オウガメタル救出~か弱き迷い子

作者:ヒサ

 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。


 黄金装甲のローカストに関する事件を解決した結果、ケルベロス達は、黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と絆を結ぶことに成功した。
「アルミニウム生命体……『オウガメタル』達が生きる為には、自分達を武器として使ってくれる共生相手が必要なのですって。けれど今、彼らを使役しているローカスト達は、自分達の分のグラビティ・チェインも足りないからと、彼らと共生するのでは無く一方的に支配する形で、オウガメタル達に無理を強いているそうよ」
 特に、黄金装甲化はオウガメタル達の負担が大きく、彼らは絶滅の危機にあるとか。彼らと接触したケルベロス達がもたらした情報を篠前・仁那(オラトリオのヘリオライダー・en0053)は伝えた。斯様な現状ゆえにオウガメタル達はケルベロス達に助けを求め、そして今、両者の絆がオウガメタル達の窮地を報せたとも。
「オウガメタル達はレギオンレイドから地球へ逃げて来たみたい。でも、ローカストのゲートを利用した彼らは、その防衛にあたっていたローカスト達に追われ、殲滅されようとしている」
 ゆえに今回ケルベロス達に依頼したいのはその阻止──オウガメタルの救助とローカストの撃破である事を、ヘリオライダーは告げた。
「場所は、山陰地方の山奥ですって。その上空までヘリオンを飛ばすわ。着くのは夜中になりそうで、逃げるオウガメタル達は信号のように銀色の光を出すようだから、それを目印に現場へ降りて、彼らの元へ向かってちょうだい」
 降下に際し、百メートル程度の誤差が生じるだろう。だが向かう先では、兵隊アリローカスト一体が働きアリローカスト三体を率い、発光するオウガメタルを追い回しているので、夜中の山地とはいえ、彼らとの合流は難しくないと思われる。
 だが、ゲート防衛の任に就いている兵隊アリは、その務めゆえもあり、決して退く事の無い侮れぬ敵である。付き従う働きアリ達は戦闘を得手としているわけでは無いようだが、それでもその戦闘力は、同数のケルベロスだけで挑むのは無謀と言えるほどだという。
「苦しい戦いになるでしょうけれど……兵隊アリさえ倒してしまえれば、敵は統率が取れなくなりそうよ。状況によっては、戦意を失わせることも出来るかも」
 この作戦が成功しオウガメタル達を無事に救出できれば、彼らの協力を得られるばかりか、ローカスト達のゲートの場所を特定出来るかもしれない。ゆえに、とヘリオライダーはケルベロス達へ改めて依頼した後。
「……それに、今のオウガメタル達にとって、頼れる相手はあなた達だけでしょうから」
 視線を落とし眉を寄せた少女が小さく、助けてあげて、と乞うた。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)
真暗・抱(究極寝具マクライダー・e00809)
空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)
ミルラ・コンミフォラ(ヒースの残り香・e03579)
マユ・エンラ(継ぎし祈り・e11555)
鷹司・灯乃(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e13737)
天月・一樹(虚構の白鴉・e18183)

