山陰地方の山奥。
人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
「みんな、集まってくれてありがとう。黄金装甲のローカスト関連で新しい動きがあったわよ」
レナ・グルーバー(ドワーフのヘリオライダー・en0209)は、ケルベロスたちを見渡すと、にこり、と微笑み説明を続ける。
「ケルベロスのみんなの頑張りのおかげで、黄金装甲のローカスト事件は解決、それに加えて黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことができたわ」
しかも、とレナは言葉を続ける。
「絆を結んだ結果、アルミニウム生命体は、本当は『オウガメタル』という名前の種族で、自分達を武器として使ってくれる者を求めている事が分かったの」
というのも、現在、オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルを使い潰すような使い方をしているのが原因らしい。特に、黄金装甲化は、オウガメタルを絶滅させる可能性すらある残虐な行為であるようだ。
「そういった支配から開放してほしい、とオウガメタルに助けを求められた――っていうのがこれまでの経緯なんだけど、実は今、オウガメタルと絆を結んだケルベロス達が、オウガメタルの窮地を感じ取ったみたいなの」
窮地、という言葉に辺りがどよめく。レナは軽く頷くと、真剣な表情でさらに説明を続ける。
「オウガメタル達は、ケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星から、ゲートを通じて脱出して山陰地方の山奥に逃れてきたみたいなのね。でも、最重要拠点であるゲートには、当然ローカストの軍勢がいる。このままでは、そのローカスト達によって、オウガメタル達は遠からず一体残らず殲滅されてしまう可能性が高いわ」
そこで、とレナはケルベロスたちの目を見つめた。
「みんなには、ヘリオンで現地に向かって、ローカストを撃破してオウガメタルを救助してほしいの。作戦に成功すれば、オウガメタルを仲間に迎えるだけじゃなく、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置も特定する事ができるかもしれないわね。でも、ゲートの位置に関わる事から、ローカスト達の攻撃も熾烈になるはず。……それでも、お願いできるかしら?」
助けを求められて断る理由はない。ケルベロスたちが深く頷くと、レナは一瞬微笑み、再び説明に戻った。
「ローカスト達は、兵隊蟻ローカスト1体が働き蟻ローカスト数隊を率いた群れで山地の広範囲を探索して、逃走するオウガメタルの殲滅を行っているみたいよ。
ヘリオンが現地に到着するのは、夜半過ぎで、逃走するオウガメタルは、銀色の光を発光信号のように光らせるから、それを目標に降下すればオウガメタルの近くへ降下する事ができるはず。ただ、降下には誤差があるから、すぐそばに降下……という訳にはいかないけど、百メートル以内の場所には降下できると思うから、合流は難しくないと思うわ」
レナは手元のタブレットに目を走らせると、それから、と言葉をつなげる。
「みんなに戦ってもらうのは、兵隊蟻ローカスト1体と働き蟻ローカスト3体の群れよ。兵隊蟻ローカストの戦闘力は相当に高くて、ゲートを守るという役割からか、どんな不利な状態になっても決して逃げ出す事は無いわ。働き蟻の方も、戦闘は本職ではないけれど、それでもケルベロス数人分の戦闘力を持っているみたいね」
さらに、レナは淀みなく説明を続ける。
「ローカストたちが使うグラビティについてだけど、兵隊蟻は、アルミの牙を伸ばし、敵を食い破ったり、腕からカマキリの刃のような鎌を展開して敵を斬り裂いたりしてくるみたいよ。
一方、働き蟻は、高々と跳躍して必殺のキック攻撃を放ったり、敵に棘を突き刺し、そこから石化効果のある『アルミ化液』を注入したりして戦うわ。
