オウガメタル救出~運命は交わり流転する

作者:秋月きり

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。

「みんな、集まってくれてありがとう」
 ヘリポートに集ったケルベロス達に告げるリーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)の声は興奮を抑えきれない様子であった。
 その様子に目を点にするケルベロス達に、彼女は言葉を続ける。それはローカスト、そしてそのデウスエクスに使役されていたアルミニウム生命体の話を。
 曰く、ケルベロス達が黄金装甲のローカスト事件を解決した事で、黄金装甲化されていたアルミニウム生命体との絆を結ぶ事が出来た、と。
 その結果、アルミニウム生命体が『オウガメタル』と言う名前の種族であり、自分達を武器として使ってくれる者を求めている事、そして現在、彼らを支配しているローカスト達はグラビティ・チェインの枯渇を理由に、彼らオウガメタル達を使い潰すような運用をしている事、等が判明したのだった。
「とりわけ、黄金装甲化は、オウガメタル達を絶滅させる可能性すらある残虐な行為だったみたいね」
 その事実に痛ましさを覚え、目を伏せる。だが、それも一瞬の事。ここからが本題と、その表情に真摯な物へと転じていた。
「オウガメタルと絆を結んだケルベロスのみんなが、彼らの窮地を感じ取ったみたいなの」
 ローカスト達に支配されていたオウガメタル達はケルベロスに助けを求めるべく、ローカストの本星――レギオンレイドからゲートを通じ、地球に逃亡してきたようなのだ。だが。
「当然、最重要拠点であるゲートにはローカストの軍勢がいて、このままでは全滅は必至」
 だから、とリーシャは言葉を続ける。それでも彼らには希望がある、と。
「それが、みんな。今からヘリオンを飛ばすわ。だから、みんなにはオウガメタルの救出とローカストの撃破をお願いしたいの」
 オウガメタルの追われている山陰地方の山奥までリーシャのヘリオンを使えば一直線に向かう事が出来る。後はケルベロス達の努力次第だが、この作戦が成功すればオウガメタルを仲間に迎え入れるだけでなく、ローカストの最重要拠点であるゲートの位置も特定する事が出来るかも知れない。
 だが、逆に、ゲートと言う最重要拠点に関わると言う事はつまり、ローカスト達の攻撃も熾烈を極めることも予想される。
「厳しい戦いになると思う。でも、みんなにお願いするしかないの」
 さて、と言葉を切ったリーシャはローカストの状況だけど、と再度続ける。
「ローカスト達は兵隊蟻ローカストが一体、働き蟻ローカスト数体と言う構成の群れで山地を探索して、逃走するオウガメタルの殲滅を行っているようなの」
 そこにケルベロスを積んだヘリオンが夜半過ぎに到着する。日も落ちた闇の中、オウガメタル達は銀色の光を救難信号の様に光らせるので、それを目標に飛び降りればオウガメタル達の近くに落下できる筈だ。もしかしたら多少の誤差はあるかも知れないが、そこは落下馴れしているケルベロス達の事。合流は難しくないだろう、とリーシャは頷く。
「オウガメタル達と合流したら、追っ手である兵隊蟻ローカスト達の群れを倒して欲しいの」
 つまり、オウガメタルを探索している群れの内の一つを攻略する事が今回、ケルベロス達に求められている事なのだ。
 しかし、群れの中心である兵隊蟻ローカストの戦闘力は高く、加えてゲートを守る役割もあるため、どのような不利な状況になっても逃亡を選択する事はないと思われる。
 それに率いられている働き蟻ローカストは戦闘が本職と言うわけではなさそうだが、それでもケルベロス数人分の戦闘能力を持っているようだ。
「ただ、働き蟻ローカストは兵隊蟻ローカストが撃破され、状況が不利だと悟れば逃げ出す可能性もありそうね」
 とは言え、蟻の外見をしているだけに組織的な戦い方をしてくるので、上手に活用できるかはケルベロス達次第だ。覚えていても損はないと思うが余り過信しないで欲しいとリーシャは告げる。
「みんなを頼って逃げてきたオウガメタル達をむざむざ全滅させる事は出来ない。絆を結んだケルベロス達の為にも、何とか助け出して欲しいの」
 そうして、万感の思いを込め、彼女はケルベロス達を送り出す。
「いってらっしゃい。貴方達なら大丈夫だって信じてる」


