山陰地方の山奥。
人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
「急な話ですまない。オウガメタル……ローカストの飼育するアルミニウム生命体が助けを求めている」
ヘリポートのケルベロスたちにリリエ・グレッツェンド(en0127)は経緯を説明する。
事の起こりは先日の黄金装甲のローカスト事件……事件を解決したケルベロスたちはその中で、黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことに成功し、彼らについて知る機会を得た。
「彼ら……と、呼んでいいのかわからないが。その種族名はオウガメタル、他者と共生してグラビティ・チェインの一部を得るタイプのデウスエクスらしい」
だがローカストとオウガメタルの関係は現在、理想的な共存関係とは到底言えないものらしい。
「オウガメタルはローカストに『支配』されている。上下関係ということだ。ローカストたちはグラビティ・チェインの枯渇を理由にオウガメタルを使い潰すように使役している……先の黄金装甲がまさにそうだ」
黄金装甲化はアルミニウム生命体本来のグラビティ・チェインを使う、いわば捨て身の力。オウガメタルたちを絶滅させる可能性すらある残虐な使役に対し、絆を結んだケルベロスたちへと救いの希望を託した。
「……と、そういう流れでオウガメタルたちが地球に脱出してきた。もちろんローカスト本星から、ゲートを通って、だ」
リリエが驚きを隠せないのも無理はない。
それはつまりオウガメタルたちからローカストのゲート……本星に通じる最重要拠点の情報が洩れかねないこと、それを封じにローカストたちも死にもの狂いで殲滅にくるということでもあるのだから。
「はっきりいって、かなり厳しい戦いになるだろう。だがこのままでは、オウガメタルたちは間違いなく絶滅させられてしまう。それこそ一体残らずだ」
リリエは改めて依頼する。ローカストを撃破し、オウガメタルたちを救出してやってほしいと。
「オウガメタル達が追われている場所は、山陰地方の山奥だ。我々はこれからヘリオンで現地に飛ぶ……到着は夜半過ぎになるかな? オウガメタルたちは発光信号のように銀色の光を放っているそうなので、それを目標に降下してくれ。誤差は出るだろうが百メートル程度、合流は難しくないはずだ」
追手のローカストたちは強敵である。兵隊アリローカストが二~三体の働きアリ型ローカストを引き連れており、戦闘を本職としない働きアリたちでもケルベロス数人を相手にできるほどだ。
彼らを率いる兵隊アリローカストに至っては退くことを知らぬゲートの護衛士、オウガメタルの扱いにも長けた戦闘の専門家である。
「働きアリたちに関しては、兵隊アリがいなければ不利な事態に逃げ出す事はあるらしい。期待しすぎるのも危険だが、狙ってみてもいいかもしれないな」
事態は急展開、かつ厳しい状況だ。
だが『義を見てせざるは勇無きなり』との故事もある、とリリエは言う。
「虐げられ、危機に瀕した種族が絆を最後の希望として頼ってくれた……ケルベロス、誇らしい、嬉しい話じゃあないか?」
相棒たるヘリオンを見上げたリリエの声は、気持ち力強く感じられた。
参加者 | |
---|---|
ルヴァリア・エンロード(オーバーロード・e00735) |
青泉・冬也(人付き合い初心者・e00902) |
ヴィヴィアン・ローゼット(ぽんこつサキュバス・e02608) |
霧島・龍護(氷騎の先導者・e03314) |
夜刀神・煌羅(龍拳の聖・e05280) |
ニクス・ブエラル(枷ニ非ズ・e06113) |
逢坂・明日翔(審判の銃弾使い・e11436) |
花守・すみれ(菫舞・e15052) |
●いくぜ、相棒