どちらの蟻も、体内の『アルミニウム生命体』を解放して、回復と防御力向上の効果のある生体金属の鎧で自らの身体を包むこともあるみたいだから注意が必要ね」
それと、とレナはケルベロスたちの方を向く。
「働き蟻については、兵隊蟻ローカストが撃破され状況が不利だと思えば、逃げ出す可能性があるみたいなの。もしかすると何か作戦に使えるかもしれないから、覚えておいてね」
一通りの説明を終えると、レナは改めてケルベロスたちに向き直る。
「ケルベロスを頼って逃げてきたオウガメタルが、ローカストの手にかけれられて全滅――なんてことを許す訳にはいかないわね。絆を結んだケルベロス達のためにも、みんなの力で助け出してあげてほしいの」
レナにとっても、ヘリオライダーとして初めての依頼。様々な想いを胸に、深々と頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
天神・世羅(紫唐揚羽師団のセイントマザー・e00129) |
アルセリィナ・クロフォード(シャドウエルフの鎧装騎兵・e00703) |
シェリアク・シュテルン(エターナル主夫・e01122) |
小山内・真奈(ドワーフの降魔拳士・e02080) |
シュセリカ・アリアスティル(向日葵・e07048) |
隠・かなめ(霞牡丹・e16770) |
セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407) |
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
●助けを呼ぶ光
夜の闇に包まれた山肌に、チカ、チカ、と銀色の光が点滅する。あまりにもか細いその光は、まるでそれを発する者の不安な気持ちを表しているようでもあった。
「――助けを求むる者たち、か。つくづくそういうもの達とは縁があるようだ」
ヘリオンから降下したのち、木々の上を飛びながら光の発生源を探すシェリアク・シュテルン(エターナル主夫・e01122)が呟く。彼の手にはカンテラがあったが、それよりはむしろ、地獄化された翼が発する明かりの方が地上からは良く見える。
(「まるで、かつての私達――ヴァルキュリアのような状況……」)
シェリアクよりやや後方、森の木の枝々より少し低い位置を飛びながら、セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)は唇を結ぶ。ビハインドのイヤーサイレントと共に、複雑に枝が絡みあう微妙な高さを滑るように飛ぶことができているのは、彼女と、その下にいる隠・かなめ(霞牡丹・e16770)の『隠された森の小路』の効果のおかげだ。
「いやー、ご当地の美味しいご飯を食べたいですね! オウガメタルさんも物を食べられるんでしょうか?」
当のかなめは、どこか楽しげな様子で足早に駆けている。
「そうだといいねっ! 戦いが終わったら、オウガメタルさんにごちそう食べさせてあげたいねっ!」
横にいたシュセリカ・アリアスティル(向日葵・e07048)が、ミミックのアスティンと共にぽいぽい、とグラビティを込めた金平糖をまきながら、元気に答える。
そんな無邪気な少女たちのやりとりを聞きながら、ボクスドラゴンのフィムを伴った天神・世羅(紫唐揚羽師団のセイントマザー・e00129)が艶のある唇を軽く上げて微笑む。
「フフ、いいわねオウガメタル………私好みになりそうだわ」
その時、だった。
「見つけたぞ!」
先頭を行くシェリアクが一気に高度を下げる。続いて残りの7人が駆けつけると、茂みの中に銀色のスライム状のもの――オウガメタルがふよふよ、と動いているのが目に入ってきた。
「……どうやら、追っ手の蟻たちより先に見つけられたみたいやな」
夜目を効かせて辺りを注意深く観察していた小山内・真奈(ドワーフの降魔拳士・e02080)の言葉を聞いて、皆がオウガメタルの側へと駆け寄る。
「怖かったやろ? 今、助けたるからな」
真奈の言葉に反応するかのように、オウガメタルが表面をぽこ、と膨らませる。どうやら、ケルベロスたちの意図は伝わっているようだ。