■リプレイ

●道標
「あれですね」
 地上の闇の中、時折強く光が灯る。明滅するそれを見、天月・一樹(虚構の白鴉・e18183)が仲間に報せた。
「調整を試みましてもー、誤差の範疇となりますかしらー」
 上空からでは光の移動を捉える事は難しいとフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)が憂う。地上をじっと観察していたナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)は、今はまだ山の地形がオウガメタル達を守ってくれるだろうと皆を促す。
「時間の問題とはいえ、急げば間に合う筈だ」
 空に小柄な身が舞った。頷き皆が続く。枝葉に囚われる手前で空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)が翼を広げ宙を滑り単独行動に移った。
「取り敢えず南東の方でええかな?」
「おう、頼まぁ。修正は判り次第伝える」
 降りる際にもう一度だけ確認出来た発光と方角を照らし合わせ、鷹司・灯乃(ウェアライダーのブレイズキャリバー・e13737)が通信機を介し周知する。上空から辺りを俯瞰する少年の応えがあり、地上の者達は、草木へ意思を伝え得る加護持つ三名が先導する形で駆け出した。
 植物は障害とならずとも、鉱物類はそうも行かぬと真暗・抱(究極寝具マクライダー・e00809)は慎重に黒雷を駆る。後ろからマユ・エンラ(継ぎし祈り・e11555)が照明を灯した。これらの備えが後に意味を成すか枷となるかは未だ不明、ミルラ・コンミフォラ(ヒースの残り香・e03579)は山を満たす不穏なざわめきに耳を澄ます。
「向こうが西に逸れた、少し南に曲がってくれ」
「解った」
 通信機越しの声に従い進んで少し、彼らは銀の光を肉眼で捉えた。静けさの中に安堵と緊張が舞う。不用意な動きは出来ぬと各々照明を落とし声を潜め、けれど出来るだけ速く駆ける。闇に沈んだ光の残像を目指した先で、ケルベロス達は無事、件の迷子を発見した。
「オウガメタルか」
「一人……一人? なのか? 追っ手は?」
「お怪我はありませんか? 救援に参りました」
「あたしらはケルベロスだ、ここまでよく頑張ったな」
 その姿は金属質の流動体、応えは言語ならぬものの。皆の言葉にオウガメタルは喜びと、しかし未だ危険の只中にあるとばかり憂いの感情を伝えて来た。
「敵さんらまだあちこち探しとるんよね。じき、ここにも来そうやわ」
「敵より先に接触出来た……という事、でしょうか」
「備えた甲斐がありましたわねぇー。満願くん、こちらの場所は判りますかー? 合流致しましょうー」
「おう!」
 しかしほんの少しの間をおいて、空から少年が告げる。
「近くに多分敵が居る」
 降下の途中、殆ど勘のように一瞬だけ違和を捉えた。潜む気は無さそうな、その不自然の答えは一つしか無い。地上の者達は光を消させたオウガメタルに改めて声を掛け、誰も欠ける事無く生き延びる為に動き出した。