ヘリオンから飛び降りるや、夜刀神・煌羅(龍拳の聖・e05280)は背の翼を大きく開いた。
「ふむ、最近は地上でビルシャナと殴り合いが多かったからの。頑張って飛ぶとしよう」
身をほぐすように数度羽ばたくと、仲間たちの姿がみるみる眼下に小さくなっていく。
「龍護だ、全員着地したぜ。上からの様子はどうだ?」
「うむ、あれで間違いなさそうじゃ。東に進めば獣道に出る、敵の姿は……」
骨伝導式のインカムを通した霧島・龍護(氷騎の先導者・e03314)のクリアな声に、煌羅も同型のそれで応えた。
「……既にはじまっておるかの」
「他のグループも続々を向かってる様だ……私たちも気を引き締めて行こう」
点滅する輝きを追う視界には、騒々しさを増していく山中がいやでも飛び込んでくる。地上のニクス・ブエラル(枷ニ非ズ・e06113)からも十分に感じられる気配に、ケルベロスたちは足を早めた。
最初の目標まで、あと少し。
「全く、オウガメタルを殲滅しようだなんてな」
「あぁ。俺達を信じて逃げてきたオウガメタル達の行動を無駄にしない為にも」
感情を露にする逢坂・明日翔(審判の銃弾使い・e11436)に、青泉・冬也(人付き合い初心者・e00902)も頷き、ケルベロスたちは更に組を分ける。
助けを求める光は自分たち救助者にだけ見えるものではない。追いかけるローカストたちも既に行動を起こしているはずだ。先手を打ち、備えなければならない。
「皆さんも、オウガメタルさんも、絶対に連れて帰りますから……」
「いたよ! たぶん、あそこ」
花守・すみれ(菫舞・e15052)もまた想い人と決意は同じ。その思いを確かめた時、木々の先から輝きとヴィヴィアン・ローゼット(ぽんこつサキュバス・e02608)の声が飛び込んできた。
「見つかった? 奇遇ね、こっちもだ!」
だが一息つく間もない。インカムからルヴァリア・エンロード(オーバーロード・e00735)の、どこか楽しげな声が響く。
振り向けば、巨大アリの如きローカストたちが姿を見せ始めていた。
輝きの中に、ケルベロスは呼び主を見つけた。『オウガメタル』と自らを呼んだ金属生命体は、水銀のように柔らかく、磨き上げた金銀のように艶めかしく、触れれば確かな生命が感じられた。
『オウガメタル、さんね?』
ヴィヴィアンが接触テレパスで呼びかけるとオウガメタルが一度輝いた。肯定、ということか。
『あたし、ヴィヴィアン。よかったらあなたの名前、教えてくれる?』
点滅が少し間を空けて二度。否定……拒絶ではないが、困惑だろうか? すみれは反応にそんな印象を受けた。
「個体名がない……ってことではないよね? 言葉は苦手なのかな?」
こういった単純なやりとりはまだしも、具体的な固有名詞や発声といったやりとりは彼等の生態では難しいものなのだろう。
『あたしたち、あなたも、あなたの仲間も助けたい……そのために来たの。だから、信じてくれるとすごく嬉しい……できれば近くで守らせて欲しいな?』
再び問いかけるヴィヴィアンにオウガメタルが点滅した。一度、次に二度。
断られたか? そう思う間もなく、金属の肉体が広がり爆ぜる。
「うまくいったようかの……おぉ!」
降下してきた煌羅は地上の光景に息を飲んだ。
観察し、変化する。瑠璃色の椿が彩られたゴシックな和装に身を寄せ、透けるほど薄く、華やかに。
「……ありがとう。わかったよ、一緒に戦おう」
主と新たな相棒の姿にボクスドラゴン『アネリー』が眩しそうに瞬きした。
ローカストたちとの姿が『装甲』『甲殻』ならば、彼女の下でオウガメタルが変化した姿は光り輝く『ドレス』であった。
●アリア騎士、まいる
「合流阻止は失敗か」
「残念だったね、騎士さん。ここは通行止めだよ」
窪地を挟んで対峙したローカストたちにルヴァリアは弓弦を鳴らして宣言する。
