オウガメタル救出~差し伸べる手

作者:小鳥遊彩羽

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。

●差し伸べる手
 黄金装甲のローカスト事件を解決したケルベロス達が、黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことに成功した──。
 トキサ・ツキシロ(レプリカントのヘリオライダー・en0055)は、その場に集ったケルベロス達へそう切り出してから、続く説明に入った。
 絆を結んだ結果、アルミニウム生命体は『オウガメタル』という名の種族であり、自分達を武器として使ってくれる者を求めているということがわかった。
 だが、現在オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由にオウガメタルを使い潰すような扱い方をしており──中でも特に黄金装甲化は、オウガメタルを絶滅に追いやる可能性すらある、残虐な行為なのだという。
「オウガメタル達はローカストの本星からゲートを通じて脱出し、助けを求めて地球に逃れてきているようなんだ」
 これは、オウガメタルと絆を結んだケルベロス達が彼らの窮地を感じ取ったためにわかったことなのだとトキサは言い添える。
 地球に逃れてきたオウガメタル達だが、行きついた先はローカストにとっての最重要拠点である地球側のゲートだ。当然のように多数のローカストの軍勢がおり、このままではオウガメタルは一体残らず殺されてしまうだろう。
「オウガメタル達は、ローカストに追われながら山奥を逃げ回っている。これからヘリオンで現地に向かうから、皆にはオウガメタルの救助とローカストの撃破を頼みたいんだ」
 この作戦が成功すれば、オウガメタルを仲間として迎え入れるだけでなく、もしかしたらローカストの最重要拠点であるゲートの位置の特定も可能になるかもしれない。
 だが、そこはローカストにとって命に代えても守らなければならない場所だ。ゆえに、ローカスト達の攻撃も熾烈なものになるだろう。
 それでも、彼らを助けるために力を貸してほしいと、ヘリオライダーの青年は願うように言った。
 ローカスト達は兵隊アリのローカスト一体と働きアリのローカスト数体の群れが一つの部隊となって山地を捜索し、オウガメタルの追跡を行っているらしい。
「ヘリオンが現地に到着するのは夜半過ぎになるけれど、オウガメタル達は銀色の光を発光信号のように光らせているから、それを目標に降下すれば、オウガメタル達の近くに行けるはずだよ。……まあ、多少の誤差はあるからすぐ側にとはいかないだろうけど、だいたい百メートル以内の場所には降りられると思うから、合流はさほど難しくないはず」
 ともあれ、と、トキサは追っ手であるローカスト達についての説明を続ける。
 兵隊アリのローカストはかなりの戦闘力を持ち、ゲートを守るという役割からかどんな不利な状況になっても決して逃げ出すことはないだろうとトキサは言った。
 一方で働きアリのローカストも、本職は戦闘でないにもかかわらず、ケルベロス数名分の戦闘力を持っているらしい。
 だが、働きアリ達については、兵隊蟻ローカストが撃破され状況が不利だと悟れば逃走する可能性もあるとのことだ。
「まさか黄金装甲のローカストの事件がこんな急展開になるとは俺も思っていなかったけれど、皆を頼ってきたオウガメタルを見捨てるわけにもいかないからね。だから何としてでも、彼らを助けてあげてほしい。──というわけで、早速出発するよ」
 そう言い残し、トキサはヘリオンの操縦席へと向かった。


参加者
君影・リリィ(すずらんの君・e00891)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)
狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)
ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)
コンソラータ・ヴェーラ(泪月カンディード・e15409)
鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)

