オウガメタル救出～きずな

■リプレイ

●銀の導
　闇夜の森に輝く、銀の光。
　それを目視した直後、一同はヘリオンから降下した。
　降下時に手を繋いだ事よって着地点が散らばる事はなく、故にケルベロス達は互いの位置を確認する手間さえ省き、速やかに次の行動に移行出来た。
「――光の場所はこの先ですね」
「あァ、スッゲー光ってたし、確かにコッチ」
　光の位置を確かめ合う桐野・七貴（秋桜散華抄・e07329）とアンジェラ・ブランカ（紫煙の・e04183）。そこにリティア・エルフィウム（白花・e00971）が告げた。
「そう遠くはありません、急ぎましょう」
　木々が避けていく中を、万全を期した上で駆け出すリティア。
　他の何よりもまず、彼らが最優先したのは光の元へ急行する事だった。
　もしも敵が先に、光の元に辿り着いてしまったのなら――。
　だからこそ、遅れを取る訳にはいかない。
　そうして脇目も振らず駆けて程なく、
「見付けたにゃ！　オウガメタルちゃん！」
　深月・雨音（夜行性小熊猫・e00887）はその名を呼んで加速した。
　森の小路を抜けた彼らの前に現れたのは、光を放ちながら前進するスライム状の物体。それが動きを止めて光を弱め始めると、闇の中から声が聞こえた。
「光が消えるぞ！　それに声が……急ぐのだ！」
　自分達以外で、この夜の森の中にいる者達。
「どうやらあちらも灯りを持っているようですの」
　それを察するまでもなく、シエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する人形娘・e00858）とボクスドラゴンのラジンシーガンは仲間達と共に陣形についた。オウガメタルを庇うように最前列に立つのはルル・キルシュブリューテ（ブルーメヘクセ・e16642）のテレビウムであるイコを除いた、サーヴァント三体を含む四人のケルベロス達。
　瞬間、先頭の兵隊蟻が声を荒らげた。
「――いたぞ……ッ、何者だ貴様ら！」
「私達はケルベロスだよ、オウガメタルさんは襲わせない！」
　対し、オウガメタルを守るように立ち、しっかりと声を張ったルル。
　皆が速やかに光源のスイッチを入れる中、月海・汐音（欠心デスペレイション・e01276）も服に括りつけたライトを点灯させ、敵を見つめた。
（「……やれるかどうかじゃない……やるのよ、私！」）
　涼やかな視線の裏側に宿る、確かな意気込み。
「あなたはわたくしの後ろへ、よくがんばったね、もう大丈夫」
　そうして前に立つ汐音達の後方、メイア・ヤレアッハ（空色・e00218）は発光を停止させひとかたまりとなったオウガメタルを匿いながら、こう伝えようとした。
　もし戦える元気のある子がいたら、力を貸して欲しいと。
「ケルベロス共が……そこをどかぬならお前達を先に屠るまでよ！」
　しかし、それを待たずにアルミの牙で先制する兵隊蟻。猶予なき状況だと判断すると、メイアはお日様の瞳でオウガメタルを見つめ、彼らを安心させるように言い切った。
「あなた達とわたくし達の絆、ひどい蟻さんに見せ付けちゃお！」
　一方に脱出の決断をさせ、一方をここに呼び寄せた絆。
　それは心なき凶刃によって途切れる程、やわなものではない筈だから。

●結束の策
　兵隊蟻の先制を受けたルル。
「花の棺にて、永久の眠りを――」
　しかし、彼女が怯む事はなかった。
　狙いは兵隊蟻の後方、二体の働き蟻。
　するとルルは瞳を閉じ、受け継いだ花守の証に口付けを落とした。
　それは花に鎮座する宝珠へ、祈りを捧げる為のもの。瞬間、敵の領域を覆いつくしたのは、歓喜の象徴たる花吹雪と溢れる眩い光。
　その花が舞う中に、テレビウムのイコは光を放った。