騎士という単語はごく自然と出てきた。甲冑の如き装甲、手にした騎槍のような得物、なによりも放たれる気迫が告げている。
「そうでもない。まとまってくれたと思えば……散開!」
叩き込まれる明日翔の連射に叩かれた配下を一喝し、一気に跳躍する。
「アリア騎士キャレイダ。名乗らせていただこう」
こいつは兵士ではない。自ら戦いを動かす士官、戦士だ。
「くそ、踊りやがる!」
「けど、これも作戦のうち……ってね」
身をかわす敵陣にニクスも仕掛けた。
まだ奇襲は効いている。個々人の強さにこの指揮官、この状況で優位を作り出すには攻めなければならない。
「動かぬ身体、その病巣を感じつつ、運命が許す間、喜々として生きるがいい。ウィーウィテ・ラエティー――」
呪言の意は『汝、己ノ結末ヲ想エ』。放たれた病魔の力は飛び跳ねるローカストへと食らいつき、その身を浸食して地へと墜とす。巻き込めたのは……二体か。
「伏兵か。やってくれる」
「余所見をするとはいい度胸だな? 貴様の相手は俺たちだ!」
指揮官にも反応の隙も与えんと、冬也とルヴァリアが飛びかかる。その圧力にローカストは迷わず体内の力を発動した。
「不退転の英霊よ! 我が主アリアに繁栄あれ!」
斧撃のルーンの輝きが弾かれる。漆黒の甲殻が白銀へ、滲みだすようにローカストの色が変わっていく。
「この突撃、耐えられるかしら!」
このままではダメだ。瞬時に判断し、ルヴァリアは補助魔力のカードを抜き放った。ばらまかれるカードのゲートをくぐり、加速した肉体がぶちあたる。
「ぬぅっ!」
「ッかぁ……!」
二者が跳ね飛ぶ。
ルヴァリアの身体が毬のように転がり弾む。ローカストが片膝で着地する。良く見ても六分四分。強い。
「冬也さん! ルヴァリアさん! ……あぁもう、邪魔!」
すかさず狙撃しようと試みるすみれだが、射線には駆け付けた配下の姿。悪態をつきたくもなる見事な連携には、護りに入った煌羅も舌を巻く。
「やるのぅ、ローカストの」
「黄金の英霊には及ばぬも、我らアリア騎士にも戦いの年季がある」
曇りなき白銀と化した兵隊アリのローカストは悠然と立ちはだかった。
『ねぇ、向こうのオウガメタルに呼びかけられない? あの時みたいに』
働きアリたちの破壊音波に歌声で対抗するヴィヴィアンはオウガメタルにも問いかけてみるが、感じられた反応は否定。
「離反を期待したのならば無駄だ。対策はさせていただいた」
オウガメタルの扱いは自分たちに一日の長がある、とでもいうのか。白銀の装甲がぬらりとうごめき、騎士の腕には鎌状の刃が形成された。
●オウガメタル・フラッシュ
「戦術超鋼斬!」
「ぬぅっ、念彼妙法力 還著於本人!」
振るわれる刃に煌羅は呪詛返しの『観音還呪』を唱える。捕らえられたのは庇いに入った働きアリ、横合いから突然の蹴りにアリア騎士の腕が逸れた。
「くぁっ……」
裂かれけた足の力が抜けていく。痺れにも似た感覚にドラゴニアンの僧は声を出して踏みとどまった。
「やられたぶんだけ向こうは元気になるとか、勘弁してほしいね……ったく!」
屠竜の弓を投げ捨て、ルヴァリアはゾディアックソードを抜く。そのこぼれそうな胸元と衣装にも深い傷が一筋。
蹴りかかってくる働きアリのローカストを打ち返しながら、彼女は裂けた防具を強引に結び直す。
「きついな……私も回復に回るよ、援護は頼む」
「任された。ドロー!」
龍護のカードが光る猫の群れを召喚する。飛びかかる猫の爪がラッシュをわずかに遮断するなか、ニクスのまいた薬液の雨が混乱する戦線を立て直す。
メディックではない彼の癒しはしれたものだが、それでもヴィヴィアンに少しの余裕が生まれる。
「アネリー、少しだけお願い」
「きゅ!」
ここは任せてと構えるボクスドラゴンに頷き、彼女は盟友に問いかける。
何かもっとできることはないか?
