアリのローカストが言うと、晟と黒白が答えながら武器を構える。
「邪魔だな……殺すか。おい」
 武装したローカストが、少し小さめの2体のアリのローカストに命令する。2体のローカストは、その声を聞き、前に進み出た。
「まぁ待てよ。オウガメタルは諦めな。じゃないと痛い目見るのはキミらだ」
 突如暗闇から声が響く。
『ペレスヴェート!!!』
『地獄の酸で篤と朽ちろ』
 ミハイルから狙い済ました集中砲火、そしてラギッドから腐蝕性の胃液が兵隊アリに襲い掛かる。
「奇襲か!? 糞ッ。殺せ!」
 砲撃を受けた兵隊アリが、働きアリへ前へ出るように指示をし、自らは後ろに下がろうとする。しかし、その動きを遮るように言葉が響いた。
「まぁ待てよ」
 晟がニヤリと笑いながら、アームドフォートの一撃を兵隊アリに掃射する。
「しばらくの間、大人しくしていてもらおうか」
 晟の一撃は、兵隊アリをけん制するかのように放たれていく。そこへ、舞彩が鉄塊剣を担ぎ上げ、大きくジャンプして飛び込む。
「ふふ……。まぁ待てよ。なんて……」
 しかし、舞彩が振り下ろした鉄塊剣を働きアリの1体が、強固な腕を使い軌道を逸らした。そしてそのまま二人は対峙する。
 ケルベロス達は、絹の話から長期戦を予測し、それにはまず、強力な敵である兵隊アリの動きを封じなければならない事を認識していた。
 奇襲をかけたケルベロス達は、兵隊アリの思考を鈍らせ、更に黒白が追撃して足元に傷を負わせた後、弥奈がその武器である腕に対して攻撃を加えた。
「ここまでは、予定通りだな」
 弥奈が呟き、後方に下がる。ケルベロス達は奇襲により、兵隊アリの動きをかなり制限することに成功したのだった。
 しかし、ローカスト達も流石にやられたままではない。
 一番前に出た働きアリが、もう1体と対峙している舞彩に切りかかろうと、牙を伸ばして襲いかかろうとする。
「まぁ待てよ」
 ラギッドはそう言い、舞彩に襲い掛かる働きアリの攻撃を受け流し、鉄塊剣を上段から一気に振り下ろした。
 バギッ!
 鈍い音をあげて吹き飛ぶ働きアリ。そして、その視線がラギッドに一気に注がれる。
「貴方は私が相手をして差し上げましょう」
 ラギッドは剣をさらにゆらりと構えて、挑発する。その時、一帯にブブブ……という音が響き渡った。
「音波攻撃が来ます!」
 その音に気がついたラギッドが叫ぶと同時に、その音波が晟と黒白、弥奈に向かい襲いかかる。
「ぐ……!」
 晟はその攻撃を何とか避けたが、黒白、弥奈はそれを食らい、膝を落とした。
「有枝ちゃん。正気ッス!?」
「コイツは、少しキツイな」
 黒白と弥奈は、強烈な破壊音波を食らい、少しふらつき始めた。
「大丈夫。直ぐに治すよ」
 清登が即座にサークリットチェインを這わせ、その催眠の効果を打ち消していく。ケルベロス達は絹の話を聞き、敵の催眠攻撃に対する準備も抜かりな行っていた。清登を軸に、ボクスドラゴン3体が直ぐに対応が出来るように構え、催眠の攻撃を受けたら即座に回復を行うように備えていたのだ。
 それでも戦いは激しく、長く、苦しいものになっていった。しかし、彼らは決して 諦めない。それどころか、いま、このときを楽しむかのように、実に、良く、笑う。
「何を……笑っている?」
 能力的には決してこちらが負けていないはず。しかし、このケルベロス達の余裕はなんだ? そう思ったのか、兵隊アリが苛つきながら問う。
「さて、どうしてかしら? 私にも分からないわ。なんてね」
 舞彩が楽しそうにそう言った時、ラギッドが地獄の炎弾で対峙していた働きアリにとどめを刺した。
「助けを求められたのなら応えるのがケルベロスです。さぁ華麗に助けて食事にしましょう!」

●忠誠
 味方が一人倒れたのを確認した兵隊アリは、自らの鎧を輝かせる。すると、受けていた傷が塞がっていき、その光がそのまま全身を覆い、装甲の強度を上げていく。
 敵が一人倒れたとはいえ、兵隊アリの攻撃はまだ強さを残しており、彼を護る働きアリもまた、強固であった。
