オウガメタル救出～いのち、ひかりて

■リプレイ

●命のもとへ
　ヘリオンから飛び降りた途端、夜気がぶつかってくる。下へ下へと落ちる中、目に映るのは夜に包まれた山陰地方の山奥だが、そこで輝きを放つ銀光――その尊さを、ケルベロス達は知っている。
　幾つかの枝葉を折りながら着地し、即、行動を開始した。
「降下中に見えた光の位置からして、こっちだな」
　サイガ・クロガネ（唯我裁断・e04394）が視線を向ければ、その先に鬱蒼と茂っていた雑草が、さあ、と分かたれる。
　瞬間、彼らは駆けた。のんびりしていては、降下中に見た光が永遠に消えかねない。
「なんとしてもここでオウガメタルをなんとかしてあげたいね。よし、気合い入れてがんばろ」
　体にランプを括り付けた東雲・海月（デイドリーマー・e00544）がそう言えば、追走していたコンスタンツァ・キルシェ（ロリポップガンナー・e07326）も気合いを入れる。
「助けを求められたからには応えなきゃ女が廃るっス。ケルベロスの底力の見せ所っスよ！」
「ええ。少しでも疾く、オウガメタルさんをお助けしましょう！」
　虐げられ、救いを求める存在の力になりたいと土竜・岳（ジュエルファインダー・e04093）は真っ直ぐ走った。皆で用意した光が、目に映る光景を明るく見せている。
　その横を駆け、先頭に出た王生・雪（天花・e15842）は身に付けた光――オウガメタル達と似た銀光を放つ光源に、そっと触れた。
「命懸けで希望の光を灯す彼らを、その必死の想いを、どうして無下に出来ましょうか」
　命も絆も、ここで絶やす訳にはいかない。必ず皆で――オウガメタル達と共に帰る。
　その言葉に『必ず』と応えたのは、敵の気配は、その場所はと周囲を警戒しながら駆けていた、ロゼ・アウランジェ（時空詩う黎明の薔薇姫・e00275）だった。
「新たな仲間が増えるのは喜ばしいことです！　全力で、彼らを救いましょう」
　左手薬指の指輪に触れれば、決意に満ちた心に浮かぶのは温かな想い。
（「愛する貴方との明日を切り開く為にも……」）
　救いを求める声に応える事も、皆で帰る未来も、亡くしはしない。
　仲間達が口にするオウガメタルへの想いを聞いた神宮時・あお（忘却ノ未来・e04014）は、共に走りながら思った。
（「……意志のある、金属……どのような、方、なの、でしょうね」）
　助けを求め発する銀光は見たが、姿形を見るのはこれが初。その存在は、今――。
「あそこですね」
　数メートル先、その周囲に敵は見当たらず、連城・最中（隠逸花・e01567）は心の内で安堵する。着地した時に銀光が途切れたように見えたが、今は再度強い光を見せていた。どうやら、数分間隔で発しているらしい。
「ケルベロスです、助けに参りました……！」
　雪の声が響くと光の主が動きを止め、海月と岳も駆け寄りながら言葉を重ねた。
「大丈夫、僕たちはキミを助けに来たんだよ」
「もう大丈夫です。私たちが守りますから安心してくださいね」
　隔てる距離はもう無い。完全に移動を止めたオウガメタルの姿を何かに例えるなら、金属で出来たスライムだろう。すると、オウガメタルの発する光が弱まっていく。
「……伝わった、みたい、ですね」
　あおの声の後、穏やかな空気が流れたのは僅か。近付いてくる物音と複数の気配に、ケルベロス達は自分達の後方、木々の死角へとオウガメタルを隠した。