●願事
 敵が逃亡者の捜索に気を取られている事は想像に難くない。ケルベロス達が保護したもの以外にも、近くに逃亡中のオウガメタルが居る可能性もある。
 ゆえ彼らは、敵を待ち伏せるのでは無く打って出る事にした。闇の先、足元に関する不安はあるがそれは敵も同じ事。少しでも被害を減らせる可能性があるのなら、と三名と一体が先に動く。他の者達はその間に、保護したオウガメタルへ身を隠すよう指示をする。その囁きを眩ませる如く、黒雷の駆動音が遠く唸った。
 山に不似合いな音にローカスト達がざわめく。だが間を置かず放たれたのは抱の声。
「ハーッハッハッハ! 我は正義のピロー、アルティメットシング・マクライダー!」
 本人曰く、ヒーローでは無いらしい。一応主従共、不用意に増援を招いたりせぬようにと音量を絞っている。黒雷からひらり跳び降りた彼は、頭から被った布袋越しに敵達を睨む。但し他者には袋──抱き枕カバーに印刷された二次元の少女が愛らしく微笑んでいる顔しか判らない。なお後頭部側も彼女が頬を染めはにかんでいる。因みに彼女の首から下は可愛らしい寝間着姿、子供が見ても大丈夫なものである様子。
「さあローカスト達よ、お休みなさいの時間だ!」
 『魔眼』が開く。二人の彼女と、その奥の抱自身の目がきらめいた。彼が敵であるとローカスト達が理解する頃、黒く尾を引き流星が敵達の横合いから飛来した。それを追う如く光が刹那、全てを白く隠す。
「夜之山ハ危険デ御座イ間須」
「鬼ごっこは終わりにして貰う」
 蹴りを見舞った足先と、傷痕を晒した額に炎を揺らめかせたフラッタリーが金の瞳で敵達を流し見た。祭壇の手を牽制するよう敵へと向けたナディアが敵の進路を阻むよう動く。
「――ならばお前達を先に排除するまで」
 彼らが幾らかは事情を把握していると判ったのだろう、働きアリ達を率いる兵隊アリの声が敵意に染まった。彼の号令で働きアリ達も動く。先陣を切ったのは兵隊アリ、腕に展開した曲爪がフラッタリーを襲い、寸前でナディアが割って入る。幾らか退いて位置する働きアリの一体は身に金属の膜を纏う──オウガメタルを宿し使役するその姿を、一足遅れて合流した者達も確かに見た。視認の助けにと再び灯された照明達が、敵の鎧う銀色を浮かび上がらせる。
「このままやと、敵を倒したらあの子らも死んでまうんやろうね」
 灯乃の言葉に、何名かが眉をひそめた。
「――聞こえるか」
 戦線を支えるべくまずはと金に瞬く草木宿す腕を伸べたミルラが、敵の身の内に在るオウガメタル達へと声を張り上げた。
「俺達は、護りに来たんだ」
 おいで、と切に。願う声がさざめいた。強いその意思を示す如く、彼の胸に獄炎が踊る。
「救いたいんだ。応えて欲しい」
 先の一撃を受け止めた衝撃に痺れた手を宥めつつ、ナディアもまた語り掛ける。
 だがケルベロス達にまず届いたのは、木陰に匿った件のオウガメタルからの不安げな意思だった。支配下に置かれている身で抗う事は酷く困難なのだと解る。敵が今なおオウガメタルを使役し得るのもその為なのだろう。
「諦めるな! てめえらの往く道はあたしらが引き受ける!」
 声をあげろ、立ち向かえ。仲間を鼓舞すると共にマユが叫ぶ。コートを脱ぎ捨て戦装束を晒した彼女の姿は迷える者を導くに相応しい、眩い光のよう。
 だけど。
「幾ら声を掛けれど無駄だ。我らとて、身の丈くらいはわきまえる」
 暗く侵蝕する敵の声があった。『道具』の抵抗を許すほど甘い制御はしていないと。その言葉に、二つの刀を抜いた一樹は強い瞳で敵を見据える。
「それでも、機はある筈です。俺達も諦めません──さいごまで」

