オウガメタル救出~狩る者、狩られる者

作者:山田牛悟

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。

●ヘリオン内にて
「少し前置きが長くなるのじゃが……」
 エッケハルト・ゾルゲ(ドワーフのヘリオライダー・en0178)は語りはじめた。
「つい先日の黄金装甲のローカスト事件については、おぬしらも知っておろうな」
 その解決により、ケルベロスたちは黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことができた。
「そのとき、アルミニウム生命体はケルベロスたちに助けを求めたそうじゃ」
 エッケハルトは説明する。
 アルミニウム生命体が本当は『オウガメタル』という名前の種族であること、自分たちを武器として使ってくれる者を求めていること。
 そして現在、オウガメタルを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由に、オウガメタルを使い潰すような使い方をしていること……。
 なかでも黄金装甲化は残虐な行為で、これが続けば、種族そのものが絶滅に追いやられる可能性すらあるという。

「もうわかるじゃろう。今日、なぜおぬしらに集まってもらったのか」
 オウガメタルに実際の危機が差し迫っていることを、かれらと絆を結んだケルベロスたちが感じ取ったのだ。
「オウガメタルたちはローカストの本星からゲートを通じて脱出、ケルベロスたちを頼って地球に逃れてきたようじゃ」
 しかしゲートの地球側にはローカストの軍勢がいる。オウガメタルたちは追撃され、遠からず殲滅されてしまうだろう。

「戦場は山陰地方の山奥じゃ」
 オウガメタルの救助と、ローカストの撃破が任務となる。
 成功すれば、オウガメタルを仲間に迎えるだけではなく、ローカストのゲートの位置を特定することも可能になるかもしれない。
「じゃが、それだけに敵も必死じゃ。厳しい戦いになるじゃろう」
 エッケハルトは続ける。
「敵はアリのローカストじゃ」
 アリのローカストは少数からなる群れをつくり、分散して山地の広範囲を探索しながらオウガメタルの殲滅を行っているものとみられる。
 ヘリオンが到着するのは夜半すぎ。逃走するオウガメタルは銀色の光を発光信号のように放つので、それを目標に降下することになる。
「もちろん降下には誤差があるのじゃが、大きく離れても100メートル程度。おぬしらなら合流は難しくないじゃろう」
 合流後、すぐに追っ手のローカストの群れと戦闘がはじまると思われる。
 このヘリオンから降下するケルベロスたちが遭遇する群れは、兵隊アリローカスト1体と働きアリローカスト3体からなる。
「兵隊アリローカストはリーダー格じゃ」
 戦闘力もかなり高く、ゲートが近いためか、どんな不利な状況でも決して逃げ出すことはない。この個体は主に妨害系のグラビティを用いるという。
「これに対して、働きアリローカストは戦闘を本職とするものではないようじゃな」
 それでもケルベロス数人と互角に戦えるだけの戦闘力を持っている。
 ただ働きアリのほうは、兵隊アリが撃破された上で敗勢と判断すれば、逃げ出すことはありそうだ。
「オウガメタルはケルベロスを信じて、命を賭して脱出してきたのじゃ」
 エッケハルトの拳には、珍しく力がこもっている。
「敵は強い。じゃが、なんとか助けてやってほしいのじゃ」


参加者
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)
千手・明子(雷の天稟・e02471)
葛葉・影二(暗闇之忍銀狐・e02830)
揚・藍月(青龍・e04638)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)
ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)
本多・風露(真紅槍姫・e26033)
祝部・桜(残花一輪・e26894)