「キエエエェェ!」
 働きアリが正面に構える晟に、強烈なキックを打ち込む。
「ぐ……なかなか、やるな。だが、それしきでは倒れんぞ」
 晟はそう言いながら、ゲシュタルトグレイブで働きアリに高速の突きで応戦する。その突きは、働きアリのアゴを捕らえ、膝をつかせた。
『任せて下さい。コレで調べれば大概の事は分かります…しゃべってエンジェル、起動ッ!』
 清登が改造スマートフォンのアプリを起動し、その力を晟に与える。
「キサマら……。ただでは返さん! おい、オレを護れ!」
 自分があまり回避行動が取れなくなるのを感じたのか、ケルベロスとの距離を半歩空けようと動く兵隊アリ。兵隊アリの目の前に働きアリが行く手を塞ぐように前に出た。
「まぁ待てよ」
 腰を屈めてもう一度羽根を震わせる構えを取った兵隊アリに、働きアリの脇をすり抜けた黒白が重力を宿した飛び蹴りを食らわせる。
 そして、唖然とする働きアリの隙を見逃さず、舞彩が突っ込む。
『爆ぜてくれる?』
 バァン!!
 舞彩の左腕の竜爪が、働きアリの装甲を貫き、壮大な音を立てて爆散させた。
 しん。とほんの一瞬の静寂。
「さて、待たせたな。お前の番だぜ」
 ミハイルが、ゲシュタルトグレイブを構え、額を狙って突きを放つ。
 ギン!
 金属音が響き渡る。
「……ア様」
 ミハイルの狙い済ませた一撃を受けながら、兵隊アリがぼそりと呟く。
「主の名か? だが、まぁ待つんだ。既にオウガメタルの心はそちらにない。そして、その脚は戻れない事を示しているのではないのか?」
 弥奈が冷静に言葉を選びながら、魔法の光線を兵隊アリの足元に放つ。するとその魔法の攻撃で、兵隊アリの左膝の動きが鈍くなる。それでも、兵隊アリは戦意を失わない。
「……このまま引くものか。キサマらの首、一つでも落とす!」
 兵隊アリが腹から声を出して言うと、身体を前に投げ出しながら渾身の力を振り絞って、一気に羽根を振るわせた。
「いけません!」
「させんぞ!」
 羽根音に反応したラギッドと晟がその音波を一身に受ける。
「ぐ……!」
 二人はその強烈な一撃を、少し下がりながらも懸命に堪える。しかし、二人だけではその全てを受け止める事はできず、隙間を縫うように、音波が清登に向かって降り注いだ。
「まずい……な」
 清登がその攻撃に備え、両足を踏ん張り、構える。
「まぁ待てよ」
 その時、清登の目の前に巨大な白熊が立ちふさがった。オウガメタルを安全な場所へと退避させていた鐐であった。鐐は清登の攻撃をそのまま受けるが、微動だにしない。そして、言葉を続ける。
「事情はシケイダから聞いた……。だが私達も同胞を生贄には出来ん。他の手段を探す協力なら出来るんだぞ?」
 ローカストの事情を前回の事件で知った鐐が問う。すると、兵隊アリはすっと息を吐き、更に腰を屈めて戦闘の意思を示す。
「我らアリア騎士。命に代えても、役目を果たす!」

●絆
「まぁ……。と、もうその必要もないかな。決着をつけようか」
 清登がアリア騎士に魔法の力を放つと、氷が足元から発生し、兵隊アリを覆っていた光の鎧を打ち砕いた。
『グオオォォォォオオォォォォオオッッ!!』
 晟が自らと、そしてラギッドと鐐に対し、ラグナルと共に、轟く雷音のごとき咆哮をあげる。その咆哮が彼らの迷いを消していく。
『私の趣向には反する技なのだがな…致し方あるまい。 怯懦の淵に沈み、震え竦んでいてもらおう!』
 鐐の雄叫びが巨体を震わせ、その場に大きく反響していく。その咆哮はアリア騎士に轟き、その頭脳を揺らす。
 そこへ舞彩が、惨殺ナイフで傷を大きくえぐり、その効果を更に巨大なものにしていく。
『喰らい尽くせッ!』
 黒白が地獄の炎を一点に圧縮させ、兵隊アリの足元を貫いた。すると清登が発生させた氷と同じ箇所に、かろうじて残っていた熱量を吸収し、凄まじい数の氷の塊が発生した。
「有枝様、お願いいたします」
「ああ、行こう」
 カガッ!
