アホ毛こそ美少女の至高のチャームポイントなり!

作者:波多蜜花


「アホ毛だ! 世の美少女のチャームポイントはアホ毛にある!!」
 そんなことを声高々に叫ぶのは、頭にぴょんとアホ毛を飛び出させているビルシャナだった。しかもアホ毛がピコピコと動いている。けれど、信者はビルシャナの異形にもピコピコ動くアホ毛にも気にした様子は見せていない。
 それどころか、ビルシャナの教義に賛同し……そう、同じようにアホ毛を頭から飛び出させていた。
「アホ毛のない美少女など、美少女に非ず!!」
「アホ毛最高!」
「アホ毛こそ!!」
「美少女の証!」
「アホ毛こそ!!」
「至高なり!」
 ビルシャナの声に合わせるように、信者の声が空き地に響いた。


「恐れていたビルシャナが出現したのね」
 浅葱・ミク(クルーズナビゲーター・e16834) の言葉に、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が頷いて唇を開く。
「皆さん、ミクさんの情報によって……アホ毛こそが至高であり、美少女のチャームポイントだと主張するビルシャナが出現するという予知を得ました」
 このビルシャナは配下を増やそうとしている為、放っておくとどんなことになるかわからない……早めに予知できたのは幸いだったとセリカは言う。
「ビルシャナは空き地にて信者達に美少女のチャームポイントはアホ毛だと説いています。信者の数は7人で、いずれも男性です」
 そうだろうね、という表情を浮かべながら、ケルベロス達はセリカの説明に耳を傾ける。
「ビルシャナは破壊の光や私たちには不可解な経文を唱えたり、氷の輪を飛ばしてきたりするみたいです。余り強くないビルシャナのようですが、十分に気を付けてください」
 それから、と付け足すようにセリカは言う。
「このビルシャナ、アホ毛がない方にはアホ毛を付けろと迫ってきたりするそうですので……こちらもできれば、気を付けて下さいね」
 何をどう気を付けたらいいのだろうか。もうそれは気を付けようのない何かなのではないだろうか? とケルベロス達は思う。
「配下となってしまった人間はビルシャナのサーヴァントのような状態で戦闘に参加する為、戦闘前に信者達の目を覚ますような……そうですね、インパクトのある主張や説得を行えば目を覚まし、逃げ出すはずです」
 逆に失敗してしまうと、ケルベロス達に向かってくる厄介な敵となってしまうのだ。それは出来るだけ避けるべきだとセリカは言う。
「それでは、厄介な敵だとは思いますが……皆様どうかよろしくお願いしますね」
 厄介というか、面倒臭いというか。そう遠い目をするケルベロス達に、セリカは頭を下げるのだった。


参加者
フィオリナ・ブレイブハート(インフェルノガーディアン・e00077)
アイシア・クロフォード(ドタバタ系ツンデレ忍者・e01053)
和郁・ゆりあ(揺すり花・e01455)
若生・めぐみ(将来は女神・e04506)
粉塵・爆弾(誇り高き爆発屋・e07292)
志穂崎・藍(ウェアライダーの降魔拳士・e11953)
浅葱・ミク(クルーズナビゲーター・e16834)
ユグゴト・ツァン(闇酔エグザイル・e23397)