　蟻に怒りを与える、後衛に位置したイコの閃光。
　両軍の配置や敵の攻撃射程を踏まえると、怒りの有無で戦況は大きく変わる筈である。勿論、付与者がイコのみである以上、敵全てへの付与には相応の手数が必要となるが、
「最初に一体！　付与完了にゃ！」
「――イコちゃん、その調子でがんばろうね！」
　幸先の良い駆け出しに続くように、働き蟻達に弾丸を放った雨音。そしてルルがイコを鼓舞する声が響く最中、汐音は怒りが付与された働き蟻の元へオーラの弾丸を撃ちこんだ。安定した精度と火力を有する一撃を放った瞬間、生じた風圧によってはためいた黒い外套を気にする事なく、纏ったオーラを手繰る汐音。
「さあ、標的は定めたわ。後は撃ち込むのみね」
「簡単に言ってくれるが……そうはさせん！」
　それに兵隊蟻が怒号を放つ中、
「ヴィオロンテ！　激励お願いしますの！」
　シエナの言葉に呼応し、咆哮をあげる攻性植物ヴィオロンテ。
　木々のざわめきさえ掻き消す音の中心で、シエナは危機を教えてくれたオウガメタル達への恩を返す為にも、皆と共に戦い続けた。そこに続いたのは、後方から直進したリティアの蹴りである。流星の煌めきと重力を宿し、しなやかな一撃を叩きつけたリティアと、守護星座の輝きを前方へ送り届けたメイア。
　すると、二人は敵の元にいるオウガメタル達へ呼び掛けた。
　このまま使われていれば、彼らも使い潰されてしまうだろう。
　使い捨ての道具として、命が奪われてしまう。
　故に、リティアとメイアは彼らの意志に訴えた。
「どうか制御から抜け出して、誇りを取り戻してくださいまし」
「助けが来たの。助けにきたよ。今こそ勇気を振り絞る時なの。今こそ――」
　彼らの意志に、奮い立つ時が今、漸く訪れたのだと伝える為に。
　そして雨音も彼女達に思いを重ねて、オウガメタル達へと声を張った。
「あいつらの『使い物』じゃなくて、こちらの『仲間』として一緒に戦おうにゃ！」
　力を揮うにしても、共に手を取り合う仲間として。
「ハッ。大した訴えだが――貴様らが何を言おうと無駄だ！」
　しかし、敵に支配されているオウガメタル達には、意志を実行する自由さえ許されてはいないのだろう。それを象徴するように、二体の働き蟻がアルミ製の牙を剥いた。
　だが一体は率先してイコを狙うも、前に立つケルベロス達に阻まれた。
　そしてもう一体も、声を放っていた雨音へと狙いを定めたが、
「――悪いが、こちらもお前たちの好きにはさせん」
　自らを盾として、その一撃を受け止めた七貴。
　蒼色の瞳は痛みの色滲む事なく、屠るべき敵を映している。
　言葉よりも雄弁に決意を示す七貴の視線。対し、忌々しげに唸る働き蟻だったが、
「今からスモーキングエリア解禁だ。一服付き合えよ」
　瞬間、もうもうと烟る煙に包まれた。
　煙草を咥えたアンジェラの肺、その奥底よりたなびく猛毒ブルー・ヘイズ。それに包まれた二匹の視界はぐらりと揺れ、身体に痺れがもたらされる。
「蟻でも分かンのかね？　これ、ヤニクラ」
　手応えを感じて、軽口交じりに口角を上げたアンジェラ。そこに続いた七貴が、空の霊力を帯びた刀と共に駆け抜けた。だが彼と同様に、盾の役目を担う兵隊蟻が割り入った。
「――好きにさせんだと？　それはこちらの台詞だ！」
　森に響く怒号と、突き刺さるような敵の殺意。
　しかし、ケルベロス達は誰も揺らがない。揺らぐ筈などなかったのだ。

●守る為の戦い
　序盤こそ、一同は敵に脅威を感じた。
　格上の兵隊蟻と、戦闘が本職ではないにしろ侮れない働き蟻達。
　しかし戦いが進むにつれ、怒りの効果がケルベロス達の追い風となった。