■リプレイ

●状況開始
「難儀な任務じゃ」
 本多・風露(真紅槍姫・e26033)は眠気を隠さず、脱力したまま自由落下している。
「信用っつーのは金で買えないもんですからね」
 応えたのはグーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)だ。
「これを簡単に失うようじゃ、いけません」
「まるで商売人じゃな」
 だが、新たな仲間を必ず救い出さなければならないということについては、ケルベロスたちは一致している。
 この間にも、ケルベロスたちは森へと降下中だ。
「昼を呼ぶぞ」
 ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)は照明弾のピンを次々と抜き、投擲を開始した。
 目を灼くような閃光がゆっくり降下していく。
 その明かりの中で、木々の葉に遮られながらも、ちらちらと輝く液体状の金属が確認できた。おそらくはオウガメタル。
 そしてその後方数十メートルには、鬱蒼とした茂みをかき分けながら進む4体のローカスト。
「目標確認」
 ラズェは連続してフォートレスキャノンを発射する。砲弾はローカストの周辺に次々と着弾し、爆発とともに木々や地面をえぐっていった。
 ローカストたちがオウガメタルを追うのをやめ上空を見上げているのを見れば、多少の足止めにはなっているかもしれない。
 そして着地。
「状況開始だ」

 オウガメタルは茂みの中を必死に逃走していた。液体状であるために、多少の障害物は飲み込むように進む。
 その向こうでは、ナタのような重厚な刃物が小枝を払う音。おそらくはローカスト。
「こっちに! あとは絶対守るから!」
 千手・明子(雷の天稟・e02471)が声をかけると、オウガメタルはぴくりと反応し、茂みからぬるりと這い出てきた。
 明子はオウガメタルを一足に飛び越えると、暗い茂みの中を警戒したまま、オウガメタルに合わせて後退する。ローカストはすぐそばにいる。茂みのざわめく様子からも明らかだった。
 明子の後方では、続々とケルベロスたちがオウガメタルに駆け寄った。
「拙者等はケルベロス。助けに参ったのだ」
「ここからは……俺たちが護りぬく」
 葛葉・影二(暗闇之忍銀狐・e02830)と揚・藍月(青龍・e04638)の声。
「ご安心を。あなた方には光と生、そして栄光が見えます」
 グーウィは占い師モードだ。
 オウガメタルはその液状の体表を波打たせ、緩んだように地面に広がった。
 それが何を表現しているのか、ケルベロスたちに正確なところはわからない。安堵であろうかとも思われた。
「隠れていてください。離れすぎないよう」
 グーウィがオウガメタルに指示を出した。

●アリアの騎士
「もう現れますわ」
 ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)のその知らせに、オウガメタルは見てわかるほどに縮み上がった。
 茂みをかきわけ現れたのは、4体のローカスト。
 3体が前衛。後方に少し大きめの個体が控えている。唯一甲冑を身につけたそのローカストこそが、兵隊アリローカストであろう。
「そうか。やはりケルベロスであったか」
 声を出したのは後方の1体であった。
「隠れていてください!」
 ローカストに視線を固定したまま、祝部・桜(残花一輪・e26894)はオウガメタルに声をかける。
(「ここから先は通しません」)
 綺麗に切り揃えられたおかっぱ。桜の髪飾り。その黒い瞳には、強い意志。

「我はアリアの騎士、アーヴァイン」
 敵後方、兵隊アリのローカストだ。
「お相手いたそう」
 生体金属の被膜がみるみるうちにその甲冑を覆う。
 名乗ったのはその自信ゆえか。
「……強いですわ」
 ローカストの構えを見れば、ユリアにはわかってしまう。
(「直接剣を交えてみたいけれど」)
 ユリアはロングスカートを片手で固定すると、軽快なバックステップでケルベロスたちの後方に回る。
「……我慢我慢」
 ユリアのこの戦場での役割は、戦闘の支援なのである。

