オウガメタル救出～鋼の戦鬼、戦鬼の鋼

■リプレイ

●守る為に
「オウガメタルは何としても守るの……！　助けを求める人を見捨てる訳にはいかないもんね！」
「行動して、助けを求めてきたのだ。助けに行くのは当然だろう」
　きゅっと拳を握りしめた大弓・言葉（ナチュラル擬態少女・e00431）に同意するように、グレズ・ガーランディア（鎧竜の砲撃騎士・e07182）は頷いてみせた。
　静かに……だが、力強く。
　それが、彼が己に課す騎士としての心構えだ。
　助けを求めるものには救いの手を。
（「ローカストとの決戦にもつながりますから、頑張りましょう」）
「この任務はオウガメタルさんたちにとっても、地球側にとっても重要ですね」
　倉田・柚子（サキュバスアーマリー・e00552）もそう言って、仲間たちを見回した。
「必ず成功させましょう」
　その言葉に、幾つもの同意が返る。
　その為に、自分たちは此処にいるのだ。
　望月・巌（巌アンド穣のガンマンの方・e00281）が作戦を確認するように、仲間たちと短い言葉を交わす。
　そして……地上からの光を確認したケルベロス達は、夜空へと身を躍らせた。

　長いようで短い瞬間が過ぎ……幾つもの轟音を響かせ、地獄の番犬たちが地上への降下を完了する。
　嘉神・陽治（武闘派ドクター・e06574）は確認しておいた地形を思い出しながらライトを用意し、柚子もランプで周囲を確認した。
　２人は森の中をできるだけ素早く移動する為にと、防具の力を利用して準備を整えてきたのである。
　少しでも時間を短縮できればという一心で、柚子が仲間たちに先行するように走り出す。
　陽治も共に駆けながら、光を見た方角を確認するように皆に声をかけた。
　他の者たちも続くようにして、草木の間に開かれた小路を走り出す。
「救いを求めているなら絶対に助けなくては……」
　クリスティーネ・コルネリウス（偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416）の口から言葉が零れ、その顔に不安と悲しみの入り混じったような何かが滲んだ。
　オウガメタル達を襲おうとしている危機。
　それを阻止する為に今できるのは……唯、急ぐ事のみだ。
　陽治と柚子が、もう少しと考えた時だった。
　急ぐ一行の行先で、先刻とは違う何かが瞬き、轟音が響く。
　不安が一行の胸をよぎる。
　だが、だからこそ急がねばならない。
　前方に、夜でも遠目から確認できる土煙らしきものがあがっている。
　更に速度を上げるようにして、ケルベロス達は破壊の力によって生み出された荒地へと飛び込んだ。

●戦いの理由
　かざされた明かりが闇を裂くようにローカストの姿を照らし出す。
　何かを大きく囲むように位置を取った３体のデウスエクス。
　その中央にいるのは……先刻、ケルベロス達に向かって信号を送ったオウガメタルだ。
　両者の対峙を遮るようにして、ケルベロス達は戦いへと介入した。
「別の知的生命を奴隷みたいに使役とは……ダセえことしてるじゃねえか」
　挑発するような言葉と共に鋭い視線を向けるスタン・レイクフォード（電光石火・e05945）の背後で、ライドキャリバーの『マシンアーチャー』が土煙を上げながらスピンするようにして急停止する。
「……ケルベロス、か……」
　淡々とした調子で呟きながらも、兵隊蟻は警戒するように部下たちを僅かに下がらせた。
　不用意に飛び出せば集中攻撃を仕掛けようという態勢である。
「使い潰すような事すっから見限られンだろうが。そうして助けを求められちゃ見捨てるわけにはいかねーよ」
　ローカスト達の動きに警戒しながら、陽治がオウガメタルを庇えるように位置を取る。
　グレズもローカスト達とオウガメタルの間を遮るように、慎重に移動した。
「ようし、よく頑張ったなオウガメタル。ここから先はオレ達ケルベロスのステージだぜ」
　灰座・次遠（カイザージオン・e00412）はそう呼びかけてから、冗談めかして付け加えた。
「チケットはタダにしといてやるよ」
　それだけ言って、ローカスト達へと視線を戻す。
「お前らを見てるとオレぁ絶対企業戦士とかにゃなれねえなって思うぜ」
　皮肉でも何でもなく、次遠はその姿に抱いた素直な感想を口にした。
「２４時間以上戦えそうな面してるよなお前ら。わかんねえけど」
　無論、その言葉への返答は無い。

