オウガメタル救出～絆をその手に

■リプレイ

●ヘリオンから見下ろす地上
　闇に覆われた山間。木々の合間に幾つものチカチカと瞬く銀光が見えた。
「オウガメタルってどんな方なんでしょうねー」
　弓を手にしたソーヤ・ローナ（風惑・e03286）が呟きながら繋いだアリアドネの糸が、空を揺蕩う。
　それにしても、弓なんてひさびさに使うなあ、とソーヤが呟いていると、はは、と土方・竜（大蛇・e17983）は少しだけ感慨深そうに笑った。
「ローカストが纏っている所はきっと良くみているんだろうけどね。……しかしオウガメタルの救出か」
　助けを求められているとは言え、敵であるはずのデウスエクスを救うだなんて。こんな任務、昔の自分であれば無意味だと切り捨てていたであろう。
「簡単にはいかないだろうけど、その分価値があるだろうな」
　竜が呟き、肩を竦めてからその身を空へと投げ出す。
　瞬く銀光を道標に、夜を斬り裂き。ケルベロス達は空に沈む。
　ケルベロスたちに発見しやすいという事は、当たり前ではあるが追手のローカストたちにも発見されやすくなる言う事だ。
　その行為は、敵であったケルベロスたちに縋る行為であり、そしてそれだけ切羽詰っていると言う事であろう。
「せっかく結んだ絆をこの手に取りましょう、残虐な行為からオウガメタル様を救出するためにも……！」
　地へと降り立ったメリチェル・エストレーヤ（黒き鳥籠より羽ばたく眠り姫・e02688）は腰に下げたランタンに火を灯しながら、強く気持ちを噛みしめる。
「ええ。邪魔っけな虫はさっさと倒しちゃい所ね」
　直ぐ側に着地した頷いた日色・耶花（くちなし・e02245）が頷き、チカチカと瞬き蠢く欠片に視線を落とした。
「……けれど、これがオウガメタルなのかしら？」
　その欠片は跳ねながら纏まり、より大きな塊の方へとその体を捩らせる。
　ぷよぷよとしたスライムとしか表現しようの無いもの。
　ある程度固まった塊を掌の上に載せた耶花は、ふにゃりとその塊へと笑いかけた。
「――大丈夫よ、助けに来たわ。一緒に帰りましょう」
　その言葉にスライムは救援信号である銀の光を放つ事を止めた。
　もう救援信号は必要は無い、心より望んでいた救援は訪れたのだから。
　翼を持つ者達は翼で空を切り、自由に空を泳ぐ事ができる。
　その為、一番光を強く放っていた場所。
　一番大きな塊が居る場所へと、一直線に向かう事ができていた。
「あなたがオウガメタルさん、なのですね」
　シャウラ・メシエ（誰が為の聖歌・e24495）は夜を照らす光の翼をそのままに、首を傾げる。
　一抱え程の大きさのスライムは口をきける訳ではないらしく、ただぴょんと跳ねて見せた。
　その一番大きなオウガメタルに、周りの小さなオウガメタルたちは集まってきている様子で。別の場所に降り立ち、オウガメタルを追っていたケルベロスたちもそこへと集まってくる。
「しかし、仲間割れ―― と、言うわけでもないのですか」
　どこか気品を漂わせた物言い。メルカダンテ・ステンテレッロ（茨の王・e02283）が黒食んだ翼を畳みながら呟いた。
　ローカストを撒くためにスライムたちは小さくなり、散っていたのであろう。
　全て滅されないよう。来るかどうかもわからぬ助けを求めて、自らを狙う敵に発見される可能性を増やしてまで。
「――まあよい、敵の不利になることなら進んでしましょう」
　木々を切る風音に、メルカダンテはランプの灯りを揺らし、ナイフを両手に構える。
「来ますよ、シャウラ。構えなさい」
「はい。……ぜったいにまもりましょう」
　黒い甲冑を纏った兵隊蟻と、二体の働き蟻のローカスト達が草むらより飛び出した。
　彼らの駆ける先には、慌てて逃げるオウガメタルの欠片がいる。
「自らの武器に手を噛まれるとは、なるほど所詮虫のすることか」
　見下すように言い捨てたメルカダンテは、竜の幻影を生み後衛の働き蟻を食らわせる。
　ギヂギヂと音を立てその身を捩らせる働き蟻。
「――ジャマダ！」
　しかし、味方が例え攻撃を行われようとも、優先事項はオウガメタルなのであろう。
　一気に踏み込んだ兵隊蟻が地を蹴り、その手に握られた巨大な突撃槍をオウガメタルに目掛けて振り落とした。