■リプレイ

「――急ぎましょう!」
 フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)が隠された森の小路を用いて道を拓く。
 明滅する銀色の光を頼りにヘリオンから地上へと降り立ったケルベロス達は、すぐさまオウガメタルがいるであろう方向へと駆け出した。
 着地地点からオウガメタルの現在地まで、距離は最大でも約百メートル。実際はそれよりも少なかっただろう。
 森の木々が作り出してくれた道を急ぎ辿ってゆけば、その先に暗闇を照らす光の瞬きを捉えるまでにさほど時間は掛からなかった。
「……いた」
 オウガメタルだ、とコンソラータ・ヴェーラ(泪月カンディード・e15409)が声を上げる。
 ケルベロス達がオウガメタルの元に辿り着いた時には、まだ追っ手であるローカストの姿は見えなかった。的確な手段を用いてオウガメタルの元へ急いだことで、ケルベロス達はローカストが追い付くよりも先にオウガメタルとの接触に成功したのだ。
 だが、ローカスト──兵隊アリ達が現れるのも時間の問題だろう。一刻も早くオウガメタルの安全を確保しなければならないことに変わりはない。
 各々が持参した明かりが一気に灯され、夜の森に人工的な光が溢れる。
「安心して? 僕達は、ケルベロスだよ」
「ボク達が助けに来たから安心するといいんだよ!」
 コンソラータがそっと呼びかける隣で、元気よく声を上げたのは鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)だ。
「そうっす! 楓さん達がちゃっちゃと片付けてやるっすよ!」
 狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)もまた、元気いっぱいの笑顔をオウガメタルへと向けてみせた。
「どうやら、怪我はなさそうだね? ……痛い所はない?」
 オウガメタルの様子を確かめたラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)が、ほっと安堵の息をつく。
 突然現れたケルベロス達にオウガメタルはびっくりしたようにその動きを止めていたが、ラウルの言う通り、怪我をしている様子はなかった。
「大丈夫、わたし達は味方です。あなた達を助けたいんです」
 ケルベロスコートで覆うことも考えたが、それだけでは安全を確保することは出来そうになく――ユイ・オルテンシア(紫陽花の歌姫・e08163)が、戦いが終わるまで隠れていてほしいとこの場からの退避を請う。
「キミの眼で見て、自分で判断して?」
 ユイの言葉に、コンソラータが言い添える。オウガメタルは逡巡するようにその場でもぞもぞと動いてから、奥の茂みへと入っていった。会話は出来ないようだが、どうやらケルベロス達の存在を認識し、彼らが自分達を助けに来てくれたのだと理解したらしい。
 まだ油断は出来ないものの、ひとまずローカスト達の前にオウガメタルを晒す危険はなくなったと言っていいだろう。
 後は、オウガメタルを追ってこの場に現れるであろうローカスト達を倒すだけだ。
 ――そして、その時は程なくして訪れた。

 がさりと木々が揺れる音に、ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)は素早く指先で五芒星を描き出す。
「私の魔術を見せてあげましょう」
 ケルベロス達の前に現れたのはまさしく、狂愛母帝アリアの配下である兵隊アリと働きアリ達だった。他の二体と明らかに違う風貌の一体を兵隊アリと認識するのは難しいことではなく、ウィッカは編み出した御業を迷いなく兵隊アリへと差し向ける。
「なっ……!! 何だ、貴様らは!?」
 兵隊アリが漏らした声は驚愕そのものだったが、無理もないだろう。
 オウガメタルを追っていたはずなのに、目の前に突如として現れたのはケルベロスである。完全に奇襲を受ける形となった兵隊アリを、半透明の御業が握り潰した。
 ウィッカの攻撃を契機としてケルベロス達は素早く各々が定めた位置につき、オウガメタルが身を潜めている茂みを背に兵隊アリ達と向かい合った。
 素早くケルベロスチェインを操って守りの力を展開させるフィルトリアの傍らで、君影・リリィ(すずらんの君・e00891)もまた、自らを守る光の盾を具現化させる。
 桜色の瞳に満ちるのは、守り手として絶対に倒れないという強い意志。
(「金属とは言え意思を持つ存在……謂わばサーヴァントみたいなものよね」)
 それが逃げ出したくなるとは、彼らは一体どのような待遇をされていたのだろうとリリィは思う。
 傍らに在るウイングキャットのレオナールに視線を向ければ、張り切った様子で尻尾の輪を兵隊アリへと飛ばしていた。
「……レオは、大丈夫よね」
 案じるように投げかけた声に、にゃあ、と応えるレオナール。
 帰ったら一杯もふもふブラッシングしてあげよう――そんなことを思いながら、リリィは再びアリ達を見やった。
「ソラさん、行きます……!」
「お月様のパワー、全開なんだよ!」
 ユイが後衛のスナイパー達――まずはコンソラータへと破剣の力を込めた祝福の矢を番え、美沙緒がクラッシャーであるウィッカへ満月の力を託す。
 その間にも、兵隊アリを捉えられる位置についていた楓が、素早く印を組んだ。
「弱い者いじめはだめーっすよ! 戦うなら楓さんが相手になってやるからこっちを向くっす!」
 放たれた氷結が螺旋を描き、兵隊アリの体を忽ちの内に覆ってゆく。
 全員で確りと心を繋ぎ、ケルベロス達は一気に攻め立てる。
(「……護るよ。必ず」)
 心に確かな想いを燈し、ラウルは束の間伏せていた目を開く。
 敵を見据えるその瞳は、先程までとは違う、冴えた刃のような鋭さを帯びていて。
「黒焦げにしてやるぜ!」
 想いも、言葉も、戦う者のそれへと変えて。踏み込んだラウルが狙いを定めたのは、兵隊アリと共に現れた働きアリの片割れだった。
 働きアリもまた咄嗟のことにすぐに動けず――ラウルが繰り出した炎を纏う蹴りをまともに喰らうことになった。
 暗闇の中、鮮やかに灯る炎が一つ。
 もう一体の働きアリへ向けて、コンソラータが真っ直ぐに手を掲げる。
「残念でした。――全力で、邪魔させてもらうよ?」
 微かに浮かぶ笑みと共に、紡がれる古の言葉。
 掌から放たれた竜の幻影が、働きアリの片割れを燃え盛る炎で包み込んだ。