　一触即発……張り詰めたまま対峙する状態で、柚子は周囲を確認した。
　戦場を選ぶことは出来なかったが、この場で戦う事に大きな不便は無さそうである。
　こちらを取り囲むように位置を取っていたローカスト達は、今は纏まるように慎重に移動している。
　その動きに合わせるように、少なくとも敵１体とオウガメタルの間を遮るように。
　巌は意識して位置を取った。
「俺は前衛だが、背中には医者の陽治が居るから安心して戦闘に専念出来るってもんだ」
　素直な気持ちで、胸の内の想いをそのまま形にする。
（「オウガメタルも仲間が護ってくれる筈さ」）
「だから俺は、全力で戦うだけだぜ！」
　冗談を言い合うのも深く信頼しているからこそだ。
　背を預ける事に不安は欠片も無い。
　そんな真っ直ぐな信頼に……
「俺が回復してる内は他の事心配する必要はねえ。いっちょぶちかましてやりな、巌」
　同じように真っ直ぐな言葉で、陽治が応える。
「オウガメタルさん、わたくしが必ず守りますから、一緒に参りましょう？」
　ローカストへの警戒を続けながら、クリスティーネもオウガメタルへと呼びかけた。
「戦うのはわたくしも怖いです。でも誰かが傷つくのはもっと怖いです」
（「戦いなんてなければいいのにと思います」）
「でも……」
　言葉を濁し俯いた顔を……再び上げると、彼女は静かに言葉を続けた。
「戦わなければ守れないなら、わたくしも戦います」

●激突
　張り詰めた空気を破ったのは、ローカストの側だった。
　兵隊蟻と働き蟻の一方が生体金属の鎧で体を包み、残った働き蟻が破壊音波を後衛たちへと向ける。
　だが、その対策は事前に整えてあるのだ。
　回避は出来なかったものの、クリスティーネや言葉、陽治らは防具の力を借りて受けるダメージを半減させた。
　ボクスドラゴンの『ぶーちゃん』も、ダメージの軽減に成功している。
　それでも、威力は決して無視できない程に強力だ。
　柚子は仲間たちを守る為に霊力を帯びさせた無数の紙兵を後衛たちに向けて散布し、ウイングキャットの『カイロ』も邪気を祓う羽ばたきで前衛たちに異常への耐性を賦与していく。
　ほぼ同時に、次遠とクリスティーネも動いた。
「さあ、ここからがパーティータイムだぜ！！」
　全ての武装を最終決戦モードへと変形させた次遠が、仲間たちを鼓舞するように超絶テクニックの早弾きに熱いフレーズを乗せる。
「ただ一枚の羽ですが、これで貴方を止めてみせます！」
　己の羽を手に取ったクリスティーネが、理力を籠めたその一枚をローカストへと向けた。
　放たれた羽は意志を持つかのようにデウスエクスへと向かい、その動きを鈍らせる。
　同時に、オルトロスの『オっさん』も口に咥えた神器の剣で働き蟻へと攻撃を仕掛けた。
　仲間たちの様子を見ながら、巌が己の感覚を増幅させる。
　続くように動いた陽治は、皆の傷を確認しながら言葉と短く声をかけ合った。
　そのまま彼は仲間たちを癒すべく薬液の雨を降らせ、後衛たちが受けたダメージを回復させ催眠の効果を解除する。
　言葉の方はある程度態勢を立て直せたと判断し、働き蟻への攻撃を開始した。
　精製された物質の時間を凍結する弾丸が、デウスエクスに向けて発射される。
　ぶーちゃんもタイミングを計るようにして封印箱に入ると、働き蟻へと体当たりを敢行した。
　その攻撃を、もう一方の働き蟻が体を張って妨害する。
　敵味方の動きを観察したスタンは、兵隊蟻を攻撃目標に選んだ。
　既にオウガメタルの保護には成功している。
　後は……少しでも長く戦場に立ち、戦い続けるだけだ。
　高速でローカストへと距離を詰めた彼は、勢いを殺すことなく跳躍すると……デウスエクス目掛け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを叩き込んだ。
　それに続くように、炎を纏ったマシンアーチャーが兵隊蟻へと突撃する。
　十分に距離を取った状態で慎重に照準を定めたグレズも、中衛の働き蟻を狙ってアームドフォートの主砲を一斉に発射した。
　その攻撃を耐え抜いた働き蟻は、兵隊蟻からの指示を受けながら次の攻撃を行なうべく体勢を整える。
　ローカスト達は、まず妨害者であるケルベロス達を撃破するべきと考えたようだ。
　そう判断したケルベロス達は、ローカスト達を撃破すべく更に攻撃を続けてゆく。