「おうおう、こいつ、結構でかいぞ? どうすんだ?」
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)が目の前で動く金属スライムのようなオウガメタルを見て浮かんだ疑問を口にする。避難用にとアタッシュケースも用意してきていたが、それには入りきらない大きさだ。
「うーん、小さくなれればいいんだけど……できるかしら?」
アルセリィナ・クロフォード(シャドウエルフの鎧装騎兵・e00703)が問うと、オウガメタルはふにゃり、と一瞬平たくなったかと思うと、いくつかの小さな塊に分裂した。
「すごい、すごいっ! これなら隠れられるねっ!」
シュセリカが手を叩く横から、かなめがひょいと顔をだす。
「じゃ、一つは私が服の中に隠しますっ!」
ひょい、と持ち上げると、首の周りに巻く。すると、オウガメタルはするすると首筋をつたって背中に入っていく。
「ひゃっ!? 自分で言っといてあれですが、冷たいしくすぐったいですね!?」
飛び上がるかなめを横目に、じ、とシェリアクは残りのオウガメタルを見つめながら考える。
(「確かに、彼の安全を考えれば『何かに入れる』というのは一番なのは確かだ。だが……」)
喋ることはできないが、オウガメタルは間違いなく『生きて』いる。そんな彼をモノのように扱うことに疑問を感じていたシェリアクは、不意に膝をつき、目の前のオウガメタルに語りかけた。
「我々が倒れた時、君を守れるのは君自身だけだ。だが……もし、我を信じてくれるのなら、手を貸してくれないか?」
差し伸べた右手に、そして身体に、オウガメタルが巻きつくひやりとした感触が走る。その意図を確認しようとしたが、紡ごうとした言葉は強烈な斬撃の衝撃波で中断させられた。
●「使命」対「救命」
『我は、アリア騎士団・リゾルート! ケルベロスたちよ、そなた達が隠したオウガメタルは我らローカストのものである。今すぐ返してもらいたい!』
名前の通り決然とした口調で、働き蟻を3体引き連れた兵隊蟻が再び槍を構えながら語りかける。
「困窮が原因とはいえ、こちらも譲る事はできません。オウガメタルは、地球の秩序の下に、私たちが必ず助け出して見せましょう!」
セデルの言葉に、横で武器を構えるアルセリィナも同意する。
「ああ、なんとしてもオウガメタルは救出する」
「絆だとかは良く分かりませんが、美味しいご飯の為に一働きしますかね」
オウガメタルの感触を背に感じながら、かなめも蟻たちを見据える。すると、ぼんっ、ぼんっ、と強烈な爆発が周囲で起こる。
「こっちは仲間がたっくさんいるんですからね! まだまだ爆発は続きますよ!」
シュセリカも精一杯胸を張る。が、実は増援というのは完全なハッタリである。それが通じたかは分からなかったが、戦う意志は確実に蟻たちに伝わったようだ。
『想像はしていたが、力づく、ということか。あい分かった……行くぞ!』
リーダーのリゾルートの腕から大きな鎌が出現し、セデルへと襲いかかる。防具効果で軽減したはずだが、兵隊蟻がクラッシャーの位置にいるためか、その攻撃は随分重い。
(「働き蟻は2匹がディフェンダー、残り1匹がジャマーか……兵隊蟻をかばわれるとやっかいだねっ」)
相手のポジションを見て取ったシュセリカは皆に素早く伝達し、ケルベロスたちは事前の打合せ通り、まずディフェンダーの働き蟻の片方に攻撃を集中させる。
真奈がロッドの先から大量の矢を放つとほぼ同時に、セデルが冥府深層の冷気を帯びた手刀を放つ。動きの鈍った働き蟻に、さらにイヤーサイレントが金縛りをかけた。
「虫けらはあまり好まないんだけど、救出のためならぶっとばしてやろうじゃない」
ふ、と自信たっぷりの妖艶な笑みを浮かべると、世羅が日本刀を手に斬りかかる。その斬撃は三日月のような緩やかな弧を描き、蟻の腕に深い傷を与える。
しかし、働き蟻たちも強烈な蹴りで反撃してくる。泰孝のウイングキャットには運悪く命中してしまったものの、世羅は軽く攻撃を退け、泰孝に向けられた攻撃はアルセリィナが庇った。