 働きアリローカストが一斉に襲いかかる。
「……っ!」
 攻撃を受けたのは明子と紅龍、そしてラズェであった。
「こりゃなかなか痛えぞ」
「ええ」
 明子は同意しながらも呼吸を整える。
「春くれば 星のくらいにかげみえて 雲居のはしに いづるたをやめ」
 詠唱。整った歌のリズムが体内に反響する。
 明子は鋭敏になっていく自身の感覚を感じ取ることで、さらに集中度を増していった。
「……けれど、この3体、連携は取れてないですわ」
「意志もなくただ動く虫……これじゃあ占い甲斐もございません」
 グーウィも同意する。
 働きアリローカストが戦い慣れていないというのは事実らしい。
 たしかに働きアリローカストの攻撃力は大きい。しかし場当たり的に攻撃するだけで対象も絞れないのであれば、盾役の多いケルベロスたちの編成が有利に働くだろうと思われた。
 そして、盾役は、他のケルベロスに向けられた攻撃を肩代わりできることもある。
「きゅあきゅあっきゅあー」
「そうか。守ってくれるのか」
 ボクスドラゴンの紅龍も、藍月への攻撃をかばっていたのである。
「だが、弟に守ってもらうばかりではな」
 ブレイブマイン。
 味方のヒールが飛び交う。グーウィのジョブレスオーラとユリアのウィッチオペレーションはラズェに。風露もヒールドローンを飛ばした。

●アルミニウム
 ケルベロスたちは敵が使用するオウガメタルにも声をかける。
「今のままでは使い潰されるだけだ」
「未来が欲しければ……どうぞこちらへ」
「無駄だ」
 しかし応じたのは騎士を名乗るローカスト。
「これは黄金装甲ほどに強力な装備ではない。しかし、制御が容易だということでもある」
 ローカストが言い終わるが早いか、
「解説ご苦労」
 影二が大鎌を投げつけた。赤色の刃。それは回転しながらローカストの甲冑にぶつかり激しく火花を散らす。
「……浅いか」
 戻ってきた大鎌をキャッチしながら、影二はつぶやく。
「次はこっちだ!」
 影二の大鎌と入れ替わるようにして飛び出したのはラズェだ。
 跳躍。空中で回転し、突進を防ごうとする甲冑のローカストの腕をするりとかわす。その鎧に両手を密着させた。
 次の瞬間、鎧と掌の隙間から閃光が溢れ、爆発。
 ゼロ距離からの攻撃に、甲冑のローカストも思わずよろめく。
 そこに桜の放ったオーラの弾丸が食らいついた。

「思ったよりはやるようだ」
 ローカストはゆっくりと体勢を立てなおす。
「だが、まだぬるい」
 甲冑のどこからか破壊音波が放たれ、ケルベロスたちの耳をつんざく。
 その甲冑には、アルミニウムの皮膜が鈍く光っていた。
「そんな守りで安心しきっておるのか?」
 風露が働きアリの攻撃をタワーシールドで受け止めながらも詠唱を開始する。
 響かせるのは、ヴァルキュリアの歌。
 光のオーラが迸り、ケルベロスたちの武器を覆っていく。
「今じゃ!」
 藍月の雷刃突。敵の鎧に大きな衝撃を与えながらアルミニウムの皮膜を破っていく。
 影二の毒手裏剣がさらに追い打ちをかけた。
 桜も続く。
「かあさん かえらぬ さみしいな。金魚をいっぴき突き殺す」
 歌詞に似合わず陽気な曲調のわらべ歌。しかしその歌は、敵の心象風景に鬼を呼ぶ……。

 ケルベロスたちは奮戦していた。
「ばかな……」
 甲冑のローカストの声もいくぶんか曇って聞こえる。
 グーウィとユリアが味方にばらまいた効果によって、状態異常はほとんど自動的に回復される。それでも残るものがあれば、ふたりが即座にキュアを当てた。
 一方で敵につけた状態異常は持続する。アリアの騎士と名乗るローカストを削り切るのは時間の問題であると思われた。
 しかし、不運が重なった。
 ラズェがふたたび敵の懐に飛び込んだとき、その攻撃がかわされた。
 その体勢の隙をついて、棘からのアルミ注入、さらに2体の働きアリローカストからの追撃。
 追撃というのは適切ではないかもしれない。場当たり的に、偶然生じた連続攻撃なのだ。
 ケルベロス側には、そのいずれの攻撃も庇う余裕はなかった。
「ラズェさん!」
 ユリアが叫んだとき、ラズェは既に地面に伏していた。