■リプレイ

●アホ毛への介入
「アホ毛にそれほど魅了される人がいるなんてビックリだよ!」
 アイシア・クロフォード(ドタバタ系ツンデレ忍者・e01053)は空き地に集まったビルシャナとその信者を見て、呆れ気味にそう言った。ビルシャナ達の死角になる場所で様子を伺えば、アホ毛最高! と叫ぶ声まで聞こえている。
「人が何に魅了されるかは勝手だとは思うが、それにしても……」
 アホ毛って。フィオリナ・ブレイブハート(インフェルノガーディアン・e00077)が頭が痛いとばかりに顔を顰めると、和郁・ゆりあ(揺すり花・e01455)がビルシャナ達を眺めながら辛辣な表情を浮かべ、唇を半笑いの形にしている。
「アホ毛より爆発のほうがよっぽどいいと思うぜ」
 粉塵・爆弾(誇り高き爆発屋・e07292)が本気と書いてマジと読む、そんな響きを含んだ声でそう言えば、
「流石は鳥人間。偏った思考。奴等の脳は摘出に値する。私の宝物と成り、永久に束縛されるが好い。ああ、厄介奇怪の極みよ」
 と、ユグゴト・ツァン(闇酔エグザイル・e23397)が真剣に返す。
「だよな、爆発のほうがいいよな?」
 すごく噛み合っていない会話だったが、本人たちは至極真面目な顔で頷いている。割れ鍋に綴じ蓋っていうか、なんていうかそんな感じなのかもしれない。
「それにしても、あの情熱を他に向けることはできないんでしょうか?」
 至極真っ当な意見を若生・めぐみ(将来は女神・e04506)が、サーヴァントであるナノナノのらぶりんを撫でながら呟く。それができればビルシャナの信者にはなっていないだろうと思いつつ、志穂崎・藍(ウェアライダーの降魔拳士・e11953)は表情豊かに尻尾を揺らしてこう言った。
「アホ毛のどこがいいのか判らないニャ」
 空き地にいるビルシャナ達の教義を根底から覆す一言だった。
「安易な萌え要素……そんなもので妥協してはいけませんよね」
 トップアイドルを目指す浅葱・ミク(クルーズナビゲーター・e16834)が自身に言い聞かせるようにそう言うと、テレビウムのぷろでゅーさーも大きく頷く。彼女の頭上にも一般的にアホ毛と呼ばれるそれがあるようにも思えるのだが……と、視線を感じたのかミクは誰に言うでもなく、
「こ、これはアホ毛じゃありませんから!」
 と言い切った。
「まあまあ、誰もミクのことは言ってないから気にするな。それよりも……」
「はい、ビルシャナ達ですよね」
 フィオリナがミクを宥めながら、その言葉に頷く。
「さっさと目を覚まさせてあげましょうよ」
 ゆりあがさらりとプラチナブロンドの髪を揺らしそう言うと、ケルベロス達はアホ毛を連呼するビルシャナ達へと向かって歩き出したのだった。