参加者
椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗烏・e00768)
ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(ハウリングプリンセス・e01185)
戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)
九頭・竜一(雲待ち・e03704)
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)
芹沢・響(黒鉄の融合術士・e10525)
旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)
六合・剣(太陽の化身・e22295)

■リプレイ

●救難信号
 眼下に広がる山肌は既に夜の色を濃くしていた。広がる暗緑の森は、深い海が広がるようにも感じる。
「何で俺、こんな厄介な依頼を受けちまったんだろうなぁ」
 ヘリオンの窓から森を見下ろしながら遠い目をする白衣の青年――戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)は、手作りの唐揚げを頬張っていた。
「ヤブ医~。今回は頼らせて貰うざんしよ」
 そんな仲間に声援を送る椏古鵺・笙月(黄昏ト蒼ノ銀晶麗烏・e00768)もまた、金焼稲荷を口に運んでいる。腹が減っては戦が出来ぬとばかりの二人の態度は勇ましいやら頼もしいやら。
 二人の様子にクスリと笑う旋堂・竜華(竜蛇の姫・e12108)もまた、自身の力を振るえる戦場を想い、逸る気持ちを抑えるように両腕を抱いている。
「到着したようね」
 森の中に弱々しい光点を認めたジークリンデ・エーヴェルヴァイン(ハウリングプリンセス・e01185)が声を上げる。あれがヘリオライダーの告げたオウガメタルの救難信号に違いない。
「さてさてっと、依頼主の頼み事、果たしに行くとしましょうか」
 開いた降下扉から夜の森を見下ろし、ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が降下の準備を始める仲間に告げる。
(「助けを求められた。だから、助けなきゃ、ね」)
 情報屋は依頼人を大切にするもの。そして優れた情報屋はアフターサービスも充実しているのだ。
「ま、俺達、ケルベロスだもんな」
「彼らの期待に応えないとね」
 九頭・竜一(雲待ち・e03704)と六合・剣(太陽の化身・e22295)がそれに頷き。
 そして、九つの影が、夜の森へと降下した。

●アリア騎士
「救難信号は?」
「こっちざんしよ」
 ウェアライダーの俊敏さで地面に着地した芹沢・響(黒鉄の融合術士・e10525)は広げた翼でゆるりと降りてきた笙月に問う。今回、救助に派遣されたケルベロスの内、飛行能力を有しているのは彼だけだ。着地に備え、周囲を伺う余裕のなかったメンバーにとって、救難信号の捕捉は彼の観察眼に掛かっていた。
 仲間の期待に応え、迷いなく笙月は彼らの先導を行う。それを迎えるかのように木々が揺れ、道を形成するのは、笙月が纏う能力のお陰だろう。
「先手は取れましたわね」
「だね」
 思わず漏らした竜華の言葉に剣が頷いたのは、視線の先に銀色に輝くスライム状の存在を確認したからだ。自らの危険を問わず発光し、流れるように進む様は地球上の生命体ではない事を示していた。
「オウガメタル!」
 ケルベロス達の中で唯一、その姿を知るヴィルフレッドが声を上げる。
 駆け寄ったその先で、オウガメタルの身体を竜華が抱き上げた。触れた指から接触テレパスを飛ばし、自分達が彼らの救出に来たことを告げる。
「ケルベロスだと?!」
 鋭い声が上がった。同時に竜華の胸に抱き留められたオウガメタルがびくりと揺れる。それは、自身らの追跡者の到来を意味していた。
「本当に間一髪ね」
 手挟んだケミカルライトを辺りに投げながら、ジークリンデが呟く。
 彼女達が投擲したケミカルライトだけではない。ケルベロス達が持参した様々なライトが追跡者を照らす。先頭に立つローカストの外見はまさしく騎士そのものであった。フルフェイスの兜も甲冑も全て外骨格なのだろうか。直立した蟻が突撃槍を手にし、騎士の格好をすればこうなるのではないかと思わせる風貌だった。
 それと共に歩む二体のローカストもまた、直立した蟻だった。騎士の外見ではないものの、外骨格に覆われた働き蟻の風貌は、彼らもまた手練れであることを告げていた。
「地球人共め」
 ぎちぎちと響く音は牙を打ち鳴らす音だろうか。人間ならば歯噛みをしそうな呪詛が響く。
 それ以降の問いは無い。オウガメタルがケルベロスと合流した。目の前の光景で全てを悟ったのであろう。騎士は突撃槍を構え、それを補佐するよう、働き蟻たちは展開する。
「さてと、救出劇の開幕といきますか」
 対峙し、自身の得物を構える仲間達と共に、久遠がニヤリと笑った。