●決着
 ラズェが倒れたことは大きな損失である。火力が落ちたことで、敵撃破までの時間は必然的に伸びた。
 とはいえ大勢は変わらない。
 働きアリのローカストこそ自由に動き回り、回復不能のダメージを徐々にケルベロスたちに蓄積させていっている。
 しかし、ダメージが蓄積しているのは甲冑のローカストも同じこと。
 加えて、その動きは既にぎこちない。

 しかし不意に、桜が働きアリから強烈な一撃を見舞われた。
 甲冑のローカストからしてみれば、これは最後のチャンスであるように思われただろう。火力役をもうひとり落とすことでケルベロス側に方針の転換を促すことができるかもしれない。
 ラズェを襲ったのと同じ棘を向けながら、ローカストは桜に突進する。
 桜は向かってくるローカストをまっすぐに見据えていた。たとえ自分が倒れようとも勝利するのはケルベロスであると、そう確信している目だった。
 棘が振り下ろされる。
 ……!
 それを受けたのは明子であった。
「騎士を名乗るなら、潔く負けを認めたらどうかしら」
 刺さった棘から液体状のアルミニウムが侵食していく。
 しかし明子はむしろローカストの鎧に組み付いて離さない。
「好機じゃ!」
 風露がそう叫んだとき、働きアリのローカストが明子に突進し、牙を立てていた。
 明子は薄れる意識の中、自分が役割を果たせたことを知る。

「我招くは生命生まれし原初にして今を生きる者の来訪を拒みし暗闇……深淵招来! 急急如律令!」
 詠唱が響くと、突如現れた水球が藍月と甲冑のローカストを包み込んだ。藍月は相手をその水圧に捕らえながら、一方的に斬撃を加えた。
 水球から解放されてもなお、ローカストの動きは鈍い。
 グーウィがデスサイズを放つ。そして、
「逃れ得ぬ終焉が見えます」
 デスサイズはローカストの甲冑を深く切り裂き、グーウィの元に戻ってきた。グーウィはそれを片手でつかむ。
 ユリアもそろりと剣を抜く。
「ごめんなさい。私、剣術というものは習ったことがなくて」
 曰く、なまくら。しかし振り下ろされたそれは、鉄をも両断する斬撃。
 それこそが天賦の才。
「ゴボォ!」
 兜の中で血を吐いたような声。
「闇に滅せよ」
 そこに影二の大鎌が一閃。死の渦。兜がぽとりと落ちた。

「さあ、次はあなた方です」
 このまま留まるなら必ず殺す。そう訴えるかのような桜の目。
 あれだけの時間をかけて、落とせたのはたったふたり。
 逆に目の前で自分たちのボスの首を落とされた。働きアリが負けを悟ったのも自然なことであろう。
 3体は慌てて茂みに飛び込み、逃げ帰っていった。
 桜は緊張が抜けて思わず座り込む。
「きゅあきゅあっ」
 勝利を叫ぶ紅竜の声が響き渡った。

●安堵
「オウガメタルは?」
 目を覚ました明子が周囲を見渡す。
「無事みたいっすね」
「……よかった」
 グーウィの言葉に明子は胸を撫で下ろす。
 オウガメタルはケルベロスたちに伝えたいことがあるとでもいうように、皆の足元をせわしなく行き来していた。

 ラズェもやがて意識を取り戻した。
「死ぬことはなさそうよ」
 ユリアの言葉に、ラズェは苦笑いで返す。
「そのポケットを探ってくれねえか」
 ラズェが目線の動きで示した。
「体が動かねえんだ」
 ……。
 小さな火がラズェの表情を照らす。
「ありがとよ」
 紫煙がゆっくりと漂い、夜の森に溶けていく。
「クソッタレな1日だ」
 その表情は、今日の勝利に安堵しているかのようでもあった。

作者:山田牛悟 重傷:ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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