女とオーク、裏通り、7匹。

作者:蘇我真

 ゆったりとしたローブで全身を隠したドラグナーが、1匹のモヒカンオークへと命令していた。
「ドン・ピッグよ、慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
 モヒカンオークは、葉巻に火をつけ、鷹揚にうなづいてみせる。
「俺っちの隠れ家さえ用意してくれりゃ、あとは、ウチの若い奴が次々女を連れ込んできて、憎悪だろうか拒絶だろうが稼ぎ放題だぜ」
 その言葉に満足したのか、ドラグナーは自らの腕を持ち上げ、一点を指し示す。
「やはり、自分では戦わぬか。だが、その用心深さが、お前の取り柄だろう。良かろう、魔空回廊で、お前を安全な隠れ家に導こう」
 その先には、魔空回廊が広がっていた。
「おぅ、頼むぜ、旦那」
 モヒカンオークは葉巻をくわえたまま、悠然と魔空回廊へと消えて行くのだった。

 月明かりに照らされた夜。大通りに停車していたノンステップバスは重低音と共に排気ガスを吐き出し、その場から遠ざかって行った。
 後に残されたのは、日本へ出稼ぎにやってきた外国人たち。それぞれが自分たちが暮らす安普請のアパートへと帰っていく。
 この辺りはこういった外国人が多く暮らす地区だった。
「ふう……」
 その中のひとり、チェンはため息をつきながらトボトボと歩いていく。
 チェンは女性だが化粧もせず、伸ばした黒髪も後ろでざっくりとひとつにまとめていた。
 彼女の仕事場であるパン工場では女性らしさを整える必要はないからだ。
 大通りから路地を入った、裏通りに入り、道の入り組んだ住宅街へと向かう。
 それが家までの近道だったし、深夜の裏通りとはいえ、生まれた国よりは日本のほうが格段に治安も良かった。
 そう油断していたのが、仇となった。
「ブヒヒヒヒ……」
「ア……?」
 うつむいて歩く彼女の視界に奇妙な影が入り込んで来た。でっぷりと太った人型の影に、蛇のようなうねうねした長いものが巻き付いている。
「アァ……」
 顔を上げる。月明かりを背後に、4匹のオークたちがそこにいた。
「アイヤ―――」
 声を上げるよりも先に、背後から伸びてきた触手が口をふさいでくる。チェンが必死で顔を後ろに向けると、そこにも3匹のオークがいた。
「騒いだら殺すブヒヨ?」
「なぁに、すぐにオレらの触手で気持ち良くなるブヒ!」
「………ッ!!」
「「「ブヒヒヒヒ!!!」」」
 ブタのような咆哮が都会の隙間、夜の闇に溶けていった。

●女とオーク、裏通り、7匹。
「女とオーク、裏通り、7匹……何も起こらないはずがないです!」
「なぜリンがこれほど強く言い切るのかはわからないが、とりあえずそういうことだ」
 自分の予知した光景を説明し終えた星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)はホンフェイ・リン(ドワーフの螺旋忍者・en0201)を横目に見て肩をすくめた。
「今回動いたのは竜十字島のドラゴン勢力だ。オークを操るドラグナーである、ギルポーク・ジューシィの配下……オークの群れ7匹。これを1匹残らずに倒して欲しい」
 この7匹のオークたちを率いるのは、ドン・ピッグというオークだ。
 ドラグナーであるギルポークの指示を受け、ドン・ピッグというオークが自身の配下を動かしているのだ。
 ドン・ピッグは非常に用心深く、配下を使って女性を攫わせていた。
「今回の被害者である女性、チェン氏が襲われるのは東京都、市内の外国人労働者が多く住む住宅街だな。出稼ぎにきた外国人労働者は身よりもなく、消えたとしても気付かれにくい……用心深いだけある、オークにしては襲う対象を考えているな」
 襲われる女性は、その場で配下達に暴行された後、秘密のアジトに連れ込まれるようだ。
「注意事項として、オークより先に標的の女性に接触すると、オーク達は別の対象を狙ってしまう。なのでオークと女性が接触した直後に、現場へ突入するべきだな」
「なるほど……その接触する裏路地ってのはどこになりますか?」
 話を聞いていたホンフェイが質問すると、瞬はホワイトボードに地図を張り、印をつけた。
「見えた光景から絞り込むと、この裏路地だな。片道一車線程度の横幅で、周囲はアパートやら営業が終わった飲食店やらが立ち並んでいる。チェン氏の他に人影はない」
 瞬は更に、被害者は裏路地の中ほどに差し掛かったところでオークたちの挟み撃ちに遭っていたと補足する。
「ふむふむ……了解しました! 同じ異国から日本へやってきた同朋として、チェンさんを助けたいです! みなさん頑張りましょう!」
 巨大な手裏剣を構え、ホンフェイは気合いを入れるのだった。