すかさずかなめは治癒の雨を降らせ、それでも回復しきれなかった傷はフィムが炎で癒す。
「さぁさぁ、賭けを始めようか」
泰孝はにやりと笑うと、バスターライフルを低く構える。
「てめーらが潰すか、オレ達が持ち帰るか。チップはお互いの命、景品はオウガメタルってトコロか、はははっ」
高らかな笑い声と共に、凍結光線をぶっ放す。
「ローカストの現状は理解する。それでも、悪いが敵なのだ」
心底気の毒そうな声を出しながら、シェリアクが湯気の立ちこめる『新玉葱と鶏手羽肉のトマト煮込み』を蟻たちの前に差し出す。泰孝からレシピを教わり即興で作り上げたものだが、鶏肉のジューシーな匂いをトマトの甘酸っぱい香りが包み込み、さらにローズマリーのすっきりとした香りがアクセントとなり……辺りに漂う匂いだけでも完全な『飯テロ』である。――それは、常に飢えているローカストたちに、色々な意味で打撃を与えた。
『こんなに美味そうな食事を戦闘の道具として用いるほどに、地球は豊かなのか……』
打ちひしがれる働き蟻たち。しかし、ケルベロスたちは容赦はしない。
「オウガメタルには、指一本触れさせないよ!」
アルセリィナが超加速突撃で敵群を一気に蹴散らすと、シュセリカが御霊殲滅砲を発射し、アスティンも偽物の財宝をばらまいて蟻たちを惑わせる。
「我らケルベロス! 此処に馳せ参じたのは、助けを求める声を聞いたから。貴方がたは、必ず助けます!」
後ろで息を潜めながら隠れるオウガメタルへの思いを叫びながら炎を纏った蹴りを放つ。その衝撃に耐え切れず、ディフェンダーの働き蟻が1体地面に倒れこみ息絶える。
『くっ……! 同胞の痛み、味わえ!』
リゾルートのアルミの牙が、働き蟻にトドメを差したセデルへ突き刺さろうとした瞬間、ビハインドが間に割って入る。
「ようやった! 攻撃はおばちゃんにまかしとき!」
とりゃあああ! と真奈が飛び上がると、小さな見た目からは想像つかない強烈な一撃をもう一匹のディフェンダーの働き蟻に叩き込む。続けざま、世羅が稲妻を帯びた超高速の突きを繰り出す。と、
「クノイチさんの刀技、食らうがいいのですよっ!」
かなめが、氷を纏った卓越した一撃を放つ。それが2匹目の働き蟻へのトドメとなった。
●激戦の果てに
『すまぬ、すまぬ、すまぬ……!』
同胞を2匹も失ったリゾルートは、目を伏せると、うぉぉぉ、と雄叫びを上げながら槍を高く掲げる。すると、彼の体内の『アルミニウム生命体』が解放され、生体金属の鎧が彼の身体を包んだ。
「防御を固めるとは、やっかいな技だな……ん?」
リゾルートの様子を観察していたシェリアクは、ふと自らの右腕に動きを感じ、自分の身体に巻きつくオウガメタルを見やる。すると、先ほどまで柔らかさを保っていたそれは、一瞬にして硬化し、彼の全身はまるで鋼の鎧に覆われたような格好になった。
「……そうか、命がけの逃亡なのだな、君らにとっては。ならば我々も君らを迎えるような精神を持たねばなるまい」
一つ息を吸うと、右の拳に全神経を集中させてリゾルートへと叩き込む。鋼の拳を兵隊蟻の鎧に叩き込んだその瞬間、シェリアクは確かな手ごたえを感じた。
「くぅ、いい攻撃だな、おい! オレらも続くぞ!」
ガチャガチャ、と音を立てながら、突き出した左腕をドリルへと変形させた泰孝が兵隊蟻に突っ込むと、彼のウイングキャットも尻尾の輪を飛ばして追撃する。続くアルセリィナが振り下ろした斧は惜しくも空を切ったが、その攻撃を避けた一瞬の体勢の綻びをシュセリカは見逃さず、鎖で敵の右腕を締め上げ、共に戦うアスティンも左足に噛み付く。
「よっしゃ、おばちゃんもがんばるで!」
真奈が左腕を突き出すと、ブラックスライムが槍へと形を変え、動きを封じられた兵隊蟻を貫くと、ビハインドの援護を受けたセデルのガトリング連射がリゾルートを蜂の巣にする。
勢いを増したケルベロスたちを牽制しようと、残った働き蟻が世羅に棘を突き刺し、そこから『アルミ化液』を注入しようとするが、世羅は上手く立ちまわりダメージを軽減する。
「もう、せっかくのお洋服が台無しだわ」
