●
山陰地方の山奥。
人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。
●いざ、出陣
「今日もお疲れさま。――じゃあ、始めようか」
招集に応じてくれた皆へと一礼すると、トワイライト・トロイメライ(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0204)は資料を手に口を開く。まず、状況説明からと前置いて。
「黄金の装甲ローカスト事件はケルベロス達の事件で解決できた。そして、彼らは黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶという結果もまた持ち帰ってくれた。
お陰で得た情報が幾つかある。まずアルミニウム生命体は本当は『オウガメタル』という名前の種族で、自分達を武器としてくれる使い手を求めてくれていること、更に現在オウガメタルを支配しているローカストは、るローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルを使い潰すような使い方をしていること。特に、黄金装甲化は、オウガメタルを絶滅させる可能性すらある残虐な行為であるんだそうだよ」
戦いに赴いたケルベロス達が得てくれた情報を周知として、更に、とトワイライトは言葉を続ける。
「――そして、だ。オウガメタルと絆を結んだケルベロス達は、オウガメタルの窮地を感じ取った。オウガメタルはケルベロスに助けを求めて、ローカストの本星からゲートを通じて脱出、地球に逃れてきたそうだ。けれど、最重要拠点であるゲートには、当然ローカストの軍勢がおり、そのローカスト達によって、オウガメタル達は遠からず一体残らず殲滅されてしまうだろう。君達には、その救助とローカストの撃破をお願いしたい」
資料から顔を上げて、トワイライトは笑みを僅かの間消して告げる。――これは、きっと厳しい戦いになるだろうと。
けれど、この作戦に成功すればオウガメタルを仲間に迎えるだけでなく、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置の特定すら可能になるかもしれない。だからこそ、ローカスト達の攻撃もまた熾烈になるのは予想できるとは言え、好機には違いない。
「今回、敵となるローカスト達は兵隊蟻ローカストが働き蟻ローカスト数体を率いて一つの群れとなっているようだよ。それぞれが山地の広範囲を探索して、逃走するオウガメタルの殲滅を行っているだろうから、そこにヘリオンで向かう」
ヘリオンが現地に到着するのは、夜半過ぎで、逃走するオウガメタルは、銀色の光を発光信号のように光らせるので、それを目標に降下すれば、オウガメタルの近くへ降下する事ができるだろうとのことだ。
降下には誤差がある為、すぐそばに降下できるわけでは無いが、百メートル以内の場所には降下出来る見通しで、合流自体は難しくない。
問題は敵の戦力だが、追っ手である兵隊蟻ローカストの戦闘力はかなり高く、ゲートを守るという役割からか、どんな不利な状態になっても決して逃げ出す事は無い。一方で働き蟻ローカストは、戦闘は本職ではないが、それでもケルベロス数人分の戦闘力を持っている。
ただ、働き蟻ローカストについては、兵隊蟻ローカストが撃破され状況が不利だと思えば、逃げ出す可能性があるようだ。彼等は強固な肉体を持ち、白兵戦に長けるだけではなく、体内で飼育しているアルミニウム生命体を使用しての攻撃も行う。
「絆を結んだケルベロス達が、契機を作ってくれたのだと思う。それを先に繋げていく為の、この作戦だ。苛烈な戦いに送り出すことになるけれど、どうかオウガメタル達を助け出して、――君達も無事に帰ってきてほしい。いってらっしゃい」
トワイライトは最後に皆の顔を一人ずつ見渡して、穏やかな笑みでケルベロス達を見送る。
参加者 | |
---|---|
八代・社(ヴァンガード・e00037) |
アルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684) |