参加者
クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)
パール・ホワイト(サッカリンミュージック・e01761)
燈家・陽葉(光響凍て・e02459)
ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)
ガラム・マサラ(弱虫くノ一・e08803)
メーガン・ゴートン(レターソムリエ・e16440)
アレス・アストレア(ヴァルキュリアの自称勇者・e24690)
葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)

■リプレイ

●女とオーク、裏通り、7匹。
「女性とオークの時点でもう何かが起こりそうな気がするのですが、ホンフェンさんに言わせると裏通りと7匹も重要なんですね」
 葵原・風流(蒼翠の四宝刀・e28315)が冷静にツッコミを入れる横で、燈家・陽葉(光響凍て・e02459)も首をひねっていた。
「7匹というところが大事なんだろうか? 確かにちょっと多いかも知れないけど」
「なんにしても、外道中の外道です。許せませんよね、フォンフェイさん!」
「……そ、そうですね」
 勢い込んで同意を求めるティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)に押されて、コクコクとうなずくホンフェイ・リン(ドワーフの螺旋忍者・en0201)。
「チェンさんは日本語が通じるか不安ですし、フェイフォンさんとメーガンさんに通訳をお願いしますね……」
「よーしっ、ワタシのハイパーリンガルに任せといてね」
「……」
 腕まくりをしてポーズを決めるメーガン・ゴートン(レターソムリエ・e16440)の横、さきほどからみんな名前を間違えているとツッコミを入れるべきか、ホンフェイは迷うところなのだった。
「あー、通訳あるならボクのボードは大丈夫かなー」
 パール・ホワイト(サッカリンミュージック・e01761)は用意した中国語のボードを荷物の中にひっこめた。
「月明かりと一応電灯はあるけど、やっぱり暗いものね」
 クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)は周囲を確認してこぼす。
 ここは問題の裏通り。オークたちは既に潜んでいると考えられた。ティオはドワーフの夜目を凝らすが、醜悪なその姿は確認できない。今のところはオークも上手く隠れているようだ。
「明かりは対策用にケミカルライトも用意したんだけど……やっぱり文字を読むほうが声を聞くより時間掛かっちゃうからね」
「ケミカルライト……そんなものまで持ってるんですか……!」
 目を丸くするホンフェイにパールはふわりとした笑みを浮かべた。
「ライトがないと、ロックなステージが見えないからね!」
「ロックとはいったい……」
 ホンフェイが思い悩む中、ガラム・マサラ(弱虫くノ一・e08803)がその肩のポンと手を置いた。
「ま、とりあえずそれは置いといてチェンさん救出に集中しましょうか」
 チャイナっぽい忍び装束を身に纏っている。スリットから覗く生足がセクシーだった。
「ああ、囚われの姫を助けなければ……くっ、か弱き女性を狙うとは……流石は、オーク。やはり目の付け所が、テンプレですね! 許せません!!」
 褒めているのか怒っているのかよくわからないアレス・アストレア(ヴァルキュリアの自称勇者・e24690)。
「はいはいあんまり騒ぐとオークに勘付かれる……っと、あれかな」
 クリームヒルデは裏通りへと、うつむきながらトボトボとやってくる女性に気付く。
「ふう……」
 すっぴんの彼女は、まさに被害に遭うと予知されたチェンその人だった。
「よし、二手に別れて隠れるよ。そっちの回復は任せたよ」
「ええ、作戦は命を大事にですね!」
 アレスに言づけて隠れ行くクリームヒルデ。他のケルベロスたちもそれぞれ2つの班に分かれて裏通りを包囲していく。
 オーク7匹の大捕り物が、まさに始まろうとしていた。