●揺らぎ燃えて
 兵隊アリは言葉そのままの意味でも隊を率いていた。緩まぬ彼の攻撃は脅威と第一撃を受けたナディアが改めて皆へ警告する。
 敵の布陣は働きアリ達が兵隊アリの後方を支える形。オウガメタル達の為にも殲滅は二の次と、兵隊アリへ狙いを集中させるにあたっての障害は一つ減った事になるが、油断は禁物。働きアリの一体が抱の目(二次元の方)を眩ませた事が、護りを砕く手が存外多い事を報せる。マユは彼らの動きを阻害しつつ動くつもりでいたが、踏み込んでも奥の二体には蹴り技が届かぬと呻いた。
「悪い、誰か手が空いたら貸してくれ」
「では一葉、彼女の援護もお願いします」
 前線を守るビハインドに一樹が言う。その傍らを幻影が駆け抜けた。暗色の体に鮮やかな翼を生やした質量無き獣が兵隊アリを襲う。続き満願の足技が敵の身を鋭く抉った。刀を操り縦横無尽に駆け回る一樹が敵の動きを阻むその手を緩めずにいる為もあり、純粋な力量だけならばこの場において最上位に位置するであろう兵隊アリを捉える事は、既に困難とは言い難くなりつつあった。フラッタリーのナイフが闇を裂くごとくぎらり輝いて、抱の籠手が鋭く風を斬り冴えた一撃を見舞う。標的の身を刻む呪詛を重ね行く事で彼らは、早期の決着をも貪欲に求めた。
 全ては護るべきものの為。確実に脅威を排除すべく彼らは駆ける。
 兵隊アリは身を侵す苦痛に堪えつつ戦う中、働きアリ達の様子を窺う。己へと炎を放つ合間にその一体を狙い続ける敵の存在を見、彼はそれを阻むべくマユへと襲い掛かった。斬撃が彼女の身を鋭く抉り、態勢を崩したところへ畳み掛けんとする追撃は、駆けつけた満願が防ぐ。
「奴等を連れて来たてめぇのせいだろ。黙って見てやがれ」
 少年は、働きアリを気遣う如き敵の動きをされど嘲笑するよう相手を睨み。
「大人しくしててくれれば、無体はしないぜ」
 娘は仲間へ礼を告げ、妨害役を担う働きアリの動きを縛るべく間合いを詰める。深い傷に血を零す彼女へミルラが治癒を行使し、指示を受けたテレビウムが応急処置と満願を励ました。
 そうしてミルラは休まず戦況へ目を配る。兵隊アリの攻撃を通しては危険と、盾役達は細やかに動いている。攻め手達は機を与えぬようにとばかりその脅威へ攻撃を集めつつ、各々位置取りに気を配る。敵に狙われた者は地形を利用し回避を試み、敵達を分断しようと努めていた。
(「負傷が重なっているのは二人……だが次を受ければ保たないかもしれない者は」)
 敵も数が居るゆえにその狙いは分散しがち。灯乃が兵隊アリの注意を惹くべく白鴉を操るが、その効果が目に見えるまではもう少し掛かりそうだ。ミルラは視界を確保して、死角は予測を交え補って、まず敵の間近に唸る黒雷を癒す。他の面々はまだ幾らか余裕があると判った。誰を倒されるわけにも行かぬと──長引けば、それすら危ういと解ってはいたけれど。
(「それでも、護る」)
 敵前に身を盾と晒す事は叶わずとも、皆の背を支える事なら。彼の胸が燃える。仲間が攻めに動いた隙を突かんとする敵の動きを捉え、盾役達に守護を要請した。
 銀牙が爆ぜる。敵の一人は射手ゆえに、放置は危険と依頼を受けたナディアが敵を薙ぐ白光を撃ち出す。鉄剣の一撃を受けた兵隊アリがその担い手たる彼女を狙う機を窺うが、炎を纏ったフラッタリーが行く手を塞ぎ蹴り戻す。次いで刃が高く鳴り、舞った一樹の斬撃が敵の目を眩ませた。縛り、侵し、捉えた敵の身へ満願が更なる負荷を掛ける。動けぬ敵へと抱が拳を撃ち込んで、その活力すら奪い行く。
 ――全ては、護り抜く為に。注意深く、されど急ぎ、彼らは徐々に敵を圧して行く。
 灯乃の術とナディアの剣撃により、兵隊アリの動きはほぼ制御下に置けた。臆さずマユが切り込み続けた事により、敵の妨害役は最早自在に動く事は難しくなっていた。
 だが、最優先の標的たる兵隊アリは、動きこそ鈍れど幻惑には未だ抗っていた。ばかりか逆にケルベロス達の判断力を奪おうとして来る為、厄介な敵である事は変わらず。鈍らぬその刃はどこまでも鋭く痛く。治癒そのものはミルラ一人でほぼ賄えていたものの、肉体の疲弊までは補えない。ゆえにやがて、兵隊アリの蹴り技から攻め手を護り抜いた代償に、限界を迎えた抱が膝を折った。一葉も懸命に敵の後衛へ呪詛を放っていたものの、標的の数に対し不足しがちな阻害の手を補いきれぬまま、ほどなく一樹を庇いその姿を保てなくなる。息を呑む少年を灯乃が案じた。支え抜け無かった事にミルラが歯噛みし、敵の呪詛を振り払うようかぶりを振った。痛手を負おうとも歩みは決して止めるわけには行かぬと、誰もが前を向く。
「彼等ノ苦痛ヲ知リ那狭Iマセ」
「さっさと潰れろ、糞虫が」
 お返しとばかりフラッタリーが災い映す刃を掲げた。まだ粘れると満願が魔を降す拳撃を打ち込んだ。敵へと残した凍気が刻むその身を磔にする如く、無数の炎弾が放たれる。燻る熱はかの身を焦がし、千日紅宿す娘は不敵に笑い、勿忘草の瞳を逸らさぬ獄炎の繰り手はかの痛みを己が活力とばかり喰らった。一樹は敵の脆い箇所を狙うよう刀を操り駆け抜けて、副次効果はまじない程度と知りつつも無為ではないと灯乃はファミリア達を御す。敵達にもそれなりに想い合う意思があるのだろう、兵隊アリが攻めるに続き働きアリ達も、我が身を顧みるのは二の次とばかり手を休めないが、これ以上は許さぬとミルラが懸命に治癒を織る。彼自身が攻める暇は無かったが、仲間達皆が攻撃の手を緩めず済んでいるのだからそれで良いと淡く息を吐いた。
 黒雷が主の代わりと駆ける。それに対応した敵の虚を突き、フラッタリーが闇を疾る。行く手を阻む雑魚は、盾役達が打ち払った。術による止血の衝撃が痛みめいて彼女を駆り立てる。射手達の技が獲物の足を縫い止める。
「――――」
 獄炎が爆ぜ、型に嵌めた歪が嗤う。鎮まらぬ熱に苛まれる敵へ、彼女は更なる炎を灯し──蟻の騎士を燃やし尽くした。