 ラギッドと弥奈が、両脚へ刃を食い込ませ、同時に切り上げた。すると、足元に発生していた氷が堰を切ったように幾重にも兵隊アリの身体全体へと広がっていった。
「カ……」
 ケルベロス達の攻撃を受け、アリア騎士の身体はもう動かなくなっていた。しかし、その目だけは、ケルベロス達をしっかりと見据える。
「信念は上等。 覚悟も十分」
 ミハイルがアリア騎士に歩み寄り、目の前で四基十二門の主砲を出現させていく。
「だがしかし、隣人を愛せなかった。 それが敗因だ」
 その主砲の傍から、更にミハイルの身体を全て覆い隠すほどの機関銃が具現化した。
「あばよ兄弟。その魂貰い受ける!」
 一瞬の輝きの後、全ての砲門からグラビティが一斉に放たれた。
『ペレスヴェート!!!』
 その光は、一瞬にしてアリア騎士を消滅させていったのであった。
 
 ゲロゲロ……ゲロゲロッ……。
 戦いは終わり、先程の騒がしさを森が吸収したかのように、静寂に包まれていった。
 その音の差に、少しの耳鳴りを感じる。
 ふと耳を済ませると、他の地点からはまだ戦いの音が響いていた。
 ケルベロス達は、鐐が用意したオウガメタルを隠した場所に来ていた。
「もう、大丈夫ですよ」
 ラギッドがそう言いながら古木のうろに隠れていたオウガメタルに話しかけた。その傍には清登のケルベロスカードと、鐐がお守りとして渡していたGPSがあった。
 すると、オウガメタルがぴょんと嬉しそうにそこから飛び出した。
 その様子を見て弥奈がふうと肩の力を抜き、息を吐き出した。
「有枝ちゃん。お疲れ様、良かったッスね♪」
「ああ……」
 弥奈が少し安心した顔を黒白に向ける。
「そういえば、オウガメタルにはそれぞれ名前があるのか?」
「そうだね。なんて呼べば良いんだろう?」
 晟の問いに、同じく首をかしげるミハイル。
「後でゆっくりと、聞いてみても良いのかもしれんな」
 鐐はゆっくりと呼吸を整え、耳を傾ける。再び蛙が鳴く。今度ははっきりと聞こえてきた。その音が戦いの終わりを告げていた。
 ふと見ると舞彩が電話をかけていた。発信音がその場に響く。
 プルルル……。ガチャ。
「ああ、宮元? 終わったわよ。……ええ。ご馳走よろしく。あ、一人前追加で……。なんてね」
 こうして、ケルベロス達は一つの任務を達成し、帰路に着いた。
 アリア騎士の覚悟のあり方は、尋常ではなかった。
 それは、今後のローカストとの戦いの激しさ感じさせたのだが、ケルベロス達は確信に近い不思議な感覚を覚えていた。
 我々には、確かな絆が存在するのだから、負けることなど、ありえない、と。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 10
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。