●オーク、7匹。ケルベロス、14人。
「ブヒヒヒヒ……」
「ア……?」
 異様な影に気付いたのだろう。うつむいていたチェンの顔が上がる。
 月明かりを背後に、4匹のオークたちと、7人のケルベロスたちがそこにいた。
「ブヒィ!! 後ろ! お前ら後ろブヒー!!」
 チェンの背後から襲おうとしていた3匹のオークたちが、ケルベロスたちに気付いて騒ぎ立てる。
「何ィ!? って、お前らも後ろブヒィ!!」
「え?」
 3匹のオークの後ろにも、6人のケルベロスたちがいた。本参加した8人のケルベロスにホンフェイ、加えて5人のサポートである。
 それなら合計14人で1人足りないではないか? その疑問はすぐに氷解する。
「ななな、なんなんだぁ!?」
「私達はケルベロスです。言っときますが降伏は無意味です。覚悟してください」
 ティオの宣言。
「なぜこの計画がバレたブヒか!?」
 困惑し、浮き足立つオークたちへ向けて、舞い降りる光の翼があった。
「静かに、大きな声を出さないでください」
 風流だ。闇夜を切り裂くように素早く飛来するとチェンの口元をふさぐようにして抱き、再び跳躍する。
「あれ……女がいないブヒよ!?」
「あっ、あの光ってるやつ!!」
 イシコロエフェクトを解いた風流がメーガンとホンフェイのいる後衛へとチェンを移動させているのに気付くオークたち。
「返せブヒ! 拾ったものは持ち主に届けるブヒ!」
「もともとブタさんの持ちものじゃないでしょ。メル、しっかり守ってね」
 メーガンの呼びかけに呼応してミミックが守るようにオークの前へと立ちふさがった。
「ぐぬぬぬ……邪魔ブヒ! ミミックなら大人しく宝箱に偽装してじっとしてるブヒ!」
「チェンさん、我々はケルベロスで――」
 オークが攻めあぐねている間にメーガンが事情をチェンに伝えていく。
「オークのくせによくわかっていますね! 倒して経験値を稼がせてもらいます!」
 言いながらアレスは前衛へとヒールドローンを飛ばし、盾として防御を固めて行く。
「偉そうなこと言ってて攻撃してこないブヒか!?」
「私は……今回は神官役です!」
 悔しそうに歯噛みするアレス。自己評価で勇者役は不適格だと判断したらしい。
「今回は僕の仕事だよ!」
 代わりとばかりに陽葉が幻影のリコレクションでオークたちを一気に攻撃し、その武器を封じて行く。
「あわゆきと陣内ちゃん、チェンさんのことお願いねー」
「お姉さま! 頑張りますから、次のおっぱい教布教を邪魔しないでほしいですの!」
「まあ、こっちもやることはやるから安心してぶっ飛ばしていけ」
 アガサと共に前衛に立つ陣内。退路はロディが銃で塞いでいる。
「そうだそうだ、さあ、凧糸で縛られてロースハムになりたい奴からかかってこい☆ 吊して燻しちゃるー!」
 後ろから野次を飛ばすクリームヒルデ。同時に空中に現れた光のキーボードやタッチパネルを駆使し、前衛をサポートしている。
「あいつ、俺の触手で乱れ打ちにしたいブヒ!」
「おねーさんを縛って吊るしたりしたら絵面的にやばいからダメ☆」
「ブヌゥ……触手が届いたら……!」
 前衛の攻撃を受けながら悔しがるオークたち。彼らの攻撃は近距離ばかりで、後衛のクリームヒルデまで届く攻撃方法が皆無なのだった。
「八つ当たりブヒ! おまえを触手まみれにしてやるブヒイイィィィ!!」
 オークたちの怒りがティオやガラムへと向いた。
 欲望まみれの咆哮と共に複数の触手が乱れ飛んでくる。
「わーん! やめてくださーい!!」
 触手が絡みつこうとするのを、後衛のメディックたちが作った盾が弾いていく。
「あ、んっ……! こ、こら……そんな、とこっ!」
 一方、ガラムは攻撃を食らっていた。チャイナドレスの足へと絡みつく触手。
 ぬめっとした感触と生温かさに頬を上気させながら、身体を羞恥で震わせる。
「ブヌヌヌヌ……! ブヒイッ!!」
 更なる触手を乱れ飛ばすのをやめないオーク。触手を弾いていたティオの眼鏡が月明かりを浴びてキラリと光った。