●アホ毛よりも魅力的?
「むむ、何者だお前達!」
 ビルシャナが自分達へと近付くケルベロス達に気が付き、ピコピコとアホ毛を動かして問い掛ける。それに倣うように、信者達もケルベロス達へと振り返った。一瞬、女の子だ……! というどよめきが広がったが、すぐに真面目な顔に戻る。
「私達はケルベロスよ、アホ毛アホ毛ってそんなもんだけで美少女の定義をされちゃ困るわ」
 ゆりあの言葉に、信者達に動揺が走る。ケルベロスであるということもそうだが、何よりアホ毛を否定されたのだ。
「ケルベロスがなんだと言うのだ! アホ毛を否定する時点で我らとは相容れぬ者、怯むな! アホ毛こそ美少女の至高のチャームポイント! つまりアホ毛のない者は美少女ではないのだ!」
 無茶苦茶な理論ではあったが、信者達への効果は抜群だ! ビルシャナはアホ毛をピコピコさせながら、それを満足気に見ている。
「なんというかアホ毛じゃなくてアホの集団だよな。美少女議論は脇に置いて、その付けアホ毛。はっきり言ってキモイ」
 その様子を見て、フィオリナが呆れ顔でズバッと言い放った。
「アホ毛を馬鹿にするか、貴様!」
 付けアホ毛を付けた信者の1人がフィオリナに食って掛かる。
「アホ毛とか可愛く言っても、要するに寝癖じゃないか」
「寝癖……? 違う、これはどうセットしてもぴょこんっとはねてしまう美少女特有のチャームポイントだ!」
 身も蓋もない言葉に信者がやや苦しいながらも言い返すと、めぐみが溜息混じりにこう言った。
「アホ毛って、女の子にとっては、髪の毛を大事にしてない証なんですよ? そんなのに萌えられても迷惑なだけです」
 まさかの事実だった。そして更にそれに補足するかのように藍が言葉を重ねる。
「あほ毛が好きな人って、根本思考として女性を差別したい人だよね。寝癖であるあほ毛が出ていることで女性の隙をみて無意識に女性を見下し、可愛いと思う。そんな思考で可愛いとか言われても、女性は全然嬉しくないんだって事わからないかな?」
 その発想はなかったと、信者の1人が膝から崩れ落ちる。
「ただ可愛いと思っていたアホ毛に、そんな……!」
「そもそもの発想として、アホ毛最高と言っている時点でその対象物を貶めていると言う矛盾に気づかないかにゃ」
 ポニーテールを揺らして藍が言う。その信者にとっては完全に追い討ちだったようで、目が覚めたように付けアホ毛を取り去ると空き地から走り去っていく。
「くっそんな世迷言に誑かされてはならぬぞ!! 何をどう言われようと、アホ毛が美少女の至高のチャームポイントであることには変わらぬのだからな!」
 残った信者も、ビルシャナの言葉にそうだそうだと同意を示す。すると、ユグゴトがすっと前へ出た。
「おぉ……アホ毛を有しておる……! そなたはわかっているようだな」
 ユグゴトのアホ毛を見てビルシャナがアホ毛をピコピコ動かして満足そうな声を出した。けれど、それを完全に無視してユグゴトは告げる。
「重要な物質は頭蓋の中に。脳こそが至高の嗜好と説く。美少女も美男も脳の働きで想像可能。洗脳妄想が現を倣い、素敵な夢を創造する。うふふ。私の知識技術が在るならば、誰もが幸福に堕ちる筈よ。ああ、世界は素晴らしい。視界に映る全が素晴らしい。映す脳に感謝を。快楽の根源を謳え」
「なんだと??」
 要するに、アホ毛は飾りで脳こそが至高の物質だとユグゴトは言っているのだが、ビルシャナに理解できるはずもない。何を言われているのかよくわからない、と言う風にアホ毛がピコピコ動く。そして信者達には困惑の色が見えた。そんな空気を物ともせずに前へ出たのは、爆発に命を賭けていると言っても過言ではない爆弾だ。
「うむ、そなたもアホ毛を有しておるのだな! そなたならわかるだろう、この」
「アホ毛は爆発だ!」
 ビルシャナの発言を途中で遮って爆弾が叫ぶ。その自身の頭に輝く導火線のようなアホ毛に躊躇いなく着火すると、ビルシャナと信者達のアホ毛にも着火しようとにじり寄った。
「ひゃっはー☆ 貴様らのアホ毛(ハート)に火をつけろ!」
 アホ毛と書いてハートと読んだのはきっと爆弾が初めてなのではないだろうか? いやそんなことはどうでもよかった。それよりもアホ毛を庇いながら逃げ惑う信者とビルシャナだ。アホ毛に着火することを拒まれ、
「なんだとぅ! 爆発しないアホ毛はただの寝癖だ!」
 と、爆弾が叫ぶ。阿鼻叫喚に近いこの状況で、困惑しきった信者達にアイシアが声を掛けた。
「間違っちゃダメ! アホ毛は関係ない。美少女こそ至高なんだから」
「美少女こそ至高……」
「そう、美少女ならどんなチャームポイントだって至高の物になるんだよ!」
 アイシアの言葉に信者達の心が揺らめいているのを見て、めぐみがラブフェロモンを放ちつつ手を握る。
「ツインテールな女の子ではダメですか? ツインテールは萌えませんか?」
 そしてダメ押しとばかりに上目遣いで信者達を見上げた。これで萌えない男などいるだろうか? いや、いない。その流れに乗るように、ミクもツインテールを揺らしながら口を開く。
「アホ毛で個性を出さないと美少女に慣れない時点で、真の美少女ではないのです!」
「そうだ、それに最近はどこを見てもアホ毛キャラは複数いるわけで、はっきり言って多すぎる。まさにアホ毛バブルだ、そしてアホ毛バブル崩壊が訪れよう」
 ミクの言葉にフィオリナが頷きながら言い、指をパチンと鳴らした。それはアホ毛バブルが弾けた音だったのだろうか、信者達がお互いの顔を見合わせている。
「確かにアホ毛は可愛いかもしんない。でもこちとら全身色んなところに気をつけてんの、お化粧に衣服、筋トレにダイエット……そんな努力を抜いて、ただアホ毛つけてりゃ美少女になると思う?」
 ゆりあが至極現実的な話をすれば、信者達がうな垂れるのが見て取れた。
「髪型なんて、要素のうちのひとつでしかないもんだわ。ね、こっちにきたら、レンタル彼女を無料でしてあげる」
「レンタル……」
「彼女……!!」
 ゆりあのウィンクがダメ押しだった。信者達は付けアホ毛を投げ捨て、ビルシャナの元を離れていったのであった。