●命の為
　次々電源を入れた光がその場を照らせば、浮かび上がったのは３体の蟻型ローカスト。騎士を思わす姿形をした個体が驚きを露わにする。
「まさか、ケルベロス！？」
　構え、動こうとしたそこに掛けられたのは。
「よぉ虫野郎」
　サイガの声――と、返事も許さぬ程の連続爆破。更に重なり輝いた『無垢、完成』を謳う真珠の光が、奔流となって働き蟻に襲い掛かる。
「貴方がたも母星を救うために頑張っておられるのですよね……そして私たちも地球を、命を守り抜く覚悟です。ここは絶対に通しません！」
　岳の言葉に、雪は切なげに目を閉じ、そして開いた。
　ああ、そうだ。
（「双方困窮する同胞の為という心は同じというのに……」）
　相容れぬ、という現実が確かに在る。だが、オウガメタルの命を踏み躙る行いは見過ごせない。夢現を惑わす胡蝶が舞うその向こうから、煌めく白刃が躍り出た。
「蹂躙の道を断ち、命繋ぐ道を拓きましょう」
　真っ白な翼猫・絹がその心を繋ぐ。放った春色の数珠が働き蟻を強かに打った直後、それより遥かに大きな物が空を斬りながら襲い掛かった。
「ギャッ！」
　手元に戻った大鎌を手にしたあおの表情は、敵の悲鳴を聞いても『無』のまま変わらない。幼き仲間の後に続いたロゼは凛と声を響かせた。
「このまま、作戦通りに行きましょう……！」
　油断せず、迅速に、確実に、１体ずつ。
　働き蟻へ流星と重力の蹴撃を見舞うと、腕から鋭刃を展開した兵隊蟻が大きく動いた。
「邪魔だ！！」
　翅による音波の二重奏も加わり、ケルベロス達を襲う。
　音から仲間を庇ったサイガは敵を見据え、閃く刃の前に飛び出した絹も尾を立て、主の隣に並び立った。その足下で黒鎖が走り回る。
「ローカスト達も護るべきもののために戦ってんだよね、僕たちとおんなじ。でもさ、」
　最後は思いの強い方が勝つんじゃないか。海月はそう思うから、と笑みを浮かべた。
「負けるわけにはいかないよ」
「そうそう」
　コンスタンツァも笑う。二丁拳銃を手に戦場を舞い、見舞った銃弾の雨が兵隊蟻達を貫いた。
（「大丈夫、アンタとアンタの仲間達はアタシ達ケルベロスが必ず守るっス。指きりげんまん。約束っス」）
　よくわからないがカッコイイ、武器に変わる不思議な生命体。特撮に出て来そうな彼らと友達になりたい――だからこそ、助けを求めてきたのなら、手を差し伸べない謂れは無い。
　苛烈な攻撃の後を最中が駆ける。戦いが始まると眼鏡を外した鮮やかな緑眼には、今も感情を映さない。しかし。
「貴方達のやり方は、気に入りません」
　守る為。生きる為。敵も同じ理由で戦っているが、命を、存在を食い潰されているオウガメタル達の心を思うと、首肯など出来ない。
　手にした刀に憤りを乗せ、ゆるりと描くのは月を思わす弧。次の瞬間、兵隊蟻の脚は大きく斬られていた。