●地上の星
　瞬間。
　間に割り込み、槍を受け止めたのはティユ・キューブ（虹星・e21021）だ。
「こんばんは、ローカスト諸君」
　槍と噛み合わされたバスターライフルを軋ませながら、ティユは歯を見せて笑う。
「オウガメタルたちが、折角ここまで僕たちを頼って来てくれたのでね。甲斐のある結果にしてやりたいというのが人情だろう？」
　兵隊蟻の槍先とバスターライフルの銃身が火花を散らし、同時にバックステップを踏むティユと蟻。
　働き蟻がオウガメタルに飛びかかろうとしたが、ボクスドラゴンのペルルが体当たりをぶちかまし。
　更に炎のように赤い長髪を揺らしてアマルティア・ゾーリンゲン（リビングデッド・e00119）が得物を振りぬき、その狙いを反らした。
「オウガメタルたちが助けを求めるのならば、手を差し伸べよう」
「そういう訳で生憎だがローカスト諸君。そっちはよくもここまで、だ。甲斐はやれんね。――さあ、導こうか」
　星が瞬き、ティユが煌めく星図を投影させ味方に加護を与える。
「私たちはあなたを護りに来たケルベロスよ。……必ず護るから安心して後ろに回っていて」
　ローカストとケルベロスの衝突をなんとかすり抜けてきたオウガメタルの欠片を、背後へと迎え入れたメリチェルは一塊となったオウガメタルへと微笑みかけた。
「――手中に蠢く龍の力で、癒しを我が手に」
　ビハインドのノイエが足止めを纏った魔力を叩きつけると共に、メリチェルの縛霊手より解放された紙兵は舞い、加護を撒き散らす。
　広げた光の翼を煌々と輝かせて。
　オウガメタルを守るように、シャウラは一歩前へと立った。
「わたしたちヴァルキュリアも、ケルベロスのみんなのおかげでエインヘリアルからかいほうされました」
　オウガメタルたちを今守れるのは、ケルベロスだけだ。
　祈るように、ゆっくりと瞳を開く。
「同じようなきょうぐうなら、こんどはわたしが助けるばん、ですよね」
　加護を与える煙幕を放ったシャウラは白煙を纏う。両手でしっかりと握りしめたゾディアックソードを下げて、蟻たちにその青い瞳を向けた。
「さ、私たちは君たちローカストの敵ですよ。――楽しい戦いにしましょうね！」
　下手に逃せばローカストはオウガメタルを追うだろう。
　彼らを確実に守る為に、敢えてオウガメタルを逃さずに守るように前に立ったソーヤは弓に矢を番い、一気に解放する。
「ケルベロスドモ、お前タチが、この騒ぎに関わっているのカ？」
　表情も伺えぬ甲冑の下から低い声が漏れる。
「さあね、虫に答える義理は一つも無いけれど？」
　耶花はつれない返事を返してアームドフォートの主砲の照準をあわせ、一息。敵へとレーザーが殺到する。
　兵隊蟻の短い号令の鳴き声に応え、牙を剥きだした働き蟻。
　耶花を狙い食らいつく蟻へと白きボクスドラゴンのパフが駆け、その身でその一撃を受けた。
「――排除スル！」
「やっぱり、俺は何処まで行っても忍びなんだな」
　跳ねるように敵へと近づいた竜が、働き蟻の体を撫でた。
　喉を鳴らして笑う竜。硬い表皮も、螺旋の力を込めれば内部から破壊ができてしまう。
「忍びがその姿を敵の前に見せるって事は、口を塞ぐって事だよ。――排除されるのはお前たちだよ」
　眼鏡を外した竜に先ほどまでの柔和な雰囲気は無く、冷たい印象を受ける黒い瞳は蟻たちを見下ろした。