呟きながらジャケットをぱんぱん、と軽くはたくと、世羅は手にした槍にグラビティを込め、自らを攻撃した働き蟻ではなくリゾルートへと突撃し、主にまだ余裕があると判断したフィムも兵隊蟻へと突進する。――そう、あくまでターゲットは兵隊蟻なのだ。
負けじとアルセリィナに斬りかかったリゾルートの鎌と、アルセリィナの手にした斧が激しくぶつかり合い、火花を散らす。かなり威力は削いだものの、腕に傷を負った彼女をオーラを溜めたかなめが回復する。
そんな彼女たちの横をするりとすり抜け、泰孝のウイングキャットが兵隊蟻へと近づき、爪を伸ばして鋭く引っ掻く。
「てめぇ、オレを差し置いてどういうつもりだ!」
悪態をつく泰孝だが、その口の悪さは頼りにしていることを素直に言えない裏返しでもある。自らも負けじと遠隔爆破を引き起こすと、その爆風が引ききらないうちに、シェリアクが時間を凍結する弾丸を精製し、射撃する。
「よし、アタシも一肌脱ぎますか」
ぴん、と耳を立てると、アルセリィナは高々と跳び上がり、手にした斧で敵を頭上から叩き割り、シュセリカとアスティンも追撃した。
リゾルートの攻撃力は脅威だったが、攻撃を受けても、攻撃の届かない所にいるかなめやシュセリカが素早く回復に回り、ケルベロスたちは手数を生かして優位に戦いを進めていた。
しばらく切り結んだのち、リゾルートは何回目かのアルミニウム鎧化を行ったが、累積したダメージもあってか、明らかに当初より守備に綻びがあるように見受けられた。
戦いの終わりが近いことを感じ取ったケルベロスたちは、顔を見合わせ頷くと、武器を構える手に力を込める。
最初に動いたのは、かなめだった。
「さて……お仕事、しますかね」
リゾルートの懐に潜り込むと、死角から高速斬撃を放つ。
「抵抗する者の術、その五感でとくと味わうがいい!」
シェリアクはその身を包むオウガメタルに身を委ね、高々と右腕を上げる。すると、彼の手から生じた黒い光はまるで惑星レギオンレイドを照らす『黒太陽』のように冷たく光り、敵群に絶望の黒光を照射した。
「何度でも……やってやるぜ!」
ガシャガシャ、と一段と派手な音を立てながら、泰孝の左腕が形を変える。その攻撃は、ウイングキャットの放った輪とほぼ同時に兵隊蟻に襲いかかる。
たまらず、よろめく兵隊蟻。だが、すぐそこにアルセリィナが迫っていた。
「ここで一撃痛いのをお見舞いしてあげよう」
『Sturm und blitz』――疾風迅雷の一撃がリゾルートにダメージを与える。
「さぁ、ならせ。祝福の音。沢山の星よ降れ!」
シュセリカの言葉を合図に、撒かれていた金平糖が一斉に爆発を起こす。その爆風を利用し高く舞い上がったアスティンは、体内のエクトプラズムで槍を形作り、兵隊蟻に投げつける。
『我らは、まだ、まだ……!』
しかし、リゾルートも気力を振り絞り、真奈に噛み付く。が。
「――刃の錆は刃より出でて刃を腐らす」
今までとは打って変わって真面目な口調の真奈が、くらったグラビティを炎に変えて、敵へと打ち返す。
「秩序を乱す者に、清き制裁を!」
セデルが、己のヴァルキュリアの力を込めた一撃を放つと、イヤーサイレントも周囲の物を投げつける。
息絶え絶えのリゾルートの前に、凛とした様子で世羅が歩み寄る。
「守りたいもののために強くなるって決めたの、私。――そう、たくさんのものをね。守ってみせるわ、今、ここで」
同性でも思わず見惚れてしまいそうなほど美しい笑みを浮かべると、ゲシュタルトグレイブを握りなおし、躊躇なく兵隊蟻の急所を貫く。
『無、念……』
ぐは、と吐血し、リゾルートは地面に倒れこむ。それを見た働き蟻は一目散に逃げ出した。
激しい戦いを終え、ケルベロスたちが武器をしまうと、分裂していたオウガメタルが再び一つの塊になる。
新しい仲間を助けることができた満足感を胸に、ケルベロスたちは帰路についた。
作者:東雲ゆう |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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