●静まりてなお
「鎖ァ、如何ナサ以真世ウ」
 最期を望むかと、蟻達へ問う彼女の声は愉しげに。
「まだやろうってんなら容赦しないぜ」
 こちらはまだ行ける、と翼を広げるマユは疲労を押し殺して斧を突きつける。
「そちらの将は倒れた。ここで退くというのなら、こちらも深追いはしないつもりだ」
 油断無い目を向けてナディアが冷静な声で諭す。
「今なら見逃してやるっつってんだ。尻尾巻いて逃げるか此処で死ぬか、選べよ糞虫共」
 蟻達の迷いを見て満願が舌を打った。
 ケルベロス達とて、まだ戦いを続けるとなれば辛いものがあるが、それは隠した。向こうは指揮官を失った事でひどく動揺している様子、強気に出て丁度だろう。
 働きアリ達が本来戦い以外の任に就いているであろう事も含め、今死にたくは無かろうと、ケルベロス達は彼らの意思を誘導する。その結果蟻達は撤退を選び、敵方の真意を確かめる如くしきりに背後を気にしながらも去って行った。
 概ね、思惑通りに事を運べた。瑕があるとすれば、蟻達が持つオウガメタルを最後まで助け出せなかった事だろうか。誰もが諦めたりなどしなかったけれど、それでも抗う事は許されなかったらしい。
 だが、働きアリ達を生かした事は、彼らが保有していたオウガメタル達にもまだ機が残されているという事でもあろう。楽観する事は出来ないものの、次の機会を引き寄せられる可能性は残されている筈だと、ケルベロス達はひとまず納得しておくべく努めた。
 幸い、初めに保護したオウガメタルとは、最後に別れた地点で無事に再会出来た。
「……この子、少し大きなっとらん?」
「そうですか? 光の反射かも……」
 ケルベロス達の姿を確認して、オウガメタルは感謝の意思を伝えて来た。そうして彼らは、護れたのだと改めて実感を得た。
 だが、あまりのんびりしているわけにも行かない。山は未だ穏やかならぬ空気が色濃く、いつ増援が来てもおかしくないと思われた。
「色々知りたい事はあるが、今はまずここを離れねばならないな」
 付近に要救助者を残していない事を確認し、彼らはひそやかにその場を後にした。

作者:ヒサ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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