関係の健全性はともかく、武具としての利用ではアリア騎士に分がある。同じ事をしても勝てない。それ以外の可能性を、オウガメタルの力を引き出す何かを……。
「あ……!」
果たして、それはあった。
「この光……いや、粒子!?」
ヴィヴィアンの身体から放たれた不思議な光塵……『オウガ粒子』とそれを呼ぼう。粒子に触れた明日翔は感覚に導かれるまま銃口を交差させる。
「オウガメタルには指一本触れさせんぞ! こいつで怯みな!」
ヴィヴィアンへと破壊音波を集中させんとした働きアリ二体が吹き飛ぶ。師と友の縁が刻まれた両手のリボルバーは、いつも以上にしっくりと馴染んで感じられた。
「これもオウガメタルさんの力……危ない!」
集中したすみれの視界でアリア騎士の影が跳躍する。空中回転から突き出される足先がニクスを捉えるのを追いかけ、少女は見えた軌道に間に合えと気の拳を投げた。
「ギ、ガッ!?」
間一髪。激突の瞬間、血と甲殻が飛び散った。
●絆、矜持
「危なかった……助かったよ」
ニクスはよろめきながらも激突した強敵を見やる。ロングコートに刻まれた切り傷は斧でも叩き込まれたようだ。
目から頭蓋を砕くほどの一打を喰らいながらも、アリア騎士の蹴りはひるみはしなかった。そして今も、自らに強烈な治療を叩きこむ彼の前でゆらりとローカストは身を起こす。
「聞きしに勝る強敵だ、やりがいがあるね……けど、アタシの腕だって捨てたもんじゃないって、魅せられたんじゃないかしら?」
「確かに、驚かされた……だが!」
再び体内のオウガメタルが染み出し、抉られた頭部を守るように覆う。抑えきれぬ日々からは体液がぽたぽたと染みを作るが、騎士の戦意に揺らぎは感じられない。
「大した執念だけどな……オレたちだって負けられねぇ!」
カードも戦いも飲まれれば負けだ。声を振り絞り、龍護はシャーマンズカードを引き抜いた。
「ならば決着をつけるまで! 行くぞ、我らが矜持!」
「まだ俺たちのターンだぜ! 行けっ、【雷電の機巧兵】ッ!!」
召喚の叫びに立ちはだかる『雷電の機巧兵』めがけ、号令と共に騎士と配下のローカストたちが蹴りかかる。高圧放電の壁に身を焼かれながらも、必殺の蹴りが空間を切り裂いて突き刺さる。
「玩具如きが、この程度!」
狙いは癒し手とオウガメタル。ヴィヴィアンめがけ深々と切り込んでくるアリア騎士に、しかして彼女は恐れなかった。
「トラップカード、っていうのかな? こういうの!」
アリア騎士の手前にカードが並ぶ。まさに伏せられたカードが牙を剥くように、スライディングからルヴァリアの身体が加速、跳躍した。
「邪魔は、させん!」
身を挺しようとする働きアリの守りを冬也のリボルバーが追撃する。撃ち抜かれた身体は一歩届かず、アリア騎士の身体をルヴァリアの身体が貫いた。
動の時間は終わり、静の緊張が戻る。
「さて……続けるかの?」
アリア騎士、倒された働きアリの遺体を挟んでの睨みあい。先手を取ったのは煌羅だった。
「ギ……!」
表情の読めないローカストの顔立ちだが、顔をしかめ悩んでいるであろうことは雰囲気で大体感じられた。隊長に仲間の一人が倒された一方、ケルベロスたちも無傷ではない。また彼等なりの感情もあるのだろう。
決死の覚悟で隊長の遺志を継ぐか? それともここは退くべきか?
「二度は言わねぇぜ」
明日翔の指が嵐の銘もつリボルバーの撃鉄を起こす。向けられた人差し指と銃口が、働きアリローカストたちを決断させた。
「退いてくれた……ようですね」
「あぁ。目的は、一応達成は出来たか……」
後方へと大きく跳躍したローカストたちの姿が消え去ったのを確認し、冬也はリボルバーをおろす。崩れ落ちるように座り込んだニクスはふぅ、と一息。
負けはなかったと思いたいが、最後まで続けていれば相当に厳しい死闘になっただろう。
「うむ、増援もこれ以上はなさそうじゃ……勝てたようじゃな」
空からの確認を終えると、煌羅は分離したオウガメタルへ改めて声をかけた。
「これからよろしく頼む。行く場所がないならわしの寺にくるかの……と、考えていたが、少々野暮かの?」
「んーっと、それがそうでもないみたいで……っと」
視線を向けられたヴィヴィアンが言う間にも、むにゅりと金属が二つに変形した。
「ほう! なかなか柔らかいの」
「名前も、考えてあげなきゃね」
驚きながらも興味深そうな煌羅、緊張の解けた様子のオウガメタルたちにすみれはふっと微笑んだ。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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