 ケルベロス達の奇襲に遭いこそしたものの、ローカスト達はすぐさま戦闘態勢を整え、反撃に転じてきた。
「そう易々とやられると思うな!」
 腕からカマキリの鎌のような刃を展開させた兵隊アリが狙いを定めたのは、最も高い火力を誇るウィッカだ。
 スナイパーである兵隊アリの攻撃は高い精度でウィッカへと襲い掛かったが、こちらもフィルトリア、リリィ、ユイの三名のケルベロスとラウルのウイングキャット、ルネッタという厚いディフェンダーの壁を形成しており、身を挺したフィルトリアが兵隊アリの一撃を受け止めた。
 フィルトリアの深緑の瞳が、兵隊アリを射抜くように見据える。
「貴方がたが、故郷の仲間を救うために行動しているのは理解しています」
 かなりの強敵と言われていただけあって、その一撃の威力はディフェンダーであるフィルトリアが受け止めてもなお脅威と言えるもの。
 すぐさま全身を地獄の炎で覆いながら、フィルトリアは真っ直ぐに兵隊アリを見据え毅然と言い放つ。
「ですが、そのためにオウガメタルや地球に住む人々を傷つけるというのなら――それを許すことは出来ません!」
 ローカスト達にも守るべきものがあるように、こちらにも守るべき人々が、世界がある。
 互いに譲ることなど出来ない。だからこそ、こうして戦うしか道は残されていないのだ。
「汝、動くこと能わず、不動陣」
 ウィッカが空に描き出した五芒星が結界となって兵隊アリの動きを阻む。クラッシャーとして立ち回るウィッカの一撃は、着実に兵隊アリの体力を削ぎ落としていた。
 働きアリ達が羽を擦り合わせ、耳障りな音を響かせる。後衛陣を狙った破壊音波に、すかさず二匹のウイングキャット――ルネッタとレオナールが翼を羽ばたかせ、癒しと浄化を齎す清らかな風を運んだ。
「そう簡単にやられると思ったら、大間違いよ」
 翼猫のレオナールと命を分かち合う身とは言え、守り手としての矜持も揺るぎなく。身を挺して強烈な音の一撃を受けたリリィもまた、オーラの力で自らの傷と催眠を払う。
 オウガメタルを、単なるモノや武器ではなく命ある仲間だと思っているのだと伝えたい。
(「格好いい大人は背中で語るっていうからね!」)
 だから、この想いは言葉にするのではなく、行動で示すのだと――自信に満ちた笑みと共に、美沙緒は再び満月の力を呼び覚ました。
 美沙緒から授かった月の光を受けたコンソラータが、兵隊アリへと手を差し伸べる。
「――キミに救いを」
 浮かぶ笑みはどこまでも穏やかで、無垢な少女のようですらあった。
 けれど、その手から放たれたのは対デウスエクス用の殺神ウイルス。弾けたカプセルから撒き散らされたウイルスは、兵隊アリを侵食する毒に他ならない。
「ほらほら、余所見をしている暇はないっすよ~!」
 いつの間にか、立ち並ぶ木々の枝を伝って死角へと回り込んでいた楓が、力強くバスターライフルの引き金を引いた。
 放たれた凍結光線は兵隊アリを貫いて、その熱を更に奪ってゆく。
 ――助けを求める相手がいるのなら、迷うことは何もない。
 この力は、この命は、護るためのもの。
 それが、ラウルが大切な人と交わした――最後の約束。
 ユイの祝福の矢を受けて、ラウルはふ、と息を吐き出し、精神を集中させた。刹那、突如として兵隊アリの体の一部が爆ぜ、苦悶の声が漏れる。
「運が悪かったな」
 ここに来たのが自分達であったこと。それは、きっとこの兵隊アリにとっては不運以外の何物でもなかっただろう。
 ケルベロス達は兵隊アリの力を弱体化させるために数々の状態異常を重ね、さらには働きアリの逃走を踏まえた上で兵隊アリの撃破を優先し、兵隊アリへと攻撃を集中させた。守りに重点を置いた編成では少なからず火力に欠ける面があったものの、ケルベロス達は粘り強く攻撃を続けていった。
 兵隊アリの力量は、平均的なケルベロス八名と互角と言って差し支えのないものだった。だが、釣り合った天秤をこちら側に傾けさせるだけの十分な作戦を、ケルベロス達は練り上げていた。
 ケルベロス達は、オウガメタルを救い、守るために盤石の布陣を敷いたと言っても過言ではなく――彼らが敗北する要素は、どこにもなかった。