八千代・夜散(濫觴・e01441) |
難駄芭・ナナコ(バナナだバナナを食べるんだ・e02032) |
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313) |
ミネット・ドビュリ(白猫・e20521) |
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744) |
ラノ・クレンベル(詠祠・e26478) |
●夜を往く
闇をヴァルキュリア達の翼が眩く切り裂いて飛ぶ。ラノ・クレンベル(詠祠・e26478)が見つけた銀色の瞬きを指で示すとレピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)は連絡を請け負う。
「キュッキュリーン☆ 南南東方向に光源発見、二人で急行します。オーバー☆」
降り立ったミネット・ドビュリ(白猫・e20521)は白耳をふるりと揺らして声を聞く。
「あちらですわね。直線なら、そんなに遠くありません」
ほっと胸をなで下ろす。深い森の得体のしれない不気味さは心を脅かすけれど、守りたいものがあるから、頑張れる。渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)も頷き、深い森の茂みを恐れず歩き出した。彼が先導すると茂った下草や鋭い枝が撓んで道を作り出す。行軍はこれらの工夫のお陰で随分と早く、ほぼ同時に空と地上の道行きは終了する。
「これは、先手を打てたということかな」
しんがりで皆の状況に気を払っていたアルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684)が息を抜く。何しろ合流の瞬間見えた光景と言えば、元気よく手を振るレピーダと周囲を検分するラノ。そして、皆を目指してか銀色の不定形なスライムが這いよって来る様子だったのだから。
「な、なぁ。今なんか音しなかったか? ガサッ、ガサッて」
難駄芭・ナナコ(バナナだバナナを食べるんだ・e02032)が合流に喜んだのは束の間、肩を縮めてびくびくと辺りを見渡し早口で告げる。
「――ふむ、確かに」
アルシェールが顎を軽く動かして合図すると執事はあわあわと前に出て、その警戒態勢に八千代・夜散(濫觴・e01441)も心得たよう頷く。緊張は見せず、悠然とオウガメタルへと歩み寄り。柔らかく手招きするミネット達の方を示す。
「あっちに下がってな。助けに来たぜ」
「おれ達の後ろに回れ! お前らを助けに来た、ケルベロスだ!」
声量を落とした響きは八代・社(ヴァンガード・e00037)の物と重なる。軽く肩をぶつければそれ以上交わす言葉も視線もなく、ごく自然に双方は自らの立ち位置に向かう。
「オウガメタルさま、こちらへ」
ミネットがアイテムポケットを示すとスライムが収納されていくが限界があるのか途中で千切れて一部だけがポケットに収まり他は相変わらず足元だ。とはいえ一部は確実に保護できたと言うべきだろう。
「…便利なものだね。逃がす暇は、ないか。しっかり守られていて」
一種異様な光景をクールに見下ろしていたラノは、尖った耳を揺らす。ナナコが警戒した音はもう誰の耳にも敵襲を示している。数瞬もすれば、接敵に至るだろう。せめてとオウガメタルに言い聞かせた。
掌を上に向けてどうぞ、と示したのは夜散で、頷きの後皆に指を三本立てて見せたのは社だった。
「ゼロで、出る」
途端に空気は静まり各人戦闘態勢を取る。最初に動くのは社と――先程までの怯えは何処へやら、カウントが進む度、足音と敵意が迫り来る度、機嫌よくうっすらと笑みすら浮かべて見せるナナコだ。合わせる、の心積もりで手に持ったバナナを一振り。
がさがさと茂みが掻き分けられ、異形が姿を現すのと社が唇だけでゼロを伝えるのは、同時。いや、――社の方が僅かに早い。その絶妙のタイミングを齎したのは、彼らが合流に尽力をしたからこそ。
灯りのお陰で視界も上々。戦いに、不足はない。