「やめろって言ってるべよ!!」
 田舎娘っぽい叫びと同時にブラックスライムがオークたちへと降り注ぐ。
「ぐっ、やめるブヒ! ぶっかけなんて……!」
 触手に掛かっていた破壊力を上げる魔法効果ごと、ブラックスライムが食らいつくす。
「ブヒッ、そ、それでも……!」
 諦めずにガラムのチャイナドレスの中へと触手を差し込もうとするオーク。しかしそこに別の黒い影が割り込んだ。
「マンダー!」
 ディフェンダーである彼女のボクスドラゴンが、触手を引き抜いて代わりに絡みつかれていた。
「マンダー、触手まみれにさせてごめんね……!」
「!!」
 ボクスドラゴンの咆哮を聞きながら、ガラムは虚空よりいくつもの小瓶を取り出した。
「フェンネル、サフラン、ディル、コリアンダー、クミン、アニス、ジンジャー……全てのスパイスの力を此処に集結して、解き放つ!」
 小瓶に入っていた色とりどりのスパイスを一気に解き放つ。さながら粉塵爆発の如き一撃が、オークたちへと炸裂した。
「ブ、ブヒヒィィィッ!?」
「か、身体が、動かな、ブヒィ……!!」
「さあ、スパイスを塗り込まれて下ごしらえは完了です! 大人しくポークカレーになりなさい!!」
 ガラムの漆黒の瞳は、今や怒りで真っ赤に燃えていた。触手で恥辱を受けた仕返しにと怒り狂っている。
「めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 そこへ更にオークの欲望の咆哮へ対抗するように、ヤギのようなハウリングを披露するメーガン。
 カレースパイスで麻痺しているオークたちを追加で足止めしていく。
「いいねえ、ロックなデスボイス! ボクまでゾクゾク来ちゃうよ」
 メガホンを持ったまま、その叫びに身をゆだねて上機嫌なパール。
「くっ、多勢に無勢ブヒ、ここは逃げ――」
 しり込みする一部のオークを見て、パールは自らの上着に指をかける。
 そしておもむろに胸元を広げて風を送り込んでみせた。
「あれ、逃げちゃうのかな? 残念、惜しいのになー」
 ぱたぱたと胸元を引っ張る度に、胸の谷間がチラリとのぞく。
「ブヒ……!」
 オークの目がくぎ付けになり、鼻息も荒くなる。
「君達が望んだ女の子だらけの状況だよー? 勝ったらボクたちを好き放題なのになー。勝ったら、だけど」
「ブヒ……ブブブ、ブヒィ、おっぱ……!!」
 弱気になっていたオークも色欲には逆らえない。
「チャンスですわ、さあご一緒に!」
 胸を両腕で挟んで挑発的なポーズをとる淡雪。
「こ、こうですか?」
 言われるがままホンフェイも胸を強調させようとするが……淡雪のような豊かな胸もなく、空振りに終わった。
「なんだあれはブヒ……」
「種付けもできなそうやつがいるブヒね」
「ううー、悔しいのです……!」
 ハンカチを噛んで悔しがるホンフェイの無念を晴らすかのように、陽葉が奏氷の薙刀を振り上げた。
 陽葉は逃げ道を塞ぐように動いていたのだ。
「騒いだら殺す……だっけ」
「ブヒ?」
 狙いをつけられたオークは避けようとする。
「なら、君達を殺してあげよう」
 しかし、ハウリングの影響で足止めされていて、動こうにも動けない。
「恨むなら人を襲おうとした君達自信を恨むんだね」
 薙刀に、極低温の凍気が集中していく。
「ブ、ブヒイィィ……!」
「凍てつけ!」
 狙い済ました一撃が、オークを粉々に叩き斬った。
「仕返しじゃないぞ」
 それまで悪戯をされていたらしい陣内がアガサにデコピンを食らわせる。破剣の効果つきだ。
「……」
 デコピンを受けたアガサはむすっとしながら、ウサを晴らすようにオークへと襲いかかる。
 オークがアガサと陣内に気を取られてガードがおろそかになったところをティオは見逃さなかった。
「起動! クロノスハート!」
 ドワーフ専用の粉砕機を両腕に装着したティオが、オークの臀部へとパンチを叩き込む。
「アッ!!」
「粉砕レベル金剛石! 砕け散ってください!!」
 そして、容赦なく工具を最大レベルで起動させた。