●作戦の決着
「可能なのならば、俺達の力になってはくれないか？　無理強いはせん、隠れていても構わない」
　グレズは戦いの合間を縫うようにして、オウガメタルへと語りかけた。
　同じようにクリスティーネも、可能ならば装備となってもらえないかと呼びかける。
　言葉は通じずとも一緒に戦いたいという意志のようなものが、オウガメタルから伝わってきた。
　液体金属のようなスライム状の体の一部が、何かを確認するかのように２人に向けて伸ばされ……クリスティーネの身を守るように、変化し始める。
　その間も戦いの方は続いていた。
　ケルベロス達は兵隊蟻への牽制を行いつつ、攻撃を働き蟻の一方へと集中させる。
　ローカスト達は中衛や前衛も確認するように攻撃し、巌や次遠を狙うような動きを見せはしたものの、派手な立ち回りを厄介と感じたのかスタンに攻撃を集中させ始めた。
　それを妨害するように、柚子は他の護り手達と共に戦場を駆ける。
　味方を庇うように敵の攻撃へと身体を割り込ませながら、彼女は時に紙兵を散布する事で味方の耐性を高め、時に濃縮した快楽エネルギーを桃色の霧として放出する事で味方を癒し異常を浄化し続けた。
　その動きを後方から確認し、味方の消耗を可能な限り把握しようと努めながら、陽治が癒しの力を前衛や中衛達に向ける。
　彼は特に異常の解除に気を配っていたが、耐性賦与の効果もあって現状そちらの心配は殆んど無かった。
　もっともダメージの方は、途中から言葉もほぼ回復に専念しているにも関わらず癒し切れない程に蓄積している。
「そこでじっとしてろ、よ……！」
　そう言いながら陽治は、オーラを纏った拳を足元の大地に叩きつけた。
　治癒のオーラの奔流がスタンを包むように噴出し、受けた傷を癒してゆく。
　それでも、残念ながら万全には程遠いのだ。
　言葉の方はオラトリオヴェールで前衛たちを包み込み……傷を癒しながら、前衛を狙った催眠効果も解除する。
「全力全開！　いっちょ、派手に行くとしますかあ！！」
　全ての攻撃を自分に引き付けようとするかのように、スタンは不敵な笑みを浮かべながらマシンアーチャーへと飛び乗った。
　ライドキャリバーを加速させながら兵隊蟻へと突進し、そのまま鋭い一閃を放つ。
　その間にもグレズは的確な射撃で、働き蟻へのダメージを蓄積させてゆく。
　兵隊蟻の攻撃から主を庇ったマシンアーチャーが消滅し、続く働き蟻の攻撃を受けたスタンも限界を迎え戦線を離脱した。
　だが、巌の一撃をまともに喰らった働き蟻の１体も……ついに力尽き、地に伏せる。