●夜の底
初手の好機、社が目星をつけた標的へと差し向けた腕から武器へと接続される魔力回路。まるで彼自身が抜き身の銃身の如く自然さで、唇には皮肉な笑みさえ湛えて。けれど、――至近にその身体が閃く瞬、着弾の瞬間すら見れず蟻の胴体が魔力杭に貫かれている。手応えの重さに眉を揺らすのは、咄嗟にもう一体が軌道に飛び込みに来たのを悟ってのこと。だが、唇はゆったりと弧を描く。
「構わねえ、織り込み済みだ」
カウントはゼロ。動くのは、社だけではない。
「さぁ後はアタイらに任せな。蟲退治だぜぇ!」
ちらりとナナコは唇を舐める。其処に怯懦はなく指先に震えはない。相手が蟻だろうが困難極まる戦いだろうが、両手にバナナが握られてしまえば後はバナナ愛による蹂躙が行われるだけだ。
「さっきのか? 武者震いってヤツだよ、ヒャッハー!」
真正面から小さな体が突っ込んでいったかと思えば、縦横無尽に繰り出される連撃。庇い手が他に気を取られた瞬をついて、攻撃を担う蟻の腹を、足を穿っていく。
猟犬を追って放たれるは更にもう一つ、――夜散の魔弾。魔杭をその身で庇った蟻の動きも、その陰で一歩を引こうとしてナナコに捕らえられた動きまで全て、見えているが如く彼は音速の領域を独り支配し銃弾をばらまく。逃れる隙など、あるはずもなく。
的確に相手を致傷していく弾丸を見守る、橙色の瞳が淡く灯る。ラノが指先に捧げるは紙兵。
「奇襲成功ってとこかな。後は、守るよ」
「僕は前をフォローしよう」
無数の紙兵が散らばっていくその先で、アルシェールは優雅に組んでいた指を解くと守護星座を地面に描く。
「ノエルも、そちらに。――『大丈夫。わたくしがいますからね』」
ウィングキャットの翼が羽ばたく向こう、甘く淡いミネットの声が聞こえる。それは、優しい物語。仔猫に寄り添う、温かな甘さ。
最前線に立つものを中心に力が満ちていくのが分かる。数汰は確かめるように、自分の手を握ってからまっすぐ顔を上げる。奇襲にも臆せず、働き蟻に指揮を飛ばす兵隊蟻へと。
「悪いな……だけど俺達にも、守らなきゃいけないものがあるからさ」
働き蟻に守られる立ち位置に在るは、一匹の兵士。黒の装甲に身を包み、巨大な武器を掲げ宣言する。
「構わぬ。これは生存をかける、争いである。アリア騎士たる我が制圧するのみ」
「レピちゃんも遠慮はしません☆」
レピーダはいかにも明朗な笑みを浮かべて縛霊手へと力を組み上げる。胸に抱く強大な光は、差し伸べでもするかのように腕を向けると膨れ上がり光弾となって敵を撃ち据える。支配者、従属者、生存競争――理屈は何処にでもあるのだから、心が向く方に全力を投じるのに迷いはなかった。
「そう、俺達も俺達の星を守る。――皆で、さ」
光のぶつかる刹那に、数汰は疾走し草地を物ともせず一気に跳躍する。空中で捻った足先は流星のように蟻に吸い込まれていくが、他の蟻が飛び出してそれを受け止める。
すれ違いざま、カマキリの刃じみた鎌は彼に届かぬとなればレピーダに狙いを切り替える。
「我らとて群体。三位一体にして、無敵よ!」
狙い過たずとなれば、絶対的な自信を持ち宣言する騎士に、数汰はけれど動じない。妨害と支援の要たる彼女がその刃を避けることが出来ない、と知ってもだ。何故なら数汰らは――皆で、往くのだ。
「三位一体、面白い」
告げると共に背に庇い己が腕で鎌を受け止めるのは年若き少年の姿。アルシェールは悠然と笑う。確かに一撃は腕に食い込むが防具の頼もしさも確かだ。
「だが僕たちは八人だ。それが一体となれば君たちに負ける道理がないというものだぜ」
「ならば、まとめて薙ぎ払うまでよ!」
雄叫びは羽を擦り合わせる響きと合わさって、超音波を生じさせる。一気に襲う音波の強さ、その手強さは働き蟻とは全く比べ物にはならない。
戦いは、未だ行方を見せていない。
●夜の果て
「ずいぶんと、精度が高い。騎士の名も伊達じゃないってとこか」
幾度目かの音波に、ラノは表情を乱さずただ微かに息を吐いた。複数人を標的にする上にダメージもあるとなれば累積は着実に蝕む。けれど、耐え抜く以外の選択肢はなく。内臓が直に揺さぶられたのか、唇から伝う赤を強引に拳で拭う。