　働き蟻に怒りを付与した後、すぐに兵隊蟻を狙ったイコ。そして先に付与された怒りはアンジェラや七貴の斬撃、ボクスドラゴン達のブレスによって増幅され、その効果を高めていく。これにより、イコを狙おうとした敵の攻撃が不発に終わる確率は上がり、そして、
「――ッと防がれた。でも良ィの？　コレ、思う壺だぜ？」
　ついに閃光で怒りを付与された兵隊蟻が盾となり、アンジェラのナイフを受け始めた。
　これでも、ローカスト達の攻撃が全て怒りの付与者に向く訳ではない。
　だが、確率が五分以上ともなれば、これ以上の利点はない。
「七貴くん！　後の回復はわたくしに任せて」
「ああ、好機とあらばいつでも斬り込ませて貰う」
　敵の攻撃が封殺された事による最大の変化は、当然体力の消耗だ。
　この作戦の結果、回復に比重を置いていた七貴が攻撃に回る度合が増し、他の面々も想定よりも攻撃へと専念出来た。ただし、それはメイアとボクスドラゴンのコハブが、可能な限り回復に専念していたからでもある。
「コハブ、わたくし達もがんばろうね！」
　金平糖を彷彿とさせる星飾りを揺らして、鎖に力を注ぐメイア。
　その守護陣が輝く前衛で、コハブも首元で星の欠片をころりと揺らしながら、雨音へと癒しを届けていく。治癒手段のないローカストにしてみれば、忌々しい光景だ。
「ありがとにゃー！　それじゃあ反撃に……」
「は！　タヌキ娘が吼えるな！」
　その時、敵は雨音の地雷を踏んだ。
　否、踏み抜いたと言ってもいいかもしれない。
「あ、あ……雨音はレッサーパンダにゃあああああ！！！」
　絶叫の直後、立派な尻尾をぼわーっと逆立て、地面を踏み込んだ雨音。狙いは暴言を吐いた兵隊……と行きたいが、ぐっと堪えて標的の働き蟻へ。
「――もふもふ、ている、ですとろーい！！」
　瞬間、流麗なステップから繰り出されたのは超高速の尻尾ビンタ。
　往復もふもふこと、千尾円流舞（テイルデストロイワルツ）。
　その会心の一撃の前に、働き蟻の一体が地に伏した。そしてその瞬間、汐音はある判断を下した。先に兵隊蟻を倒して早期終息を目指すか、働き蟻を倒して完全撃破を達成するか。
「いいえ、この現状で迷う必要はないわね」
　だがこの時、仲間達の誰もがこう思った事だろう。
　この優勢で、弱腰になる自分達ではない。故に、
「赫の激情、闇を砕く剣と為れ――」
　汐音は輝くように赫い大剣を構え、直進した。
　魔力で創造した身の丈程の大剣、それを涼しい顔で振り切り、残る働き蟻に焔の如き薙ぎ払いを喰らわせた汐音。その一撃に仲間達が続く中、汐音は弓を手に思う。
（「退けないわ。これは、この地球を守る一歩なのよ」）
　それは目的の為に、どこまでも冷徹に行動できる少女の意志。
　そうして攻撃が繰り出される中で、シエナの攻性植物がもう一方の働き蟻に絡み付き、残る体力を削り切った。すると、残り一体となった兵隊蟻に、シエナはこう問い正す。
「Demander……あなた達は攻性植物にも何かするつもりですの？」
「――？　何を言って……無駄口を叩く暇があると思うな！！」
　しかし、兵隊蟻はシエナの唐突な問いに声を荒らげた。
　彼らの役目はオウガメタルの殲滅。仮に何か知ろうとも、邪魔者達に答える筈もなかった。その直後、渾身の力を込めて敵が狙ったのはアンジェラ。そこに、桜色の少女が飛び込んだ。鋭い鎌でルルを斬り裂き、同時に僅かだが傷を癒した兵隊蟻。
　しかし、ルルは痛みに顔を歪ませず、瞳を輝かせていた。
「何故、何故そこまでして奴らを守る！　たかが道具を守るなど！」
　対し、蟻の怒号が耳に響く。それでも、
「助けを求めている子を助けるのは、当然。守るよ」
　ルルはそう紡ぎ、その後方からアンジェラも颯爽と踏み切った。
「……たかがと思ってンなら、そもそもココにゃこねェーっての」