 騎士が走る。跳ね上げられたベンテールから覗く大きな顎が捕らえたのはオウガメタル――その間に立ち塞がった竜一だった。咄嗟に掲げた大鎌を捕らえた顎はギリギリと、柄を砕かんばかりの咬合力で押し返して来る。
「腹減るとしんどいよな。死にたくねぇよな。けど。それは俺達もこいつらも同じなんだ。やるってんなら容赦しねぇ」
 些か同情的な台詞はしかし、騎士の殴打によって吹き飛ばされる。受けた拳は重く、騎士の膂力を伺わせた。
「同感だ、ケルベロス。我も容赦はせん」
 感情の籠もらない言葉は何を思っての事か。追い打ちにと跳び掛かる顎は飛来した笙月の螺旋手裏剣と竜華のケルベロスチェインによって阻まれる。外骨格に弾け、甲高い音を立てる二つの攻撃に舌打ちじみた牙鳴りが騎士から響いた。
 なお、竜華によって抱き留められていたオウガメタルは既に森の奥へと消えている。巻き込まれない位置で待機して欲しいと言うケルベロス達の意志に応じ、離脱したのだ。
(「まぁ、ローカストが容赦する理由はないよね」)
 仲間に蠍座の加護を施しながらヴィルフレッドは内心呟く。オウガメタルの離反、並びにゲートの位置が特定される事はローカストにとって看過できる出来事ではない。彼らもまた必死なのだ。
「もろ膝を薙ぎすましたり、ってな」
 竜一の薙いだ大鎌の衝撃波が騎士の足を切り裂く。その脚を庇い、片膝をつく騎士への追い打ちはジークリンデのケルベロスチェインだった。
「みども達は貴方達を保護に来たわ!」
 ぎちぎちと鎖で絡め、縛り付けるジークリンデはローカストに――否、彼らが纏うアルミニウム生命体に語りかける。
 だが。
「――破!」
 裂帛の気合いの元、束縛する鎖ごとジークリンデの身体は吹き飛ばされた。
 木の幹に叩き付けられる寸前、シャドウエルフ特有の身軽さで反転。足から着地し衝撃を吸収する。
「頼むぜ、親友の相棒ッ! 三毛猫キャリーの道具店、営業開始だぜッ!!」
 騎士を襲う横殴りの衝撃は響の召喚した猫耳の少女からだった。彼女が奏でる演奏と歌声は衝撃となり、騎士の身体を吹き飛ばす。
 共に放たれた黒彪の鋼の息吹は騎士の視界を覆い、ケルベロスへの反撃を防いでいた。
「仲間と逃げたりしないのか?!」
 悲愴にも聞こえる彼の呼びかけに、しかし反応はない。
「無駄だケルベロス! 黄金装甲ならぬ我らがアルミニウム生命体に呼びかけは通じぬ!」
 目論見が外れた事に対する侮蔑ではない。警告であった。
 少なくとも剣はそう受け止め、バスターライフルの一撃を騎士に叩き付ける。
「随分とサービスをしてくれるんだね」
 紙一重で光線を躱した騎士は、軽口に似た彼の言葉を黙殺。ぶんと振るう突撃槍はケルベロス達への牽制にも、挑発にも受け取れる。
(「騎士の矜持って奴かな」)
 任務は遂行する。その上で彼は語っているのだ。余計な気を回す暇はない。全力で来い、と。
「まったく。油断してない敵ってのはやりづらいな」
 眼鏡を外し、竜一に緊急手術を施す久遠が愚痴のように呟いた。