●激突
　幾度も重なる剣戟は、互いの疲労を積み上げて行く。
　既に倒れた後衛の働き蟻を省みる事無く、二匹の蟻は森を駆ける。
「ギ……ッ」
　攻撃を庇い、自らの体を癒やす事に専念する事しかできなくなった働き蟻は軋むような音を立てた。
　ケルベロスたちを相手取る蟻たちには、バッドステータスを癒やす術が無い。
　バッドステータスを重ねられれば、その動きが鈍ってしまうのも仕方がない事であろう。
「頭が高い、その頭を下げなさい。――奇跡を殺せ、ルクスリア」
　呟く詠唱は、命令をする側だという重みを感じさせる響き。メルカダンテの蒼の混じる白髪が、生み出された風に遊ばれた。
　反り返った槍が、蟻の頭に埋まることの無い穴を貫く。
　しかし、前衛の働き蟻はまだ動きを止めてはいない。
「耶花」
「はぁい」
　呼びかけに既にバスターライフルを構えていた耶花は、敵の熱を奪い去る光線で働き蟻を貫く。
　キチキチと音を立てて、その場に崩れ落ちる働き蟻にメルカダンテは小さく微笑んだ。
「耶花、よい働きです」
「……さて、もうキミ一人ね。――何だって、イヤだと思わせたら負けよ。噛みつかれるの。覚えておくといいわ」
　ライフルを一度回し、兵隊蟻へ向ける視線に軽蔑の色をありありと浮かべた耶花が親指で地を示した。
　デキる女は悪態も違う。反吐がでそうだわ、と目が語る。
「前の会社の上司みたいよ、地獄に落ちれば良いわ」
「落ちるならお手伝いしちゃいますよ！」
　耳をぴょんと立てたソーヤが高く跳躍する。流星の蹴りが炸裂し、突撃槍が地を掻いた。
　ウィングキャットのオライオンが癒しの風を生み、仲間を癒やす。
　竜は瞳を細めて敵を見て、自らの分析した情報を頭の中で整理を行っていた。
　働き蟻と比べても、兵隊蟻の防御力と体力が異様に高い事。攻撃力は高いとはいえ、耐え切れぬ程では無い。
　そして、兵隊蟻がすでに満身創痍である事。
　そんな状態で一体となっても、逃げ出さぬ兵隊蟻の背にも背負うものがあるのであろう。
「……アリア様の為に、お前たちを見逃すワケにはイカナイ」
　――風の如く、――魔の如く。黒き呪いの雷を纏った手裏剣で空を切り、竜は言う。
「忍びはその姿を見た者を決して生かしてはおかないんだよ」
「それでは根気比べだな。君が見逃すか、私たちが君を見逃すか」
　アマルティアは得物で空を切り、呼吸を整えるように大きく息を吐いた。
「地獄よ、音を刻め。憤怒の炎を灯せ。咆哮せよ、我が心臓」
　全身に地獄の炎を巡らせる感覚。その瞳は髪と同じく真紅に染まり、低く身を構えた瞬間に爆ぜるように彼女は飛び出した。
「――ギアを上げるぞ？」
　チリチリと炎が溢れ、火花が散る。
　一瞬で肉薄したアマルティアが蟻を蹴り上げると、追い詰めるように木々へと叩きつけた。
　目にも留まらぬ速度で幾度も斬り裂く刃は銀色だけを残す。
　黒い鎧の欠片が弾け、暴れる兵隊蟻がアマルティアを強引に引き剥がすが、七色の花を纏った鎖がその動きを捕縛する。
「暴れないでくださいね」
　獲物を睨めつけたメリチェルが鎖を後ろに引き、その身を地へと――叩きつけた！
「僕たちも守りたいものがあるんだ、……そろそろお休み！」
　体勢を崩した兵隊蟻にティユが跳びかかり、高速演算で見ぬいた弱点へとバトルオーラを纏った拳を振り落とすが、同時に兵隊蟻もそのカマキリの刃のように変形させたを腕振りかざす。
「――私たちの勝ちだ」
　アマルティアの呟く声。
　ティユの拳と、刃がカチあう破裂音に近い打撲音。
　血が弾け、折れた刃が爆ぜた。
　しかし、兵隊蟻は最後の力を振り絞ってソレを狙っていたのかもしれない。
　――折れた刃はオウガメタルへと一直線に奔り、飛び込む人影。
「……ね、大丈夫だったでしょう？」
　オウガメタルを庇ったメリチェルは、その背に硬い刃を貫かれながら微笑んだ。

●歪な街
　崩れ落ちるローカスト。
　オウガメタルにぺったりと体を倒したメリチェル。
「まだ、死ぬさだめではありませんよ」
　癒しの力を持つ神話上を模倣した果実の形をしたエネルギー体でメリチェルをシャウラは癒し、胸を撫で下ろした。
「……オウガメタルさん、メリチェルさんよくがんばりましたね」
　メリチェルとオウガメタルを撫でるシャウラ。
　苦笑を浮かべたメリチェルは、癒やされたばかりの体をゆっくりと起こして周りを見渡した。
「折角、敵の拠点が近くにあるのかもしれません、少し周辺を探してみましょうよ」
　自らの負傷で、折角のチャンスを逃す事はあまりにあまりだ。
「……少しだけなら良いですけれど、あんまり無茶しないようにして下さいよー」
　ソーヤは一度肩を竦めてから、メリチェルに肩を貸し歩き出す。
　夜闇の中。
　小さな明かりを頼りに歩く山道は、どこか不安になるような道のりに感じられる。
　どこまでも続く木々と、空に浮かぶ星々。
　夏の虫の鳴き声が小さく響く。
「！」
　先頭を歩いていたアマルティアが、目を見開いて呆けたように呟いた。
「……何だ、あれは……？」
　その言葉にケルベロスたちは、アマルティアの立つ小高い丘へと駆け寄って行く。
　ケルベロスたちの体が何か膜のような物をすり抜けるような、心地の悪い違和感を感じた直後。
　目の前に今までは見えていなかった、異様な光景が広がっていた。
　張り巡らされたレール。
　異形の建築物が歪に立ち並ぶ真ん中に、色彩の渦が見える。
「これが、ゲートですか……？」
「きゃっ！」
　囁くソーヤ。耶花が抱いていたオウガメタルが忌避するように悶えて、その場から逃げようとするように体を跳ねさせる。
「どうやら近づきたくないようだね、……ゲートも確認できた事だ、一度情報をまとめる為にも撤退しよう」
　ティユの提案に反対する者も居ない。
　一刻もはやく立ち去りたい様子のオウガメタルを横目にメルカダンテは、後ろを一度振り返る。
「――逃げてくれるなよ、虫共」
　夜闇に照らされた異形の建設物。
　ケルベロスたちは、もう振り返る事も無く帰路へと向かった。

作者：絲上ゆいこ	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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