　軸足に力込め、音速を超える拳を敵に繰り出したアンジェラ。そこにボクスドラゴンのエルレが構えているのを見て、リティアもまた前進した。柔らかな緑の髪を風になびかせ、高々と跳躍したリティア。そうして敵が空を仰いだ瞬間、彼女はルーン文字が刻まれた斧を敵の頭上で振り下ろし、エルレも封印箱ごと直撃して更に傷を深めていく。
「逃げるつもりは……ないようですね。では、最後まで参ります」
　ケルベロス達の途切れぬ連撃によって、次第に消耗していく兵隊蟻。
　すると七貴は、たかが道具と吐き捨てた敵に、こう告げた。
「お前たちを倒し、彼らを無事助け出すまで――」
　助けを求める者がいる。その彼らが、自分達を信じている。
　そして、向けられた信に応えるが戦士というもの、故に、
「――この刃、決して折れぬものと知れッ！」
　今ここで、引き下がる事などありえない。
　その思いを胸に抱き、七貴は終わりをもたらす剣となった。
　舞の如く静かに、されど何処までも限りなく研ぎ澄まされた閃く刃。それはローカストの身体を斬り裂き、命を散らせるその瞬間に花を幻視させた事だろう。
　夏を飛び越え、秋に咲く秋桜。その花が、儚く散り往く幻影を。

●きずな
　敵の力を作戦と連携で撃破した一同。
　誰も倒れていないとはいえ、身体には相応の疲労感が感じられた。
　その中で、雨音は軽い足取りで、戦場の後方へと駆け寄った。
「オウガメタルちゃん……くん、かもにゃ？　とにかく、無事かにゃ？」
「見た限り、どうやら怪我はないようですの」
　その様子を見て、ラジンシーガンの傍で呟くシエナ。確かにオウガメタルに怪我はなく、やがて更に奥の茂みから、もう少し小さなスライム状の個体が現れた。
「へェ……不思議生命体。くっついたりも出来ンの？」
「確かによく見ると、アルミニウムっぽいスライムという感じですね」
　ケルベロス達が匿っていた個体と一つになり、ひとかたまりとなったオウガメタル。それを見てアンジェラとリティアが呟く中、七貴は刀を鞘に納めて夜の空気をゆっくりと吸い、汐音はフードについた埃を軽く掃い終えて、一つ処に集まった。
　改めて、オウガメタル達と向き合うケルベロス。すると、ふよんとした塊となった彼らと視線を合わせるように、メイアは屈み、向き合いながらふと思う。
（「わたくし、相棒って言葉が好き。わたくしとコハブみたい」）
　良き理解者であり、良きパートナーである相棒。
　これからオウガメタルとも、そう呼べるような関係を築いていけたら。
　そう願い、メイアはコハブと目を合わせた後、言葉なき彼らに手を差し伸べた。
「ようこそ、地球へ。わたくし達はオウガメタルを――あなた達を歓迎するの。酷使されるだけじゃない楽しい事、一緒にいっぱい感じていこうね」
　これまでの悲しい記憶は、きっと消えない。
　けれど、立ち止まらなかったからこそ、自分達は今こうしている。
　それを実感しながら、穏やかな表情でイコをぎゅっと抱きしめたルル。やがて、ケルベロス達は救出したオウガメタルと共に、暗い夜の森を後にした。
「とにかく、まずは共に戻ろう」
「そうね。全体の状況を把握する為にも、帰還しましょう」
　歩き始めた七貴と汐音。確かにこの後、何が起きるかは分からない。
　それでもこの一時、ケルベロス達は確かに安堵を覚えた事だろう。
　きずなと共に道が繋がる。それを喜ぶ事もまた、とても大切な事なのだ。

作者：彩取	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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