●それぞれの生き様
「大地に滴り満ルは水ノ龍、天つ風に轟き満ルは雷ノ龍、地を裂き天を覆い渦巻く業火なる火ノ龍」
 笙月の命の元、解放された荒らぶる三匹ノ龍の御魂が働き蟻の身体を食い破る。外骨格を破壊された働き蟻はギャァと断末魔の叫びを上げ、その身体を光の粒子へと転じていった。
「ようやく一体」
 荒い息を吐き、倒れそうになる四肢に力を込める。
 まずは、ではない。ようやく、だった。
 グラビティの応酬は既に何合と重ねられていた。ケルベロス側の疲弊は既に限界を突破している。響のサーヴァントである黒彪の姿は既に無く、そして残されたケルベロス達の中に無傷な者はいない。
 だが、デウスエクスたる騎士の動きに衰えはない。仲間の最期に一瞬顔を伏せるものの、それを悼みも怨みも口にせず、淡々とケルベロスへの攻撃を重ねて来る。
(「厄介だな」)
 指揮官である騎士の命の元、働き蟻から放たれた破壊音波が刻むダメージを、とりわけ、治癒の要である久遠に与えられた傷を癒しつつ、剣が内心呟く。
 異邦の神の戦士は強かった。騎士は働き蟻を指揮しながら自身も戦場を走り回る。ケルベロス達の攻撃を外骨格で弾き、それでも食い付く被弾は働き蟻が身を挺して庇うことで、騎士への決定打を許さない。
 何より厄介なのは蟻たちの放つ破壊音波だった。そこに付与される催眠のバットステータスをケルベロス達は看過出来なかった。万が一引き起こされる同士討ちや敵への治癒が発生したらどうなるか。その思いが彼らを急ぎの回復へと駆り立てる。
 故にケルベロス達は防戦を強いられていた。笙月によって働き蟻の一体を打ち砕く事は出来たものの、未だ、勝利への確信を抱く事は出来ない。
「このっ!」
 抜き打ちの様に放たれたヴィルフレッドの弾丸を外骨格の装甲で弾いた騎士はそのまま彼に肉薄、蹴りでその身体を吹き飛ばす。
「噴!」
 投擲された竜一の大鎌を潜り抜け、返す刀の牙はその肩口を切り裂いた。
「痛ッ?!」
 顔を歪め、後退する彼に、更なる破壊音波の一撃が見舞われる。
 かはりと血塊を吐き、その場に伏せる彼に一瞥すら向けず、騎士の視線は未だ戦場に立つケルベロス達に向けられた。
「ケルベロス。汝らの強さは認めよう。だが、我にも敗せぬ理由はある」
 種の存亡を賭けた戦い故に、と騎士は言葉を口にする。
 それに合わせ働き蟻が破壊音波を放つ。そして騎士もまた、そこに破壊音波を重ねる。二重の破壊の戦慄に、疲弊し尽くしたケルベロス達はひとたまりもなかった。
「冥土の土産に持っていけ。我が同胞の命を屠った名誉を」
 賞賛にも似た騎士の言葉が、やけに遠くに聞こえた。

「笙月! 竜華! 久遠!」
 剣の悲痛な声が響く。呼びかける声にしかし、反応はない。
 この瞬間、戦場に立っているのは破壊音波の標的から外れた彼だけだった。だが、それが風前の灯火であることは明白だった。幽鬼の様な足運びの騎士はゆらりと剣に詰め寄る。
「地獄の旋律からは逃れられないよ!」
 騎士の動きを止めるべく、剣は地獄の歌を奏でる。
 吹き出す地獄は炎の音符と化し、幾重にも騎士に叩き付けられた。その衝撃で外骨格は端々が砕けていく。だが、それでも騎士は動きを止めない。剣の命を屠ろうと、その牙を向ける。
「五月蠅い!!」
 声が響いたのは、その節くれ立った指が剣の首を押さえたその瞬間だった。

 或いはそれは催眠が見せた虚夢だったのかも知れない。
 光の届かない暗い森の中、倒れたジークリンデの前に立つそれが向けたのは軽快な笑い声だった。
「無様ね。無様ね。ジークリンデ・エーヴェルヴァイン。侵略者に復讐は果たせず、亡命者は守れず。ああ、そう。そうね」
 嘲笑とも微笑とも取れる笑みでそれは言った。
「貴方の愛ってそんなものだったの?」