「ラノさま、おまかせください」
毅然と立つラノにミネットが出来るのは、ただその傷を癒すこと。術式を強引に展開し、その傷の治療を行っていく。確かな手ごたえがあって、蟻達の猛攻に晒されていた体は見る間に癒えていった。とはいえ、それは束の間。ノエルも懸命に癒しを撒いても三匹が仕掛ける攻撃に、何とか追いつくか否か。けれど、膠着に似た状態の打破は必ず訪れる。
「やっぱり下積みって大事ですね☆」
レピーダが満足げに頷く。見れば、薄い氷が働き蟻達を膜のように覆っている。癒しを他に任せられた分仕込んだ妨害は、着実に成果を表していた。
機を読みその肢体には目立つグレイブをひっつかんでナナコが駆け出すのは、散々仲間や自分を殴り倒してくれた攻撃手の働き蟻に。溶かされかけた肩はひりひりと痛むし、切り裂かれた足は踏み込む度にどうにかなりそうだ。だけど、――だからだろうか? 蟻が避けようと身を仰け反らせるより早く、稲妻みたいにかっとんで懐に潜り込むのはやけにそう、なんていうか。
「たまんねえな、ノってくるってやつだぜ!」
鋭い刃が接触の瞬間に先んじてナナコを仕留めようとするが、代わりに夜散が引き受ける。飄々と涼しげな面で膝を折らない様子に、ナナコは足を止めぬのが返礼と知っている。
首の細い部分を一突き。ずぶりと差し込んだ傷は、間違いなく致死だと機嫌よく快哉をあげて。
表情の読み取り難い兵隊蟻に、それでも焦りが滲む。攻撃手を失えば、天秤は傾くのだ。
守りを担う蟻が自己の治療に手を裂く間、超音波の振動は響き渡る。執事が立ち塞がって庇い、金縛りを仕掛けるも取り逃がすのに、アルシェールは眉を揺らす。
「添える手を使おう」
観測者は兵隊の一挙一動をただ、――観る。何を持って動き、何を描くのか。しんと見据える瞳は理知に満ちている。純度の高い観測は知識を、魔力を宿す癒しと共に伝播させていく。
合わせて、剣戟の響き渡る戦場で不思議と通る譚詩曲は、ラノによって紡がれる。勇壮なる祖霊を讃える強さもまた、癒しと確かなる狙いを。更にはレピーダが敵へと不調を植え付け、少しずつ攻撃が届き傷が入っていく。数汰が先んじて高精度の斬撃で切り刻めば猶更に。勿論、味方への傷も増しはするが、ミネットが要となる癒しは辛うじて優位を保つ。
蟻の狙いは奥のオウガメタルへと一瞬向いた。何をしても勝ち抜こうという抗いは我欲の為ではないと分かるからこそ、数汰は全力で迎え撃つ。
「侭ならないな」
白刃は緩やかに弧を描き、的確に装甲の継ぎ目へと差し込まれる。普段より尚威力を増したそれを受け止めたのは、庇いに動いた働き蟻だ。
社はすい、と片目を細める。仲間の威を知っているからこそ、躊躇いはなかった。鎖が垂れ下がるナイフを軽く振り回して。
「――『Burst.』」
定められた音を吐き出せば、魔力の炸裂音は幾度も。その度加速する圧を受けて一気に――投擲する。
「踊ろうぜ、虫野郎」
囁くような歌うような響きの先、音速の軌道を追う影が在る。夜散は身を撓めて低く、地を駆ける。一気に距離を詰める接敵はナイフの着弾に合わせて。食いつく顎をグリップで弾いてから至近でひたりと銃口が捕らえる。頭部へとナイフが穿って体勢を崩す隙を狙って放たれる弾丸は一瞬にして六。
「オウガメタルばっかりじゃなく、俺達とも遊んでくれよ」
崩れ落ちる働き蟻から大股に距離を取り、敢えて挑むよう銃口は兵隊蟻へ。再度、夜散達を蟻を見据えたところでレピーダが唇の前に指先を揺らす。指に宿った灯る光弾は膨れ上がり、再度働き蟻を縫い止めに行く。背を押す鮮やかな爆発はアルシェールから、味方へと。
ナナコが炎を叩きつけるのを見れば、数汰は正眼に構えていた日本刀を天高く掲げ、唇から零れるのは詠唱。
「我が手に宿るは断罪の雷霆――その身に刻め。裁きの鉄槌を!」
途端迸る蒼の冴え冴えとした光は、稲妻の轟きでもって数汰へと落ちる。いや、数汰が降ろしているのだ。極限の圧まで高められた威を、一気に振り下ろす。外殻を貫き、雷撃はその内側へと放出される――!