　ケルベロス達はそこから、兵隊蟻へと攻撃を集中させた。
　撃破を目標とはしているが、困難であれば撃退でも十分である。
　最優先はあくまで、オウガメタルの保護なのだ。
「どうした？　俺を止めねぇと、大事なゲートの場所を流布しちまうぞお！」
「たとえ死を与えられようとも、やらせるものか！」
　標的を自分たちに向けるようにと挑発しつつ、巌が目標を追いかけるビームを放出する。
　それを耐え抜いた兵隊蟻が、腕から展開した鋭い鎌を前衛たちへと向けた。
　残った守り手２人は防具の耐性も加える事で兵隊蟻の攻撃を大きく減退させる事が出来たが、攻撃に専念する巌には強力な攻撃を軽減する手段は無い。
　柚子とオっさんに庇われながら強烈な攻撃を叩き込んだ巌が……兵隊蟻からの更なる攻撃に耐え切れず、崩れ落ちる。
　もっとも、攻撃に専念していた分だけ兵隊蟻に与えたダメージも強烈だった。
　次遠の鼓舞によって精度と威力を高められていたとなれば尚更である。
　とはいえ、サーヴァントを除いても２人が戦線離脱。
　後方から戦況を窺う陽治の頭の片隅に、撤退という二文字も浮かぶ。
　その状況下でも次遠は今までと同じように、敵と味方の動きを観察しながら仲間たちを鼓舞し続けた。
　オウガメタルの装備を完了したクリスティーネも戦線に復帰し、攻撃を再開する。
　それでも兵隊蟻たちは撤退しない。
　指揮官に続くようにして残った働き蟻がアルミの牙を伸ばし、次遠に襲い掛かる。
　その攻撃を妨害するように飛び出したオっさんが、耐え切れずに消失する。
　その間に柚子と陽治が癒しの力を注ぎ込み、次遠の受けた傷を回復させた。
　カイロも今は耐性より回復と、癒しの力を次遠に向ける。
「可愛くなあーれっ！」
　それでも回復し切れていないと判断した言葉が、次遠を癒す為にと用意したリボンやフリル、花などで残った傷を覆う。
　仲間たちによって戦線が支えられている間に、グレズはバスターライフルの照準を合わせた。
　対象が回避し難いようにと反射を利用して予測外の方角から攻撃を行なうグラビティ、竜操弾（ドラゴンリフレクトブリッド）。
「コイツの反射計算、大変なんだぞ……勘で済ませるけどなッ！！」
　叫びと共に発射孔から光が放たれ……大地や周囲の障害で向きを変えながら、ローカストに襲い掛かる！

　傷付いていた兵隊蟻にとって……その攻撃が、止めとなった。
　指揮官が倒れたのを確認した働き蟻が、弾かれたように距離を取る。
　単純な戦力比較もあるだろうが、蓄積した異常による戦闘力低下も戦いを躊躇わせる要因となったのだろう。
　とはいえケルベロス達の方も、撤退する敵を無理には追わなかった。
　後衛たちの負傷は軽かったが、前中衛達に蓄積したダメージは大きい。
「他のチームも気になりますが……」
　傷付いた者に手を貸しながら、柚子は皆を見回した。
　周囲も決して安全という訳ではないのだ。
「速やかに撤退しましょう」
　その言葉に皆が同意する。
　返事をした後……言葉は気になって、オウガメタルへと声をかけた。
　幸い大きなダメージは受けていないようだ。
　折角だからと呼びかけてみると、スライム状の体の一部が２人の時のように伸びてきて……残念そうな雰囲気が伝わってくる。
　とはいえ今は色々と不明でも、交流する事ですぐに分かり合えていく事だろう。
「お前らの事曲にしてやるよ。そうだな……」
　少し考え込んでから、次遠は楽しげに口にした。
「……メタル風で」
　賛成なのか反対なのか……青年の言葉にオウガメタルは、体をクニョッと曲げて答えてみせた。

作者：メロス	重傷：望月・巌（昼之月・e00281） スタン・レイクフォード（電光石火・e05945）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 2
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