 ジークリンデの咆哮により、呼び覚まされたのは彼女の魂だけではなかった。
 立ち上がった竜一は再び途切れそうになる意識を繋ぎ止めながら、不敵な笑みを浮かべる。
(「無事に帰ってくるのじゃ、か」)
 少女の祈りに支えられた身体はまだ動く。まだこの身体を繋ぎ止める者はいる。ならば、此処で諦める道理はない。
「心配しすぎだっての」
 独り言を呟き、癒しの力を秘めた矢を仲間に放つ。
「まだ終わってない! ヤブ医者っ! ちんたら眠ってたら殺すざんしよ!」
 笙月もまた、口汚く、だが熱い思いを仲間にぶつける。
 そして。
「死なねえさ。『乙女チックショーゲツ最新版』を皆に届けるまではな」
 軽口と共に久遠が立ち上がる。同時に彼が降らせた薬液の雨は仲間を包み、傷を癒していた。
「――何故死なぬ!」
 剣の身体を投げ捨てながら、騎士は初めて狼狽を露わにしていた。デウスエクスたる彼らの攻撃はケルベロス達を蹂躙し、命を刈り取るのに充分だった筈だ。オウガメタルと共闘を選ばず、自らの力のみで立ち向かう地獄の番犬に勝機などなかった筈だ。
 だが、ケルベロス達は立ち上がった。肉体を限界以上に行使し、魂を削りながら彼らが示したものは――彼らの戦う理由。
 騎士の戦う理由が種の存亡ならば、ケルベロス達もまた、それぞれの理由で此処に集っている。
「私達に止まっている暇なんてないのよ!」
 ジークリンデの放つ地獄の炎が騎士の身体を焼く。自身を愚かな姫と揶揄する獣の炎に覆われた騎士はその一瞬、動きを止めた。
「僕にかかれば君の弱点なんてお見通しさ!」
 そこに重なる詠唱はヴィルフレッドからだった。赤茶の瞳が騎士を射貫く。暗殺者の眼、そして彼自身の情報収集能力が破邪の力と化し、仲間達に伝達されていく。
(「助けるって約束したから」)
 情報屋としての矜持が彼が倒れない理由。
 そして騎士が動くよりも早く。
 赤い影がその視界を遮るように、立ち塞がっていた。
「戦士の矜持、ローカストの悲哀、全て受け止めさせて頂きましたわ」
 竜華が向けた視線は意外にも憐憫だった。
 腕に抱いたオウガメタルの鼓動は温かかった。そして想いは伝わった。種の存亡を考えればローカストから離反した彼らの気持ちも、オウガメタルを使い潰すしか無かったローカスト達へ向けられる同情も。
 もしも出会いが違えば、このように争う事は無かったのかも知れない。だが、ローカストもオウガメタルも、そしてケルベロスである自分達も今の道を選ぶしかなかった。そして、戦士である自分もまた、その戦いに身を染めた徒なのだ。
「炎の華と散りなさい!」
 せめて散り際だけでも彩ろうと、紅蓮の炎を纏った八つの鎖が、竜華自身の爪が騎士の身体を貫く。炎が傷口から広がり、騎士の身体を舐め上げていった。
「――ギグァ」
 断末魔の声は上がらない。炎に貫かれながら、それでも騎士は突撃槍を杖代わりに地面に叩き付け、倒れる事を拒否する。
 まるで、それが自身の矜持と言わんばかりに。

●終焉
「行けっ。我の敗北と敵の侵略をアリア様に伝えるのだ!」
 騎士の命を受け、働き蟻が走り出す。疲弊しきったケルベロス達にそれを阻害する余力は残されていなかった。
「なんでだよっ?!」
 死に体ながらも、それでもケルベロスの前に立ち塞がる騎士に響が問う。外骨格は砕け、身体の端々が光の粒に転じていく騎士にもはや勝機どころか生存の未来すら残されていない。
 なのに、騎士は立つ。ケルベロス達をこれ以上、進ませないと。
「ローカストを滅ぼさせるワケに、行かぬ」
 それが騎士の最期の言葉となった。目を伏せた竜華の一撃はそんな騎士の命を容易く刈り取る。

 光へと転じていく騎士を前に、ケルベロス達が想う事は如何様か。
 ただ、彼らの守ったオウガメタル達だけが、木々の隙間から心配そうに見上げていた。

作者:秋月きり 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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