「アオオオォォーッ!!!」
 奇声を上げながらケツからはじけ飛ぶオーク。それはカエルへ空気を入れて爆発させる児戯にも似ていた。
「ロックな最期だね! よーし、ボクも負けないよ!」
 パーツは手にしていたメガホンを1匹のオークへと向けた。
「さぁ、盛大に響け、ボクの魂! ロックン、ロォォオルゥ!」
「ブ、ブヒイィ……!!」
 ロックな叫びはメガホンを通して破壊の力と変質し、オークを叩き潰す。
「これが、ロック、ブヒ……ィ……」
 全身の穴という穴から血を吹き出させ、倒れ伏すオーク。
 動きが鈍いオークたち。好機と見て一斉に畳みかけて行く。
「メル、ありがとう。もう大丈夫だよ」
 触手にかみついていたミミックをいたわってから、メーガンはシャーマンズカードを取り出した。
「えっとー? この手紙はあのオークさん宛てかな??」
 白い鳩を模したエネルギー体を召喚すると、鳩はシャーマンズカードを咥えてオークへと突撃していく。
「ハトさん、しっかり届けてねっ」
「ひ、ブヒイィィィ!!」
 シャーマンズカードから様々な御業を撒き散らしながら突撃してくるハト。
「!!」
 エネルギーの鳩はオークの腹、でっぷりとついた脂肪を貫いていった。
「ブ、ブヒヒィ……」
「に、逃げたいブヒィ……!」
 あっという間に残り3匹になったオーク。その足元へ銃弾がぶち込まれる。
「おっと、逃がさねえぜ!」
 ロディの銃が、オークに奇妙なダンスを踊らせていた。そこへシャルロットの高速剣技も加わり、1匹を追い詰めていく。
 出来た隙を狙い、風流も攻撃へと転じた。
「はっ!」
 一瞬で間を詰めると、ふたつの剣閃が闇夜に煌めく。
「ブ、ヒィ……」
 どうと音を立てて倒れるオークを見返すこともなく、二振りの刀を鞘に納める風流。
「ホンフェンさん流に言えば……『さよらいつぇん』でしたか」
「そうですけど、また会いましょうって意味もあるからオークには……というか名前を……」
「ダイジョブ、デスカ?」
 守るべき対象であるはずのチェンに慰められているホンフェイだった。
「もう我慢できません!!」
 その横、アレスも好機と見て回復から攻撃へと転じていた。
「全力でいきます!」
 ゾディアックソードを手にオークへ駆け寄ると、大雑把だが確かな威力を持つ会心の一撃を大上段から叩き込む。
「ぐ……身体さえ、動け、ば……ブ……ヒィ……」
 悔し紛れに言い放ちつつ、血煙を上げて倒れ伏すオーク。
 残り、1匹。
「ほい、それじゃ料理しちゃってー☆」
 クリームヒルデのジョブレスオーラを受けて、元気一杯といった様子のガラム。
「それじゃ、豚の丸焼きにしましょうか!」
 ガラムから放たれるグラインドファイア。
「ブ、ヒィィィィ――」
 カレースパイスがしみ込んだオークの丸焼き。
 周囲に、香ばしいカレーの香りが漂うのだった。

●朋友
「アリガト、ゴザイマス」
 戦闘後、メーガンやホンフェイから詳しい事情を聴いたチェンは、ケルベロスたちへと頭を下げてカタコトながらお礼の言葉を告げる。
「とりあえず無事でよかったです。貴方も近道だからって危険なとこを通るのは避けてくださいね」
「スミマセン……」
 謝るチェンを見て、ティオはようやく表情を崩した。
「分かってくれればいいんです。それじゃ、家まで送りますよ」
「これからも気をつけてね、朋友のおねーさん」
 クリームヒルデの言葉にうなずくチェン。
「朋友……」
 チェンはホンフェイと向き直る。同じ異国からやってきた同朋同士、通じるところがあるのだろう。
 チェンは素朴な笑顔を浮かべて、改めて礼を述べるのだった。
「謝謝、ホンオフェ」
「……名前だけでも、覚えて帰ってください」
 ホンフェイは最後まで名前を間違えられていた。

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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