 ユイとフィルトリアを穿つ、働きアリ達の鋭い牙。痛みを堪えるように唇を引き結んだのも一瞬、ユイはすぐにふわりと笑んで、透き通るような歌声を響かせた。
 助けたいというこの想いは、譲れない。
「――貴方にはもう、わたしの歌しか、聞こえない♪」
 白銀の髪に咲く小さな紫陽花の青花が、歌声に合わせてふわりと揺れる。
 ほのかな甘酸っぱさを交えた澄んだ歌声が、兵隊アリの意識を惹きつけ、そして捕えた。
 次の瞬間、飛び掛かってきた兵隊アリが、アルミを帯びた鋭い棘をユイに突き刺す。
 けれども、兵隊アリの攻撃の威力は、すでに戦いが始まった頃よりも格段に落ちていた。
「ボクがいる限り、誰も倒れさせたりはしないんだよ!」
「及ばずながら、お力添えいたします!」
 すぐに美沙緒がルナティックヒールを施し、リリィがオーロラに似た光のヴェールでユイごと前衛陣を包み込む。翼猫達も懸命に翼を羽ばたかせて癒しを運んでくれていた。
「ふふん! 油断したらダメーっすよ!」
 螺旋の力を秘めた楓の瞳が光を帯び、瘴気で覆われた彼女の影が兵隊アリへと迫った。影は兵隊アリへと絡みつき、さらにその力を縛り付ける。
 ケルベロス達の攻撃で、兵隊アリの体力は見る間に削られていた。働きアリ達も果敢に攻撃を続けて来たが、兵隊アリの攻撃に比べて威力は低く、それほど脅威とはならなかった。
「彼らは生きてるのに、道具の様に使い捨てるなんて」
 ――ゆるせない。
 紡いだ声音にほんの少しの冷えた色を滲ませて、コンソラータはデウスエクスの残滓を解き放った。
 黒い槍が兵隊アリを穿ち、傷口を深く抉ってゆく。立ち上がる力も失い、とうとうその場に膝をついた兵隊アリを見つめながら、ウィッカが静かに魔導書を開いた。
「ケルベロスの力、少しは思い知りましたか。――でも、もう終わりです」
 生と死の境界線から解き放たれたのは、命の鼓動を止めるおぞましき触手の群れ。
「アリア様……!!」
 空へ向けて叫んだその名ごと兵隊アリの全てを呑み込んで――まるで、獲物を捕らえた喜びに打ち震えるように蠢いた黒き触手は、何も残さず虚空へ消えていった。

 兵隊アリが倒れ、残った二体の働きアリへ楓が迫る。
「楓さんに切り刻まれるか、それとも逃げるか選ぶと良いっす!」
「大人しくこの場から去るというのなら、追うことはしません」
 バスターライフルを構え、フィルトリアが続いた。
 指揮官であった兵隊アリはもういない。ならば、働きアリ達がこの場に留まり続ける理由はなく――。
 すっかり戦意を喪失した働きアリ達はすぐに踵を返すと、夜の森へ消えていった。
 ケルベロス達は、逃走する働きアリを追うことはしなかった。
 無論、ゲートの情報が少しでも得られればと思わなかったわけではない。
 だが、彼らが第一に目指したのはオウガメタルの救出であり、そのために必要な行動を選び抜いたことで、大きな被害もなく戦いを終えることが出来たのだ。
「――終わりましたよ」
 辺りに戻る静けさ。ユイがそっと茂みのほうへ呼びかけると、隠れていたオウガメタルが再び姿を見せた。
「俺達を頼ってくれて有難う。……届いたよ。君達の声」
 そう言って、オウガメタルへ柔らかく笑いかけるラウル。戦いの終わりと共に、ラウルの表情にも元の穏やかさが戻っていた。
「無事でよかったです、オウガメタルさん。……ああ、複数の個体が一つになって、先程の大きさだったのですね」
 ウィッカが納得した様子で頷いたのは、出てきたオウガメタルが半分に分かれていたからだ。
「なんだかちょっと、面白い、かも」
 リリィもレオナールをもふもふしながら、分裂したりくっついたりを繰り返すオウガメタルを見やる。
「猫は凄く強くて格好いいんだよ!」
 助けてもらえたことが嬉しいのか、そわそわとケルベロス達の周りを動き回るオウガメタルに、美沙緒が元気よく語り掛けた。
 生きるために行動を起こした彼らに敬意を表したいと、コンソラータは思う。
 彼らが勇気を振り絞ったからこそ、自分達は今、ここにいるのだから。
 まるで、背中を押されたような気がして。
「頑張った、ね」
 オウガメタル達が、そして自分達が今宵踏み出したこの一歩は、いつかの未来へと繋がる――ささやかな、けれど確かな、始まりの一歩だ。

作者:小鳥遊彩羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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