●命を賭して
「無駄だ！　オウガメタル共の逃走も、貴様等ケルベロスの戦いも！」
　お前達を殺しオウガメタルも殲滅する。兵隊蟻の宣言にサイガの眉がぴくりと跳ねる。一瞬姿が消え、再び現れた時には働き蟻の背を掻き斬っていた。
「無駄だとは言わせねえ」
　オウガメタル達が、抗い、戦うと決めたこの夜を。
　記憶が地獄化した身だからこそ、救いを求めても届かぬ痛みを、その先のひかりを知っている気がした。だから、只の道具で終わらせない。
　苛烈な殺気に働き蟻が一瞬たじろいだ隙を、あおは見逃さない。振るう大鎌、その刃に虚を纏わせ斬り付ければ、音波で受けた傷が僅かに癒えた。
　声を上げ、少女から離れようとする働き蟻。その頭に天地が割れる程の衝撃を叩き込んだロゼは、倒れて動かなくなった働き蟻から視線を移す。
「聞こえますか！　私達はケルベロス、貴方方を助けにきました！　すぐ、戒めから解放致します！」
「！？　貴様等、何を……！」
　兵隊蟻達が繰り出す蹴り。間に飛びこんだ雪と絹の向こうで、ロゼは兵隊蟻を見つめていた。だが、敵に真摯な心を向けているのではない。
　海月の紡ぐ禁章の中身に癒されながら、神速の突きを見舞った雪と、仲間達の頭上に癒しの雨をもたらした岳も声を上げる。
「救出の手立てがあるならば尽くします。僅かでも意志が……仲間想うお心が残っているならば、我等にお力添え頂けませんか」
「今私たちが皆さんもお救いします！　だからどうか希望を持ち続けて下さい、蟻さんに負けないで下さい！」
　それは敵の元にあるオウガメタルに向けた言葉だった。突然の事に兵隊蟻達は一瞬狼狽えるが――何も起きない。
「まさか……」
　ロゼの中に浮かんだのは、黄金装甲との違い。言葉は届いているのだろう。だが、黄金装甲と比べ、装備者に抗う力を持たないのではないか。
　逃走したオウガメタル以外も救えたらという、ケルベロス達の想い。それに気付かぬ兵隊蟻が高らかに笑う。
「わけのわからん事を！」
「動くの禁止っスよ！」
「ぐっ！？」
　コンスタンツァが一瞬でばら撒いた銃弾が、兵隊蟻達の脚を、足下の地面と共に撃った。そして。
「影無き刃――捕らえられるものならば」
「！？」
　最中の見せた居合い。雷霊力を帯びた斬撃は一瞬。
　兵隊蟻の目には影すら残らず、同時に幾重もの痺れを与えた直後、降魔の一撃と化したオーラが働き蟻に放たれる。悲鳴を上げる事無く倒れた敵の傍から、ゆらり立ち上がったサイガの目に兵隊蟻が映った。
「付き合えよ、最後まで」
「いいだろう！　この俺、アリア騎士・ランカスターは母星の為、決して退かん！！」
　名乗り、覚悟を響かす敵は１体だけ。だが、ケルベロス達は一切油断せず、全力を向ける。自分達の後ろには、繋いだ命が待っているのだから。
「……行き、ます」
　あおが呟き、出る。繰り出した突きは音速を超え、防御しようとした兵隊蟻の腕を砕いた。
「ッグア……！」
「運命紡ぐノルンの指先。来たれ、永遠断つ時空の大鎌」
　――あなたに終焉を。
　ロゼの紡いだ伝承、その一節に喚び出された光纏う大鎌が、敵の『全て』を断ち切り葬り去る。銀河の煌めきと鎮魂歌の名残がある中、闘牛のオーラに乗ったコンスタンツァの銃口がランカスターを捉えた。
「ＧＯ、ロデオＧＯっス！」
「チィッ！」
　躱そうと脚を動かすランカスターだが、魔法の弾丸は赤く光り輝き、２本の雄々しい角を振り立てた雄牛の幻覚となって追い立て――逃がさない。
「蟻んこは大人しく巣に戻るがいいっス　これぞまさに蟻地獄っス！」
「じゃあ僕も。さー、何が出るかな。上手くいくと良いんだけど」
　海月は気に入りの書物を取る。偶々開かれた頁から一節を拾い、力として放てばランカスターの悲鳴が響いた。
　その頭上で、最中の召喚した無数の刀剣が星々のように煌めき――降ると同時、雪の放った矢がランカスターの『心』を貫く。
「――！」
　衝撃も悲鳴も、斬られ、貫かれた先に墜ちたような、声ともいえぬ呼吸の後。ランカスターの体は、ゆっくりと後ろに倒れていった。

●命の光
　ランカスターと２体の働き蟻。その骸は、暫くすると装備していたオウガメタルと共に、跡形もなく消えてしまった。
　叶うなら、守り抜いたオウガメタルと共に保護したかった――雪はそっと彼らを悼み、岳もまた、ローカスト達が地球の重力の元、安良かであるよう祈りを捧げる。
「ん、無事っスね。仲良くなれたら色んな事聞いてみたいっスね」
　ゲートの位置情報、本星ではどんな暮らしをしてるのか、どういう文化があるのか。
　興味と好奇心に胸を膨らますコンスタンツァの前、海月とあおが覗いた先では、オウガメタルは流動体のままそこに居た。
「とりあえず……ようこそ地球へ！　もう大丈夫です」
「貴方達の仲間もきっと無事です」
　声を弾ませた岳に続き、眼鏡を掛けた最中は安心するよう声を掛けた。他のオウガメタルの元にも、自分達以外のケルベロスが向かっている。他のチームがどうなったかは帰還するまで判らないが。
（「共生が出来ると良いですね」）
「では、帰りましょう」
　ロゼは空を見て微笑み、サイガが低く『ああ』と返す。
　ケルベロス達は、少しずつ明るくなっていく空の下、帰るのだ。
　新たな命と共に――皆で。

作者：東間	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 8／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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