「殻の硬い奴ほど中身は脆い……ってのはお約束だよな!」
戦術に戦略、その行動。皆で練り上げた流れは集大成として彼に機運を齎す。実力に裏打ちされてこその、その威力。真っ白の光が溢れ、その眩さが褪める頃には、ローカストの死体すら残さず。
●夜の先へ
「もう、みなさまだいじょうぶですか?」
ミネットが癒しを撒けば、誰もが立てぬ程の傷を負っていない。中でも紙一重まで庇ったラノへと懸念は向けど、彼女もまた淡々と身繕いを正す。
「問題ないよ。お陰で、最後まで立てた。――絶好の機会だ」
「バナナを味わう暇もねえぜ。しかし、皆無事ってのに行かない理由もないだろ」
ナナコもバナナは懐に仕舞って、改めて辺りを見渡し歩き出す。戦いが終われば相変わらず挙動不審に辺りを見渡していたが、何となく落ち着かないよう眉を寄せ。
「なんか、違和感があるぜ」
「確かになァ」
夜散も腕を伸ばし、空を掴むように触れる。そうして踏み込んだ、次の瞬だった。何かの覆いを外されたように――景色が、塗り替わる。ただの山肌に見えた地は、有機的に積み重なる異形の建築物にびっしりと覆われている。人の手になるにしては異質すぎる建築物は、ローカストが築いた大要塞に間違いない。そして、その中央に座するは。
「ゲートだな。拠点ごと隠してたんだろう」
直に目にする巨大なゲートに社が呟く。隠されていたローカストの大要塞では、大量の蟻達が蠢いているのも見て取れる。咄嗟、警戒に動くアルシェールだが何か積み上げに働く蟻達を確かめれば顎を撫でて。
「これは籠城、ではないな。むしろオウガメタルの脱走を防ぐバリケードだ。おそらく、本星からの脱出を防ぐ方法は無いと判断したのだろう」
「つまり、ここのゲートを破壊すれば、オウガメタルは全て救出できるって事ですね☆」
レピーダが受けるが、オウガメタルを見て息を抜く。
その傍らで、ミネットが小さく息を飲みオウガメタルを背に庇った。細い指が示すのは、ゲートだ。見る間に無数の軍勢が続々と溢れだしていた。
「どうも、本星が空になる勢いのご出勤だなァ」
「オウガメタルの造反、――かなり重要なのかも、ね」
夜散やラノが言葉を交わすのも、ごく小声で。状況を見定め、少しでも多く得ようとする意志は皆に、そして――それが叶わぬ程切迫した状況であるとも皆の共通認識となっていた。
「戻るか。恐らくこの一帯はあの軍勢が制圧しちまうだろ」
「そうだね、急いで情報を持ち帰ろう。撤退は、今しかない」
社の声かけに数汰が頷き、皆で踵を返す。その間も、軍勢はどんどん拠点へと吐き出されつつあった。
ケルベロス達は迅く、地を駆ける。オウガメタルを引き連れ、成果を持ち帰る為に。
ローカスト達の脈動は背後で響けども圧倒されることはない。
閉ざされた夜が明ける為の、その一欠片は彼等と共に在るのだから。
作者:螺子式銃 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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