●ピコピコアホ毛をやっつけろ
「ぐぬぬぬぬ、アホ毛を美少女の至高のチャームポイントだと思わぬ奴などこうしてくれるわー!!」
 ピコピコと怒りにアホ毛を震わせながら、ビルシャナがケルベロス達へ付けアホ毛を持って向かってくる。やや涙目になっているのは気のせいだろうか。
「アホ毛アホ毛と言うが、美少女ばかりがアホ毛を有しているわけでもないだろう」
 向かってくるビルシャナに対し、フィオリナが卓越した技量を持って鋭い一撃を放った。
「さて、アホ毛はもうだめになった髪の毛の事が多いので、切っちゃいましょう」
 惨殺ナイフを構え、めぐみがビルシャナ目掛けて斬り付けると、らぶりんがナノナノばりあでめぐみを包む。
「アホ毛を斬るとか罰当たりにも程があるわ!!」
 ビルシャナがそう叫ぶと、アホ毛をピコピコ動かして破壊の光をめぐみとアイシアへ向けて放つ。
「きゃ……っ!」
「く……っ! アホ毛なんて関係ないのよ、だって私……アホ毛ないし!!」
 ゴーグルを下げて戦闘態勢を取っていたアイシアが、ビルシャナの攻撃を受けつつも怯まぬ動きを見せる。雷の力を纏わせた手裏剣を構えると、
「ビリビリ痛いよー♪」
 と、叫んで無数とも思えるそれを投げつけた。
「確かにアホ毛は可愛いかもしんないけど、ゆりあのロングヘアも悪くないでしょ?」
 さらりと流れるロングヘアを靡かせながら、ゆりあが「ブラッドスター」を歌い上げ、めぐみとアイシアの傷を癒していく。
「暁の水平線の遥か彼方 未来の宙ヘ」
 ミクが『ミライノソラヘ』を歌い仲間へ勇気と活力を与えれば、ぷろでゅーさーもその手にした凶器でビルシャナを攻撃する。藍は積極的にビルシャナのピコピコ動くアホ毛を狙いつつ猟犬縛鎖を仕掛けた。
「やめろ、このアホ毛は神聖なる余のアホ毛だぞ!!」
 ビルシャナは完全に涙目だ!
「時間とは残酷なものよ。焼肉の始まり」
 ビルシャナを鶏肉として見ているのだろうか。ユグゴトがそう言うと肉体を破壊するその一撃を解放する。
「円柱の断面は丸。丸の断面は点。三次元の断面は二次元。四次元の断面は三次元。Yの叡智は全で在り、我が一を掬い救う」
「余は焼き鳥ではないわ!! ぎゃー!」
「ひゃっはー☆ あたしのあふぉ毛が火を噴くぜ! 最終究極奥義! 粉・塵・爆・発!」
 ビルシャナが叫ぶと、間髪入れずに爆弾が嬉々として爆破スイッチを連打する。ちなみに秒間16連打である、無意味だが。こうなるとビルシャナも焼き鳥同然、いや焼き鳥寸前の状況だった。
「そろそろ仕舞いだな? そのアホ毛、仕留めさせてもらう! いくぞ、ミク!」
「はい、フィオリナさん!」
 フィオリナがビルシャナの弱点を見抜き、破鎧衝による一撃を喰らわせると、それに連携するようにミクがコアブラスターによって必殺のエネルギー光線を放ち、ビルシャナを包み込む。
「余の、余のアホ毛が……っ!!」
 それがビルシャナの最後の言葉だった。

●それぞれみんな、魅力的!
「アホ毛がなくなった気分はどうかにゃ? ……といっても、もう答えは聞けないにゃ」
 崩れ落ちる寸前、確実に泣きっ面だったなと思いながら、藍は戦闘によるダメージを負った空き地へとヒールを行う。信者達には特に怪我もなく、自分たちが間違っていたと素直に認めケルベロス達へ頭を下げていた。
「良かったら今度、握手会に来てくださいね」
 ミクが謎の営業を行いながら、付けアホ毛を取りちょっとボサボサになった信者達に寝癖直しスプレーを噴霧している。
「ね、寝癖直しスプレーはやめろぉ、ああ導火線が湿気ってしまうぅ!」
 爆弾が自分のアホ毛を押さえて信者達……というよりは寝癖スプレーから距離を取った。
「なんで男性って、女の子に嫌われるようなことをするんですかね……はぁ~」
 空き地から去っていく信者達を眺めながら、めぐみが心底呆れたように言うと、
「女性の扱いを知らぬ者はそうかもしれないな」
 と、フィオリナが頷いた。
「アホ毛かー、今度、アホ毛作ってみようかなー」
 少しばかり影響されたのか、アイシアがぽつりと漏らす。それを聞きながら、ゆりあの心もちょっと揺れていた。
「(無駄に疲れたけど……アホ毛がこんな心動かすなら人気とりに使えるわよね)」
 アホ毛だけが美少女のチャームポイントではないけれど、あっても悪いものじゃないという気持ちが芽生えたのも確かだった。
「髪型云々よりも脳云々。頭蓋の中身こそが至高と説く」
 ユグゴトは最後までぶれないままであったが、その頭上にはアホ毛が確かに揺れていた。

作者:波多蜜花 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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